Legal Update

第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向

法務部

シリーズ一覧全44件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
もっと見る 閉じる

目次

  1. 公正取引委員会「実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムの整備・運用のためのガイド―カルテル・談合への対応を中心として―」の公表 
  2. 文化庁「AIと著作権に関する考え方について(素案)」の公表・パブリックコメント開始
    1. 学習・開発段階
    2. 生成・利用段階
    3. 生成物の著作物性
  3. 金融庁「市場制度ワーキング・グループ・資産運用に関するタスクフォース報告書」の公表
  4. 「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 Q&A」の公表
  5. 「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律に関するQ&A」の公表
  6. 中国独禁法に基づく事業者集中の届出基準の改正
  7. EU「コーポレートサステナビリティ・デューディリジェンス指令案」に関する暫定政治合意の成立

 2023年12月21日、公正取引委員会は、「実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムの整備・運用のためのガイド―カルテル・談合への対応を中心として―」を公表しました。公正取引委員会がこれまで実施してきた、企業の独占禁止法コンプライアンスに関する調査・分析の結果を踏まえ、主にカルテル・談合の分野に関して、実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムのあり方を整理し、実際に各企業が取り組んでいる参考事例が紹介されています。


 2024年1月23日、文化庁は、「AIと著作権に関する考え方について(素案)(令和6年1月23日時点版)」を公表し、パブリックコメントが開始されました。著作権法とAIとの関係について、現時点における一定の考え方を示すものであり、論点整理が行われています。パブコメ受付は同年2月12日まで、2023年度内に確定版が公表される見込みです。

 2023年12月12日、金融庁の金融審議会から、「市場制度ワーキング・グループ・資産運用に関するタスクフォース報告書」が公表されました。家計からの投資の運用を担う資産運用会社の高度化を図り、企業への成長資金の供給を促し、その成果が家計に還元される、インベストメント・チェーンを通じた「成長と分配の好循環」を推進し、資産運用立国を実現するための取組みについて整理されています。

 同年12月22日、公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁から、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に関するQ&A」が公表されました。本法(いわゆる「フリーランス新法」)の趣旨・目的をはじめ、フリーランス新法の各条文についてQ&Aが示されています。

 同年12月19日、内閣府から、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律に関するQ&A」が公表されました。同年6月23日に公布・施行された本法(いわゆる「LGBT理解増進法」)の理念・趣旨を理解し、事業者にも求められる多様性の尊重のあり方について検討を進めることが期待されます。

 2024年1月22日、中国の独占禁止法に基づき事業者集中の届出が必要となる基準を定める、「国務院による事業者集中の届出基準に関する規定」が公布・施行されました。本改正では、この届出基準について、従前よりも事業者の売上高の基準値が大幅に引き上げられており、中国国内外のM&A案件等に影響が生じることが予想されます。

 2023年12月14日、EU理事会と欧州議会は、「コーポレートサステナビリティ・デューディリジェンス指令案」に関して、暫定的な政治合意に達した旨を公表しました。ESG(環境・人権・ガバナンス)に関する企業のデューディリジェンス等を義務付ける本指令案は、違反した企業の民事責任や制裁金を定めるなど、EU域外の企業も適用対象となることから、日本企業のビジネス活動に大きな影響をもたらすことが予想されます。

 編集代表:坂尾 佑平弁護士(三浦法律事務所)

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2023年12月12日 金融庁「市場制度ワーキング・グループ・資産運用に関するタスクフォース報告書」の公表
2023年12月14日 EU「コーポレートサステナビリティ・デューディリジェンス指令案」に関する暫定政治合意の成立
2023年12月19日 「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律に関するQ&A」の公表
2023年12月21日 公正取引委員会「実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムの整備・運用のためのガイド―カルテル・談合への対応を中心として―」の公表
2023年12月22日 「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 Q&A」の公表
2024年1月22日 中国独禁法に基づく事業者集中の届出基準の改正
2024年1月23日 文化庁「AIと著作権に関する考え方について(素案)」の公表・パブリックコメント開始

