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第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向

法務部

目次

  1. 「アジャイル・ガバナンスの概要と現状」報告書の取りまとめ
  2. 「デジタルガバナンス・コード2.0」の策定
  3. 四半期開示の四半期決算短信への一本化に関する議論の開始
  4. 農林水産省「環境負荷低減事業活動の促進及びその基盤の確立に関する基本的な方針」の策定
  5. 「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針見直しの方向性について(取りまとめ)」の公表
  6. 有事導入型の買収防衛策発動の差止め事例(三ッ星事件・最高裁(二小)令和4年7月28日決定)

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2022年7月28日 有事導入型の買収防衛策発動の差止めをめぐる最高裁決定(三ッ星事件)
2022年8月8日 経済産業省「アジャイル・ガバナンスの概要と現状」報告書公表
2022年9月13日 経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」公表
2022年9月15日 農林水産省「環境負荷低減事業活動の促進及びその基盤の確立に関する基本的な方針」策定
2022年9日26日 生命科学・医学系研究等における個人情報の取扱い等に関する合同会議「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針見直しの方向性について(取りまとめ)」公表
2022年10月5日 金融庁の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(DWG)の令和4年度第1回開催

 2022年8月8日、経済産業省の「新たなガバナンスモデル検討会」より、「アジャイル・ガバナンスの概要と現状」報告書が公表されました。これまでに公表されていた2編のガバナンス・イノベーション報告書の内容を一体的に理解するとともに、アジャイル・ガバナンスを具体的にどのようなプロセスで進めていけばよいのかを理解する上で参考になります。

 同年9月13日には、経済産業省が「デジタルガバナンス・コード2.0」の策定を公表しました。2020年11月9日公表版を改訂したもので、「DX認定」の認定基準、「DX銘柄」の選定材料となるDX調査の調査項目についてもこの改訂内容が反映されています。

 同年10月5日、金融庁の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(DWG)の令和4年度第1回が開催され、上場企業にとって重要な論点である四半期開示の四半期決算短信への一本化について、具体的な議論が開始されました。

 農林水産省からは、同年9月15日に、「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」に基づく「環境負荷低減事業活動の促進及びその基盤の確立に関する基本的な方針」および関連告示が公表されており、農林漁業者のみならず、アグリテック関連事業者も注目すべき内容となっています。

 同月26日には、生命科学・医学系研究等における個人情報の取扱い等に関する合同会議により、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針見直しの方向性について(取りまとめ)」が公表されました。生命科学・医学系研究に関わる事業を行う企業においては、個人情報の取扱い等に関して確認しておくことが有益です。

 判例としては、有事導入型の買収防衛策発動の差止めをめぐる令和4年7月28日最高裁決定(三ッ星事件)を紹介します。最近の敵対的買収防衛策に関する裁判所の新たな判断の一つとして参考になります。

 編集代表:坂尾 佑平弁護士・渥美 雅之弁護士(三浦法律事務所)

「アジャイル・ガバナンスの概要と現状」報告書の取りまとめ

 執筆者:大草 康平弁護士

 2022年8月8日、経済産業省の「新たなガバナンスモデル検討会」より、2021年9月から2022年1月までの同検討会における議論および同年3月3日から4月28日までの期間のパブリックコメントを経た上で、Society5.0を実現していくための「アジャイル・ガバナンス」の概要と近時の具体的な取組例を示す「アジャイル・ガバナンスの概要と現状」報告書(以下「本報告書」といいます)が公表されました。
 同検討会では、これまでも、2編のガバナンス・イノベーション報告書、すなわち、サイバー・フィジカル融合時代における新たなガバナンスモデルを提示することを目的として、2020年7月13日に「GOVERNANCE INNOVATION Society5.0の実現に向けた法とアーキテクチャのリ・デザイン」を、2021年7月30日に「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2: アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて」を公表していました。

 本報告書の構成・主な目的は以下のとおりです。

  • 2編のガバナンス・イノベーション報告書で示した「アジャイル・ガバナンス」の全体像を整理すること(第一部)
  • アジャイル・ガバナンスの実践プロセスを整理すること(第二部)
  • アジャイル・ガバナンスを実装するために必要な環境整備とインセンティブ設計について国内外の具体例も踏まえつつ示すこと(第三部)

