Legal Update
第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
法務部 公開 更新
シリーズ一覧全14件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
目次
2022年6月は令和3年特定商取引法改正の一部施行と関連するガイドラインの施行、改正公益通報者保護法の施行などが予定されています。
また、第208回国会には電気通信事業法の一部を改正する法律案、金融のデジタル化への対応を目的とした資金決済法制に関する改正案が提出されました。
そのほか、本稿では2022年3月に公表された「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会」の中間とりまとめ、2022年4月の税務当局による「伝家の宝刀」適用事案に関する2つの最高裁判決、「ディスクロージャーワーキング・グループ」第8回会合で示された四半期開示の方針見直し、米国司法省による反トラスト法違反に係るリニエンシーポリシーの修正について解説します。
編集代表:坂尾 佑平弁護士・渥美 雅之弁護士(三浦法律事務所)
本稿で扱う内容一覧
日付 | 内容 |
---|---|
2022年3月4日 | 電気通信事業法の一部を改正する法律案(第208回国会に提出) |
2022年3月4日 | 安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案(第208回国会に提出) |
2022年3月30日 | 国交省「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会 中間とりまとめ」公表 |
2022年4月4日 (米国現地時間) |
米国司法省 リニエンシー制度に係るポリシーを一部修正 |
2022年4月18日 | 金融庁金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」第8回会合における四半期開示に関する方針の見直し |
2022年4月19日 | 相続税法における相続財産の評価に関する最高裁判決 |
2022年4月21日 | 同族会社等の行為計算否認規定に関する最高裁判決 |
2022年6月1日 | 令和3年特定商取引法改正の一部施行および関連するガイドラインの施行 |
2022年6月1日 | 改正公益通報者保護法の施行 |
令和3年特定商取引法改正の一部施行と関連するガイドラインの施行
執筆:遠藤 政佑弁護士、小倉 徹弁護士
2021年6月16日に公布された「特定商取引に関する法律の一部を改正する法律」が、段階的に施行されています(以下、特定商取引に関する法律を「特商法」といいます)。
2022年6月1日にも下記が施行されました。
- 通信販売における詐欺的商法への対策
- クーリング・オフ通知のデジタル化
- 外国執行当局の情報提供制度の創設や行政処分の強化に関する改正部分
①に関連して、「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」も同日から施行されました。
これらのうち、①②は、とりわけ実務に大きな影響があるものと考えられます。
通信販売における詐欺的商法への対策
同改正の主な内容は以下のとおりです。
- 事業者が広告に表示すべき項目が追加され、対象が拡張された(特商法11条等)
- 事業者が消費者の申込時に表示する内容が法律レベルで規定され(特商法12条の6)、違反した事業者への罰則規定も設けられた(特商法14条、15条)
- 通信販売に係る契約の申込みの撤回または解除を妨害する不実の告知行為が禁止され(特商法13条の2)、違反した事業者への罰則規定も設けられた(特商法14条、15条)
- 申込み段階の事業者の表示違反が原因で消費者が誤認に陥って行われた申込みについて取消しを認める民事上の救済制度が創設された(特商法15条の4)
- 申込み段階において消費者を誤認させる表示や消費者による解除の妨害などが、適格消費者団体の差止請求の対象に追加された(特商法58条の19)
なお、事業者が消費者の申込み時に表示する内容に関しては、「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」において、消費者が申込みを行う際の申込書面および最終確認画面に記載するべき内容について細かく記載されているため、併せて確認する必要があります。
クーリング・オフ通知のデジタル化
従来、消費者は、書面による方法でしかクーリング・オフを行うことができませんでしたが、2022年6月1日から、書面に加え電磁的記録(電子メール、USBメモリなど)でもクーリング・オフを行うことができるようになりました(特商法9条1項)。
