Legal Update
第52回 2026年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
法務部
シリーズ一覧全52件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第46回 2025年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第47回 2025年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第48回 2026年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第49回 2026年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第50回 2026年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第51回 4月施行の改正法ほか2026年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第52回 2026年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
目次
本稿で扱う内容一覧
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 2026年2月18日 | M&Aにおけるデューデリジェンス等費用の取得価額算入に係る判決 |
| 2026年2月19日 | 「新株予約権付融資に関する検討会報告書」の公表 |
| 2026年2月25日 | 厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」の公表 | 2026年2月27日 | 農林水産省・厚生労働省「飲食店向けカスハラ対策ガイドライン」の公表 |
| 2026年3月3日 | 金融庁「AIディスカッションペーパー(第1.1版)」の公表 |
| 2026年3月31日 | 令和7年公益通報者保護法改正を踏まえた法定指針・指針の解説の改正版の公表 |
| 2026年3月31日 | 環境省「太陽光発電における自然環境配慮の手引き」の公表 |
| 2026年5月21日 | 「民事訴訟法等の一部を改正する法律」の全面施行 |
編集代表:小倉 徹弁護士(三浦法律事務所)
「民事訴訟法等の一部を改正する法律」の全面施行
執筆:稲垣 大輔弁護士、舘﨑 友輔弁護士
はじめに(改正民訴法のこれまでの施行状況等)
2022年5月18日、「民事訴訟法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第48号。以下「改正民訴法」といいます)が成立しました。改正民訴法は、民事訴訟制度の全面IT化を図ろうとするものです(法務省ウェブサイト、裁判所ウェブサイト)。
改正民訴法は、以下のとおり、順次施行されてきました。
| 施行日 | 改正の概要 |
|---|---|
| 2023年2月20日 | 住所、氏名等の秘匿制度 |
| 2023年3月1日 | 当事者双方がウェブ会議・電話会議により弁論準備手続期日・和解期日に参加する仕組み |
| 2024年3月1日 | 当事者がウェブ会議により口頭弁論期日に参加する仕組み |
| 2025年3月1日 | ウェブ会議による離婚訴訟等の和解・調停の成立 |
2026年5月21日、改正民訴法が全面的に施行されます。本稿では、新たに施行される制度の概要を説明します。
新たに施行される制度の概要
- インターネットを利用した申立て等
- 民事訴訟において、インターネットを利用して裁判所に訴えの提起や攻撃防御方法を提出することが可能となります(改正民訴法132条の10)。
なお、弁護士など当事者から委任を受けた訴訟代理人は、インターネットを利用した申立て等を行う義務があります(改正民訴法132条の11第1項)。 - 手数料等の納付方法は、原則としてペイジー(Pay-easy)による現金の電子納付になります(民事訴訟費用等に関する規則4条の2等)。
- 民事訴訟において、インターネットを利用して裁判所に訴えの提起や攻撃防御方法を提出することが可能となります(改正民訴法132条の10)。
- インターネットを利用した送達
- 送達対象データを裁判所のサーバに記録し、送達を受ける者が閲覧・ダウンロードすることが可能な状態にしたうえで、送達を受ける者が届け出た連絡先(メールアドレス等)に通知する方法による送達が可能となります(改正民訴法109条の2〜109条の4)。
なお、弁護士など委任を受けた訴訟代理人は、インターネットを利用する方法による送達の届出を行う義務があります(改正民訴法132条の11第2項)。
- 送達対象データを裁判所のサーバに記録し、送達を受ける者が閲覧・ダウンロードすることが可能な状態にしたうえで、送達を受ける者が届け出た連絡先(メールアドレス等)に通知する方法による送達が可能となります(改正民訴法109条の2〜109条の4)。
