Legal Update

第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向

法務部

シリーズ一覧全44件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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目次

  1. 「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法)の成立
  2. 改正刑事訴訟法等の成立(保釈中の被告人等の海外逃亡防止のための法整備)
  3. 改正私立学校法の成立(私立学校・学校法人のガバナンス改革を推進するための制度改正)
  4. 改正道路交通法の施行(電動キックボードの新たなルールがスタート)
  5. 改正消費生活用製品安全法施行令の施行(マグネットセットや水で膨らむボールの製品販売禁止)
  6. 経済産業省「スタートアップの成長に向けた規制対応・規制改革参画ツールの活用に関するガイダンス」の公表
  7. 環境省「環境デュー・ディリジェンスに関するハンドブック」の公表
    1. 環境DDハンドブックの背景と目的
    2. 環境DDハンドブックが示す環境DDの実践方法の概要
    3. 環境DDに関する海外の動向(参考情報)

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2023年4月26日 改正私立学校法の成立(私立学校・学校法人のガバナンス改革を推進するための制度改正)
2023年4月26日 経済産業省「スタートアップの成長に向けた規制対応・規制改革参画ツールの活用に関するガイダンス」の公表
2023年4月28日 「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法)の成立
2023年5月8日 環境省「環境デュー・ディリジェンスに関するハンドブック」の公表
2023年5月10日 改正刑事訴訟法等の成立(保釈中の被告人等の海外逃亡防止のための法整備)
2023年6月19日 改正消費生活用製品安全法施行令の施行(マグネットセットや水で膨らむボールの製品販売禁止)
2023年7月1日 改正道路交通法の施行(電動キックボードの新たなルールがスタート)

 2023年4月28日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」(いわゆる「フリーランス新法」)が国会で成立しました。フリーランス新法は、フリーランスが不当な不利益を受けることがなく、安定的に働くことができる環境を整えることを目的とする法律です。新法の概要を解説します。

 同年5月10日、改正刑事訴訟法が国会で成立しました。主に保釈中の被告人が海外に逃亡した事案を背景に、保釈中の被告人等の海外逃亡を防止し、公判期日等への出頭および裁判の執行を確保するための規定整備がされました。

 同年4月26日、改正私立学校法が国会で成立しました。私立大学を巡る不祥事の続発を背景とする本改正の趣旨から、学校法人の実効性のあるガバナンス(組織統治)の改革を推進することが求められるようになります。私立大学の担当者におかれては、2025年4月1日の施行日までに適切に体制整備を行うことが求められます。

 2022年の改正道路交通法の段階的施行に伴い、2023年7月1日、いわゆる電動キックボード等に関する規定が施行となります。電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」として、通行場所が自転車と同様となる等、新たな交通ルールが施行となります。

 同年6月19日、改正消費生活用製品安全法施行令が施行され、消費生活用製品安全法の規制を受ける「特定製品」に、磁石製娯楽用品(いわゆるマグネットセット)、吸水性合成樹脂製玩具(いわゆる水で膨らむボール)の2つの製品が新たに指定され、技術上の基準に適合しない同製品の販売は規制されます。

 同年4月26日、経済産業省は、「スタートアップの成長に向けた規制対応・規制改革参画ツールの活用に関するガイダンス-みんなの規制対応・規制改革-」を公表しました。本ガイダンスは、スタートアップによる新規事業開発に際し様々な規制への対応が不可欠となることを踏まえ、規制対応や(さらに進んで)事業者による規制改革への参画に向けた各種制度を整理し、イノベーション創出と社会実装を促進することを期待して作成・公表されました。

 同年5月8日、環境省は、「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンス入門 ~環境マネジメントシステム(EMS)を活用した環境デュー・ディリジェンスの実践~」を公表しました。日本企業が多く導入するEMSを活用することで、より実効的な環境デュー・ディリジェンスの取組みを普及・促進していくハンドブックとなっています。

 編集代表:坂尾 佑平弁護士(三浦法律事務所)