公正取引委員会「実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムの整備・運用のためのガイド―カルテル・談合への対応を中心として―」の公表 

 執筆:渡邊 隆之弁護士、遠藤 祥史弁護士

   2023年12月21日、公正取引委員会は、「実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムの整備・運用のためのガイド―カルテル・談合への対応を中心として―」(以下「本ガイド」といいます)を公表しました。
 本ガイドは、公正取引委員会がこれまで実施してきた、企業の独占禁止法コンプライアンスに関する調査・分析の結果を踏まえ、主にカルテル・談合の分野に関して、実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムのあり方を整理したうえで、実際に各企業が取り組んでいる参考事例を紹介するものです。
 2024年1月17日付けの事務総長定例会見においては、本ガイドの位置付けについて「主にカルテル・談合に関しまして、個々の企業が実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムを整備・運用する上で参考となるベストプラクティスを整理したもの」と述べられています。

 本ガイドのポイントは、大要、以下のとおりであり、独占禁止法コンプライアンスプログラムの推進をするうえでの指針を示しています。

1 独占禁止法コンプライアンス全般
  • 経営トップの本気度を社内外に明示し独占禁止法コンプライアンスを重視する組織風土を醸成
  • 各社の実情に応じて高リスク領域に重点的にリソースを配分し効率的に取組みを推進
  • 基本方針・手続を社内規程等として明確化し役職員に浸透
  • 組織体制の明確・体系的な整理および十分な権限とリソースの付与により実効的に取組みを推進
  • グループ単位で一体的に独占禁止法コンプライアンスを推進
2 違反行為を未然に防止するための具体的な施策
  • 競争事業者との接触の禁止や接触に係る申請・承認・報告等を定める社内ルールの整備により違反行為への関与を防止
  • 研修の実施により独占禁止法コンプライアンスの重要性に関する役職員の理解を促進
  • 違反行為への該当可能性に関する相談体制の整備・運用により違反行為への関与を防止
  • 違反行為への関与等が懲戒処分の対象となることを明示し違反行為を抑制
3 違反行為を早期に発見し的確な対応を採るための具体的な施策
  • 独占禁止法に関する監査を定期的に実施し違反行為の発見を促進
  • 内部通報制度の整備・運用により違反行為に関する通報を促進
  • 違反行為への関与を自主的に申告した場合の懲戒処分の減免を認め自主的な申告を促進(いわゆる社内リニエンシー制度の導入)
  • 課徴金減免制度および調査協力減算制度の活用を視野に入れた適切な対応を迅速に実施
4 プログラムの定期的な評価とアップデート
  • 定期的に独占禁止法コンプライアンスプログラムの実効性を評価・アップデート


 カルテル・談合は、独占禁止法の中でも、多額の課徴金や刑事罰の対象になり得る非常にリスクの大きい領域であり、本ガイドを踏まえた独占禁止法コンプライアンス体制の見直しは各企業にとって重要なものであるといえます。また、それ以外の独占禁止法上禁止されている行為(私的独占や不公正な取引方法等)に関しても、共通して活用できる事項が含まれており、本ガイドの理解は、独占禁止法一般のコンプライアンス向上に資するものといえます。

 もっとも、プログラムの実効性を確保するためには、単に紋切型のプログラムを導入するだけでは不十分であり、各企業の規模やビジネスモデル等の実情に応じたプログラムを構築しなければなりません。たとえば、「社内リニエンシー」を取り上げても、懲戒処分の免除まで認めるか処分の軽減にとどめるか、常設制度とするか臨時制度とするか、役員等も対象とするか否か等、制度設計にあたっては様々なポイントを検討する必要があります。
 また、近年では、企業の海外進出やグローバル化が進んでいるところ、本ガイドにおいては、海外支店や海外子会社・関連会社を有するグローバル企業が留意すべき事項や参考にすべき取組事例も盛り込まれています。