- ウェブ会議の方法による証人尋問(ウェブ尋問)の要件等の緩和
- 証人は、(ⅰ)出頭することが困難である場合や、(ⅱ)当事者に異議がない場合にも、裁判所が相当と認めるとき、ウェブ尋問に参加することが可能になります(改正民訴法204条)。
- この場合、㋐(原則として)当事者本人またはその代理人の在席する場所でなく、㋑証人の陳述の内容に不当な影響を与えるおそれのある者が在席する場所でないという要件を満たす裁判所が相当と認める場所(裁判所以外の場所を含みます)から参加可能です(民事訴訟規則123条1項)。
- 訴訟記録の電子化・閲覧
- インターネットを利用して裁判所に訴えの提起や攻撃防御方法の提出がされれば、そのまま、電子データで保管されます。
- 書面等で提出されたものは、原則として、電子化データ化のうえ、保管されます(改正民訴法132条の12、132条の13)。
- 判決書および調書は、電子データで作成・保管されます(改正民訴法160条、252条)。
- 訴訟記録の閲覧は、電子データにアクセスして行われます(改正民訴法91条の2)。
- 和解に関する訴訟記録の閲覧の見直し
- 和解調書等の和解に関する訴訟記録については、その閲覧が、当事者および利害関係を疎明した第三者に限って認められます(改正民訴法91条2項後段、91条の2第4項)。
- 法定審理期間訴訟手続(改正民訴法381条の2〜381条の8)
- 当事者の書面または期日における口頭の申出等(双方の申出または一方の申出および他方の同意)を要件とする以下の手続が創設されます。
i. 手続開始後の最初の期日から6か月以内に審理を終結(当該期日から5か月以内に主張や証拠を提出、その後1か月以内に証人尋問)
ii. 審理を終結した日から1か月以内に判決の言渡し
- 当事者の双方または一方は、この手続が開始した後であっても、いつでも、通常の手続による審理を求めることが可能です。
- この手続の判決に対しては、異議の申立てをすることができ、異議の申立てにより通常の手続により審理および裁判がなされます。
- 当事者の書面または期日における口頭の申出等(双方の申出または一方の申出および他方の同意)を要件とする以下の手続が創設されます。
弁護士に訴訟委任している場合、改正民訴法の全面施行によって法務担当者の対応事項に大きな変化はないと考えられますが、改正の概要を理解しておくことで、代理人弁護士と適切なコミュニケーションをとり、円滑に訴訟追行することが可能になると考えられます。
令和7年公益通報者保護法改正を踏まえた法定指針・指針の解説の改正版の公表
執筆:坂尾 佑平弁護士
2026年3月31日、消費者庁は令和7年公益通報者保護法改正を踏まえた改正版の「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年内閣府告示第118号、以下「法定指針」といいます)と、「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(以下「指針の解説」といいます)の改正版を公表しました。
法定指針は、公益通報対応業務従事者の定めや内部公益通報対応体制整備義務の内容を定めるものであり、改正版の法定指針第4.3 (6) では「この指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用する」と定められています。
そのため、自社の内部通報規程の改訂や内部通報制度の運用面の見直しを行うに際し、法定指針は必ず押さえなければならない重要性の高いものということになります。
指針の解説は、法定指針を遵守するための考え方や具体例等が記載されており、法定指針の解釈を分析する際には併せて参照すべき資料です。
改正版の法定指針では、通報妨害の防止、通報者探索の防止、労働者への周知・啓発の内容の列記など、令和7年公益通報者保護法改正を受けたアップデートが多いですが、以下について「当該内部公益通報以外の公益通報に係る通報対象事実についての調査および是正等の対応が必要な場合においても、同様の措置をとる」という記載が追加されるなど、実務対応の方向性を示す内容も含まれています。
- 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
- 調査・是正措置・是正措置の機能検証
- 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
改正版の法定指針・指針の解説の詳細については、弊所note記事「【速報】内部通報Update Vo.15:令和7年公益通報者保護法改正を踏まえた法定指針・指針の解説の改正版の公表」をご参照ください。
令和7年公益通報者保護法改正と同様に、改正版の法定指針・指針の解説の施行日も2026年12月1日とされています。企業の担当者は、法律・法定指針・指針の解説の3点セットを十分に理解したうえで、余裕をもって施行日までに自社の内部通報制度を見直すことが望まれます。
農林水産省・厚生労働省「飲食店向けカスハラ対策ガイドライン」の公表
執筆:坂尾 佑平弁護士
