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第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
法務部
シリーズ一覧全16件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
目次
2022年6月7日に「経済財政運営と改革の基本方針2022」が閣議決定され、特に中長期の経済財政運営の文脈において、ESGにかかわる施策が数多く盛り込まれました。ビジネス法務の観点からは、男女賃金格差開示、ベネフィットコーポレーションの創設、GXへの投資、の3点が特に重要です。
その後、同月13日には、金融庁金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループが「中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて」と題する報告書を公表しました。同報告書は今後の開示実務に大きな影響を与えるものであり、なかでも、気候変動対応、人的資本・多様性というサステナビリティ情報の開示の点が重要です。
さらに、7月19日には経済産業省CGS研究会がCGSガイドラインの再改訂版を公表しました。改訂においては、近時の日本のコーポレート・ガバナンス改革の進展を受けたアップデートがなされています。
編集代表:坂尾 佑平弁護士・渥美 雅之弁護士(三浦法律事務所)
本稿で扱う内容一覧
日付 | 内容 |
---|---|
2022年6月7日 | 「経済財政運営と改革の基本方針2022」閣議決定 |
2022年6月13日 | 金融庁金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループによるDWG報告書 (「中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて」)の公表 |
2022年7月19日 | 経済産業省CGS研究会(第3期)によるCGSガイドラインの再改訂版の公表 |
経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる骨太の方針)2022の公表
執筆:岩崎 啓太弁護士、所 悠人弁護士、菅原 裕人弁護士、緑川 芳江弁護士
2022年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(以下「骨太方針」といいます)では、特に中長期の経済財政運営の文脈において、ESGにかかわる施策が数多く盛り込まれました。このうち本稿では、ビジネス法務の観点から注視すべき以下の3つのポイントについて概説します。
(2)経済的な利益と公共の利益の両立を目指す新たな法人形態の創設
(3)グリーントランスフォーメーション(GX)への投資に向けた社会システム・インフラ整備
男女間の賃金格差是正に向けた企業の開示ルールの見直し(男女賃金格差開示)
骨太方針においては、男女間の賃金格差の解消に向けて、男女間の賃金格差の開示を義務付けることが確認されました。これは男女共同参画局が策定する「女性活躍・男女共同参画の重点方針2022(女性版骨太の方針2022)」(以下「女性版骨太方針」といいます)を踏まえたものです。
骨太方針における要請は、女性活躍推進法に基づく開示、および有価証券報告書に基づく開示の2つに整理することができ、従業員や求職者等だけでなく、投資家や資本市場全体に対しても、自社の男女賃金格差に係る情報を開示することが求められています。
(1)女性活躍推進法に基づく開示
まず、女性活躍推進法との関係では、女性版骨太方針において、女性活躍推進法を根拠法令として企業に男女賃金格差の開示を義務付ける方針が示され、これを受けて、厚生労働省において、短期間で審議が進められ、本年7月8日に同法の省令が概ね以下のように改正・施行されました(以下「本改正」といいます)。
- 男女賃金格差について開示しなければならない対象事業主は常時雇用する労働者が301人以上の事業主とする。当該労働者数が101人~300人の事業主については、改正前から女性の活躍に関する各種開示項目(女性労働者比率等)から任意の1項目以上を開示する必要があったところ、今回の改正で、男女賃金格差もその開示項目のひとつとして位置けられる。当該労働者数が1~100人の事業主についてはこれらの項目の開示が努力義務と位置付けられる。
- 開示の内容は、全労働者、正規雇用および非正規雇用の各区分について、男性の賃金に対する女性の賃金の割合(具体的には女性の平均年間賃金を男性の平均年間賃金で除すことにより算出する)とする。また、各企業は任意に、より詳細な情報や補足的な情報を開示することができる。
- 情報開示は連結ベースではなく企業単体ごとに行う(ホールディングスについても当該企業について開示を行う)。
本改正により、常時雇用する労働者が301人以上の事業主については、自社の男女賃金格差の状況が求職者等に明らかとなるため、ダイバーシティ促進の観点から、企業において、男女の賃金格差是正に向けた相応の影響が生じるものと考えられます。とりわけ、本改正後の初回の公表については、7月決算の事業主であれば、既に事業年度が開始している今年度(2021年8月~2022年7月)の状況について、概ね(本年)2022年10月末までに、3月決算の事業主であれば、既に事業年度が開始している今年度(2022年4月~2023年3月)の状況について、概ね(来年)2023年6月末までに公表することが求められるため、該当する事業主においては対応が急がれる内容となっています。
