Legal Update
第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
法務部
シリーズ一覧全46件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第46回 2025年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
目次
本稿で扱う内容一覧
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 2025年7月30日 | 厚生労働省「『労災保険制度の在り方に関する研究会』の中間報告書」の公表 |
| 2025年8月5日 | 経済産業省「中小M&A市場改革プラン」の公表 |
| 2025年8月7日 | 国土交通省通達「事業者間遠隔点呼を実施する自動車運送事業者における輸送の安全に関する業務の管理の受委託について」の公表 |
| 2025年8月8日 | 流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の公布 |
| 2025年9月5日 | 最低賃金の改定 |
| 2025年9月25日 | 国家サイバー統括室「被害報告一元化に関するDDoS事案及びランサムウェア事案報告様式」の公表 |
編集代表:菅原 裕人弁護士(三浦法律事務所)
流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の公布
執筆:菅原 裕人弁護士
2024年5月15日に、物流の2024年問題への対応のために、流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律等の改正(改正後の法律名「物資の流通の効率化に関する法律」。以下「物流効率化法」といいます)が公布され、2025年4月1日に一部を除いて施行されています。
改正物流法の概要は、本連載第29回「2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「1 物流の2024年問題に関する改正法案の成立(第213回国会)」をご参照ください。
2025年8月8日、同法の一部の施行期日を定めるとともに、その施行に必要な規定の整備を行うための政令(以下「本政令」といいます)が制定され、公布されました(国土交通省ウェブサイト)。
本政令では、物流効率化法において今後施行することが予定されていた、(1)特定事業者に関する義務の施行期日を定める政令と、(2)特定事業者の指定基準等を定める政令がそれぞれ公表されました。公表の内容は従前から整理されていた内容のとおりとなりますが、改めて記載すると以下のとおりです。
(1)特定事業者に関する義務の施行期日を定める政令
以下の義務付けに係る物流改正法の施行期日は、2026年4月1日となりました。
- 特定事業者に対する中長期計画の作成や定期報告等の義務付け
- 特定事業者のうち荷主に、物流統括管理者の選任の義務付け 等
(2)特定事業者の指定基準等を定める政令
特定事業者の指定基準に関して、日本全体の貨物量の半分程度をカバーするのが大手荷主、倉庫業者、トラック事業者等で占められているという考え方のもと、重量等基準が決められました。この考え方に基づく基準の詳細は、国土交通省の物流効率化法のポータルサイトにおける「特定事業者の指定について」にまとめられています。
(1)(2)に挙げた、物流効率化法の適用事業者においては、改めて特定事業者に該当するかを確認のうえ、上記ポータルサイトにまとめられている内容を踏まえて、自社として対応しなければならない事項を確認し、施行日までに実施していくことが求められます。
国土交通省通達「事業者間遠隔点呼を実施する自動車運送事業者における輸送の安全に関する業務の管理の受委託について」の公表
執筆:菅原 裕人弁護士
2025年8月7日、国土交通省は、「事業者間遠隔点呼を実施する自動車運送事業者における輸送の安全に関する業務の管理の受委託について」(国自貨第245号・国自安第54号・国自旅第71号。以下「本通達」といいます)を公表しました。
「点呼」はドライバーの健康状態やトラックの状況を確認し、安全な運行を確保するために重要なものとなっていますが、すでに同一事業者内での遠隔点呼の運用は実施されていました。
そうしたところ、同年4月30日に「対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法を定める告示の一部を改正する告示」(令和7年国土交通省告示第347号。以下「点呼告示」といいます)が改正され、点呼告示7条8項において「他の事業者との間で遠隔点呼を行う場合は、当該遠隔点呼の実施に当たり、道路運送法(昭和26年法律第183号)第35条第1項又は貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号)第29条第1項(第35条第6項及び第37条の2第3項において準用する場合を含む。)の許可を要する受委託契約について、事業者と当該他の事業者との間において、あらかじめ当該許可を受けていること」と定められたことにより、事業者間での遠隔点呼の受委託契約による実施が可能となりました。
