Legal Update

第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向

法務部

目次

  1. 賃金デジタル払い2023年4月解禁に関する労働基準法施行規則の改正
    1. 資金移動業者の指定
    2. 使用者の手続
    3. 今後の動向
  2. 「新たな事業再構築のための法制度の方向性(案)」の公表 − 私的整理円滑化法案の検討 −
  3. 中国におけるサイバーセキュリティー法の改正(意見募集案)
  4. ドイツ「サプライチェーンにおける企業のデューディリジェンス義務に関する法律」の全面施行
  5. 特許法102条2項による推定が一部覆滅される場合であっても、当該推定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるときは、同条3項が適用されるとした事案(知財高裁令和4年10月20日判決)
  6. 音楽教室での生徒のレッスンにおける演奏に関し音楽教室運営者が音楽著作物の利用主体であるということはできないとされた事例(最高裁令和4年10月24日判決)
日付 内容
2022年9月12日 中国「サイバーセキュリティー法」改正案の公表
2022年10月20日 特許法102条2項による推定が一部覆滅される場合であっても、当該推定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるときは、同条3項が適用されるとした知財高裁判決
2022年10月24日 音楽教室での生徒のレッスンにおける演奏に関し音楽教室運営者が音楽著作物の利用主体であるということはできないとされた最高裁判決
2022年10月28日 内閣官房新しい資本主義実現本部事務局「新たな事業再構築のための法制度の方向性(案)」公表
2022年11月28日 労働基準法施行規則の一部改正(賃金デジタル払い解禁)
2023年1月1日 ドイツ「サプライチェーンにおける企業のデューディリジェンス義務に関する法律」全面施行

 2022年11月28日、労働基準法施行規則が改正され、◯◯ペイといった支払手段での、いわゆる賃金のデジタル払いが解禁されます(2023年4月1日施行)。キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、資金移動業者の口座への資金移動を給与受取に活用するニーズも一定程度見られることも踏まえ、使用者は、労働者の同意を得た場合に、厚生労働大臣から指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払ができることとなります。

 同年10月28日、内閣官房が設置する「新たな事業再構築のための私的整理法制検討分科会」は、「新たな事業再構築のための法制度の方向性(案)」を公表しました。次期通常国会に提出するとしている、債権者の多数決決議と裁判所の認可による私的整理を可能とする「私的整理円滑化」法案について、分科会での検討内容が示されています。

 中国の国家ネットワーク信息弁公室は、同年9月12日、「サイバーセキュリティー法」の改正に関する意見募集案を公表しました。今後より厳しい罰則・制裁を定める改正案が盛り込まれているなど、中国におけるデータプロテクション関係の法令の執行が強化されていく姿勢が打ち出されています。

 ドイツでは、2023年1月1日に、「サプライチェーンにおける企業のデューディリジェンス義務に関する法律」が全面施行されました。ドイツに本店、主たる事業所、管理本部、または登録事務所を置き、従業員数3,000人以上の企業に対し、デューディリジェンス義務の実施が課されます。義務違反の企業には課徴金や行政処分等があることから、適用対象となる企業は、同法の理解が必要です。

 そのほか、特許権侵害の損害の範囲をこれまでより広く認め3億9,000万円超の賠償を命じた裁判例、また、音楽教室レッスンでの生徒の演奏について音楽教室に著作権使用料の支払義務なしとされた裁判例について解説します。

 編集代表:坂尾 佑平弁護士・渥美 雅之弁護士(三浦法律事務所)

賃金デジタル払い2023年4月解禁に関する労働基準法施行規則の改正

 執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士

 労働者への賃金の支払方法については、通貨払いが原則ですが(労働基準法24条)、労働者の同意を得た場合に銀行・証券会社の口座への支払(同法施行規則7条の2)も認められていました。

 今般、近時のキャッシュレス決済の普及等を踏まえて、労働基準法施行規則が改正され(公布:2022年11月28日、施行:2023年4月1日)、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(指定資金移動業者)の口座への資金移動による支払も認められることとなりました(つまり、◯◯ペイといった業者に支払うことが可能となります)。これにより、2023年4月1日から、いわゆる賃金のデジタル払いが解禁されます。

