Legal Update

第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント

法務部

目次

  1. 職業安定法の改正
    1. 改正の主なポイント
    2. 改正の背景・趣旨
  2. 「OSSの利活用及びそのセキュリティ確保に向けた管理手法に関する事例集」の拡充
  3. 限定提供データに関する指針改訂
  4. タイ王国における発電所建設に関する外国公務員への贈賄事件(不正競争防止法違反)の最高裁判決(最高裁令和4年5月20日判決)

 2022年3月31日、「雇用保険法等の一部を改正する法律案」が第208回通常国会で成立しました。同法案の一部において、「職業安定法」が改正されており、同年6月10日には関連する省令および指針の改正もなされました。本改正は、主に就職や転職での主要なツールとなっている求人メディア等のマッチング機能の質の向上を目的とするものです。

 また、同年5月10日には、「OSSの利活用及びそのセキュリティ確保に向けた管理手法に関する事例集」の拡充が行われました。新たに5つの企業・組織における管理手法の事例が追加され、取組みのポイントが紹介されています。

 さらに、同年5月17日、改訂版「限定提供データに関する指針」が公表されました。改訂では、①制度の施行後、限定提供データの利活用が進む中で解釈の明確化等の要請があった論点、②今後、利用が増加すると考えられるデータ流通プラットフォームを運営する取引事業者が、限定提供データ保護制度を踏まえて事業設計する際の論点について、見直しがなされています。

 裁判例の動向としては、同年5月20日、発電設備メーカーのタイ王国における発電所建設に関する外国公務員への贈賄事件に関して最高裁判決が出され、同社の元取締役常務執行役員エンジニアリング本部長に関し、不正競争防止法違反(外国公務員贈賄罪)の共謀共同正犯としての有罪判決が確定しました。本判例は、役員の共謀共同正犯の成否という論点に関する1つの事例判決として参考になります。

 編集代表:坂尾 佑平弁護士・渥美 雅之弁護士(三浦法律事務所)

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2022年3月31日 職業安定法の改正を含む「雇用保険法等の一部を改正する法律案」が第208回通常国会で成立
2022年5月10日 「OSSの利活用及びそのセキュリティ確保に向けた管理手法に関する事例集」の拡充
2022年5月17日 改訂版「限定提供データに関する指針」公表
2022年5月20日 タイ王国における発電所建設に関する外国公務員への贈賄事件(不正競争防止法違反)の最高裁判決
2022年6月10日 職業安定法の改正に関連する省令および指針の改正

職業安定法の改正

 執筆:菅原 裕人弁護士、大村 剛史弁護士

改正の主なポイント

 2022年3月31日、「雇用保険法等の一部を改正する法律案」が第208回通常国会で成立しました。同法案の一部において、「職業安定法」が改正されており、同年6月10日には関連する省令(職業安定法施行規則)および指針の改正もなされました。
 本改正は、主に就職や転職での主要なツールとなっている求人メディア等のマッチング機能の質の向上を目的とするものです。改正の主なポイントは以下のとおりであり、2022年10月1日に施行されます。

改正の概要

  1. 改正前の職業安定法において規定されていなかった新たな形態の求人メディア(ネット上の公表情報を収集する求人メディア等)について、「募集情報等提供」の定義を改正し、募集情報提供事業として規制の対象にした(改正職業安定法4条6項1号等)。

  2. 募集情報等提供事業者に対し、募集情報等の正確性や最新性を保つための措置、個人情報保護、苦情処理体制の整備等を義務付け、改正前から規定されている助言・指導に加え、改善命令等による指導監督を可能とした(改正職業安定法5条の4、改正職業安定法施行規則4条の3。改正職業安定法48条の3等)。
    特に求職者情報を収集する募集情報等提供事業者は事前に届出を行うこととし、迅速な指導監督を可能とした(改正職業安定法43条の2以下)。

改正の背景・趣旨

 本改正の背景・趣旨は次のとおりです。
 改正前の職業安定法において、「募集情報提供事業」を規制していたものの、インターネット上のマッチングサービスのような事業については、現行法上、線引きがあいまいな事業や規定上対象とならないような事業が多く存在し、明確に適用対象として判断することが難しいケースが多くみられました。