本通達は、事業者間の遠隔点呼の受委託についてその許可基準を定めたものとなります。そのため、本通達により、今後、事業者間の遠隔点呼が実施されていくことが見込まれます。
事業者間の遠隔点呼の受委託に関する許可基準の詳細は本通達に記載のとおりですが、本通達において挙げられている受委託にかかる要件は以下のとおりです。
イ 委託事業者及び受託事業者は、事業者間遠隔点呼に係る業務の管理の委託受託契約書等について、事前に協議の上で定めること。
ウ 事業者間遠隔点呼に係る業務の管理の委託受託契約書等に取決めがない事象が生じた場合又は委託される業務内容に変更が生じた場合においては、委託事業者及び受託事業者間において協議の上、対応を決定すること。
エ 委託事業者及び受託事業者は、事業者間遠隔点呼を受ける運転者等に係る個人情報の取扱いについて双方で同意を得ること。
オ 委託事業者及び受託事業者は、あらかじめ、事業者間遠隔点呼実施者と被事業者間遠隔点呼実施者の属する営業所の運行管理者等との間で連絡先を共有し、常時連絡できる体制を整えること。
カ 上記に係る連絡体制については冗長性を持たせるものとし、かつ、緊急時の連絡方法等についてあらかじめ定めておくこと。
キ 委託事業者は、受託事業者に対し、事業者間遠隔点呼が適切に行われているか定期的に調査するとともに、是正すべき事項がある場合は、受託事業者に必要な事項を申し入れるなど適切に業務管理をすること。
ク 受託事業者は、委託事業者が行う調査・管理について協力するとともに、上記調査によらず受託事業者において是正すべき事項が明らかとなった場合には、受託事業者は当該事項について委託事業者に報告すること。
事業者間遠隔点呼の実施違反、記録違反等の違反行為に対しては行政処分がなされる可能性があります。本通達において、具体的には次の例が示されています。
ア 事業者間遠隔点呼を行うべき運行管理者等が正当な理由なく事業者間遠隔点呼を実施しなかった場合、点呼の実施記録に係る記載事項の不備があった場合などは、受託営業所が行政処分の対象となる。
イ 事業者間遠隔点呼を受けるべき運転者等が事業者間遠隔点呼を受けずに運行した場合、委託営業所が点呼告示又は本通達で定められた書類又は情報等を提出しないなどの場合は、委託営業所が行政処分の対象となる。
事業者間の遠隔点呼を実施するうえでは、これらの基準を遵守していくことが求められます。
最低賃金の改定
執筆:菅原 裕人弁護士
2025年8月4日に中央最低賃金審議会(厚生労働大臣の諮問機関)が示した「令和7年度地域別最低賃金額改定の目安について」を受けて、各地方都道府県労働局に設置されている地方最低賃金審議会において、令和7年度の地域別最低賃金について答申が相次いで出され、同年9月5日には全国の最低賃金の改定額が出そろいました。
全国の最低賃金の改定見込額は「令和7年度 地域別最低賃金 答申状況」にまとめられていますが、本年の最低賃金の改定の概要をまとめたものは以下のとおりです。
- 47都道府県で、63円~82円の引上げ(引上げ額が82円は1県、81円は1県、80円は1県、79円は1県、78円は3県、77円は2県、76円は1県、74円は1県、73円は2県、71円は4県、70円は1県、69円は2県、66円は2県、65円は8道県、64円は9府県、63円は8都府県)
- 改定額の全国加重平均額は1,121円(昨年度1,055円)
- 全国加重平均額66円の引上げは、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額
- 最高額(1,226円)に対する最低額(1,023円)の比率は、83.4%(昨年度は81.8%。なお、この比率は11年連続の改善)
近年、最低賃金の引上げ額は最高額を更新し続けていますが、本年も引上げ額が昨年を上回り過去最高額となりました。
今後、答申された改定額は、都道府県労働局での関係労使からの異議申出に関する手続を経たうえで、都道府県労働局長の決定により、2025年10月1日から2026年3月31日までの間に順次発効される予定です(都道府県ごとに発効日が異なりますので、事業場に応じた確認が必要となります)。
特に、東京都では、過去最高額の最低賃金(1,226円)になりますので、2025年10月以降、パート・アルバイトを募集する際には労働条件が最低賃金を下回らないよう留意する必要があり、現在、最低賃金を下回る労働条件でパート・アルバイトを募集している事業者は注意が必要です(最低賃金法4条1項の違反に該当し、同法40条により50万円以下の罰金の対象になります)。
