Legal Update

第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向

法務部

シリーズ一覧全16件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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目次

  1. 改正労働基準法の施行(中小企業における60時間超の法定時間外労働に係る割増率の変更)
  2. 改正育児・介護休業法の施行(従業員数1,000人超の企業に対する男性の育児休業の取得状況の公表義務)
    1. 常時雇用する労働者
    2. 公表内容
    3. 公表方法
  3. 無期転換ルール・裁量労働制に関する省令および関連指針等の改正案要綱
  4. 有価証券報告書等におけるサステナビリティ開示の記載欄新設の施行
    1. サステナビリティ全般に関する開示
    2. 人的資本、多様性に関する開示
  5. 「経営者保証改革プログラム」の策定 - 経営者保証に依存しない融資慣行の確立加速
  6. 消費者庁「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書」
  7. 「Web3.0研究会報告書 ~Web3.0の健全な発展に向けて~」の公表
  8. 特許庁 報告書「商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて」の公表
    1. 他人の氏名を含む商標の登録要件緩和
    2. コンセント制度の導入

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2022年12月23日 経済産業省・金融庁・財務省「経営者保証改革プログラム」公表
2022年12月27日 デジタル庁「Web3.0研究会報告書」公表
2022年12月28日 消費者庁「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書」公表
2023年1月31日 有価証券報告書等におけるサステナビリティ開示の記載欄新設の施行
2023年2月14日 無期転換ルール・裁量労働制に関する省令および関連指針等の改正案要綱の公表
2023年3月10日 特許庁「商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて」公表
2023年4月1日 改正労働基準法の施行(中小企業における60時間超の法定時間外労働に係る割増率の変更)
2023年4月1日 改正育児・介護休業法の施行(従業員数1,000人超の企業に対する男性の育児休業の取得状況の公表義務)

 2023年4月1日、改正労働基準法が施行され、月60時間を超える法定時間外労働の割増賃金率50%引上げが、中小企業にも適用されるようになります。

 同年4月1日、改正育児・介護休業法の施行により、従業員数1,000人を超える事業主に対し、男性労働者の育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務付けられるようになります。

 同年1月13日、無期転換ルール・裁量労働制に関する省令および関連指針等の改正概要案のパブリックコメントが公示され、その結果を踏まえ、同年2月14日には、省令等の具体的な改正案要綱が公表されました。今後、省令等の改正が行われ、来年2024年4月1日に施行(適用)される予定です。実務への影響が大きい改正となることが見込まれますので、主要なポイントをまとめました。

 同年1月31日、企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令が公布・施行され、同年3月31日以降に終了する事業年度に関して提出される有価証券報告書等で、サステナビリティに関する企業の取組みを開示する記載欄の新設が適用開始されます。上場企業等にとって早期に対応していくことが必要です。

 2022年12月23日、経済産業省と金融庁、財務省は、「経営者保証改革プログラム」を策定・公表しました。プログラムの1つとして、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を加速させ、スタートアップ・起業家に対して経営者保証を徴求しない信用保証制度が2023年3月より新たに開始されるようになります。

 2022年12月28日、消費者庁は、「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書」を公表しました。広告主が自らの広告であることを隠したまま広告を行う「ステマ」に対し、景品表示法により規制していく方向で検討がされています。

 同年12月27日、デジタル庁に設置された「Web3.0研究会」の報告書が公表されました。報告書では、非代替性トークン(NFT)、分散型自律組織(DAO)といったWeb3.0と関連して論じられる新しいサービス・ツールについて、その法的位置付けや規制のあり方に係る今後の議論の方向性が示されているほか、Web3.0研究会で行われてきた検討結果がとりまとめられています。

 2023年3月10日、特許庁は、報告書「商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて」を公表しました。報告書は、他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和や、先行登録商標権者の同意があれば類似の商標登録を認める「コンセント制度」の導入を進める方向でとりまとめられています。

 編集代表:坂尾 佑平弁護士・渥美 雅之弁護士(三浦法律事務所)

