Legal Update
第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
法務部
シリーズ一覧全45件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
目次
- 「労働施策総合推進法」、「男女雇用機会均等法」および「女性活躍推進法」の改正法の成立
- 「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」および「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律案」の成立
- 改正GX推進法の成立
- 改正資源有効利用促進法の成立
- 「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則」の改正案の公表
- 金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正案の公表
- 「事業性融資の推進等に関する法律」に係る施行令、内閣府令、ガイドライン等の公表
- オープンイノベーション促進のためのモデル契約、ガイドライン等の公表
- PHRサービス提供者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針の公表
本稿で扱う内容一覧
日付 | 内容 |
---|---|
2025年4月18日 | 「事業性融資の推進等に関する法律等に関する留意事項について(事業性融資の推進等に関する法律等ガイドライン)(案)」等のパブリックコメント手続 |
2025年4月25日 | 特許庁「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver2.2及びグロース戦略のポイントについてのパンフレット」の公表 |
2025年4月28日 | 「企業価値担保権付き融資の評価や引当の方法等に係る基本的な考え方について(案)」のパブリックコメント手続 |
2025年4月30日 | 「事業性融資の推進等に関する法律施行令(案)」および「企業価値担保権に関する信託業務に関する内閣府令(案)」等のパブリックコメント手続 |
2025年4月30日 | 経済産業省「共創パートナーシップ 調達・購買ガイドライン」の公表 |
2025年4月30日 | 総務省・厚生労働省・経済産業省「PHRサービス提供者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」の公表 |
2025年5月9日 | 「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則」の改正案の公表 |
2025年5月12日 | 金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正案の公表 |
2025年5月28日 | 「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」の成立 |
2025年6月4日 | 「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案」の成立 |
2025年6月4日 | 「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」および「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律案」の成立 |
編集代表:坂尾 佑平弁護士(三浦法律事務所)
「労働施策総合推進法」、「男女雇用機会均等法」および「女性活躍推進法」の改正法の成立
執筆:越場 真琴弁護士、菅原 裕人弁護士
2025年6月4日、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「本改正」といいます)が今国会で可決・成立し、同年6月11日に公布されました(令和7年法律第63号)。
本改正は、本連載第38回「2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「4 厚生労働省『女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について(建議)』の公表」にて解説した建議を踏まえた改正であり、カスタマーハラスメントや就活セクハラについての雇用管理上の措置義務が初めて定められたものとなります。
本改正の概要は以下のとおりです(厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案の概要」)。
項目 | 概要 | 施行日 |
---|---|---|
1 ハラスメント対策の強化
(労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法) |
①カスタマーハラスメント(※)を防止するため、事業主に対して雇用管理上必要な措置を義務付け、国が指針を示すとともに、カスタマーハラスメントに起因する問題に関する国、事業主、労働者及び顧客等の責務を明確化 ※ 職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境を害すること |
公布日から起算し1年6月以内 |
②求職者等に対するセクシュアルハラスメントを防止するため、事業主に対して雇用管理上必要な措置を義務付け、国が指針を示すとともに、求職者等に対するセクシュアルハラスメントに起因する問題に関する国、事業主および労働者の責務を明確化 |
公布日から起算し1年6月以内 | |
③職場におけるハラスメントを行ってはならないことについて国民の規範意識を醸成するため、啓発活動を行う国の責務を定立 |
公布日 | |
2 女性活躍の推進
