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第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
法務部
シリーズ一覧全16件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
目次
2022年3月10日、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」が改正されました。これは、同年4月に施行された改正個人情報保護法を踏まえたものであり、6月6日には「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針 ガイダンス」の改正も行われています。
同年5月20日には、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を踏まえて緊急時の薬事承認制度の新設を定めた「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(改正薬機法)が公布され、同制度については公布と同日に施行されました。
同日、電子処方箋制度を定めた「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」も公布されました(改正医師法、改正歯科医師法、改正医療介護総合確保法)。同制度は、2023年2月1日までの間において別途政令で定める日に施行されます。
中国では、同年5月9日に、中国国家薬品監督管理局(NMPA)が、「医薬品管理法実施条例」の改正草案を公表し、1か月の意見募集を行いました。同草案は、医薬品上市許可制度、国外生産の医薬品への適用、市場独占期間制度の新設等について改正するものであり、国外の医薬品企業の義務を明確にするものです。
編集代表:坂尾 佑平弁護士・渥美 雅之弁護士(三浦法律事務所)
本稿で扱う内容一覧
日付 | 内容 |
---|---|
2022年3月10日 | 「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」改正 |
2022年5月9日 | 中国国家薬品監督管理局(NMPA)「医薬品管理法実施条例」の改正草案公表、1か月の意見募集 |
2022年5月20日 | 緊急時の薬事承認制度の新設を定めた「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」公布 |
2022年5月20日 | 処方箋の電子化を定めた「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」公布 |
2022年6月6日 | 「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針 ガイダンス」改正 |
人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針の改正、および同改正を反映したガイダンスの公表
執筆:金井 悠太弁護士
2022年3月10日、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(以下「倫理指針」といいます)が改正されました。
本改正は、「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律及びデジタル社会の形成を図るための法律関係の整備に関する法律」の一部施行による個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」といいます)の改正の施行(いわゆる個人情報保護法の令和2年改正の全面施行および令和3年改正の一部施行。詳細は本連載第1回「2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント」参照)。これらの改正の施行後の個人情報保護法を、以下「改正後個人情報保護法」といいます)を踏まえ、倫理指針の内容の見直しを行うものです。
本改正における主たる改正点として、改正後個人情報保護法における学術例外規定の精緻化に伴うインフォームドコンセント等の手続の見直し、および個人情報等の取扱いに関する規律の見直しが挙げられますが、その他にも、改正後個人情報保護法における用語を踏まえた倫理指針内の用語の定義の見直し、倫理指針の適用範囲の見直し、個人情報の管理主体の明示等の改正点が含まれます。
また、本改正を踏まえ、2022年6月6日に同指針に係る「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針 ガイダンス」の改正も行われています。
これらの改正を踏まえて、自社において生命科学・医学系研究に関する規程類を整備している企業は、同規程類の見直しを検討することも考えられます。
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の改正
執筆:糸谷 肇祐弁護士、坂尾 佑平弁護士
2022年5月20日、緊急時の薬事承認制度の新設(以下「緊急承認制度」といいます)を定めた「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」が公布されました(以下、改正後の同法を「改正薬機法」といいます)。緊急承認制度については、公布と同日に施行されています。
