Legal Update

第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向

法務部

シリーズ一覧全44件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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目次

  1. 消費者庁「公益通報者保護制度検討会 報告書」の公表
  2. 経済産業省「会社法の改正に関する報告書」の公表
    1. 「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会の趣旨・目的
    2. 本報告書の概要
  3. 国土交通省、経済産業省、農林水産省「(物流)合同会議取りまとめ」の公表
  4. 厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書」の公表
  5. 総務省「利用者情報に関するワーキンググループ報告書」の公表
  6. 金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書の公表
    1. 顧客本位の業務運営の徹底
    2. 健全な競争環境の実現
  7. 日本証券業協会「店頭有価証券等の特定投資家に対する投資勧誘等に関する規則」の改正
    1. 2024年11月12日改正
    2. 2024年11月20日改正
  8. 日本暗号資産ビジネス協会「RWA(現実資産等)トークンの利活用に関するガイドライン」(案)の公表
  9. 内閣府、セキュリティ・クリアランス制度に関する運用基準(案)の公表
    1. セキュリティ・クリアランス制度とは
    2. 運用基準案の概要

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2024年11月12日 日本証券業協会「店頭有価証券等の特定投資家に対する投資勧誘等に関する規則」の改正
2024年11月20日 日本証券業協会「店頭有価証券等の特定投資家に対する投資勧誘等に関する規則」の改正
2024年11月26日 内閣府、セキュリティ・クリアランス制度に関する運用基準案の公表
2024年11月27日 国土交通省、経済産業省、農林水産省 流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律の施行に向けて議論する合同会議「合同会議取りまとめ」の公表
2024年11月29日 総務省「利用者情報に関するワーキンググループ報告書」の公表
2024年11月29日 一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会「RWA(現実資産等)トークンの利活用に関するガイドライン」(案)の公表
2024年12月25日 金融庁 金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書の公表
2024年12月27日 消費者庁「公益通報者保護制度検討会 報告書-制度の実効性向上による国民生活の安心と安全の確保に向けて-」の公表
2025年1月8日 厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書」の公表
2025年1月17日 経済産業省「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会「会社法の改正に関する報告書」の公表

 編集代表:菅原 裕人弁護士(三浦法律事務所)

消費者庁「公益通報者保護制度検討会 報告書」の公表

 執筆:榮村 将太弁護士、坂尾 佑平弁護士

 2024年4月、消費者庁は、近年の公益通報者保護制度をめぐる国内外の環境の変化や改正後の公益通報者保護法(2020年改正)の施行状況を踏まえた課題について検討を行うため、有識者により構成する「公益通報者保護制度検討会」(以下「検討会」といいます)を設置しました。その後、合計9回の検討会を経て、同年12月27日、「公益通報者保護制度検討会 報告書-制度の実効性向上による国民生活の安心と安全の確保に向けて-」(以下「本報告書」といいます)が公表されました。

 本報告書は、公益通報者保護制度見直しのポイントについて、以下のとおり列挙しています。

  1. 事業者における体制整備義務の履行の徹底や実効性向上を図ること
  2. 労働者等による公益通報を阻害する要因に適切に対処すること
  3. 公益通報を理由とする不利益な取扱いを抑止し、救済措置を強化すること
  4. 公益通報の実施状況や不利益な取扱いの実態に併せて通報主体の範囲を拡大すること 等

 そして、公益通報者保護制度が実効的に機能し、不正が早期に発見・是正され、国民の生命・身体・財産その他の利益の保護が確実に図られるようにすべきであるといった提言を行ったうえ、それらに対応する個別論点を取り上げ、議論や意見の状況を説明しています。

 個別論点においては、以下のように企業にとって影響の大きい内容を多く含んでいます。

  • 従事者指定義務(内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を定める義務)の違反事業者に対する消費者庁の行政措置権限の強化や刑事罰の導入
  • 公益通報者を探索する行為を禁止する規定の新設
  • 公益通報をしたことを理由とする解雇および懲戒を行った場合の刑事罰の新設
  • 民事訴訟における「公益通報を理由とすること」の立証責任の転換
  • 公益通報の主体に事業者と業務委託関係にあるフリーランスを追加するといった議論 等

 本報告書には、「制度の実効性を向上するため、本報告書で提言された個別論点のうち、検討会で一定の具体的方向性が得られた事項については、法改正も含めた対応を早急に検討するよう、政府に要請する」との記載があることから、本報告書で一定の方針が打ち出された論点については、今後法改正がなされる可能性が高いものとして、動向を注視していく必要があります。

経済産業省「会社法の改正に関する報告書」の公表

 執筆:中村 朋暉弁護士、大草 康平弁護士

 2025年1月17日、経済産業省が立ち上げた「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会(以下「本研究会」といいます)は、「会社法の改正に関する報告書」を公表しました(以下「本報告書」といいます)。

