Legal Update

第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向

法務部

シリーズ一覧全44件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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目次

  1. 2024年4月施行の労働関係法令
    1. 労働契約締結時・求人募集時における労働条件明示義務に関する変更
    2. 裁量労働制に関する変更
    3. 時間外労働の上限規制の適用(いわゆる2024年問題)
    4. 障害者雇用に関する変更
    5. 障害者に対する合理的配慮義務
  2. 2024年4月施行の知的財産法制に関する改正
    1. 商標法改正
    2. 不正競争防止法改正
  3. 改正建築物省エネ法の一部施行
  4. 改正再エネ特措法の施行
  5. 経済産業省「外国公務員贈賄防止指針」の改訂
  6. 文化庁「AIと著作権に関する考え方について(素案)」(令和6年2月29日時点版)およびパブリックコメント結果の公表
  7. 「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」報告書の公表
  8. 『社外取締役のことはじめ』の公表
  9. 主要株主が制度信用取引により取得した買い建玉を現物化する目的で行ったクロス取引が短期売買利益提供義務の類型的適用除外取引に該当しないとされた事例(東京地裁令和5年12月6日判決)
    1. 金商法の短期売買利益提供規制(インサイダー取引規制)
    2. 短期売買利益提供規制をめぐる裁判例(平成14年最判)
    3. 類型的適用除外取引の該当性

 本稿では、まず2024年4月1日に施行された以下の改正法等を取り上げます。

労働関係法令
  • 労働契約締結時・求人募集時における労働条件明示義務に関する変更
  • 裁量労働制に関する変更
  • 時間外労働の上限規制の適用(いわゆる2024年問題)
  • 障害者雇用に関する変更
  • 障害者に対する合理的配慮義務
知的財産法制
  • 改正商標法
  • 改正不正競争防止法
その他
  • 改正建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)(一部施行)
  • 改正再エネ特措法(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法)

 そのほかの最新動向は以下のとおりです。
 2024年2月、経済産業省は「外国公務員贈賄防止指針」の改訂版を公表しました。2024年4月1日施行予定の不正競争防止法改正を踏まえたアップデートのほか、内容改訂がされています。

 同年2月29日、文化庁は、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」(令和6年2月29日時点版)、および、同年1月から実施されたパブリックコメントの結果を公表しました。今回公表の令和6年2月29日時点版で示された新たな内容をとりあげポイント解説します。

 同年1月19日、公正取引委員会から、「『特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会』報告書」が公表されました。特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆる「フリーランス新法」)が「政令で定める」または「公正取引委員会規則で定める」と規定した事項について、定めるべき内容の方向性が示されています。

 同年1月25日、経済産業省、金融庁および東京証券取引所が共同で策定した、社外取締役向けリーフレット「社外取締役のことはじめ」が公表されました。新任や経験年数の浅い社外取締役に向けた内容がまとめられ、コーポレートガバナンス・コードや、社外取締役のあり方に関する実務指針等が参照しやすく活用が期待されます。

 そのほか、金融商品取引法に基づき短期売買取引による利益の提供を求める訴訟の東京地裁判決を解説します。

 編集代表:所 悠人弁護士(三浦法律事務所)

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2023年12月6日 主要株主が制度信用取引により取得した買い建玉を現物化する目的で行ったクロス取引が短期売買利益提供義務の類型的適用除外取引に該当しないとされた事例(東京地裁令和5年12月6日判決)
2024年1月19日 「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」報告書の公表
2024年1月25日 『社外取締役のことはじめ』の公表
2024年2月 経済産業省「外国公務員贈賄防止指針」の改訂
2024年2月29日 文化庁「AIと著作権に関する考え方について(素案)」(令和6年2月29日時点版)およびパブリックコメント結果の公表
2024年4月1日 2024年4月施行の労働関係法令
2024年4月1日 2024年4月施行の知的財産法制に関する改正
2024年4月1日 改正建築物省エネ法の一部施行
2024年4月1日 改正再エネ特措法の施行