 公正取引委員会は、独占禁止法に係るモニタリングや法執行を強化しており、本ガイドを参考に、弁護士等の専門家と適切に連携しつつ、社内研修の実施や社内ルールの策定等を通じて、自社のコンプライアンスプログラムの整備・見直しを進めていくことが望まれます。

文化庁「AIと著作権に関する考え方について(素案)」の公表・パブリックコメント開始

 執筆:橋爪 航弁護士

 2024年1月23日、文化庁より「AIと著作権に関する考え方について(素案)(令和6年1月23日時点版)」(以下「本考え方」といいます)が公表され、同時にパブリックコメントが開始されました。意見募集受付は同年2月12日までとされ、2023年度内にはその結果も踏まえて確定版が公表される見込みです。
 2023年12月20日に公表された素案との見え消し版はこちらをご参照ください。

 本考え方は、著作権法とAIとの関係について、現時点における一定の考え方を示すものであり、主に以下の論点について考え方が示されています。

① 学習・開発段階
  • 非享受目的」(著作権法30条の4)に該当する場合について(享受目的の併存、検索拡張生成(RAG)、作風の類似等)
  • 著作権者の利益を不当に害することとなる場合」(著作権法30条の4ただし書)について(作風の類似、海賊版の複製、AI学習を拒絶する著作権者の意思表示について等)
  • 侵害に対する措置について(差止請求、損害賠償請求、学習済みモデルの廃棄請求・データセットからの除去等)
  • その他の論点(「必要と認められる限度」、その他の権利制限規定等)
② 生成・利用段階
  • 著作権侵害の有無の考え方について(類似性・依拠性、依拠性否定の立証等)
  • 侵害に対する措置について(差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求、廃棄請求等)
  • 侵害行為の責任主体について(AI利用者および生成AIの開発・サービス提供を行う事業者の責任主体性等)
  • その他の論点(AIへの著作物の入力、その他の権利制限規定、データの開示等)
③ 生成物の著作物性
  • 創作的寄与の判断要素等
④ その他の論点
  • 対価還元手段の検討
  • 著作物と偽って流通させる行為(僭称コンテンツ問題)等

学習・開発段階

(1)「非享受目的」(著作権法30条の4)

 本考え方では、生成AIにおける追加的学習のうち、「意図的に、学習データに含まれる著作物の創作的表現をそのまま出力させることを目的としたものを行うため、著作物の複製等を行う場合」には享受目的が併存し、同条の適用がないとしています。たとえば、学習対象の作品群が特定のクリエイターの「作風」(アイデア)を超えて、創作的表現が共通するような作品群となっている場合、意図的に、当該創作的表現の全部または一部を生成AIによって出力させることを目的とした追加的な学習を行うために当該作品群の複製等を行うような場合においては、享受目的が併存するとされています。

(2)「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」(著作権法30条の4ただし書)

 著作権者が反対の意思を示していることそれ自体をもって、同条ただし書に該当するとはいえないとされています。
 AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置が講じられており、かつ、このような措置が講じられていること等の事実から、学習対象のウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合に、クローリングをして当該ウェブサイト内のデータを収集・複製することは同条ただし書に該当するとされています。

生成・利用段階

(1)依拠性

 「AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合」や「AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合」には認められる可能性が高いとしています。なお、後者の場合、開発・学習段階において学習に用いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において生成されることはないといえるような技術的な措置が講じられているといえる場合は依拠性否定の方向に働くとされています。

(2)侵害行為の責任主体

 生成AI利用者のみならず、生成AIの開発・サービス提供を行う事業者が著作権侵害の行為主体として責任を負う場合として、「ある特定の生成AIを用いた場合、侵害物が高頻度で生成される場合」や「事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成する蓋然性の高さを認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合」が例として示されています。

生成物の著作物性

 著作物性の判断においては創作的寄与がメルクマールとされているところ、①入力するプロンプト等の分量・内容、②生成の試行回数、③複数の生成物からの選択等がその判断要素として紹介されています。
 なお①について、プロンプトは長ければよいわけでなく、アイデアに留まらない創作的表現を具体的に示すものか否かが重要とされています。