「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会の趣旨・目的

 本研究会は、以下のような問題意識を踏まえ、日本企業の「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス改革の進め方や会社法の改正の方向性等について検討することを目的として、2024年9月に設置されました 1

 従前のコーポレートガバナンス改革により、多くの企業で社外取締役の選任や指名委員会・報酬委員会の設置が進むなど、少なくとも形式面においては一定の成果が見られるものの、今後は「稼ぐ力」の強化に結び付けるためのさらなる取組を検討することが重要であるとともに、コーポレートガバナンス改革に加えて、企業の持続的な成長や中長期的な企業価値向上の観点から、企業活動の基盤である会社法の改正に向けた議論が必要である

本報告書の概要

 本報告書では、日本企業が攻めの成長投資を通じた持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた高付加価値型の経営を行い、激化するグローバル競争を勝ち抜くためには、自社固有の価値創造ストーリーを構築し、その一環として自社に最適なコーポレートガバナンス体制を確立するとともに、投資家との建設的なエンゲージメントを通じて価値創造ストーリーを磨き上げ、投資家を含む社会からの信頼を獲得し、価値創造ストーリーを実現していくことが求められるとして、そのための会社法制の見直しを早期に実現することが重要であると指摘され、本研究会が望ましいと考える会社法改正の検討の方向性が示されています。

 なお、法務省による会社法改正の検討状況 2 としては、2024年8月までの会社法制に関する研究会における検討およびさらに規模を拡大した同年9月以降の会社法制研究会における検討を経て、同年度中に検討事項の深堀・選別を行ったうえで、法制審議会に諮問する予定とされており、本報告書の内容も今後の改正の検討に際して、一定程度参照されるものと思われます。

(1)価値創造ストーリーの実行(価値創造ストーリーやそれに基づく具体的な成長戦略の円滑な実現を可能とするソフトインフラの整備)

  1. 従業員や子会社の役職員に対する自社株式の無償交付
     2019年の会社法改正により、取締役および執行役に対する株式の無償交付が認められたところ(会社法202条の2)、従業員や子会社の役職員に対する株式の無償交付についても認める方向で改正を検討すべきとされています。

  2. 株式対価M&Aの拡大
     2019年の会社法改正により、株式交付制度(株式会社が他の株式会社を子会社化するに当たって、自社株式を当該他の株式会社の株主に交付することができる制度)が創設されたところ(会社法774条の2以下)、その対象を拡大するとともに、手続要件を緩和する方向で改正を検討すべきとされています。

  3. キャッシュ・アウト制度の効率化・合理化
     キャッシュ・アウトの手法として用いられる株式等売渡請求(会社法179条以下)の要件を緩和し、より広範に利用可能とする方向で改正を検討すべきとされています。

  4. 社債権者集会のバーチャル化
     現行法上、バーチャルオンリー社債権者集会の開催は認められておらず、ハイブリッド型での社債権者集会の可否も解釈に委ねられているところ、社債権者集会のバーチャル化を認める方向で改正を検討すべきとされています。

  5. 責任限定契約
     現行法上、業務執行取締役・執行役は責任限定契約を締結することができないところ(会社法427条参照)、業務執行取締役・執行役についても責任限定契約の締結を認める方向で改正を検討すべきとされています。

(2)価値創造ストーリーの構築(取締役会/経営陣の体制・仕組み)

  1. 機関設計制度
     指名委員会等設置会社は、モニタリングモデルを志向する企業になじむ機関設計と考えられているものの、社外取締役が取締役の過半数を占める場合でも、指名委員会・報酬委員会の決定を覆すことができない点で、使いにくい制度となっているとの指摘があることから、指名委員会等設置会社における委員会の権限について優先的に見直しを行うべきとの意見がある一方、機関設計制度全体について中長期的に見直しを検討していくべきとの意見もあり、モニタリングモデルを志向する企業にふさわしい機関設計の在り方については今後の検討課題であると指摘されています。

(3)エンゲージメント(対話の実質化・効率化)

  1. 実質株主の情報開示制度化
     企業が実質株主や名義株主に対してその保有状況や実質株主に関する情報について質問した場合に、その質問に対する回答を義務付ける旨の情報開示制度を創設する方向で改正を検討すべきとされています。

  2. 一体開示
     会社法に基づく事業報告および計算書類と金融商品取引法に基づく有価証券報告書の記載事項は大部分において重複していることから、両者を一体の書類として同時に開示する一体開示の実現に向けて改正を検討すべきとされています。