資金移動業者の指定

 2023年4月1日から、資金移動業者が厚生労働大臣に指定申請(指定資金移動業者に係る申請)を行うことができます。その後、厚生労働省で審査(おおむね数か月間)を行い、基準を満たしている場合にはその事業者を指定資金移動業者に指定します。
 指定の要件としては、①賃金支払に係る口座残高の上限額(100万円以下に設定)、②破産等の場合に口座残高全額の速やかな弁済を保証する仕組み、③ATM等を用いた現金化の仕組み(少なくとも毎月1回は手数料負担なく1円単位での賃金受取りが必要)、その他所定の要件が設けられています。

使用者の手続

 使用者が、賃金のデジタル払いを実施する場合には、事業場ごとに労使協定を締結するとともに、各労働者から賃金デジタル払いに係る同意書を取得する必要があります。なお、当該同意書の取得に際しては、賃金のデジタル払いに関する留意事項について説明を行う必要があるとされており、当該説明事項および同意書については、厚生労働省のサイトにおいてひな形が公表されています。
 なお、この改正は、使用者に労働者の求めに応じて賃金のデジタル払いを行うことを義務付けるものではありません。

今後の動向

 賃金のデジタル払いについては、労働者のニーズとして、当初、銀行口座を持たない外国人労働者に対するメリットも指摘されていましたが、上記③の要件に係る各資金移動業者の制度設計次第では当該指摘と異なる状況となる可能性もあり得ます。また、資金移動業者については、指定資金移動業者となるためには上記①~③のほかにも相応の措置を講ずる必要があるため、賃金のデジタル払いの普及について、今後の動向が注目されます。
 今後、厚生労働省からリーフレット等で案内もなされる予定です。

「新たな事業再構築のための法制度の方向性(案)」の公表 − 私的整理円滑化法案の検討 −

 執筆:岩崎 啓太弁護士、磯田 翔弁護士

 日本の企業ではコロナ禍等により債務状況の悪化が進んでおり、債務の過剰感を解消して事業再構築を容易にするために新たな私的整理法制の必要性が指摘されています。そのため、次期通常国会に、債権者の多数決決議と裁判所の認可による私的整理を可能とする私的整理円滑化法案を提出することが検討されています

 また、内閣官房は2022年10月27日、「新たな事業再構築のための私的整理法制検討分科会」を設置し、同年10月28日付けで「新たな事業再構築のための法制度の方向性(案)」(以下「本制度案」といいます)が公表されました。

 本制度案では、経済的に窮境に陥るおそれのある事業者の事業再構築を円滑化することを目的として、大要、以下のような手続が想定されています。

経済的に窮境に陥るおそれのある事業者による手続申請・受理
指定法人による再構築の計画概要案等の確認
※ 法律上の要件該当性、対象債権の選定の合理性等の確認
対象債権者集会
※ 対象債権者の多数決として、総議決権の2/3以上の議決権を有する対象債権者の同意によることが例示
(多数決で決議成立の場合)裁判所の認可
※ 後見的に手続の法令違反等の決議の瑕疵や清算価値保障を判断
(認可が得られた場合)再構築計画の成立

 上記の手続において、事業再構築」とは「新分野展開、業態転換、事業構造の変更その他の収益性の向上のための事業活動及びこれに必要な債務整理を行うこと」と定義されています。具体的には、新製品の製造等による新たな市場・事業分野への進出(新分野展開)、製品の製造方法等の変更(業態転換)およびこれらに伴う組織再編等が想定されています。
 また、対象債権」については、「事業再構築のために弁済することが必要なものとして一定の基準に該当するもの等を除く全ての債権」とされています。そのため、金融債権のみでなく商取引債権も対象とし、かつ事業再構築における弁済の必要性を踏まえて一定の例外を定めようとする点に特徴があります。