(女性活躍推進法) |
①常時雇用する労働者の数が101人以上の一般事業主および特定事業主に対し、男女間賃金差異及び女性管理職比率の情報公表を義務付け |
2026年4月1日 |
②女性活躍推進法の有効期限(2026年3月31日まで)を2036年3月31日まで10年間延長 |
公布日 | |
③女性の職業生活における活躍の推進にあたり、基本原則において、女性の健康上の特性に配慮して行われるべき旨を明確化 |
公布日 | |
④ハラスメント対策について、政府が策定する女性活躍の推進に関する基本方針の記載事項の1つに位置付け |
公布日 | |
⑤女性活躍の推進に関する取組みが特に優良な事業主に対する特例認定制度の認定要件について、求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止に係る措置の内容を公表していることを追加 |
公布日から起算し1年6月以内 | |
⑥特定事業主行動計画に係る手続の効率化 | 2026年4月1日 | |
3 治療と仕事の両立支援の推進
(労働施策総合推進法) |
事業主に対し、職場における治療と就業の両立を促進するため必要な措置を講じる努力義務の新設及び当該措置の適切・有効な実施を図るための指針の根拠規定の整備 | 2026年4月1日 |
本改正については、衆議院で修正決議がなされ、雇用管理上必要な措置の例として、「労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置」が追加されました。また、政府において、特定受託事業者(いわゆるフリーランス)が受けた業務委託に係る業務における顧客等の言動に起因する問題に関する施策について検討をすることが決議されています 1。
本改正の詳細や実務上の影響については、弊所note記事「労働法UPDATE Vol. 21:労働法改正 Catch UP & Remind④ ~【速報】労働施策総合推進法の改正~カスハラ防止対策の義務化等」をご覧ください。
「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」および「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律案」の成立
執筆:菅原 裕人弁護士
2025年6月4日に、議員立法による「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」および「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律案」(以下、両法案を併せて「本改正」といいます)が参議院で審理され、可決・成立し、同年6月11日に公布されました(令和7年法律第60号、第61号)。
本改正は、ドライバーの担い手不足により、対策を何も講じなければ2030年には輸送能力が34%不足することから、物流の持続可能性の確保および国民経済の健全な発展を図るため、トラックドライバーの適切な賃金の確保とトラック運送業界の質の向上等を目的として貨物自動車運送事業法の改正を行い、それを担保するための新法として、貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律を制定するものです。
本改正の概要は次のとおりです(衆議院「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案 貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律案 概要」)。
貨物自動車運送事業法の改正概要
項目 | 概要 | 施行日 |
---|---|---|
① 許可の更新制度の導入 | トラック運送事業の許可について、5年ごとの更新制を導入 | 公布日から起算し3年以内 |
②「適正原価」を下回る運賃 |
トラック運送事業者は、自ら貨物を運ぶときや、他の事業者に運送を委託するときは、国土交通大臣が定める「適正原価」を継続して下回らないことを確保
|
公布日から起算し3年以内 |
③ 委託次数の制限 | トラック運送事業者および貨物利用運送事業者は、元請として運送を引き受ける場合、再委託の回数を2回以内に制限するよう努力義務化 | 公布日から起算し1年以内 |
④ 違法な「白トラ」に係る荷主等の取締り |
許可や届出なく有償で運送行為を行うトラック(いわゆる「白トラ」)の利用を禁止(罰則付)し、荷主等に対しては是正指導も実施 | 公布日から起算し1年以内 |
貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律の概要
項目 | 概要 | 施行日 |
---|---|---|
① 基本方針の策定 | トラック運送事業の許可の更新事務および貨物自動運送事業の事業適正化支援等を適切・効率的に実施できるよう独立行政法人に行わせる等必要な体制を整備(併せて財源措置を検討) | 公布日 |
② 法制上の措置等 | 政府は基本方針に基づき、必要な法制上の措置等を当該法律の施行後3年以内を目途として講じる | 公布日 |
③ 物流政策推進会議 | 政府は、物流に関する施策の総合的かつ集中的な推進を図るため、物流政策推進会議を設置し、推進会議の下に、連絡調整を行うための関係者会議を設置 | 公布日 |
2024年に物流改正法が成立した際に、貨物自動車運送事業法が改正されましたが、本改正は、その流れとして物流事業者である貨物自動車運送事業の適正化をさらに発展させるものとなります。
該当事業者については、本改正への対応に向けて準備を進めることになります。
改正GX推進法の成立
執筆:坂尾 佑平弁護士
