Legal Update

第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向

法務部

シリーズ一覧全44件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
もっと見る 閉じる

目次

  1. 金融商品取引法等の改正法案について
    1. 顧客本位の業務運営の確保
    2. 企業開示制度の見直し
    3. デジタル化進展等に対応した顧客等の利便向上・保護に係る施策に関する改正
  2. スポーツ庁「大規模な国際又は国内競技大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方に関する指針」の策定
  3. 経済産業省「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」の公表
  4. 経済産業省「ファッションローガイドブック2023 ~ファッションビジネスの未来を切り拓く新・基礎知識~」の公表
  5. 公正取引委員会「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」の公表
  6. 企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」の公表
  7. 残業代の支払と認められなかった事例(最高裁令和5年3月10日判決)

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2023年3月10日 残業代の支払と認められなかった最高裁判決
2023年3月14日 「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」国会提出
2023年3月30日 スポーツ庁「大規模な国際又は国内競技大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方に関する指針」の策定
2023年3月31日 経済産業省「ファッションローガイドブック2023 ~ファッションビジネスの未来を切り拓く新・基礎知識~」の公表
2023年3月31日 公正取引委員会「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」の公表
2023年4月4日 経済産業省「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」の公表
2023年4月7日 企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」の公表

 2023年3月14日、金融庁は、「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」を国会に提出しました。改正法案の主な内容のうち、「顧客本位の業務運営の確保」「企業開示制度の見直し」「デジタル化の進展等に対応した顧客等の利便向上・保護に係る施策」について概要を解説します。

 同年3月30日、スポーツ庁は、「大規模な国際又は国内競技大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方に関する指針」を公表しました。組織委員会等は、本指針を遵守し、その遵守状況について自主的に自己説明・公表を行うことが求められます。

 同年4月4日、経済産業省は、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」を公表しました。企業における人権尊重の取組の重要度がますます高まるなか、企業の実務担当者を主な対象に、2022年9月公表の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」をより具体的かつ実務的に示す情報がまとめられています。

 同年3月31日、経済産業省は、「ファッションローガイドブック2023 ~ファッションビジネスの未来を切り拓く新・基礎知識~」を公表しました。ファッション産業やファッション業界に関わる様々な法律問題を取り扱う法分野である「ファッションロー」の観点から、ファッションブランドやデザイナー、若手クリエイター、ファッションを志す学生等がビジネスを展開するにあたり知っておいてほしい内容がまとめられています。

 同年3月31日、公正取引委員会は、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」を公表しました。事業者によるグリーン社会実現のための事業活動の取組が、独占禁止法上問題か否かといった評価について、多数の具体的な想定例を踏まえた記載がされており、参考になります。

 同年4月7日、企業会計審議会は、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」を公表しました。本改訂の主なポイントは、財務報告に係る内部統制の評価の範囲の記載事項が詳細になったこと、前年度に開示すべき重要な不備を報告した場合の付記事項が新設されたことです。2024年(令和6年)4月1日以後開始する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価および監査から適用することとされています。

 そのほか、残業代の支払制度が無効と判断された最高裁判決について解説します。

 編集代表:菅原 裕人弁護士(三浦法律事務所)

金融商品取引法等の改正法案について

 執筆:伊藤 大智弁護士、所 悠人弁護士、峯岸 健太郎弁護士

 2023年3月14日、金融庁により「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」(以下「本改正法案」といいます)が国会に提出されました。
 本改正法案の主な内容は以下のとおりです。

  1. 顧客本位の業務運営の確保
  2. 金融リテラシーの向上
  3. 企業開示制度の見直し
  4. デジタル化の進展等に対応した顧客等の利便向上・保護に係る施策

 紙面の関係上、本稿においては上記①、③および④の概要について紹介します。

顧客本位の業務運営の確保

(1)最善利益義務の規定の新設

 金融商品取引法(以下「金商法」といいます)への、金融事業者や企業年金等関係者に対する、最終的な受益者である顧客や年金加入者の最善の利益を勘案しつつ、誠実かつ公正に義務を遂行すべき義務(最善利益義務の新設が定められています。
 なお、この規定の新設に伴い、同趣旨である金商法36条1項の金融商品取引業者の誠実公正義務等は削除されます。

(2)実質的説明義務の規定の新設

 金商法への、金融商品取引業者の義務として、顧客の属性(具体的には、顧客の知識、経験、財産の状況および金融商品取引契約を締結しようとする目的)に応じた説明義務の新設が定められています(現行法では内閣府令に規定)。

企業開示制度の見直し

(1)四半期報告書の廃止

 上場会社が期中の業績等の開示として原則として3か月ごとに提出する義務を負う四半期報告書の廃止が定められています。その場合、第1・第3四半期の開示は、四半期決算短信に一本化されることが予定されています。
 ただし、代わりに事業年度開始から6か月の事業等に係る半期報告書の提出が義務付けられます。

