Legal Update
第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
法務部
シリーズ一覧全14件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
目次
- 無人航空機によるレベル4飛行に関する2021年改正航空法の施行
- 四半期開示の見直しに関するディスクロージャーワーキング・グループ報告の公表
- 「セキュリティトークン市場ワーキング・グループ中間整理(報告書)」の公表
- 経済産業省「公正な買収の在り方に関する研究会」の設置
- 経済産業省・スポーツ庁「スポーツDXレポート − スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会 − 」の公表
- 質の高い炭素市場構築に向けた「パリ協定6条実施パートナーシップ」の立上げ
- インドのデジタル個人情報保護法案(2022年版)の公表
- Uber Japan事件 - Uber配達員の労働組合法上の労働者性に関する東京都労働委員会の命令
- 家賃保証契約に定められた、いわゆる「追い出し条項」が無効であると判断された事例(最高裁令和4年12月12日判決)
本稿で扱う内容一覧
日付 | 内容 |
---|---|
2022年11月2日 | (一社)日本STO協会「セキュリティトークン市場ワーキング・グループ中間整理(報告書)」公表 |
2022年11月16日 | 質の高い炭素市場構築に向けた「パリ協定6条実施パートナーシップ」の立上げ |
2022年11月18日 | 経済産業省「公正な買収の在り方に関する研究会」設置 |
2022年11月18日 | インド「デジタル個人情報保護法案(2022年版)」公表 |
2022年11月25日 | Uber Eats配達員の労働組合法上の労働者性に関する東京都労働委員会命令 |
2022年12月5日 | 2021年改正航空法の施行(無人航空機によるレベル4飛行) |
2022年12月7日 | 経済産業省・スポーツ庁「スポーツDXレポート − スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会 − 」公表 |
2022年12月12日 | 家賃保証契約に定められた、いわゆる「追い出し条項」が無効であると判断された最高裁判決 |
2022年12月27日 | 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」公表 |
2022年12月5日、「2021年改正航空法」が施行され、ドローンを含む無人航空機を使用した、いわゆる「レベル4飛行」を可能とする制度・規制が新たに整備されています。
同年12月27日、金融審議会ディスクロージャー・ワーキング・グループは、四半期開示の見直しに関する報告書を公表し、金融商品取引法の四半期報告書(第1・第3四半期)と取引所規則に基づく四半期決算短信へ一本化するべく、取引所規則や法改正が進められることになります。
同年11月2日、一般社団法人日本STO協会は、「セキュリティトークン市場ワーキング・グループ中間整理(報告書)」を公表しました。金融商品取引法上の「電子記録移転権利」および「適用除外電子記録移転権利」の取扱いに関わる第一種・第二種金融商品取引業の事業者は、議論の状況を注視する必要があります。
同年11月18日、経済産業省は、公正なM&A市場を整備することを目的に「公正な買収の在り方に関する研究会」を設置し、買収提案に関する当事者の行動の在り方や買収防衛策の在り方等について検討が重ねられています。
同年12月7日、経済産業省とスポーツ庁は「スポーツDXレポート − スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会 − 」を公表しました。日本でDXの取組を行う場合の法的なハードルや留意すべき事項の有無等についての整理は、スポーツビジネスに関わる企業にとって実務上参考になります。
同年11月16日、わが国の環境大臣は、質の高い炭素市場構築に向けた「パリ協定6条実施パートナーシップ」の立上げを宣言し、脱炭素市場や温室効果ガス排出削減などの取組の新たな国際枠組みが、日本が主導して推進されます。
同年11月18日、インドのデジタル個人情報保護法案(2022年版)が公表されました。新たなコンセプトとして「重要なデータ受託者」というコンセプトを設け、これに該当すれば、データ保護責任者、データ監査人を任命し、データの影響評価や監査等といった対応が求められます。また、罰則の大幅な引上げも示されています。
そのほか、借主と家賃保証会社との間で締結された家賃保証契約における追い出し条項が無効であるとされた裁判例や、Uber Eatsの配達パートナーは労働組合法上の労働者に当たるとした東京都労働委員会命令について解説します。
編集代表:坂尾 佑平弁護士・渥美 雅之弁護士(三浦法律事務所)
