判例リサーチで事業の意思決定を支援するユーザベース流「判例秘書」の使い方

法務部

目次

  1. 「知らないうちにリスクを負っている」状況にしないための判例リサーチ
  2. 判例リサーチが事業の意思決定の質とスピードを高める
  3. 事業内容を深く理解したうえで、当事者として法的検討をできるのが企業法務の魅力

ソーシャル経済メディア「NewsPicks」や企業・業界分析プラットフォーム「Speeda」などを展開する株式会社ユーザベース。経済情報を取り扱う同社では、法務組織にもスピードが求められます。

同社執行役員General Counsel 兼 NewsPicks CLOとして法務を統括する吉田 真実氏と、法務・コンプライアンス本部の嶋津 友香氏、得居 澪氏に、法務の意思決定のスピードを上げるための判例リサーチの方法やそれを支える法律データベース「判例秘書」の活用法、そして意思決定への判例の活かし方について伺いました。

「知らないうちにリスクを負っている」状況にしないための判例リサーチ

法務組織の構成や人数を教えてください。

吉田氏:
当社の法務部門は「法務・コンプライアンス本部」という名前で、コーポレート部門の中に位置しています。さらに法務・コンプライアンス本部の中も、全社的なコンプライアンスやガバナンスを担当するチームと、各事業部門のビジネス支援を担当するチームに分かれています。

メンバーは法務・コンプライアンス本部全体で11名です。2019年に私が入社した当時は4名でしたが、会社自体の規模拡大に伴う新規採用や、規程管理など一部の総務機能を吸収したことで人数も増えました。

株式会社ユーザベース 執行役員General Counsel 兼 NewsPicks CLO 吉田 真実 氏

株式会社ユーザベース 執行役員General Counsel 兼 NewsPicks CLO 吉田 真実 氏

嶋津さん、得居さんはどのような業務を行っているのでしょうか。

嶋津氏:
私の担当はNewsPicks事業で、コンテンツの法的リスクの確認や、契約書の確認を行っています。メディア事業はテレビ局や新聞社、出版社のような側面もあるので、著作権法などの観点から検討することも多いです。

同社法務・コンプライアンス本部嶋津 友香 氏

同社法務・コンプライアンス本部嶋津 友香 氏

得居氏:
私の担当はSpeeda事業です。データ周りの法規制を調べる場面が多いです。グローバル展開もしているため、海外の法令・判例の調査を行うこともあります。

同社 法務・コンプライアンス本部得居 澪 氏

同社 法務・コンプライアンス本部得居 澪 氏

業務を進める中で、日本の判例を調査する機会はどれくらいあるのでしょうか。

嶋津氏:
毎日ではありませんが、頻度は多いほうだと思います。特に、会社全体の事業に関連しそうな法改正や判例、書籍に関するトピックスを法務・コンプライアンス本部内で共有する「法令書籍モニタリング」という会が月に1回あるので、その準備として調べることが多いです。

たとえば、X(旧Twitter)の投稿に関する著作権法上の問題や、景品表示法違反で消費者庁から指摘を受けた事例などが話題に上がった際、関連する判例を調査して共有します。

調査の際は判例を細部まで読み込むのではなく、概要だけ把握するようにしています。大切なのは「知らないうちに事業が法的リスクを負っている」状況にしないことです。そのために、判例の積み重ねから裁判所の判断の枠組みを理解することを心がけています。

このように判例を根拠としてストックしておくことで、社内で法的な判断を下す際に「このようなリスクがあるためストップすべきだ」と説得力を持たせることができます。

吉田氏:
おそらくどんな法務組織にも共通すると思うのですが、たとえばトラブルが起こった際、最終的に裁判所でどのように判断されるか把握したうえで対処する必要があると思います。

その見立てから外部弁護士に依頼するという選択肢も、もちろんあるでしょう。ただ私たちは、基本的にまずは社内で一次情報を収集し、解像度を高めたうえで外部弁護士に相談するようにしています。

社内法務の役割は、事業内容や戦略、数字的なインパクトを理解したうえで、私たちの見解と外部弁護士の見解をミックスしてベストなソリューションを見つけ出すことだと考えています。そのためには、私たち自身で判例を確認するプロセスも大切だと考えています。

判例リサーチが事業の意思決定の質とスピードを高める

判例の調査には「判例秘書」を活用しているとのことですが、具体的にどのように使っているのでしょうか。

嶋津氏:
一番多いのは、先ほども触れたような、事案の要約や重要なポイントの把握です。法務経験が浅いメンバーにとっても、素早くキャッチアップして中身を把握できるので重宝しています。

もちろん生成AIを使えば同じことができますが、不確かな情報ではなく信頼できるデータベースに基づいた確かな情報を得られる安心感があります。

判例をざっくり把握した後は、その影響範囲を知るために評釈論文を調べることが多いです。判例秘書では評釈論文にすぐ飛べるようになっているので、著名な学者の方の解説などを基に、今後予想される裁判所の判断枠組みをチームで共有しています。

判決本文の要約から引用判例、評釈論文などの関連情報まで遷移しやすい設計(出典:知っておきたい「判例秘書」の9つの特長)

判決本文の要約から引用判例、評釈論文などの関連情報まで遷移しやすい設計(出典:知っておきたい「判例秘書」の9つの特長

得居氏:
実務上の使い方でいうと、たとえば、お客様への提案内容について営業部門から法務相談を受けたときに、判例秘書に助けられました。

当時、まず所管省庁がウェブサイトで公表している資料を確認してみたところ、特定の事案に対する所管省庁の判断結果とその根拠を理解することができました。しかし、事業を支援する場面においては解釈が重要な役割を果たす場合が多くあります。そこで判例秘書を用いて関連する判例や雑誌記事、学者の評釈などを検索したところ、複数の専門家の解釈を参照することができ「過去の事案はこうだったから違反となったが、今回検討している提案内容は当てはまらない可能性が高い」という回答を示すことができました。
このように、判例を入口として横断的に資料を探索できるのがメリットだと思います。