改正労働基準法の施行(中小企業における60時間超の法定時間外労働に係る割増率の変更)

 執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士

 中小企業における60時間超の法定時間外労働に係る割増率の変更に関する改正労働基準法が2023年4月1日に施行されます。
 現在、法定時間外労働が60時間を超えた場合には50%の割増賃金率となっていますが(労働基準法37条1項ただし書き)、中小企業についてはこの適用が猶予されており(同法138条)、25%の割増賃金率とされています。なお、中小企業の要件は下表の①または②を満たすかどうかにより判断されます。

業種 ① 資本金の額または出資の総額 ② 常時使用する労働者数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
上記以外のその他の業種 3億円以下 300人以下

 もっとも、この中小企業の猶予措置に関して、2018年の働き方改革関連法により労働基準法138条が削除されました。このため、当該猶予措置が2023年4月1日以降に終了することとなり、同日以降、中小企業における法定時間外労働が60時間を超えた場合の割増賃金率が、大企業と同様に50%に引き上げられることとなります。

 これにより、実際に60時間を超える法定時間外労働が生じた際には、労働基準法37条に基づき50%の割増賃金を支払わなければなりませんので、給与計算を誤らないように留意する必要があります。
 また、就業規則、労働条件通知書、雇用契約書等においては、割増賃金率を明示しますが、2023年4月1日の施行日までに割増賃金率を改定しておく必要もあります。

 以上の詳細については、厚生労働省のサイトのリーフレット(「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」)を参照することがよいでしょう。

改正育児・介護休業法の施行(従業員数1,000人超の企業に対する男性の育児休業の取得状況の公表義務)

 執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士

 2021年に育児・介護休業法の改正がなされ、2022年4月、同年10月と段階的に施行されてきましたが、2023年4月1日には、常時雇用する労働者数が1,000人を超える事業主を対象に、毎年少なくとも1回、その雇用する男性労働者の育児休業等の取得状況を公表することが義務付けられることになります。

常時雇用する労働者

 対象企業の「常時雇用する労働者」とは、以下のようにされています。

雇用契約の形態を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者を指し、次の①または②に該当する者

  1. 期間の定めなく雇用されている者
  2. 過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者または雇入れの時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者(一定の期間を定めて雇用されている者または日々雇用される者で、その雇用期間が反復更新されて、事実上①と同等と認められる者)

公表内容

 公表内容は、次の①または②のいずれかの割合です。

公表を行う日の属する事業年度(会計年度)の直前の事業年度(公表前事業年度)の①または②
  1. 育児休業等の取得割合
    育児休業等をした男性労働者の数 配偶者が出産した男性労働者の数

  2. 育児休業等と育児目的休暇の取得割合
    育児休業等をした男性労働者の数
    +
    小学校就学前の子の育児を目的とした休暇制度を利用した男性労働者の数の合計数
    配偶者が出産した男性労働者の数

※育児休業等とは、育児・介護休業法に規定する以下の休業を指します。

a 育児休業(産後パパ育休を含みます)

b 育児・介護休業法23条2項(3歳未満の子を育てる労働者について所定労働時間の短縮措置を講じない場合の代替措置義務)または同法24条1項(小学校就学前の子を育てる労働者に関する努力義務)の規定に基づく措置として育児休業に関する制度に準ずる措置を講じた場合は、その措置に基づく休業

公表方法

 インターネットなどの一般に閲覧できる方法で公表することとされており、自社のウェブサイトや、厚生労働省の運営するウェブサイト「両立支援のひろば」等で公表することになります。

 以上の詳細については、厚生労働省のリーフレット(「2023年4月から、従業員が1,000人を超える企業は男性労働者の育児休業取得率等の公表が必要です」)を参照することがよいでしょう。

無期転換ルール・裁量労働制に関する省令および関連指針等の改正案要綱

 執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士

 2022年12月27日に公表された「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」(以下「本報告」といいます)を受け、労働契約法18条に定める無期転換ルール、および労働基準法38条の3・38条の4に定める裁量労働制について、省令および関連指針等の改正案要綱(以下「本要綱」といいます)が公表されました。
 今後、省令等が改正され、2024年4⽉1⽇に施⾏(適⽤)することが予定されています