 そのため、本改正では、これらの新たな形態サービスも含まれるよう「募集情報提供」の定義を拡大するとともに、併せて、求職者情報を収集して募集情報提供事業を行う者(特定募集情報提供事業者)として届出制にし、事業概況の報告をさせる形としました。

 また、募集情報等提供について、改正前は「指針」でルールが定められていましたが、この違反に対して行政処分の対象とはなっていませんでした。本改正では、募集情報等提供事業者について、以下の規制を設けることになりました。

  • 募集情報等について的確表示(虚偽または誤解を生じさせる表示を禁止し、最新かつ正確な内容に保つための措置を講じること)を義務付けること
  • 迅速・適切な苦情処理を義務付けること
  • 個人情報の保護や秘密保持を義務付けること
  • 法令違反に対する改善命令等を可能とすること

 本改正によって、現在、求人のマッチングサービスを行う企業には大きな影響があり、施行日である2022年10月1日に向けて改正法による規制への対応を行う必要があります。なお、特定募集情報提供等を行っている場合に、特定募集情報提供事業者としての届出については、経過措置として同年12月31日まで猶予されています(改正職業安定法附則5条1項)。また、職業紹介事業者と募集情報提供事業者の区別に関しても、指針上、あいまいであった部分について、より明確的な内容に変更されたため、その点も改めて検討が必要です。

 また、本改正では、求人情報を出す企業も「労働者の募集を行う者」として、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をすることの禁止や、募集内容を正確かつ最新のものに保つ義務が明確に定められることとなりましたので(改正職業安定法5条の4)、労働者の募集を行う企業側においても、よりいっそう募集内容の正確性に気を付ける必要が生じました。

「OSSの利活用及びそのセキュリティ確保に向けた管理手法に関する事例集」の拡充

 執筆:小倉 徹弁護士

 2022年5月10日、「OSSの利活用及びそのセキュリティ確保に向けた管理手法に関する事例集」(以下「本事例集」といいます)の拡充が行われました。本事例集は、多くの企業がオープンソースソフトウェア(OSS。ソフトウェアのソースコードが無償で公開され、利用や改変、再配布を行うことが誰に対しても許可されているソフトウェアを意味します)を含むソフトウェアの管理手法、脆弱性対応等に課題を抱えている現状を踏まえ、産業界での知見の共有が有効であるとの考えから、OSSを利活用するに当たって留意すべきポイントを整理し、そのポイントごとに各種事例を取りまとめたものです。

 本事例集は、2021年4月に公表されたものであるところ、今回、新たに5つの企業・組織における管理手法の事例が追加され、以下のとおり取組みのポイントが紹介されています

観点 取組みのポイント等
選定評価
  • OSSの選定基準の明確化(使用可能・不可能なOSSのリスト化、使用するOSSに関するポリシーの策定)
  • 専門知識を持ったメンバーによる上記リスト・ポリシーのレビュー・メンテナンス等
ライセンス
  • OSSのライセンスの内容を組織として把握し、対応要件を遵守可能か等の観点から審査すること
  • ワークフローの中で法務部門がレビューする機会を設けること
脆弱性対応
  • ソフトウェア部品構成表(SBOM)の活用
保守、品質保証
  • End of Life(EOL)の時期の管理
  • 保守可能なディストリビュータを介したOSSの調達
  • 社内人材でワークアラウンドできるOSSの使用をルール化すること
サプライチェーン管理
  • 使用するOSSの申告をサプライヤや委託先との契約等の中で義務づけること
  • OpenChain(サプライチェーン全体にわたって OSS コンプライアンスを実現する業界標準の作成・普及を目的としたLinux Foundation のプロジェクト)の自己認証取得や OpenChainを通じた情報共有・発信
個の能力、教育
  • 社員のOSSに対するリテラシー向上のための教育メニューの整備(OSSの利活用啓発、OSSを利用した開発の進め方、ライセンスコンプライアンス対応等)
組織体制
  • 自社の各製品・サービスの事業環境を踏まえた企業内・グループ内の各部署との適切な連携体制の構築
コミュニティ活動
  • 社員のコミュニティ活動への参加の後押し(社員のコミュニティ活動を業務の範囲として扱うこと、コミュニティ参加に関するガイドラインを整備すること等)