  3. バーチャルオンリー株主総会
     現行の会社法上、バーチャルオンリー株主総会は開催できないとの見解が有力であるところ、会社法の特例として産業競争力強化法に基づきバーチャルオンリー株主総会を開催することが可能であるものの、一定の開催要件(経済産業大臣および法務大臣の確認を受けることや通信障害対策についての方針を定めること)を満たす必要があることから、会社法に基づきバーチャルオンリー株主総会の開催を認め、かつ上記の開催要件を不要とする方向で改正を検討すべきとされています。

  4. 株主提案権
     現行法上、総議決権の1%以上または議決権300個以上を6か月以上保有する株主は株主提案が可能であるところ(会社法303条2項)、濫用的な株主提案を防止すべく、議決権数基準要件を廃止する方向で改正を検討すべきとされています。

  5. 書面決議制度
     現行法上、株主総会の書面決議制度を利用するには株主全員の同意を得る必要があるところ(会社法319条1項)、書面決議制度が活用されている非上場会社について書面決議要件を緩和する方向で改正を検討すべきとされています。

  6. 株主総会の在り方
     上場企業における株主総会について非効率的であるとの指摘や意思決定に向けた審議の場としては実質的に機能していないとの指摘を踏まえ、株主総会の在り方を見直したうえで、手続の効率化・合理化に向けて検討を深めていくことが望ましく、たとえば以下の規律について見直しを検討することが考えられると指摘されています。
  • 当日の決議手続の省略
  • 株主の質問権・取締役等の説明義務の範囲・程度
  • 株主総会当日の議案提案権(動議)
  • 株主総会決議取消事由の範囲

(4)その他

  • 調査者制度(会社法316条2項)の見直し
  • 長期保有株主の優遇
  • 多様なステークホルダーへの配慮
  • 株主代表訴訟制度の見直し
  • 株主総会招集請求権制度の見直し
  • 大量保有報告制度違反への罰則の強化

国土交通省、経済産業省、農林水産省「(物流)合同会議取りまとめ」の公表

 執筆:菅原 裕人弁護士

 国土交通省、経済産業省、農林水産省の3省は、2024年4月26日に「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」が改正(以下改正法を「物効法」といいます)されたことを受けて、物効法の施行に向けて議論する合同会議を設置しました。その合同会議の議論を取りまとめた、「合同会議取りまとめ」(以下「本取りまとめ」といいます)が同年11月27日に公表されるに至りました。

 まず、物効法の概要については、本連載第29回「2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「1−1 流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律の改正概要」にまとめているところです。合同会議では、物効法に関する政令、省令で定める基本方針判断基準特定事業者の指定基準等の内容について審議し、取りまとめました。

 その概要は以下のとおりです。

1 基本方針のポイント (1)トラックドライバーの運送・荷役等の効率化の推進の意義・目標
 物流は、国民生活や経済活動を支える不可欠な社会インフラであり、安全性の確保を前提に、荷主・物流事業者・施設管理者等の物流に関わる様々な関係者が協力し、2028年度までに、以下の目標の達成を目指す。
  1. 5割の運行で、1運行当たりの荷待ち・荷役等時間を計2時間以内に削減(1人当たり年間125時間の短縮)
  2. 5割の車両で、積載効率50%を実現(全体の車両で積載効率44%に増加)
(2)トラックドライバーの運送・荷役等の効率化の推進に関する施策
  • 設備投資・デジタル化・物流標準化、モーダルシフト、物流人材の育成等の支援

(3)トラックドライバーの運送・荷役等の効率化に関し、荷主・物流事業者等が講ずべき措置

  • 積載効率の向上等
  • 荷待ち時間の短縮
  • 荷役等時間の短縮

(4)集貨・配達に係るトラックドライバーへの負荷の低減に資する事業者の活動に関する国民の理解の増進

  • 再配達の削減や多様な受取方法の普及促進
  • 返品の削減や欠品に対するペナルティの見直し
  • 「送料無料」表示の見直し

(5)その他トラックドライバーの運送・荷役等の効率化の推進に必要な事項

  • 物流に関わる多様な主体の役割
  • トラックドライバーの運送・荷役等の効率化の前提事項
2 荷主・物流事業者等の判断基準等のポイント (1)すべての荷主(発荷主、着荷主)、連鎖化事業者(フランチャイズチェーンの本部)、物流事業者(トラック、鉄道、港湾運送、航空運送、倉庫)に対し、物流効率化のために取り組むべき措置について努力義務を課し、これらの取組の例を示した判断基準・解説書を策定
  1. 積載効率の向上等
    • 共同輸配送や帰り荷の確保
    • 適切なリードタイムの確保
    • 発送量・納入量の適正化 等
  2. 荷待ち時間の短縮
    • トラック予約受付システムの導入
    • 混雑時間を回避した日時指定 等
  3. 荷役等時間の短縮
    • パレット等の輸送用器具の導入
    • タグ等の導入による検品の効率化
    • フォークリフトや荷役作業員の適切な配置 等
3 特定事業者の指定基準等のポイント