 本考え方のパブリックコメント開始と同日には、AIの安全安心な活用が促進されるようにわが国におけるAIガバナンスの統一的な指針を示す「AI事業者ガイドライン案」(総務省・経済産業省、2024年1月)についてもパブリックコメントが開始されており、AIをめぐる議論は依然として活発となっています。
 事業者・利用者・クリエイター等においては、生成AIと著作権をはじめとする、AIをめぐる議論について引き続き注視していく必要があります。

金融庁「市場制度ワーキング・グループ・資産運用に関するタスクフォース報告書」の公表

 執筆:所 悠人弁護士

 2023年12月12日、金融庁の金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」および「資産運用に関するタスクフォース」から報告書が公表されました。
 同報告は、家計からの投資の運用を担う資産運用会社の高度化を図るとともに、企業への成長資金の供給を促し、その成果を家計に還元することで、インベストメント・チェーンを通じた「成長と分配の好循環」を推進し、資産運用立国を実現するための取組みについて整理したもので、概要は以下のとおりです。

  1. 資産運用会社の高度化
     →目的:家計を含む投資家へのリターン向上、投資先の企業価値向上
    • 投資運用業の参入要件の緩和(ミドル・バックオフィス業務の委託等)【要法改正】
    • 新興運用業者促進プログラム(日本版EMP)の実施
    • 大手金融グループにおける運用力向上やガバナンス改善・体制強化
    • 金融商品の品質管理を行うプロダクトガバナンスに関する原則の策定
    • 投資信託に関する日本独自の慣行の見直し(一者計算の促進等)
  2. アセットオーナーに対する金融機関の取組み
     →目的:顧客等の最善利益の確保
    • 金融機関による顧客等の最善利益を確保するための運用や、DC加入者への運用商品の適切な選定・提案、情報提供の充実を促進
  3. スチュワードシップ活動の実質化
     →目的:日本企業・日本市場の魅力向上
    • 企業価値向上に向けた対話促進のための大量保有報告制度の見直し等【要法改正】
  4. 成長資金の供給と運用対象の多様化
     →目的:スタートアップの活性化、収益機会の拡大
    • ベンチャーキャピタル向けのプリンシプルの策定
    • 非上場株式を組み入れた投資信託・投資法人の活用促進
    • 投資型クラウドファンディングの活性化
    • 事後交付型株式報酬に係る開示規制の明確化
    • 非上場有価証券のセカンダリー取引の活性化(仲介業者の規制緩和)【要法改正】
  5. 家計の投資環境の改善
     →目的:金融リテラシーの向上、貯蓄から投資への推進
    • 金融経済教育推進機構を中心とした金融経済教育の推進
    • 累積投資契約のクレジットカード決済上限額の引上げ

 同報告内で具体的な対応策が示された事項に関しては、関係者における早期かつ積極的な取組みが期待されるとされていますので、資産運用会社等の金融商品取引業者や市場関係者においては、同報告の内容の検討を確実に行っていく必要があります。また、継続検討とされた制度的な課題も存在するため、今後の動向にも注視が必要です。

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 Q&A」の公表

 執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士

 2023年12月22日、公正取引委員会のウェブサイトにおいて、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆる「フリーランス新法」)に関するQ&A(以下「本Q&A」といいます)が公表され、併せて厚生労働省・中小企業庁からも同様に本Q&Aが公表されました。

 フリーランス新法は、交渉力や情報収集力の差などから、組織である発注事業者との取引上弱い立場にある「特定受託事業者」について、下請法・労働法類似の保護を及ぼすものとなっており、2024年11月頃までに施行される予定です(詳細については、本連載第18回「2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向」のほか、厚生労働省の説明資料も参照)。

 本Q&Aでは、フリーランス新法の趣旨・目的をはじめとして、以下のとおりフリーランス新法の各条文についてQ&Aが示されており、フリーランス新法の全体像を理解するうえで有益な資料となっています。

