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第46回 2025年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向

法務部

シリーズ一覧全46件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  45. 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  46. 第46回 2025年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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目次

  1. 2025年12月以降に適用される令和7年度税制改正
    1. 個人所得税
    2. 法人課税、国際課税
  2. 金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正案に対するパブリックコメントの結果の公表
  3. 金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」の設置
  4. 国土交通省「一般投資家の参加拡大を踏まえた不動産特定共同事業のあり方についての中間整理」の公表
  5. 総務省「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書2025」および「社会課題の解決に向けたメタバース導入の手引き」の公表
    1. 本報告書の概要
    2. 本手引きの概要

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2025年7月 金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」の設置
2025年8月1日 国土交通省「一般投資家の参加拡大を踏まえた不動産特定共同事業のあり方についての中間整理」の公表
2025年8月28日 金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正案に対するパブリックコメントの結果の公表
2025年9月17日 総務省「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書2025」および「社会課題の解決に向けたメタバース導入の手引き」の公表
2025年12月1日 2025年12月以降に適用される令和7年度税制改正の施行

 編集代表:坂尾 佑平弁護士(三浦法律事務所)

2025年12月以降に適用される令和7年度税制改正

 執筆:迫野 馨恵弁護士、今村 潤弁護士

 令和7年度税制改正において、2025年12月以降に適用されるものとして、個人所得税について基礎控除の見直し等が行われ、所得税の基礎控除や給与所得控除に関する見直しのほか、特定親族特別控除の創設が行われました。また法人に関し、新リース会計基準に対応する改正、防衛特別法人税の創設、中小企業者等の法人税率の特例の見直し等のほか、グローバル・ミニマム課税の制度整備が行われました。

個人所得税

(1)所得税の基礎控除の引上げ

 物価が上昇傾向にあることを踏まえ、合計所得金額が2,350万円以下の者につき、所得税の基礎控除の額が48万円から58万円に10万円引き上げられました。

 改正後の基礎控除額は、下表のようになり、2025年分および2026年分については、所得に応じて基礎控除の額を加算する「基礎控除の特例」が適用され、基礎控除額に一定額が加算されます。なお、特定支出控除や所得金額調整控除の適用がある場合には、金額が下表と異なります。

合計所得金額
(収入が給与だけの場合の収入金額)
基礎控除額(改正後)
2025年・2026年分 2027年分以降
132万円以下
(200万3,999円以下)
95万円
132万円超336万円以下
(200万3,999円超475万1,999円以下)
88万円 58万円
335万円超489万円以下
(475万1,999円超665万5,556円以下)
68万円
489万円超655万円以下
(665万5,556円超850万円以下)
63万円
655万円超2,350万円以下
(850万円超2,545万円以下)
58万円

(2)給与所得控除の最低保障額の引上げ

 給与所得控除については、物価上昇への対応とともに、就業調整にも対応するため、最低保障額が55万円から65万円に引き上げられました。
 上記(1)および(2)の見直しにより、給与所得者の非課税限度額である「壁」について、「103万円の壁」(基礎控除48万円と給与所得控除の最低保障額55万円の合計)が拡大されたことになります。

(3)特定親族特別控除の創設

 所得税法上の控除対象扶養親族がいる場合には、一定の金額の所得控除(扶養控除)を受けることができ、特定扶養親族(12月31日現在の年齢が19歳以上23歳未満の人)の場合の控除額(特定扶養控除)は63万円となっており、その他の扶養控除の金額より大きくなっています。

 扶養親族の所得要件は、年間合計所得金額が48万円以下(給与収入が103万円以下)となっており、当該金額を超えると扶養控除を受けられないこととなるため、就労調整の一因となっていました。なお、扶養控除の年間合計所得金額に係る要件については、上記(1)の基礎控除の引上げを踏まえ、58万円(給与収入123万円)以下に引き上げる改正が行われているため、給与収入123万円以下であれば、特定扶養控除を受けることができるようになりました。

 今回の改正では、厳しい人手不足の状況において、特に大学生のアルバイトの就業調整に対応するため、居住者が特定親族(居住者と⽣計を⼀にする19歳以上23歳未満の親族(配偶者、⻘⾊事業専従者として給与の⽀払を受ける⼈および⽩⾊事業専従者を除きます)で合計所得⾦額が58万円超123万円(給与収入123万円超188万円)以下の⼈)を有する場合には、その居住者の総所得金額等から、その特定親族の合計所得金額に応じて最高63万円を控除する特定親族特別控除が創設されました。