(1)全体への寄与度がより高いと認められる大手の事業者が指定されるような基準値を設定。

  • 特定荷主・特定連鎖化事業者:取扱貨物の重量9万トン以上
    (上位3,200社程度)

  • 特定倉庫業者:貨物の保管量70万トン以上(上位70社程度)
  • 特定貨物自動車運送事業者等:保有車両台数150台以上(上位790社程度)

(2)物流統括管理者(CLO)は、事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある役員等から選任

 今後のスケジュールとしては、次のとおり想定されています。

2025年4月(想定) 法律の施行①
  • 基本方針
  • 荷主・物流事業者等の努力義務・判断基準
  • 判断基準に関する調査・公表 等
2026年4月(想定) 法律の施行②
  • 特定事業者の指定
  • 中長期計画の提出・定期報告
  • 物流統括管理者(CLO)の選任 等

 物流事業者に限らず、荷主にあたる企業においては、物効法の施行に向けて準備を進める必要があります。

厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書」の公表

 執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士

 2025年1月8日、厚生労働省の労働基準関係法制研究会(以下「本研究会」といいます)の報告書(以下「本報告書」といいます)が公表されました。

 本研究会は、今後の労働基準関係法制について包括的・中長期的な検討を行うとともに、労働基準法等の見直しについて具体的な検討を行うことを目的として開催され、2024年1月以降、16回にわたって議論が重ねられてきました(開催の経緯等については、弊所note記事「労働法UPDATE Vol.8」および「労働法UPDATE Vol.13」をご参照ください)。

 本報告書では、(1)①労働基準法における「労働者」および②「事業」の考え方、③労使コミュニケーションのあり方という総論的課題に加え、(2)①最長労働時間規制、②休憩・休日等の労働からの解放に関する規制③副業・兼業の場合も含む割増賃金規制という労働時間法制の具体的課題についても検討しており、様々な指摘・提言が含まれています。

 本報告書における検討のなかには、現行法令・制度の具体的な変更につながりうる指摘等も含まれており、一例として以下のようなものが挙げられます。

  • 多様な働き方を支える基盤として、実効的な労使コミュニケーションを行えるよう、「過半数代表者」の位置付け、役割、使用者からの関与・支援のあり方等を明確化する法改正を行う必要がある(本報告書25~26頁。具体的なイメージは以下のとおり)
【法制度のイメージの例】
  • 法律(その委任命令を含む)に規定することが考えられる事項
    ・「過半数代表」、「過半数労働組合」、「過半数代表者」の法律上の位置付け
    ・過半数代表の任務・権限、公正代表義務(事業場の全労働者の代表として労使協定の締結等を行うこと)
    ・過半数代表に対する使用者の情報提供
    ・過半数代表に対する使用者の支援・便宜供与
    ・過半数代表に対する不利益取扱いの禁止
    ・過半数代表者の公平・中立な選出手続

  • ガイドライン等に規定することが考えられる事項
    ・過半数代表に対する支援・便宜供与のひな形・好事例
    ・過半数代表者の具体的な選出手続のひな形・好事例
    ・過半数代表者を複数人選出する場合や補助者を指名する場合の留意点
    ・過半数代表者を任期を定めて選出する場合の留意点
    ・その他過半数代表の運用のための情報
(本報告書26頁より抜粋)
  • 転職・就職などの労働市場の調整機能を通じて、個別企業の勤務環境が改善されるよう、(現行法制下での情報開示の仕組みに加え)時間外・休日労働時間を短縮するという観点からも、様々な企業外への情報開示の取組が進められ、労働者・求職者が一覧性をもって閲覧できるようになることが望ましい。厚生労働省においては、企業による自主的な情報開示が充実するよう基盤を整えるとともに、義務的な情報開示についても検討を続けることが期待される(本報告書32頁)。

  • テレワークに適用できるより柔軟な労働時間管理のあり方として、(必ずしもテレワークの場合に限らず)出勤日も含めて部分的にフレックス制を導入できるよう、現行のフレックスタイム制の改善に取り組むべきと考えられる(本報告書35頁)。また、自宅内での就労に対する過度な監視等の課題に対応しつつ労働者の意向に応じて選択できる制度として、一定の健康確保措置や個別の本人同意の取得等の要件を設けたうえで、自宅等でのテレワークに限定したみなし労働時間制を設けることも考えられる(本報告書36頁)。

  • 36協定に休日労働の条項を設けた場合も含め、2週間以上の連続勤務を防ぐという観点から、「13日を超える連続勤務をさせてはならない」旨の規定を労働基準法上に設けるべきである(本報告書40頁)。