2026年2月27日、農林水産省および厚生労働省が「飲食店向けカスハラ対策ガイドライン(詳細版)」(以下「本ガイドライン」といいます)を、ダイジェスト版と併せて公表しました。
本ガイドラインは、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます)対応のポイントとして、(ⅰ)明言する、(ⅱ)お引き取りいただく、(ⅲ)繰り返させないの3つを掲げたうえで、以下のカスハラの7つの類型の具体例や対応方法を示しています。
| ① 暴力 | 身体的な攻撃 |
| ② 侮辱・暴言 | 失礼な言い方、馬鹿にした言動 |
| ③ 恐怖・威圧 | 怖い言い方、危険を感じる言動 ※SNSを含む |
| ④ 無関係・不当要求 | 関係のない話、筋違いな要求 |
| ⑤ 長時間化 | 適切な対応をしても要求や質問が長時間続く |
| ⑥ 繰り返し | お断りしても同様の内容を繰り返す |
| ⑦ コミュニケーション不成立・非協力 | 話を聞かない |
そのうえで、カスハラ対応実践ヒント集として「初期対応編」と「最終通告編」に分けて対応のポイントやトーク例を具体的に示したり、さらに実際の飲食店のカスハラ対応の取組みを紹介したりするなど、飲食店に特化した実践的な解説が盛り込まれています。
カスハラ対応を雇用主に義務付ける改正労働施策総合推進法(正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)は2026年10月1日に施行されます。施行日に向けて、すでに同年2月26日に厚生労働省が「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(いわゆる「カスハラ指針」)を公表しています。
本ガイドラインは、カスハラ対策が急務となっている昨今の状況下で、飲食店の道標になり得る重要な資料といえます。
「新株予約権付融資に関する検討会報告書」の公表
執筆:藤﨑 大輔弁護士
2026年2月19日、一般社団法人全国銀行協会が事務局を務める「新株予約権付融資に関する検討会」から報告書が公表されました。本稿ではその概要を紹介します。
新株予約権付融資とは
新株予約権付融資は、スタートアップへの融資方法の1つです。スタートアップ向け融資は、一般的な企業融資に比べて金融機関等の貸手にとってはより高いリスクを伴う場合があり、担保可能な資産も多くないことから、融資先企業の事業が成功した際のアップサイドを享受できる権利の確保等、リスクに応じたリターンの確保が必要となるという特性があります。
新株予約権付融資は、このようなスタートアップ向け融資の特性を踏まえた対応策の1つであり、本報告書は一般的な特徴として以下の点を挙げています。
- 金融機関等とスタートアップ間で、融資契約書と新株予約権割当契約書を別々に作成し同時期に締結する
- 新株予約権には上場やM&Aといった権利行使条件が設定される
- 新株予約権は無償で金融機関等の貸手に割り当てられる
- 融資完済後も金融機関等は新株予約権を保有し、権利行使が行える
- 金融機関等は将来的なキャピタルゲインを目的に新株予約権の割当を受ける
新株予約権付融資に関する法務面の課題
新株予約権付融資において、貸手がスタートアップから割当を受ける新株予約権が、利息制限法および出資法が規制する「利息」に該当するかが不明確であり、新株予約権付融資の普及の課題となっているため、本報告書ではこの点が検討されています。
(1)新株予約権の利息該当性の有無
本報告書は、割り当てられる新株予約権が「利息」に該当するか否かを判断する重要なポイントは、「元本使用の対価性」の有無であり、具体的な商品設計を踏まえて判断されるとしています。
上記の一般的な特徴を持つ新株予約権付融資は、融資取引のリスクを踏まえた適切なリターンの確保が新株予約権の割当目的の理由の1つになっていると考えられること、新株予約権の無償割当を受けていること、また、融資取引の金利を軽減するなど与信条件にも関係するケースがあること等を踏まえると、「元本使用の対価性」があることを否定することは難しいとしています。
(2)貸出金利が上限金利以内であることの確認方法
本報告書は、新株予約権付融資では、融資契約と新株予約権割当契約の締結は同日に行われるケースが多く、その場合は両契約の締結日を新株予約権の価値の評価時点とすることが考えられるとしています。また、新株予約権の価値は、企業価値等に連動して日々変動するため、新株予約権の再評価の要否が論点となるものの、新株予約権の割当はあくまで新株予約権付融資を行った時点において「将来のキャピタルゲインの期待値(の現在価値)」を付与する行為であり、結果として、新株予約権付融資の実行後に新株予約権の評価額が変動したり、新株予約権の実行により実際に得られたキャピタルゲインが新株予約権付融資の実行時点の評価額から乖離した場合であっても、利息制限法および出資法の観点で再評価を行う必要はないとしています。
満期一括弁済の取引であれば、上記のとおり算定した新株予約権の価値を約定貸付期間の年数で除することで単年の利息相当額を算出し、さらに融資の元本額で除することにより年利に換算したうえ、融資本体の約定金利にこの新株予約権の年利換算分を加えた和が、利息制限法や出資法に定める上限金利に抵触していないことを確認することが考えられるとしています。
