Legal Update

第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント

法務部

目次

  1. 令和4年消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正
    1. 消費者契約法の改正
    2. 消費者裁判手続特例法の改正
  2. 「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律第四条第一項の事業の区分及び規模を定める政令の一部を改正する政令」の施行
  3. 個人の特定投資家の要件の拡大
  4. 金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」中間整理の公表
  5. サステナブルファイナンス有識者会議「第二次報告書」の公表
  6. 非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」の公表
  7. 副業・兼業ガイドラインおよび同ガイドラインに関するQ&Aの改定
  8. 中国独占禁止法の改正
    1. 事業者集中届出基準の変更
    2. ガンジャンピングに適用される制裁の強化
  9. 会社の取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が、調査対象であった元取締役らに対する損害賠償請求訴訟において、会社側の訴訟代理人として訴訟行為を行うことの可否に関する最高裁決定(最高裁令和4年6月27日決定)

 2022年5月、消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律が成立し、6月に公布されました。消費者保護の水準を高めるものであり、消費者と相手とするビジネスを行う事業者に大きな影響があります。

 6月には、中国の独占禁止法が改正され、8月から施行されています。本稿ではM&Aと関係する部分につき紹介します。

 7月には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」および「「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に関するQ&A」が改定されました。各社においては、公表が望ましいとされた事項について対応の検討が求められます。
 同じく7月には、「金融商品取引業等に関する内閣府令」が改正され、いわゆるプロ成り要件が拡大されました。

 8月には、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律第四条第一項の事業の区分及び規模を定める政令の一部を改正する政令」が施行され、特定デジタルプラットフォーム提供者を指定するための事業の区分および規模として、「メディア一体型広告デジタルプラットフォーム」および「広告仲介型デジタルプラットフォーム」の類型が追加されました。

 そのほかに本稿では、内閣官房非財務情報可視化研究会の「人的資本可視化指針」、金融審議会市場制度ワーキング・グループの「中間整理」、金融庁サステナブルファイナンス有識者会議の「第二次報告書 − 持続可能な新しい社会を切り拓く金融システム − 」について解説します。

 また、判例としては、電力会社の取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が、調査対象であった元取締役らに対する損害賠償請求訴訟において会社側の訴訟代理人となっていた事案について、相手方たる元取締役側は訴訟行為の排除を求めることができないとした最高裁令和4年6月27日決定を紹介します。

 編集代表:坂尾 佑平弁護士・渥美 雅之弁護士(三浦法律事務所)

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2022年5月25日 消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律が成立(同年6月1日公布)
2022年6月22日 金融庁の金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」中間整理を公表
2022年6月24日 中国の独占禁止法改正(同年8月1日施行)
2022年6月27日 会社の取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が、調査対象であった元取締役らに対する損害賠償請求訴訟において、会社側の訴訟代理人として訴訟行為を行うことの可否に関する最高裁決定
2022年7月1日 改正「金融商品取引業等に関する内閣府令」施行
2022年7月8日 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」改定
2022年7月13日 金融庁のサステナブルファイナンス有識者会議「第二次報告書」公表
「「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に関するQ&A」改定
2022年8月1日 「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律第四条第一項の事業の区分及び規模を定める政令の一部を改正する政令」、「特定デジタルプラットフォーム提供者が商品等提供利用者との間の取引関係における相互理解の促進を図るために講ずべき措置についての指針の一部を改正する告示」施行
2022年8月30日 内閣官房の非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」公表

令和4年消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正

 執筆:遠藤 政佑弁護士、小倉 徹弁護士、渥美 雅之弁護士

 2022年5月25日、消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律(以下「令和4年改正法」といいます)が成立し、同年6月1日に公布されました。

 令和4年改正法のうち、消費者契約法の改正については一部(下記⑤)を除き2023年6月1日に施行され、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(以下「消費者裁判手続特例法」といいます)の改正部分については、公布の日から起算して1年半を超えない範囲で政令で定める日に施行されます。