2024年4月施行の労働関係法令

 執筆:河尻 拓之弁護士、岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士

   2024年4月1日より、労働関係法令に関する以下1-11-5の改正が施行されます。それぞれの詳細については、以下に引用する本連載記事のほか、弊所Note記事「労働法UPDATE Vol.9:労働法改正Catch Up & Remind①~2024年4月施行の法改正~」をご参照ください。

労働契約締結時・求人募集時における労働条件明示義務に関する変更

 2024年4月1日以降に新たに締結・更新される労働契約において、労働者に対して明示すべき労働条件の内容が変更されます。
 詳細については、本連載第23回「2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「2 労働条件明示等に関するQ&A・モデル労働条件通知書の公表(2024年4月施行:労働基準法施行規則等の改正)」をご参照ください。

 また上記改正に連動した職業安定法施行規則の改正により、2024年4月1日以降、企業が労働者を募集する際に明示すべき労働条件についても同様に変更されているため、求人票等の記載事項についても併せて確認が必要です。

裁量労働制に関する変更

 2024年4月1日以降、専門業務型裁量労働制について、対象業務にM&Aアドバイザリー業務が追加されるとともに、適用対象となる労働者本人の同意を得ること等、裁量労働制の導入・継続にあたって新たな手続が必要になります。
 また、企画業務型裁量労働制についても、労使委員会の運用等に関する改正が施行されます。
 詳細については、本連載第21回「2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「1 裁量労働制の改正に関する通達・Q&Aの公表」をご参照ください。

関連資料

時間外労働の上限規制の適用(いわゆる2024年問題)

 2018年に成立した働き方改革関連法によって導入された時間外労働の上限規制について、建設業、トラック輸送業、医師等において適用を猶予されておりましたが、その猶予期間がいよいよ終了し、2024年4月1日から時間外労働の上限規制が適用されます。これらの対象業種に該当する事業者は、2024年4月1日以降、かかる上限規制を前提とした就労体制を構築する必要があります。

関連資料

障害者雇用に関する変更

 2024年4月1日以降、企業における障害者の法定雇用率がこれまでの2.3%から2.5%に引き上げられます。これにより、これまでは従業員数43.5人以上の企業が障害者雇用義務(障害者雇用促進法43条1項)の対象でしたが、2024年4月1日以降は、従業員数40.0人以上の企業まで対象が拡大されます。
 さらに先のことではありますが、2026年7月には、障害者の法定雇用率が2.7%に引き上げられ、従業員数37.5人以上の企業が障害者雇用義務の対象になるため、計画的な障害者雇用を進めていくことが求められます。
 なお、上記法定雇用率の算定に関し、特に短い時間(週所定労働時間が10時間以上20時間未満)で働く重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者を雇用した場合、1人をもって0.5人分として算定できるようになります。

障害者に対する合理的配慮義務

 2024年4月1日以降は、企業に対し障害者への合理的配慮が義務付けられます(障害者差別解消法8条2項)。これまでは努力義務でしたが義務化されました。
 企業において、障害者から合理的配慮が必要である旨の意思表明がされた場合は、以下の基本方針や事例集を踏まえた対応が求められますので、あらかじめ対応を検討しておくことが有用です。

2024年4月施行の知的財産法制に関する改正

 執筆:遠藤 祥史弁護士

 2024年4月1日より、2023年6月14日に公布された「不正競争防止法等の一部を改正する法律」に基づき、知的財産法制に関する以下の改正が施行されます。

商標法改正

 主な改正項目は、①コンセント制度の導入、②他人の氏名を含む商標の登録要件緩和の2点です。
 また、本改正に対応するために商標審査基準が改訂され、2024年4月1日以降の出願から「商標審査基準〔改訂第16版〕」が適用されますので、その内容を確認することが重要です。

 改正の詳細については、下記の記事をご参照ください。

不正競争防止法改正

 主な改正項目は、①デジタル空間における模倣行為の防止、②営業秘密・限定提供データの保護の強化、③外国公務員贈賄の罰則の強化・拡充、④国際的な営業秘密事案における手続の明確化の4点です。

 改正の詳細については、下記の記事をご参照ください。

改正建築物省エネ法の一部施行

 執筆:坂尾 佑平弁護士

 2024年4月1日に、改正建築物省エネ法(正式名称:建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)の一部が施行されました。