厚生労働省「『労災保険制度の在り方に関する研究会』の中間報告書」の公表
執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士
2025年7月30日、厚生労働省は「『労災保険制度の在り方に関する研究会』の中間報告書」(以下「本報告書」といいます)を公表しました。
本報告書は、経済や社会、人々の働き方の変化を踏まえて現行制度を検証するとともに、順次の改正を経て至った労災保険制度の今日における役割を踏まえ、労災保険制度全体について、適用、給付および徴収の分野ごとに、改めて検証し、労災保険制度が抱える現代的・制度的な課題について議論した結果をとりまとめたものとなります。
本報告書では、大きく、Ⅰ 適用関係、Ⅱ 給付関係、Ⅲ 徴収等関係の観点から、労災保険制度に関して分析し、今後の方向性に関して意見をまとめています。
本報告書において検討されているもので、今後の労災保険制度に関して事業者に影響のあり得る事項をピックアップし、公表されている本報告書の概要から紹介します。
労災保険制度の強制適用の範囲
労災保険制度の強制適用の対象は現行法上、労働基準法が適用される労働者となっていますが、近時のフリーランス等をめぐる動きや労働基準法上の「労働者性」に関する議論が行われていること(厚生労働省の「労働基準法における『労働者』に関する研究会」参照)を踏まえ、フリーランス等にも労災保険法を強制適用することについて検討されました。本報告書においては、将来的に検討課題になり得るとする意見と、慎重に検討するべきとの意見に分かれています。
次に、仮に強制適用の範囲を拡大する場合、労災保険料は誰が負担すべきかについても議論されました。この点についても意見が分かれましたが、発注者やプラットフォーマーに拠出させることも検討し得るとの意見も出ていました。
本報告書の結論としては、労災保険法の強制適用の範囲については、労働基準法上の「労働者」に関する概念の議論も踏まえつつ、労働基準法との関係も含めた労災保険制度の位置づけと保険料負担のあり方も含め、専門的な見地から引き続き議論を行う必要があるとされました。労災保険料に関しては、上記のとおり発注者やプラットフォーマーに拠出させることも検討し得るとの意見も出ているところであり、今後の動向を注視する必要があります。
メリット制について
現行の労災保険制度では、事業主が納付することとなる労災保険料は、原則として、その事業に使用される労働者に支払う賃金総額に業種別の労災保険率を乗じて算定しますが、業種が同一であっても、個々の事業場ごとの災害率には差が認められています。事業主の負担の公平性を図るとともに、事業主の災害防止努力を促進するため、一定規模以上の事業主については、個別の事業場の災害発生状況に応じて労災保険率または労災保険料を増減するメリット制を適用しています。メリット制は、事業ごとに、その事業主が納めた労災保険料相当額に対する労災保険給付相当額の割合に応じて最大40%の範囲内で労災保険率および労災保険料を増減させる制度となっています。
このようなメリット制の効果については、一定の災害防止効果があることについて概ね意見が一致しましたが、一部の委員からは、効果については一定の留保を前提とするものであるとの意見もありました。
本報告書の結論としては、メリット制を存続させ、適切に運用することが適当と考えるとされました。
労災保険給付の支給・不支給決定の事業主への伝達について
被災労働者から労災保険給付請求がなされた場合、事業主は、請求書の事業主証明欄に署名したり、請求を受けた労基署から調査を受けたりすることにより、労災保険給付請求が行われていることを認識できます。しかし、労災支給決定(不支給決定)については、被災労働者に通知されるのみで、事業主には通知されないのが現状です。
本報告書においては、早期の災害防止を図る観点やメリット制適用事業主が保険料の認定処分の取消訴訟等において、労災保険率の決定の基礎とされた労災保険給付の支給要件非該当性を主張するという手続保障の観点から、保険料を負担する事業主に対して、決定・不支給の事実を知らせることは重要との点で意見は一致し、労災保険給付の支給決定(不支給決定)について事業主に対して情報提供されることが適当と考えるとの結論になりました。ただし、被災労働者の個人情報の取扱いに留意しつつ、検討する必要があるとされました。
次に、メリット制の適用により事業主の労災保険率は増減しますが、労災保険率の算定の基礎となった労災保険給付に関する情報についても、現状事業主に通知されていません。