無人航空機によるレベル4飛行に関する2021年改正航空法の施行
執筆:金井 悠太弁護士
2021年改正航空法の概要
2021年6月11日に公布された「航空法等の一部を改正する法律」に基づく航空法の改正法(以下「2021年改正航空法」といいます)が2022年12月5日に施行されました。
2021年改正航空法は、ドローンを含む無人航空機の使用に関して、無人航空機の機体認証制度、操縦者技能証明制度等の新制度を含む各制度・規制を整備するものであり、これらの制度・規制の遵守を前提として無人航空機によるいわゆる「レベル4飛行」(※)が可能となりました。
※レベル4飛行とは、「有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行」を指すものとされます(無人航空機レベル4飛行ポータルサイト参照)。
2021年改正航空法の要点を整理すると、以下の2点となります。
- リスクの程度に応じた無人航空機による飛行カテゴリーの分類
- 各飛行カテゴリーに応じて遵守すべき制度・規制の整備
リスクの程度に応じた無人航空機による飛行カテゴリーの分類
無人航空機による飛行について、そのリスクの程度に応じて、カテゴリーⅠ、カテゴリーⅡ、カテゴリーⅢへの分類がなされました。レベル4飛行はこのうち、カテゴリーⅢに該当するものとされます。その他の飛行カテゴリーの判断方法につきましては、国土交通省ウェブサイトも参考となります。
各飛行カテゴリーに応じて遵守すべき制度・規制の整備
2021年改正航空法により、上記の各カテゴリーについて、遵守すべき制度・規制が整備されています。
レベル4飛行を含むカテゴリーⅢ飛行においては、新たに創設された(i)機体認証(第一種)および(ii)操縦者技能証明(一等)の取得が必要とされる他、飛行の空域・方法を問わず各飛行に際して許可・承認の取得が必要となります。なお、その他の飛行カテゴリーに係る必要手続の内容につきましては、国土交通省ウェブサイトもご参照ください。
上記の制度・規制のうち、(i)機体認証および(ii)操縦者技能証明制度につきましては、無人航空機レベル4飛行ポータルサイトにその概要が掲載されていますが、ポイントを挙げると以下の点になります。
(i)機体認証について
- 機体認証とは、無人航空機の使用者が所有する1機毎の機体について、国土交通省令で定められる安全基準に適合するかについて検査を受け、取得する認証をいいます。
- 認証には第一種および第二種の区分が存在し、カテゴリーⅢ飛行においては第一種の取得が必要となります。
- 型式認証(無人航空機の型式に係る設計および製造過程に関して取得される認証)を受けた型式の無人航空機については、機体認証に必要となる検査の全部または一部が省略されます。
(ii)操縦者技能証明(制度)について
- 操縦技能者証明制度は、無人航空機の飛行につき必要となる技能について国土交通大臣が証明する制度です。
- 操縦者技能証明には一等、二等の区分が存在し、カテゴリーⅢ飛行においては一等の取得が必要となります。
四半期開示の見直しに関するディスクロージャーワーキング・グループ報告の公表
執筆:関本 正樹弁護士、峯岸 健太郎弁護士
2022年12月27日、四半期開示の見直しとサステナビリティに関する企業の取組の開示に関する金融審議会ディスクロージャー・ワーキング・グループ(以下「DWG」といいます)の報告書が公表されました(詳細は、弊所のNote記事「ポイント解説・金商法 #6:四半期開示の見直しに関するディスクロージャーワーキング・グループ報告」もご参照ください)。
DWG報告の概要
四半期開示の見直しについては、2022年6月13日に公表されたDWG報告において、コスト削減や開示の効率化の観点から、金融商品取引法の四半期報告書(第1・第3四半期)と取引所規則に基づく四半期決算短信を一本化する方向性が示されていました。今回のDWG報告を踏まえ、以下の要点のとおり、取引所規則や法改正が進められることになります。
- 投資家の要望が特に強い事項(セグメント情報、キャッシュ・フローの情報等)について、開示内容に追加。
- 監査人によるレビューを義務づけない(レビューを受けるか否か任意とし、その有無は開示する)。
- 会計不正が起こった場合(これに伴い、法定開示書類の提出が遅延した場合を含む)や企業の内部統制の不備が判明した場合、取引所規則により一定期間、監査人によるレビューを義務づける。
※要件や期間については、不適正開示等に対する実効性確保措置との関係も踏まえて検討を進める。
- 「一本化」後の四半期決算短信の虚偽記載に対してエンフォースメント(実効性確保措置)をより適切に実施していく。
※法令上のエンフォースメントについては現時点では不要とする(ただし、四半期決算短信を含む、取引所の適時開示について、相場変動を図る目的など、意図的で悪質な虚偽記載が行われた場合には、現行でも金融商品取引法上の罰則の対象となると考えられる)。