消費者契約法の改正

 令和4年改正法のうち、消費者契約法に関する改正の主な内容は以下のとおりです。

  1. 不当勧誘に関する契約の取消権が追加・拡充された(消費者契約法4条3項3号、4号、9号)
  2. 免責の範囲が不明確な不当条項(サルベージ条項)が無効となった(同法8条3項)
  3. 中途解約時に事業者が解約料の説明をする努力義務が新設された(同法9条2項、12条の4)
  4. 情報提供や開示に関する事業者の努力義務が拡充された(同法3条1項2号~4号、12条の3・5)
  5. 適格消費者団体の事務に関する規定が見直し等された(同法14条2項、31条)

 消費者契約法は、消費者を相手とするビジネスの根幹となる法律ですので、令和4年改正法は事業者のビジネスに大きな影響があります。そのため、改正に応じ、契約書や規約やマニュアルなどの整備・修正が期待されます。
 令和4年改正法の詳細については下記をご覧ください。

消費者裁判手続特例法の改正

 消費者裁判手続特例法は、消費者が情報力や交渉力の不足から裁判手続を断念して泣き寝入りすることを防止することなどを目的とした法律であり、消費者が裁判手続を提起しやすいように制度が設計されています。令和4年改正法のうち、消費者裁判手続特例法に関する改正の主な内容は以下のとおりです。

  1. 対象範囲の拡大
    ・慰謝料も制度の対象となった(消費者裁判手続特例法3条2項)
    ・事業者・事業監督者・被用者が制度の対象となる被告に追加された(同法3条1項5号イ~ハ)
  2. 早い段階でも和解による柔軟な解決が可能となった(同法11条)
  3. 消費者に対する情報提供方法の充実(同法9条、27条2項、28条など)

 同法の改正が消費者契約法の改正と併せて行われることにより、消費者保護の水準がよりいっそう高まるため、事業者としては、内閣府令などで具体化される改正事項を注視しながら同法の今後の動向を追うことが必要です。

「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律第四条第一項の事業の区分及び規模を定める政令の一部を改正する政令」の施行

 執筆:小倉 徹弁護士・渥美 雅之弁護士

 2022年8月1日、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律第四条第一項の事業の区分及び規模を定める政令の一部を改正する政令」(以下「改正政令」といいます)が施行されました。

 2020年5月に成立した特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(以下「透明化法」といいます)は、デジタルプラットフォームのうち、政令で定める事業区分に属し、その事業規模が政令で定める規模以上であるものを提供するデジタルプラットフォーム提供者を、特定デジタルプラットフォーム提供者として指定し、特定デジタルプラットフォーム提供者に対し、取引条件等の情報の開示および自主的な手続・体制の整備を行い、実施した措置や事業の概要について、毎年度、自己評価を付した報告書を提出することを求めています

 2021年4月に、3社の総合物販オンラインモール提供者および2社のアプリストア提供者が特定デジタルプラットフォーム提供者として指定されましたが、今回、2021年4月27日に公表された「デジタル広告市場の競争評価 最終報告」における提言等を踏まえ、改正政令により、特定デジタルプラットフォーム提供者を指定するための事業の区分および規模として、以下の類型が追加されました。

事業の区分 事業の規模
メディア一体型広告デジタルプラットフォーム(自社の検索サービスやポータルサイト、SNS等に、主としてオークション方式で決定された広告主の広告を掲載する類型) 1,000億円以上の国内売上額
広告仲介型デジタルプラットフォーム(広告主とその広告を掲載するウェブサイト等運営者を、主としてオークション方式で仲介する類型) 500億円以上の国内売上額

 また、改正政令の施行の同日、「特定デジタルプラットフォーム提供者が商品等提供利用者との間の取引関係における相互理解の促進を図るために講ずべき措置についての指針の一部を改正する告示」も施行されています。
 なお、今年の秋頃に、改正政令により追加された区分および規模に該当する事業者が、特定デジタルプラットフォーム提供者として指定される予定となっています。

個人の特定投資家の要件の拡大

 執筆:所 悠人弁護士

 2022年7月1日、「金融商品取引業等に関する内閣府令」の改正が施行され、金融商品取引法において、個人投資家がプロ投資家である「特定投資家」に移行(プロ成り)するための要件が拡大されました。
 新たに追加された要件は、概ね以下のとおりです。