2025年5月28日、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律」が参議院本会議で可決・成立し、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(GX推進法)の改正法(以下「改正GX推進法」といいます)が成立し、同年6月4日に公布されました(令和7年法律第52号)。
GX推進法は、2050年カーボンニュートラルの実現と経済成長の両立を目指し、GX(グリーン・トランスフォーメーション)を推進するものとして、2023年5月12日に成立しました。
改正GX推進法における主な改正点は、①排出量取引制度の法定化、②化石燃料賦課金の徴収、③GX分野への財政支援の3点です(経済産業省「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案の概要」)。
このうち、特に企業にとって重要性が高いのは、①排出量取引制度の法定化であると考えられます。
改正GX推進法の下では、年間の二酸化炭素の直接排出量が10万トン以上の事業者(脱炭素成長型投資事業者)は、排出量取引制度への参加を義務付けられ、二酸化炭素の排出量を排出枠の限度に収めることが必要となります(無償で割り当てられた排出枠を超過した場合には、排出枠の調達が必要となります)。また、脱炭素成長型投資事業者は、中長期の排出削減目標やその達成のための取組を記載した移行計画の策定・提出義務を課せられることになります。
その他、脱炭素成長型経済構造移行推進機構(GX推進機構)による排出枠取引市場の整備、価格安定化措置の導入といった改正も含まれています。
改正GX推進法は、一部の条項を除き、2026年4月1日から施行するとされているところ、事業者は施行日を見据えて適切に準備を進めることが望まれます。
改正資源有効利用促進法の成立
執筆:坂尾 佑平弁護士
2025年5月28日、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、「資源の有効な利用の促進に関する法律」(資源有効利用促進法)の改正法(以下「改正資源有効利用促進法」といいます)が同年6月4日に公布されました(令和7年法律第52号)。
資源有効利用促進法は、再生資源利用促進法の改正法であり、事業者による3R(リサイクル、リユース、リデュース)の取組を促進し、循環型経済システムの構築を目指すものとして、2000年12月に成立し、2001年4月に施行されました。
改正資源有効利用促進法における主な改正点は、①再生資源の利用義務化、②環境配慮設計の促進、③GXに必要な原材料等の再資源化の促進、および④サーキュラーエコノミーコマースの促進の4点です(経済産業省「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案の概要」)。
このうち、特に企業にとって重要性が高いのは、①再生資源の利用義務化であると考えられます。
改正資源有効利用促進法は、「脱炭素化再生資源」をその原材料として利用することを促進することが当該脱炭素化再生資源の有効な利用および当該製品の脱炭素化を図るうえで特に必要なものとして政令で定める製品を「指定脱炭素化再生資源利用促進製品」と位置付け、当該製品の生産量が一定規模以上の製造事業者等は、「脱炭素化再生資源」の利用に関する計画提出義務および定期報告義務が課されています。
その他、「脱炭素成長型投資事業者」(改正GX推進法34条1項)等の一定の事業者は、脱炭素化再生資源を製造し、または原材料として利用する努力義務が課されています。
改正資源有効利用促進法は、一部の条項を除き、2026年4月1日から施行するとされているところ、事業者は施行日を見据えて適切に準備を進めることが望まれます。
「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則」の改正案の公表
執筆:藤﨑 大輔弁護士
2025年5月9日、警察庁は、「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則」(以下「犯収法施行規則」といいます)の改正案の概要を公表しました 2。
行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の改正により、個人番号カード(マイナンバーカード)と同等の機能を有するカード代替電磁的記録をスマートフォンに搭載できることになったことを踏まえ、特定事業者による顧客等の本人特定事項の確認方法として、特定事業者または顧客等に対して取引関係文書を送付する者(郵便局員等)が顧客等からスマートフォンに搭載したカード代替電磁的記録を構成する電磁的記録の一部の送信を受けることなどによる方法が新たに規定されます(犯収法施行規則6条、12条)。
ハイリスク取引については、厳格な取引時確認が求められるところ(犯収法施行規則14条1項)、上記の新たな確認方法をハイリスク取引において用いる場合には、併せて同項2号ロに掲げる方法による確認が求められます。
また、確認方法の新設に伴い、確認記録の作成方法について、カード代替電磁的記録を構成する電磁的記録に係る情報またはその写しを確認記録に添付する方法が新たに規定されるとともに(犯収法施行規則19条)、確認記録の記録事項として、カード代替電磁的記録を構成する電磁的記録に係る情報の送信を受けた日付が新たに規定されます(犯収法施行規則20条)。
金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正案の公表
執筆:藤﨑 大輔弁護士
2025年5月12日、金融庁は、「保険会社向けの総合的な監督指針」(以下「監督指針」といいます)の改正案を公表しました。