【半期報告書・臨時報告書】※法改正事項として具体的な検討・対応を進める
- 四半期報告書において、直近の有価証券報告書の記載内容から重要な変更があった場合に開示が求められてきた事項については、臨時報告書の提出事由とする。たとえば、「重要な契約(※)」について重要な変更があった場合や新たに契約締結を行った場合に臨時報告書の提出事由とする。
※①企業・株主間のガバナンスに関する合意、②企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意、③ローンと社債に付される財務上の特約
- 上場企業の半期報告書については、現行と同様、第2四半期報告書と同程度の記載内容と監査人のレビューを求め、提出期限を決算後45日以内とする。
- 非上場企業は、上場企業に義務づけられる半期報告書の枠組み(現行の第2四半期報告書と同程度の記載内容と監査人のレビュー、45日以内の提出)を選択可能とする。
- 半期報告書、臨時報告書および発行登録書の公衆縦覧期間について、有価証券報告書の公衆縦覧期間および課徴金の除斥期間である5年間に延長する。
四半期開示の見直し
今般、簡素化されてきた四半期決算短信の内容を再び充実させ、また、エンフォースメントを強化することで、法定開示(四半期報告書)は廃止し、適時開示(四半期決算短信)に一本化することになりました。
法定開示と適時開示
決算短信は取引所規則に基づいて開示するものであるため、今回のDWG報告の提言を踏まえ、取引所において、四半期決算短信の具体的な見直しが進められることになります。
適時開示の充実
今回のDWG報告では、コーポレートガバナンス・コードと同様に、ルールベース(細則主義)からプリンシプルベース(原則主義)にすることを取引所において継続的に検討していくことも提言されています。「継続的に」とされていることから、ただちに大幅な変更がなされることは考えにくいところですが、引き続き動向を注視する必要はあります。
より詳細な内容については、弊所のNote記事「ポイント解説・金商法 #6:四半期開示の見直しに関するディスクロージャーワーキング・グループ報告」をご覧ください。
「セキュリティトークン市場ワーキング・グループ中間整理(報告書)」の公表
執筆:所 悠人弁護士
2022年11月2日、一般社団法人日本STO協会は、同会内のセキュリティトークン市場ワーキング・グループが取りまとめた「中間整理報告書」を公表しました。
同報告は、セキュリティトークン(ST)市場の現状を踏まえ、ST流通市場における規制について以下の観点から整理をしています。
- 流通市場における規制の必要性
⇒ 主流となっている不動産STとREIT・不動産私募ファンド等を比較して規制の必要性を検討 - 規制が必要とされる分野
⇒ ①適時開示ルール、②資産運用報告書の記載項目・提供方法、③価格の算定および情報提示ルール - 不動産STに係る適時開示ルール等の整備について
⇒ 適時開示の主体、項目・内容、時期、方法、資産運用会社における適時開示態勢の整備について検討する必要 - 資産運用報告書の記載項目・提供方法
- 不動産STに係る価格情報ルールの整備について
⇒ 定義、基準価格および取引指標価格の算定、裏付資産の評価方法、基準価格の算定頻度、価格に関連する情報の適示について検討する必要
日本STO協会は、ST(正確には金融商品取引法上の「電子記録移転権利」および「適用除外電子記録移転権利」)を取り扱う第一種・第二種金融商品取引業に係る自主規制機関です。本報告は中間整理の段階ですが、今後、本報告を踏まえたさらなる検討を経て、日本証券業協会なども巻き込みながら、日本STO協会における自主規制ルールやガイドラインが策定されていくことが考えられるため、STに関わる事業者は議論の状況を注視する必要があります。
経済産業省「公正な買収の在り方に関する研究会」の設置
執筆者:大草 康平弁護士
2022年11月18日、公正なM&A市場を整備することを目的に、買収提案に関する当事者の行動の在り方や、買収防衛策の在り方等について検討するため、経済産業省において「公正な買収の在り方に関する研究会」が設置されました。
従前、買収防衛策に関して当局から公表されていた指針や報告書としては、①企業価値研究会「企業価値報告書」(2005年)、②経済産業省・法務省「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(2005年)、③企業価値研究会「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」(2008年)がありますが、それ以降、買収防衛策に関する研究会の設置や報告書・指針の公表はなされてはいませんでした。
他方で、近時では、上記の指針等では取り上げられていない有事導入型の買収防衛策の発動やその差止めを巡る司法判断(具体的には、日邦産業、日本アジアグループ、富士興産、東京機械製作所、三ッ星といった上場会社を対象とするもの)が相次ぎ、実務上大きな動きとなっていました。また、当初の買収提案を契機に第三者から新たな選択肢(対抗提案)がなされ、その評価を巡って見方が分かれるケースも増加しています。