緊急承認制度は、日本において新型コロナウイルス感染症ワクチンの薬事承認が遅れたことを契機として創設された制度であり、感染症の流行時等に、既存の薬事承認制度と比べて早期に一定の条件付きで薬事承認を可能とします。
既存の薬事承認制度にも、緊急時の利用を目的とした「特例承認制度」(改正薬機法14条の3)がありましたが、同制度は、①外国(米国、EU等一部地域)において当該医薬品等の販売等が既に認められていることが要件とされ、日本の医薬品等製造販売業者が緊急時に世界に先駆けて医薬品等を製造することが認められていない点、②通常の薬事承認と同様に、有効性・安全性を「確認」する必要がある点等が課題とされていました。こうした課題を踏まえ、改正薬機法では緊急承認制度が新設されるに至りました。
医薬品に関する緊急承認制度については、同法14条の2の2第1項において、概要、以下の要件が定められています。
- 「緊急に使用されることが必要」であること(以下「緊急性に係る要件」といいます)
- 「当該医薬品の使用以外に適当な方法がない」こと(以下「代替性に係る要件」といいます)
- 申請に係る効能または効果を有すると推定されるものであること
- 申請に係る効能または効果に比して著しく有害な作用を有することにより医薬品として使用価値がないと推定されるものでないこと
各要件の詳細については、2022年5月20日付けで厚生労働省が発出した「緊急承認制度における承認審査の考え方について」(薬生薬審発 0520 第1号)において解説されています。
緊急性に係る要件については、「最も想定されるのは感染症のアウトブレイク発生(2019 年に発生した新型コロナウイルス感染症、 2009 年に発生した新型インフルエンザ感染症等)時」としつつ、これに加えて「原子力事故、放射能汚染、バイオテロ等の発生時も健康被害の状況等を勘案のうえ該当しうるものと考えられる」とされています。なお、緊急性に係る要件は明確である必要があり、具体的には上記の事態をその都度政令において指定するとされています。
代替性に係る要件については、個別の医薬品ごとに判断されることを前提に、基本的に以下のいずれかに該当する場合が想定されるとされています。
- 承認されている医薬品等(実用化されている治療法を含む。)がないこと(対象患者の重症度や投与方法等も勘案して一部の患者集団において使用可能な医薬品がない場合を含む。)
- 承認されている医薬品等がある場合であっても、当該医薬品等のみでは治療法として十分ではなく、複数の治療選択肢が臨床的に必要とされていること(例えば、対象患者の重症度や投与方法等が同一であっても、作用機序が異なる場合には、既承認薬が効果不十分である患者に対する有効性が期待できる可能性があるため、臨床的に必要であると判断できる場合がある。また、作用機序が同一の場合であっても、禁忌等の設定の状況によっては投与可能な患者が異なる場合があるため、臨床的に必要であると判断できる場合がある。)
- 承認されている医薬品等がある場合であっても、当該医薬品等が安定供給の観点から十分ではないこと
- 承認されている医薬品等がある場合であっても、当該医薬品等と比較して、極めて高い有用性又は安全性が見込まれること
緊急承認制度の要件を満たした場合には、厚生労働大臣は、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、適正な使用の確保のために必要な条件および2年を超えない範囲内の期限を付して、薬事承認を与えることができるとされています。
なお、緊急承認制度は、COVID-19の世界的な流行を踏まえ新設されたものですが、ワクチンや治療薬等の医薬品だけではなく、医療機器、体外診断用医薬品および再生医療等製品も対象となります(医療機器・体外診断用医薬品については同法23条の2の6の2、再生医療等製品については同法23条の26の2参照)。
医師法、歯科医師法、地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律の改正
執筆:糸谷 肇祐弁護士、坂尾 佑平弁護士
2022年5月20日、処方箋の電子化(以下「電子処方箋制度」といいます)を定めた「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」が公布されました(以下、改正後の医師法を「改正医師法」、改正後の歯科医師法を「改正歯科医師法」、改正後の地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律を「改正医療介護総合確保法」といいます)。
電子処方箋制度は、「オンライン資格確認等システム」を基盤とし、現在、紙の「交付」を基本とする処方箋を、患者等の求めに応じて電磁的方法によって提供することを認めた仕組みです(改正医師法22条2項、改正歯科医師法21条2項、改正医療介護総合確保法12条の2)。
電子処方箋制度の創設に関する整備事項については、2022年5月20日付けで厚生労働省が発出した「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律等の公布について」(薬生発0520第2号)においてまとめられています。
