Legal Update
第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
法務部
シリーズ一覧全44件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
目次
本稿で扱う内容一覧
日付 | 内容 |
---|---|
2024年10月31日 | 公開買付けに係る株式買取価格決定申立事件(ファミマ事件・東京高裁令和6年10月31日決定) |
2024年12月16日 | 「『ビジネスと人権』に関する行動計画」の改定骨子案の公表 |
2024年12月26日 | 厚生労働省「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について(建議)」の公表 |
2025年1月17日 | 金融庁 令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表 |
2025年1月17日 | 厚生労働省「今後の労働安全衛生対策について(建議)」の公表 |
2025年1月22日 | 個人情報保護委員会「『個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しに係る検討』の今後の検討の進め方について」の公表 |
2025年1月22日 | 金融審議会「資金決済制度等に関するワーキング・グループ」報告書の公表 |
編集代表:坂尾 佑平弁護士(三浦法律事務所)
個人情報保護委員会「『個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しに係る検討』の今後の検討の進め方について」の公表
執筆:小倉 徹弁護士
2025年1月22日、個人情報保護委員会は、「『個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しに係る検討』の今後の検討の進め方について」(以下「本資料」といいます)を公表しました。
本資料は、2024年6月27日に公表された「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しに係る検討の中間整理」(以下「中間整理」といいます)およびこれに対する意見募集の結果や、同年10月16日に公表された「個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しの検討の充実に向けた視点」等を踏まえて行われたヒアリング等を経て取りまとめられたものです。
本資料において、中間整理に対する意見募集後に行われた制度の基本的な在り方に関する議論から明らかになった論点および中間整理で示された個別検討事項を含め、一般法としての個人情報保護法の基本的な在り方の観点から検討すべき制度的な論点が再整理されており、その内容は以下の1-1〜1-3のとおりです。
個人データ等の取扱いにおける本人関与に係る規律の在り方
① 統計作成等、特定の個人との対応関係が排斥された一般的・汎用的な分析結果の獲得と利用のみを目的とした取扱いを実施する場合の本人の同意の在り方
② 取得の状況からみて本人の意思に反しない取扱いを実施する場合の本人の同意の在り方
③ 生命等の保護または公衆衛生の向上等のために個人情報を取り扱う場合における同意取得困難性要件の在り方
④ 病院等による学術研究目的での個人情報の取扱いに関する規律の在り方
イ 本人への通知が行われなくても本人の権利利益の保護に欠けるおそれが少ない場合における漏えい等発生時の対応の在り方
ウ 心身の発達過程にあり、本人による関与等の規律が必ずしも期待できない子供の個人情報等の取扱い※ ア①~③およびイは、本資料において新たに追加された項目
上記ア①~③については、①統計作成等、特定の個人との対応関係が排斥された一般的・汎用的な分析結果の獲得と利用のみを目的とした取扱いを実施する場合、②取得の状況からみて本人の意思に反しない取扱いを実施する場合、および、③生命等の保護または公衆衛生の向上等のために個人情報を取り扱う場合であって本人の同意を得ないことに相当の理由があるときについては、本人同意を要しないものとして整理できるのではないかとの方向性が示されています。
また、上記イについては、個人データの漏えい等が発生した際に必要となる本人通知は、通知を受けた本人が漏えい等の事態を認識することで、自らの権利利益を保護するための措置を講じられるようにすることを趣旨としているところ、本人への通知が行われなくても本人の権利利益の保護に欠けるおそれが少ない場合においては、通知を受けた本人の関与の必要性がないため、個人情報取扱事業者に対して本人通知を要しないものとして整理できるのではないかとの方向性が示されています。
なお、2025年2月5日に「個人情報保護法の制度的課題に対する考え方について(個人データ等の取扱いにおける本人関与に係る規律の在り方)」が公表され、想定される具体的な規律の方向性に関する考え方等が示されていますので、より具体的な内容については、同資料も参考になります。
個人データ等の取扱いの態様の多様化等に伴うリスクに適切に対応した規律の在り方
イ 特定の個人に対する働きかけが可能となる個人関連情報に関する規律の在り方
ウ 本人が関知しないうちに容易に取得することが可能であり、一意性・不変性が高いため、本人の行動を長期にわたり追跡することに利用できる身体的特徴に係るデータ(顔特徴データ等)に関する規律の在り方