(3)借手が期限前弁済した場合における対応
本報告書は、新株予約権は「約定貸付期間全体」に対して付与される利息と解されるため、期限前弁済がされた場合には、残存貸付期間に対応する新株予約権については、利息としてこれを保持することはできないとしています。
他方で、新株予約権付融資は、各案件における個別性が強く、同等の再運用先を見つけることが難しい融資であり、また、新株予約権の割当を受けて将来的に得られる可能性があるキャピタルゲインを踏まえて融資本体における金銭による約定金利の軽減等の条件を決定していることから、期限前弁済を受けた貸手が、民法591条3項にもとづく損害賠償に相当するものとして、残存貸付期間に対応する新株予約権を期限前弁済以降も保持することが合理的に認められるとしています。この場合、損害の発生を立証することで、貸手が期限前弁済後に当初受領した新株予約権を保持し続けることができ、金利の再計算も不要と考えることができます。
さらに、法的安定性を高めるため、損害賠償の予定として、貸手・借手双方において不精算条項(期限前弁済が発生した場合においても、貸手が新株予約権の返還・償却または金銭による支払を行わない旨の特約)をあらかじめ締結しておくことが考えられるとしています。契約に不精算条項を定めた場合、期限前弁済が行われた後の損害についての個別の算定・交渉も不要となります。
厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」の公表
執筆:河尻 拓之弁護士、菅原 裕人弁護士
2026年2月25日、「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(以下「本マニュアル」といいます)が厚生労働省から公表されました。
本マニュアルは、2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法において、労働者数50人未満の小規模事業場についてもストレスチェックの実施が義務化されたこと(以下「本改正」といいます)を受けて、国においてその実施体制や実施方法についてのマニュアルを整備したものです。
なお、本改正は、公布から3年である2028年5月13日までに施行される予定となっています。
これまで主にプライバシー保護等の懸念から小規模事業場での実施は努力義務とされていましたが、実施事業者の増加により、これらの外部事業者を活用することでプライバシー保護への対応が可能となったこと等を踏まえ、今回の義務化に至りました。
本マニュアルは小規模事業者向けにストレスチェックの実施を案内するものですが、本マニュアルは以下の構成で策定されています。
- ストレスチェック制度の実施に向けた準備
- ストレスチェック制度の実施体制・実施方法の決定
- ストレスチェックの実施
- 医師の面接指導及び事後措置
- 集団分析・職場環境改善
- 労働者のプライバシーの保護
- 不利益取扱の禁止
- 外部委託ではなく自社で実施する場合の留意点
本マニュアルにおいても、これまでと同様、原則としてストレスチェックの実施は外部事業者への委託が推奨されており、それを前提とした社内規程や実施体制の整備、委託先事業者の選定方法、実際の実施方法等について、小規模事業場が参照すべき内容が示されています。
ストレスチェック実施後の集団分析・職場環境改善は、大企業であっても試行錯誤している現状を踏まえ、今回の改正での義務化は見送られて引き続き努力義務とされましたが、ストレスチェック制度は集団分析・職場環境改善まで含めて一体的に設計された制度であることから、可能な限りこれらについても実施することが望ましいとされています。
本マニュアルはいずれも示唆に富む内容ですので、小規模事業場においては本改正の施行日までに本マニュアルを参照して着実に準備を進めていく必要があります。
厚生労働省は、本マニュアルのほかにも小規模事業場向けマニュアルなどを公表しています(「労働者数50人未満の小規模事業者の方」「周知用リーフレット」)。
金融庁「AIディスカッションペーパー(第1.1版)」の公表
執筆:南 みな子弁護士、小倉 徹弁護士
2026年3月3日、金融庁より、「AIディスカッションペーパー(第1.1版)」(以下「本文書」といいます)が公表されました。
本文書は、2025年3月の「AIディスカッションペーパー(第1.0版)」公表後、金融機関におけるAI利活用が非常に速いペースで進展しており、特に、顧客向けサービスへの利用について、範囲・条件を絞ったサービス提供またはその検討が行われる段階に至っていることや、リスクマネジメント・ガバナンスの手法について、試行錯誤の中で、一定の実務が形成されつつあることが判明したことに伴い、同第1.0版をアップデートしたものです。
以下では、主要なアップデート箇所について、解説します。
顧客向けサービスを念頭としたリスク低減の取組事例
