Legal Update

第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向

法務部

目次

  1. 所得税基本通達の改正 − 業務に係る雑所得の判定
  2. 経済産業省「グリーン社会の実現に向けた競争政策研究会 競争政策上の論点に関する報告書」の公表
  3. 経済産業省「外為法違反事例分析(2021年度)」の公表
  4. 「NFTのランダム型販売に関するガイドライン」の公表
  5. 米国司法省ホワイトカラー犯罪に対する執行方針改定
  6. 米国科学技術政策局「Blueprint for an AI Bill of rights」の公表
  7. インドネシア個人情報保護法の公布・施行
    1. インドネシア個人情報保護法の論点
    2. 個人情報の国外移転

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2022年9月15日 米国司法省、ホワイトカラー犯罪の執行全般に係る方針改定
2022年9月30日 経済産業省「グリーン社会の実現に向けた競争政策研究会 競争政策上の論点に関する報告書」公表
2022年9月30日 経済産業省貿易経済協力局安全保障貿易検査官室「外為法違反事例分析(2021年度)」公表
2022年10月4日 米国科学技術政策局「Blueprint for an AI Bill of rights」発表
2022年10月7日 国税庁「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)
2022年10月12日 日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)ほか「NFTのランダム型販売に関するガイドライン」公表
2022年10月17日 インドネシア個人情報保護法公布・施行

 2022年10月7日に国税庁は、所得税基本通達の改正案に対して寄せられた意見等を踏まえ、「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」を公表しました。帳簿書類の保存があれば、収入金額にかかわらず原則として事業所得となり、当該保存がない場合には、原則として業務に係る雑所得に区分されることになります。

 同年9月30日、経済産業省は「グリーン社会の実現に向けた競争政策研究会 競争政策上の論点に関する報告書」として取りまとめました。同報告書は、炭素中立型社会の実現に向けた取組を後押しする上での競争政策上の論点について、広く知見を集めて整理を行い、それを共有することを目的に行った研究会の成果を示すものです。

 同日、経済産業省貿易経済協力局安全保障貿易検査官室からは、「外為法違反事例分析(2021年度)」が公表されました。外為法の安全保障貿易管理に係る規制について、事業者による違反の傾向を各観点から定量的に分析した結果を示すものであり、事業者は、自己の規模に応じた違反事例の傾向分析の材料とすることができます。

 同年10月12日には、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)等の業界団体が共同で、「NFTのランダム型販売に関するガイドライン」を公表しました。賭博に該当しない類型を整理するとともに、消費者保護の観点から事業者が配慮すべき事項を示しており、NFTビジネスに携わる場合には必見といえるほど有益なものです。

 米国司法省は、同年9月15日、ホワイトカラー犯罪の執行全般に係る方針改定を行いました。違反行為を自主申告した場合のメリットが、すべての企業犯罪類型において明確化されたことに意義があります。

 同じく米国において、科学技術政策局は同年10月4日、Blueprint for an AI Bill of rights(AI権利章典のための草案)を発表しました。我が国の事業者がAI等の技術の倫理的な活用を検討するにあたり、本草案を踏まえた米国の事業者の動きを参考とすることが考えられます。

 インドネシアでは、同年10月17日に、インドネシア個人情報保護法が公布・施行されました。本稿では、同法の諸論点のうち、日本企業の関心の高い個人情報の国外移転につき紹介します。

 編集代表:坂尾 佑平弁護士・渥美 雅之弁護士(三浦法律事務所)

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所得税基本通達の改正 − 業務に係る雑所得の判定

 執筆者:迫野 馨恵弁護士、今村 潤弁護士

 国税庁は、2022年8月1日に所得税基本通達の改正案を公表し、意見公募手続(パブリック・コメント)を実施しました。
 当該改正案は、「副業に係る所得」について、所得区分の判定が難しいといった課題があったことを背景として、業務に係る雑所得の範囲の明確化等を内容とするものです。改正案では、所得税基本通達35−2において、事業所得と業務に係る雑所得の区分について、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定することのほか、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、業務に係る雑所得と取り扱うとされていました。
 つまり、副業の収入金額が300万円以下の場合、反証がなければ業務に係る雑所得となり、反証がある場合には事業所得に区分されることになります。

