Legal Update
第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
法務部
シリーズ一覧全44件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
目次
2023年8月31日、経済産業省は、「企業買収における行動指針―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて―」を公表しました。本指針は、買収提案を受けた上場会社やその役員、買収提案を行おうとする株主等にとって、参照すべき内容が盛り込まれています。
同年9月22日、中小企業庁は、2020年策定の「中小M&Aガイドライン」(初版)を3年ぶりに改訂する「中小M&Aガイドライン(第2版)-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」を公表しました。M&Aを検討している中小企業の経営者等は本ガイドラインの内容を適切に把握するとともに、M&A専門業者や支援機関にとっても、示された指針に沿って適切にM&Aを進める必要があります。
同年8月31日、金融庁は、「内部統制報告制度に関するQ&A」と「内部統制報告制度に関する事例集」を改訂し、公表しました。今回の改訂は、同年4月7日に企業会計審議会から「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」が公表されたことを踏まえて行われたものです。
同年10月1日、ステルスマーケティング(ステマ)を不当表示として指定する告示「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年内閣府告示第19号)が施行されました。これにより、同日以降、ステマを行う広告主(商品・サービスを供給する事業者)は景品表示法違反となります。
同年9月1日、厚生労働省は、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」を通達し、精神障害の労災認定基準に、カスタマーハラスメントによる心理的負荷を追加する等の改正がされました。
同年9月25日、内閣官房内閣サイバーセキュリティセンターにより、「サイバーセキュリティ関係法令Q&Aハンドブック」の改訂版が公表されました。本ハンドブックには、企業における平時のサイバーセキュリティ対策およびインシデント発生時の対応に関する法令上の事項に加え、情報の取扱いに関する法令や情勢の変化等に伴い生じる法的課題等が記載されています。
同年9月13日、内閣府は、「PPP/PFI事業の多様な効果に関する手引・事例集」を公表しました。PPP/PFI事業における財政負担の削減に関する効果に限られない、多様な効果の位置付けや検討の方法について明確化され、事業化の検討段階においてどのような手続を経るのか、事務の参考となるような考え方の例が示された手引・事例集として改定されました。
同年9月21日、公正取引委員会は、「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」を公表しました。本報告書は、ニュースプラットフォーム事業者とニュースメディア事業者の取引等における、ニュースポータルおよびインターネット検索といったニュースプラットフォームに係る課題について、公正な競争環境を確保する観点から、望ましいとされる取組み等の内容がとりまとめられています。
編集代表:坂尾 佑平弁護士(三浦法律事務所)
本稿で扱う内容一覧
日付 | 内容 |
---|---|
2023年8月31日 | 経済産業省「企業買収における行動指針」の公表 |
2023年8月31日 | 金融庁「内部統制報告制度に関するQ&A」「内部統制報告制度に関する事例集」の改訂 |
2023年9月1日 | 心理的負荷による精神障害の認定基準の改正 |
2023年9月13日 | 内閣府「PPP/PFI事業の多様な効果に関する手引・事例集」の改定 |
2023年9月21日 | 公正取引委員会「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」の公表 |
2023年9月22日 | 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第2版)」の公表 |
2023年9月25日 | 内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター「サイバーセキュリティ関係法令Q&Aハンドブック」の公表 |
2023年10月1日 | ステルスマーケティング規制の2023年10月1日施行 |
経済産業省「企業買収における行動指針」の公表
執筆:大草 康平弁護士
2023年8月31日、経済産業省は、2022年11月から2023年4月まで8回にわたり開催された「公正な買収の在り方に関する研究会」における議論や、同年6月から8月にかけて実施されたパブリック・コメントの結果を踏まえて、「企業買収における行動指針 −企業価値の向上と株主利益の確保に向けて−」(以下「本指針」といいます)を策定・公表しました。
本指針の主なポイントは以下のとおりです。
はじめに(第1章)
本指針の位置付けや対象等が明らかにされています。