 同法は、2022年6月17日に公布され、様々な制度が段階的に施行されてきました。
 2022年9月1日には住宅の省エネ改修に対する住宅金融支援機構による低利融資制度、2023年4月1日には、①住宅トップランナー制度の拡充、②採光規制等の合理化、③省エネ改修や際エネ設備の導入の支障となる高さ制限等の合理化などに関する部分が施行されました。

 2024年4月1日には、新たに、①建築物の販売・賃貸時における省エネ性能表示、②再エネ利用促進区域制度、③防火規制の合理化などに関する部分が施行されました。
 このうち、事業者にとって特に重要と思われるのは、①建築物の販売・賃貸時における省エネ性能表示です。これは、住宅や建築物を販売・賃貸する事業者に対して、省エネルギー性能を表示する努力義務を課すものです。努力義務ではあるものの、告示に従った表示(省エネ性能ラベル)をしない事業者に対しては、当面は社会的な影響が大きい新築に対して実施する予定との留保付きではありますが、勧告、公表、命令などがなされ得るため、注意が必要です。

 省エネ性能表示制度については、国土交通省が特設サイトを設け、各種資料をまとめているので、詳細は当該サイトをご参照ください。改正建築物省エネ法は、様々な新制度を創設しているところ、適用対象となる企業は、同法の内容を把握した上で、適切に遵守・対応をしていく必要があります。

改正再エネ特措法の施行

 執筆:坂尾 佑平弁護士

 2024年4月1日、改正再エネ特措法(正式名称:再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法)が施行されました。
 2023年5月31日、同法の改正を含むGX脱炭素電源法(正式名称:脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律)が成立し、同年6月7日に公布されました。

 改正再エネ特措法のうち、FIT(Feed-in Tariff:再生エネルギーの固定価格買取制度)/FIP(Feed-in Premium:再生エネルギーの市場連動型買取制度)認定手続の厳格化(災害の危険性に直接影響を及ぼし得る土地開発に関わる森林法における林地開発許可、宅地造成および特定盛土等規制法の許可、砂防三法における許可のFIT/FIP申請前取得)については、先んじて同年10月1日に施行されました。

 2024年4月1日施行の改正のポイントは、①説明会等のFIT/FIP認定要件化、②認定事業者の委託先・再委託先に対する監督義務、③違反時のFIT/FIP交付金を一時停止する措置等、④太陽光パネルの増設・更新に伴う価格変更ルール見直しなど、多岐にわたります。
 このうち、事業者にとって特に重要と思われるのは、①説明会等のFIT/FIP認定要件化です。
 これは、再生エネルギー設備導入に当たり地域住民からの反対運動等が各地で発生していたことを背景とするもので、住民説明会において説明すべき事項や説明会の対象となる「周辺地域の住民」の範囲などが詳細に定められています

 改正再エネ特措法については、資源エネルギー庁の特設サイトにおいて各種資料をまとめているので、詳細は当該サイトをご参照ください。改正再エネ特措法は、新しい制度や義務を創設しているところ、適用対象となる企業は、同法の内容を把握した上で、適切に遵守・対応をしていく必要があります。

経済産業省「外国公務員贈賄防止指針」の改訂

 執筆:坂尾 佑平弁護士

 2024年2月、経済産業省は「外国公務員贈賄防止指針」(以下「本指針」といいます)の改訂版を公表しました。
 改訂版は、2024年4月1日施行予定の不正競争防止法改正を踏まえたアップデートに加えて、大要、以下の修正がなされています。

  • スモール・ファシリテーション・ペイメント(SFP)に関する記載の修正
  • 海外子会社・支店の従業員による贈賄行為について親会社(本社)に処罰が及ぶケースの明確化
  • 外国公務員贈賄罪の適用事例のアップデート
  • 外国公務員贈賄防止体制の構築に関する記載の充実

 不正競争防止法改正および本指針の改訂については、弊所のNote記事「危機管理INSIGHTS Vol.14:外国公務員贈賄規制の勘所④-2023年不正競争防止法改正による規制強化-」、および「危機管理INSIGHTS Vol.17:外国公務員贈賄規制の勘所⑤-【速報】2024年2月の外国公務員贈賄防止指針改訂-」をご参照ください。