  • 副業・兼業に関し、労働者の健康確保のための労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の支払については、労働基準法38条に基づく労働時間の通算を要しないよう、法制度の改正・整備が求められる(本報告書49頁)。

 本報告書を踏まえ、今後は、労働政策審議会において議論が続けられることになります。労働基準関係法制に関する今般の議論は、労働基準法等の大きな法改正につながる可能性もあり、引き続き労働政策審議会における議論状況を注視する必要があります。
 なお、その他の本報告書の詳細については、弊所note記事「労働法UPDATE Vol.18:労働基準関係法制研究会③~報告書の公表~」をご参照ください。

総務省「利用者情報に関するワーキンググループ報告書」の公表

 執筆:小倉 徹弁護士

 2024年11月29日、総務省から、「利用者情報に関するワーキンググループ報告書」(以下「本報告書」といいます)が公表されました。
 「ICTサービスの利用環境の整備に関する研究会」の下に開催された「利用者情報に関するワーキンググループ」において、スマートフォン上のプライバシー対策について、電気通信事業法における外部送信規律の法制化、情報収集モジュール等の情勢変化を踏まえ、「スマートフォン プライバシー イニシアティブⅢ」の一部として公表されていた「スマートフォン利用者情報取扱指針」を見直すべきかについて議論が行われました。本報告書はその議論の内容をとりまとめたものです。

 また、この議論の結果、「スマートフォン利用者情報取扱指針」を見直すこととされ、ベストプラクティスとして取り組むことが望ましい対応やセキュリティの確保に係る取組の追記等を行った「スマートフォン プライバシー セキュリティ イニシアティブ」が作成されました。

 見直し、追記等が行われた主な事項は以下のとおりです。

国内制度の反映
  • 個人情報の保護に関する法律の2020年改正により規定された、個人関連情報および仮名加工情報の新設、外国にある第三者への提供の本人説明充実化ならびに不適正利用の禁止について記載すること
  • 電気通信事業法の改正により規定された、特定利用者情報規律および外部送信規律について記載すること
諸外国等の動向等を踏まえた対応
ダークパターンに係る対応
  • ダークパターン(サービスの利用者を欺いたり操作したりするような方法または利用者が情報を得たうえで自由に決定を行う能力を実質的に歪めたり損なったりする方法で、ユーザインタフェースを設計・構成・運営すること)について、原則として欺瞞的な方法による利用者情報の取扱いが行われないことが望ましい旨記載すること
プロファイリングに係る対応
  • プロファイリングに係る予見性確保の取組、プロファイリングによるセンシティブ情報の予測・生成やこどもの利用者情報のプロファイリングに基づくターゲティング広告の表示を原則として実施しないことが望ましいこと等について記載すること
民間の取組を踏まえた対応
センシティブ情報への配慮およびこども等の利用者情報の保護
  • センシティブ情報の取得時には本人の同意を取得することや、プロファイリングによりセンシティブ情報を予測・生成する行為は原則として実施せず、実施する場合には本人の同意を取得することが望ましい旨記載すること
  • こどもの利用者情報を取得する場合には、事前に法定代理人から同意取得を行うことや、こどもの利用者情報のプロファイリングに基づくターゲティング広告の表示は実施しないことが望ましい旨記載すること
必要最小限の利用者情報の取得
  • アプリケーションの主要な機能に関係する機能のみにアクセスする等、利用者情報の取扱いはその利用目的との関係において最小限の範囲とすることが望ましい旨記載すること
同意の撤回方法のプライバシーポリシーへの記載
  • 簡単にアクセスでき、かつわかりやすい方法で同意の撤回ができる機会を提供し、またその方法についてプライバシーポリシーに記載することが望ましい旨記載すること
事業者横断的なトラッキングに係る対応および位置情報や写真データ等の適正な取扱い
  • 利用者の行動の事業者横断的なトラッキングを実施するために利用者情報を取得する場合には同意取得を行うことや、位置情報や写真データ等にアクセスする場合には、同意取得を行うとともにアクセス範囲の限定等の設定を可能とすることが望ましい旨記載すること
取得情報や利用目的の概要のわかりやすい掲示
  • プライバシーポリシーを利用者にわかりやすく示す方法として、その記載事項の概要について、アイコン等を用いてアプリストアの個別ページに掲示する方法が考えられる旨記載すること
セキュリティ
  • 基本原則にセキュリティ・バイ・デザインを記載するとともに、アプリケーション提供者や情報収集モジュール提供者において、セキュリティ・バイ・デザインや脆弱性があるアプリへの対応を実施することが望ましいこと、アプリストア運営事業者等において、アプリストアとしての基本的対応、脆弱性があるアプリへの対応、不正なアプリへの対応、アプリ削除・掲載拒否時の対応を実施することが望ましいこと等について記載すること