本報告書では、メリット制の適用を受ける事業主が、労災保険率の決定の基礎とされた労災保険給付の支給要件非該当性を主張するという手続保障の観点から、事業主に対して保険料の前提となる事実を知らせることは重要との意見で一致しました。結論として、メリット制適用事業場の事業主に対して、労災保険率の算定の基礎となった労災保険給付に関する情報が提供され、事業主自ら負担する保険料がなぜ増減したのかがわかる情報を知り得る仕組みが設けられることが適当と考えるとされました。ただし、提供する情報の範囲については、保険給付に関する情報には被災労働者に係る機微な情報を含み得ることに留意しつつ、検討する必要があるとされています。
なお、このメリット制に関する取消訴訟に関する議論は、本連載第32回「2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「9 療養補償給付・休業補償給付支給処分の取消訴訟における事業主の原告適格に関する最高裁判例(最高裁(一小)令和6年7月4日判決)」にて紹介した最高裁判例を踏まえた議論となります。
今後は本報告書を基にさらに議論が進められる見込みですので、今後の動向を注視していく必要があります。
経済産業省「中小M&A市場改革プラン」の公表
執筆:所 悠人弁護士
2025年8月5日、経済産業省は、「中小M&A市場改革プラン」を公表しました(以下「本プラン」といいます)。これは、中小M&A市場の改革を図るため、中小企業庁が同年5月に設置した「中小M&A市場の改革に向けた検討会」における検討結果として、今後、各関係者が実施すべき取組みとそれらを促進する施策等をとりまとめたものです。
中小M&Aの意義
本プランはまず、中小M&Aには、①後継者不在等の理由による廃業を防ぎ、希少な経営資源が散逸する事態を回避すること、②経営者年齢の若返りやシナジー効果の発揮等によって成長・生産性向上等を実現することといった意義があることを論じています。
これまでの主な取組み
また、上記5-1①②の意義を実現するため、これまで、事業承継やM&Aのニーズの掘り起こし、相手方とのマッチングからM&Aの円滑な成立に向けた支援、M&A成立後の成長に向けた支援といった、M&Aのフェーズごとに総合的な支援を講じてきたことや、質の低いM&A仲介事業者や不適切な買手の問題等に対応し、中小M&A市場の環境整備も図ってきたことを論じています。代表的な施策として、「中小M&Aガイドライン」の策定や、「M&A支援機関登録制度」の創設が挙げられます。
事業承継・M&Aに係る状況
そして、上記5-2の取組みを踏まえても、(i)中小M&Aは浸透をみせている一方で、経営者が60代以上かつ事業承継の意向が未定の法人企業が約26万者存在し、引き続き拡大を図っていく必要があること、(ii)人手不足の深刻化等の事業環境の変化が生じる中、M&Aを単に事業承継を実現するため選択肢としてではなく、中小企業が成長を実現するための戦略的な手段として推進を図っていく重要性がいっそう高まっていること、(iii)M&A支援機関が増加する中で、その支援の質が十分とはいえず、不適切な譲り受け側の存在も指摘されており、市場の健全化に向けたさらなる取組みが求められていることを指摘しています。
中小M&A市場改革に向けた今後の施策の方向性
以上を踏まえ、本プランは、中小M&Aのプレイヤーごとに、(1)譲り渡し側、(2)中小M&A市場、(3)譲り受け側といった3つの軸で施策を講じていくべきであることを指摘しています。
(1)譲り渡し側に係る施策
雇用維持や経営者保証の解除等のM&Aへの不安が存在、自らの事業価値やM&Aへの相場観が不足
施策の方向性
- 支援機関による事業承継ニーズ掘り起し強化
- M&Aへの不安解消のための広報強化・シンポジウムの実施(M&Aキャラバン)
- M&Aに対する不安を軽減するスキームの検討・普及
- M&A時の経営者保証解除または譲り受け側への移行に関する実務慣行の定着
- M&A検討前の財務状況の精査に係る支援
- 中小M&A市場における取引相場の醸成
(2)中小M&A市場に係る施策
M&A支援機関、M&Aアドバイザーの質向上を図る必要性、小規模案件を手掛けるまたは地方におけるM&A支援機関の不足
施策の方向性
- M&A支援機関の業務の内容・質の開示強化
- 公正な競争を喚起する仲介・FA手数料のあり方に関する検討
- M&Aアドバイザー個人の知識・スキルに係る資格制度の創設
- 地域の支援機関育成を見据えた事業承継・引継ぎ支援センターの強化・深化
(3)譲り受け側に係る施策
起業家精神や経営能力が高い優良な買手への支援が不足
施策の方向性
- 複数回のM&A(グループ化)の推進
- 小規模案件や個人による承継を支援するファンドへの支援強化
- PMIへの支援
- 支援機関による優秀な譲り受け側の掘り起し推進
本プランは、上記各「課題」に示される問題が近年改めて表層化したことを受けて、その解決に向けた施策の方向性を示すものであり、今後も中小M&Aの活性化に向けた取組みが続けられていくこととなります。中小M&Aのプレイヤーにおいては、引き続き今後の動向について注視し続ける必要があります。