 本制度案については、全債権者同意が必須となる従前の私的整理に比べて、事業再生が容易になることが期待されている一方で、実際の制度化に際しては、各種要件の具体的内容、事業者からの一時停止に関する規律や担保権者の取扱い等の検討課題も指摘されています。また、ゾンビ企業の延命につながる懸念や多数決決議によることによって反対債権者が保護されない懸念、融資自体への萎縮効果が生じる懸念もあります。

中国におけるサイバーセキュリティー法の改正(意見募集案)

 執筆:袁 智妤中国法律師、趙 唯佳中国法律師、井上 諒一弁護士

 最近、中国・アジアにおいて、データプロテクション関係の法令の改正が急速に進んでいます。ベトナム、タイ、インドネシアのデータプロテクション関係の動きについては、本連載でも以前に紹介したとおりです(本連載第1回「2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント」、第11回「2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向」参照)。
 今回は、2022年9月12日に公表された中国におけるデータプロテクション関係の動きとして、中国におけるサイバーセキュリティー法の改正に関する意見募集案につき、紹介します。

 現在、中国におけるデータプロテクションと関係する法律は、大きく、①サイバーセキュリティー法、②データセキュリティー法、③個人情報保護法の3つがあります。この中で、サイバーセキュリティー法が最初に制定されたものであり、2017年6月1日から施行されているものです。その後、データセキュリティー法(2021年9月1日施行)、個人情報保護法(2021年11月1日施行)が制定されています。

 これら3つの規制対象行為には、一部重複しているものもあります。しかし、データセキュリティー法、個人情報保護法では、より厳しい罰則・制裁が定められていることから、サイバーセキュリティー法における罰則・制裁の内容との整合性がわかりにくくなっています。

 国家ネットワーク信息弁公室が今回公表した意見募集案では、このような問題点を是正するために、サイバーセキュリティー法における罰則・制裁につき、大きく引き上げる(より厳しい罰則・制裁を定める)改正が提案されています。たとえば、「前年度売上高の5%以下の過料」といった売上高に着目した制裁内容や、違反行為につき責任を負う個人に対する一定期間取締役や監査役に就任することの禁止措置といった、現行のサイバーセキュリティー法には定められていない新たな制裁内容が定められています。

 より詳細かつ具体的な内容については、弊所のNote記事をご覧ください。

 この意見募集案からもわかるとおり、中国では、データプロテクション関係の法令の執行をより強化していく姿勢が打ち出されています。中国現地法人をお持ちの日本企業の皆様においては、中国現地法人におけるデータプロテクション体制・コンプライアンス体制をより強化していく必要があります。

ドイツ「サプライチェーンにおける企業のデューディリジェンス義務に関する法律」の全面施行

 執筆:坂尾 佑平弁護士

 2023年1月1日、ドイツの「サプライチェーンにおける企業のデューディリジェンス義務に関する法律」1(Act on Corporate Due Diligence Obligations in Supply Chains)が全面施行されました。同法は、2021年6月の成立後、同年7月23日より一部施行されていましたが、2023年1月1日より全面施行となります。

 ドイツ連邦労働社会省のウェブサイトにおいて、同法の英訳版が公表されています。また、日本貿易振興機構(ジェトロ)のウェブサイトにおいて、同法の参考和訳が公表されています。

 同法は、本店、主たる事業所、管理本部、または登録事務所がドイツにある会社で、従業員数が3,000人以上の会社(2024年1月1日以降は1,000人以上の会社)に対し、概要、以下の「デューディリジェンス義務」を課すものです。

1. リスク管理体制の構築
2. 企業内における監督責任者の選定
3. 定期的なリスク分析の実施
4. 方針書の公表
5. 自社事業領域および直接供給者に対する予防措置の定着
6. 是正措置の実行
7. 苦情処理手続の構築
8. 間接供給者におけるリスクに関するデューディリジェンス義務の実施
9. 文書化および報告

 上記義務に違反した企業は、課徴金を課されたり、公共調達の入札手続から除外する行政処分を受けたりすることが定められているところ、適用対象となる企業は同法を理解し、適切な義務の履行を行う必要があります。

