Legal Update
第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
法務部
シリーズ一覧全16件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
目次
2022年5月に経済安全保障推進法が成立しました。同法は、安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進するための基本方針を策定するとともに、具体的な施策を定めるものです。
また、同じく5月には取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律3条3項に基づく指針が公表されました。
6月には金融商品取引業等に関する内閣府令及び金融サービス仲介業者等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令が、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針等の関連する指針の改正と併せて施行されており、関連する企業にとって対応が求められる事項が多く見られます。
そのほか、本稿では移転価格事務運営要領(事務運営指針)の一部改正、経済産業省におけるスタートアップ新市場創出タスクフォースの創設、東京都知事が発出した営業時間短縮命令が新型インフルエンザ等対策特別措置法に違反し、違法であると判断された裁判例、中国「外商投資電信企業管理規定」の一部改正について解説します。
編集代表:坂尾 佑平弁護士・渥美 雅之弁護士(三浦法律事務所)
本稿で扱う内容一覧
日付 | 内容 |
---|---|
2022年4月26日 | 経済産業省におけるスタートアップ新市場創出タスクフォースの創設 |
2022年5月1日 | 中国において「外商投資電信企業管理規定」の一部改正発効 |
2022年5月2日 | 「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律第3条第3項に基づき取引デジタルプラットフォーム提供者が行う措置に関して、その適切かつ有効な実施に資するために必要な指針」公表 |
2022年5月11日 | 「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案」第208回通常国会で成立 |
2022年5月16日 | 東京都知事が発出した営業時間短縮命令が新型インフルエンザ等対策特別措置法に違反し、違法であると判断された裁判例 |
2022年6月22日 | 金融商品取引業等に関する内閣府令及び金融サービス仲介業者等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令施行 |
2022年7月1日 | 移転価格事務運営要領(事務運営指針)の一部改正。 令和4年7月1日以後に開始する事業年度分の法人税の調査または事前確認審査について適用 |
経済安全保障推進法の成立
執筆者:渥美 雅之弁護士、松田 誠司弁護士
5月11日、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案」(いわゆる経済安全保障推進法案)が第208回通常国会で成立しました。同法は、安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進するための基本方針を策定するとともに、具体的な施策を定めるものです。
同法の全体像は以下のとおりです。
規定内容 | 施行時期 | 民間企業にとってのポイント |
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重要物資の安定的な供給の確保 | 公布後9か月以内 |
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基幹インフラ役務の安定的な提供の確保 | 公布後1年6か月以内 |
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先端的な重要技術の開発支援 | 公布後9か月以内 |
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特許出願の非公開 | 公布後2年以内 |
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経済安保に重要なサプライチェーンの確保、基幹インフラに係る規定については、対象物資、対象事業者の範囲等が政令に委任されており今後の議論を注視する必要があります。
特許出願の非公開についても、保全審査および保全指定の具体的あり方に関し、今後、政省令およびガイドライン等において、国家および国民の安全を損なう事態を生ずるおそれ、その程度、発明を非公開とした場合に産業の発達に及ぼす影響等について、どのように規定されるのか、また「通常生ずべき損失」の算定がどのようになされるのかが注目されます。
取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律3条3項に基づく指針の公表
執筆:小倉 徹弁護士