国家サイバー統括室「被害報告一元化に関するDDoS事案及びランサムウェア事案報告様式」の公表
執筆:南 みな子弁護士、小倉 徹弁護士
2025年9月25日、内閣官房国家サイバー統括室により、「DDoS攻撃事案共通様式」および「ランサムウェア事案共通様式」(以下「本様式」と総称します)が公表され、2025年10月1日に施行されました。
同年5月29日に開催されたサイバーセキュリティ戦略本部第43回会合において、「サイバー空間を巡る脅威に対応するため喫緊に取り組むべき事項」が公表され、その中で、インシデントに係る各種報告について、民間の負担を軽減するため、ランサムウェア攻撃等の類型から、順次、様式の統一を実施し、報告先の一元化についても、必要な制度改正等を行うこととされました。
本様式の施行前の時点におけるインシデントに係る各種報告および本様式による報告の一元化の内容は以下のとおりです。
本様式の施行前の時点におけるインシデントに係る各種報告
現行のセキュリティインシデント報告制度には様々なものがありますが、代表的なものとしては以下のとおりです。
(1)個人情報等の漏えい等の報告
個人情報取扱事業者における個人情報の保護に関する法律26条1項に基づく個人データの漏えい等の報告、行政機関等における同法68条1項に基づく保有個人情報の漏えい等の報告および個人番号利用事務等実施者における行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(いわゆる「マイナンバー法」)29条の4第1項に基づく特定個人情報(マイナンバー(個人番号)を含む個人情報)の漏えい等に関する報告を、個人情報保護委員会(報告受理権限の委任がある場合は、委任先の省庁等)に対して行う必要があります。
(2)各業法等に基づく事故報告等
各業法において、セキュリティインシデントが生じた際の所管官庁等への報告義務が課されていることがあります。例えば、電気通信事業者は、通信の秘密の漏えい等が生じた場合等には、遅滞なく総務大臣に報告すべき義務が課されています(電気通信事業法28条1項)。また、金融商品取引業者等は、サイバーセキュリティ事案が発生した場合には、ただちに金融庁に報告すべきものとされています(金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針Ⅲ-2-8 (3))。
重要インフラ事業者等についてシステムの不具合等に関する情報連絡が求められるケース(サイバーセキュリティ戦略本部「重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画」(2025年6月27日改定)「別添:情報連絡・情報提供について」2.1)や、各ガイドライン等に基づき公的機関への報告が推奨されているケース(健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版 企画管理編」(2023年5月)11.3など)もあります。
(3)警察への通報・相談
法令上、セキュリティインシデントが生じた際に、警察への通報・相談を行うことが義務付けられているものではありませんが、積極的に行うことが望ましいとされています(サイバー攻撃被害に係る情報の共有・公表ガイダンス検討会「サイバー攻撃被害に係る情報の共有・公表ガイダンス」Q18(2023年3月8日))。
本様式による報告の一元化
2025年10月1日から、DDoS攻撃事案・ランサムウェア事案に係る報告については、本様式に報告様式が統一される予定です。これにより、DDoS攻撃またはランサムウェアの被害を受けた組織は、所管官庁や個人情報保護委員会への報告、都道府県警察への通報・相談等について、本様式を用い、または別途法令等で定める様式に本様式を添付する形で報告等を行うことが可能となります。
関係省庁による2025年9月25日付け「サイバー攻撃による被害が発生した場合の報告手続等に関する申合せ」によれば、今後、重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律(いわゆる「能動的サイバー防御法」)5条の規定に基づく報告を含めた各種報告等について、同条に基づく報告義務の施行(2026年11月23日まで)に併せ、官公署への報告等に際して利用できる共通様式を整備し、さらに官民連携基盤の整備により、これらの報告の窓口を一元化するよう調整を進めることとされています。
シリーズ一覧全46件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第46回 2025年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向