本指針は、買収提案について、主に対象会社の取締役会と買収者がそれぞれ異なる立場で異なる利益を有している通常の買収取引(独立第三者間取引)を念頭に置いており、MBOおよび支配株主による従属会社の買収といった構造的な利益相反の問題等が認められる取引類型を念頭に置いていた、経済産業省「公正なM&Aの在り方に関する指針 −企業価値の向上と株主利益の確保に向けて−」(2019年)とは主な対象が異なります。
原則と基本的視点(第2章)
上場会社の経営支配権を取得する買収一般において尊重されるべき以下の3つの原則を明らかにしています。
第1原則:企業価値・株主共同の利益の原則
第2原則:株主意思の原則
第3原則:透明性の原則
買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範(第3章)
経営支配権を取得する買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範について、局面に応じた考え方の整理がなされています。
また、買収提案を巡る検討・対話を進めるために必要な情報を買収者や対象会社が提供するうえで必要となりうる秘密保持契約、デュー・デリジェンスへの対応、買収提案の検討・交渉についての基本的な視点が「別紙1:取締役・取締役会の具体的な行動の在り方」において整理されています。
買収に関する透明性の向上(第4章)
買収者および対象会社の双方の観点から、買収に関する透明性の向上の在り方が提示されています。
なお、透明性向上と並んで重要な要素である株主の意思決定を歪める行為の防止に関連して、強圧性、すなわち、「対象会社の株主が買収に応じないでいる間に買収が実現すると、買収に応じた場合と比較して不利益を被ると予想される場合には、たとえ多くの株主が買付価格は客観的な株式の価値より低いと考えている場合であっても、株主が買収に応じるような圧力を受けるという問題」について、「別紙2:強圧性に関する検討」において一定の理論的整理がなされています。
買収への対応方針・対抗措置(第5章)
従前の裁判例も踏まえ、株主意思の尊重、必要性・相当性の確保、事前の開示、資本市場との対話という観点から、買収への対応方針・対抗措置に関する基本的な考え方(総論)が提示されています。また、詳細については「別紙3:買収への対応方針・対抗措置(各論)」において整理がなされています。
なお、買収への対応方針・対抗措置について、本指針と経済産業省・法務省「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(2005年)との内容が整合しない部分については、本指針の内容が優先することを想定していることが明示されています。
本指針については、買収提案を受けた上場会社やその役員、もしくは買収提案を行おうとする株主等にとって、必ず参照すべき指針の1つであるといえます。
「公正な買収の在り方に関する研究会」より本指針の原案が公表された段階から、本指針に明示的に言及・参照した事例も見られましたが(例:ニデック株式会社による2023年7月13日付け「株式会社TAKISAWA(証券コード:6121)に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」)、本指針を踏まえて今後どのように実務が変容・蓄積されていくか注目されます。
中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第2版)− 第三者への円滑な事業引継ぎに向けて− 」の公表
執筆:糸谷 肇祐弁護士、大草 康平弁護士
2023年9月22日、中小企業庁は、2020年に策定した「中小M&Aガイドライン」(初版)を3年ぶりに改訂する「中小M&Aガイドライン(第2版)−第三者への円滑な事業引継ぎに向けて−」(2023年9月付け。以下「本ガイドライン」といいます)を公表しました。
本ガイドラインの主な改訂のポイントは以下のとおりです。
仲介者・FAの手数料の整理
M&Aの仲介業務やFA(フィナンシャル・アドバイザー)業務を担うM&A専門業者の手数料のわかりにくさを指摘する声があったことを踏まえ、手数料に関し実務上多く用いられる算定方式(レーマン方式:「基準となる価額」に応じて変動する各階層の「乗じる割合」を、各階層の「基準となる価額」に該当する各部分にそれぞれ乗じた金額を合算する方式)について、依頼者である中小企業が留意すべき点(「基準となる価額」には多様な考え方が存在しその内容によって報酬額が大きく変動するため、事前に報酬額の目安を確認すること等)を明記しています。
また、不適切事例を申し出るための窓口として、2021年8月に創設された「M&A支援機関登録制度」や一般社団法人M&A仲介協会が設置する「苦情相談窓口」も紹介しています。
M&A専門業者の質の確保・向上に向けた取組み
M&A専門業者の支援の質の確保・向上に向けた取組みとして、M&A専門業者には依頼者との間の契約に基づく義務(善管注意義務、忠実義務)があることに加えて、職業倫理の遵守が求められることを明記したうえ、士業等専門家との連携等を紹介しています。
仲介契約等の締結前の書面による重要事項の説明
仲介契約・FA契約に関し、M&A専門業者は、契約締結前に契約に係る重要な事項を記載した書面を交付(電磁的方法による提供も可)して明確な説明をしなければならないこと、説明後に十分な検討時間を確保すること等を明記しました。
また、書面等に記載して説明すべき重要な事項として11項目を挙げた重要事項説明書のサンプル(本ガイドライン参考資料11)も新たに作成されています。