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法)の成立

 執筆:磯田 翔弁護士

 フリーランスとは、特定の企業や組織などに所属せず、企業などから業務の委託を受けて働く事業者のことをいいます。フリーランスには、労働基準法が適用されないため、取引上弱い立場に置かれ、業務を委託する企業からの一方的な契約変更や報酬の減額、支払遅延等のトラブルに巻き込まれがちです。他方で、政府は、フリーランスも含めた柔軟な労働移動の実現や働き方改革を進めており、フリーランス人口も年々増加しています。
 このような状況を受けて、2023年2月24日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」が国会に提出され、同年4月28日に成立しました(いわゆる「フリーランス新法」)。

 これまでフリーランスに関する法律上の定義はありませんでしたが、フリーランス新法では、以下のとおりフリーランスが「特定受託事業者」として定義されています。個人事業主であっても、従業員を雇用している場合には対象となりません。他方で、法人であっても、他の役員や従業員がおらず、1人で事業を行っている場合には対象となります

特定受託事業者(フリーランス)の定義

業務委託の相手方である事業者であって、次のいずれかに該当するもの
  1. 個人であって、従業員を使用しないもの
  2. 法人であって、1名の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事もしくは監査役またはこれらに準ずる者をいう)がなく、かつ、従業員を使用しないもの

 また、フリーランス新法は、フリーランスが不当な不利益を受けることがなく、安定的に働くことができる環境を整えることを目的として、具体的に以下の内容を定めています。

  1. 特定受託事業者に係る取引の適正化
    • 特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示・交付義務
    • 報酬の支払期日の設定義務
    • 特定業務委託事業者が遵守しなければならない事項

  2. 特定受託業務従事者の就業環境の整備
    • 募集情報の的確な表示義務
    • 妊娠、出産もしくは育児または介護に対する配慮義務
    • 業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等(ハラスメントに対する相談・対応体制の整備義務)
    • 解除等の予告義務

 フリーランス新法は成立したものの、施行は少し先の予定であり、2024年11月頃までに施行するものとされています。また、詳細な要件等については、今後、公正取引委員会規則や厚生労働省令等によって具体化される必要があります。しかし、新法成立によって、報酬の支払遅延や一方的な減額、ハラスメント等といったフリーランスのトラブル・紛争が減少することが期待されます。さらに、同法の成立は働き方の多様化を促進するきっかけにもなるものと考えられます。

改正刑事訴訟法等の成立(保釈中の被告人等の海外逃亡防止のための法整備)

 執筆:坂尾 佑平弁護士

 2023年5月10日に、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が参議院本会議にて可決され、改正刑事訴訟法が成立しました。同法は同年5月17日に公布されました。

 本改正は、主として保釈中の被告人が海外に逃亡した事案を背景とするものであり、改正刑事訴訟法では、公判期日等への出頭および裁判の執行を確保するための規定整備として以下の改正がなされています。

  1. 公判期日への出頭等を確保するための罰則の新設(保釈等をされた被告人の公判期日への不出頭罪、保釈等された被告人の制限住居離脱罪、保釈等の取消し・失効後の被告人の出頭命令違反の罪、勾留の執行停止の期間満了後の被告人の不出頭罪、刑の執行のための呼出しを受けた者の不出頭罪)
  2. 保釈等をされている被告人に対する報告命令制度の創設
  3. 保釈等をされている被告人の監督者制度の創設
  4. 保釈等の取消しおよび保釈金の没取に関する規定の整備
  5. 拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告後における裁量保釈の要件の明確化
  6. 控訴審における判決宣告期日への被告人の出頭の義務付け等
  7. 位置測定端末(いわゆるGPS)により保釈されている被告人の位置情報を取得する制度の創設
  8. 拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者等に係る出国制限制度の創設
  9. 裁判の執行に関する調査手法の充実化等