そのため、事業者は、契約書面等を改訂し、契約書面等に電磁的記録でのクーリング・オフが可能であることを記載することが求められます。さらに、電子メールなどを用いた消費者からのクーリング・オフに適切に対応できるように、窓口や受付体制を整備することが考えられます。
改正公益通報者保護法の施行
執筆:坂尾 佑平弁護士
2020年6月8日に成立し、同月12日に公布された「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(令和2年法律第51号)が、2022年6月1日に施行されました。
改正公益通報者保護法には、下記の重要な改正が含まれています。
( ⅰ )事業者への公益通報対応体制の整備等(窓口設定、調査、是正措置等)の義務付け(常時使用する労働者の数が300名以下の事業者については努力義務)、および実効性確保のための行政措置(助言・指導、勧告、および勧告に従わない場合の公表)の導入
( ⅱ )公益通報対応業務従事者に対する通報者を特定させる情報の守秘義務、および当該義務違反に対する刑事罰の導入
( ⅲ )行政機関や報道機関等への公益通報の保護要件の緩和
( ⅳ )保護される公益通報の拡充(保護される人、保護される通報、保護の内容の拡充)
事業者への公益通報対応体制の整備等の義務付けおよび実効性確保のための行政措置の導入
2021年8月に公表された「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号)において、採るべき体制の大要が定められています。具体的には、以下の措置を講じることが求められています。
- 部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備(指針第4.1)
- 内部公益通報受付窓口の設置
- 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
- 公益通報対応業務の実施に関する措置
- 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
- 通報者を保護する体制の整備(指針第4.2)
- 不利益な取扱いの防止に関する措置
- 範囲外共有等の防止に関する措置
- 実効性に関する措置(指針第4.3)
- 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
- 是正措置等の通知に関する措置
- 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
- 内部規程の策定及び運用に関する措置
また、2021年10月に公表された消費者庁の「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」では、「指針を遵守するために参考となる考え方や指針が求める措置に関する具体的な取組例」、および「指針を遵守するための取組を超えて、事業者が自主的に取り組むことが期待される推奨事項に関する考え方や具体例」を示すものであると説明しています。
公益通報対応業務従事者に対する通報者を特定させる情報の守秘義務、および当該義務違反に対する刑事罰の導入
公益通報対応業務従事者または公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならないと定められており、違反した場合には30万円以下の罰金に処すると定められています。
このような刑事罰付きの重い守秘義務を負う従事者に対しては、従事者である旨を本人にわかる形で定め、従事者本人に適切に指定・伝達するとともに、十分な教育・研修を行う必要があります。
行政機関や報道機関等への公益通報の保護要件の緩和
行政機関への公益通報の保護要件、報道機関等への公益通報の保護要件に下記がそれぞれ追加されました。
行政機関への公益通報の保護要件 | 氏名等を記載した書面を提出する場合 |
---|---|
報道機関等への公益通報の保護要件 |
|
行政機関や報道機関への公益通報がなされやすくなったことを踏まえ、企業としてはいっそう信頼性の高い実効的な内部通報制度を構築することが重要となります。
保護される公益通報の拡充
役員ならびに退職後1年以内の労働者および派遣労働者が、保護される公益通報者の範囲に加わりました。また、刑事罰の対象行為に加えて、過料(行政罰)の対象となり得る行為についても、保護される通報対象事実に加わりました。さらに、公益通報をしたことを理由として役員を解任された場合の損害賠償請求権、および公益通報によって損害を受けたことを理由とする事業者から公益通報者への損害賠償請求の制限に関する条項が新設されました。