エ 悪質な名簿屋への個人データの提供を防止するためのオプトアウト届出事業者に対する規律の在り方※ アは、本資料において新たに追加された項目
個人データ等の取扱いについて、実質的に第三者に依存するケースが拡大する中、委託先の管理等を通じた適正な個人データ等の取扱いの確保が困難な場合があることから、個人情報取扱事業者等からデータ処理等の委託を受けた事業者に対する規律の在り方について、実態を踏まえ新たに整理していくことが考えられるのではないかとの方向性が示されています。
なお、2025年2月19日に「個人情報保護法の制度的課題に対する考え方について(個人データ等の取扱いの態様の多様化等に伴うリスクに適切に対応した規律の在り方)」が公表され、想定される具体的な規律の方向性に関する考え方等が示されていますので、より具体的な内容については、同資料も参考になります。
個人情報取扱事業者等による規律遵守の実効性を確保するための規律の在り方
・速やかに是正を図る必要がある事案に対する勧告・命令の在り方
・個人の権利利益のより実効的な保護のための勧告・命令の内容の在り方
・命令に従わない個人情報取扱事業者等の個人情報等の取扱いに関係する第三者への要請の導入の要否
イ 悪質事案に対応するための刑事罰の在り方ウ 経済的誘因のある違反行為に対する実効的な抑止手段(課徴金制度)の導入の要否
エ 違反行為による被害の未然防止・拡大防止のための団体による差止請求制度、個人情報の漏えい等により生じた被害の回復のための団体による被害回復制度の導入の要否
オ 漏えい等発生時の体制・手順について確認が得られている場合や違法な第三者提供が行われた場合における漏えい等報告等の在り方
個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しにおいては、2024年12月25日に公表された「個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しに関する検討会 報告書」のとおり、課徴金制度や団体による差止請求制度および被害回復制度に関する議論が行われており、また、より包括的なテーマや個人情報保護政策全般についても継続的に議論が行われるとのことです。
金融庁 令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表
執筆:藤﨑 大輔弁護士、所 悠人弁護士
2025年1月17日、金融庁から、令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等が公表されました。
2024年5月15日に成立した「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律32号。公布の日から起算して1年を超えない範囲において政令で定める日から施行。以下「令和6年改正」といいます)について、関係政令・内閣府令等の規定の整備を行うものです。
主な改正等の内容は以下の2-1〜2-3のとおりです。
なお、令和6年改正については、本連載第29回「2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「4 2024年通常国会において成立した金融関連の法律」もご参照ください。
投資運用関係業務受託業に関する規定の整備
令和6年改正により、投資運用業等に関するミドル・バックオフィス業務(法令遵守、計理等)を受託して業として行う「投資運用関係業務受託業」の登録制度が新設されます(金融商品取引法(以下「金商法」といいます)66条の71~66条の93)。
その登録申請方法、整備しなければならない業務管理体制、事業報告書の内容などについて詳細な規定が設けられています(金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「業府令」といいます)347条~365条)。
また、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の別冊として、「投資運用関係業務受託業者向けの監督指針」が新たに策定されています。
投資運用業に関する規定の整備
令和6年改正により、投資運用業者がファンド運営機能(企画・立案)に特化し、様々な運用業者へ運用を委託できるよう、投資運用業者がすべての運用財産に関する運用権限を全部委託することが可能になるとともに、運用権限を委託する場合には、委託元が運用の対象や方針を決定し、委託先を管理することが義務付けられます(金商法42条の3第2項)。
業府令において、委託元が講じなければならない措置の内容が規定されています(業府令131条2項)。
非上場有価証券特例仲介等業務に関する規定の整備
令和6年改正により、スタートアップ等が発行する非上場有価証券の仲介業務への新規参入を促進し、その流通を活性化させるため、第一種金融商品取引業のうち、プロ投資家(特定投資家)を対象とし、非上場有価証券の仲介業務に特化し、原則として金銭等の預託を受けない場合を「非上場有価証券特例仲介等業務」と新たに定義し(金商法29条の4の4第8項)、同業務のみを行う場合は、第一種金融商品取引業の登録要件が緩和されます(同条1項~6項)。