 また、改正刑事訴訟法には、上記の他にも、犯罪被害者等の情報を保護するための規定の整備(逮捕手続、勾留手続、起訴状、証拠開示等、裁判書等における個人特定事項の秘匿措置)に関する改正が含まれています。

 なお、刑事訴訟法改正の他にも、刑法の一部改正逃走罪および加重逃走罪の主体の拡張・法定刑の引上げ、ならびに刑の時効の停止に関する規定の整備)や、出入国管理及び難民認定法の一部改正もなされています。

 上記⑦の位置測定端末(いわゆるGPS)に関する規定は公布後5年以内に施行するとされており、その他の改正は順次行われることが想定されています。本改正は日本の刑事司法にとって大きな改正であり、企業刑事法務にも大きなインパクトがあると考えられます。

改正私立学校法の成立(私立学校・学校法人のガバナンス改革を推進するための制度改正)

 執筆:坂尾 佑平弁護士

 2023年4月26日に、「私立学校法の一部を改正する法律案」が参議院本会議にて可決され、改正私立学校法が成立しました。同法は同年5月8日に公布されました。

 本改正は、私立大学を巡る不祥事の続発を背景として、学校法人の実効性のあるガバナンス(組織統治)の改革を推進するという点に主眼があるといえます。具体的には、「執行と監視・監督の役割の明確化・分離」の考え方から、理事・理事会、監事および評議員・評議員会の権限分配を整理し、私立大学の特性に応じた形での「建設的な協働と相互牽制」を確立することが改正の趣旨とされています。

 まず、役員等の資格・選解任の手続等と各機関の職務・運営等の管理運営制度の見直しに関し、以下の改正がなされています。

機関 改正の概要
理事・理事会
  • 理事選任機関を寄附行為で定める。理事の選任に当たって、理事選任機関はあらかじめ評議員会の意見を聴くこととする。
  • 理事長の選定は理事会で行う。
監事
  • 監事の選解任は評議員会の決議によって行い、役員近親者の就任を禁止する。
評議員・評議員会
  • 理事と評議員の兼職を禁止し、評議員の下限定数は、理事の定数を超える数まで引き下げる。
  • 理事・理事会により選任される評議員の割合や、評議員の総数に占める役員近親者および教職員等の割合に一定の上限を設ける。
  • 評議員会は、選任機関が機能しない場合に理事の解任を選任機関に求めたり、監事が機能しない場合に理事の行為の差止請求・責任追及を監事に求めたりすることができることとする。
会計監査人
  • 大学・高等専門学校を設置する大臣所轄学校法人等では、会計監査人による会計監査を制度化し、その選解任の手続や欠格要件等を定める。

 また、学校法人の意思決定のあり方の見直しに関し、大臣所轄学校法人等においては、学校法人の基礎的変更に係る事項(任意解散・合併)および寄附行為の変更(軽微な変更を除く)につき、理事会の決定に加えて評議員会の決議を要することになりました。

 その他、本改正により、監事・会計監査人に対する子法人の調査権限の付与、会計・情報公開・訴訟等に関する規定整備、役員等による特別背任・目的外の投機取引・贈収賄および不正手段での認可取得についての罰則整備もなされています。

 本改正は、2025年4月1日の施行(評議員会の構成等については経過措置の設定)を予定しているところ、私立大学の担当者の方々は、まず本改正の内容を把握した上で、施行日までに適切に体制整備を行うことが求められます。

 本改正の詳細については、弊所のNote記事「危機管理INSIGHTS Vol.12:学校法人の危機管理/改正私立学校法の要所①-改正法の主眼と全体像 − 」をご参照ください。

改正道路交通法の施行(電動キックボードの新たなルールがスタート)

 執筆:遠藤 政佑弁護士

 道路交通法の一部を改正する法律(2022年4月27日公布、以下「改正道路交通法」といいます)が段階的に施行されており、2023年7月1日に、いわゆる電動キックボード等に関する規定が施行されました。