以上の改正内容を踏まえて、事業者は内部通報制度の整備・運用を見直す必要があります。改正公益通報者保護法に基づく内部通報制度の「整備」・「運用」におけるポイントについては、下記の記事をご参照ください。
電気通信事業法の一部を改正する法律案
執筆:小倉 徹弁護士
2022年3月4日、「電気通信事業法の一部を改正する法律案」が第208回国会に提出されました。同改正法案は、いくつかの改正事項を含みますが、その中で多くの事業者に影響があり得るものとして、第三号事業(後述)に関する制度の整備および電気通信役務の利用者に関する情報の適正な取扱いに関する制度の整備があげられます。
適用除外の範囲見直し
現行の電気通信事業法164条1項3号は、電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務(ドメイン名電気通信役務を除きます)を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業について、電気通信事業法の規定を適用しないこととしています(ただし、検閲の禁止および通信の秘密の保護の規定を除きます)。
しかし、改正法案による改正後の電気通信事業法(以下「改正電気通信事業法案」といいます)は、検索サービスを念頭に置いた検索情報電気通信役務(改正電気通信事業法案164条2項4号)およびSNSを念頭に置いた媒介相当電気通信役務(改正電気通信事業法案164条2項5号)を新たに適用除外から外し、電気通信事業法の規定を適用することとしています(改正電気通信事業法案164条1項3号)。
なお、改正電気通信事業法案164条1項3号に掲げる電気通信事業は「第三号事業」と定義されています(改正電気通信事業法案2条7号イ)。
特定利用者情報を適正に取り扱うべき電気通信事業者の指定と義務
改正電気通信事業法案は、総務大臣が、内容、利用者(改正電気通信事業法案2条7号に定義されています)の範囲および利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が大きいものとして総務省令で定める電気通信役務を提供する電気通信事業者を、特定利用者情報(通信の秘密に該当する情報および利用者を識別することができる情報であって総務省令で定めるもの)を適正に取り扱うべき電気通信事業者として指定することができることとし(改正電気通信事業法案27条の5)、指定された電気通信事業者に対し、以下を含む義務を負わせることとしています。
- 情報取扱規程(特定利用者情報の安全管理、特定利用者情報の委託先に対する監督など、特定利用者情報の適正な取扱いを確保するための事項に関する規程)を定め、総務大臣に届け出ること(改正電気通信事業法案27条の6)
- 情報取扱方針(取得する特定利用者情報の内容、特定利用者情報の利用目的および方法、特定利用者情報の安全管理の方法など、特定利用者情報の取扱いの透明性を確保するための事項に関する方針)を定め、公表すること(改正電気通信事業法案27条の8)
- 毎事業年度、特定利用者情報の取扱いの状況について評価を実施し、当該評価の結果に基づき、必要に応じて情報取扱規程および情報取扱方針を変更すること(改正電気通信事業法案27条の9)
- 事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にあり、かつ、利用者に関する情報の取扱いに関する一定の実務の経験その他の総務省令で定める要件を備える者のうちから、特定利用者情報統括管理者を選任し、総務大臣に届け出ること(改正電気通信事業法案27条の10)
情報送信指令通信を行い、利用者の電気通信設備に記録された当該利用者に関する情報を利用者以外の電気通信設備に送信させる場合の規定
改正電気通信事業法案は、電気通信事業者または第三号事業を営む者(内容、利用者の範囲および利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が少なくないものとして総務省令で定める電気通信役務を提供する者に限ります)が、情報送信指令通信(利用者の電気通信設備が有する情報送信機能を起動する指令を与える電気通信の送信をいいます)を行い、利用者の電気通信設備に記録された当該利用者に関する情報を利用者以外の者の電気通信設備に送信させる場合、例外に該当しない限り、一定の情報を当該利用者に通知し、または当該利用者が容易に知り得る状態に置かなければならないとしています(改正電気通信事業法案27条の12)。
