Legal Update
第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
法務部
シリーズ一覧全16件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
目次
- 「消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律」の施行
- 「電気通信事業法の一部を改正する法律」の施行
- 「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」の施行
- 「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案」の衆議院本会議可決
- 「公開買付制度・大量保有報告制度等のあり方に関する検討」の開始
- マンション仕入税額控除事件に関する2つの最高裁判決(最高裁令和5年3月6日判決)
- いわゆる「給与ファクタリング」が貸金業法および出資法の「貸付け」に当たると判断された事例(最高裁令和5年2月20日判決)
本稿で扱う内容一覧
日付 | 内容 |
---|---|
2023年2月20日 | いわゆる「給与ファクタリング」が貸金業法および出資法の「貸付け」に当たると判断された最高裁判決 |
2023年3月2日 | 金融庁「公開買付制度・大量保有報告制度等のあり方に関する検討」の開始 |
2023年3月6日 | マンション仕入税額控除事件に関する2つの最高裁判決 |
2023年4月13日 | 「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案」の衆議院本会議可決 |
2023年6月1日 | 「消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律」の施行 |
2023年6月9日まで | 「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」の施行 |
2023年6月16日 | 「電気通信事業法の一部を改正する法律」の施行 |
2023年6月1日、「消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律」の一部が施行されます。サルベージ条項が無効となることや、不当な勧誘に関する取消権の追加・拡充など、法改正に伴う企業の対応事項について解説します。
同年6月9日までに、「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」が施行されます。本改正では、金融のデジタル化等に対応した資金決済制度を構築するため、「電子決済手段等取引業」の創設、「為替取引分析業」の創設、高額電子移転可能型前払式支払手段への対応などが整備されます。
同年6月16日、「電気通信事業法の一部を改正する法律」が施行されます。登録・届出を要する電気通信事業者の範囲の拡大や、「特定利用者情報」の適正な取扱いに関する規制の導入、いわゆる外部送信規律の導入などの法改正事項について解説します。
同年4月13日、「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案」が衆議院本会議において可決され、参議院に送付されました。景品表示法の適用を受ける事業者に大きく影響する「確約手続の導入」と「直罰規定の新設」について紹介します。
同年3月2日、金融庁において「公開買付制度・大量保有報告制度等のあり方に関する検討」が開始されました。現状の公開買付制度は原則として「市場外」における取引が適用対象となる中、市場内での買付けも含めた「市場内外」における取引も適用範囲としていく、今後の議論・検討の動向が注視されます。
そのほか、マンション仕入税額控除に関する最高裁判決、いわゆる「給与ファクタリング」が貸金業法等の貸付けに当たると判断された最高裁判決について解説します。
編集代表:小倉 徹弁護士(三浦法律事務所)
「消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律」の施行
執筆:遠藤 政佑弁護士、小倉 徹弁護士、渥美 雅之弁護士
消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律(2022年5月成立。以下「令和4年改正法」といいます)が段階的に施行されており、一部 を除いて2023年6月1日に施行されます。主な改正内容の総論は、本連載で以前に紹介したとおりです(本連載第8回「2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント」参照)。
本稿では、事業者として特に対応が必要であると考えられる重要な改正事項に限って、より詳細な内容を解説します。
サルベージ条項が無効となったことに関する対応