 これに対し、7,059通もの意見が寄せられました。意見の概要として、「本業か副業かで所得区分を判断すべきではない」、「真面目に記帳等をしている者は、収入金額300万円以下の副業であっても事業所得と取り扱うべきではないか」、「反証の範囲や内容が不明確である」等が挙げられています(「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正 (案)(雑所得の例示等)に対する意見公募の結果について)。

 当該意見等を踏まえ、国税庁は、主たる所得かどうかで判定するという取扱いではなく、帳簿書類の保存の有無で所得区分を判定することとし、この修正により、収入金額が 300 万円以下であっても、帳簿書類の保存があれば、原則として、事業所得に区分されることとなりました。

 国税庁が2022年10月7日付けで公表した「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」によれば、所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く)には、業務に係る雑所得に該当するとされています。

 そのため、帳簿書類の保存の有無に着目すると、当該保存がある場合には、収入金額にかかわらず、原則として事業所得となり、当該保存がない場合には、原則として業務に係る雑所得に区分されることになります。なお、帳簿書類を保存している場合でも、その所得の収入金額が僅少と認められる場合や、営利性が認められない場合には、事業と認められるかどうかを個別に判断するとされています。
 この改正通達は、2022年分の確定申告から適用されます。

経済産業省「グリーン社会の実現に向けた競争政策研究会 競争政策上の論点に関する報告書」の公表

 執筆者:坂尾 佑平弁護士

 2022年9月30日、経済産業省は2022年3月より開催していた「グリーン社会の実現に向けた競争政策研究会」の議論内容を「グリーン社会の実現に向けた競争政策研究会 競争政策上の論点に関する報告書」として取りまとめました。

 炭素中立型社会の実現に向けて複数企業が連携して脱炭素化に取り組む場合に、共同行為や企業結合といった競争法の規制が適用され得るところ、「炭素中立に向けたイノベーションを不当に抑制しようとする企業間の合意については、これまで通り、厳正に対処し、是正を図る」必要性と、「脱炭素化に大きく資する生産設備の集約やサプライチェーンの脱炭素化に向けた企業間の大規模な合意など、複数の企業が共同で行う自律的な取組であって、炭素中立の産業構造への転換に資するものについては強く後押しすべき」との考え方の調整が論点化してきます。

 当該報告書は「諸外国では、欧州を中心に、気候変動対策などサステナビリティに配慮した企業の取組を競争政策上どのように考慮すべきかについて、活発な議論が行われていることを踏まえ、我が国として、炭素中立型社会の実現に向けた取組を後押しする上での競争政策上の論点について、広く知見を集めて整理を行い、それを共有することを目的に行った研究会の成果を示すもの」であり、「産業革命以来の化石燃料を中心とした経済・社会、産業構造をグリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革(=GX(グリーントランスフォーメーション))を実行していくに当たり、今後の我が国の競争政策の検討においても、本研究会での知見が踏まえられ、さらに検討が深められることが期待される」と述べています。

 具体的には、①欧州各国の動き(オランダ、ドイツ、オーストリア、ギリシャ)、②欧州委員会の動き(自動車メーカーによる技術カルテルの認定)、水平的協力協定GL改正の動き、ゲスト講演の概要、研究会の委員意見等がまとめられています。

経済産業省「外為法違反事例分析(2021年度)」の公表

 執筆者:金井 悠太弁護士

 2022年9月30日、経済産業省貿易経済協力局安全保障貿易検査官室により、「外為法違反事例分析(2021年度)」(以下「事例分析」といいます)が公表されました。

 事例分析は、外国為替及び外国貿易法上(以下「外為法」といいます)の安全保障貿易管理に係る規制について、事業者による違反の傾向を各観点から定量的に分析した結果を示すものです。

 具体的には、以下の観点から定量的な分析結果が示されており、事業者において外為法上の安全保障貿易管理に係る規制の遵守体制を検討するに際して、自己の規模に応じた違反事例の傾向分析の材料とする等の活用方法が考えられます。