 国内の贈収賄事案も相次いでいるところ、これらの法改正・本指針の改訂を契機として、社内の贈賄防止全般の制度や規程を点検するとともに、贈賄防止に関する研修等を実施することが望ましいと考えられます。

文化庁「AIと著作権に関する考え方について(素案)」(令和6年2月29日時点版)およびパブリックコメント結果の公表

 執筆:橋爪 航弁護士

 2024年2月29日、文化庁より「AIと著作権に関する考え方について(素案)(令和6年1月23日時点版)」について実施されていたパブリックコメントの結果・回答が公表され、パブコメに表れた法解釈に関する意見を反映させた、「AIと著作権に関する考え方について(素案)(令和6年2月29日時点版)」(以下「本考え方」といいます)が公表されました。
 意見提出数は3週間で約2万5,000件にのぼり、世間の関心の高さが垣間見えます。
 2023年1月23日に公表された素案との見え消し版はこちらをご参照ください。

 「AIと著作権に関する考え方について(素案)(令和6年1月23日時点版)」の概要については、本連載第26回「2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「2 文化庁『AIと著作権に関する考え方について(素案)』の公表・パブリックコメント開始」をご参照ください。

 本記事では主に、本考え方において新たに規定された内容について、その概要を説明します。

① 開発・学習段階
  • 検討の前提

    ・開発・学習段階では、AI(学習済みモデル)作成のための事前学習や、既存の学習済みモデルに対する追加的学習の場面を設定し、場面ごとに著作権法との関係の検討が必要である旨を指摘。


  • 「非享受目的」(著作権法30条の4)に該当する場合について

    ・「作風」はアイデアにとどまるものであるため「作風」が共通すること自体は著作権侵害となるものではないという原則論を明示。

    ・開発・学習段階における享受目的の有無は、開発・学習段階における利用行為の時点でどのような目的を有していたかが問題となることを明示。


  • 「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」(著作権法30条の4ただし書)について

    ・ウェブサイト等において、学習のための複製等を防止する技術的な措置が施されている場合に、当該措置を回避して多数のデータを収集して、AI学習のために当該データベースの著作物の複製等をする行為は、ただし書に該当して著作権法30条の4による権利制限の対象とはならないと考えられるところ、かかる技術的な措置が施されている場合の説明として、実際にかかる措置が講じられていることに加えて、過去の実績(情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の作成実績や、そのライセンス取引に関する実績等)といった事実も考慮されることを明示。

② 生成・利用段階
  • 侵害に対する措置について

    ・生成AIによる生成物について、生成・利用段階において、既存の著作物との類似性および依拠性が認められて著作権侵害となる場合でも、どのような措置(差止請求・損害賠償請求・刑事罰)を受け得るかは、行為者の故意または過失の有無によるという原則論をあらためて明示。

③ 生成物の著作物性
  • 整理の前提および整理することの意義・実益について

    ・AIは法的な人格を有しないため、「著作者」(「著作物を創作する者」(著作権法2条1項2号))には該当し得ないこと、そのためAI生成物が著作物に該当する場合でも、当該AI生成物(著作物)の著作者はAI自身ではなく、当該AIを利用して「著作物を創作した」人となることを指摘。

    ・創作作品の一部分にAI生成物を用いた場合、AI生成物の著作物性が問題となるのは、当該AI生成物が用いられた一部分についてのみで、仮に当該一部分について著作物性が否定されたとしても、当該作品中の他の部分、すなわち人間が創作した部分についてまで著作物性が否定されるものではないことを指摘。

④ おわりに

・ただちに著作権法の改正を行うべきといった立法論を内容とするものではない旨に言及。

・各国におけるAIと著作権に関する検討について言及し、各国の動向 1 が我が国に及ぼす影響等も踏まえつつ、検討を行うことが必要となると考えられると指摘。

・民間の当事者間(AI開発事業者・AIサービス提供事業者・AI利用者および権利者に加えて、個人のクリエイターやその表現の場となるコンテンツ投稿プラットフォーム事業者等)による適切な関与 2 の必要性に言及。