上記のとおり、改正電気通信事業法案は多くの事業者に影響があり得るため、今後の動向に注意する必要があります。なお、改正電気通信事業法案の一部は、2022年2月18日に公表された「電気通信事業ガバナンス検討会 報告書」を踏まえたものとなっているため、改正電気通信事業法案の検討にあたり参考になります。
金融のデジタル化への対応を目的とした資金決済法制の改正案
執筆:所 悠人弁護士・今村 潤弁護士
2022年3月4日、金融のデジタル化等に対応し、安定的かつ効率的な資金決済制度を構築することを目的として、「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」といいます)が国会に提出されました。本法案は、金融庁の金融審議会「資金決済ワーキング・グループ」が同年1月11月に公表した報告をベースとしています。
本法案の提出に至る背景は、概ね以下のとおりです。
- 海外における電子的支払手段(いわゆるステーブルコイン)の発行・流通が増加
→現行法においては利用者保護等に課題 - 銀行等における取引モニタリング等のさらなる実効性向上の必要性の高まり
→銀行界におけるマネーロンダリング対応の共同化の動きに対応する必要がある - 高額な価値の電子的な移転が可能な前払式支払手段の広がり
→高額な場合、マネーロンダリング上のリスクが高い
上記①ないし③の背景に対応して、本法案は、以下の3つの観点の改正を盛り込んでいます。本法案が改正の対象とする法律やその内容は多岐にわたるため、紙面の関係上、本稿においてはその概要について紹介します。
電子決済手段等への対応(電子決済手段等取引業の創設)
ステーブルコインは、下記に分けられます。
- 法定通貨の価値と連動した価格で発行され、発行価格と同額で償還することができるデジタルマネー類似型
- それ以外の暗号資産型
②暗号資産型はすでに暗号資産や金融商品として規制が進められており、その仲介行為は暗号資産交換業として位置付けられています。そのため、本法案は、①デジタルマネー類似型を規制の対象としています。
デジタルマネー類似型への規制として特に注目すべきなのは、電子決済手段等取引業の新設です。
デジタルマネー類似型のステーブルコイン(電子決済手段等)に関して適切な利用者保護を確保するとともに、分散台帳技術等を活用した金融イノベーションに向けた取組みを促進することを目的として、電子決済手段等の発行者(銀行・信託会社・資金移動業者等)と利用者の間に立ち、電子的決済手段等の売買・交換、管理、媒介等の行為 を行う仲介者を電子決済手段等取引業者として位置付け、登録制が導入されることになっています。
また、電子決済手段等取引業者については、利用者に対する取引時確認(KYC)の義務が課される点にも留意する必要があります。
銀行等による取引モニタリング等の共同化への対応
金融のデジタル化を踏まえ、顧客の制裁対象者該当性の分析(取引フィルタリング)や「疑わしい取引」該当性の分析(取引モニタリング)(以下併せて「取引モニタリング」といいます)については国際的にもより高い水準での対応が求められるようになっています。銀行界においては、取引モニタリング等を共同で行うことによる高度化・効率化に向けた検討が進められていました。
それを受けて、本法案では、銀行等の預金取扱金融機関等の委託を受けて、為替取引に関して、取引モニタリング等を共同化して実施する為替取引分析業を創設し、業務運営の質を確保する観点から、許可制が導入されることになっています。
高額電子移転可能型前払式支払手段への対応
高額な価値を電子的に移転することが可能な場合(たとえば、アカウントごとチャージ残高を譲渡する場合や電子ギフト券を譲渡する場合)、マネーロンダリングに用いられるリスクが高いため、不正利用を防止し、犯罪収益移転防止法上の取引時確認義務を課す必要があるものの、現行法においてはそのような電子的な前払式手段の発行者に犯罪収益移転防止法が適用されないこととなっていました。
そのため、本法案では、高額電子移転可能型前払式支払手段 の発行者について、不正利用の防止を目的として業務実施計画の届出を義務付け、また、犯罪収益移転防止法上の取引時確認義務が適用されることになっています。
今後の見通し
本法案の施行日は交付日から1年以内とされているため、通常国会での成立を想定すると、2023年5~6月頃の施行になると考えられます。
本法案の内容はいずれも事業者に新たな許認可の取得を求め、新たな義務を課すものです。ステーブルコインを取り扱う銀行・信託会社・資金移動業者、銀行からマネーロンダリング対応を受託する業者をはじめとする事業者は、2023年5~6月頃の施行に向けて早急に準備を進める必要があります。