 すなわち、大学生年代の子等の年間給与収入が123万円超150万円以下の場合には、親等が特定扶養控除と同額(63万円)の所得控除を受けられ、大学生年代の子等の年間給与収入が150万円を超えた場合でも188万円までは、所得金額に応じて親等が段階的に控除を受けられることとなります。

(4)施行時期

 原則として2025年12月1日に施行され、2025年分以後の所得税に適用されますので、2025年12月以降の源泉徴収事務に変更が生じることとなり、国税庁では、留意事項等の情報を公表しています(「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」)。

法人課税、国際課税

(1)中小企業者等の法人税率の特例の見直し等

 中小企業者等の法人税率の特例は、所得金額が10億円を超える事業年度について軽減税率部分を15%から17%に引き上げる等見直しが行われたうえで、その適用期限が2年延長されました(延長後の適用期限:2026年度末まで)。

 また、中小企業経営強化税制も売上高100億円超を目指す中小企業に係る措置の追加等見直しが行われたうえで、適用期限が2年延長されました(延長後の適用期限:2026年度末まで)。
 このほか、中小企業投資促進税制および中小企業経営強化税制におけるみなし大企業の範囲の見直し等が行われました。

 なお、令和7年度税制改正の中小企業関連のほかには、新リース会計基準に対応する改正、防衛特別法人税の創設等が行われました(「令和7年度法人税関係法令の改正の概要」)。

(2)国際課税

 国際課税では、グローバル・ミニマム課税の制度整備が行われました。
 法人税の国際的な引下げ競争に歯止めをかけ、税制面における企業間の公平な競争条件を確保するため、2021年10月にOECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において、グローバル・ミニマム課税について国際合意が行われ、令和5年度税制改正において、グローバル・ミニマム課税の3つのルールのうち、所得合算ルールに係る法制化が行われました。

 令和7年度税制改正においては、他の2つのルールである軽課税所得ルールおよび国内ミニマム課税に係る法制化として、各対象会計年度の国際最低課税残余額に対する法人税および各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税の創設等が行われました。

金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正案に対するパブリックコメントの結果の公表

 執筆:藤﨑 大輔弁護士

 2025年8月28日、金融庁は、「保険会社向けの総合的な監督指針」(以下「監督指針」といいます)の改正案(以下「本改正」といいます)に対するパブリックコメントの結果を公表しました。

 本改正は、本連載第42回「2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「6 金融庁『保険会社向けの総合的な監督指針』の改正案の公表」でご紹介したとおり、大要以下の事項について改正を行うものです(再掲)。

項目 概要 監督指針
損害保険会社による保険代理店に対する指導等の実効性の確保 保険会社において、保険代理店に対する指導等が適切に行われるよう実効性を確保しているかという点が監督上の評価項目として示されています。 Ⅱ-4-2-1
保険代理店等に対する過度な便宜供与の防止 保険代理店等に対する過度の便宜供与を防止するために整備すべき態勢や、便宜供与が過度なものであるか否かの判断基準が示されています。 Ⅱ-4-2-12
保険代理店等に対する不適切な出向の防止 保険代理店への出向は、過度の便宜供与として機能するおそれがあること、顧客情報等の不適切な共有が行われる可能性があることを踏まえ、出向の適切性を担保するために整備すべき態勢や、出向の適切性を判断する際の留意事項が示されています。 Ⅱ-4-2-13
代理店手数料の算出方法適正化 代理店手数料について、保険代理店に不適切なインセンティブを与えることがないよう、算出方法の留意事項が示されています。 Ⅱ-4-2-14
顧客等に関する情報管理態勢の整備 顧客等に関する情報へのアクセスおよびその利用は業務遂行上の必要性のある役職員に限定されるべきという原則(Need to Know原則)が示されています。 Ⅱ-4-5-2
政策保有株式の縮減 損害保険業界において、政策保有株式の実績がシェアに影響を及ぼしており、適正な競争を阻害する要因となり得ることから、政策保有株式を早期に縮減する方針を定めているかという点が着眼点として示されています。 Ⅱ-4-12
仲立人の媒介手数料の受領方法の見直し 企業分野の保険契約とそれ以外の保険契約について、それぞれ顧客または保険会社等に手数料を請求する場合に遵守すべき事項が示されています。 V-4-4

 パブリックコメントは468件に及びますが、その中でも、保険代理店等に対する過度の便宜供与の防止(監督指針Ⅱ-4-2-12)に関するパブリックコメントが約3分の1を占めています(No.50~189)。

