Legal Update

第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向

法務部

シリーズ一覧全45件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  45. 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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目次

  1. タックス・ヘイブン税制の適用に関する最高裁判決(最高裁(二小)令和5年11月6日判決)
  2. 労働条件明示等に関するQ&A・モデル労働条件通知書の公表(2024年4月施行:労働基準法施行規則等の改正)
  3. 厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」の公表
  4. スポーツ庁「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」の改定
  5. 知的財産戦略本部「AI時代の知的財産権検討会」の開催
  6. 金融庁「中小企業の事業再生等に関するガイドライン事例集」の公表

 2023年11月6日、タックス・ヘイブン税制の適用に関する最高裁判決が示されました。本事件は、原告であるX銀行が、X銀行においてタックス・ヘイブン税制の適用対象となった外国子会社であるSPCの利益の配当を受けることは想定されておらず、租税回避の目的や実態がないと主張し、このような場合に、タックス・ヘイブン税制を適用して課税することが許されるのかが争点の1つとなっていました。


 同年10月12日、厚生労働省は、労働基準法施行規則等の改正(2023年3月改正・2024年4月施行予定)に伴い、労働条件明示のルールが改正されることに関するQ&Aやモデル労働条件通知書を公表しました。2024年4月以降の本改正に基づく労働契約の締結や有期労働契約の更新の対応を検討するうえで参考になります。

 同年9月27日、厚生労働省は、「年収の壁・支援強化パッケージ」を公表しました。パート・アルバイトとして働く短時間労働者が、「年収の壁」を意識せずに働ける環境づくりを後押しするための支援策が挙げられています。企業がこれらの支援策を活用して人手不足解消につながることが期待されます。

 同年9月29日、スポーツ庁は、「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」を改定しました。スポーツ界と社会の変化や国民のスポーツに対する期待の高まりなどを踏まえ、ガバナンスコードの見直しが行われました。13の原則について変更はありませんが、よりガバナンスコードの実効性を確保するため、いくつかの記載が見直されています。

 政府の知的財産戦略本部は、同年10月から「AI時代の知的財産権検討会」の開催を開始しました。本検討会では、「生成AIと知財をめぐる懸念・リスクへの対応等について」、「AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方について」といった検討課題が提示されています。本検討会での検討の結果は将来の法令改正等につながる可能性があることから、動向を注視していく必要があります。

 同年10月17日、金融庁は、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン事例集」を公表しました。2022年3月公表の「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」が金融機関によって積極的に活用されることが推進されている中、本事例集は、金融機関におけるガイドラインの活用事例や個別具体的なケースに即したポイント解説がとりまとめられています。

 編集代表:磯田 翔弁護士(三浦法律事務所)

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2023年9月27日 厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」の公表
2023年9月29日 スポーツ庁「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」の改定
2023年10月4日 知的財産戦略本部「AI時代の知的財産権検討会」の開催
2023年10月12日 厚生労働省 2024年4月施行の法改正に係る「労働条件明示等に関するQ&A」
「モデル労働条件通知書」の公表
2023年10月17日 金融庁「中小企業の事業再生等に関するガイドライン事例集」の公表
2023年11月6日 タックス・ヘイブン税制の適用に関する最高裁判決(最高裁(二小)令和5年11月6日判決)

タックス・ヘイブン税制の適用に関する最高裁判決(最高裁(二小)令和5年11月6日判決)

 執筆:迫野 馨恵弁護士、山口 亮子弁護士

 2023年11月6日、タックス・ヘイブン税制(以下「TH税制」といいます)の適用に関する最高裁判決が示されました(最高裁(二小)令和5年11月6日判決)。
 TH税制とは、外国子会社を利用した租税回避を防止するために、一定の条件に該当する外国子会社の所得を日本の親会社の所得とみなして合算し、日本で課税する制度です。
 本事件では、原告である銀行(以下「X銀行」といいます)は、X銀行においてTH税制の適用対象となった外国子会社であるSPCの利益の配当を受けることは想定されておらず、租税回避の目的や実態がないと主張しており、このような場合に、TH税制を適用して課税することが許されるのかが争点の1つとなっていました。