資産要件(※) (i)純資産5億円以上
(ii)投資性金融資産5億円以上
(iii)前年収入1億円以上
(i)純資産3億円以上
(ii)投資性金融資産3億円以上
(i)純資産1億円以上
(ii)投資性金融資産1億円以上
(iii)前年収入1,000万円以上
経験要件 過去1年の月平均取引件数4件以上 特定の知識経験を有すること
共通要件 特定投資家への移行(プロ成り)の申出を行った種類の金融商品取引契約の取引経験が1年以上あること

※資産要件についてはいずれかに該当すれば足ります。

 従前の個人投資家のプロ成り要件は画一的かつ限定的であり、十分に利用されていませんでしたが、今回の要件拡大による利用の活発化が期待されます
 なお、既存の要件を含めた特定投資家の範囲については、金融庁「特定投資家に関する情報」にも整理がされています。

金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」中間整理の公表

 執筆:所 悠人弁護士

 2022年6月22日、金融庁の金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」は、「中間整理」を公表しました 1
 本中間整理は、2021年10月以降のワーキング・グループにおける審議内容を整理したもので、概要は以下のとおりです。

Ⅰ.成長・事業再生資金の円滑な供給
 課題:国内スタートアップへの資金供給が欧米と比べてなお小規模
 対応:機関投資家からの資金供給の拡大、スタートアップ企業の上場プロセス等の見直し

Ⅱ.経済成長の成果の家計への還元促進
 課題:家計における「貯蓄から資産形成」の動きが限定的で、金融資産の伸びが欧米と比べ低い
 対応:金融事業者による顧客本位の業務運営の確保、金融リテラシーの向上

Ⅲ.市場インフラの機能向上
 課題:上場株式の取引の場が限定的、上場株式以外の金融商品の流通が不十分
 対応:非上場株式や証券トークンの適切な流通の確保、上場株式等の市場間競争の促進

⇒以上の施策によって、「成長と分配の好循環」を実現

 本中間整理において新たに公表された、法制度の見直し等に関する重大なトピックはありませんが、金融・資本市場に関する様々な提言が整理されており、今後の金融・資本市場の動向をうかがううえで非常に有用な資料といえます。

サステナブルファイナンス有識者会議「第二次報告書」の公表

 執筆:所 悠人弁護士

 2022年7月13日、金融庁のサステナブルファイナンス有識者会議は、「第二次報告書 − 持続可能な新しい社会を切り拓く金融システム − 」を公表しました 2
 本報告書は、2021年6月に公表された「持続可能な社会を支える金融システムの構築」(第一次報告書)3 をアップデートしたもので、概要は以下のとおりです。

  1. 企業開示の充実
    • 気候変動対応等に関するサステナビリティ開示の充実に向けた方策を6月に公表 4、早急に制度整備
    • IFRS財団における国際的な基準策定の動きに対し、わが国の意見を集約・発信
  2. 市場機能の発揮
    [アセットオーナーに係る課題共有]
    • 機関投資家が企業の持続可能性向上に向けた取組みに着目し、受託資産の価値向上を図っていくための課題を把握・共有
    [ESG評価機関・投資信託] [ESG投資に係る環境整備]
  3. 金融機関の投融資先支援とリスク管理
    • 金融機関向けの気候変動ガイダンス「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方」を7月に公表 7
    • GXリーグ 8 とも連携しネットゼロに向けた産業・企業の排出削減に係る経路の見える化を促進、取引所における実証実験等を通じたクレジット取引のあり方に係る検討につき関係省庁と連携
    • 地域金融機関等に対し各地で、中小企業が取り組みやすい脱炭素の対応につき、関係省庁と連携して浸透を図り課題を収集
  4. 横断的課題
    • 専門人材の育成に向けた方策(民間事業者等による資格試験の導入への支援等)を検討
    • 脱炭素に関する中小企業・スタートアップの促進策を関係省庁と連携
    • 関係省庁と連携し、政策の全体像やロードマップを適時に更新しつつ一体的に発信