2022年5月2日、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律第3条第3項に基づき取引デジタルプラットフォーム提供者が行う措置に関して、その適切かつ有効な実施に資するために必要な指針」(以下「本指針」といいます)が公表されました。
本指針は、2022年5月1日に施行された「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」(以下「取引DPF消費者保護法」といいます)に基づき取引デジタルプラットフォーム提供者(取引DPF消費者保護法2条2項)が行う措置に関して、その適切かつ有効な実施に資するために必要な事項を定めたものです。
取引デジタルプラットフォーム提供者は、その提供する取引デジタルプラットフォームを利用して行われる通信販売に係る取引の適正化および紛争の解決の促進に資するため、下記の努力義務と開示の義務を負います。
- 販売業者等と消費者との間の円滑な連絡を可能とする措置その他の一定の措置を講じる努力義務(取引DPF消費者保護法3条1項各号)
- これらの措置を講じた場合、講じた措置の概要等につき開示する義務(取引DPF消費者保護法3条2項)
本指針は、努力義務を課されている一定の措置について、「趣旨・目的・基本的な取組」を明らかにしたうえで「望ましい取組の例」を示すとともに、講じた措置の概要等の開示について、基本的な考え方を示しています。
努力義務を課されている一定の措置についての「望ましい取組の例」の概要は以下のとおりです。
努力義務の課される措置 | 望ましい取組の例 |
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販売業者等と消費者との間の円滑な連絡を可能とする措置(取引DPF消費者保護法3条1項1号) |
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販売条件等の表示に関し苦情の申出を受けた場合における必要な調査等の実施(取引DPF消費者保護法3条1項2号) |
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販売業者等に対する身元確認のための情報提供の求め(取引DPF消費者保護法3条1項3号) |
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本指針は、取引DPF消費者保護法の施行状況および取引デジタルプラットフォームを取り巻く環境の変化等を勘案し、機動的かつ柔軟に見直していくものとされています。
上場企業等の非公開情報に関する銀証ファイアーウォール規制の見直し
執筆:所 悠人弁護士
2021年12月24日に金融庁から公表された「金融商品取引業等に関する内閣府令及び金融サービス仲介業者等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」について、2022年4月22日にパブリックコメントの結果が公表され、6月22日付けで、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」等の関連する指針と併せて改正が施行されました。
本改正は主に、金融庁の金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」が令和3年6月に公表した第二次報告(以下「WG第二次報告」といいます)をベースとして、上場企業の非公開情報に関する銀証ファイアーウォール規制、すなわち、証券会社と、当該証券会社と親子関係にある銀行の間における上場企業の非公開情報の授受に関する規制について、見直しを行うものです。
本改正の全体像は以下のとおりです。
- 銀行・証券会社間における上場企業等の非公開情報の共有について、オプトアウトの手続規制を緩和
⇒下記3-1にて解説します。 - 銀行・証券会社間における上場企業等の非公開情報の共有について、オプトインによる場合の同意取得手続のデジタル化
⇒銀行・証券会社間の法人顧客の非公開情報の共有について、顧客から電磁的方法により同意を取得して行う場合(オプトイン)、従前は電磁的方法を用いること自体についても事前に顧客から承諾を取得しなければなりませんでしたが、本改正により当該承諾は不要となり、新たに「電磁的記録」により同意(たとえば、eメールやウェブサイト上のフォームを用いた同意)を取得することが可能となりました。
また、本稿では取り扱いませんが、ファイアーウォール規制の緩和に加えて、それにより生じ得る弊害を防止するため、主に監督指針の改正による弊害防止措置の実効性強化も行われています。
オプトアウト手続規制の緩和
銀行・証券会社間の法人顧客の非公開情報の共有については、2009年以降、オプトアウト制度が導入されていました。これは、あらかじめ顧客に銀行・証券会社間で情報共有を行う旨通知したうえで、顧客が望まない場合には情報共有の停止を求める機会を提供することで、情報共有に関して同意を取得したものとみなす制度です。
しかし、既存のオプトアウト制度については、顧客に対する説明事項が多い等、負担や利便性の観点から事前に顧客から同意を得る方法(オプトイン)と大差がなく、銀行・証券会社双方において必ずしも積極的に活用されていない等の指摘がなされていました。