「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会」が「S」(社会的課題)の評価項目について中間とりまとめを公表
執筆:所 悠人弁護士・緑川 芳江弁護士
2022年3月30日、国土交通省の「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会」(以下「本検討会」といいます)が、「E・S・G」のうち「S」(社会的課題)の観点から、不動産分野における評価分野・項目の考え方を示す中間とりまとめ(以下「本中間とりまとめ」といいます)を公表しました。
2017年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国連責任投資原則(PRI)に基づく投資を開始して以来、ESG投資は日本でも不可逆的な流れとなっています。
不動産の分野においても、2021年度の投資法人債発行総額のうちいわゆるESG債が80%を超えるなど、「E」(環境)のみならず「S」(社会)分野に対応した良質な不動産ストックを形成することが求められています。
本中間とりまとめは、「S」(社会的課題)に対応する投資や情報開示、事業実施の促進を通じ、この要請に応えるものです。その概要は以下のとおりで、具体的な評価項目はCASBEE、GRESB等の評価制度との対応関係も意識したものとなっています。
- 不動産は地域社会や人々の働き方・暮らし方等に強い関わりを持つため、持続可能な社会づくりや人々のウェルビーイングの実現への貢献が可能であり、このような取組みを促進するためには、事業者が取り組みやすく、投資家・金融機関等にとっても投資判断がしやすい環境整備が必要である。
- 具体的には、ESG投資における「S」(社会的課題)分野においては、不動産による社会全体への影響の評価項目や評価手法、それらの情報開示の枠組みが十分に整理されていないことから、これらを整理することが必要である。
【検討事項】
- 不動産の「S」(社会的課題)分野の評価対象は、個々の不動産の整備・運営・利活用に伴う取組みとし、その取組みの評価に際しては、個々の不動産の利用者を軸に、地域社会やまちづくりに与える効果についても考慮する。
- 不動産関連評価制度、ESG評価機関の評価内容、本検討会の発表事例・意見、調査・ヒアリング事例をもとに、国内外のESGに関する枠組みも踏まえつつ、評価項目等を取りまとめる。
- 2022年度は、本中間とりまとめにおいて公表した評価項目等を踏まえて、評価方法や情報開示における参考事項や留意事項について検討する。
【評価項目等の検討】
- 持続可能な社会、人々のウェルビーイングの実現に向け、概ね以下の順に取組みが進められていくという考え方に基づき、各段階で解決すべき社会的課題を整理して、段階順に検討する。
持続可能な社会・ウェルビーイング の実現に向けた段階 |
社会的課題 | |
---|---|---|
① | 「安全・尊厳」 命や暮らし、尊厳が守られる社会 |
|
② | 「心身の健康」
身体的・精神的・社会的に良好な状態を維持できる社会 |
|
③ | 「豊かな経済」 意欲や能力を発揮できる、経済的に豊かな社会 |
|
④ | 「魅力ある地域」 地域の魅力や特色が活かされた、将来にわたって活力ある社会 |
|
そして、本中間とりまとめでは、上記の各社会的課題に対応して、25の評価分野に応じた多種多様かつ具体的な評価項目が公表されています。
紙面の関係上、本稿では個々の評価項目について触れることはできないため、是非「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会 中間とりまとめ概要」3頁ないし6頁をご参照ください。
今後、投資の場面においても、事業活動の場面においても、ESGへの配慮がより重視されていくことは明白です。ESG投資を不動産分野に呼び込むため、それぞれの不動産が(当該不動産において営まれる事業活動も踏まえて)ESGの観点からどのように評価されるのかという視点は非常に重要であり、本中間とりまとめも大いにその参考になると考えられます。
本検討会では、引き続きアウトプット・アウトカム・インパクトの形での評価方法や不動産の「S」分野への貢献に関する情報開示のあり方が検討されます。
税務当局による「伝家の宝刀」適用事案に関する2つの最高裁判決
執筆:迫野 馨恵弁護士、山口 亮子弁護士
税法では通達によるものを含めさまざまなルールを定めていますが、これらのルールに従っているにもかかわらず、租税回避的であるなどとして、課税処分が行われることがあります。