事例分析中
の項番号
項目 概要
処分内容別割合 報告書、口頭注意、文書注意等の処分内容の割合
企業規模別違反割合 CP(輸出管理内部規程をいう。以下同様)届出の有無、資本金額、従業員数に応じた違反の割合
違反原因
分類別割合
全体における割合 該否判定未実施、判定誤り、外為法認識不足・知識不足等の違反原因の割合
CP届出の有無に基づく比較 CP届出の有無に基づく違反原因の割合の比較
資本金額に基づく比較 資本金額に基づく違反原因の割合の比較
従業員数に基づく比較 従業員数に基づく違反原因の割合の比較
違反発覚の端緒
分類別割合
全体における割合 自社発覚、他社による指摘、経産省等による指摘等の違反発覚の端緒の割合
CP届出の有無に基づく比較 CP届出の有無に基づく違反発覚の端緒の割合の比較
違反仕向地域別割合 違反事例における仕向地域(アジア、欧州、北米等)の割合
違反項番別割合 当該製品の分類ごとの割合

「NFTのランダム型販売に関するガイドライン」の公表

 執筆者:所 悠人弁護士

 2022年10月12日、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)をはじめとする5つの業界団体が共同で、「NFTのランダム型販売に関するガイドライン」を公表しました。
 従前より、NFTを販売するに際し提供されるNFTがランダムで決定される場合(いわゆるガチャ販売、リビール販売など)、「賭博」に該当するのではないかという議論があり、日本におけるNFTビジネスの発展が大きく阻害されていると指摘されていました。

 本ガイドラインは、賭博に該当しない類型を整理するとともに、消費者保護の観点から事業者が配慮すべき事項を示しています。NFTビジネスに携わる場合には必見といえるほど有益なものであり、今後の日本におけるNFTビジネスの発展に大きく寄与することが期待されます。

 また、NFTに関しては、私法上の性質、金融規制上の位置付け、景品類規制上の問題、著作権法上の問題といったさまざまな論点に関する議論がなされており、これらの論点についてもより議論が発展し、事業者がより安心してNFTビジネスに取り組むことができるよう整理が進められることが望まれます(たとえば現時点では、JCBAが公表する「NFTビジネスに関するガイドライン〔第2版〕」が各論点について一定の見解を示す指針として参考になります) 。

米国司法省ホワイトカラー犯罪に対する執行方針改定

 執筆者:渥美 雅之弁護士

 過去の本連載においても取り上げた反トラスト法違反に係るリニエンシー方針の変更(「2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント」参照)を含め、米国の法執行機関である司法省は、近年法執行方針についての重要な改定を行ってきていますが、2022年9月15日、ホワイトカラー犯罪の執行全般に係る方針改定がなされました(Further Revisions to Corporate Criminal Enforcement Policies Following Discussions with Corporate Crime Advisory Group)。

 改定後方針は、企業に対して、調査に対する全面的な協力を行うインセンティブを与えるのと同時に、違反行為者個人に対する執行の厳格化を示唆するなど、ホワイトカラー犯罪に対するアメとムチを使い分けた法執行を志向することが表明されています。米国で活動する日本企業にとって重要と思われる具体的な内容は以下のとおりです。

  • 企業が自主的に不正行為を申告し、司法省の調査に対して全面的に協力し、実効的な是正措置を講じた場合には、加重要素がない限り有罪答弁(guilty plea)を求めないことを明確化した。
  • 不正行為について秘匿特権の対象とならないすべての事実を迅速かつ遅滞なく開示し、不正の証拠を発見した場合には速やかに司法省担当者に知らせなければならないなど、企業に期待される司法省の調査に対する「全面的」な協力の要求水準を引き上げた
  • 不正行為に関与した企業のみならず行為者である個人の訴追を最優先事項として、行為者に対する訴追と企業に対する訴追を原則として同時に行うことを再確認した。

 司法省は、これまでも各法分野において違反行為を自主申告した場合のメリットを明確にしてきましたが、今回公表された方針によって、そのメリットがすべての企業犯罪類型において明確化されたことに意義があります。企業としては、仮に違反行為が発覚した場合には、自主的な申告を行い調査に対して全面的に協力することが今まで以上に求められるといえます。

米国科学技術政策局「Blueprint for an AI Bill of rights」の公表

 執筆者:金井 悠太弁護士

 米国科学技術政策局(the white house office of science and technology policy)(以下「OSTP」といいます)は、2022年10月4日、Blueprint for an AI Bill of rights(以下「AI権利章典のための草案」といいます)を発表しました。