(2)縦覧期間の延長

 半期報告書、臨時報告書の公衆縦覧期間(各3年間、1年間)が5年間に延長されることが定められています。

デジタル化進展等に対応した顧客等の利便向上・保護に係る施策に関する改正

(1)ソーシャルレンディング等に関する規定の整備

 ソーシャルレンディング等の運用を行うファンドを販売する第二種金融商品取引業者に関して、運用報告書に関する規定の整備が定められており、運用報告書の交付が担保されていないファンドの募集等は禁止されるようになります。

(2)トークン化された不動産特定共同事業契約に係る権利への対応

 現行法では、不動産特定共同事業契約に基づく権利はみなし有価証券に該当しない例外として規定されていますが、ブロックチェーンによりトークン化された権利に関して、金商法上のみなし有価証券として金商法上の販売勧誘規制を適用することが定められています。

(3)掲示情報等のインターネット公表

 インターネット利用者の利便向上や保護のため、金融商品取引業者等に対するウェブサイトの開設および当該ウェブサイトにおける営業所に掲示する標識と同内容の情報公表の義務付けが定められています。

(4)審判手続のデジタル化

 虚偽の財務書類の開示を行った企業やインサイダー取引を行った者などに対する課徴金納付命令に関する審判手続のデジタル化が定められています。

スポーツ庁「大規模な国際又は国内競技大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方に関する指針」の策定

 執筆:中村 朋暉弁護士、坂尾 佑平弁護士

 2023年3月30日、スポーツ政策の推進に関する円卓会議の下に設置された「大規模な国際又は国内競技大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方検討プロジェクトチーム」は、「大規模な国際又は国内競技大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方に関する指針」(以下「本指針」といいます)を策定および公表しました。

 本指針は、すでに策定および公表されている「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」(13原則)の各原則を基礎としつつ、大規模な国際または国内競技大会の準備および運営に関する事業の実施を目的とする組織委員会その他の団体(以下「組織委員会等」といいます)の特有の事情を考慮し、以下の11の原則を定めています。

  1. 組織運営等に関する基本計画を策定し公表すべきである
  2. 適切な組織運営を確保するための役員等の体制を整備すべきである
  3. 組織運営等に必要な規程を整備すべきである
  4. コンプライアンス委員会を設置すべきである
  5. コンプライアンス強化のための教育を実施すべきである
  6. 法務、会計等の体制を整備すべきである
  7. 適切な情報開示を行うべきである
  8. 利益相反を適切に管理すべきである
  9. 通報制度を構築すべきである
  10. 懲罰制度を構築すべきである
  11. 危機管理及び不祥事対応体制を構築すべきである

 組織委員会等は、「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」の関連規定および本指針を遵守し、その遵守状況について具体的かつ合理的な自己説明を行い、公表することが求められます。また、法人形態、業務形態、組織運営の在り方等が組織委員会等によって異なることから、自らに適用することが合理的でないと考える項目については、そのように考える合理的な理由を説明することが求められます。この自己説明および公表については、少なくとも年1回行うことが必要です。

 スポーツ庁のウェブサイトには、本指針と並んでセルフチェックリストが掲載されており、組織委員会等は、自己説明および公表に際し、これを活用し、可能な限り多くの項目に対応することが求められます。

 本指針の詳細については、弊所のNote記事「危機管理INSIGHTS Vol.11:スポーツ界の危機管理③ −「大規模な国際又は国内競技大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方に関する指針」の公表 − 」もご参照ください。

経済産業省「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」の公表

 執筆:岩崎 啓太弁護士、坂尾 佑平弁護士

 昨年2022年9月に公表された「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(以下「本ガイドライン」といいます)を踏まえ、主に企業の実務担当者を対象に、2023年4月4日、経済産業省から、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」(以下「実務参照資料」といいます)が公表されました。本ガイドラインについては、本連載第9回の「2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント」をご参照ください。

 本ガイドラインは、企業における人権尊重の取組として、①人権方針の策定、②人権デュー・ディリジェンス(以下「人権DD」といいます)、③救済の3つを挙げられているところ、実務参照資料では、企業がまず行うことになる①人権方針の策定②人権DDの最初のステップである人権への負の影響の特定・評価について、検討すべきポイントや実施フローの例を示しています(実務参照資料2頁)。

 実務参照資料では、本ガイドラインから踏み込んだ実務的な記載も見受けられ、主なものとしては、以下の点が挙げられます(詳細は、弊所のNote記事「ESG・SDGs UPDATE Vol.8:「ビジネスと人権」の基礎④ −「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」の公表 − 」もご参照ください)。