 電動キックボードは、道路交通法上の「車両」に該当し、搭載する電動式モーターの定格出力に応じて車両区分がされています。これまでは、定格出力が0.60キロワット以下である一般的な電動キックボード 1 は道路交通法上の原動機付自転車(道路運送車両法上の第一種原動機付自転車)に区分され、これに応じた規制が適用されていました。

 改正道路交通法は、原動機付自転車を細分化し、以下の基準を全て満たす電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」として、(一般)原動機付自転車よりも緩やかな規制が適用されることになります。

  • 車体の大きさは、長さ190cm以下、幅60cm以下であること
  • 原動機として、定格出力が0.60kW以下の電動機を用いること
  • 時速20kmを超える速度を出すことができないこと
  • 走行中に最高速度の設定を変更することができないこと
  • オートマチック・トランスミッション(AT)機構がとられていること
  • 最高速度表示灯が備えられていること等

 特定小型原動機付自転車の運転にあたっては、一般原動機付自転車とは異なり、運転免許が不要となります。また、ヘルメットの着用も努力義務となります。
 一方、特定小型原動機付自転車であっても、16歳未満の者の運転および16歳未満の者への提供(貸与・譲渡を含む)は禁止されています。また、自賠責保険契約の締結やナンバープレートの取付けといった義務は、これまでと同様です。さらに、告示で定められる保安基準に従い、制動装置・前照灯などの装置を備える必要があるので、注意が必要です。

 また、今般の改正により、特定小型原動機付自転車のうち、以下の基準をすべて満たすものは「特例特定小型原動機付自転車」として一定の場合に歩道を走行することが可能 2 になります。

  • 最高速度表示灯を点滅させること
  • 最高速度表示灯点滅中は、速度抑制装置により時速6kmを超える速度を出すことができないこと等 3

 特定小型原動機付自転車は、最高速度表示灯を点滅させることで、特例特定小型原動機付自転車に切り替えを行うことができます。実際の電動キックボードによる走行では、2つの走行モードを用いて走行することが想定されます。

運転免許 年齢 最高時速 通行場所 ヘルメット
従来の規制 原動機付自転車 必要 16歳以上
(免許取得)
30㎞/h
(法定速度)
車道 義務
改正後の規制 一般原動機付自転車 必要 16歳以上
(免許取得)
30㎞/h
(法定速度)
車道 義務
特定小型原動機付
自転車
不要 16歳以上
(免許不要)
20km/h
※1
車道 努力義務
特例特定小型
原動機付自転車
不要 16歳以上
(免許不要)
6km/h
※1
歩道または
路側帯

※2
努力義務

※1 速度抑制装置によって制限されていることが必要。
※2 「普通自転車等及び歩行者等専用」の道路標識等が設置されている歩道に限られる。



 改正道路交通法により、電動キックボードは手軽な移動手段として、幅広い世代に普及すると見込まれます。他方で、電動キックボードはこれまでの原動機付自転車としての規制より緩やかな規制が適用されるものの、一定の交通ルールに服していることは変わらず、運転にあたっては当該ルールを理解することが必要です。
 さらに、電動キックボード(特定小型原動機付)を販売し、または貸し渡すことを業とする者については、購入者や利用者に対する交通安全教育を行うことが努力義務として課されています。これを踏まえ、パーソナルモビリティ安全利用官民協議会は、事業者が取り組むべき交通安全対策を示す「特定小型原動機付自転車の安全な利用を促進するための関係事業者ガイドライン」を作成・公表しています。関係事業者には、当該ガイドラインに準拠した自主ルールを策定し、交通安全対策の実施に努めることが求められています。

改正消費生活用製品安全法施行令の施行(マグネットセットや水で膨らむボールの製品販売禁止)

 執筆:中村 朋暉弁護士、坂尾 佑平弁護士

 2023年6月19日、消費生活用製品安全法施行令の一部を改正する政令が施行され、消費生活用製品安全法(以下「消安法」といいます)の規制を受ける「特定製品」に、以下の2つの製品が加えられることになりました。