より詳細な男女の賃金の差異の算出の方法については、「女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の情報公表について」にまとめられていますので、ご参照ください。
(2)有価証券報告書に基づく開示
また、有価証券報告書での開示については、骨太方針において、「男女の賃金格差の是正に向けて企業の開示ルールの見直し」に取り組むものとされ、既に金融庁の金融審議会ディスクロージャー・ワーキンググループ(以下「DWG」といいます)やサステナブルファイナンス有識者会議(以下「サステナ会議」といいます)で議論が重ねられてきました。
2022年7月13日に公表されたサステナ会議の「第二次報告書」では、先行するDWG報告書(2.で後述)を引用する形で、男女間賃金格差について、中長期的な企業価値判断に必要な項目と位置付け、有価証券報告書の「従業員の状況」の中の開示項目に含めるべきとされています。有価証券報告書における男女間賃金格差の開示についても、早ければ2023年度からの適用も考えられるため、注意する必要があります。
(3)我が国の男女賃金格差の現状
近時、ESG・サステナビリティに関する問題意識は各分野で高まっており、これら(とりわけESGの「S」)に関連し、企業における人材活用の在り方等を人的資本の観点から捉える動きも見受けられます。併せて、これらのESG・サステナビリティや人的資本に関する情報の開示の在り方についても、議論が活発化しています。
この点、日本は「ジェンダー・ギャップ指数」2022年版で146位中116位と先進国で最低レベルにありますが、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいて、サステナビリティや人的資本に関する項目が増加するなど、ビジネスにおいてもダイバーシティの実現が目指されています。
我が国の男女賃金格差はOECD調査で22.1%(2021年)と、OECD諸国の平均が11.7%(2020年)であるのに比べ、依然として大きな開きがあります。今後企業としては、グローバル化の進む資本市場・情報開示法制と我が国の労働慣行を踏まえた人事労務法制の双方を念頭に置きつつ、賃金格差に係る情報の開示および格差の是正を通じ、ダイバーシティの実現に取り組んでいくことが求められるでしょう。
経済的な利益と公共の利益の両立を目指す新たな法人形態(ベネフィットコーポレーション)の創設
骨太方針では、経済的利益のみならず、社会課題の解決をビジネスの新たな評価尺度に据える方向性も示されています。
社会課題の解決と経済成長の両立を支援する手法として示されているのが、新たな法人形態の創設で、政府の「新しい資本主義実現会議」において検討が進められています。現行の株式会社制度では、株主利益を中心とする経済的な利益の追求が要請され、社会課題の解決を掲げた起業家の資金ニーズに必ずしも応えられないという限界があり、この点に解決策を与えようというのが新たな法人形態の狙いです。
株主利益に加え、社会課題の解決といった公共の利益の追求を正面から法人の目的としようとするこの試みは、米国のベネフィットコーポレーションを参考にしています。米国のベネフィットコーポレーションは、株主利益追求一辺倒となった反省から2010年代にかけて米国の多くの州で導入されるに至ったとされる法人形態です。米国において会社法制は州法で規律されますので、ベネフィットコーポレーションについての法制度も州ごとに異なりますが、たとえば、設立準拠法として選ばれることの多いデラウェア州におけるベネフィットコーポレーションには、以下のような特徴があります。
(1)会社法にベネフィットコーポレーションの特別規定を設けるアプローチを採用
(2)ベネフィットコーポレーションに対する規制例
・公共の利益を事業の目的として定款に明記
・①株主の経済的利益、②その他ステークホルダーの利益、および、③公共の利益の均衡
・公共の利益に関する報告書の提出
(3)株主の特別多数決で一般の株式会社とベネフィットコーポレーション間の移行が可能 日本においても、近年、ESG・サステナビリティを意識した企業運営が求められるようになり、環境負荷の低減など非財務的な価値と、株主利益を中心とする経済的な利益との両立を課題と認識する企業も多いはずです。公共の利益と株主利益の双方を目的とするベネフィットコーポレーション制度は、こういった企業に対し解決策を提供するように思われます。
他方で、米国のベネフィットコーポレーション制度については課題もあります。たとえば、公共の利益と株主利益間の利害調整の方法、適切な利害調整がなされなかった場合の救済、公共の利益に関する報告書の真実性を担保する方法などが指摘されており、これらは日本での法制化においても留意すべき点でしょう。また、米国では、ベネフィットコーポレーションの多くが非公開企業であるとされ、日本での法制化に当たっては、スタートアップ支援と位置付けるのか、上場企業にとっても選択肢となり得るような法人形態を目指すのかという点もポイントとなります。
本年6月7日、骨太方針と共に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、新たな法人形態について、新たな官民連携の形として新たな法制度として整備することの要否や、既存の法人形態の改革という手法について検討するとされています。たとえば、以下の手法が想定され、政府が主に検討しているのは一般の株式会社とは異なる法人形態としての登記方式との報道もあり、具体的なアプローチについては今後の動向に注視が必要です。
(1)「新たな法人形態」を対象とする新法制定
(2)会社法の特別規定(デラウェア州等のアプローチ)
(3)その他既存制度の改革(一般社団法人および一般財団法人に関する法律の改正)
GX(グリーントランスフォーメーション)への投資に向けた社会システム・インフラ整備