項目 概要
① 人権方針関連
人権方針の項目の例示 企業が実際に人権方針を策定する際に盛り込むことが考えられる項目を具体的に例示
② 人権DD関連
人権への負の影響の特定・評価を進めるうえでの参考資料の公表 実務参照資料の別添資料として、以下の資料を公表
「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」(参考資料
「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」(作業シート
人権への負の影響の特定に関する柔軟な対応の必要性を指摘 問題となり得る人権侵害リスクが多数に上る場合、完璧にその全ての発生過程を特定するのではなく、暫定的に優先順位を付けて、人権侵害リスクの防止・軽減へ進むことの重要性を指摘
優先順位付けの判断基準の例示 優先順位付けの基準である負の影響の深刻度に関し、考慮要素である人権への負の影響の規模、範囲、救済困難度について、考え方の詳細を例示

 2023年4月3日開催の「ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議」では、政府の実施する公共調達の入札説明書等において、入札希望者等が人権尊重に取り組む努力義務の導入を進めることが明記されており、企業における人権尊重の取組の重要度が日々高まっています

 今般の実務参照資料の公表を踏まえ、今後のビジネスと人権に関する実務の蓄積が期待されます。

経済産業省「ファッションローガイドブック2023 ~ファッションビジネスの未来を切り拓く新・基礎知識~」の公表

 執筆:新岡 美波弁護士、大滝 晴香弁護士

 2023年3月31日、経済産業省は、2022年11月から12月に開催された「ファッション未来研究会~ファッションローWG~」における議論を踏まえ、「ファッションローガイドブック2023 ~ファッションビジネスの未来を切り拓く新・基礎知識~」という形で日本初のファッションローガイドブックを公表しました。同日、概要版プロモーションビデオ等も併せて公表されています。

 本ガイドブックは、「ファッションロー」を「ファッション産業やファッション業界に関わる様々な法律問題を取り扱う法分野」と定義し、ファッションブランドやデザイナー、若手クリエイター、ファッションを志す学生等がビジネスを展開するにあたって、ファッションローの観点からぜひ知っておいてほしい内容を実用的なチェックリストにまとめています

 本ガイドブックは、知的財産法だけでなく、契約法、労働法、国際取引法、環境規制等ファッションに関連する様々な法分野を対象として、以下に列挙する7つのテーマに分けて、ファッションビジネス上知っておくべき基本的なポイントをチェックリスト形式で記載するとともに、「著作権」や「契約」といった法律に関連する基本用語を説明する「Basic」、ファッションローに関する情報が記載されたリンク先をまとめた「Reference」、応用的な知識を取り上げる「コラム」から構成されています。
 また、グローバル化やNFT・メタバース等デジタル技術の登場、サステナブルへの機運の高まりによって、ファッションを取り巻く環境が大きく変化していることを指摘し、こうした変化に柔軟に対応するために留意すべきポイント等についても取り上げています。

I. ブランドを立ち上げたらまずやるべきこと
II. ファッションデザインの権利について知っておくべきこと
III. プロモーション・広報を外部クリエイター等に依頼する際に気を付けること
IV. 生産・流通について知っておくべきこと
V. サステナビリティについて知っておくべきこと
VI. 海外でのビジネスを検討する際に知っておくべきこと
VII. デジタルファッション領域にチャレンジするときに知っておくべきこと

 ファッションローは、ファッションを享受する購入者にとっても注目すべきトピックであり、ファッション産業に関わる個人・事業者が、国内外で不当に不利益を被ることなく、健全な発展を目指すことができるよう、本ガイドブックがファッションローという法分野における「道しるべ」となることが期待されています。

公正取引委員会「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」の公表

 執筆:渥美 雅之弁護士

 2023年3月31日、公正取引委員会は、グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組に関する新たな技術等のイノベーションを妨げる競争制限的な行為を未然に防止するとともに、事業者等の取組に対する法適用および執行に係る透明性および事業者等の予見可能性をいっそう向上させ、事業者等の取組を後押しすることを目的として、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」(以下「本ガイドライン」といいます)を公表しました。
 本ガイドラインは、事業者によるグリーン社会実現のための事業活動の独禁法上の評価について、多数の具体的な想定例を踏まえて記載されており、参考となります

 本ガイドラインでは、グリーン社会実現のための取組の多くは、新たな技術や優れた商品を生み出す等の競争促進効果を有するものであり、基本的に独禁法上問題とならない場合が多いことが明記されており、事業者による取組を過度に萎縮させないように配慮した記載となっています。
 そのうえで、事業者による取組が事業者間の公正かつ自由な競争を制限する効果と競争促進効果の両方を有する場合には、当該取組の目的の合理性および手段の相当性を勘案しつつ、当該取組から生じる競争制限効果と競争促進効果を総合的に考慮して、独禁法上問題か否かを判断するとしています。
 このような判断基準は過去の裁判例においても採用されていましたが、公正取引委員会による判断もこのような枠組みに基づき行われることが明記されたことは重要といえます。