 本報告および本要綱は、2022年3月付け「多様化する労働契約のルールに関する検討会 報告書」および同年7月15日付け「これからの労働時間制度に関する検討会 報告書」という2つの報告書を踏まえたものであり、主要な改正として以下のようなものが想定されています。

主要な改正内容 実務への影響
無期転換ルールおよび
労働契約関係の明確化
労働基準法15条1項に基づく労働条件明示事項の追加
  • 通算契約期間または更新回数の上限
  • 就業場所および業務の変更の範囲 ※
  • (無期転換申込権が発生する契約更新時)無期転換申込機会、無期転換後の労働条件
雇用契約書・労働条件通知書の記載を修正する必要性、更新手続における実務上の対応の変更等
有期労働契約の締結後に、通算契約期間または更新回数について、上限を設けたりこれを引き下げたりする場合は、その理由を労働者に説明する
裁量労働制 専門業務型 対象業務に、銀行または証券会社において、顧客に対し、合併、買収等に関する考案および助言をする業務
(いわゆるM&A関連業務)を追加
適用対象の拡大
労使協定等に定める事項として、本人の同意取得を追加 適用条件の加重
企画業務型 対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、使用者が労使委員会に変更内容について説明を行うことを決議事項に追加 企画業務型裁量労働制に関する実務運用の変化
対象労働者の健康・福祉確保措置として、勤務間インターバルの確保や深夜業の回数制限等を追加
制度の定着に鑑み、6か月以内ごとに行うこととされている労使委員会の定期報告の頻度を、初回は6か月以内に1回およびその後1年以内ごとに1回とする

※「就業場所および業務の変更の範囲」の明示については、有期雇用労働者だけでなく、労働者全般に対して対応が必要となります。


 上記のとおり、本要綱はいずれも実務への影響が大きいため、今後の動向が注目されます。なお、本報告および本要綱に係る詳細については、弊所のNote記事「労働法UPDATEVol.4:無期転換ルール・裁量労働制に関する改正①~「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」を受けて~」、「労働法UPDATE Vol.5:無期転換ルール・裁量労働制に関する改正②~「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」を受けて~」もご参照ください。

有価証券報告書等におけるサステナビリティ開示の記載欄新設の施行

 執筆:所 悠人弁護士、峯岸 健太郎弁護士

 2023年1月31日付けで「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正が施行され、有価証券報告書や有価証券届出書において「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」、「コーポレートガバナンスに関する開示」に関する記載欄が新設されました。
 2023年3月31日以降に終了する事業年度に関して提出される有価証券報告書等から適用が開始されるため、上場企業等の有価証券報告書を提出する企業にとっては、早期の対応が必要となる重要なトピックです。

 今回は特に高い注目を集めている「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」の概要についてご紹介します。

サステナビリティ全般に関する開示

 サステナビリティに関する具体的な開示内容としては以下の4つが挙げられており、①および②は必須の記載事項、③および④は「重要性」を判断して開示することとされています。

開示事項・内容 記載の要否
① ガバナンス

サステナビリティ関連のリスク・機会を監視・管理するためのガバナンスの過程、統制および手続

必須記載事項
② リスク管理

サステナビリティ関連のリスク・機会を識別・評価し、管理するための過程

③ 戦略

短期、中期、長期にわたり連結会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスク・機会に対処するための取組

「重要性」を判断して開示
(下記4−2に記載の人的資本、多様性に関する事項は、重要性にかかわらず必須記載事項)
④ 指標および目標

サステナビリティ関連のリスク・機会に関する連結会社の実績を長期的に評価・管理・監視するために用いられる情報

 ただし、上記③および④に関して、現状は「重要性」の判断基準・考え方は示されていません。改正と同時に金融庁から公表された「記述情報の開示に関する原則(別添)− サステナビリティ情報の開示について −」では、今後の国内外の動向を踏まえて「重要性」の考え方が示されることが示唆されており、今後の対応が待たれます。

