Legal Update
第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
法務部
シリーズ一覧全44件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
目次
2023年8月2日、厚生労働省は、裁量労働制に関する省令等の改正に関する通達・Q&Aを公表しました(同年3月30日改正・2024年4月1日施行)。本改正では、専門業務型裁量労働制(労働基準法38条の3)、企画業務型裁量労働制(同法38条の4)の双方に関係するもので、とりわけ専門業務型裁量労働制について大きな改正です。公表された通達とQ&Aに基づいて、主な改正点を解説します。
同年8月、法務省は、「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係」に係る資料を公表しました。本資料は、契約書審査やナレッジマネジメントにおけるAIの有用性や、民間企業の法務部門におけるデジタル技術の活用拡大の重要性から、契約書等関連業務支援サービスについて弁護士法72条との抵触の有無に係る予測可能性を担保する観点から公表されました。
同年6月16日、内閣官房に設置されたデジタル市場競争会議は、「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」を公表しました。本報告では、デジタル市場の中でも、モバイル・エコシステムの特性や競争環境の状況、競争上の懸念について評価が行われ、セキュリティやプライバシーを確保しつつ、公平・公正な競争環境を実現する観点から、さまざまな競争上の懸念に対する対応の方向性が示されています。
同年7月3日、厚生労働省は、「医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて」を通達しました。本通達では、医療従事者によるアートメイク施術行為の医行為該当性についてこれを肯定する見解が示されています。
同年8月18日、厚生労働省は、全都道府県の地域別最低賃金についてなされた答申まとめを公表しました。本年も引上げ額は昨年を上回り、過去最高額となっています。最低賃金の改定は今後、各都道府県において同年10月1日から10月中旬までの間に順次発効される予定です。
そのほか、企業における定年後再雇用者の賃金設計を検討するうえで注目される、正職員と定年後再雇用者の基本給・賞与等の相違に関する最高裁判決について解説します。
編集代表:菅原 裕人弁護士(三浦法律事務所)
本稿で扱う内容一覧
日付 | 内容 |
---|---|
2023年6月16日 | デジタル市場競争会議「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」の公表 |
2023年7月3日 | 厚生労働省「医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて」の通達 |
2023年7月20日 | 定年後再雇用者の基本給・賞与に関する最高裁判決(名古屋自動車学校事件・最高裁令和5年7月20日判決) |
2023年8月 | 法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係」に係る資料の公表 |
2023年8月2日 | 裁量労働制の改正に関する通達・Q&Aの公表 |
2023年8月18日 | 最低賃金の改定 |
裁量労働制の改正に関する通達・Q&Aの公表
執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士
2023年3月30日に裁量労働制に関する省令等が改正され(概要について、厚生労働省のリーフレットを参照。以下「本改正」といいます)、これに関し、同年8月2日付けで以下の通達・Q&Aが公表されました。
本改正は、専門業務型裁量労働制(労働基準法38条の3)・企画業務型裁量労働制(同法38条の4)の双方に関係しますが、とりわけ専門業務型裁量労働制について、大きな変更が生じています。
本改正は、2024年4月1日に施行されますので、通達・Q&Aを踏まえた準備を進めていくことが重要です。
専門業務型裁量労働制の対象業務にM&Aアドバイザリー業務が追加
まず、専門業務型裁量労働制の対象業務として、「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」(いわゆるM&Aアドバイザリー業務)が追加されました。この点、通達・Q&Aでは、以下のとおりM&Aアドバイザリー業務の範囲が示されており、とりわけ、当該業務について専門業務型裁量労働制の導入を検討している場合には、Q&Aの指摘に注意する必要があります。
■ Q&A 4
Q | M&Aアドバイザリー業務については、複数名のチームにおいて、「調査又は分析」と「考案及び助言」を分業している場合には、対象業務に該当するか。 |
---|---|