 実施済みの施策についてはリンクを付しておりますが、本報告書が取り上げた施策は積極的に実施されている状況にあり、今後もその動向を注視する必要があります。

非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」の公表

 執筆:岩崎 啓太 弁護士

 2022年6月20日、内閣官房の非財務情報可視化研究会から「人的資本可視化指針(案)」が公表され、パブリックコメントを経て、同年8月30日付けで人的資本可視化指針」(確定版。以下「本指針」といいます)が公表されました。

 人的資本および(人的資本を含む)サステナビリティ情報の開示については、近時議論が活発化しており、2022年6月7日に公表された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」においても、人的資本をはじめとする非財務情報の可視化の重要性が指摘されました。本指針は上記の流れを受けて作成され、人的資本に関する情報開示の在り方について、対応の方向性(既存の基準やガイドラインの活用方法等)が整理されています(本指針1.3参照)。

 まず全体として、本指針は原則主義(重要な原則・規範を示しつつ、具体的な開示内容は各社の裁量に委ねる方針)を採用し、各社において、自社の長期的な業績・競争力・経営戦略と人的資本への投資・人材戦略との関係性を整理することが望ましいと指摘します(本指針2.2参照)。

 また、具体的な開示事項の検討に際しては、気候関連財務情報開示に関するTCFD提言の枠組が普及していることを踏まえ、①ガバナンス、②戦略、③リスク管理、④指標・目標の4つの要素を検討することが期待されています(本指針2.3参照)。

 さらに、留意点として、自社の独自性と他社との比較可能性のバランスを確保すること、および企業価値の向上に関する項目と逆に企業価値を毀損するリスクに関する項目の2つの観点があることを意識することが挙げられています(本指針2.4および2.5参照)。

 本指針では上記のとおり人的資本開示の方向性が示される一方、当初から先進的かつ完成度の高い開示を行うことは難しいことにも言及され、まずは有価証券報告書等の制度開示や各社の任意開示への対応を充実させる必要がある旨が指摘されています(本指針3)。
 この点、有価証券報告書については、金融審議会ディスクロージャー・ワーキング・グループによる2022年6月13日付けの報告書(「中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて」)において、有価証券報告書にサステナビリティ情報に関する独立した「記載欄」を新設すること、人的資本については、たとえば「人材育成方針」「社内環境整備方針」を当該「記載欄」の「戦略」の枠の開示項目とすること等が示されており 9、本指針とともに今後の動向が注目されます。

副業・兼業ガイドラインおよび同ガイドラインに関するQ&Aの改定

 執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士

 厚生労働省は、副業・兼業を希望する労働者が、適切な職業選択を通じ、多様なキャリア形成を図っていくことを促進するため、2022年7月8日付けで「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下「副業ガイドライン」といいます)を改定しました(以下「本改定」といいます)。また併せて、同年7月13日付けで「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に関するQ&A(以下「Q&A」といいます)の改定も行われました。
 これらは、2022年6月7日に閣議決定された「新しい新本主義のグランドデザイン及び実行計画」および「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)において、企業に対し副業・兼業に関する情報開示を推奨することが示されたことを受けたものです。

 本改定により、企業は、下記①②の事項を自社のホームページ等(ホームページ以外ではたとえば会社案内(冊子)、採用パンフレット)で公表することが望ましいとされました。

  1. 企業が従業員に対して副業・兼業を許容しているか否か
  2. 企業が従業員に対して一定の条件付きで副業・兼業を許容している場合には、副業・兼業が認められるための条件

 より具体的には、上記の「副業・兼業」として、他社で雇用される場合以外にも、フリーランスや起業といった雇用ではない形態の副業・兼業も含めることも考えられるとされています(Q&A・4-2)。
 また、上記②については、副業・兼業を許容する条件を公表する際の記載例がQ&A・4-3に次のとおり記載されており、公表の際の参考になります。

 弊社では、従業員が副業・兼業を行うことについて、原則認めています。ただし、長時間労働の回避をはじめとする安全配慮義務、秘密保持義務、競業避止義務及び誠実義務の履行が困難となる恐れがある場合には、認めていません。

 本改定はあくまでガイドラインの改定であり、企業に対し上記①②を公表する法的義務を課すものではありませんが、本改定によって、上記①②の公表が望ましいとされたことから、各企業はそれぞれの現状を踏まえつつ、本改定への対応の検討が求められます