 また、上記「記述情報の開示に関する原則(別添)− サステナビリティ情報の開示について −」には、開示における考え方や望ましい取組として、たとえば以下のような記述もされています。

  • サステナビリティ情報には、環境、社会、従業員、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄防止、ガバナンス、サイバーセキュリティ、データセキュリティなどに関する事項が含まれ得ること
  • 気候変動対応が重要である場合、上記①~④の項目の中で開示を行うこと
  • 各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、Scope1(事業者自らによる直接排出)・Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)の温室効果ガス(GHG)排出量について積極的な開示が期待されること
  • ③「戦略」および④「指標及び目標」に関して、重要性を判断した上で記載しないこととした場合、当該判断やその根拠の開示が期待されること

人的資本、多様性に関する開示

 加えて、人的資本、多様性の観点から、以下の事項の開示も必要となりました。

開示事項・内容 記載の要否
戦略
  • 人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針
必須記載事項
指標および目標
  • 当該方針に関する指標の内容・当該指標を用いた目標および実績
従業員の状況
  • 女性管理職比率
  • 男性育児休業取得率
  • 男女間賃金格差
女性活躍推進法に基づき公表している会社・その連結子会社のみ必須記載事項
原則として単体ベースでの開示だが、連結ベースでの開示に努めるべきとされている
(上記記述情報の開示に関する原則)

 なお、改正の施行と同日付けで金融庁から、パブリックコメントに対する回答と、サステナビリティ情報を含む「記述情報の開示の好事例集2022」が公開されており、いずれも改正への対応に際し参照が必須と考えられます。

「経営者保証改革プログラム」の策定 - 経営者保証に依存しない融資慣行の確立加速

 執筆:磯田 翔弁護士

 中小企業向け融資の多くでは、経営者個人が会社の連帯保証人になる「経営者保証」が求められています。経営者保証を行っていると、会社が倒産した場合、経営者個人も自己破産に陥り、私財を差し出す必要に迫られます。そのため、経営者保証は、スタートアップの創業や経営者による思い切った事業展開を躊躇させる、円滑な事業承継や早期の事業再生を阻害する要因となっている等、様々な課題が指摘されていました。

 このような状況を受けて、経済産業省と金融庁、財務省は、2022年12月23日付けで「経営者保証改革プログラム」(以下「本プログラム」といいます)を策定し、公表しました。

 本プログラムでは、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を加速させるため、以下の4分野に重点的に取り組むこととされています。具体的な概要は下表のとおりです。

1. スタートアップ・創業~経営者保証を徴求しないスタートアップ・創業融資の促進~
  • 経営者保証を求める慣行が創業意欲の阻害要因となっている可能性を踏まえ、起業家が経営者保証を提供せず資金調達が可能となる道を拓くべく、経営者保証を徴求しないスタートアップ・創業融資を促進。
2. 民間金融機関による融資~保証徴求手続の厳格化、意識改革~
  • 保証を徴求する際の手続を厳格化することで、安易な個人保証に依存した融資を抑制するとともに、事業者・保証人の納得感を向上させる。
  • 「経営者保証ガイドラインの浸透・定着に向けた取組方針」の作成、公表の要請等を通じ、経営者保証に依存しない新たな融資慣行の確立に向けた意識改革を進める。
3. 信用保証付融資~経営者保証の提供を選択できる環境の整備~
  • 経営者保証ガイドラインの要件を充たしていれば経営者保証を解除する現在の取組を徹底。
  • 経営者保証ガイドラインの要件のすべてを充足していない場合でも、経営者保証の機能を代替する手法を用いることで、経営者保証の解除を事業者が選択できる制度を創設。
  • 中小企業金融全体における経営者保証に依存しない融資慣行の確立に道筋を付けるため、信用保証制度で一歩前に出た取組を行う。
4. 中小企業のガバナンス~ガバナンス体制の整備を通じた持続的な企業価値向上の実現~
  • 経営者保証解除の前提となるガバナンスに関する中小企業経営者と支援機関の目線合わせを図るとともに、支援機関向けの実務指針の策定や中小企業活性化協議会の機能強化を行い、官民による支援態勢を構築。