 具体的な事例の「過度の便宜供与」への該当性に関するパブリックコメントに対しては、「当該便宜供与の趣旨・目的のほか、価格・数量・頻度・期間及びその負担者等を総合的に勘案しつつ、当該便宜供与によって生じ得る弊害の内容・程度を考慮し、社会通念に照らして妥当であるかによって判断する」(監督指針Ⅱ-4-2-12(1)②イ)という監督指針の文言を引用するのみの回答が多いものの、金融庁が一定の見解を示しているものもあり、実務上「過度の便宜供与」の該当性判断において参考になると考えられます。

 その他、保険代理店に対する出向の適切性(監督指針Ⅱ-4-2-13)や代理店手数料の算出方法(監督指針Ⅱ-4-2-14)等についても、多数のパブリックコメントに対して金融庁の考え方が示されており(出向についてNo.190~279、代理店手数料についてNo.280~354)、本改正に従い、出向方針や手数料の算出方法等を見直す場合には、監督指針に加えて参照する必要があると考えられます。

 なお、改正後の監督指針は2025年8月28日から適用が開始されています。

金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」の設置

 執筆:所 悠人弁護士

 2025年7月、金融庁は、金融審議会のもとに「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」(以下「本グループ」といいます)を設置しました。本グループは、国内外の投資家において暗号資産が投資対象と位置づけられていることを踏まえ、利用者保護とイノベーション促進の双方に配意しつつ、暗号資産をめぐる制度のあり方について検討を行うことを目的としています。

 本グループの設置に先立ち、金融庁は、「『暗号資産に関連する制度のあり方等の検証』ディスカッション・ペーパー」(以下「本ペーパー」といいます)を公表しており、本グループにおける議論は、同ペーパーにおいて示された暗号資産に関連する制度のあり方や、同ペーパーに対して寄せられた意見を踏まえたものとして位置づけられます。

 同ペーパーにおいて示された暗号資産に関連する制度のあり方等の概要については、本連載第41回「2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「11 金融庁『暗号資産に関連する制度のあり方等の検証』ディスカッション・ペーパーの公表」をご参照ください。

 本グループにおいても、本ペーパーにおいて示されたとおり、暗号資産に対する規制を資金決済法中心のものから金融商品取引法中心のものへ見直す方向性に対して肯定的な立場の意見が多く述べられている点は注目に値します。
 現時点では、最終的にどのようなフレームワークでの規制に着地するかは不透明な状況です。いずれにせよ、資金決済法や金融商品取引法の大規模な改正につながる可能性があり、引き続き議論を注視する必要があります。

国土交通省「一般投資家の参加拡大を踏まえた不動産特定共同事業のあり方についての中間整理」の公表

 執筆:所 悠人弁護士

 2025年8月1日、国土交通省は、「一般投資家の参加拡大を踏まえた不動産特定共同事業のあり方についての中間整理」(以下「本整理」といいます)を公表しました。

 「不動産特定事業」とは、複数の投資家から資金を集め、当該資金を用いて不動産を購入・運用し、その収益を投資家に分配する事業を指します。不動産を小口化した投資ビジネスであることから、主に不動産特定共同事業法という法律により種々の規制がなされています。

 また、不動産クラウドファンディングに用いられることが多くなっている今日の状況を踏まえ、本整理も、不動産特定共同事業に関し、特に近年はインターネット上の契約を通じた一般投資家の参加拡大といった環境変化がみられるため、投資家がよりわかりやすく安心して投資できる市場の整備が必要という背景からとりまとめられたものです。

 本整理の概要は以下のとおりです。

1.一般投資家向けの情報開示の充実
 一般投資家が投資判断にあたって商品の内容をより理解しやすくなるように、事業者から投資家への情報開示を拡充する必要。

(1)契約締結前書面における記載事項の拡充

 ① 想定利回りの根拠
 ② 対象不動産の価格の妥当性、不動産鑑定評価をとっていない場合はその理由
 ③ 利害関係人取引における取引価格の妥当性
 ④ 出資金の使途
 ⑤ 開発等を伴う商品の場合は、その内容(建築確認等の有無、資金計画、スケジュール)

(2)運用期間中における提供情報の拡充

 ① 出資金の使途の実績
 ② 開発等を伴う商品の場合は、その進捗状況

2.対象不動産の売却価格等における公正性の確保
 不当廉売や損失補填を防止するため、償還時に対象不動産を利害関係人に売却する場合などには、原則として、証券化対象不動産としての不動産鑑定評価額に即した価格での売却を求める必要。