令和4年改正法施行後は、いわゆるサルベージ条項が無効になります(消費者契約法8条3項)。サルベージ条項とは、「法律上許される限り事業者の損害賠償責任を免除する」「法律上許容される場合において事業者の損害賠償額の限度額を〇万円とする」などのように、一定の場合に事業者の負う責任を限定する規定のうち、責任を限定する範囲を契約条項上は明らかにせずに、「法律上許される限り」といった曖昧な文言で定めるものです。そのため、このようなサルベージ条項を契約書等に用いているとき、契約書等を修正する必要があります。
具体的な修正対応に関し、仮に軽過失の場合に事業者の責任を一部に限定するのであれば、「当社の損害賠償責任は、当社に故意又は重大な過失がある場合を除き、顧客から受領した本サービスの手数料の総額を上限とする」等、具体的に免責範囲を規定する契約条項とすることが期待されます。
なお、単に「事業者の損害賠償責任を免除する」と定める規定であれば、同法8条1項に違反するものとして、当該条項自体が全部無効になると解されていますので、ご注意ください。
不当な勧誘に関する取消権が追加・拡充されたことに関する対応
消費者契約法は、同法が定める類型に該当する場合、消費者が契約の申込みまたは承諾の意思表示を取り消すことで契約の拘束力を否定できることを定めています(同法4条)。令和4年改正法では、当該類型に下記3類型が追加(新設)・拡充されました。
- 勧誘をすることを告げずに、退去困難な場所に同行し勧誘した場合(同法4条3項3号)新設
- 威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害した場合(同法4条3項4号)新設
- 契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にした場合(同法4条3項9号)拡充
契約に向けた消費者の意思表示が取り消された場合、契約は遡及的に無効となることから(民法121条)、消費者が支払った金銭は不当利得返還請求の対象となり、事業者に返還義務が生じます(消費者契約法6条の2)。事業者は、本改正を機に消費者向けの勧誘に係る運用を再確認する必要があるといえます。
その他の対応
その他、中途解約時に事業者が解約料の説明をする努力義務の新設(同法9条2項、12条の4)や、情報提供や開示に関する事業者の努力義務の拡充(同法3条1項2号~4号、12条の3・5)がなされました。特に解約料の説明の努力義務等については、努力義務とはいえ事業者側が説明資料を準備する(場合によっては解約料を変更する)ことが期待されます。
「電気通信事業法の一部を改正する法律」の施行
執筆者:小倉 徹弁護士
2023年6月16日、電気通信事業法の一部を改正する法律が施行されます(以下「改正電通法」といいます)。同改正法は、いくつかの改正事項を含みますが、その中でも多くの事業者に影響があり得るものとして、以下が挙げられます。
登録・届出を要する電気通信事業者の範囲の拡大
分野横断的なオンライン検索サービスを提供する電気通信役務、および主として不特定の利用者間の交流を実質的に媒介する電気通信役務(テキスト・動画・音声によるSNS、登録制掲示板、登録制オープンチャット、動画共有プラットフォーム、ブログプラットフォーム等)であって、利用者数が1,000万人以上であるものを提供する者のうち、総務大臣から指定された者は、届出を行わなければなりません(改正電通法164条1項3号、同条2項4号・5号、改正電通法施行規則59条の2、59条の3第4項、第5項)。
「特定利用者情報」の適正な取扱いに関する規制の導入
電気通信事業者のうち、利用者数が一定数以上(無料の電気通信役務の場合、利用者数が1,000万人以上。有料の電気通信役務の場合、利用者数が500万人以上)の電気通信役務を提供しており、総務大臣から指定された者は、「特定利用者情報」に該当する情報(通信の秘密に該当する情報に加え、契約者を識別できる情報および登録者を識別できる情報のうちデータベース化された情報が該当します)の取扱いに関し、取扱規程の策定・届出、取扱方針の策定・公表、統括管理者の選任・届出といった措置を講じなければなりません(改正電通法27条の5以下、改正電通法施行規則22条の2の19以下)。
いわゆる外部送信規律の導入
利用者の利益に及ぼす影響の少なくない電気通信役務を提供する者は、CookieやSDKを使うなどして、利用者に関する情報(Cookieに保存されたIDや広告ID等の識別符号、利用者が閲覧したウェブページのURL等の利用者の行動に関する情報、利用者の氏名等、利用者以外の者の連絡先情報等)を外部送信する場合に、利用者に確認の機会を付与しなければなりません(改正電通法27条の12)。
なお、利用者の利益に及ぼす影響の少なくない電気通信役務は、改正電通法施行規則22条の2の27に定められており、その具体例は以下のとおりです。
- メールサービス、ダイレクトメッセージサービス、参加者を限定した(宛先を指定した)会議が可能なウェブ会議システム等
- SNS、電子掲示板、動画共有サービス、オンラインショッピングモール、シェアリングサービス、マッチングサービス、ライブストリーミングサービス、オンラインゲーム等