 具体的には、2023年3月に、スタートアップの創業から5年以内の者に対する経営者保証を徴求しない新しい信用保証制度(保証上限:3,500万円/無担保)が創設され、創業時の融資を促進します。
 また、2023年4月からは、金融機関が経営者と個人保証契約を締結する場合に、その必要性や解除条件の説明を義務付け、説明内容を記録し件数を金融庁に報告することを義務付けることで、安易な経営者保証に依存した融資を抑制します。加えて、経営者保証に依存しないよう、事業全体を担保に金融機関から融資を調達できる制度に関する議論も進められています。
 その他、法人から代表者への貸付けがないことや決算書類を金融機関に定期的に提出していること等の要件を充たし、保証料の上乗せ負担をした場合には、経営者保証を解除できる信用保証制度の創設も進められています。

 以上は、本プログラムで進められている主な施策の一部ですが、これらの施策によって、金融機関の意識改革が図られるとともに、他方で融資を受ける事業者側のガバナンス体制の整備も求められています。

消費者庁「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書」

 執筆:大滝 晴香弁護士

 近年、インターネット広告市場は、新聞、雑誌、ラジオ、テレビといった従来のマスメディアの市場規模を上回るなど、著しい拡大を見せています。特にSNS等を活用した情報発信が増えており、個人が広告主からの依頼による宣伝であることを秘して情報発信を行う場合を含め、広告主が自らの広告であることを隠したまま広告を行う、いわゆるステルスマーケティング(以下「ステマ」といいます)の問題がいっそう顕在化してきています。

 他方、事業者が行う商品・サービスについての表示を規制する不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」といいます)は、主に優良誤認表示(商品・サービスの品質等の内容について、実際のものまたは事実に反して競合他社のものよりも著しく優良であると示す表示)、および有利誤認表示(商品・サービスの価格等の取引条件について、実際のものまたは競合他社のものよりも著しく有利であると示す表示)を規制しており、これらの不当表示に該当しなければ、同法により規制することができない現状にあります。すなわち、事業者がステマを行ったとしても、当該表示の内容が優良誤認表示または有利誤認表示に当たらない場合には、景品表示法により規制することができないのが現状です。

 諸外国では既にステマに対する法規制が整備されていることも踏まえ、消費者庁は、ステマに対する法整備を行うため、「ステルスマーケティングに関する検討会」を2022年9月16日から同年12月27日までにわたって開催し、同年12月28日、当該検討会での協議結果を報告書(以下「本報告書」といいます)にまとめました。

 本報告書では、概要以下の各事項について協議・検討が行われました。

1. ステルスマーケティング規制の必要性
  • 一般消費者は広告であることがわからないと、中立的な第三者による表示であるとして「広告にある程度の誇張・誇大が含まれること」を考慮に入れない、すなわち、広告であることがわかっていれば抱く警戒心を何ら抱かなくなるため、ステマは事業者の表示であるという点に、一般消費者の誤認が生じており、その誤認そのものが、一般消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択を阻害している。したがって、景品表示法が規制対象とする「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為」として、同法で規制すべきである
2. 具体的な規制の在り方
  • 一般消費者に誤認されるおそれがあるものを予防的・機動的に規制する景品表示法5条3号の告示に新たにステマを指定することが妥当である。
  • 告示案としては、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」が妥当である。
3. 規制対象となる表示の範囲
  • インターネット表示に限らず、規制対象となる表示(媒体)の範囲は限定しないことが妥当である。
  • 事業者が表示内容の決定に関与したものが規制対象となる。
4. 広告であることの明瞭な表示の仕方
  • 一般消費者が事業者の表示であることを判別できるものであれば問題とならない。
  • 「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった文言を使用して、一般消費者にとって表示内容全体からわかりやすい表示となっているものや、テレビ・ラジオのCMのように一般消費者にとって事業者の表示であることが社会通念上明らかであるものが、一般消費者が事業者の表示であることを判別できるものに当たり得る。