3.行政による監督の充実
 市場が拡大する中で、行政による監督をより効率的・効果的に行うため、以下の充実を図る必要。
 ① 証券化実態調査の調査項目・開示項目の充実、調査結果の監督への活用
 ② 国も参画した立入検査や国から都道府県への技術的助言等の積極的な実施(難度の高い事案等)

4.業界団体との連携による自主ルール等の検討
 商品の内容に応じた適切な情報提供が行われるよう、業界団体における投資家への情報提供等に関する自主ルール・規制の導入の検討

 今後、本整理に基づき具体的な制度改正の議論が行われていくこととなりますので、不動産クラウドファンディングに関わる事業者をはじめとして、今後の動向に注視する必要があります。

総務省「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書2025」および「社会課題の解決に向けたメタバース導入の手引き」の公表

 執筆:南 みな子弁護士、小倉 徹弁護士

 総務省では、メタバースの市場規模およびユーザ数が将来的に大幅に増加することを見据え、ユーザにとってより安心・安全なメタバースの実現に向け、民主的価値に基づく原則等を検討するとともに、メタバースに係るサービスが国境を越えて提供されることを踏まえ、国際的なメタバースの議論にも貢献することを目的として、2023年10月から「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」(以下「本研究会」といいます)を開催しています。

 そして、2025年9月17日、本研究会が「報告書2025」(以下「本報告書」といいます)を公表するとともに、本研究会におけるこれまでの議論や知見を踏まえ、総務省が「社会課題の解決に向けたメタバース導入の手引き」(以下「本手引き」といいます)を公表しました。

 本報告書および本手引きの概要は、以下のとおりです。

本報告書の概要

(1)本報告書の構成

 本報告書は、以下の5つの章から構成されています。

第1章 メタバースをめぐる市場について
第2章 メタバースをめぐる技術について
第3章 メタバースをめぐる国内外の政策・制度について
第4章 メタバースの原則(第2.0版)の検討
第5章 今後の課題

 以下では、主に本報告書で改定されたメタバースの原則(第2.0版)の内容に焦点を当てて紹介します(第4章)。

(2)メタバースの原則(第1.0版)の策定経緯

 メタバースの原則(第1.0版)は、2024年10月に、本研究会によって公表されました。この原則は、ユーザにとってより安心で安全なメタバースを実現することを目的とし、G7の成果文書で言及されたメタバースにおける「民主的価値」を実現するためにメタバース関連サービス提供者に期待される取組みをまとめたもので、「メタバースの自主・自律的な発展に関する原則」と「メタバースの信頼性向上に関する原則」の2つの大きな柱から構成されています。

(3)メタバースの原則(第1.0版)の改正に向けた検討の背景と論点

 本研究会は、2024年10月以降、物理空間とメタバース等から構成される仮想空間の相互作用や融合が今後よりいっそう進むことが見込まれることを踏まえ、メタバースの実現・利用を可能とする技術の内容を問わない、多様なメタバースに係る国内外の動向を市場、技術、政策・制度の面から把握することを通じて、メタバースの原則(第1.0版)のアップデートについて検討を行ってきました。

 本研究会において、メタバースの原則の改定に関わる論点として抽出されたのは以下の点です。

透明性・説明性
  • 空間内の行動主体の真正性
  • 不文律や倫理観の共有、ゾーニング
  • 空間に付加された情報と実在する情報の区別
プライバシー
  • 生体情報を含むマルチモーダルな情報・データの取得・分析・活用
知的財産権等の適正な保護
  • UGC創作時の他者の権利侵害の防止
  • ユーザの技術・ノウハウの保護
契約・取引
  • ステークホルダー間の責任分担
身体、感情、行動等
  • 物理的な安全確保
  • ウェルビーイング・健康増進
その他
  • 先端技術(AI、ハプティクス等)の活用
  • ユーザへの啓発、教育
  • マルチステークホルダーによる合意形成
  • 相互運用性・標準化

(4)メタバースの原則(2.0版)の改正概要

 (3)に記載の各論点について、本研究会において議論を行い、取りまとめられたのがメタバースの原則(2.0版)です。メタバースの原則(第1.0版)からの主な改正内容は以下のとおりです。