  • 磁石製娯楽用品(磁石と他の磁石とを引き合わせることにより玩具その他の娯楽用品として使用するものであって、これを構成する個々の磁石または磁石を使用する部品が経済産業省令で定める大きさ以下のものに限る)
  • 吸水性合成樹脂製玩具(吸水することにより膨潤する合成樹脂を使用した部分が吸水前において経済産業省令で定める大きさ以下のものに限る)

 「特定製品」とは、消費生活用製品(消安法2条1項、別表)のうち、構造、材質、使用状況等からみて一般消費者の生命または身体に対して特に危害を及ぼすおそれが多いと認められる製品で政令で定めるものをいい(消安法2条2項)ます。
 「特定製品」の製造、輸入または販売を行う事業者は、PSCマーク(製品ごとに省令で定めた技術上の基準(消安法3条1項)に適合していることを示す表示)が付されているものでなければ、これを販売または販売の目的で陳列することができません(消安法4条1項)。

 本改正により、現在販売されている磁石製娯楽用品(いわゆるマグネットセット)や吸水性合成樹脂製玩具(いわゆる水で膨らむボール)は、いずれも「特定製品」として消安法の規制に服することになり、2023年6月1日に公表された「技術上の基準」に適合しないものとして、今後は販売等をすることができなくなります

 消安法の制度に関する詳細については、弊所のNote記事「危機管理INSIGHTS Vol.13:消費者法と危機管理① − PSCマーク制度と子供の安全のための玩具への新規制 − 」をご参照ください。

経済産業省「スタートアップの成長に向けた規制対応・規制改革参画ツールの活用に関するガイダンス」の公表

 執筆:岩崎 啓太弁護士

 2023年4月26日、経済産業省より、「スタートアップの成長に向けた規制対応・規制改革参画ツールの活用に関するガイダンス − みんなの規制対応・規制改革 − 」(以下「本ガイダンス」といいます)が公表されています。

 本ガイダンスは、スタートアップによる新規事業開発に際し様々な規制への対応が不可欠となることを踏まえ、規制対応や(さらに進んで)事業者による規制改革への参画に向けた各種制度を整理し、イノベーション創出と社会実装を促進することを期待して作成・公表されました(本ガイダンス1頁「本ガイダンスの狙い」参照)。

 概要としては、まず事業者が規制対応を行う際の検討手順を確認し(本ガイダンス8頁)、次に、事業者が活用可能な各種制度を活用の場面・目的に応じて整理しながら(同9頁)、「スタートアップ新市場創出タスクフォース」「グレーゾーン解消制度」「新事業特例制度」「規制のサンドボックス制度」などの各制度について内容や活用プロセス、問い合わせ先等が説明されています(詳細については、同12頁以降参照)。

 本ガイダンスについて、事業者が実際に新規事業開発の過程で活用するという観点からは、以下のような特徴が挙げられます。

  • 従前は各省庁に点在していた各種制度が、本ガイダンス上で一覧できる形で整理されており、事業者が取り得る選択肢が把握しやすくなっている。
  • 各制度について、制度概要にはじまり、具体的な手続の流れや書式のリンク、申請に対する回答期間、問い合わせ先の名称・連絡先等がまとまっており、各制度のイメージがわきやすくなっている。
  • 各種制度の活用事例が、事業の背景や活用の経緯、実際に得られた成果とともに紹介されており、他社事例の詳細や各種制度を活用した際の全体の時間軸等が把握できるようになっている。
  • 既存の規制への対応に加え、新たに規制を変更することも視野に入れた形で、各種制度の利用場面や検討フローが示されている(本ガイダンス40頁参照)。

 なお、新規事業開発については、大企業内において新規事業開発に関する部署を設けたり、大企業や自治体がスタートアップと共創を図ったりする事例も散見されるところ、本ガイダンスはこのような関係者にも有用な内容となっており、広く活用が期待されます。