嶋津氏:
そのほか頻度は少ないですが、事業部門とともに重要な契約交渉に臨む際にも活用しています。契約交渉においては、どの程度強い姿勢で交渉を進めてよいかを判断するのが難しい場面があります。取引先との関係性を考慮しつつ、契約慣行から大きく逸脱することなく、なおかつ自社の要望を最大限に実現できるような契約条項とするにはどうすればいいか。そのための社内すり合わせや取引先への主張の根拠として判例を調査しておくことで、自社の修正要望に対する確信度が高まり、社内の意思決定も円滑に進めることが可能になります。

当社の事業部門の人は知的好奇心の旺盛なタイプが多いので、「契約書の文言をこう修正したい。こういう判例があるので妥当な提案だと考えている」といった説明をすると、興味深く聞いてくれますね。

判例秘書の活用について、何か指導などされていますか。

吉田氏:
正直なところ、体系的な指導の時間を確保するのは難しいのが現状です。先ほど話題に出た「法令書籍モニタリング」の会議などを通じて、実践の中で学んでもらえたらと思っているのですが、お二人ともどうですか?

嶋津氏:
私は当社に入って初めて判例秘書を使用しましたが、特段のレクチャーを受けずともスムーズに利用できました。検索画面がシンプルで、キーワードから判決、そして評釈へとすぐに飛べるため、経験の浅いメンバーにとっても心強いツールだと感じています。

シンプルかつさまざまな検索方法を選択できる

シンプルかつさまざまな検索方法を選択できる

得居氏:
私は法科大学院生時代に使っていたのですが、当時は判決文の原文を正確に読むことを主目的としていました。一方で今の実務では、判例とさまざまな学説や雑誌記事を関連づけるような使い方をしています。ワンクリックで行き来できる点が非常に使いやすいと感じています。

豊富な雑誌ラインアップ(出典:知っておきたい「判例秘書」の9つの特長)

豊富な雑誌ラインアップ(出典:知っておきたい「判例秘書」の9つの特長

たとえば判例秘書の検索画面では、類似の判例が多数ある中で、特定の事件の評釈だけに絞り込む機能があるので、目当てのものに辿り着きやすいと感じます。効率的なリサーチには欠かせません。

事業内容を深く理解したうえで、当事者として法的検討をできるのが企業法務の魅力

法務部門の状況によっては、判例を自分たちで調べるところから取り組むのが難しい場合もあるかと思います。

嶋津氏:
そうですね。前職は法律事務所のパラリーガルだったのですが、企業から、ほぼ丸投げのような依頼が来ているのをよく目にしましたし、それを当たり前のようにも感じていました。

しかし、当社法務では、外部弁護士に依頼する・しないにかかわらず、事業内容や社内事情を深く理解したうえで「自分はどう考えるか」という方針を示すことを大切にしています。個人的に、そうした事情を理解したうえで仕事をすることが企業法務の魅力だと考えているので楽しいですね。

また外部弁護士に依頼するにしても、背中を押してほしいのか、それとも止めてほしいのかという事業部の本当の気持ちを把握することが重要だと考えています。そのうえで法令・判例を調査し、弁護士との打ち合わせに臨むことで、より具体的で踏み込んだアドバイスを引き出すことができます。結果として、打ち合わせの回数は最小限で済み、手戻りも少なくなるため、意思決定のスピードも上がります。

得居氏:
私としては、まず過去の判例を確認することは「危ない橋を渡らないための最低限の作業」だと思っています。さらに踏み込んで、事業部の要望や問題意識を共有しながら判例を読むことで、自社が進みたい道をより安全に進む方法を見つけ出すこともできると思います。判例と関連する評釈を読んで、学者や弁護士の解釈が定まっていない領域を見つけ出すことができたら、その領域がビジネスの強い味方になる可能性を秘めています。

吉田氏:
私もそうなのですが、自身の専門性と事業への理解が一体化した形でアウトプットできる瞬間に、企業法務としてやりがいを感じるのだと思います。単なる法務担当としてではなく、事業に必要な機能として貢献できている実感が湧きます。一方で、その実感と表裏一体ではあるのですが、意思決定に携わる緊張感もあります。攻めるにせよ守るにせよ、後から「あのとき、もっと確認をしていれば」と後悔することがないよう、まず自分たちで判例を確認する。そのステップが結果として、法務として会社の成長に貢献することにつながるのではと考えています。

本日はありがとうございました。

プロフィール

吉田 真実 氏
執行役員 General Counsel 兼 NewsPicks CLO(Chief Legal Officer)
大学卒業後、大手製薬会社でMRに従事。退職後、法科大学院を経て、2011年より、TMI総合法律事務所にて、訴訟、労務、不正調査、M&A等に従事。2016年より、フィリップス・ジャパンにてインハウスロイヤーの経験を積み、2019年に株式会社ユーザベースに入社。2022年、NewsPicks CLOに就任。2024年7月、執行役員General Counselに就任。

嶋津 友香 氏
法務・コンプライアンス本部
法律事務所で3年間、パラリーガルとして訴訟業務やリーガルリサーチに従事。2024年に株式会社ユーザベースに入社。NewsPicksなどメディア事業を担当。

得居 澪 氏
法務・コンプライアンス本部
法科大学院を経て2024年に株式会社ユーザベースに入社。Speeda事業を担当。

(写真:塩原 航、取材・編集・文:BUSINESS LAWYERS編集部)

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