透明性・説明性
  • メタバース関連サービス提供者は、その提供するメタバースサービスの特性に応じて、空間内の行動主体の真正性を担保する必要性の程度は様々であることを認識し、必要な場合には、ユーザが真正性を確認できるよう措置を講じることが期待される
  • 情報を仮想的に付加または削除できるメタバース上でのコミュニケーションにおいては、個々のユーザに表示される情報の態様が一律でない場合があり得、その結果、民主的な合意形成に必要な共通認識を損なうリスクがある。メタバース関連サービス提供者は、このリスクに対処する措置を講じることが期待される
  • 屋外など危険が生じる場所における利用が想定され、または、使用方法に応じてけがや事故などのリスクが予測されるケースにおいては、メタバース関連サービス提供者は、ユーザに安全な利用を求めるとともに、ユーザの安全確保のために提供するサービスの機能を一部制限し、その他必要な措置をとることが期待される
アカウンタビリティ
  • メタバースサービス内のエフェクトやイベントなどの体験コンテンツについて、その結果起こった事象に対しての責任の所在を関係者間であらかじめ明確にしておく
  • メタバースサービスの停止・終了に伴い生じ得るユーザの不利益に配慮し、停止・終了時の対応方針を明確にしておく
プライバシー
  • サービス外の周囲の人物(非ユーザ)とも物理空間を共有する場合、利用中の撮影やデータ取得の際に、周囲の人物のプライバシーに配慮が必要な旨をユーザに注意喚起することが期待される
オープン性・イノベーション
  • メタバース関連サービス提供者は、メタバースの利用が人々の身体、感情、行動等に正負両面の影響を与える可能性があることを認識し、その提供するメタバースサービスがユーザの身体的・精神的な健康の増進に寄与するものとなるよう開発・運営等に努めることが期待される
  • メタバース関連サービス提供者は、ユーザから取得する技術・ノウハウなどのデータについて、競争上の理由等から他者に秘匿すべきものがあることに留意する

本手引きの概要

 本手引きは、「企業や自治体等でメタバース導入を検討する担当者となったものの、メタバースに対する知識等がない方」に向けて公表されたものであり、主に、「メタバース導入を成功させるために知っておくべき事項」と「社会課題の解決に資するメタバースの利活用例」について記載されています。

 以下では、メタバース導入を成功させるために知っておくべき主たる事項について紹介します。

メタバース導入決定まで
  • 情報収集
    メタバースの市場情報、同業者の先行事例、ユーザ体験を向上させるノウハウ等の情報を収集。また、実際にメタバース上での体験を行い、これに伴う情報収集も必要

  • メタバースのユーザ歴がない場合にまず行うべきこと
    自身でメタバースを体験し、収集した情報と体験結果を踏まえ、自組織への導入におけるビジネスモデルを検討。また、メタバースのユーザコミュニティや、社内外のメタバース有識者へコンタクトをとる

  • メタバース導入までの進め方
    メタバース導入のきっかけがトップダウンの場合は、早期に予算の見通しを付け、現場担当者を巻き込み、現場課題との紐づけをする。きっかけがボトムアップの場合、メタバース導入によって、どう現場課題を解決するか仮説を立て、また、先行事例の有無を把握する

  • 予算獲得や合意形成に向けたポイント
    導入初期段階におけるKPIを適切に設定すること、決裁者の階層に応じた情報提示をすること、合意形成の場を構築すること
メタバース導入開始に向けての準備
  • サービス提供者を選定する際のポイント
    まずは、メタバース導入に対する明確なビジョンを決める。そのうえで、メタバースサービスの制作・開発における特性を理解する
  • 導入に伴い、デバイスやネットワーク等に関して対応すべきこと
    想定ユーザが誰なのか、メタバースでやりたいことは何なのか、に応じた準備が必要
メタバース活用開始後
  • 効果検証の基礎とすべきデータ
    サービス内で取得したダウンロード数、PV数、起動回数、滞在時間などのデータや、サービス外で取得した外部SNSでの反響や広告クリック率、メディア掲載数などのデータ
  • 事業継続の判断方法
    可能な限り単年度での評価・判断は避け、中長期的な計画を立てる。そして、自組織の財務に直接かかわらない効果(たとえば、実際には危険が伴う作業をメタバース上で試行・代替できたために現場人員の安全性が向上したといった効果)も考慮する
  • 事業を長期的に持続させるためのポイント
    スモールスタートでユーザへ明確に価値を提供すること、自組織内でのメタバースに対する理解を深めること、施策等の仕組み化をすること、効果検証の結果によってユーザのニーズに合わせて取組方針を見直すなど柔軟な方針見直しをすること

シリーズ一覧全46件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  45. 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  46. 第46回 2025年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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