 本事例集は、OSSの利活用およびそのセキュリティ確保について、他社の事例を把握し、自社での対応を検討するために有益な資料となっています。

限定提供データに関する指針改訂

 執筆者:西川 喜裕弁護士

 2022年5月17日、改訂版「限定提供データに関する指針」(以下「本指針」といいます)が公表されました。本指針は、平成30年の不正競争防止法改正において導入された「限定提供データ」の保護制度に関し、産業構造審議会不正競争防止小委員会(以下「不正競争防止小委員会」といいます)において、限定提供データとして保護される「各要件の考え方、該当する行為等の具体例を盛り込んだわかりやすいガイドラインを策定すべき」との指摘等を踏まえ、策定されたものです。
 本指針は法的拘束力を持つものではありませんが、不正競争防止小委員会の審議を経て策定されたものであり、実務上参考になります。

 今回の改訂は、①制度の施行後、限定提供データの利活用が進む中で解釈の明確化等の要請があった論点、②今後、利用が増加すると考えられるデータ流通プラットフォームを運営する取引事業者(以下「PF・取引事業者」といいます)が、限定提供データ保護制度を踏まえて事業設計する際の論点について、見直しがなされています。

 主な改訂ポイントの概要は以下のとおりです。本指針は、限定提供データの利活用や運用状況を見つつ、適時適切に見直しを行っていくものとされています。

限定提供データに関する指針の主な改訂ポイント

客体要件 ①「業として」の趣旨および要件の明確化
改訂前は、「営業秘密」と「限定提供データ」による保護は両立しないようにも解しうる記載がされていたところ、該当箇所が修正され、実務上、両制度による保護の可能性を見据えた管理を行うことは否定されない旨が明記されました。また、「業として」の要件として反復継続して提供していることまでは求められず、事業の遂行・一環として行われている程度のものでよいとされています。
②「提供」要件の明確化
改訂前は「提供」要件について明確な解説がなかったところ、解説とともに具体例が追記されています。
③「電磁的管理」の対象と社内管理の明確化
社内でのデータの取扱いに際して電磁的管理がなされていないことにより「電磁的管理」の要件が否定されることはなく、「データを提供する際に」電磁的管理が施されている必要があると明記されました。
正当取得型 ④「任務違背」の具体例追記
ライセンス契約について、「限定提供データの管理に係る任務」が認められうる場合の具体例が追記されました。
転得類型 ⑤ 転得類型における「悪意」
PF・取引事業者によって付与された来歴情報を信頼した場合、「悪意」には該当しないと考えられる旨が追記されました。
⑥ 転得類型とデータの同一性
転得したデータを用いて加工情報を作成し、当該加工情報を第三者に開示する場合、転得したデータと開示するデータとが実質的に同一の情報にあたらなければ、不正競争に該当しない(限定提供データの侵害ではない)旨が追記されました。
その他 ⑦「請求権者」
改訂前は請求権者について明確な解説がなかったところ、PF・取引事業者や委託者が請求権者になりうる場合について明記されました。

 

タイ王国における発電所建設に関する外国公務員への贈賄事件(不正競争防止法違反)の最高裁判決(最高裁令和4年5月20日判決)

 執筆:坂尾 佑平弁護士

 2022年5月20日、発電設備メーカー(以下「本件会社」といいます)のタイ王国における発電所建設に関する外国公務員への贈賄事件(以下「本事案」といいます)に関し、最高裁判決が出され、同社の元取締役常務執行役員エンジニアリング本部長(以下「元取締役」といいます)に関し、不正競争防止法違反(外国公務員贈賄罪)の共謀共同正犯としての有罪判決が確定しました(最高裁令和4年5月20日判決)。

 本事案の概要は以下のとおりです。

  • 本件会社がタイ王国において遂行していた火力発電所建設工事に関して現地に建設した仮桟橋に、火力発電所建設関連部品を積載した総トン数500トンを超えるはしけ3隻を接岸させて貨物を陸揚げする予定であった。

  • 同仮桟橋は、総トン数500トン以下の船舶の接岸港として建設許可されたものであったため、タイ運輸省港湾局第4地方港湾局ナコンシータマラート支局長として同郡における桟橋使用禁止等を命ずる権限を持つ外国公務員から許可条件違反となる旨指摘され、貨物を陸揚げできなかった。

  • 2015年2月10日、および同月13日に、執行役員兼調達総括部長および調達総括部ロジスティクス部長が元取締役(当時は取締役常務執行役員エンジニアリング本部長)との間で、会議を行った。