第1条 目的 フリーランス新法の趣旨・目的 本Q&A1
第2条 定義
  • 適用対象(フリーランス・発注事業者)(※)
  • 従業員を使用しない事業者によるフリーランスへの業務委託
  • 下請法上の「修理委託」との関係
本Q&A 2~2-3
第3条 特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等 発注事業者がフリーランスに対して給付内容等を「明示」する際の方法 本Q&A 3
第4条 報酬の支払期日等
  • 規定の趣旨
  • 「60日の期間内」に報酬支払期日を定めることの例外
本Q&A 4
第5条 特定業務委託事業者の遵守事項
  • 禁止行為の具体的な内容
  • 規制の対象となる業務委託を「政令で定める期間以上の期間を行うもの」に限定する理由
本Q&A 5
第12条 募集情報の的確な表示
  • 規定の趣旨
  • 同条違反となる表示の具体例
本Q&A 6
第13条 妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮
  • 規定の趣旨
  • 規定の内容を「政令で定める期間以上の期間を行う」業務委託とそれ以外で区別する理由
  • 求められる配慮の具体的な内容
本Q&A 7
第14条 業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等 発注事業者が講ずべきハラスメント対策の具体的な内容 本Q&A 8
第16条 解除等の予告
  • 規定の趣旨
  • 即時解除が認められる場合
本Q&A 9
その他 「フリーランス・トラブル110番」について 本Q&A 10

(※)本Q&Aでは、わかりやすさの観点から「フリーランス」「発注事業者」という用語が用いられていますが、法令上の正式な用語はそれぞれ「特定受託事業者」「特定業務委託事業者」となります。特に、一般的にフリーランスと呼ばれる者とフリーランス新法における「特定受託事業者」は意味が異なりますので、注意が必要です。


 なお、フリーランス新法については、今後政令や公正取引委員会規則、厚生労働省の指針などによって規定の詳細が明らかにされる予定であり、引き続き注視する必要があります。

「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律に関するQ&A」の公表

 執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士

 2023年6月23日に公布・施行された「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解増進に関する法律」(いわゆる「LGBT理解増進法」)において事業主の努力義務が定められ(本連載第19回「2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向」参照)、また同年7月11日には、トランスジェンダーの国家公務員による職場での女性トイレ使用等に関して最高裁判決が示されるなど(弊所Note記事「労働法UPDATE Vol.6:職場における多様性の尊重の在り方~国・人事院(経産省職員)事件最高裁判決を踏まえて~」参照)、職場での多様性の尊重の在り方について、議論が高まっています。

 このような中、同年12月19日、内閣府から「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律に関するQ&A」(以下「本Q&A」といいます)が公表されました。

 本Q&Aでは、最初にLGBT理解増進法の目的が、「性的マイノリティの方々が、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関して国民の理解が進んでいないことによって生きづらさを感じていることなどを立法事実として、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進を図ること」であることが明示され、LGBT理解増進法が理念法であるものの、「国、地方公共団体及び事業主等についての役割とそれらについての努力義務が定められて」いるという位置付けの確認がされています。

 そのほか、LGBT理解増進法における「性的指向」「ジェンダーアイデンティティ」の定義等が説明されており、たとえば、同法と性別により区分された公衆浴場等の施設利用の関係については、以下のようなQ&Aが紹介されています。

Q 理解増進法の施行によって、性別により区分された公衆浴場等の施設の利用のルールに変更はありますか。
A 変更はありません。
 理解増進法は、いわゆる理念法であり、国民一人一人の行動を制限したり、また、特定の者に何か新しい権利を与えたりするような性質のものではなく、性別により区分された施設における従来の取扱いを変える旨の規定はありません。
 公衆浴場等については厚生労働省から以下のページに掲載の通知のとおり、公衆浴場等における男女の区分は、風紀の観点から混浴禁止を定めている趣旨から、身体的な特徴をもって判断するものである旨通知がされています。
 一般に、この通知に基づく施設管理者の指示に反して、公衆浴場等を利用した場合には、従前と同様、現行法令に従い、適切に対応されるものと承知しています。
 公衆浴場のページ(厚生労働省)