 本報告書および「スマートフォン プライバシー セキュリティ イニシアティブ」を踏まえ、事業者等において、それぞれ必要な対応が行われることが期待されます。

金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書の公表

 執筆:藤﨑 大輔弁護士

 2024年12月25日、金融庁から、金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書(以下「本報告書」といいます)が公表されました。

 損害保険市場における保険金不正請求事案や保険料調整行為事案の発生を受け、金融庁では「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」を開催することとし、同年3月26日の第1回以降計4回にわたり、両事案の原因を分析したうえで、再発防止に向けた制度・監督上の対応に関する検討が行われました。

 同年6月25日に公表された同有識者会議の報告書においては、顧客本位の業務運営の徹底や健全な競争環境の実現に向け、大規模な保険代理店に対する指導等の実効性の確保や保険会社による保険代理店等への過度な便宜供与等の制限、保険市場の競争環境のゆがみの是正等の施策が提言され、法律改正が必要と考えられる論点については、金融審議会の開催も視野に、金融庁を中心に必要な対応が行われることへの期待が示されました。

 それを受け、今般、金融審議会に「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」が設置され、様々な議論が行われました。本報告書はその結果をまとめたものです。

 本報告書の主な提言の概要は以下のとおりです。

顧客本位の業務運営の徹底

  1. 大規模乗合代理店に対する体制整備義務の強化等
    • 複数の所属保険会社等を有する保険代理店(乗合代理店)のうち、特に規模の大きな保険代理店(以下「特定大規模乗合保険募集人」)に対し、内部管理体制の強化(法令等遵守責任者の設置や苦情処理体制の整備等)等を求める。
    • 「特定大規模乗合保険募集人」のうち保険金から修理費等の支払いを受ける事業(保険金関連事業)を兼業する者に対しては、上記管理体制の一環として、(i)不当なインセンティブにより顧客の利益または信頼を害するおそれのある取引を特定したうえで、(ii)それを適切に管理する方針を策定・公表するとともに、(iii)不当なインセンティブにより顧客の利益または信頼を害することを防止するための体制整備を求める。

  2. 乗合代理店における適切な比較推奨販売の確保

  3. 保険代理店に対する保険会社による適切な管理・指導等の実効性の確保等
    • 保険会社において、保険金等支払管理部門と営業部門とを適切に分離する。また、上記の保険金関連事業を兼業する全ての委託先保険代理店について、不当なインセンティブにより顧客の利益または信頼を害するおそれのある取引を特定し、それを適切に管理する方針を策定・公表する。
    • 保険会社に対して、委託先である「特定大規模乗合保険募集人」の法令等遵守態勢等を検証する管理責任者の設置等を求める。
  4. 損害保険分野における自主規制のあり方の整理

健全な競争環境の実現

  1. 保険仲立人の活用促進
    • 媒介手数料の受領方法の見直し
    • 保証金制度の見直し
    • 保険代理店等との協業の見直し
    • 海外直接付保における保険仲立人の活用
    • 保険仲立人の不祥事件の届出義務の新設
  2. 保険会社による保険契約者等への過度な便宜供与の禁止

  3. 企業内代理店に関する規制の再構築
    • 特定契約比率規制(親会社等の「特定者」を保険契約者とする保険契約を一定割合に抑制する規制)について、3年程度の準備期間を設けたうえで、経過措置を撤廃するとともに、「特定者」の範囲を連結の範囲に拡大する。
    • 他方で、一定の要件(「一定の態勢整備」と「手数料の適正化」)を満たす企業内代理店は、上記規制の適用除外とする。
  4. 火災保険の赤字構造の改善等

 なお、本報告書は、今後、金融審議会総会・金融分科会において報告されることとなります。本報告書の提言を受けた今後の法改正の動向には、引き続き注視する必要があります。

日本証券業協会「店頭有価証券等の特定投資家に対する投資勧誘等に関する規則」の改正

 執筆:藤﨑 大輔弁護士

 「特定投資家向け銘柄制度(J-Ships)」とは、証券会社を通じて、非上場企業の株式や投資信託等を、プロの投資家である「特定投資家」向けに発行・流通することを可能にする制度です。
 J-Shipsは、日本証券業協会の「店頭有価証券等の特定投資家に対する投資勧誘等に関する規則」(以下「J-Ships規則」といいます)に基づく制度であり、今般、J-Ships規則の改正が2度実施されたため、その概要を以下でご紹介します。

2024年11月12日改正

 スタートアップ企業等への成長資金の供給促進を含めた非上場株式等の取引活性化のため、日本証券業協会「非上場株式等の取引及び私募制度等に関するワーキング・グループ」において、J-Shipsに係る制度整備等に関する議論が行われてきたところ、今般、同ワーキング・グループにおける議論を踏まえ、J-Ships規則等の一部改正が行われました。