そこで、本改正では、銀行・証券会社間で顧客の非公開情報を共有する場合、顧客が「上場企業等」である場合に限り(※)、顧客に対するオプトアウトの機会に関する通知を不要とし、店舗・ホームページ上で常時掲示・掲載を行うことにより情報提供をすれば足りることとされ、手続きの負担が大きく軽減されました(改正後金商業等府令153条1項7号ヌ・改正後金商業者等監督指針Ⅳ-3-1-4 (2) ①)。
※ なお、WG第二次報告において、ファイアーウォール規制の見直しに関しては、法人と個人の区別だけでなく、法人においても大企業と中堅・中小企業について区別する必要があるとされたことから、本改正による上記オプトアウト手続規制の緩和の対象は、「上場企業等」の非公開情報に限定されています。そのため、個人顧客や「上場企業等」以外の法人顧客については、従前どおりオプトアウトの機会に関する通知を行う必要があります。
また、「上場企業等」とはおおむね以下のものをいいます(改正後金商業等府令123条1項18号ト)。
- 上場会社等およびその子会社等
- 上場しようとする株式会社およびその子会社等
- 有価証券報告書提出会社およびその子会社等
- 適格機関投資家(一定の者を除く)およびその子会社等
上記の規制緩和は銀行・証券会社にとって重要なものであることはもちろん、上場企業においても今後は個別にオプトアウトを求めない限り、通知なしに銀行・証券会社間で非公開情報が共有されることとなりますので、留意する必要があります。
今後の銀証ファイアーウォール規制の見直しに関する議論
銀証ファイアーウォール規制については、グループ間の連携を強化するため規制緩和を目指す銀行系金融グループと、規制緩和による弊害を重視しこれに消極的な独立証券会社の意見が激しく対立してきました。
いったん、本改正は施行されたものの、WG第二次報告においては、中堅・中小企業や個人顧客に関するファイアーウォール規制の取扱いが残された課題と位置付けられ、今後も検討が行われることとなっています。2022年4月25日に開催された金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」第17回においても、上記の残された課題を含めた今後の課題について、全国銀行協会・国際銀行協会、日本証券業協会のそれぞれの立場から意見表明がなされるなど、今後も激しい議論が続くことが予想されます。
移転価格事務運営要領(事務運営指針)の一部改正について
執筆者:迫野 馨恵弁護士、今村 潤弁護士
国税庁は、令和4年6月10日、金融取引 1 および費用分担契約等について「移転価格事務運営要領」(事務運営指針)(以下「指針」といいます)の一部を改正しました 2。
また、上記改正に伴い、指針の別冊である「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(以下「参考事例集」といいます)も改正されました。
この改正は、OECD移転価格ガイドライン(以下「ガイドライン」といいます)第8章(費用分担契約)の改訂および第10章(金融取引に係る移転価格の側面)の追加を踏まえて、指針や参考事例集の見直しが行われたものです。
改正の適用時期については、経過的取扱いにおいて、指針の取扱いの改正および参考事例集の変更部分は、法人の令和4年7月1日以後に開始する事業年度分の法人税の調査または事前確認審査について適用し、法人の同日前に開始した事業年度分の法人税の調査または事前確認審査については、なお従前の例によることとされています。
ガイドライン第10章(金融取引に係る移転価格の側面)の追加に伴う改正
ガイドラインにおいて、金融取引に対し独立企業原則の適用を検討する際にも、「取引の正確な描写」が重要であることが示されたことを踏まえ、指針3-7において、金融取引について調査を行う場合には、資産の内容等、機能分析、契約条件、市場の状況、事業戦略等の諸要素に基づき、金融取引の通貨、時期、期間その他の当該金融取引の内容等を的確に把握し、移転価格税制上の問題の有無を検討することが明確にされました。
改正前の指針3-8では、法人および国外関連者が共に業として金銭の貸付けまたは出資を行っていない場合において、当該法人が当該国外関連者との間で行う金銭の貸付けまたは借入れについて調査を行うときは、以下に掲げる利率を独立企業間の利率として用いる独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法の適用について検討することとされていました 3。
- 国外関連取引の借手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率
- 国外関連取引の貸手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率
- 国外関連取引に係る資金を、当該国外関連取引と通貨、取引時期、期間等が同様の状況の下で国債等により運用するとした場合に得られるであろう利率
これに対し、指針3-8の改正により、金融取引に係る独立企業間価格の検討を行う場合には、以下に掲げる事項等に留意し、金融取引の対価の額が最も適切な方法により算定されているか検討することとされました。
- 金融取引に係る比較対象取引を現実に行われる取引の中から見いだすことが困難な場合で、金融市場における利率その他の現実に行われる取引に依拠した客観的な指標(以下「市場金利等」という。)で当該金融取引と通貨、時期、期間、信用力その他の比較可能性に影響を与える要素が同様の状況の下にあるものにより当該金融取引に係る比較対象取引を想定することができるときは、当該市場金利等を用いて想定した取引を比較対象取引とすることができること