 さらに、本ガイドラインは、事業者による共同の取組(たとえば、業界として温室効果ガス削減目標を設定するといった行為)に加えて、事業者単独の行為(たとえば、温室効果ガス削減目標を達成できない事業者との取引を終了するといった行為)なども検討の対象とされていることから、本分野における包括的なガイドラインとなります。

 本ガイドラインにより、温室効果ガス削減に向けた事業者の取組等が独禁法上問題となるか否かの基準がある程度明確になったといえますが、個別具体的な事実関係に基づいて判断されることから、引き続きこれらの取組を行うにあたっては独禁法上の検討を行うことが必要といえます。特に、業界において有力な企業同士が共同で行う取組については、当該市場に対する競争制限効果が発生する可能性が否定できない場合がありますので、独禁法専門家に相談したうえで取組を推進することが求められます。

企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」の公表

 執筆:木内 敬弁護士・公認会計士

 2023年4月7日、企業会計審議会総会において、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」が取りまとめられ、公表されました。同意見書において、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」および「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」の改訂がなされました。令和6年(2024年)4月1日以後開始する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価および監査から適用することとされています。

 金融商品取引法に基づく内部統制報告制度は2008年に導入がなされていますが、今回の改訂は、それ以来の大きな改正と位置付けることができます。
 具体的には、「財務報告に係る内部統制の評価の範囲」として、「重要な事業拠点の選定において利用した指標とその一定割合」「評価対象とする業務プロセスの識別において企業の事業目的に大きく関わるものとして選定した勘定科目」「個別に評価対象に追加した事業拠点及び業務プロセス」について、「決定の判断事由を含めて記載することが適切である」とされました(財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準 II.4.(4))。
 また、「付記事項」として「前年度に開示すべき重要な不備を報告した場合、当該開示すべき重要な不備に対する是正状況」が加わりました同基準 II.4.(6))。

 上記のとおり、財務報告に係る内部統制の評価の範囲の記載事項が詳細になったため内部統制報告書を提出している上場会社には一定の影響があると考えられます。また、前年度に開示すべき重要な不備を報告した場合の付記事項が新設されましたので、不適切な会計処理等が発覚した場合等で「内部統制に重要な不備がある」と開示した会社等に関しては、大きな影響があると考えられます。

残業代の支払と認められなかった事例(最高裁令和5年3月10日判決)

 執筆:菅原 裕人弁護士

 2023年3月10日、最高裁判所(以下「最高裁」といいます)は、時間外労働の割増賃金(以下「残業代」といいます)の支払制度の有効性が争点となった事件(以下「本事件」といいます)において、その有効性を否定する判決(以下「本判決」といいます)を下しました(最高裁令和5年3月10日判決)。

 最高裁は、まず、本判決で一般論として、時間外労働の対価の該当性について、「契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当等に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの諸般の事情を考慮して判断すべき」であり、「当該手当の名称や算定方法だけでなく、当該雇用契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならない」と先例と同様に述べました。

 そして、本件における残業代の制度が、①通常の残業代に相当する時間外手当(以下「本件時間外手当」といいます)と②月ごとに決定される賃金総額から本件時間外手当を差し引いた調整手当が残業代とされているところ、調整手当が賃金総額から本件時間外手当を差し引いて決まることから、両者の区分については名称が異なる以上の意味がないため、①②の両者を合わせて残業代の支払に該当するかを判断することとしました。

 本事件の原告(労働者)の残業の実態として1か月当たりの時間外労働等は平均80時間弱であるところ、これを前提として算定される本件時間外手当をも上回る水準の調整手当が支払われていることから、仮に調整手当も残業代とすると実際の勤務状況に照らして想定し難い程度の長時間の時間外労働等を見込んだ過大な割増賃金が支払われる賃金体系の設定となるが、そのような制度移行の十分な説明もなかったとされました。そして、賃金制度が変更された際に調整手当が名目のみを残業代に置き換えて支払う内容に変わったことから、本件時間外手当および調整手当には通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分をも相当程度含んでいるものと解さざるを得ず、両者について通常の労働時間の賃金に当たる部分と残業代に当たる部分とを判別することはできないから残業代の支払として認めない判断をしました。

 本判決は、従前の最高裁判例と同様の時間外労働の該当性について判断したものですが、本事件はやや特殊な事案のため、事例判断の側面もあります。もっとも、広く用いられている固定残業代制度においても上記と同様に、基本給と残業代が判別できずに混在している場合や、過大な残業代を固定残業代として設定しているなど、本事件と同じく有効性を否定される可能性もあることから、残業代の支払が無効とならないよう本判決も踏まえた点検をすることがよいでしょう。

シリーズ一覧全44件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
もっと見る 閉じる

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する