このように、課税庁にルールと異なる取扱いを認める税法上の規定は「伝家の宝刀」と呼ばれていますが、4月に伝家の宝刀適用事案に関する2つの最高裁判決が出されました。
相続税法における相続財産の評価に関する事案
1つ目の事案は、相続税法における相続財産の評価に関する事案です。相続財産の評価は、通常財産評価基本通達(以下「評価通達」といいます)の定める評価方法により行われますが、課税当局に評価通達の定める評価方法と異なる評価を認めるものが評価通達6項(以下「総則6項」といいます)です。
当該事案においては、相続開始の数年前に借入れを伴う不動産の取得が行われ、これにより相続税額が大幅に減少しているところ、当該不動産について評価通達の定める評価に従って算定した評価額(合計約3億3000万円)ではなく、鑑定評価額(合計約12億7000万円)をベースに課税処分を行うことができるかという点が問題となりました。
最高裁令和4年4月19日判決は、以下のとおり判断し、当該事案における総則6項の適用を認めました。
- 鑑定評価額が客観的な交換価値としての時価と認められる場合、鑑定評価額が通達評価額を上回るからといって、相続税法22条に違反するものではない。
- 租税法上の平等原則の観点から、課税庁が評価通達の定める評価方法によらないためには、「合理的な理由」が必要であり、「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」には当該合理的理由がある。
- 通達評価額と鑑定評価額との間の大きなかい離だけでは上記の事情があるとはいえない。
- 本事案では、不動産の購入及び購入資金の借入れにより相続税の負担が著しく軽減しており、被相続人及び相続人は、当該購入・借入れを租税負担の軽減をも意図して不動産の購入を行ったものといえるから、上記事情がある。
今後、税務当局から同様の節税スキームに広く総則6項が適用されることが懸念され、相続税対策のための不動産の購入にあたっては、本事案を踏まえて適切に税務リスクを検討することが必要となります。
同族会社等の行為計算否認規定に関する事案
2つ目の事案は、同族会社等の行為計算否認規定に関する事案です。法人税法132条1項(同族会社等の行為または計算の否認)は、同族会社等の行為または計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものが行われた場合に、これを正常な行為または計算に引き直して法人税の更正または決定を行う権限を税務署長に認めています。
当該事案においては、納税者である法人が、当該法人の属する企業グループにおける国際的な組織再編成に係る一連の取引の一環として、関連会社の買収資金として当該企業グループに属する外国法人から約866億円を借り入れ(以下「本件借入れ」といいます)、本件借入れに係る支払利息の額(合計約170億円)を損金の額に算入したのに対し、税務当局が同族会社等の行為計算否認規定を適用して、所得金額に上記支払利息の額を加算して更正処分等を行っており、本件借入れが「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるか否かという点が問題となりました。
最高裁令和4年4月21日判決は、以下のとおり判断し、本件借入れは「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」には当たらないとしました。
- 「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、法人税の負担を減少させる結果となるものをいう。
- 企業グループにおける組織再編成に係る一連の取引の一環として、当該企業グループに属する同族会社等が当該企業グループに属する他の会社等から金銭の借入れを行った場合において、当該一連の取引全体が経済的合理性を欠くときは、当該借入れはその目的において不合理と評価されることとなる。
- 一連の取引全体が経済的合理性を欠くか否かの検討に当たっては、①一連の取引が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実体とはかい離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮するのが相当である。
- 本事案においては、税負担の減少以外の理由となる事業目的があり、全体としてみたときには、経済的合理性を欠くものであるということはできず、本件借入れは、その目的において不合理と評価されるものではない。
本事案において、最高裁は、グループ間の組織再編成に係る取引の一環として行われた借入れについて、組織再編成に係る行為または計算の否認(法人税法132条の2)に関するヤフー/IDCF事件(最高裁平成28年2月29日判決)と同様の判断枠組み(上記①および②)で経済的合理性を判断しています。