- 取引の当事者に係る信用力の比較可能性を検討する場合には、信用格付等を用いることができること
- 非関連者である銀行等に照会して取得した見積り上の利率又はスプレッドのように現実に行われる取引に依拠しない指標は、市場金利等には該当しないこと
- 法人と国外関連者との間で行われた債務保証等は、例えば、主たる債務者が、債務保証等が行われていないとした場合と債務保証等が行われた場合のそれぞれにおいて、債権者に対して支払うべき利息その他これに類する支払いに係る利率等の差等を勘案して想定した取引を比較対象取引とすることができること
上記金融取引に関する指針の改正に伴い、参考事例集の事例4が変更されており、借手である国外関連者と同程度の信用力である信用格付を有する法人が借り入れた金銭の貸借取引の利率の平均を基に独立企業間価格を算定する独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法の適用について記載されました。
また、債務保証契約について、日本法人が引き受けた債務の保証を背景とした国外関連者の信用力の改善の事実を踏まえ、当該信用力の改善がある場合とないとした場合の借入れに係る利率の差をもって比較対象取引を想定するに当たって勘案する事項とすることができることから、信用力に応じたスプレッドの差および国外関連者の期待損失率 4 を勘案して想定した取引を比較対象取引として用いて独立企業価格を算定する独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法の適用について記載されました。
ガイドライン第8章(費用分担契約)の改訂に伴う改正
ガイドラインにおいて、費用分担契約の定義が示されたことを踏まえ、指針3-15が改正され、費用分担契約とは、契約の当事者が、それぞれの行う事業において生ずる収益の増加、費用の減少その他の便益を得ることを目的として、無形資産または有形資産の開発、生産または取得および役務の開発、提供または受領を共同で行うこと(以下「共同活動」といいます)を約し、当該共同活動への貢献(当該共同活動に係るリスクの引受けおよび費用の負担を含みます)を分担して行うことを定める契約であることが明確にされました。
指針3-16の改正により、費用分担契約の当事者である法人および国外関連者(以下「参加者」といいます)が、当該費用分担契約に基づき共同活動を行う場合において、当該共同活動により当該参加者それぞれの事業において生ずると予測される収益の増加、費用の減少その他の便益(以下「予測便益」といいます)に応じて、当該共同活動への貢献を分担して行うことについて、国外関連取引に該当することを明確にするとともに、以下の事項のすべてを満たすときは、独立企業原則に即したものとして取り扱うこととされました。
- 当該参加者の予測便益の額の合計額のうちに占める当該参加者それぞれの予測便益の額の割合(以下「予測便益割合」といいます)が適正に見積もられていること
- 当該参加者それぞれの当該共同活動への貢献の価値の額(以下「貢献価値額」といいます)が、当該貢献が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合に当該貢献につき支払われるべき対価の額として最も適切な方法により算定される金額と一致していること
- 当該参加者の貢献価値額の合計額のうちに占める当該参加者それぞれの貢献価値額の割合(以下「貢献価値割合」といいます)が予測便益割合に一致していること
そのほか、費用分担契約における共同活動において参加者が自身の保有する既存の無形資産を使用している場合における無形資産の貢献価値の評価に係る留意点の明確化といった改正がなされています。
キャッシュ・プーリングに係る参考事例の追加
ガイドラインの規定を踏まえ、参考事例集において、寄与度利益分割法を用いる場合の新たな適用事例として、キャッシュ・プーリングが追加されました。
具体的には、グループにおける資金管理の効率化を目的として、国外関連者をプール・リーダーとする資金プーリング契約を日本法人、当該国外関連者および他の国外関連者の三者で締結しているところ、非関連者である銀行がプール・リーダーである国外関連者の統括口座にプールされた残高に応じて、預金利息を当該国外関連者に支払っているが、当該国外関連者が当該利息を日本法人および他の国外関連者に配分していない事例において、当該預金利息のうち、プール・リーダーである国外関連者の行う記帳等の役務提供の対価に相当する部分を除いた金額を、資金移動が行われる前の日本法人および他の国外関連者2社の口座残高に応じて配分する寄与度利益分割法と同等の方法または残余利益分割法に準ずる方法と同等の方法を最も適切な算定方法として選定し、独立企業間価格を算定することが妥当である旨が記載されました。
改正に向けて
前記のとおり、改正は、令和4年7月1日以後に開始する事業年度分の法人税の調査または事前確認審査について適用されます。
そのため、国外関連者との間で改正の対象となっている取引を行っている企業においては、改正の考え方に即した対応が行われているかについて、早期に検討し、必要であれば見直しを行うことが求められます。