A | 該当しない。 M&Aアドバイザリー業務については、「調査又は分析」及びこれに基づく「考案及び助言」について1人の労働者がその両方を行っている場合に限り、対象業務に該当するものであり、設問のように、1人の労働者が一方の業務のみを行う場合は対象業務に該当しない。 なお、両方を行っている場合であっても、例えばチーフの管理の下に業務遂行、時間配分を行うなど、当該労働者に裁量がない場合には、裁量労働制は適用し得ないものである(施行通達第2の4(1)裁量の確保)。 |
このQ&Aにある「調査又は分析」とは、「M&Aを実現するために必要な調査又は分析をすること」と定義され、「例えば、M&Aによる事業収益への影響等に関する調査、分析や対象企業のデューデリジェンス」が含まれます(通達第2の3)。
また、「(これに基づく)考案及び助言」とは、「調査又は分析に基づき、M&Aを実現するために必要な考案及び助言(専ら時間配分を顧客の都合に合わせざるを得ない業務は含まれない。)を行うこと」と定義され、「例えば、M&A戦略や取引スキーム等に関する考案及び助言」が考えられます(通達第2の3)。
適用対象となる労働者本人の自由な意思に基づく同意の取得
また、本改正により専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制の双方において、適用対象となる労働者本人の同意を得ること等が追加されました。この同意は労働者の自由な意思に基づくことが必要であり、通達・Q&Aでは以下のとおり、労働者の自由な意思に基づいて同意を得る重要性が指摘され、具体例が示されています。
専門業務型裁量労働制導入後の処遇等について十分な説明がなされなかったこと等により、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものとは認められない場合には、(中略)労働時間のみなしの効果は生じないこととなる場合がある
企画業務型裁量労働制導入後の処遇等について十分な説明がなされなかったこと等により、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものとは認められない場合には、(中略)労働時間のみなしの効果は生じないこととなる場合がある
■ Q&A 1-2(抜粋)
Q | (中略)「自由な意思に基づいてされたものとは認められない場合」とは具体的にどのような場合か。 |
---|---|
A | (中略)例えば、労働者に対して、同意した場合に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容並びに同意しなかった場合の配置及び処遇について、同意に先立ち、誤った説明を行ったことなどにより、労働者が専門型又は企画型の適用の是非について検討や判断が適切にできないままに同意に至った場合などは、自由な意思に基づいてされたものとは認められないものと考えられる。 |
以上において通達・Q&Aの重要な点を紹介しましたが、このほか、通達・Q&Aでは、専門業務型裁量労働制および企画業務型裁量労働制に関する本改正のポイント等も示されています。
「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係」に係る資料の公表
執筆:金井 悠太弁護士
2023年8月、法務省から、「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係」が公表されました(概要版も公表)。
これらの資料は、契約書審査やナレッジマネジメントにおけるAIの有用性および民間企業の法務部門におけるデジタル技術の活用拡大の重要性に鑑み、契約書等関連業務支援サービスにつき弁護士法72条との抵触の有無に係る予測可能性を担保する観点から公表されたものとなります。
具体的には、弁護士法72条に係る①「報酬を得る目的」、②「訴訟事件…その他一般の法律事件」または③「鑑定…その他の法律事務」の各要件の該当性につき、具体例も踏まえて判断の方向性が示されており、以下の点など、契約書等関連業務支援サービスを開発しようとするリーガルテック事業者等にとって、弁護士法72条への適合性を検討するうえで有用な示唆が含まれます。
- ②の要件については、「いわゆる企業法務において取り扱われる契約関係事務のうち、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話合いや法的問題点の検討については、多くの場合『事件性』がないとの当局の指摘に留意」しつつ諸般の事情を考慮して事件性を判断すべきとされていること。
- ③の要件については、具体的なサービス内容に沿って場合分けがされたうえで、③の要件を満たさない(すなわち弁護士法72条に抵触しない)具体的なケースが列挙されていること。
モバイル・エコシステムに関する競争評価
執筆:渡邊 隆之弁護士、渥美 雅之弁護士
内閣官房に設置されたデジタル市場競争会議は、公正取引委員会等とも連携しての検討を経て、2023年6月16日、「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」(以下「本報告」といいます)を公表しました。