本事案では、税負担の減少以外の事業目的があるものとの認定が行われているところ、租税回避事案における税負担の減少目的と、事業目的のバランスはなかなか難しいところですが、少なくとも、税負担の減少目的が多少なりとも存在する取引の場合には、それ以外の目的について、取引の計画や実行の各段階で適切に検討し、書面に残る形で明確化しておくことが重要となります。
四半期開示の見直し(四半期短信への一本化)
執筆:所 悠人弁護士・峯岸 健太郎弁護士
岸田首相が「新しい資本主義」の柱の1つとして掲げたことにより注目を集めた企業業績の四半期開示の見直しについて、金融庁の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(以下「DWG」といいます)は、2022年4月18に開催された第8回会合において以下の方針を示しました。
(1)コスト削減等の観点から、上場会社の法令上の第1・第3四半期の四半期開示義務を廃止し、金融商品取引所の規則に基づく決算短信に一本化する。
(2)開示の任意化を含め、一本化する四半期決算短信の位置付けについては、四半期以外の適時開示の在り方と併せて、さらに幅広く企業・投資家などの市場関係者の声や海外動向(欧州等)を踏まえて検討する。
(3)2020年夏以降も、DWGにおいて一本化する四半期決算短信に係る諸論点の議論を深め、たとえば以下の点について論点整理を行う。
① 四半期開示の内容
② 虚偽記載に対するエンフォースメント
③ 監査法人によるレビューの有無
2007年の金融商品取引法施行に際して四半期報告制度が導入された理由は、金融商品取引所の自主ルールによる四半期開示(決算短信)については、虚偽記載等があった場合でも罰則が適用されないという問題があり、四半期財務諸表の作成基準について統一を図り、監査法人等による監査証明を義務付けるべきという理由によるものでした。
単に法令上の四半期開示義務を廃止し、決算短信に一本化するだけでは、上記の四半期報告制度導入の趣旨が没却されてしまうことから、上記①ないし③の論点がどのように整理されるのかという点が、今後非常に重要なポイントになると考えられます。
四半期開示の見直しが実現した場合には、開示制度そのものが変更となり、上場企業は各種の対応が必要となるため、今後も議論の動向を注視する必要があります。
なお、四半期開示の見直しに関するより詳細な解説については、下記の関連記事もご覧いただけますと幸いです。
米国司法省、反トラスト法違反に係るリニエンシーポリシーを修正
執筆:渥美 雅之弁護士
日本の独占禁止法上、カルテル・入札談合等不当な取引制限を行った企業が公正取引委員会に対して当該行為を自主的に報告することにより、課徴金を減免される制度が存在しますが、米国を含む諸外国においても、制度設計の違いはあれ同様の制度が採用されています。
米国においては、1990年代よりリニエンシー制度が採用されており、第1番目に違反行為を報告し、調査に全面的に協力する等一定の要件を満たした会社または個人は、刑事罰が免除されることになります。
2022年4月4日(現地時間)、米国司法省は、リニエンシー制度に係るポリシーを一部修正しました 。今回の修正は、リニエンシー制度の設計を大きく変えるものではありませんが、以下のような修正を加えることにより、申請者が刑事罰を免れるための要件をいっそう厳格に判断する姿勢を示しています。
「早急」な申請の義務付け
申請者は、違反行為を把握した後、「早急に(promptly)」当該違反行為を報告しなければならないことが明記されました。
是正措置の必要性
申請者は、違反行為によって被害を受けた第三者に対する原状回復を含め、当該違反行為に係る是正措置、再発防止策等を行うことが求められています。
リニエンシーを得られなかった場合の調査協力によるメリットの明確化
第1順位を得られずにリニエンシー申請者として認められない場合であっても、自主申告および調査協力をした場合のメリットが明記されました。
日本においても同様のことがいえますが、リニエンシー制度を最大限活用するため、違反が起きたことを会社が把握した場合には、申請を行うか否かの意思決定を早急に行うことが求められます。日本企業としては、今般の修正を踏まえ、違反を探知した場合の社内的な処理、意思決定のフロー等を見直し、米国でのリニエンシーを確実に確保できるよう準備をすることが求められます。
シリーズ一覧全14件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向