直接交渉の制限に関する条項における留意点
直接交渉の制限に関する条項の留意点に関する項目を新設し、制限される候補先、交渉目的および期間に関する留意点(直接交渉が制限される候補先は原則として当該M&A専門業者が関与・接触し紹介した候補先のみに限定するべきである点等)を明記しました。
M&Aを検討している中小企業の経営者等は、特に本ガイドラインの内容を適切に把握するとともに、M&Aの仲介業務やFA業務を担うM&A専門業者をはじめとしたM&A支援機関は、示された指針に沿って適切にM&Aを進める必要があります。
「内部統制報告制度に関するQ&A」と「内部統制報告制度に関する事例集」の改訂
執筆:木内 敬弁護士
2023年8月31日、金融庁は、「内部統制報告制度に関するQ&A」と「内部統制報告制度に関する事例集」を改訂し、公表しました(以下、それぞれ「改訂Q&A」、「改訂事例集」といいます)。
これは、同年4月7日に、企業会計審議会から「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」が公表され、同意見書において、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」および「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」の改訂(以下「2023年4月改訂」といいます)がなされたことを受けたものです。
2023年4月改訂において、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」の「財務報告に係る内部統制の評価の範囲」が改正されたため、改訂Q&Aにおいては、「連結ベースの売上高等の一定割合」の記載が、従前は「例えば、概ね2/3程度」と記載されていたものが、「例えば、連結ベースの売上高等の一定割合(おおむね3分の2程度)とする考え方や、総資産、税引前利益等の一定割合とする考え方もある」と記載ぶりが変わりました。
そのほか、「内部統制報告書の記載内容」に関する例示が大幅に削除されました。これに対しては、「これは必ずしもすべての現行の開示実務を否定するものではない。内部統制報告書の記載内容については、関係法令等に従い、投資家と企業との建設的な対話に資する開示がなされることが期待される」とされています。
また、改訂事例集においては、従前は、「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」として、「例えば、一般的な事業会社の場合、原則として売上、売掛金及び棚卸資産」と例示されていましたが、今回の改正ではこれが削除されたうえで、「財務報告に及ぼす影響を勘案し、原則として、全てを評価の対象とする」とされました。
特に、改訂Q&Aは、実務に対し一定の影響が考えられるため、内部統制報告書担当者は、一読することが望まれます。
ステルスマーケティング規制の2023年10月1日施行
執筆:渡邊 隆之弁護士
2023年10月1日、ステルスマーケティング(以下「ステマ」といいます)を不当表示として指定する告示「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年内閣府告示19号)が施行されました。これにより、同日以降、ステマは不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」といいます)違反となります(景品表示法5条3号)。
ステマは、広告であればある程度の誇張・誇大が含まれているだろうと考慮をする余地を奪うことから、一般消費者の自主的かつ合理的な商品・サービスの選択を阻害するとして、従来から問題が指摘されていました。しかし、これまでは表示の内容が優良誤認表示または有利誤認表示(景品表示法5条1号・2号)に該当しない限り、景品表示法により規制することができない状況でした。
新たに施行されたステマ規制に対応するには、運用基準(「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準)が参考になりますが、特に以下の点には注意する必要があります。
- 事業者が第三者に対してある内容の表示を行うよう明示的な依頼・指示をしていない場合や、表示に対して報酬を支払っていない場合であっても、広告表記等が必要となる場合がある。客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合には広告と判断される。
- ステマ規制の対象となるのは、2023年10月1日以降に新たに行われた表示だけに限られず、それ以前に行われた表示が残存している場合も対象となり得る。事業者における同日以降の表示に対する管理状態を基準に判断される。
ステマを行った場合、措置命令の対象となり(景品表示法7条1項)、さらに措置命令に違反した場合には2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処されることになります(景品表示法36条1項)。
なお、ステマ規制の対象となる主体は、あくまで商品・サービスを供給する事業者(広告主)だけであり、実際に表示を行ったインフルエンサー等の第三者は対象となりません。
当然ながら現時点では執行事例がない以上、運用基準やパブリック・コメントに対する回答、消費者庁が作成したステマ規制のパンフレット(景品表示法とステルスマーケティング~事例で分かるステルスマーケティング告示ガイドブック~)等を参照しながら、慎重に対応していく必要があります。