 OTSPは、AI権利章典のための草案策定の背景として、AI等の技術による市民の監視・順位づけ、およびこれらの技術中のアルゴリズムに偏見や差別が織り込まれている状況の存在を指摘しており、このような問題意識を踏まえつつ、AI権利章典のための草案では、以下の5つの原則が示されています。

  1. Safe and Effective Systems:安全で効果的なシステム
  2. Algorithmic Discrimination Protections:アルゴリズムによる差別からの保護
  3. Data Privacy:データプライバシー
  4. Notice and Explanation:通知と説明
  5. Human Alternatives, Consideration, and Fallback:人間による代替、思慮、予備的対応

 我が国の事業者がAI等の技術の倫理的な活用を検討するにあたり、AI権利章典のための草案を踏まえた米国の事業者の動きを参考とすることが考えられます。

インドネシア個人情報保護法の公布・施行

 執筆者:井上 諒一弁護士

インドネシア個人情報保護法の論点

 2022年10月17日に、インドネシア個人情報保護法が公布・施行されました。
 インドネシアには、従前は個人情報保護に特化した法律がなく、個人情報保護法の制定動向が長年にわたり注目されていました。
 個人情報保護法においては、たとえば以下のような重要な諸論点が含まれています。

  • 個人情報保護法の適用範囲
  • 特定個人情報
  • 子供・障碍者の個人情報
  • 個人情報保護オフィサー
  • 個人情報保護影響評価
  • 個人情報の国外移転
  • 刑罰

 本記事では、日本企業の関心の高い、個人情報の国外移転につき紹介します。
 なお、インドネシア個人情報保護法に関するより詳細な説明については、「インドネシア最新法令UPDATE Vol.20:インドネシア個人情報保護法」をご覧ください。

個人情報の国外移転

(1)個人情報保護法以前の規定

 個人情報保護法制定以前は、個人情報保護の国外移転については、通信情報大臣規則2016年20号に規定されていました。
 同規則では、個人情報の国外移転については、「通信情報大臣との連携」が必要とされていました(同規則22条1項)。通信情報大臣との連携の内容としては、①個人情報の国外移転に関する計画の報告(少なくとも、移転先国の名称、受領者の名称、実施予定日、国外移転の理由・目的を含む)、②弁護士の助力(必要な場合)、③実施結果の報告を含むものとされていました(同規則22条2項)。
 しかし、通信情報大臣への報告の手続やフォーマットが定められておらず、「通信情報大臣との連携」の具体的な内容は明らかではなく、実務上悩みの種となっていました。

(2)個人情報保護法における規定

 個人情報保護法では、個人情報の国外移転につき、3段階に分けた規定ぶりとなっています(56条2項~4項)。

 個人情報の国外移転に関する詳細は政府規則で定められるものとされており、個人情報保護法レベルでは、抽象的な規定がなされているにとどまります。

(第1段階)

「移転先の外国がインドネシアと同等以上の個人情報保護法制を有する」否かにつき、個人情報保護法レベルではそれ以上の説明はありません。インドネシアと同等以上の個人情報保護法制を有する国の一覧がいわゆるホワイトリストのような形でリストアップされる想定であるのか等、個人情報保護法のみからはわかりません。政府規則による明確化が期待されます。


(第2段階)

「適切で拘束力のある個人情報保護が受けられることを確保」が具体的に何を指すのかは、個人情報保護法レベルからは不明確です。条文を合理的に解釈すると、たとえば、インドネシア法人から外国法人に個人情報を移転する場合に、インドネシア法人と外国法人との間でデータ移転に関する契約を締結し、その中で、データ受領者である外国法人の義務として、移転される個人情報につき、インドネシア個人情報保護法で求められているのと同等以上の保護措置を講じる義務を課しておくことで、「適切で拘束力のある個人情報保護が受けられることを確保」したと整理する余地があるように思われます。


(第3段階)

として、上記の第1段階、第2段階のいずれも充足できない場合には、個人情報主体の同意を得ることが必要とされています。逆に、個人情報保護法の規定を素直に読むと、第1段階、第2段階を満たせば、個人情報の国外移転を行う際に、個人情報主体の同意は不要であると解釈できるように思われ、諸外国の個人情報保護法と比較しても、個人情報国外移転の要件が緩やかになっているという評価も可能であるように思われます(ただし、政府規則による規制の具体化を注視する必要があります)。

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