- オンライン検索サービス
- ニュースや気象情報等の配信を行うウェブサイト・アプリケーション、動画配信サービス、オンライン地図サービス等
この外部送信規律は、改正電通法施行規則22条の2の27に規定される対象役務を提供している場合には、登録・届出を要する電気通信事業者でなくとも適用があり、適用がある場合、一定の事項の通知・公表、同意の取得またはオプトアウト措置のいずれかの措置を実施しなければなりません。
対象役務の範囲が広範なものとなっているため、外部送信規律の適用の有無を確認するとともに、適用がある場合には対象役務における外部送信の洗い出しを行い、必要に応じてポップアップの表示・クッキーポリシーの策定・表示といった準備を進める必要があります。
「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」の施行
執筆:伊藤 大智弁護士、所 悠人弁護士
2022年6月3日に成立した「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「本改正法」といいます)が、遅くとも2023年6月9日までに施行されます。
本改正法により改正される法律の範囲は多岐にわたりますが、主な内容は資金決済法に関する以下の3点です。
- 電子決済手段等への対応
→ いわゆる法定通貨建てのステーブルコインの売買や交換等を行うことを「電子決済手段等取引業」として登録制とし、「電子決済手段等取引業」について利用者の保護のための規制が定められます。
- 銀行等による取引モニタリング等の共同化への対応取引
→ 取引フィルタリングおよび取引モニタリングの共同化に向けて、取引フィルタリングおよび取引モニタリングを行うことを「為替取引分析業」として許可制とし、「為替取引分析業」について厳格な業規制が定められます。
- 高額電子移転可能型前払式支払手段への対応
→ マネーロンダリングのリスクが特に高い「高額電子移転可能型前払式支払手段」(高額のチャージや移転が可能な前払式支払手段)の発行者に対して、業務実施計画の提出を求めるとともに、犯罪による収益の移転防止に関する法律に基づく本人確認等の規律が適用されるようになります。
なお、2022年10月5日、12月26日に本改正法に係る政令・内閣府令等案が公表されており、本改正法による犯罪収益移転防止法の改正に係る政令・内閣府令等案は今後公表される予定です。これらのパブリックコメントの結果を踏まえて、修正された本改正法に係る政令・内閣府令等が公布・施行されることとなるため、パブリックコメントの動向についても注視する必要があります。
「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案」の衆議院本会議可決
執筆:坂尾 佑平弁護士、渥美 雅之弁護士
2023年2月28日に、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)の改正法案が閣議決定されました。その後、同年4月13日に「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案」が衆議院本会議において可決され、参議院に送付されました。
主な改正事項は、事業者の自主的な取組の促進(確約手続の導入、課徴金制度における返金措置の弾力化)、違反行為に対する抑止力の強化(繰り返し違反に対する課徴金増額等の課徴金制度の見直し、罰則規定の拡充)、円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備等(国際化の進展への対応、適格消費者団体による開示要請規定の導入)と整理可能です。この中で特に押さえておくべきポイントは、確約手続の導入と直罰規定の新設です。
確約手続とは、優良誤認表示等の疑いのある表示等をした事業者が是正措置計画を申請し、内閣総理大臣から認定を受けたときは、当該行為について、措置命令および課徴金納付命令の適用を受けないこととすることで、迅速に問題を改善する制度です。
直罰規定の新設に関し、従前は優良誤認表示や有利誤認表示等に対し、行政処分を課した上で、これに違反した場合に刑事罰を科すことができる制度となっていましたが、本改正により、優良誤認表示や有利誤認表示について、行政処分を経ずに直罰(100万円以下の罰金)を科すことが可能となります。
本改正は、景品表示法の実効性確保の観点から重要性の高いものであり、景品表示法の適用を受ける事業者に大きな影響があると考えられます。
「公開買付制度・大量保有報告制度等のあり方に関する検討」の開始
執筆:伊藤 大智弁護士、所 悠人弁護士
2023年3月2日に開催された金融庁の第51回金融審議会総会および第39回金融分科会の合同会合において、公開買付制度・大量保有報告制度等のあり方について諮問がなされました。