中国独占禁止法の改正

 執筆:趙 唯佳中国法律師・大滝 晴香弁護士・袁 智妤(中国パラリーガル)

 2022年6月24日、中国の独占禁止法(以下「中国独禁法」といいます)が改正されました。改正された独禁法(以下「改正中国独禁法」といいます)は、2022年8月1日から施行されています。また、同改正に伴い、6つの重要な施行規則に関する意見募集稿が出されています(まだ正式に制定されたものではありません)。
 中国独禁法は活発に執行されており、中国で事業を行う日本企業にとって、コンプライアンス上避けて通れないものです。また、同法の改正内容は多岐にわたり、その詳細は本項末尾で紹介する弊所のNote記事で解説しています。本記事では、改正中国独禁法やその施行規則の意見募集稿のうち、M&Aへの影響と関係するものにつき紹介します。

事業者集中届出基準の変更

 中国内外でM&Aを行う際には、中国で事業者集中届出 10 を行う必要があります。中国における届出の要否は、M&Aのディール全体に影響を与えるため、重要となります。今回、中国独禁法の改正に伴い公布された「国務院による事業者集中の届出基準に関する決定(改正)」の意見募集稿では、中国において事業者集中届出が必要となる基準(届出基準)につき以下のような変更が含まれています

 基本的には、届出基準の数値が引き上げられ、届出が必要となる場面が限定される方向の改正となっていますが、従前の枠組みとは異なる新たな基準(対象会社の市場価値・評価額や対象会社の中国売上が全世界売上に占める割合)が導入されている点が注目されます。

改正前 改正後
右の①②のいずれかに該当する場合

① 事業者集中を行うすべての事業者の、前会計年度における全世界の売上高の合計が100億元を超える
かつ
そのうち2以上の事業者の前会計年度における中国国内での売上高がそれぞれ4億元を超える

① 事業者集中を行うすべての事業者の、前会計年度における全世界の売上高の合計が120億元を超える
かつ
そのうち2以上の事業者の前会計年度における中国国内での売上高がそれぞれ8億元を超える

② 事業者集中を行うすべての事業者の、前会計年度における中国国内での売上高の合計が20億元を超える
かつ
そのうち2以上の事業者の前会計年度における中国国内での売上高がそれぞれ4億元を超える

② 事業者集中を行うすべての事業者の、前会計年度における中国国内での売上高の合計が40億元を超える
かつ
そのうち2以上の事業者の前会計年度における中国国内での売上高がそれぞれ8億元を超える

①②のいずれにも該当しないが、右の条件を満たす場合(新設) なし 事業者集中を行う事業者のうち、1つの事業者の前会計年度における中国国内での売上高の合計が1000億元を超える
かつ
対象会社(合併の場合には、合併される事業者)の市場価値(または評価額)が8億元を下回らない
かつ
対象会社の前会計年度の全世界の売上高に対する中国での売上高の割合が3分の1を超える。

ガンジャンピングに適用される制裁の強化

 事業者集中届出が必要となるにもかかわらず、届出を行わずに事業者集中を実行してしまうことを、いわゆる「ガンジャンピング」といいます(陸上競技で、銃声が鳴る前にスタートしてしまう事態にたとえた用語です)。改正中国独禁法では、ガンジャンピングに対する制裁が強化されています。

 改正前の中国独禁法では、ガンジャンピングに適用される制裁は、50万元(約1,000万円)と諸外国と比べると低く抑えられていました。しかし改正により、ガンジャンピングにより実施された事業者集中に競争制限効果があると認められた場合(手続上の問題だけでなく、実体にも問題があった場合)には、前年度販売額の10%以下の過料が課され得ることになりました(改正中国独禁法58条)。売上高が大きい企業にとっては大きな負担となり得ます。

 このように、ガンジャンピングに適用される制裁が強化されていることから、M&Aを行う際には、届出の要否を慎重に検討し、ガンジャンピングとならないよう留意する必要があります。

 本記事では、中国の改正独禁法やその施行規則の意見募集稿のうち、M&Aと関係する部分につき紹介しましたが、中国独禁法の改正内容は多岐にわたり、中国で事業を行う日本企業は改正の内容に十分留意することが必要です。中国の改正独禁法の詳細については、弊所の以下Note記事をご参照ください。