心理的負荷による精神障害の認定基準の改正
執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士
これまで精神障害における労災認定の基準とされてきた「心理的負荷による精神障害の認定基準について」が2023年9月1日付けで改正されました(令和5年9月1日基発0901第2号)。同改正は、同年7月に「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」が公表されたことを受けたもので、主に以下のような改正がなされています(厚生労働省のリーフレットも参照)。
- 「業務による心理的負荷評価表」の具体的出来事の追加等
- 精神障害の悪化について、従前は悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」(特に強い心理的負荷となる出来事)がなければ業務起因性を認めていなかったが、「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したときには、悪化した部分について、業務起因性を認める。
- 専門家の合議による意見収集が必須な事案の範囲を見直し、特に困難なものを除き専門家1名の意見で決定できるようにすることで、労災決定までの期間短縮を図る。
このうち企業において気を付けるべき点として、①については、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」こと(評価表項目14)、および「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」こと(評価表項目27)が具体的出来事として追加されています。
後者はいわゆるカスタマーハラスメントを指し、平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」とされ、心理的負荷の強度の具体的には以下のような例が挙げられています。
具体的出来事 | 心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例 | ||
---|---|---|---|
弱 | 中 | 強 | |
顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた |
|
|
|
(注)著しい迷惑行為とは、暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等をいう。
なお、上記の心理的負荷の強度の総合評価の視点としては、以下の観点で評価されます。
- 迷惑行為に至る経緯や状況等
- 迷惑行為の内容、程度、顧客等(相手方)との職務上の関係等
- 反復・継続など執拗性の状況
- その後の業務への支障等
- 会社の対応の有無及び内容、改善の状況等
これまでカスタマーハラスメントについては、いわゆるパワハラ指針の中で、事業者が雇用管理上の配慮として対応することが望ましい取り組み等が言及されていましたが、パワーハラスメント等と異なり、雇用管理上の措置を講じる法的義務までは課せられていませんでした。
今回の労災認定基準の改正も、カスタマーハラスメントを直接的に措置義務の対象とするものではありませんが、企業としては今後、カスタマーハラスメントが労災決定の一事情となることを踏まえ、より積極的な対応が必要となります。
特に心理的負荷の強度が「強」とされる具体例として、「心理的負荷としては「中」程度の迷惑行為を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社が迷惑行為を把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった」という事情が挙げられているように、企業がカスタマーハラスメントの事情を放置することを問題としているため、企業としてもカスタマーハラスメントの防止に取り組むことが求められているものといえます。
「サイバーセキュリティ関係法令Q&Aハンドブック」の公表
執筆:小倉 徹弁護士
2023年9月25日、内閣官房内閣サイバーセキュリティセンターにより、「サイバーセキュリティ関係法令Q&Aハンドブック」(以下「本ハンドブック」といいます)の改訂版が公表されました。本ハンドブックには、企業における平時のサイバーセキュリティ対策およびインシデント発生時の対応に関する法令上の事項に加え、情報の取扱いに関する法令や情勢の変化等に伴い生じる法的課題等が記載されています。
今回公表された本ハンドブックの改訂版では、Emotetの活動再開や、ランサムウェア被害の増加など、昨今のサイバーセキュリティを取り巻く環境変化等に鑑みて、多数のQ&Aが追加されており、その中でも多くの事業者があらかじめ把握しておく必要性が特に高いと思われるものとして、以下が挙げられます。
- 「サイバーセキュリティインシデント発生時の当局等対応①②」(Q7、Q8)
- 「インシデントレスポンスと関係者への対応」(Q9)
- 「データの消去、データが記録された機器・電子媒体の廃棄」(Q59)
- 「ランサムウェア対応」(Q64)
- 「インシデント対応における費用負担及びサイバー保険」(Q65)