 過去2年のうちに公表されていたアジャイル・ガバナンスに関する2編のガバナンス・イノベーション報告書の内容を一体的に理解するとともに、アジャイル・ガバナンスを具体的にどのようなプロセスで進めていけばよいのかを理解する上で参考になるものと考えられます。

「デジタルガバナンス・コード2.0」の策定

 執筆者:所 悠人弁護士

 2022年9月13日、経済産業省は、「デジタルガバナンス・コード2.0」の策定を公表しました。「コロナ禍を踏まえたデジタル・ガバナンス検討会」における議論を踏まえ、2020年11月9日公表版を改訂したものです。大幅な変更はありませんが、改訂のポイントは以下のとおりです。

  1. デジタル人材の育成・確保
    ・デジタル人材の育成・確保をDX認定の認定基準に追加
    ・経営戦略と人材戦略を連動させ、デジタル人材の育成・確保の重要性を明記(「人材版伊藤レポート2.0」との連携)
  2. DXとSX/GXとの関係性を整理
  3. DXレポート2.2」の議論の反映
    ・企業の稼ぐ力を強化するためのデジタル活用の重要性を指摘
    ・経営ビジョン実現に向けたデジタル活用の行動指針を策定する必要性を明記
  4. 「DX推進ガイドライン」との統合
    ・DX推進施策体系を「デジタルガバナンス・コード」に一本化

 「DX認定」の認定基準にデジタル人材の育成・確保が追加され、また、「DX銘柄」の選定材料となるDX調査の調査項目についても上記改訂の内容が反映された点に注意する必要があります。

四半期開示の四半期決算短信への一本化に関する議論の開始

 執筆者:所 悠人弁護士、峯岸 健太郎弁護士

 2022年10月5日、金融庁の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(DWG)の令和4年度第1回が開催されました。議題は以下のとおりで、6月に公表されたDWGの報告書において提言された四半期開示の四半期決算短信への一本化について、具体的な議論が開始されました

  1. 四半期決算短信の義務付けの有無
  2. 適時開示の充実に向けた取組み
  3. 四半期決算短信の開示内容
    特に、現行の四半期報告書に含まれるが、四半期決算短信には含まれていない情報の取扱い
  4. 四半期決算短信に対する監査人によるレビューの有無
  5. 四半期決算短信の虚偽記載に対するエンフォースメント
  6. 半期報告書・中間監査のあり方
  7. その他(四半期会計基準、四半期レビュー基準等)

 四半期決算短信への一本化が実現された場合、上場企業は新制度に沿った各種の対応が必要となるため、今後もDWGの議論を注視する必要があります。

農林水産省「環境負荷低減事業活動の促進及びその基盤の確立に関する基本的な方針」の策定

 執筆者:坂尾 佑平弁護士

 2022年4月22日に、「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」(以下、通称に合わせて「みどりの食料システム法」といいます)が成立しました。みどりの食料システム法は同年5月2日に公布され、7月1日に施行されました。

 みどりの食料システム法15条1項では、農林水産大臣が「環境負荷低減事業活動の促進及びその基盤の確立に関する基本的な方針」(以下「基本方針」といいます)を定めるものとするとされているところ(同法15条1項)、パブリックコメントの手続を経て、2022年9月15日に基本方針が策定されました。

 基本方針では、以下の項目について、37頁にわたり記載がなされています。

  1. 環境負荷低減事業活動の促進の意義及び目標に関する事項
  2. 環境負荷低減事業活動の実施に関する基本的な事項
  3. 特定環境負荷低減事業活動の促進を図る区域(特定区域)の設定に関する基本的な事項
  4. 環境負荷低減事業活動の促進に関する基本的な計画の作成に関する基本的な事項
  5. 基盤確立事業の実施に関する基本的な事項
  6. その他環境負荷低減事業活動の促進及びその基盤の確立に関する重要事項

 2022年9月15日には、以下の告示も公表されています。

  • 環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律施行規則第1条第1項の農林漁業に由来する環境への負荷の低減に相当程度資するものとして農林水産大臣が定める事業活動を定める告示(令和4年農林水産省告示第1413号)