会社の取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が、調査対象であった元取締役らに対する損害賠償請求訴訟において、会社側の訴訟代理人として訴訟行為を行うことの可否に関する最高裁決定(最高裁令和4年6月27日決定)

 執筆:坂尾 佑平弁護士

 電力会社(以下「本件会社」といいます)の取締役責任調査委員会(以下「本件責任調査委員会」といいます)の委員であった弁護士(以下「本件弁護士」といいます)が、調査対象であった元取締役らに対する損害賠償請求訴訟において会社側の訴訟代理人となっていたという事案において、相手方たる元取締役側は、本件弁護士による訴訟行為は弁護士法25条2号および4号の趣旨に反するとして、訴訟行為の排除を求める申立てを行いました(以下「本件申立て」といいます)。
 弁護士法25条では、弁護士が職務を行い得ない事件として、「相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの」(同条2号)、「公務員として職務上取り扱つた事件」(同条4号)を列挙しています。

 大阪地方裁判所は本件申立てを却下したものの、大阪高等裁判所は、本件弁護士の独立かつ公正な立場が裁判官と変わらないこと等を理由として、本件弁護士の訴訟行為の排除を求めることができる旨の決定をしました(大阪高裁令和3年12月22日決定・判タ1493号50頁)。
 最終的に、2022年6月27日、最高裁判所は、以下の理由により、大阪高裁の決定を破棄し、元取締役らの抗告を棄却する旨を決定しました(最高裁令和4年6月27日決定)。

  • 本件責任調査委員会は、元取締役らが会社から会社法423条に基づく損害賠償責任の有無等を調査、検討するために設置したものであり、その委員は会社から委嘱を受けて、調査等のために職務を行うものである。
  • 本件責任調査委員会は、会社のために調査等を行っており、事情聴取の結果が会社の元取締役らに対する損害賠償請求訴訟において証拠として用いられる可能性があることを当然認識していたというべきである。
  • 本件責任調査委員会の設置目的やその委員の職務の内容等に照らし、本件弁護士が裁判官と変わらない立場にあったということはできない。このことは、本件責任調査委員会について、独立性を確保した利害関係のない立場にある社外の弁護士から成る委員会である旨を公表していても変わらない。
  • 弁護士に委任をして訴訟を追行する当事者の利益や訴訟行為の安定性を考慮すると、弁護士法25条に違反する弁護士の訴訟行為を排除する判断について、同条の規定についてみだりに拡張又は類推して解釈すべきではない。

 本決定は、あくまでも事例判断ではあるものの、近年注目を浴びている役員の責任調査委員会のプラクティスを考えるうえで参考になります。


  1. 金融庁「金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」中間整理の公表について」(2022年6月22日) ↩︎

  2. 金融庁「「サステナブルファイナンス有識者会議第二次報告書」の公表について」(2022年7月13日) ↩︎

  3. 金融庁「「サステナブルファイナンス有識者会議報告書」の公表について」(2021年6月18日) ↩︎

  4. 金融庁「金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の公表について」(2021年6月13日) ↩︎

  5. 金融庁「「資産運用業高度化プログレスレポート2022」の公表について」(2022年6月21日更新) ↩︎

  6. 金融庁「「ソーシャルプロジェクトの社会的な効果に係る指標等の例」の確定について」(2022年7月15日) ↩︎

  7. 金融庁「「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方」(案)に対するパブリックコメントの結果等について」(2022年7月12日) ↩︎

  8. 経済産業省「GXリーグ基本構想」 ↩︎

  9. 詳細については、峯岸健太郎=関本正樹「ポイント解説・金商法#3:サステナビリティ情報の開示・四半期開示の一本化を含むディスクロージャーワーキング・グループ報告書とCGコード①」参照。 ↩︎

  10. 事業者集中とは、①合併、②株式または資産の取得による他の事業者の支配権の取得、③契約等による他の事業者の支配権の取得または他の事業者に対して決定的な影響を与え得るようになることをいい(改正中国独禁法20条)、日本でいう「企業結合」に当たります。 ↩︎

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