本ハンドブックには、上記に挙げたQ&A以外にも、企業実務の参考となる有益なQ&Aが数多く記載されているため、効率的かつ効果的なサイバーセキュリティ対策および法令遵守のために活用していくことが望まれます。
「PPP/PFI事業の多様な効果に関する手引・事例集」の改定
執筆:遠藤 政佑弁護士
「PPP/PFI事業の多様な効果に関する手引・事例集」(以下「PPP/PFI手引・事例集」といいます)が2023年9月に改定されました。
PPP/PFIとは
多くの地方公共団体にとって、厳しい財政状況や人口減少、公共施設の老朽化などへの対応は非常に重要な課題です。
PPP(Public Private Partnership:官民連携事業)は、こうした課題に対して、公共施設等の設計・建設・維持管理・運営等を、行政と民間が連携して行うことにより、民間の創意工夫等を活用し、財政資金の効率的使用や行政の効率化を図るものです。
また、PFI(Private Finance Initiative:民間資金等活用事業)は、PPPの一種であり、法律に基づき、公共施設等の設計・建設・維持管理・運営等を、民間の資金、経営能力および技術能力を活用して民間主導で行う手法です。
従来は、行政が設計・建設・維持管理・運営等を業務ごとに分離・分割して民間に発注し行政の責任が大きかったのに対して、PPP/PFIでは、設計から維持管理・運営等まで一体的に発注することが通常であり、行政だけでなく民間も責任・リスクを負います。さらに、PPP/PFIでは、行政から民間に対して性能発注が行われること、複数年度契約が締結されることなどの特徴もあります。
このように、PPP/PFIは、従来の手法と比べて、スキームレベルでも大きく異なります。
PPP/PFI手引・事例集の位置付け
PPP/PFIは、これまで効率的・効果的な公共サービスの提供を通じて、財政負担の削減に寄与するだけでなく、財政的な効果に限らない重要な効果を生み出し、注目されてきました。
そこで、内閣府民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)は、2023年4月、これまでのPPP/PFIの事例から今後参考になり得る事例を抽出し、「PPP/PFI事例集」を公表しました。
そして、今回の改定では、PPP/PFIの多様な効果やその検討の方法が一定程度明確化され、事業化の検討段階において、どのような手続を経てPPP/PFIの効果について検討するかの考え方の例が追加されました。このように、この改定を経て、PPP/PFI手引・事例集は、単なる「事例集」ではなく、「手引・事例集」となりました。
PPP/PFI手引・事例集では、PPP/PFIの多様な効果の検討に寄与する「多様な効果として検討しうる指標」や「多様な効果の評価指標の設定方法」などについても詳述されています。そのため、今後のPPP/PFI事業の検討段階において、PPP/PFIの効果をより緻密に検討することが求められ、その過程でPPP/PFI手引・事例集が重要な位置付けを担うことが期待されます。
公正取引委員会「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」の公表
執筆:渡邊 隆之弁護士
公正取引委員会は、2023年9月21日、「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」(以下「本報告書」といいます)を公表しました。この調査は、ニュースプラットフォーム事業者とニュースメディア事業者の取引等における公正性・透明性を高めるとともに、公正な競争環境を確保する観点から、課題の解決に向けてより実効性のある提言を行うことを目的として、実施されたものです。
本報告書では、ニュースポータルおよびインターネット検索といったニュースプラットフォームに係る課題について、競争政策の観点から望まれる取組み等をとりまとめています。概要は以下のとおりです。
具体的な課題 | “望ましい” とされる競争政策上の考え方 |
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ニュースポータル | |
許諾料の水準とその決定根拠 |
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レイアウト等の変更 |
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主要ニュース表示欄の選定基準 |
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ニュースコンテンツの配信制限 |
|
インターネット検索 | |
ニュースコンテンツ利用の対価の支払 |
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検索結果における自社優遇 |
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上記の取組みが十分でないとしても、ただちに独占禁止法に違反することを意味するものではありませんが、公正取引委員会は、新たな技術を活用した調査手法の検討や導入について積極的に取り組みながら、引き続き課題の改善状況をモニタリングしていく方針を示しています。
シリーズ一覧全44件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向