金融庁では2024年、損害保険業における保険金不正請求事案および保険料調整行為事案を受け、顧客本位の業務運営の徹底および健全な競争環境の実現といった観点から、制度・監督上における必要な対応を検討するため、「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」および「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」が設置され、それぞれ報告書が公表されました(本連載第37回「2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「6 金融審議会『損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ』報告書の公表」もご参照ください)。
両報告書において、監督指針の早急な改正に対する期待が示されたことを踏まえるとともに、近時の情報漏えい事案 3 への迅速な対応を図るため、以下の事項について改正を行うものです。
項目 | 概要 | 監督指針 |
---|---|---|
損害保険会社による保険代理店に対する指導等の実効性の確保 | 保険会社において、保険代理店に対する指導等が適切に行われるよう実効性を確保しているかという点が監督上の評価項目として示されています。 | Ⅱ-4-2-1 |
保険代理店等に対する過度な便宜供与の防止 | 保険代理店等に対する過度の便宜供与を防止するために整備すべき態勢や、便宜供与が過度なものであるか否かの判断基準が示されています。 | Ⅱ-4-2-12 |
保険代理店等に対する不適切な出向の防止 | 保険代理店への出向は、過度の便宜供与として機能するおそれがあること、顧客情報等の不適切な共有が行われる可能性があることを踏まえ、出向の適切性を担保するために整備すべき態勢や、出向の適切性を判断する際の留意事項が示されています。 | Ⅱ-4-2-13 |
代理店手数料の算出方法適正化 | 代理店手数料について、保険代理店に不適切なインセンティブを与えることがないよう、算出方法の留意事項が示されています。 | Ⅱ-4-2-14 |
顧客等に関する情報管理態勢の整備 | 顧客等に関する情報へのアクセスおよびその利用は業務遂行上の必要性のある役職員に限定されるべきという原則(Need to Know原則)が示されています。 | Ⅱ-4-5-2 |
政策保有株式の縮減 | 損害保険業界において、政策保有株式の実績がシェアに影響を及ぼしており、適正な競争を阻害する要因となり得ることから、政策保有株式を早期に縮減する方針を定めているかという点が着眼点として示されています。 | Ⅱ-4-12 |
仲立人の媒介手数料の受領方法の見直し | 企業分野の保険契約とそれ以外の保険契約について、それぞれ顧客または保険会社等に手数料を請求する場合に遵守すべき事項が示されています。 | V-4-4 |
「事業性融資の推進等に関する法律」に係る施行令、内閣府令、ガイドライン等の公表
執筆:所 悠人弁護士
無形資産を含む事業全体を担保とする制度(企業価値担保権)を創設するために、2024年6月に成立した「事業性融資の推進等に関する法律」(以下「事業性融資推進法」といいます)に関して、近時、以下の動きがありました。
- 「事業性融資の推進等に関する法律等に関する留意事項について(事業性融資の推進等に関する法律等ガイドライン)(案)」等のパブリックコメント手続(2025年4月18日~5月19日)および結果の公表(2025年5月30日)
- 「企業価値担保権付き融資の評価や引当の方法等に係る基本的な考え方について(案)」のパブリックコメント手続(2025年4月28日~5月30日)
- 「事業性融資の推進等に関する法律施行令(案)」および「企業価値担保権に関する信託業務に関する内閣府令(案)」等のパブリックコメント手続(2025年4月30日~5月28日)
事業性融資推進法の施行については2026年春頃を目指すことが公表されているため、施行に向けた手続が本格化しているといえます。今回は、紙面の関係から、上記②および③の内容のうち実務上特に重要と考えられるポイントを紹介します。
なお、企業価値担保権に関する解説については、本連載第15回「2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向」の「2 金融審議会『事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ』の報告」および第29回「2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「4 2024年通常国会において成立した金融関連の法律」もご参照ください。
「企業価値担保権付き融資の評価や引当の方法等に係る基本的な考え方について(案)」
企業価値担保権に関し金融機関から寄せられた疑問に対し、金融庁の基本的な考え方を以下のとおり整理したものです。
- 企業価値は大きく変動し得るものであり、換価した場合の金額を前もって予測することも困難であるため、「一般担保」として取り扱うことは一般的に非常に難しい。
- 他方、融資の損失可能性を適切に評価するという貸倒引当金の趣旨に鑑みれば、企業価値担保権付きの融資を無担保融資と同じ扱いとすることはおよそ合理的でない。
- 企業価値担保権は、借り手が総財産に一体として担保設定することにより、貸し手との間において特別に緊密な関係を構築することを法的な裏付けをもって可能とする制度であり、これを前提として、貸し手が借り手の経営実態等を適切に把握し、両者間の「情報の非対称性」を軽減することにより、事業性に着目した融資に一層取り組みやすくなることが期待されている。
- 企業価値担保権が設定されている場合には、借り手と貸し手の「情報の非対称性」を軽減できるだけでなく、貸し手には従来型の融資にはみられない各種の権限があることから、債務者区分・格付の判定や引当の算出において、将来情報や定性情報を適切に考慮できる前提条件が満たされていると考えられる。
具体的な将来情報や定性情報の反映方法についても例示されていますが、そのうえで各金融機関における検討が期待されています。