電子処方箋制度の下では、「オンライン資格確認等システム」で閲覧できる情報を拡充し、患者の過去の処方情報と調剤情報を一元管理することになるため、他の医療機関や薬局がこれらの情報を閲覧することが可能となります。同制度により、重複投薬の防止のほか、処方箋の偽造の防止、印刷に伴う医療コストの削減が期待されています。
なお、電子処方箋制度は、2023年2月1日までの間において別途政令で定める日に施行されることとなります。
中国の「医薬品管理法実施条例」(改正)の意見募集案
執筆:趙 唯佳(中国法律師)、湯浅 紀佳弁護士
2022年5月9日、中国国家薬品監督管理局(NMPA)が、「医薬品管理法実施条例」(以下「本条例」といいます)の改正草案を公表し、1か月の意見募集を行いました(以下「本草案」といいます)。本草案は、中国国内における上市を目的とする医薬品の国内外での研究・製造活動にも適用されます(本草案7条)。本稿は、本草案の改正点について、特に国外医薬品企業に関心の高いところを中心に紹介します。
本条例は、2002年9月15日から施行され、2016年と2019年の2回改正を経ています。現行条例は、2019年3月2日に公布・施行された改正版ですが、施行の約半年後、その上位法である中国の「医薬品管理法 1」が大幅に改正され、この改正を受けて、本条例の改正も注目されてきました。
本草案は、10章計181条から構成されるものであり、2019年改正後の医薬品管理法および同年に施行された同法に対する特別法である「ワクチン管理法」を上位法として、規定を具体化するものです。本草案では、101条の新設条文があり、内容も大幅に改正されています。以下では主要な改正点について解説します。
医薬品の上市許可制度
中国では、医薬品上市許可制度 2 が実施されています(医薬品管理法6条)。本草案は、同制度について以下のとおり改正するものです。
(1)医薬品上市許可申請
医薬品上市許可申請者と臨床試験の主催者について、本草案は、両者がそれぞれ異なる者であることができますが、医薬品登記申請の段階において、申請者と医薬品の試作場所は、共に中国国内、あるいは共に国外に所在しなければならないと新たに規定しました(本草案22条2項)。
(2)医薬品上市許可取得における代理人の指定・変更
国外企業は、医薬品上市許可を取得できますが、中国国内において代理人を指定しなければならないとされています(医薬品管理法38条)。本草案は、その代理人の指定・変更について、下記の2通りの方法を規定しました(本草案44条)。
- 方法1:医薬品上市許可が承認される前に、上市の申請者として国内の代理人を指定し、当該代理人の関連情報を医薬品登記証明書において記載する。
- 方法2:医薬品上市許可が承認された後に、国外上市許可保有者として国内の代理人を指定し、当該代理人が所在している省、自治区、直轄市人民政府の医薬品監督管理部門に登記する。
国外生産の医薬品への適用
2020年7月1日から施行された改正後「医薬品生産監督管理規則」48条は、医薬品上市許可を保有する者の生産する医薬品の生産地が中国国外である場合を監督管理の対象であると規定しました。これに応じて、本草案では、医薬品の生産地が国外にあっても、中国で上市する場合、その生産活動は中国の法律法規、規章、標準および規範の関連要求を満たさなければならないとさらに明確に規定されました(本草案59条)。
市場独占期間制度の新設
本草案は、新たに小児用医薬品や、希少疾病用医薬品について、市場独占期間制度に関する規定を設けました。たとえば、初めて上市が許可された小児用医薬品の新品種、剤形、規格などに対して、最大12か月の市場独占期間を付与し、その期間内、同一品種の上市が承認されません(本草案28条2項)。また、上市が許可された希少疾病に関する新医薬品に対して、医薬品の上市許可保有者が医薬品の供給確保を承諾した場合には、最大7年の市場独占期間を付与し、その期間内、同一品種の上市が承認されません(ただし、医薬品上市許可の保有者が供給確保の承諾を履行しない場合には市場独占期を終止します)(本草案29条2項)。
その他
他にも、本草案は、医薬品上市許可の保有者の追跡義務(薬品の生産、流通のルートを追跡する等。本草案45条)、薬物警戒義務(薬品の不良反応や、リスクの識別・評価・コントロール。本草案46条)を新たに設けました。また、医薬品の経営において、オンライン販売の主体や販売できる医薬品の種類が明確にされました(本草案82条、84条)。
以上、本草案は、医薬品管理法の規定に基づき、医薬品の上市許可申請や、上市許可保有制度等、医薬品の生産・経営について、国外の医薬品企業の義務を明確にするものであり、改正内容が多いため、今後の公布に注目する必要があります。
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- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
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- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
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