骨太方針では、脱炭素・カーボンニュートラルを実現するための経済社会システムの変革(いわゆるグリーントランスフォーメーション(GX))への投資が「新しい資本主義」の柱として位置付けられ、そのための官民連携投資の基本方針が示されました。
今後10年間に150兆円超の投資を実現するための「成長志向型カーボンプライシング構想」の具体化や、そのような投資を先導する政府資金を調達するための「GX経済移行債(仮称)」の検討などが掲げられており、今後、日本においても、脱炭素・カーボンニュートラルの分野への投資がさらに拡大していくことが予想されます。
本稿では、法的なルールメイキングに関係するであろうGXへの投資を実現するための社会システム・インフラ整備への取組みについて触れます。取組内容は2022年5月13日に産業技術環境局・資源エネルギー庁が公表した「クリーンエネルギー戦略 中間整理」において示されており、その中でも、金融パッケージに関する施策とGXリーグについて紹介します。
(1)金融パッケージ
金融パッケージについては、企業のGX投資の促進に向けた金融機能と基盤の強化の観点から、以下のような施策の方向性が示されています。
- グリーン・トランジション・イノベーション
[グリーン]
グリーンボンドガイドライン等の国内ルールの整備、資金調達者向けの発行支援体制の充実・刷新
[トランジション]
CO2排出経路を定量化した計量モデルの策定、多排出産業を中心としたガイダンスの策定、エネルギー転換・生産設備の共同運営・事業再構築等を促進するための投融資の新たな枠組みの検討
[イノベーション]
イノベーション加速化に向けた支援の在り方についての構想、事業会社・民間金融・政府系金融機関等の新たな協力体制の整備、民間金融のリスクマネー供給の円滑化に向けた枠組みの検討 - 情報開示や市場信頼性向上等の市場環境の整備
[開示の充実]
有価証券報告書におけるサステナビリティ開示の記載欄の新設
[市場の信頼性向上]
ESG評価機関の行動規範の策定
[市場環境の整備]
金融機関の気候変動対応に関するガイダンス案の公表、ESG投資情報を一元化する情報プラットフォームの立上げ、CO2排出量データの効率的な算定・共有のためのプラットフォーム整備、GX投資を実践する企業が適切に評価されるための指標開発
有価証券報告書におけるサステナビリティ開示の記載欄の新設については、本年6月13日に公表されたDWG報告書において既に言及されており、また、ESG評価機関の行動規範の策定についても、サステナ会議下の「ESG評価・データ提供機関等に係る専門分科会」において本年7月12日に報告書が公表されるなど、いずれの施策もスピード感をもって検討が進められています。有価証券報告書における開示事項の変更等、今後のルール変更に即応できるよう、動向を注視する必要があります。
(2)GXリーグ
GXリーグとは、排出量取引など、「脱炭素にいち早く移行するための挑戦を行い、国際ビジネスで勝てる企業群を生み出すための産官学の仕組み」であり、2022年2月1日にその基本構想が公表されました。具体的な取組みの内容は以下のとおりです。
(2)カーボンニュートラル時代の市場創造やルールメイキングを議論
例)CO2ゼロ商品の認証制度の策定
(3)カーボンニュートラルに向けて掲げた目標に向けた自主的な排出量取引(カーボン・クレジット市場の創設)の実施
→ 2025年頃から取引本格化
GXリーグについては、既に日本におけるCO2排出量の約4割以上をカバーする440社が賛同しており、2023年4月以降からの本格稼働を目指して本年度後半に(カーボン・クレジット取引については東京証券取引所と連携して)実証試験が行われる予定です。GXリーグの議論により今後のGX市場が形作られていくとみられ、動向について注視する必要があります。
金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告書の公表
執筆:所 悠人弁護士・峯岸 健太郎弁護士
金融庁の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(以下「DWG」といいます)は、2022年6月13日に「中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて」と題する報告書(以下「DWG報告書」といいます)を公表しました。本報告書はDWGにおけるこれまでの審議内容を取りまとめたものであり、今後の開示実務に大きな影響を与える内容を複数含んでいます。
本報告書の大枠は以下のとおりです。
Ⅰ. サステナビリティに関する企業の取組みの開示
Ⅱ. コーポレートガバナンスに関する開示
1. コーポレートガバナンス改革と情報開示に係るこれまでの取組み
2. 取締役会、指名委員会・報酬委員会等の活動状況
3. 監査の信頼性確保に関する開示
4. 政策保有株式等に関する開示
Ⅲ. 四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
1. 四半期開示 1
2. 適時開示のあり方
3. 有価証券報告書の株主総会前提出
4. 重要情報の公表タイミング
Ⅳ. その他の開示に係る個別課題
1. 「重要な契約」の開示
2. 英文開示
3. 有価証券報告書とコーポレート・ガバナンス報告書の記載事項の関係
本稿では紙面も限られていることから、昨今のサステナビリティの重要性の高まりや、6月7日に閣議決定された骨太方針においても言及されたことから注目を集めている、「サステナビリティ情報の開示」について紹介いたします。
総論
まず、DWG報告書は、サステナビリティ全般に関する開示として、以下の取組みを進めることとしています。