本文書は、顧客向けサービスを念頭にリスク低減に向けた取組みの検討が進む中、一定の共通的な目線が形成されつつあるとしたうえで、①サービス提供前の「設計と事前検証」、②サービス提供時の「顧客への適切な説明・注意喚起」、③サービス提供後の「検証・モニタリング」と、④それら全体を支える「ガバナンス」の4つの局面に分け、以下のとおり取組事例を紹介しています。
| 設計と事前検証 |
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| 顧客への適切な説明・注意喚起 |
|
| 検証・モニタリング |
|
| ガバナンス |
|
諸法令・規制の考え方
本文書は、AIの活用を考えた際に論点となり得る規制対応について、以下のとおり示しています。
- 証券会社がシステム関連の子会社にAIシステムの開発を委託する際、顧客との会話データ等を提供する必要があるが、非公開情報の授受規制(金融商品取引業等に関する内閣府令153条1項7号)に抵触しないよう、当該会話データ等から非公開情報を事前に除外しておく必要があるかが論点となるところ、必ずしもAIシステムの開発に必要な顧客との会話データ等から非公開情報を事前に除外しておく必要はないとの考え方を提示。
- 顧客との会話データ等には法人関係情報が含まれている可能性が否定できないため、当該会話データ等を分析する者(データサイエンティスト等)にアクセス権限を付与することは法人関係情報の管理態勢として適当かという論点について、会話データ等を分析する者にアクセス権限を付与することをもって直ちに法人関係情報を適切に管理する態勢が整備されていないと判断されるものではないが、管理態勢の適切さは個別具体的な事案に即して実質的に判断する必要があり、まずは、金融機関においてAI・データ利活用の目的や態様、情報管理手続等を具体的に特定する必要があるとの考え方を提示。
- 今後生ずる他の論点についても、事業者による具体的なユースケースの特定や論点の深度ある検討、当局・事業者団体によるオープンな対応により、同様に解釈の提示やプラクティス等が進展することに期待。
AIの利活用の実践
経営トップが先導して、健全なAIの利活用によって、業務効率化や新たなビジネス創出の動きを具体的な取組みとして進め、着実に業務プロセスの改善につなげていくことが期待されます。
環境省「太陽光発電における自然環境配慮の手引き」の公表
執筆:花城 凪弁護士、所 悠人弁護士
2026年3月31日、環境省より「太陽光発電における自然環境配慮の手引き」(以下「本手引き」といいます)が公表されました。
本手引きは、わが国が「2050年ネット・ゼロ」(2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにすること)や「2030年ネイチャーポジティブ(自然再興)」(2030年までに生物多様性の損失を止め反転させること)を目標として掲げていることを背景として、発電事業者等による自然環境配慮の取組みの実践をさらに促すことを目的としたもので、同省が2020年3月に策定した「太陽光発電の環境配慮ガイドライン」の補遺としての位置づけとなります。
本手引きの内容は以下のとおりです。
自然環境への配慮の必要性・メリット
- 太陽光発電所の設置が、自然環境に負の影響を与えるおそれがあるが、方法次第では共生も可能
- 自然環境への配慮は、地域との共生を図る取組みの一環となる
- 太陽光発電事業者にとって、自然環境への配慮の有無により、その事業価値が影響を受けるリスクがある
自然環境への配慮を検討するに当たっての基本的な考え方
- 配慮すべき自然環境:重要な動植物とそれらの生息・生育地、貴重な生態系等
→重要な動植物の例として、天然記念物や環境省レッドリスト
→重要な動植物の生息・生育地、貴重な生態系の指標として、自然公園や鳥獣保護区等 - 事業区域・その候補地の周辺地域として配慮すべき範囲:影響を及ぼし得る全ての地域
- 太陽光発電事業の実施に当たっては、検討の優先順位(ミティゲ―ション・ヒエラルキー)の考え方に沿った検討が効果的・効率的
自然環境への配慮の進め方(1):事前相談、影響の確認等
- 太陽光発電の設置を検討している段階で、その地域の市町村・都道府県を訪問し、実情を把握する必要
- 十分な情報収集を行ったうえで事業計画を検討する必要
→判断が難しい場合等は市町村・都道府県や専門家に相談する必要
自然環境への配慮の進め方(2):事業段階別の対策検討
| 事業段階 | 対策 |
|---|---|
| Ⅰ. 立地選定段階 |
|
| Ⅱ. 設計段階 | 【事前調査】 自然環境について調査を行い、現況を把握 【対策】 (Ⅰで2を採用した場合)
|
| Ⅲ. 施工段階 |
|
| Ⅳ. 運用・管理段階 | 事業区域内の自然環境を維持 |
| Ⅴ. 撤去・処分段階 | Ⅲの対策を参考とした、適切な原状回復 |
自然環境の保全と両立した取組みの進め方
- 欧米では自然共生型の太陽光発電事業の取組みが存在しており、日本においても同様の取組みを進めることが期待される。
本手引きの内容は以上のとおりです。
太陽発電事業における自然環境の保全は、今日の社会全体で注目度の高いテーマであることから、事業者としては、本手引きやガイドラインを参考とし、適切にビジネスを営むことが期待されます。
M&Aにおけるデューデリジェンス等費用の取得価額算入に係る判決