 最高裁までの経緯は、以下の表のとおりです。

地裁判決
(東京地裁令和3年3月16日判決)
課税処分は適法
条文で規定する要件とは別に、租税回避の目的や実態の有無等を適用除外の要件と解することはできない
高裁判決
(東京高裁令和4年3月10日判決)
課税処分は違法
X銀行がSPCの利益から剰余金の配当等を受け得ることは想定されておらず、内国法人が外国子会社の利益から剰余金の配当等を受け得る支配力を有するというTH税制の合算課税の合理性を基礎付け、正当化する事情は見いだせないし、租税回避の目的や事態が生じていると評価すべき事情もない

 このように、地裁判決と高裁判決が、条文上、明文の要件とはされていない租税回避の目的や実態の有無に関する判断により結論を異にすることとなったことから、最高裁の判断が注目されていました。

 最高裁は、高裁判決を破棄し、X銀行の逆転敗訴となりました。
 高裁判決では、本事案における剰余金の配当等に関する状況を踏まえると、形式的に政令を適用し課税することはTH税制の趣旨に反すると判断していましたが、最高裁は、剰余金の配当等に係る個別具体的な状況を問題とすることなく、日本の親会社に合算される所得が計算されて課税が行われたとしても、TH税制において予定されていないような事態が生ずるとはいえないと判断しています。

 その他、最高裁判決や本事件の詳細については、弊所のNote記事「税務UPDATE Vol.19:【速報】タックス・ヘイブン税制の適用に関する最高裁判決~租税回避の実態は考慮されるのか~」をご参照ください。

労働条件明示等に関するQ&A・モデル労働条件通知書の公表(2024年4月施行:労働基準法施行規則等の改正)

 執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士

 2023年3月、労働基準法施行規則等が改正され(以下「本改正」といいます)、労働者に対して明示すべき労働条件の内容が変更されました(同規則5条)。本改正は2024年4月から施行が予定されており、施行後、会社は以下のような事項を労働者に明示する必要があります(厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」も参照)。

対象 明示のタイミング 新しく追加される明示事項
すべての労働者 労働契約の締結時
有期労働契約の更新時
就業場所の変更の範囲
および
従事すべき業務の変更の範囲
有期契約労働者
上記に加えて
有期労働契約の締結時および更新時 更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)を設ける場合にはその内容

なお、最初の有期労働契約の締結後に更新上限を新設・短縮する場合は、その理由を労働者にあらかじめ説明することが必要 ※2
労働契約法18条に定める無期転換権を行使できることとなる有期労働契約の更新時 ※1 無期転換申込みに関する事項
および
無期転換後の労働条件

なお、無期転換後の労働条件を決定するに当たり、就業の実態に応じて、正社員等とのバランスを考慮した事項について、有期契約労働者に説明するよう努めることが必要 ※2

※1 初めて無期転換権が発生する有期労働契約の期間満了後に有期労働契約を更新する場合には、更新のたびに明示が必要。


※2 いずれも、本改正において労働基準法施行規則と併せて行われた告示(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準)の改正に基づく。



 そして本改正に関し、今般、「労働条件明示等に関するQ&A」(以下「本Q&A」といいます)が公表され、本改正に合わせて「モデル労働条件通知書」も示されました。

 本Q&Aでは、まず本改正の適用範囲として、施行日である2024年4月1日以降に締結される労働契約に適用されるものであり、既に雇用されている労働者に対して改めて労働条件を明示する必要はない旨が示されています(本Q&A1)。これは、労働契約の始期(入社日)が2024年4月1日以降であったとしても同様であり、労働契約の締結自体が同年3月以前に行われている場合には、本改正に基づく新たな労働条件明示は不要とされています(本Q&A2)。

 そのほか、厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」には、本改正に基づく新たな明示事項の詳細や、モデル労働条件通知書の項目に関するQ&Aも掲載されており、会社において2024年4月以降の本改正に基づく労働契約の締結や有期労働契約の更新の対応を検討するうえで参考になります。

厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」の公表

 執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士

 2023年9月27日付けで、「年収の壁・支援強化パッケージ」(制度の概要については、「『年収の壁』への当面の対応策(概要)」を参照。以下「本パッケージ」といいます)が公表され、厚生労働省においても、本パッケージの紹介ホームページが開設されました。

 これまで、会社員の配偶者等がパートタイムなどで就業している場合、一定の収入までは社会保険料の負担が生じない一方、収入が増加し一定の水準を超えると、社会保険料の負担が生じるためにかえって手取り収入が減少することから、これを回避する目的で働き方を調整することが行われてきました。
 たとえば、従業員数が100人を超える企業に週20時間以上勤務する方の場合は、年収106万円、それ以外の場合は年収130万円が基準となり、このような収入基準はいわゆる「年収の壁」(「106万円の壁」「130万円の壁」)と呼ばれていました。

 「年収の壁」に起因する働き控えについては、同年6月13日付けで閣議決定された「『こども未来戦略方針』~次元の異なる少子化対策の実現のための『こども未来戦略』の策定に向けて~」においても言及され、人手不足への対応が急務となる中で、「年収の壁」を意識せずに働くことができる環境づくりを後押しするための支援強化パッケージを決定・実行することが指摘されており、これを受けて本パッケージが公表されています。

 具体的には、以下のような支援策が挙げられています。

(1)「106万円の壁」への対応
  1. キャリアアップ助成金のコースを新設し、短時間労働者が厚生年金保険・健康保険の適用による手取り収入の減少を意識せずに働くことができるよう、労働者の収入を増加させる取組みを行った事業主に対し、労働者1人当たり最大50万円の支援を実施する。
  2. 事業主が支給した社会保険適用促進手当について、新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限として、被保険者の標準報酬の算定において考慮しないこととする

(2)「130万円の壁」への対応
繁忙期などにおける収入の増加によって、国民年金・国民健康保険の社会保険料負担が生じる場合において、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である旨を事業主が証明することにより、引き続き社会保険料負担が生じないようにする。

 その他の詳細は、厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」に掲載されており、上記の支援策のほか、企業における配偶者手当の見直しについても言及されています。
 企業としては、これらの制度を活用しつつ、「年収の壁」への対応を進めていくことにより、人手不足解消の一助となることが期待されます。

スポーツ庁「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」の改定

 執筆:中村 朋暉弁護士、坂尾 佑平弁護士

 2023年9月29日、スポーツ庁は、「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」を改定しました(以下「本改定」といいます)。

 そもそも、スポーツ団体ガバナンスコードには2種類あり、2019年6月10日付けで「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」が、同年8月27日付けで「スポーツ団体ガバナンスコード<一般スポーツ団体向け>」が策定・公表されていましたが、今回は、前者の中央競技団体向けコードについて改定がなされています。

 本改定の概要については、スポーツ庁の「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>の見直しの概要」と題する公表資料に記載されており、本改定の理由については、以下の2点が挙げられています。

  • スポーツ界と社会の状況の変化や東京大会・北京大会等の開催によりスポーツへの期待が高まっている一方で、依然としてスポーツの価値を脅かす不祥事事案が発生
  • 2023年度にはコードに基づく全中央競技団体への適合性審査が一巡することから、これまでの課題であったコードの実効性の確保の観点から見直しを実施

 また、本改定において、既存の13の原則について変更はなされていませんが、実効性確保の観点から、以下のとおり記載の見直しがなされています。

  • 社会の変化やスポーツに対する期待の高まりを踏まえ、競技力向上のみならず、広くスポーツの普及やスポーツの価値の最大化を担うという中央競技団体の役割を明確化
  • 役員の新陳代謝を促すため、その意義を明記するとともに、人材の育成計画の策定や、理事に期待される知識・経験・能力の観点および各理事の選任の観点の公表に関する記載を追加
  • 理事の多様性の確保を一層促すため、競技実績や指導実績を有する理事を外部理事として整理すること等に関する注記を削除
  • 理事の在任期間および再任までの経過期間の考え方について、注記で事例を記載
  • 不祥事発生時の適時適切な公表に関する記載を追加
  • 統括団体が実施するコンプライアンス研修の活用を含め、競技横断的に取り組むことを記載
  • 団体がコードの趣旨を理解し主体的・積極的に取り組めるような補足説明を充実(例:自己説明の在り方、ガバナンスコードの意義や役割)