環境省「環境デュー・ディリジェンスに関するハンドブック」の公表

 執筆:金井 悠太弁護士

 2023年5月8日、環境省により、「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンス入門 ~環境マネジメントシステム(EMS)を活用した環境デュー・ディリジェンスの実践~」(以下「環境DDハンドブック」といいます)が公表されました。

環境DDハンドブックの背景と目的

 環境省からは、2018年に経済開発協力機構が策定した「責任ある企業行動のためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」を参考に、2020年8月に「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンス入門~OECDガイダンスを参考に~」が公表され、以降、日本の事業者による環境デュー・ディリジェンス(以下「環境DD」といいます)に係る取組みの促進が図られてきました。

 その後、EUにおいては、2022年2月の「企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令案」の公表、および2022年12月の「企業サステナビリティ報告指令」の成立等、環境および人権に関する環境DDのプロセスに係る情報開示やその実施を法規制化する動きが進んでいることを踏まえつつ、日本における環境DDのさらなる普及、促進を図る観点から、環境省により、「令和4年度環境デュー・ディリジェンス普及等業務」に関わる冊子等検討会が設置され、その検討結果として環境DDハンドブックがとりまとめられることとなりました。

環境DDハンドブックが示す環境DDの実践方法の概要

 日本の事業者は、世界的に見て環境マネジメントシステム(以下「EMS」といいます)の導入が多いことに鑑み、環境DDハンドブックでは、「2. EMSを活用した環境デュー・ディリジェンスの実践」において、EMSを活用しながらより実効的な環境DDを行うための指針が示されています
 具体的に説明がなされている項目の概要は以下のとおりです。

(1)総論:デュー・ディリジェンスとは

  • OECD多国籍企業行動指針が求める内容
  • プロセスと構成要素
  • 投資家・金融機関の視点

(2)総論:環境デュー・ディリジェンスを実践する上での重要な考え方

  • 「責任ある企業行動」としての実施
  • ステークホルダーとの対話
  • 防止・軽減する負の影響の種類と目標
  • リスクに相応した実施と優先順位付け
  • 一連のDDプロセスの継続的な実施
  • バリューチェーン全体への目配り
  • 是正措置の実施、または実施への協力

(3)環境デュー・ディリジェンスとEMSのプロセスの親和性

  • 責任ある企業行動を企業方針および経営システムに組み込む
  • 企業の事業、製品、またはサービスに関連する実際のおよび潜在的な負の影響を特定し、評価する
  • 負の影響を停止する、防止するおよび軽減する
  • 実施状況および結果を追跡調査する
  • 影響にどのように対処したかを伝える
  • 適切な場合是正措置を行う、または是正のために協力する

環境DDに関する海外の動向(参考情報)

 環境DDハンドブックにおいては、参考情報として、2022年以降の環境DDに関する海外の最新動向も紹介されており、以下の法制度等につき、その概要が説明されています。

国・地域 法制度
2022 EU 企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令案
企業サステナビリティ報告指令(CSRD)
森林減少ゼロ製品規則
2023 国際 OECD多国籍企業行動指針 改訂案

(出典:環境DDハンドブック39頁の図表につき、筆者により一部を抜粋して記載)


  1. 定格出力が0.60キロワットを超える車両は、道路交通法上の普通自動二輪車に区分されますが、この場合、従前と改正道路交通法の下で、規制内容は変わりません。 ↩︎

  2. 特例特定小型原動機付自動車は、「普通自転車等及び歩行者等専用」の道路標識等が設置される歩道や道路の左側に設けられた路側帯(歩行者用路側帯を除く)を通行することが可能になります。ただし、歩道を通行するときは、歩行者優先で、歩行者の通行を妨げることとなるときは一時停止しなければなりません。 ↩︎

  3. 牽引をしていない、側車を付けていない、ブレーキが走行中容易に操作できる位置にある、鋭い突出部がない、などの条件があります。 ↩︎

シリーズ一覧全44件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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