 他方で、事業主にとってより関心の高いと思われるトイレや更衣室の取扱いについては、本Q&Aでは言及されておらず、この点については、今後、政府が策定するとされているLGBT理解増進法の運用に関する指針の公表を待つ必要があります(同法12条)。

 なお、本Q&Aでは、関連する衆議院内閣委員会での会議録も掲載されており、LGBT理解増進法に関する議論の経緯等をうかがい知ることができます。企業としては、本Q&Aや上記指針等を参考に、自社における多様性の尊重のあり方について、検討を進めることが期待されます。

中国独禁法に基づく事業者集中の届出基準の改正

 執筆:袁 智妤(中国法律師)、大滝 晴香弁護士

 2024年1月22日、中国の独占禁止法の下位規則である「国務院による事業者集中の届出基準に関する規定」(中国名:国务院关于经营者集中申报标准的规定、以下「本規定」といいます)の改正内容が公布され、同日より施行されました。

 中国の独占禁止法における事業者集中の届出は、日本の独占禁止法でいう企業結合の届出に相当するものであり、今回の改正は中国国内外でM&Aを行う際にインパクトが生じ得ます。日本国内のM&Aであり、中国国内に子会社や支店がない場合であっても、買主と対象会社の中国向け売上げが大きいような場合には、事業者集中の届出が必要となる可能性があります。
 また、事業者集中の届出が必要となる場合、取引全体のタイムラインに影響し、TOBによる株式取得では公告日等の調整が必要となる場合があります。そこで、事業者集中の届出の要否の判断が重要となり、取引担当者においては届出基準を正確に理解しておくことが求められます。

 今回の改正は当該届出基準の変更に関するものであり、従前よりも売上高の基準値が大幅に引き上げられた点に特徴がある一方、意見募集段階で示された改正草案の内容の一部は採用されませんでした。改正前届出基準改正草案での届出基準および改正後届出基準の比較は下表のとおりです。

改正前
(2008年/2018年の規定3条)
改正草案
(2022年改正草案意見募集稿3条・4条)
改正後
(改正後の本規定3条)
基本基準:以下の①または②のいずれかの基準を満たす場合は届出が必要
  1. 事業者集中を行うすべての事業者の、前会計年度における全世界の売上高の合計が100億元を超え、かつ、そのうち2以上の事業者の前会計年度における中国国内での売上高がそれぞれ4億元を超える場合

  2. 事業者集中を行うすべての事業者の、前会計年度における中国国内での売上高の合計が20億元を超え、かつ、そのうち2以上の事業者の前会計年度における中国国内での売上高がそれぞれ4億元を超える場合
  1. 事業者集中を行うすべての事業者の、前会計年度における全世界の売上高の合計が120億元を超え、かつ、そのうち2以上の事業者の前会計年度における中国国内での売上高がそれぞれ8億元を超える場合

  2. 事業者集中を行うすべての事業者の、前会計年度における中国国内での売上高の合計が40億元を超え、かつ、そのうち2以上の事業者の前会計年度における中国国内での売上高がそれぞれ8億元を超える場合
  1. 事業者集中を行うすべての事業者の、前会計年度における全世界の売上高の合計が120億元を超え、かつ、そのうち2以上の事業者の前会計年度における中国国内での売上高がそれぞれ8億元を超える場合

  2. 事業者集中を行うすべての事業者の、前会計年度における中国国内での売上高の合計が40億元を超え、かつ、そのうち2以上の事業者の前会計年度における中国国内での売上高がそれぞれ8億元を超える場合
上記基本基準を満たさない場合の追加基準
規定なし 事業者集中を行う事業者のうち、1つの事業者の前会計年度における中国国内での売上高の合計が1,000億元を超え、かつ、対象会社(合併の場合には、合併される事業者)の市場価値(または評価額)が8億元を下回らず、前会計年度の全世界の売上高に対する中国での売上高の割合が3分の1を超える場合 規定なし