経済産業省におけるスタートアップ新市場創出タスクフォースの創設
執筆:坂尾 佑平弁護士
2022年4月26日、経済産業省は、スタートアップの新市場創出の推進に向け、規制に関する相談対応や各種規制改革制度の活用促進を行うため、専門の弁護士からなる「スタートアップ新市場創出タスクフォース」を創設しました。これについては、経済産業省の「スタートアップの法務支援を行う専門家チームを創設します スタートアップ新市場創出タスクフォースの創設」と題するウェブサイトにおいて、概要が示されています。
スタートアップ新市場創出タスクフォースの行う業務内容は、以下の2つであると整理されています。
- 規制の各種制度の活用に向けた論点整理
スタートアップが新たな事業に挑戦する際の規制に関するリーガルサポートとして、グレーゾーン解消制度、新事業特例制度、規制のサンドボックス制度等の活用に向けた法律上の論点整理等を提示。 - スタートアップ新市場創出タスクフォースでの審議
上記①の相談案件対応に基づく規制改革に関する検討。
上記①におけるグレーゾーン解消制度、新事業特例制度、規制のサンドボックス制度については、経済産業省の「グレーゾーン解消制度・プロジェクト型「規制のサンドボックス」・新事業特例制度」と題するウェブサイトをご参照ください。
スタートアップ新市場創出タスクフォースのリーガルサポートを受けたい企業は、経済産業省の上記ウェブサイト内で公表されている「スタートアップリーガルサポート利用申込書」を用いて、電子メールで申し込むこととされています。当該利用申込書には、利用資格、留意事項および確約事項について以下の説明がなされています。
- 新たな事業活動を行おうとするスタートアップ(設立から概ね10年以内)
- 新たな活動に関する該当法令の相談は、1時間程度2回までとします。
- 該当法令のある程度の特定や対応方針などの提案、助言をもって完了とします。
- 相談内容によっては、事業計画や財務内容等を確認させていただく場合があります。
- スタートアップ新市場創出タスクフォースの構成員である法律の専門家以外に、当該構成員の補助者が同席する場合があります。
- 経済産業省およびスタートアップ新市場創出タスクフォース構成員は、情報提供の内容に関連して、利用企業に損害が生じてもその責任を一切負わないものとします。
- 当社および自らの役員、株主等は、以下に記載の反社会的勢力に該当せず、今後においても反社会的勢力との関係を持つ意思がないことを確約します。
- その他公序良俗に反する行為、法令不遵守に該当しないことを確約します。
スタートアップが新市場の創出に取り組むに際しては既存の規制への対応を要することも少なくなく、そのような場合には、迅速かつ適切な法的助言を受ける必要性は非常に高いといえます。他方、スタートアップにおける人的・金銭的なリソースが必ずしも十分でなく、法務面の検討や規制対応に苦慮するケースも多かったように思われます。
スタートアップ新市場創出タスクフォースは、このような背景を踏まえた制度としてスタートアップに新たな選択肢を提供するものであり、今後の活用動向が注目されます。
東京都知事が発出した営業時間短縮命令が新型インフルエンザ等対策特別措置法に違反し、違法であると判断された裁判例
執筆:磯田 翔弁護士、山口 亮子弁護士
新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」といいます)45条2項では、緊急事態宣言下において、都道府県知事が、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命および健康を保護し、ならびに国民生活および国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときには、事業者に対して、施設の使用の制限もしくは停止または催物の開催の制限もしくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができると定められています。
そのうえで、同条3項では、都道府県知事が、要請に従わない事業者に対し、「特に必要があると認めるとき」に限り、必要な命令を発出することができると定められています。
実際に、これまでのコロナ禍においては、飲食店等に対して、同条に基づく営業時間の短縮命令等が発出されています。
東京都知事がこの特措法45条3項に基づきレストラン経営事業者に対し発出した営業時間短縮命令(以下「本件時短命令」といいます)につき、東京地方裁判所は、2022年5月16日、本件時短命令は特措法45条3項に定める「特に必要があると認めるとき」との要件を満たさず違法である旨を判示しました(以下「本判決」といいます)。本判決が本件時短命令を違法とした主な判断理由は、以下のとおりです。
- 特措法45条3項の命令違反の場合には過料(同法79条)に処せられるところ、命令は制裁規定の前提となるものであるから、その運用は慎重なものでなければならない。
- 命令を行うにあったっては、施設管理者が要請に応じないことに加え、当該施設管理者に不利益処分を課してもやむを得ないといえる程度の個別の事情があることを要する。
- 個別の事情の有無については、内閣官房による、クラスターが発生するリスクが高まっていることが実際に確認できる場合であるか、個別施設に対して命令を行う判断の基準や考え方について合理的な説明が可能であり、公平性の観点からも説明ができるものになっているか等を検討するとする見解等が参考になる。