また、最終的に金融庁としては、各金融機関が自らの経営方針や融資戦略に則って定めた融資の管理や評価等のルールを尊重しつつ、その運用実態、事後的な検証の結果に照らしたルールの見直しの要否等について、継続的に対話を行うものとされています。
事業性融資の推進等に関する法律施行令(案)
同施行令の内容は多岐にわたりますが、特に2条に定められる不特定被担保債権留保額に関する内容が重要といえます。
企業価値担保権が設定された場合、担保権者は借り手の総財産から優先的に弁済を受けられることとなりますが、他方で、事業の成長・継続に不可欠な利害関係者との調和を図るため、(i)担保権実行時に商取引債権・労働債権等の優先的な弁済を認める仕組み、(ii)担保権実行手続終了後に予定されている破産手続等における費用等の原資を確保するために、担保目的財産の換価代金から破産手続等の公正な実施のために必要と見込まれる金額を留保する仕組みが採用されています。
不特定被担保債権留保額は当該(ii)の仕組みにおいて留保される金額を指します。
具体的な金額については、金融庁が2025年4月30日のパブリックコメント手続の中で公表した「(参考)事業性融資の推進等に関する法律施行令第1条・第2条等に係る考え方」5頁の図表をご参照ください。
オープンイノベーション促進のためのモデル契約、ガイドライン等の公表
執筆:所 悠人弁護士
スタートアップにおけるオープンイノベーションを促進するため、①2025年4月25日に特許庁から「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver2.2及びグロース戦略のポイントについてのパンフレット」が公表され、また、②同月30日に経済産業省から「共創パートナーシップ 調達・購買ガイドライン」が公表されましたので、ご紹介いたします。
①のモデル契約書は、研究開発型スタートアップと事業会社が連携交渉する際に留意すべきポイントについて解説したもので、契約当事者の分類、研究開発の対象、契約種別ごとのモデル契約書が公開されています。今回の2025年4月改訂(ver2.2)では、事業会社によるスタートアップのM&Aを阻害する可能性のある条項や解説を見直し、M&Aを促進する内容が追加されており、ディープテック・スタートアップにとってのグロース戦略として、M&Aがより現実的かつ選択しやすいものとなることが目指されています。
②のガイドラインは、事業会社によるスタートアップの製品やサービスの調達・購買を通した共創を促進するため、望ましい在り方(プロセスや推進体制)等を解説するものです。また、また、ガイドラインの活用を促進するため、実務的な内容を含むモデル契約書等も公開されています。
いずれもスタートアップが事業会社と連携してオープンイノベーションを目指していくにあたり、非常に有用なものとなっています。
PHRサービス提供者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針の公表
執筆:南 みな子弁護士、小倉 徹弁護士
2025年4月30日、総務省、厚生労働省および経済産業省から、「PHRサービス提供者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」(以下「本指針」といいます)が公表されました。
本指針は、「民間PHR事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」を改定した指針であり、改定に伴い、名称も改められました。今回の改定では、主に、クラウド上でPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)を用いたサービスを提供する者が健診等情報を取り扱う際に遵守すべき情報セキュリティ対策等について改定されています。
今回新たに追加された内容のうち、特に民間企業にとって重要であると考えられる内容は以下のとおりです。
項目 | 概要 | 本指針 |
---|---|---|
① 対象範囲の拡大 | PHRサービス提供者から、PHRサービスの提供に係るシステムの開発を請け負う事業者が本指針の対象となった。 | 1.2. Q1-12 4 |
② 安全管理措置 |
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2.1.(2)① 2.1.(2)② |
③ 個人情報の消去・ |
PHRサービス提供者は、事業終了等により健診等情報の利用の必要がなくなった場合または本人の求めがあった場合には、当該PHRサービス提供者が管理している健診等情報(管理を委託されている場合を含む)を消去しなければならない。 | 3.3.(1)③ |
PHRの利活用が期待される一方で、その取扱いを誤った場合には個人の権利や利益が損なわれるおそれがあるため、本指針に則った適切な情報管理と運用が望まれます。
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「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案に対する修正案」 ↩︎
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金融庁「損害保険会社4社に対する行政処分について」(令和7年3月24日) ↩︎
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総務省・厚生労働省・経済産業省「PHRサービス提供者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針に関するQ&A」(2025年4月改定) ↩︎
シリーズ一覧全45件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向