諮問を受けて本会合では、公開買付制度・大量保有報告制度の歴史を振り返り、両制度は2006年の改正以降大きな改正がなかったこと、近時において市場環境の変化があったことにより、両制度について、主に以下のような課題が指摘されていることについて言及されました。
特に、現状の公開買付制度は原則として「市場外」における取引を適用対象としているところ、市場内での買付けも含めた「市場内外」における取引を適用範囲とすることも視野に入れている点が注目されます。
本会合で議論された内容は初期的なものであり、今後は金融庁の金融審議会においてワーキング・グループが組成され、詳細な議論が行われるものと考えるため、その動向を注視する必要があります。
マンション仕入税額控除事件に関する2つの最高裁判決(最高裁令和5年3月6日判決)
執筆:迫野 馨恵弁護士、山口 亮子弁護士
マンション仕入税額控除事件とは、マンションの販売事業を行う事業者が、転売目的で、全部または一部が住宅として賃貸されているマンションを取得し、転売までの期間賃貸した場合において、当該マンションの取得(仕入れ)に係る消費税額を全額控除できるのか、それとも一部しか控除できないのか、消費税法上の個別対応方式における用途区分(消費税法30条2項1号)を、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」(「課税対応課税仕入れ」)とすべきか、それとも「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」(「共通対応課税仕入れ」)とすべきかという点(争点1)が争点となった事件です。
また、この問題については従前税務当局が全額の控除を認めるかのような回答をしていたのに対し、その後、見解を変更して控除を認めない方針とし、課税処分に至ったものであるとして、共通対応課税仕入れに区分されるとしても、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」が認められ、過少申告加算税が賦課されないのではないかという点(争点2)も争点となりました。
A社事案とB社事案の2つの事案において、2023年3月6日、最高裁は、課税処分は適法であり、過少申告となったことに正当な理由もないとして、過少申告加算税の取消しも認めませんでした(A社事案:最高裁令和5年3月6日判決)(B社事案:最高裁令和5年3月6日判決)。
2つの事案に係る地裁から最高裁までの経緯は、以下の表のとおりです。
争点1 課税処分の適法性 | 争点2 正当な理由 | ||
A社事案 | 地裁判決 (東京地判令和2年9月3日) |
課税処分取消し | ― |
高裁判決 (東京高判令和3年7月29日) |
課税処分は適法 | 正当な理由なし | |
最高裁判決 (最判令和5年3月6日) |
課税処分は適法 | 正当な理由なし | |
B社事案 | 地裁判決 (東京地判令和元年10月11日) |
課税処分は適法 | 正当な理由なし |
高裁判決 (東京高判令和3年4月21日) |
課税処分は適法 | 正当な理由あり | |
最高裁判決 (最判令和5年3月6日) |
― | 正当な理由なし |
争点1 課税処分の適法性について(A社事案のみ)
最高裁は、「課税対応課税仕入れとは、当該事業者の事業において課税資産の譲渡等にのみ対応する課税仕入れをいい、課税資産の譲渡等のみならずその他の資産の譲渡等にも対応する課税仕入れは、全て共通対応課税仕入れに該当すると解するのが相当」としました。そのうえで、A社の事業において行われた建物の購入に係る課税仕入れは、建物の転売のみならず、建物の住宅としての賃貸にも対応するものであるので、A社の事業の位置付けやA社の意図等にかかわらず、共通対応課税仕入れに該当するものと判断しました。
なお、争点1については、令和2年度の消費税法の改正により、事業者が、国内において行う居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額については、仕入税額控除の対象としないとされています(消費税法30条10項)。
争点2 正当な理由について(A社事案、B社事案共通)
最高裁は、①税務当局は遅くとも平成17年以降、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを、当該建物が住宅として賃貸されることに着目して共通対応課税仕入れに区分すべきであるとの見解を採っており、そのことは一般の納税者も知り得たものということができること、②それ以前の税務当局による関係機関からの照会に対する回答等は、その趣旨や前提となる事実関係が明らかでないこと等から、「平成17年以降、税務当局が、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを当該建物が住宅として賃貸されることに着目して共通対応課税仕入れに区分する取扱いを周知するなどの積極的な措置を講じていないとしても、事業者としては、上記取扱いがされる可能性を認識してしかるべきであった」として、「正当な理由」の存在を否定しています。