 本改定の詳細については、弊所のNote記事「危機管理INSIGHTS Vol.15:スポーツ界の危機管理④-2023年のスポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>の改定-」をご参照ください。

知的財産戦略本部「AI時代の知的財産権検討会」の開催

 執筆:松田 誠司弁護士

 政府の知的財産戦略本部は、2023年10月から「AI時代の知的財産権検討会」(以下「本検討会」といいます)を開催し、AIと知的財産権等との関係をめぐる課題への対応等に関し、検討を開始しました。

 近時、Chat GPTに代表される生成AIをはじめとするAI技術が急速に進歩していますが、これに伴い、知的財産権との関係で生じるリスク等も懸念されるところです。たとえば、生成AIが創作するコンテンツに関する権利関係や、クリエイターへの収益還元の在り方等が挙げられています。
 また、AIを利用した発明について発明者の要件をどのように考えるべきか、AIの利活用拡大を見据えて進歩性要件等についてどのような影響が生じるか等についても検討すべきとされています。

 本検討会は、日本音楽著作権協会や日本知的財産協会等の関係団体のヒアリング等も行ったうえで、主に「生成AIと知財をめぐる懸念・リスクへの対応等について」、「AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方について」という各課題について検討を深めていくものと思われます(本検討会配付資料)。
 本検討会における検討の結果は将来の法令改正等につながる可能性があるため、動向を注視していく必要があります。

金融庁「中小企業の事業再生等に関するガイドライン事例集」の公表

 執筆:坂尾 佑平弁護士

 2023年10月17日、金融庁は、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン事例集」(以下「本事例集」といいます)を公表しました。
 前提として、2022年3月4日に、「中小企業の事業再生等に関する研究会」が「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」といいます)をとりまとめ、同年4月1日に「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」Q&Aを公表しました(同年4月8日に一部改訂)。本ガイドラインの内容については、本連載第2回「2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント」もご参照ください。
 金融庁は、本ガイドラインの金融機関による積極的な活用に向けた取組みを促しているところ、その一環として本事例集を公表しています。

 本ガイドラインで示された新たな準則型私的整理手続である「中小企業の事業再生等のための私的整理手続」(再生型・廃業型)は広く活用されています。本事例集によると、2022年度は、官民金融機関(日本公庫・商工中金・銀行・信用金庫・信用組合)において、再生型(債務減免を含む)11件、再生型(債務減免を含まない)8件、廃業型9件、計28件の事業再生計画・弁済計画について合意されたことが確認されたとのことです。

 本事例集では、債務減免のある再生型私的整理手続の事例として、①債権の時価譲渡による事業再生支援のケース、②第二会社方式(会社分割や事業譲渡を行い、既存事業のうち、収益性のある事業を切り離し、新設した法人等に承継させ、残りの不採算事業や過剰となった債務については特別清算等の法的整理によって清算する手法)による事業再生支援のケース、および③グループ企業一体での事業再生支援のケースが紹介されています。
 また、債務減免のない再生型私的整理手続の事例として、①リスケジュールによる事業再生支援のケース、および②DDS(デット・デット・スワップ)による事業再生支援のケースが紹介されています。
 さらに、廃業型私的整理手続の事例として、ガイドラインを活用した円滑な廃業支援のケースが紹介されています。

 各事例の紹介においては、案件におけるネック事項、クロージングまでのスケジュール、ガイドライン活用のポイント等が個別具体的なケースに即して解説されており、本ガイドラインの活用を検討している事業者、金融機関等にとって有用な資料といえるでしょう。

シリーズ一覧全45件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  45. 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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