 本考え方は、あくまで生成AIと著作権についての考え方を示すものであり法的な拘束力を有するものではなく、現時点での確定的な法的評価を行うものではありません
 現時点での著作権法改正は想定されていないことから、現行の著作権法の解釈 3 を広く平易に記載することで、AI開発事業者・AIサービス提供事業者・AI利用者および権利者に加えて、個人のクリエイターやその表現の場となるコンテンツ投稿プラットフォーム事業者等の民間の当事者が参考にしやすい粒度へと調整がされています。

 また、生成AIと社会との関わり方について、著作権法以外の分野での検討も参照すべきとされ、一例として総務省および経済産業省においてとりまとめられるAI関係の事業者向けの統一的なガイドライン「AI事業者ガイドライン」が挙げられています 4
 本考え方が示すように、AI開発事業者、AIサービス提供事業者、AI利用者および権利者、そして個人のクリエイターやその表現の場となるコンテンツ投稿プラットフォーム事業者等においては、著作権法の観点に限らない広い分野での検討・関与が求められています

「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」報告書の公表

 執筆:遠藤 祥史弁護士

 2024年1月19日、公正取引委員会は「『特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会』報告書」(以下「本報告書」といいます)を公表しました。
 本報告書においては、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス新法」といいます)が「政令で定める」または「公正取引委員会規則で定める」と規定した事項について、定めるべき内容の方向性が示されました

 本報告書において示された政令・公正取引委員会規則の具体的な内容は、下表のとおりです。

政令に委任する事項
フリーランス新法
条文番号
政令への委任事項 政令の方向性
5条1項 5条1項の適用対象となる業務委託契約の
期間の下限
期間の下限は「1か月」とする
公正取引委員会規則に委任する事項
フリーランス新法
条文番号
公正取引委員会規則への委任事項 公正取引委員会規則の方向性
3条1項 業務委託をした場合に特定受託事業者に対して明示しなければならない事項(明示事項)
  1. 下請法3条の書面の記載事項とされている項目は、本法においても明示事項とする
  2. デジタル払い(報酬の資金移動業者の口座への支払)を用いる場合に必要となる事項について明示事項とする
3条1項 電磁的方法の具体的内容 電磁的方法は、SNSも含めて電磁的方法を広く認める
3条1項 書面または電磁的方法により明示する場合の方法 書面により明示する場合は書面の交付
電磁的方法により明示する場合は電磁的方法による提供
3条2項 書面交付請求があった場合の交付方法

 また、本報告書は、政令や公正取引委員会規則に盛り込まないとしても、公正取引委員会がガイドライン等において考え方を明らかにすることが期待される事項についても言及しており、この点においても参考になります。

 政令・公正取引委員会規則によって、フリーランス新法に基づく発注者(業務委託事業者)側の義務の内容が具体化されることになるのに加えて、フリーランス新法の施行期日が「公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日」と規定されていることから、フリーランスに対する業務委託を行う企業は、政令・公正取引委員会規則の制定状況を引き続き注視していく必要があります。

『社外取締役のことはじめ』の公表

 執筆:小林 智洋弁護士

 2024年1月25日、経済産業省、金融庁および東京証券取引所が共同で策定した、社外取締役向けリーフレット「社外取締役のことはじめ」(以下「本リーフレット」といいます)が公表されました。

 本リーフレットは、社外取締役の活躍が企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上の鍵となることを背景として、社外取締役の質の向上に向けた取組みの一環として、新任や経験年数の浅い社外取締役に「まずはじめに知っておいていただきたい内容」を周知するため、策定されたものです。企業の担当者から、社外取締役に対し交付され、意見交換のために使用されることなどが期待されています。

 本リーフレットは、社外取締役が知っておくべきこととして、期待される役割・機能や心得を含む5つの項目に区分され、さらに各項目の具体的内容が、コーポレートガバナンス・コードや、社外取締役のあり方に関する実務指針等から抜粋されています。

知っておくべきこと 具体的内容
取締役会の役割・責務
  1. 企業戦略等の大きな方向性を示す
  2. 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行う
  3. 独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行う
社外取締役自身に期待される
役割・機能
一般的に期待される4つの役割 具体的な行動の在り方
  1. 経営方針や経営改善についての助言
  2. 経営の監督
  3. 利益相反の監督
  4. 少数株主をはじめとするステークホルダーの意見の反映