  • 2015年2月17日頃、執行役員兼調達総括部長らは、当該外国公務員に対し、正規の手続によらずに前記許可条件違反を黙認して本件はしけの仮桟橋への接岸および貨物の陸揚げを禁じないなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に、本件会社の下請業者の従業員を介し、現金1100万タイバーツ(当時の円換算3993万円相当)を供与した。

  • 外国公務員への贈賄が不正競争防止法に違反するものとして、元取締役ら3名が起訴された。

 元取締役は、外国公務員への現金の供与について了承したことはなく、共謀は存しないと主張し、元取締役の共謀共同正犯の成否が争点となりました。

 第1審判決(東京地裁令和元年9月13日判決・金判1581号42頁)は、2015年2月13日の会議において元取締役が「仕方ないな」などと言って現金供与を了承したと認定し、元取締役らの共謀を認定し、元取締役に共謀共同正犯が成立するとして有罪判決(懲役1年6月、執行猶予3年)を下しました。

 しかし、控訴審判決(東京高裁令和2年7月21日判決・判例集未掲載)においては、「三者のみの二度にわたる会議の席上、本件供与という重大な意思決定につき、被告人が『仕方がないな』との一言しか言及していないのは、いささか不自然な感を免れないことを考慮すると、多分に疑問の余地があり、被告人が本件供与を積極的に容認する意思で『仕方がないな』と発言したとみることには、合理的な疑いを挟む余地がある」等の理由で、共謀を認定した第1審判決に事実誤認があるとしつつ、元取締役は取締役として、直属の部下以外の従業員の活動に関しても監督義務を負うべき立場として贈賄を阻止しなければならない職務上の地位にあったにもかかわらず、「明確に反対する意思を示さず、事実上これを黙認するような上記言動をとった」ことは現金の供与の実現を精神的に容易にするものであったといえる等の理由で、幇助犯の成立は認め、元取締役を罰金250万円に処する旨を判示しました。
 これに対し、検察側・元取締役側双方が上告しました。

 上告審は、概要、以下の認定をした上で控訴審判決を破棄し、元取締役に共謀共同正犯が成立すると結論付け、懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決とした第1審判決が確定しました。

  • 共謀の有無の認定に当たり重要なのは、執行役員兼調達総括部長らが元取締役から本件供与の了承を得るため二度にわたり設定した会議で、元取締役が「本件供与を了承したといえるか否か」である。

  • 元取締役が現金の供与を了承したとされる時点に関し、執行役員兼調達総括部長は2015年2月13日の会議、調達総括部ロジスティクス部長は同月10日の会議と述べているが、両者の各供述は、いずれも、元取締役から、本件会議において本件供与についてその実行がやむを得ないという意味で「仕方ないな。」という発言があり、本件供与の実行に了承が得られたとするものであって、核心部分に齟齬があるとはいえず、控訴審判決の指摘は、被告人が本件会議において本件供与を了承したと認めた第1審判決の不合理性を十分に示したものとはいえない。

  • 第1審判決は、元取締役の地位および立場を前提とした上で、元取締役が本件供与に関して相談を受けるに至った経緯、その相談に対する元取締役の言動、元取締役への相談後に本件供与が実行されたという経過といった諸事情を総合考慮して、被告人は本件供与を了承したものであり、これを実行するという意思決定に関与したといえることをもって共謀の成立を認めたと解されるのであるから、控訴審判決が、共謀を基礎付ける事実関係となる上記の諸事情に対する評価を十分示さないまま、主として本件供与を積極的に容認する意思の有無という観点から第1審判決の不合理性を指摘しようとしていること自体、相当ではない。

  • その他、控訴審判決の指摘を個別にみても、第1審判決の不合理性を十分に示したものとはいえない。

  • 以上より、現金の供与に関する共謀の成立を認めた第1審判決に事実誤認があるとした控訴審判決は、第1審判決について、論理則、経験則等に照らして不合理な点があることを十分に示したものとは評価することができない。

 本事案については、2018年6月に導入された「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」の初めての適用事例として注目されていましたが 1、本判例は、役員の共謀共同正犯の成否という論点に関する1つの事例判決として参考になります。


  1. 2018年7月14日付け日本経済新聞「司法取引を初適用 東京地検、海外贈賄で企業免責」 ↩︎

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