執筆:迫野 馨恵弁護士、山口 亮子弁護士
M&A取引を行う場合、買い手企業においては、M&A仲介業者に対する報酬、買収対象企業のリスクを調査するためのデューデリジェンス(以下「DD」といいます)費用、弁護士に対する契約作成費用等の費用(以下、併せて「DD等費用」といいます)が生じます。
M&A取引が株式取得の方法による場合の当該DD等費用の税務上の取扱いについては、費用として損金処理するか(法人税法22条3項2号)、有価証券の取得価額に加算して資産とするか(法人税法61条の2第25項、法人税法施行令119条1項1号)のいずれかとなります。
この取扱いに関しては、税務調査で問題となることがあり、従前複数の裁決が出されていたものの、裁判所の判断は示されていませんでしたが、2026年2月18日に東京地方裁判所が初めて司法判断を示しました(令和5年(行ウ)第120号。以下「本判決」といいます)。
本判決の事案では、原告X社は、費用A(M&A仲介会社との提携仲介契約(以下「仲介契約」といいます)に基づく情報提供料)、費用B(仲介契約に基づく業務中間報酬)、費用C(法務調査等に対する弁護士報酬等)、費用D(仲介契約に基づく成功報酬)を負担し、A~Dいずれも損金の額に算入して法人税等の確定申告をしましたが、課税庁は、買収対象企業の株式の取得価額に加算すべきであるとして処分を行いました。
裁判所は、法人税法施行令119条1項1号における「その有価証券の購入のために要した費用」の意義について、①特定の有価証券の購入に向けられた費用であって、②当該費用が客観的に必要とされるものをいうと解釈しました。
そのうえで、①について、特定の対象会社を買収するか否かであったり、買収するとしてもいかなるM&Aの手法によるかが決まっていない段階で、これらの点に関する判断材料とするために行われた業務に係る費用については、特定の有価証券の「購入」に向けられた費用とはいえないとの考えを示しました。他方、特定の有価証券を購入することにつき、相当程度の蓋然性がある状況下において、買収価格決定の参考とするために行われた業務に係る費用については、特定の有価証券の「購入」に向けられた費用ということができるとしました。
また、裁判所は、上記の解釈を踏まえ、①および②に当たるか否かを判断するにあたり、客観的にみて、株式購入の蓋然性が相当程度高まったと認められる程度に当該株式の購入の不確実性が解消することを要すると解すべきであるとし、当該不確実性が解消したか否かにつき、会社の構成や意思決定の実情、株式購入の検討経緯等に照らして実質的に判断すべきであり、必ずしも、法人の意思決定機関による株式購入に係る正式な意思決定までを要するものではないとしています。
結論として、裁判所は、上記の費用A(情報提供料)、費用B(業務中間報酬)、費用C(弁護士報酬等)について、買収対象企業の株式の購入に向けられた費用であるとはいえないとして損金算入を認め、費用D(成功報酬)について損金算入を認めませんでした。
本判決は、DD等費用の税務上の取扱いに関する初の司法判断であり、国から控訴されていますので、引き続き、控訴審での判断が注目されます。
本判決の詳細については、弊所note記事「税務UPDATE Vol.23:M&Aにおけるデューディリジェンス等費用の取得価額算入に係る初判決」をご参照ください。
シリーズ一覧全52件
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- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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- 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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- 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第46回 2025年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第47回 2025年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第48回 2026年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第49回 2026年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第50回 2026年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第51回 4月施行の改正法ほか2026年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第52回 2026年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向