以上のような動向を踏まえ、買収提案についての評価が買収者と対象会社で分かれるケース(同意なき買収や競合的な買収の場面等)を念頭に、買収を巡る両当事者にとっての予見可能性を向上させることや望ましい姿を示すこと等を通じ、企業価値を高める買収がより生じやすく(そうでないものは生じにくく)なるよう、研究会において、買収に関する当事者の行動の在り方等についての検討を行うこととされています。
本研究会は、2023年1月26日までで4回開催されているところ、今後、2023年春頃を目途に議論を取りまとめ、買収防衛策等に関する指針を策定(または改訂)することを目指すとされており、今後の議論の動向が注目されます。
経済産業省・スポーツ庁「スポーツDXレポート − スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会 − 」の公表
執筆:坂尾 佑平弁護士
2022年12月7日、経済産業省とスポーツ庁は、共同で立ち上げた「スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会」での検討結果を踏まえ、「スポーツDXレポート − スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会 − 」(以下「本レポート」といいます)を公表しました。
本レポートでは、「第1章 はじめに」において、スポーツDX(デジタルトランスフォーメーション)による主な事業環境の変化として、①視聴方法の変化(配信の拡大)、②データビジネスの広がり(ゲーム市場、スポーツベッティング市場の拡大)、③NFT等のWeb3.0時代の新しいサービスの台頭が挙げられています。
また、「第2章 DX時代のスポーツビジネスの特徴」において、①放送・配信、②データビジネス(ゲーム、海外スポーツベッティング)、③デジタル資産関係(NFT、スポーツトークン)に関する特徴や、国内外での状況が解説されています。
法務担当者として重要なのは、「第3章 DX時代のスポーツビジネスの法的課題」です。第3章では、以下の法的課題について整理がなされています。なお、肖像権・パブリシティ権の扱いについては、下記スポーツビジネスの横串の論点として別途整理がなされています。
分野 | 法的課題 | 整理 |
---|---|---|
放送・配信 | 試合を撮影して放送等する権利(放映権) |
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許諾を得ない映像作成行為およびその商業的利用に対して取りうる措置 |
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権利者の許諾に基づき作成された映像およびその放映 |
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データビジネス | スポーツにおけるデータ保護 |
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スタッツデータの保護に係る法律上の論点 |
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データを活用したサービス① ゲーム(ファンタジースポーツ) |
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データを活用したサービス② 海外スポーツベッティング |
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デジタル資産関係 | NFT |
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スポーツトークン |
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本レポートは、欧米におけるスポーツDXの新たな取組の最新の状況を紹介しつつ、日本でDXの取組を行う場合の法的なハードルや留意すべき事項の有無等について整理したものであり、スポーツビジネスに関わる企業にとって実務上参考になります。
質の高い炭素市場構築に向けた「パリ協定6条実施パートナーシップ」の立上げ
執筆:坂尾 佑平弁護士
2022年11月16日、国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)において、わが国の環境大臣が、質の高い炭素市場構築に向けた「パリ協定6条実施パートナーシップ」の立上げを宣言しました。