モバイル・エコシステムとは、スマートフォンを顧客接点として強固に形成された、多数のユーザーと多数の商品・サービス提供事業者がつながるエコシステムを意味します。モバイル・エコシステムは、OSレイヤーを基盤として、アプリストア、ブラウザ等の各レイヤーによる階層的な構造として形成されるものです。このOSレイヤーが現在、AppleのiOSとGoogleのAndroidによる寡占状態となっていることから、各レイヤーにおいてもプレイヤーが限定されること等により、競争圧力が十分に働いていないのではないかという懸念が指摘されてきました。
本報告は、このような競争上の懸念に対して、既存の独占禁止法の執行等による事後規制的なアプローチでは不十分であり、共同規制(政府が規律の大枠を定めながら、事業者の自主的な取組みを尊重する規制枠組み)および事前規制(一定の行為類型の禁止や義務付けを行う規制枠組み)という2つのポリシー・ミックスによるアプローチを検討すべきであるという方向性を示しています。
具体的な内容は、大要、以下のとおりです。
具体的な懸念 | 対応の方向性 |
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OSやブラウザ等の仕様変更 |
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アプリストア関係 |
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ブラウザの機能制限 |
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プリインストール、デフォルト設定 |
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データの取得、利活用 |
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OS等の機能へのアクセス |
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本報告では、これらの方向性に基づく施策により、モバイル・エコシステムの各レイヤーにおいて競争の活性化が図られることが期待されています。もっとも、社会のインフラとしてふさわしい高次のセキュリティやプライバシーの確保は不可欠であり、これらの両立をどのようにして具体的な施策に落とし込んでいくのか、引き続き検討状況を注視していく必要があります。
厚生労働省「医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて」の通達
執筆:糸谷 肇祐弁護士
厚生労働省は2023年7月3日、タトゥー施術行為が医行為でないと判示した2020年9月16日最高裁決定の内容を踏まえ、いわゆるアートメイクの医行為該当性についてこれを肯定する見解を示しました(令和5年7月3日医政医発0703第5号「医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて」。以下「本通達」といいます)。
アートメイクやこれに類似する行為については、従来から一定の行為については医行為該当性を肯定する行政解釈(平成元年6月7日医事35号「医師法上の疑義について」、平成12年6月9日医事59号「医師法上の疑義について(回答)」)や、地裁判決(あざ、しみ等を目立ちづらくする目的で行われる色素注入行為につき医行為該当性を肯定した判決として、東京地裁平成2年3月9日判決・判時1370号159頁)が存在しており、2020年の最高裁決定を踏まえた解釈・考え方が注目されていました。
本通達では、2020年の最高裁決定がタトゥー施術行為について「歴史的に、長年にわたり医師免許を有しない彫り師が行ってきた実情があること」「タトゥーの担い手は歴史的に医療の外に置かれてきたものであり、そのこと自体が、タトゥーの社会的な位置づけを示すものとして理解されうる」と判示した点を踏まえたうえで、現在、アートメイクが医療従事者によって施術されている実態に注目し、以下のようなアートメイクについて医行為の該当性を肯定しました。
針先に色素を付けながら皮膚の表面に墨等の色素を入れて、
(1)眉毛を描く行為
(2)アイラインを描く行為
を業として行う行為
本通達の内容は従来の行政解釈や地裁判決の内容と大きく変わるものではありませんが、2020年の最高裁決定後の厚生労働省の見解として参照する必要があります。
なお、医行為に該当する以上、医師免許を有しない限り、医師法17条に違反し、3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処され、またはこれを併科されることとなります(同法31条1項1号)。
最低賃金の改定
執筆:菅原 裕人弁護士