 本規定では、改正後届出基準を満たさないが、競争を排除・制限する(またはその可能性がある)事業者集中について、当局が事業者に対して申告を求めたり(4条)当該申告に応じない場合の当局の調査義務(5条)についても規定されています。
 2024年1月31日に行われた当局の記者会見では、かかる届出基準を満たさない事業者集中案件の取扱規則の策定に向けて検討が進められている旨の発表もなされており、今後の当局の動きが注目されます。

 本規定はすでに施行されましたが、改正前届出基準と改正後届出基準の適用場面に関するルールは明らかにされていません。たとえば、本規定の施行前にM&Aに係る契約の効力が生じたが、クロージングはまだされていない取引について、どちらの届出基準を適用するのか、今後の当局の解釈や法執行の動向に留意が必要です。

EU「コーポレートサステナビリティ・デューディリジェンス指令案」に関する暫定政治合意の成立

 執筆:岩崎 啓太弁護士、坂尾 佑平弁護士

 EU理事会と欧州議会は、2023年12月14日、コーポレートサステナビリティ・デューディリジェンス指令案(仮訳。Corporate Sustainability Due Diligence Directive。以下「CSDDD案」といいます)に関して、暫定的な政治合意に達した旨を公表しました(詳細は、EU理事会プレスリリース、および、欧州議会プレスリリースを参照。以下総称して「本リリース」といいます)。

 CSDDD案は、企業に対してサプライチェーンにおける人権保護、環境保護に関するデューディリジェンス等を義務付けるものとして2022年2月23日に公表され、ガイドラインとは異なり加盟国に対して法制化を義務付ける法的拘束力を有すること、EU域外の企業であっても一定の条件を満たす場合には義務付けの対象となること等から、その動向が注目されてきました(本連載第1回「2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント」も参照)。

 この点、本リリースによれば、今回の暫定政治合意によって、CSDDD案について、概ね以下のような事項が合意されました。

対象企業 EU域内の企業

    ① 従業員数が500名を超え、かつ全世界での年間売上高が1億5,000万ユーロを超える企業

    ② 従業員数が250名を超え、かつ全世界での年間売上高が4,000万ユーロを超える企業のうち、人権・環境へのリスクが高い分野※1において少なくとも2,000万ユーロの売上高がある企業

EU域外の企業

③ 欧州での純売上高が上記①②の基準を超える企業

  • 今後、欧州委員会が適用対象となるEU域外の企業のリストを公表
  • EU域外の企業については、CSDDD発効から3年後に施行
対象企業の義務
  • 自社および川上・川下のビジネスパートナーが人権や環境に与える負の影響を特定・評価し、その影響を防止・緩和・終息させる義務
  • 最善の努力を尽くして気候変動の緩和に向けた移行計画の策定・実施を行う義務 ※2
違反への制裁・責任
  • 負の影響を被った当事者に対する民事責任
  • 違反した企業名の公表
  • 企業の全世界売上高の5%を上限とする制裁金

※1 繊維・衣料・履物の製造および卸売業、農林水産業、食品の製造および原材料農産物の取引、鉱物資源の採掘および卸売業、関連製品の製造、建設業

※2 自社のビジネスモデルが気候変動に関するパリ協定(Paris Agreement)に合致し、地球温暖化による気温上昇を1.5℃に抑えることを確保する計画を採用することが求められる。


 本リリースによれば、CSDDD案は違反した企業の民事責任や制裁金を定めるなど、適用対象となる企業のビジネス活動に大きな影響をもたらすことが予想されます。企業としては、CSDDDの採択・発効やEU加盟国における立法化等の経緯・動向を引き続き注視しつつ、ESG(環境・人権・ガバナンス)に関する自社のアプローチを検討すべきであると考えられます。

シリーズ一覧全44件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
もっと見る 閉じる

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する