パリ協定とは、2015年に国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において採択され、2016年に発効した協定であり、京都議定書に代わる2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みです。パリ協定については、英文版のほか、日本語の仮訳文も公表されています。
パリ協定6条では、温室効果ガスの排出の削減量・除去量の国際的な移転に関する協力的取組、非市場の取組などについて定めており、パリ協定6条の実施により、脱炭素市場や民間投資が活性化され、世界全体の温室効果ガスがさらに削減されるとともに、経済成長にも寄与することが期待されています。
「パリ協定6条実施パートナーシップ」の概要は、環境省に2022年11月付けのConcept Paper of the Article 6 Implementation Partnershipにまとめられています。
そして、その活動内容については、環境省のウェブサイトにおいて、以下のとおりまとめられています。
- 6条ルール(NDC 1 への貢献、相当調整など)の理解促進
- 政府承認等を含む体制構築に向けた優良事例の共有
- 6条実施のための情報プラットフォームの構築
- 6条報告に関する相互学習や研修の実施
- 6条4項メカニズム方法論作成の支援
- 質の高い炭素市場の設計
ESGへの関心の高まりの中で、地球温暖化対策、脱炭素などはいっそう注目度を増しており、日本の国内法のみならず、グローバルでの動きも併せて把握する必要があります。
インドのデジタル個人情報保護法案(2022年版)の公表
執筆:井上 諒一弁護士、ディーパク シンマー外国法事務弁護士、樽田 貫人(M&Pアジア株式会社)
インドにおいて、2022年11月18日に、電子情報技術省は、デジタル個人情報保護法案(2022年版)を公表し、パブリックコメントに付しました。パブリックコメントの受付期間は、当初は2022年12月17日まででしたが、2023年1月2日まで延長されました。
現在、インドでは、以下の各法令に、個人情報の保護に関する規定が置かれていますが、個人情報保護に特化した法令はありません。
- 2000年技術法
- 2008年情報技術法(修正版)
- 2011年情報技術規則
今回のデジタル個人情報保護法案(2022年版)は、インドにおいて個人情報保護に特化した新しい法律の草案です。
デジタル個人情報保護法案(2022年版)では、新たなコンセプトとして「重要なデータ受託者」というコンセプトが設けられ、これに該当する場合にはデータ保護責任者、データ監査人を任命し、データの影響評価や監査等の対応が求められます。また、個人情報保護規制違反に対する罰則も、現行の50万インドルピー(約81万円)から、最高50億インドルピー(約81億円)へと大幅に引き上げられています。
インドのデジタル個人情報保護法案(2022年版)の詳細な説明については、弊所のNote記事「インド最新法令UPDATE Vol.4:インドのデジタル個人情報保護法案(2022年版)について」をご覧ください。
Uber Japan事件 - Uber配達員の労働組合法上の労働者性に関する東京都労働委員会の命令
執筆:菅原 裕人弁護士
2022年11月25日、東京都労働委員会は、Uber Japan株式会社およびUber Eats Japan合同会社に対して、Uber Eatsの配達パートナーで構成されるウーバーイーツユニオンとの団体交渉に誠実に応じなければならないこと等の命令(以下「本命令」といいます)を下しました。
本命令では、プラットフォームを利用して業務を遂行する配達パートナーの労働組合法上の「労働者」に該当するかが争点となりました。
東京都労働委員会は、本命令において、以下①~⑥のとおり労働組合法上の労働者性の判断要素に照らして検討しました。
- 事業組織への組入れの事情については、Uber Eatsのほとんどの配達を配達パートナー行い、その結果を評価されたりすることや、配達パートナーへのアカウント停止措置があること等から、配達パートナーが会社の事業の遂行に不可欠な労働力として確保され、事業組織に組み入れられていたとして、この要素を肯定しました。
- 契約内容の一方的・定型的決定をしているかという点についても、配達パートナーが会社と個別に交渉することなく一方的に決められていると肯定しました。
- 報酬についても、実態として労務提供に対する対価であるとして、報酬の労務対価性を認めました。
- 他方で、配達パートナーには配達について応じるか否かの諾否の自由が認められているため、配達パートナーが会社の業務の依頼に応ずべき関係にはないとしました。
- 配達パートナーがどの時間にどこで勤務するかも自由であることが認められており、一定の時間的場所的拘束は認められないとしました。もっとも、この点については、配達パートナーが広い意味での指揮監督下で労務提供をしているものと判断しました。