2023年7月28日に中央最低賃金審議会(厚生労働大臣の諮問機関)が示した「令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について」を受けて、各地方都道府県労働局に設置されている地方最低賃金審議会において、令和5年度の地域別最低賃金について答申が相次いで出され、同年8月18日には全国の最低賃金の改定額が出そろいました。
全国の最低賃金の改定見込額は「令和5年度 地域別最低賃金 答申状況」にまとめられていますが、本年の最低賃金の改定の概要をまとめたものは以下のとおりです。
- 47都道府県で、39円~47円の引上げ(引上げ額が47円は2県、46円は2県、45円は4県、44円は5県、43円は2県、42円は4県、41円は10都府県、40円は17道府県、39円は1県)
- 改定額の全国加重平均額は1,004円(昨年度961円)
- 全国加重平均額43円の引上げは、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額
- 最高額(1,113円)に対する最低額(893円)の比率は、80.2%(昨年度は79.6%。なお、この比率は9年連続の改善)
昨年の最低賃金の引上げ額も過去最高となっていましたが、本年も引上げ額が昨年を上回り過去最高額となりました。
今後、答申された改定額は、都道府県労働局での関係労使からの異議申出に関する手続を経たうえで、都道府県労働局長の決定により、2023年10月1日から10月中旬までの間に順次発効される予定です。
特に、東京都では、過去最高額の最低賃金(1,113円)になりますので、2023年10月以降、パート・アルバイトを募集する際には労働条件が最低賃金を下回らないよう留意する必要があり、現在、最低賃金を下回る労働条件でパート・アルバイトを募集している事業者は注意が必要です(最低賃金法4条1項の違反に該当し、同法40条により50万円以下の罰金の対象になります)。
定年後再雇用者の基本給・賞与に関する最高裁判決(名古屋自動車学校事件・最高裁令和5年7月20日判決)
執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士
2023年7月20日、正職員と定年後再雇用者の基本給・賞与等の相違に関する最高裁判決が示されました(名古屋自動車学校事件・最高裁令和5年7月20日判決。以下「本判決」といいます)。
本判決は、自動車学校を経営する会社を定年退職し有期契約労働者として再雇用されていた嘱託職員らが、正職員との基本給・賞与等の相違が旧労働契約法20条(現在の短時間・有期雇用労働者法8条に対応)に違反すると主張した事案です。
嘱託職員らは、定年退職前後で職務内容およびその変更の範囲に相違がない一方、以下のとおり、基本給・賞与が大幅に減額されていました。なお、嘱託職員の1人は会社に対し、正職員と嘱託職員の賃金の相違について回答を求める書面等を送付していました。
- 基本給:定年退職時の約41%~49%(51%~59%減)
- 賞与:定年退職時の約33%~48%(52%~67%減) ※嘱託職員一時金として支給
本判決の第一審(名古屋地裁令和2年10月28日判決・労判1233号5頁)と控訴審(名古屋高裁令和4年3月25日判決)は、定年後再雇用者の基本給について正職員定年退職時の60%を下回る限度で、賞与について仮に基本給が正職員定年退職時の60%であるとして計算した結果を下回る限度で、不合理であると判断しました。
このように、職務内容の変わらない定年後再雇用者の基本給が定年退職時の60%を下回ってはならないかのような判断を下級審が示したため、かかる判断が最高裁でも是認されるか非常に注目されていました。
しかし、本判決は、概ね以下のように指摘し、原判決の検討が不十分であるとして原判決を破棄し、差し戻しました。
- 会社の正職員の基本給は様々な性質を有する可能性があり、嘱託職員の基本給とは、性質が異なるにもかかわらず、原判決は正職員の基本給について、年功的性格を有するものであったとするにとどまり、他の性質や支給目的を検討しておらず、また嘱託職員の基本給についても、その性質・支給目的を何ら検討していない。
- 労使交渉の状況についても、原判決は交渉が折り合わなかったという結果のみに着目し、具体的な経緯を適切に考慮できていない。
- 賞与についても、原審は賞与および嘱託職員一時金の性質・支給目的を何ら検討せず、また労使交渉の具体的な経緯も考慮していない。
したがって、本件のように、職務内容の変わらない定年後再雇用者の基本給・賞与が定年退職時の半分(50%)以下になるような大きな相違が許容されるのか、引き続き差戻審での審理・判断を注視する必要があります(その他、本判決の詳細については、弊所のNote記事「労働法UPDATE Vol.7:定年後再雇用者の賃金設計における留意点~名古屋自動車学校事件最高裁判決を踏まえて~」もご参照ください)。
シリーズ一覧全44件
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