(詳細は、弊所のNote記事「税務UPDATE Vol.1:【速報】マンション仕入税額控除事件で納税者勝訴判決(東京地判令和2年9月3日)」、「税務UPDATE Vol.2:【解説】マンション仕入税額控除事件」、「税務UPDATE Vol.15:【速報】マンション仕入税額控除事件最高裁判決」、「税務UPDATE Vol.16:【解説】マンション仕入税額控除事件最高裁判決~「正当な理由」とは~」もご参照ください)
いわゆる「給与ファクタリング」が貸金業法および出資法の「貸付け」に当たると判断された事例(最高裁令和5年2月20日判決)
執筆:磯田 翔弁護士
ファクタリングとは、債権を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービスです。労働者が勤務先に対して有する給与(賃金債権)を、給与の支払日前に一定の手数料を徴収して買い取り、給与が支払われた後に、個人を通じて資金の回収を行うことを「給与ファクタリング」といいます。この給与ファクタリングにつき、最高裁判所は、2023年2月20日、初めて貸金業法および出資法の「貸付け」に当たるとの判断を行いました(以下「本判決」といいます)(最高裁令和5年2月20日判決)。
本判決の事案は、給与の前払をうたい文句として、労働者である顧客から、その勤務先に対する賃金債権の一部を額面額から4割程度割り引いた金額で譲り受け、同額の金銭を顧客に交付するサービスを無登録で営んでいた事業者につき、貸金業法違反が問われた事案です。
問題となった事業者のサービスでは、以下のような契約内容が定められていました。
- 使用者の不払の危険は事業者(被告人)が負担するとされていたこと
- 希望する労働者(顧客)は譲渡した賃金債権を買戻し日に額面額で買い戻すことができること
- 事業者(被告人)が、使用者に対する債権譲渡通知の委任を受けてその内容と時期を決定すること
- 労働者(顧客)が買戻しを希望しない場合には使用者に債権譲渡通知をするが、労働者(顧客)が希望する場合には買戻し日まで債権譲渡通知を留保すること
- 全ての労働者(顧客)との間で買戻し日が定められていること
本判決が、給与ファクタリングにつき貸金業法および出資法の「貸付け」に該当するとした主な判断理由は、以下のとおりです。
- 労働基準法24条1項の趣旨からすれば、労働者(顧客)が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払についてはなお同項が適用され、使用者は直接労働者(顧客)に対して賃金を支払わなければならず、その賃金の譲受人は、自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないこと。
- 事業者(被告人)は、実際には労働者(顧客)に対して、債権を買い戻させることなどにより労働者(顧客)から資金を回収するしかないこと。
- 労働者(顧客)は、賃金債権の譲渡を使用者に知られることのないよう、使用者に対する債権譲渡通知を避けるためには、事実上、自ら債権を買い戻さざるを得なかったこと。
労働基準法では、使用者は、賃金を労働者に直接支払わなければならないとされており(賃金直接払いの原則)、これに違反した場合には、30万円以下の罰金を受けることになります。そのため、労働者と事業者との間で債権譲渡が行われたとしても、事業者は、使用者に対して賃金の支払を求めることはできず、他方で使用者も労働者に賃金を支払うしかありません。
また、本判決の事案では、上記③のとおり、労働者が債権譲渡通知を送付する権限を事業者に委任しているため、事業者が時期を決定して、労働者に代わって債権譲渡通知を送付することができます。そうすると、勤務先に、債権譲渡の事実を知られたくない労働者としては、事業者が債権譲渡通知を発送する前に、賃金債権を額面額で買い戻すしかありません。
すなわち、(a)事業者は使用者に対して賃金を請求できない以上、労働者から金銭を回収するしかなく、他方で(b)勤務先に知られたくない労働者も、事業者が債権譲渡通知を発送する前に、賃金債権を額面で買い戻すしかなく、(c)労働者は、譲渡額と買戻し額(額面額)の差額を負担して賃金債権を買い戻さざるを得ないことになります。
このような権利関係からすると、給与ファクタリングは、実質的には労働者が事業者から割引後の金額で金銭を借り入れ、額面額で金銭を返済する合意があったものと見ることができます。
給与ファクタリングは、従前より金融庁や下級審が貸金業法および出資法の「貸付け」に当たるとしていました。
本判決は、給与ファクタリングにつき最高裁判所が初めて判断した事例ですが、給与ファクタリングに限らず、経済的に貸付けと同様の機能を有していると思われるようなファクタリングについては、貸金業への該当性に注意する必要があります。
シリーズ一覧全16件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
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