就任時:会社側と協議の上、自らのミッションを明確に認識する

就任後:取締役会に対し能動的に働きかける

  1. 適切なアジェンダセッティング
  2. 活性化のための運営上の工夫等
5つの心得
  1. 最も重要な役割は、経営の監督であり、その中核は経営陣の評価と指名・報酬の決定
  2. 社内のしがらみにとらわれず、会社の持続的成長に向けた経営戦略を考える
  3. 業務執行から独立した立場から、経営陣に対して遠慮せずに発言・行動する
  4. 経営陣と、適度な緊張感・距離感を保ちつつ、信頼関係を築く
  5. 会社と経営陣・支配株主等との利益相反を監督する
必要な知識・スキル
  1. 財務・会計・法務を含む、企業経営に関する基礎的な知識・知見等のミニマム・スタンダードとして必要な最低限のリテラシー
  2. 各社外取締役の役割・機能に応じて求められる特有の知識・知見について、不足を感じた場合は、研修・トレーニングも活用しながら、継続的に向上に努める
就任先企業のこと その役割・責務を実効的に果たすために、就任先企業について、能動的に情報を入手する
就任前/就任時:就任先企業からの説明
就任期間中
  1. 就任先企業からの説明、
  2. 執行役員クラスまで含めた経営陣や事業部門とのディスカッション、
  3. 現地視察における意見交換、監査役等や内部監査部門との情報交換等

 本リーフレットが有効活用され、社外取締役の質の向上、ひいては企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上につながることが期待されます。

主要株主が制度信用取引により取得した買い建玉を現物化する目的で行ったクロス取引が短期売買利益提供義務の類型的適用除外取引に該当しないとされた事例(東京地裁令和5年12月6日判決)

 執筆:小林 智洋弁護士、大草 康平弁護士、寺田 昌弘弁護士

 本件は、上場会社(以下「会社」といいます)の支配権取得を企図した主要株主(以下「主要株主」といいます)が、制度信用取引により取得した買い建玉を、臨時株主総会の基準日前に現物化する目的で行ったクロス取引(同日・同数・同価格での信用取引による買い建玉の売付けおよび現物の買付け。下表2021年9月6日参照)に関し、会社が、主要株主は当該取引により利益を得たとして、金融商品取引法(以下「金商法」といいます)164条1項に基づき短期売買利益約19億円の提供を求めた事例です(東京地裁令和5年12月6日判決)。2024年4月現在、控訴審が係属中です。

2021年6月頃 主要株主、市場内買付けにより会社株式の取得を開始
同年7月21日 主要株主、市場内買付け(信用取引を含む)により同日までに282万6,000株取得(32.72%)
同年7月26日 日本証券金融株式会社(以下「日証金」といいます)による会社株式の貸借取引の申込停止措置
同年8月30日 会社による買収防衛策発動に係る株主意思確認総会の基準日公表
同年9月6日 主要株主による会社株式(信用取引による買い建玉)162万100株の売付け
同年9月6日 主要株主による会社株式(現物株式)162万100株の買付け
同年9月14日 買収防衛策発動に係る株主意思確認総会の基準日
同年10月12日 主要株主による売買報告書提出
2022年5月16日 会社による主要株主に対する短期売買利益の返還請求(後日提訴)

金商法の短期売買利益提供規制(インサイダー取引規制)

 金商法が定める短期売買利益提供規制は、インサイダー取引規制の重要な一部であり、上場会社の役員および主要株主(議決権10%以上を保有する株主)に、当該上場会社株式の買付けまたは売付けを行った場合の取引内容の報告義務を課しています(金商法163条)。また、6か月以内の反対売買により利益を得た場合には、会社にその利益を返還する義務を課しています(同法164条)。

 規制の趣旨は、会社内部の未公表情報(以下「内部情報」といいます)を取得できる立場にある者に対し取引による利益の吐き出し等を義務付けることで、インサイダー取引など内部情報の不当利用を防止することにあります。ただし、一定類型の取引(所有する新株予約権の行使等)については適用除外とされています(同条8項、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令(以下「府令」といいます)33条、同30条1項各号)。