 人権尊重の取組については、欧米を中心にハードローの制定が進んでおり、欧州委員会によるコーポレートサステナビリティ・デューディリジェンス指令案が公表されています(本連載第1回「2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント」参照)。また、日本でも「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が公表されています(本連載第9回「2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント」参照)。特に、グローバル企業においては、各国・各地域の「ビジネスと人権」をめぐる動向を注視する必要があります。

特許法102条2項による推定が一部覆滅される場合であっても、当該推定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるときは、同条3項が適用されるとした事案(知財高裁令和4年10月20日判決)

 執筆:松田 誠司弁護士

 本件は、椅子式マッサージ機に関する各発明に係る特許権(以下「本件特許権」といいます)を有する原告が、被告製品の製造および販売等(以下「被告行為」といいます)が本件特許権の侵害に当たる旨主張して、競合メーカーである被告に対し、被告行為の差止め等ならびに損害賠償請求の一部として15億円および遅延損害金の支払を求めた事案です。

 原審は、原告の請求をいずれも棄却しましたが、知財高裁は、2022年(令和4年)10月20日、被告製品の一部について差止めおよび3億9,000万円を超える損害賠償等を認める旨の判決をしました(知財高裁令和4年10月20日判決)。

 本判決で注目されるのは以下の2点です。

  1. 特許権侵害における損害額の推定に関する特許法102条2項の適用要件について、いずれも知財高裁大合議事件判決であるごみ貯蔵機器事件(知財高裁平成25年2月1日判決・判時2179号36頁)および二酸化炭素含有粘性組成物事件(知財高裁令和元年6月7日判決・知財管理72巻8号971頁)を引用したうえで、これらを具体化した点
  2. 特許法102条2項による推定が覆滅された部分について同条3項が適用されることを明らかにした点

 本判決は、14件目の大合議事件判決として知財高裁が判断を示したものであり、今後、特許権を含む知的財産権侵害訴訟における損害論の指針となるものと思われます。本判決の両当事者によって争われた別件の特許権侵害訴訟では、28億円近くの損害賠償を認める判決が出されています(大阪地裁令和4年9月15日判決(事件番号・平成29年(ワ)第7384号))。

 本判決を含め、近年、知財高裁において損害論に関する積極的な判断が出されていることに鑑みると、特許権をはじめとする知的財産権侵害紛争が活発化することが予想されます。

音楽教室での生徒のレッスンにおける演奏に関し音楽教室運営者が音楽著作物の利用主体であるということはできないとされた事例(最高裁令和4年10月24日判決)

 執筆:松田 誠司弁護士

 本件は、教室または生徒の居宅において音楽の基本や楽器の演奏技術等を教授する音楽教室を運営する事業者ら(以下「原告ら」といいます)が、著作権管理事業者である一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC、以下「被告」といいます)に対し、教室または生徒の居宅で行われる音楽教室としてのレッスンにおける生徒の演奏について、原告らが被告に対して著作権(演奏権)侵害に基づく損害賠償請求権または著作物利用料相当額の不当利得返還請求権をいずれも有していないことの確認を求めた事案です。

 原審(知財高裁)は、生徒による演奏行為の主体は音楽教室運営者ではなく生徒であると判断したところ、最高裁は、2022年(令和4年)10月24日、原審の判断を維持する旨の判決をしました(最高裁令和4年10月24日判決)。

 従前、著作物の利用行為の主体については、クラブキャッツアイ事件(最高裁昭和63年3月15日判決・民集42巻3号199頁)において示された、「管理・支配」および「利益の帰属」という要素に基づいて認定判断することとされてきました(いわゆるカラオケ法理)。
 本判決は、カラオケ法理を採用せず、「演奏の目的及び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮する」との判断枠組みを明らかにした点で、理論的にも実務的にも意義が大きいものと思われます。


  1. 日本貿易振興機構(ジェトロ)の参考和訳では「サプライチェーンにおける企業のデューディリジェンス義務に関する法律」と和訳されていますが、日本政府が策定・公表した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」内の「海外法制の概要」2頁では、「サプライチェーン・デュー・ディリジェンス法」と和訳されています。 ↩︎

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する