 以上の本報告書の内容を踏まえ、消費者庁は、「一般消費者が事業者の告示であることを判別することが困難である表示」の告示案および運用基準案を策定し、2023年1月25日より同年2月23日まで意見募集を行っています。意見募集期間が終了すれば本格的に施行されることとなりますので、引き続き動向に注意が必要です。

「Web3.0研究会報告書 ~Web3.0の健全な発展に向けて~」の公表

 執筆:金井 悠太弁護士

 2022年12月27日、デジタル庁に設置された「Web3.0研究会」により「Web3.0研究会報告書 ~Web3.0の健全な発展に向けて~」(以下「Web3.0研究会報告書」といいます)が公表されました。

 Web3.0研究会報告書では、「Web3.0の下での新しいデジタル技術を様々な社会課題の解決を図るツールとするとともに、我が国の経済成長につなげていく、という基本的考え方の下で、Web3.0の推進に向けた環境整備について」(Web3.0研究会報告書7頁参照)Web3.0研究会で行われた検討結果がとりまとめられています。

 具体的には、以下の各テーマについての現状提起されている各論点の整理とこれらの論点に対する検討の方向性が示されており、法務的な視点からは、非代替性トークン(NFT)、分散型自律組織(DAO)といったWeb3.0と関連して論じられる新しいサービス・ツールについて、その法的位置付けや規制のあり方に係る今後の議論の方向性が示されている点が注目に値します。

  • デジタル資産
  • 分散型自律組織(DAO)
  • 分散型アイデンティティ(DID)
  • メタバースとの接合
  • 利用者保護と法執行

特許庁 報告書「商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて」の公表

 執筆:松田 誠司弁護士

 特許庁は、2023年3月10日、産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会(以下「本小委員会」といいます)における検討を取りまとめた報告書「商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて」(以下「報告書」といいます)を公表しました。

 報告書における提言のうち、実務上特に重要と思われるのは、①他人の氏名を含む商標の登録要件緩和、および②コンセント制度の導入、の2点です。報告書における以下の各提言を受け、①および②は「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」において商標法の改正項目とされ、2023年3月10日、同法律案は国会に提出されました

他人の氏名を含む商標の登録要件緩和

 ①に関し、商標法4条1項8号は、他人の人格的利益の保護の観点から、構成中に他人の氏名等を含む商標は、当該他人の承諾がない限り、商標登録を受けることができないと規定しています。
 この点につき、従前の裁判例においては、「他人の氏名」の知名度、出願人の知名度の有無等は考慮されず、文言どおり商標の構成中に「他人の氏名」を含むかどうかで同号該当性を判断し、特許庁の審査実務においても同様の運用がなされていました。
 その結果、たとえば、創業者やデザイナー等の氏名をブランド名に含むファッション関係の出願は同号により拒絶されることとなり、かねてより問題が指摘されていました。
 報告書では、他人の人格的利益の保護を同号の趣旨とすることは維持しつつ、その要件について、「本規定の『他人の氏名』に一定の知名度の要件を設けること、また、無関係な者による悪意の出願等の濫用的な出願の防止のため、出願人側の事情(たとえば、出願することに正当な理由があるか等)を考慮する要件を課すことが適当である」と提言されています。

コンセント制度の導入

 ②については、商標法4条1項11号によれば、他人の先行登録商標と同一または類似の商標が出願された場合、当該出願は拒絶されることとなりますが、諸外国においては、当該先行登録商標の権利者による同意があれば両商標の併存登録を認める制度(いわゆるコンセント制度が存在しており、わが国でも同様の手続の導入を求める声がありました。
 報告書は、コンセント制度の導入を進める方向で取りまとめられており、より具体的には「先行登録商標の権利者の同意があってもなお出所混同のおそれがある場合には登録を認めない『留保型コンセント』の導入が適当である」と提言しています。

シリーズ一覧全16件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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