 改正の骨子は以下のとおりです。

  1. 50名未満の者に対する特定投資家向け売付け勧誘等を行う場合、特定証券情報と同等の情報(発行開示に相当する情報)ではなく、発行者情報または発行者情報と同等の情報(継続開示に相当する情報)を提供または公表することとする(J-Ships規則6条1項)。
  2. 金融商品仲介業者に対する指導・監督の規定を追加する(J-Ships規則19条)。
  3. 会員が特別会員(登録金融機関)に委託を行う場合における当該会員と当該特別会員の対応が重複する部分についての軽減措置を講じる(J-Ships規則20条)。

 J-Ships規則の改正の詳細およびその他の規則の改正については、日本証券業協会の説明資料もご参照ください。

2024年11月20日改正

 2024年改正金融商品取引法において、流動性の低い非上場有価証券のみを取り扱い、かつ、取引規模が限定的である私設取引システム(PTS)運営業務については、その業務を行うに当たっての認可を要さないこととし、第一種金融商品取引業の登録により行えることとする制度(以下「登録PTS制度」といいます)が創設されました。
 今般、登録PTS制度に対応した非上場有価証券のPTSにおける取引等に関する自主規制規則の整備として、「私設取引システムにおける非上場有価証券の取引等に関する規則」の一部改正が行われるとともに、J-Ships規則についても一部改正が実施されました。

 改正の骨子は以下のとおりであり、認可PTS取引に関して規定されていた適用除外について、登録PTS取引に関しても同様に規定するものです。

  1. 登録PTS銘柄取引に係る投資勧誘を行う場合について、個別銘柄に係る説明書の交付等の例外規定を設ける(J-Ships規則11条2項)。
  2. 登録PTS銘柄取引に係る投資勧誘を行う場合における適用除外を設けるとともに、当該投資勧誘のみを行う協会員について取扱協会員としての指定等を要しないこととする(J-Ships規則18条1項・2項)。

 J-Ships規則の改正の詳細およびその他の規則の改正については、日本証券業協会の説明資料もご参照ください。

日本暗号資産ビジネス協会「RWA(現実資産等)トークンの利活用に関するガイドライン」(案)の公表

 執筆:所 悠人弁護士

 2024年11月29日、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(以下「JCBA」といいます)は、「RWA(現実資産等)トークンの利活用に関するガイドライン」(案)(以下「本ガイドライン案」といいます)を公表しました。

 JCBAは、パブリックブロックチェーンやWeb3.0のエコシステムを構成するステークホルダーが、日本国内において暗号資産、NFT、ステーブルコインなどのデジタル資産に関するビジネスを行うための環境整備を目的として設立した団体です。

 本ガイドライン案は、現実資産や無形資産(RWA/Real World Asset)と紐づくことにより財産的価値を有するトークン(RWAトークン)を対象とするものです。RWAトークンは、現実資産等をトークン化することにより、グローバルでの売買、小口化、流通経路の追跡を容易にする等のメリットがありますが、日本においては以下のような制度的課題があると指摘されていました。

  1. ブロックチェーン上のトークンの移転を当該トークンに紐づく現実資産等の移転とすることが(特に当事者でない第三者に対して)確保されていない場合があること(民法の第三者対抗要件の問題等)
  2. 各種デジタル資産の債権債務関係が明確でない場合があること(特に会計処理の検討において課題となる)
  3. 財産的価値のある無体物が紐付けられているトークン保有者には、当該無体物についても当該トークンについても所有権等が認められないと考えられること

 そこで、これらの課題を整理し、RWAトークンを含むデジタル資産の発行・流通市場の構築を推進するため、本ガイドライン案が策定されました。本ガイドライン案における取組内容は、上記の制度的課題に対応して以下のとおりとなっています。

  1. ブロックチェーン技術上のトークンの移転を当該トークンに紐づく現実資産等の移転とみなすための要件の整理を行いながら、事業者向けのガイドラインの整備・拡充(民法の第三者対抗要件問題等)
  2. 各種デジタル資産の債権債務関係の実務上の整理を行いながら、会計監査を円滑化するためのデジタル資産に関する利用規約のひな形の作成
  3. 無体物の所有権含め中長期的に取り組むべき制度上の課題の洗い出し

 なお、RWAトークンとしては、(i)金融商品取引法上の電子記録移転有価表示権利等として扱われるセキュリティトークン、(ii)資金決済法上の電子決済手段として扱われるステーブルコイン、(iii)同法上の暗号資産、(iv)金融規制が適用されないNFTなどが挙げられますが、本ガイドライン案では、(iii)暗号資産と(iv)NFTについて取り扱っています。