  • 環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律施行規則第2条の集団又は相当規模で行われることにより地域における環境負荷の低減の効果を相当程度高めるものとして農林水産大臣が定める環境負荷低減事業活動を定める告示(令和4年農林水産省告示第1414号)

 また、以下のような農林漁業者や事業者向けのガイドライン等も併せて公表されています。

 ESG(環境・社会・ガバナンス)、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)をはじめとする環境への意識が高まっている風潮の下、みどりの食料システム法、基本方針その他の関連規定類は、農林漁業者のみならず、アグリテック関連事業者にとっても注目すべきものと考えられます。

「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針見直しの方向性について(取りまとめ)」の公表

 執筆者:金井 悠太弁護士

 2022年9日26日付けで、生命科学・医学系研究等における個人情報の取扱い等に関する合同会議により、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針見直しの方向性について(取りまとめ)」(以下「本取りまとめ」といいます)が公表されました。

 本取りまとめは、2022年3月10日に改正された「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(以下「倫理指針」といいます。関連する内容として本連載第6回「2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント」を参照)における個人情報等の取扱いの見直しに関し、生命科学・医学系研究等における個人情報の取扱い等に関する合同会議において検討された内容を取りまとめたものとなります。
 検討が行われた項目は複数にわたりますが、大きくは以下の①②③に分類され、事業者との関係では特に②③について留意が必要になると考えられます。

  1. 令和3年個人情報保護法改正を踏まえた倫理指針における地方公共団体の機関及び地方独立行政法人の取扱い
  2. インフォームド・コンセントに係る手続のあり方
  3. 外国の研究機関に対する提供の際における留意点等

 このうち、②については、より具体的には、(i) 仮名加工情報の利用に係るインフォームド・コンセント手続、(ii) 既存試料・情報を自機関利用、他機関提供する場合における社会的重要性の要否、(iii) インフォームド・コンセント手続の簡略化を定める規定のあり方等に係る検討を含みます。

 検討の結果、上記の各項目について今後の見直しが必要とされた点もあるため、その事業内容に生命科学・医学系研究が含まれる事業者においては、上記②③に係る今後の改正の同行について注視する必要があります。

有事導入型の買収防衛策発動の差止め事例(三ッ星事件・最高裁(二小)令和4年7月28日決定)

 執筆者:大草 康平 弁護士

 最高裁判所は2022年7月28日、アダージキャピタル有限責任事業組合(以下「アダージキャピタル」といいます)による株式会社三ッ星(以下「三ッ星」といいます)の株式の市場内買い集め、経営陣の解任を求めての株主臨時株主総会の招集請求等に関する買収防衛策(新株予約権無償割当て)の発動を差し止める仮処分命令申立てについて、アダージキャピタルの主張を認める決定を下しました(最高裁(二小)令和4年7月28日決定、資料版商事法務461号143頁)。最高裁判所の決定を受け、三ッ星は新株予約権無償割当てを中止しました。
 本件は、以下のような特徴があります。

  • 買収防衛策の導入以降において、買付者とされた者が株式を取得しておらず、その意向もない旨表明している場合においても、他の株主との共同協調行為が買収防衛策の適用対象となり得るとされたこと
  • 買収防衛策の設計自体は従前の近時の事例と同様であり、買収防衛策の導入・発動が株主意思確認の株主総会で承認可決されていたにもかかわらず、買収防衛策に係る新株予約権の無償割当てについて、防衛手段としての「相当性」を欠くとの理由で差止めが認められたこと

 本件は、2021年以降に蓄積されている敵対的買収防衛策に関する裁判所の新たな判断(日邦産業事件 1、日本アジアグループ事件 2、富士興産事件 3、東京機械製作所事件 4)の一つとして参考となるものと思われます。


  1. 名古屋高裁令和3年4月22日決定(資料版商事法務446号138頁) ↩︎

  2. 東京高裁令和3年4月23日決定(資料版商事法務446号154頁) ↩︎

  3. 東京高裁令和3年8月10日決定(資料版商事法務450号143頁) ↩︎

  4. 最高裁(三小)令和3年11月18日決定(資料版商事法務453号94頁) ↩︎

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