- 国際的なフレームワークと整合的な、①「ガバナンス」、②「戦略」、③「リスク管理」、④「指標と目標」の4つの構成要素に基づく開示を行う。
- 企業において、自社の業態や経営環境、企業価値への影響等を踏まえ、サステナビリティ情報を認識し、その重要性を判断する枠組みが必要となる観点から、①「ガバナンス」と③「リスク管理」はすべての企業が開示する。
- ②「戦略」と④「指標と目標」は開示が望ましいものの、各企業が「ガバナンス」と「リスク管理」の枠組みを通じて重要性を判断して開示する。
(1)の「記載欄」については、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「事業等のリスク」、「コーポレート・ガバナンスの状況等」といった有価証券報告書の他の項目と適切に相互参照することとされており、また、有価証券報告書の記載を補完する詳細情報について、必要に応じて詳細情報を記載した任意開示書類を参照することとされています。そのため、任意開示書類としてのコーポレート・ガバナンス報告書を適宜参照することが考えられます。なお、具体的な開示内容は、今後検討が行われる見込みです。
気候変動対応に関する開示
気候変動の観点では、現時点においては、下記の指摘がなされています。
「指標と目標」の枠で開示することが考えられる温室効果ガス(GHG)排出量に関しては、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、特にScope1・Scope2のGHG排出量について、積極的に開示することが期待されるとされています。
人的資本・多様性に関する開示
人的資本・多様性の観点では、以下の項目について、有価証券報告書の開示項目とすべきとされています。
- 中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」(多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」について、サステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」の枠の開示項目とする。
- 各企業の事情に応じ、上記の「方針」と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定、その目標および進捗状況について、同「記載欄」の「指標と目標」の枠の開示項目とする。
- 女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差について、中長期的な企業価値判断に必要な項目として、「従業員の状況」の中の開示項目とする。
実務への影響
本報告書に基づく改正等が実施された場合、多数の記載項目や内容が有価証券報告書に追加されることになります。これは投資者にとっては望ましいものであるものの、企業側では作業負担が増加することになり、また、金融商品取引法に基づく不実記載の責任が生じないようにする必要もあります。改正等が実施された場合、サステナビリティ関連の部署をはじめとした全社横断的な連携や、専門家への相談等の重要性が増すものと考えられます。
なお、本報告書に関するより詳細な解説については、下記の関連記事もご覧いただけますと幸いです。こちらの記事では、サステナビリティ情報の開示に限らず、上場会社の情報開示の実務という観点から本報告書全体を解説しています。
経産省CGSガイドラインの再改訂
執筆:大草 康平弁護士
2022年7月19日、経済産業省より、CGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)第3期における6回にわたる会議(2021年11月以降2022年6月まで)を経て、CGSガイドライン(コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針)の再改訂版が公表されました。
今回のCGSガイドラインの改訂箇所は多岐にわたりますが、特徴的な箇所をいくつか挙げると以下のとおりです。 前回CGSガイドライン改訂版が公表されて以降の、近時の日本のコーポレート・ガバナンス改革の進展を受けたアップデートがなされています。
- 日本の上場企業の取締役会における社外取締役の比率の向上も受け、「社外取締役が相当数含まれる取締役会で議論する意義・留意点」が整理されていること
- 監査等委員会設置会社へ以降する際の視点など、ガバナンス体制と機関設計についての記述が拡充されていること
- 取締役会の監督機能強化の側面の記載だけでなく、戦略策定等に関する委員会活用など、執行側の機能強化における方策についても多くの記載がなされていること
- 近時「投資家株主の関係者」を取締役として選任する事例があることを背景に、「投資家株主からの取締役の選任の留意点と検討すべき措置」が新設されていること など
経済産業省の公表するCGSガイドラインは、過去の例を見ても、その後のコーポレート・ガバナンスに関する実務の方向性に一定の影響を及ぼすことが予想され、各上場会社においてガバナンス体制を整備するうえで参考になるものと考えられます。
-
四半期開示の決算短信の一本化については、本連載「第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント」7にて触れたとおりであるため、そちらをご参照いただけますと幸いです。DWG第8回会合において論点とされた事項については、本報告書においても引き続き検討事項とされているため、引き続き今後の動向に注意する必要があります。 ↩︎
シリーズ一覧全16件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向