- 配達パートナーは、配達に関して、独自に固有の顧客を獲得することや、他人労働力を利用することはできず、自己の才覚で利得する機会はほとんどなく、配送事業のリスクを負っているともいえないこと等から顕著な事業者性は認められないとしました。
東京都労働委員会は、本命令において、これらの事情を総合的に勘案した結果、配達パートナーは、労働組合法上の労働者に当たると判断しました。
本命令は、ギグワーカーとして初めて労働組合法上の労働者であることが肯定された事案ですが、他のギグワーカーの事例にも共通する点があるものと思われ、本事件と同様にギグワーカーで構成された労働組合が結成された場合には対応に注意を要することになります。
もっとも、本事件は、現在、Uber Japan株式会社およびUber Eats Japan合同会社が中央労働委員会に再審査申立てをしているため、未だ確定していません。引き続き注視すべき事案となります。
なお、本稿では、労働組合法上の労働者性に焦点を当てましたが、Uber Japan株式会社およびUber Eats Japan合同会社が労働組合法上の使用者に当たるかも争点となっており、その点も興味深い事例です。
家賃保証契約に定められた、いわゆる「追い出し条項」が無効であると判断された事例(最高裁令和4年12月12日判決)
執筆:磯田 翔弁護士
賃貸物件の賃料等の支払いを2か月以上滞納して連絡も取れない場合等に、借主が物件を明け渡したものとみなす契約条項(以下「追い出し条項」といいます)の有効性につき、最高裁判所は、2022年12月12日、初めての判断を行いました(以下「本判決」といいます)(最高裁令和4年12月12日判決)。
本判決の事案は、適格消費者団体が、借主と家賃保証会社との間で締結された家賃保証契約における追い出し条項につき、消費者契約法に違反するとして差止めを求めた事案です。
賃貸物件では、借主の入居にあたって、借主が賃料等を滞納した場合に家賃保証会社が立替払いを行う家賃保証契約の締結を求める場合があります。問題となった家賃保証契約では、以下の4要件を満たす場合、家賃保証会社は、借主の明示的な異議がない限り、物件の明け渡しがあったものとみなすことができる追い出し条項が定められていました。
- 賃料等の支払いを2か月以上滞納したこと
- 合理的な手段を尽くしても借主と連絡がとれないこと
- 電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から物件を相当期間利用していないと認められること
- 物件を再び占有使用しない借主の意思が客観的に看取できる事情があること
本判決が、このような追い出し条項につき消費者契約法に違反し無効であるとした主な判断理由は、以下のとおりです。
- 家賃保証会社には、貸主と借主との間の賃貸借契約を終了させる権限は付与されていないこと
- 借主は、賃貸物件の使用収益権が消滅していないにもかかわらず、賃貸借契約の当事者ではない家賃保証会社の一存でその使用収益権が制限されてしまうこと
- 借主が法律に定める手続によることなく明け渡しが実現されること
- 上記の要件④は、その内容が一義的に明らかではないこと
- 借主が異議を述べる機会が確保されておらず、借主の不利益を回避する手段として十分ではないこと
民法上、借主が賃料等を滞納していたとしても、貸主は、借主が残置した動産等を撤去して、法的手続によらず自力救済を行うことは許されていません。本判決は、家賃保証会社による借主の追い出しも自力救済に当たるため認められないとするものです。
もっとも、本判決は、借主と家賃保証会社との間で締結された家賃保証契約における追い出し条項の有効性につき判断されたものであって、貸主と借主との間の賃貸借契約における条項につき判断されたものではありません。そのため、貸主と借主との賃貸借契約における追い出し条項の有効性については、今後の議論や動向を注視する必要があります。
なお、本判決では、借主が賃料等の支払いを3か月分以上遅滞した場合には、家賃保証会社が無催告で賃貸借契約を解除することができるという無催告解除条項についても、違法であると判示されています。
不動産賃賃貸借において、家賃保証契約は、貸主にとって借主の親族等の連帯保証人よりも滞納賃料等を確実に回収できるという利点があり、実務上利用が広がっています。本判決を踏まえて、家賃保証契約の見直しが必要になるでしょう。
-
NDCとは、Nationally Determined Contributions(国が決定する貢献)の略称であり、環境省のウェブサイトにおいて、地球温暖化対策に関する日本のNDCが公表されています。 ↩︎
シリーズ一覧全14件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
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- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向