短期売買利益提供規制をめぐる裁判例(平成14年最判)

 本件でその射程が争われた金商法164条1項に関する重要判例には、短期売買利益返還請求事件(最高裁平成14年2月13日判決・民集56巻2号331頁)(以下「平成14年最判」といいます)があります。

 平成14年最判では、主要株主が分散保有のため同一グループ法人間で行った株式譲渡について、短期売買利益提供規制の合憲性および適用の有無が論点となりました。
 最高裁は、①府令30条1項各号の場合以外でも、類型的に取引態様自体から内部情報の不当利用のおそれのない取引(以下「類型的適用除外取引」といいます)には金商法164条1項は適用されないと限定解釈を行い、短期売買利益提供規制の合憲性を認めたうえで、②グループ法人間の株式譲渡は類型的適用除外取引には当たらないとし、③金商法164条1項の適用に際しては主要株主等が内部情報を実際に不当利用したか否かは問わないとして、上場会社の請求を認めました。
 この平成14年最判が認めた類型的適用除外取引の範囲については様々な議論があり、その外延は未だ明確でありません。

類型的適用除外取引の該当性

 本件では、主要株主が行った信用取引による買い建玉の現物化のためのクロス取引が、平成14年最判が認めた類型的適用除外取引に該当するか否かが争われました。

 ポイントは、主要株主が株主意思確認総会の基準日までに、保有していた株式(買い建玉)を現物化する必要があったところ、日証金により貸借取引の申込停止措置がとられていたため現引き(信用取引にあたって証券会社から借り入れた金銭の返済による現物株式の取得)を選択できない状況にある中で、買い建玉の売付けおよび現物株式の買付けが同時に行われた点です。

 裁判所は、①主要株主が、かかる売買により、制度信用取引における証券会社からの借入れの金利負担を免れる点、および、現物株式の取得により株主権の行使が可能となる点において投資ポジションが異なっており、主要株主は、当該ポジションの変化を踏まえ投資判断を行っているのであるから内部情報の不当利用の余地があった、また、②主要株主による反対売買は法的に強制されたものではなく、あくまでも自己の経営目的のために任意で行った取引であったとして、類型的適用除外取引該当性を否定し、利益提供を求める会社の請求を認めました。

 本件は、平成14年最判が認めた類型的適用除外取引の射程が初めて判断された極めて重要な裁判例であり、控訴審の判断も注目されます。


  1. 具体的には、米国ではフェア・ユースとの関係を含むAIと著作権に関する複数の訴訟が進行中であること、EUでは「デジタル単一市場における著作権及び隣接権に関する指令」(DSM指令)においてAI学習データの収集を含むテキスト・データマイニングのための権利制限規定を設けることが加盟国に義務付けられているほか、AIに関する包括的な規制を設け、EU域外の事業者への適用も一部盛り込むAI規則案(AI Act)が立法過程にあることに言及しています。 ↩︎

  2. 生成AIに関する著作物の利用についての適切なルール・ガイドラインの策定や、生成AIおよびこれに関する技術についての共通理解の獲得、AI学習等のための著作物のライセンス等の実施状況、海賊版を掲載したウェブサイトに関する情報の共有などが図られることが、AIの適正な開発および利用の環境を実現する観点から重要であるとしています。 ↩︎

  3. 著作権法で保護される「著作物」について「著作権法は、著作物に該当する創作的表現を保護し、思想、学説、作風等のアイデアは保護しない(いわゆる「表現・アイデア二分論」)。この理由としては、アイデアを著作権法において保護することとした場合、アイデアが共通する表現活動が制限されてしまい表現の自由や学問の自由と抵触し得ること、また、アイデアは保護せず自由に利用できるものとした方が、社会における具体的な作品や情報の豊富化に繋がり、文化の発展という著作権法の目的に資すること等が挙げられる。」という内容を検討の前提として追記しています。 ↩︎

  4. 本記事執筆時点(2024年2月29日)では、「AI事業者ガイドライン案」に関する意見募集期間は終了しているものの、その結果は公表されておりません。 ↩︎

シリーズ一覧全44件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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