- 当該レストラン経営事業者は一定の感染防止対策を講じていたこと、その他本件の事情に照らすと、当該レストランでの夜間の営業継続が感染リスクを高めていたと認める根拠は見出し難く、本件では上記の個別の事情は認められない。
本判決は、新型インフルエンザ等対策特別措置法による営業時間短縮命令の違法性について初めて言及した裁判例です。本判決の認定では、対象となる施設の個別事情や時短命令の効力時期その他個別の事情が認定された結果、「特に必要があると認めるとき」に該当せず、本件時短命令が違法であると判断されたものです。そのため、他の地方自治体や他の事業者に対する営業時間短縮命令が直ちに違法であると判断されるものではありませんが、行政によるコロナ対策を見直すきっかけになる裁判例であるといえます。
なお、本判決において、レストラン経営事業者は、本件時短命令が違憲・違法であることを理由として、営業時間短縮による売上げの減少につき国家賠償請求も行っていました。しかしながら、東京地方裁判所は、国賠法上の違法性については認めておらず、控訴がなされており、今後の審理・動向が注目されます。
中国「外商投資電信企業管理規定」一部改正
執筆:趙 唯佳中国法律師、湯浅 紀佳弁護士
2022年4月7日に公布された中国国務院による「一部の行政法規の修正及び廃止に関する決定」により、「外商投資電信企業管理規定」(以下「本規定」といいます)が改正され、改正後の規定は2022年5月1日に発効しました。
中国では、電信業界全般を管理する「電信条例」(2000年9月25日施行、2016年2月6日改正。以下「電信条例」といいます)があり、これに対して本規定は外国企業が出資する電信企業(外商投資電信企業)に関する規定で、電信条例に対して特別法の位置付けになります。
今回の主な改正点として、下記があげられます。
- 条文上の外商独資による電気通信企業の設立との矛盾点を解消し、外国出資者の出資比率の制限に関する既存・将来の規定との整合性を高めたこと
- 外商投資電信企業の外国出資者の実績に関する要求の削除
- 外商投資電信企業の許認可手続の簡略化
電信企業における外国出資者の出資比率
電信企業における外国出資者の出資比率については、従来厳格な外資規制が適用されており、改正前の本規定(2016年2月6日改正、以下改正前の本規定を「旧規定」といいます)6条は、電信企業における外国資本の出資比率について、基礎電信業務(無線ページング業務を除く)の場合には49%を超えてはならない(本規定6条1項)、付加価値電信業務(無線ページング業務を含む)の場合には50%を超えてはならない(本規定6条2項)と規定し、同3項で各時期における出資比率は「国務院工業信息化主管部門が関連規定に基づいて規定する」としていました。
これに対し、今回の改正は3項を削除し、1項、2項の各比率制限の後ろにいずれも「国家が別途規定する場合を除く」との例外を設けました。
実際には、今回改正前に、すでに一部の業務や一定条件の出資者に対しては、上記外資制限を突破した政策が実施されており(たとえば、「オンラインデータ処理及び取引処理業務(経営類電子商務)」については、2015年から100%の外商出資が認められていました)5、今回の改正は当該政策との不整合性を取り除いたのと同時に、法令上「国家の別途の規定」という比較的広い改正を認め、今後の電信業界における外資規制に対するさらなる規制緩和への準備としてとらえることができると期待されます。
外国出資者の実績条件
外商投資企業の主な外国出資者に対する条件として、旧規定は基礎電信業務に従事する外商投資電信企業の場合には基礎電信業務における、付加価値電信業務に従事する外商投資電信企業の場合には付加価値電信業務における「良好な業績と運営経験」との条件を設けていました(旧規定9条1項 (4) 号、10条)。今回の改正で当該条件が削除されました。
従来では、「良好な業績と運営経験」についての基準が明確ではないうえ、各国による電信業務の分類方法や管理監督体制に異なることがある状況によって、この条件は外商投資電信業務の設立にあたって不安定要素であったため、当該条件の撤廃も外資規制の緩和・明確化に重要な意味があると考えられます。
外商投資電信企業の許認可手続
今回の改正は、すでに実施された制度改革によって不要になった会社設立登記前の工業信息化部による「外商投資企業電信業務審査認定意見書」や、商務部門による「批准証書」に関する規定(旧規定12条、14条、15条及び16条)を削除し、外商投資電信業務の許認可手続については、①まず会社を設立して営業許可証を取得した後、②電信業務経営許可を取得とするという2ステップの手続を明確にし、ステップ2の電信業務経営許可について、付加価値電信業務の場合の審査期間を90日から60日と短縮しました。
これにより、外商投資電信企業の設立手続が簡易化し、許認可取得の効率向上が期待されます。
まとめ
今回の改正点は、中国において長く外資規制が敷かれている中国電信業界において、規制の緩和、条件の撤廃、手続の利便性向上に関する内容になっており、外国出資者の中国電信業界参入に積極的な方向性を示すものであり、今後の運用が期待されます。
シリーズ一覧全16件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向