 本ガイドライン案における詳細な取組内容については紙面の関係上解説を割愛しますが、①RWAトークンに基づく現実資産等の移転に関する第三者対抗要件の問題や、②RWAトークンを含むデジタル資産の債権債務関係と会計基準の整理といった現実的な実務上の課題について丁寧な検討を行ったうえで、一定の方向性が示されており、今後の検討課題とされる点も多いものの、RWAトークンを用いたビジネスを行う事業者においては必読であるといえます。また、本ガイドライン案を踏まえた今後の制度検討の動向についても、注視する必要があるといえます。

内閣府、セキュリティ・クリアランス制度に関する運用基準(案)の公表

 執筆:中村 朋暉弁護士

 2024年11月26日、内閣府は、「重要経済安保情報の指定及びその解除、適性評価の実施並びに適合事業者の認定に関し、統一的な運用を図るための基準(案)」を公表しました(以下「本運用基準案」といいます)。

セキュリティ・クリアランス制度とは

 2024年5月に成立した「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」(以下「重要経済安保情報保護活用法」といいます)により創設された「セキュリティ・クリアランス制度」とは、政府が保有する安全保障上重要な情報として指定された情報(Classified Information)にアクセスする必要がある者に対して政府が調査を実施し、情報を漏らすおそれがないという信頼性を確認したうえでアクセスを認める制度をいいます 3

運用基準案の概要

 政府は、重要経済安保情報の指定およびその解除、適性評価の実施ならびに適合事業者の認定に関して、統一的な運用を図るための基準を定めることとされています(重要経済安保情報保護活用法18条1項)。
 本運用基準案は、重要経済安保情報保護活用法の2025年5月16日施行予定に関して、政府として講じるべき措置や遵守事項を規定することにより、政府における運用を統一化することを目的としています

 以下では、本運用基準案の項に沿ってその概要を説明します。

(1)重要経済安保情報の指定

 重要経済安保情報として指定されるためには、①重要経済基盤保護情報該当性(重要経済安保情報保護活用法2条4項)、②非公知性、③秘匿の必要性の3要件を満たす必要があります(重要経済安保情報保護活用法3条1項)。
 本運用基準案では、それぞれの要件該当性を判断するに当たっての基準、重要経済安保情報を指定するに当たって遵守すべき事項、指定の手続などが定められています。

(2)重要経済安保情報の指定の有効期間の満了、延長、解除等

 重要経済安保情報を指定するときは指定の有効期間を設定することとされており、指摘の有効期間は延長することも可能ですが、指定の要件を欠くに至ったときは指定を解除することとされています(重要経済安保情報保護活用法4条)。
 本運用基準案では、指定の有効期間の満了および延長に関する措置、指定の解除に関する措置、指定が解除され、または有効期間が満了し、保存期間が満了した行政文書の取扱いなどが定められています。

(3)適性評価

 適性評価(その者が重要経済安保情報の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないことについての評価)は、本人の同意を得たうえで、内閣総理大臣による一元的調査の結果に基づき、行政機関の長が実施します(重要経済安保情報保護活用法12条)。
 本運用基準案では、適性評価の実施に当たっての基本的な考え方が示されるとともに、適性評価の流れ、適性評価実施後の措置などが定められています。

(4)適合事業者に対する重要経済安保情報の提供等

 行政機関の長は、わが国の安全保障の確保に資する活動の促進を図るために必要があると認めたときは、適合事業者(わが国の安全保障の確保に資する活動を行う事業者であって重要経済安保情報の保護のために必要な施設設備を設置していること等の政令で定める基準に適合する事業者)との契約に基づき、重要経済安保情報を提供することができます(重要経済安保情報保護活用法10条)。
 本運用基準案では、適合事業者に重要経済安保情報を提供する場合の流れ、適合事業者に対して重要経済安保情報を保有させる場合の流れ、適合事業者と認定した後の措置などが定められています。

(5)重要経済安保情報保護活用法の実施の適正を確保するための措置

 本運用基準案では、重要経済安保情報保護活用法の実施の適正を確保するための措置として、重要経済安保情報保護活用委員会、内閣府独立公文書管理監による検証・監察、重要経済安保情報の指定およびその解除ならびに重要経済安保情報行政文書ファイル等の管理の適正に関する通報などについて定められています。


  1. 経済産業省経済産業政策局「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会の開催について」(令和6年9月18日) ↩︎

  2. 法務省民事局「フォローアップ事項(株式の無償交付・株式対価M&Aの活性化に関する会社法の見直し)」(令和6年12月4日) ↩︎

  3. 経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議「最終取りまとめ」(令和6年1月19日) ↩︎

シリーズ一覧全44件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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