これに関して、非上場有価証券特例仲介等業者の最低資本金要件を1,000万円とすること(金融商品取引法施行令(以下「施行令」といいます)15条の7第1項6号)、非上場有価証券特例仲介等業務の対象から店頭売買有価証券が除かれること(施行令15条の10の4)、非上場有価証券特例仲介等業務として行う顧客からの金銭の預託の期間が1週間を超えてはならないこと(施行令15条の10の5)が定められています。
また、非上場有価証券特例仲介等業者が整備しなければならない業務管理体制(業府令70条の2第10項)や、同業者がインターネットで掲示すべき事項(業府令71条3項7号)などが定められています。
金融審議会「資金決済制度等に関するワーキング・グループ」報告書の公表
執筆:藤﨑 大輔弁護士、所 悠人弁護士
2025年1月22日、金融庁から、金融審議会「資金決済制度等に関するワーキング・グループ」報告書(以下「本報告書」といいます)が公表されました。
本報告書は、送金・決済・与信サービスの利用者・利用形態の広がりや、新たな金融サービスの登場を踏まえ、2024年9月に金融審議会に設置された「資金決済制度等に関するワーキング・グループ」における審議の結果を取りまとめたものです。
本報告書において議論されている事項は以下のとおりです。
- 資金移動業者の破綻時における利用者資金の返還方法の多様化
- 第一種資金移動業の滞留規制の緩和
- クロスボーダー収納代行への規制のあり方
- 前払式支払手段の寄附への利用
- 暗号資産交換業者等の破綻時等における資産の国外流出防止
- 暗号資産等に係る事業実態を踏まえた規制のあり方
- 特定信託受益権(3号電子決済手段)の発行見合い金の管理・運用方法の柔軟化
- 特定信託受益権(3号電子決済手段)におけるトラベルルールの適用
- 預金取扱金融機関による1号電子決済手段の発行
- 「立替サービス」の貸付け該当性
- 外国の金融機関等がシンジケートローンに参加する場合の貸金業法の規制
暗号資産・電子決済手段(ステーブルコイン)
その他の論点
それぞれの詳細については本報告書をご参照いただければと思いますが、本稿では、関係する事業者も多いと思われる、③・⑩の議論についてご紹介します。
クロスボーダー収納代行への規制のあり方
収納代行については、金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」報告(2019年12月20日)を踏まえ、2020年の資金決済法改正において、個人間の収納代行の一部(いわゆる「割り勘アプリ」のサービス)について、為替取引に該当することが明示的に規定されたものの、「今後とも、収納代行を巡る動向を注視しつつ、それぞれのサービスの機能や実態に着目した上で、為替取引に関する規制を適用する必要性の有無を判断していくことが適当と考えられる」と継続的な検討が示唆されていました。
近年、国内と国外との間での資金移動であって、収納代行の形式で行われるもの(以下「クロスボーダー収納代行」といいます)が、海外オンラインカジノや海外出資金詐欺等の事案で用いられる事例が存在し、また、金融安定理事会(FSB)による勧告で指摘されているマネー・ロンダリング等のリスクへの対応を適切に実施するという観点から、クロスボーダー収納代行のうち、為替取引に関する規制に服する銀行や資金移動業者が行うクロスボーダー送金と同機能を果たしていると考えられるものについては、リスクに比例的な規制として為替取引に関する規制を、過剰な規制とならないように留意しつつ適用することが提言されています。
もっとも、(i)金銭債権の発生原因の成立に関与する者が行うクロスボーダー収納代行や、(ii)エスクローサービスは、サービス自体の有益性と、国内において社会的・経済的に重大な問題とされるような被害は発生していないことを踏まえて、直ちに規制の対象とせず、引き続き検討課題とするとしています。
また、金銭債権の発生原因の成立に関与しない者が行うクロスボーダー収納代行であっても、(iii)資本関係がある場合等、受取人との経済的一体性が認められる者が行うクロスボーダー収納代行等や、(iv)他法令が規律する分野における主体や行為でクロスボーダー収納代行を実施することが想定されているもの(クレジットカードのイシュア・アクワイアラ間の清算業務等)については、直ちに為替取引に関する規制を適用する必要性は高くないとしています。
現時点で為替取引に関する規制が適用されるべきクロスボーダー収納代行の類型として、以下が例示されていますが、上記の各適用除外を含め、具体的にどのような法令改正がなされるか、今後の動向に注目する必要があります。
- 海外オンラインカジノの賭金の収納代行
- 海外投資事案の収納代行
- 海外EC取引業者からの委託を受け、決済だけに関わる収納代行
- インバウンド旅行者の国内での決済のための収納代行
また、今回、規制の対象外とされた行為についても、国内外の利用者被害の状況や、金銭債権の発生原因の成立に関与するような外観を作り出しているといった規制の潜脱事例の有無等の状況を注視し、今後、必要があれば規制の範囲について改めて議論すべきであるとしており、収納代行への規制の動向は引き続き注視する必要があります。
「立替サービス」の貸付け該当性
近年、事業者が利用者からの依頼を受けて資金を立て替えたうえで、後から利用者に対して立替金の支払を請求するサービス(以下「立替サービス」といいます)の利用が広がっているところ、このような立替サービスには、事業者が利用者に対して信用を供与する側面があり、そのサービスが貸金業法上の「貸付け」に該当するか否かが論点となります。
この点について、立替サービスには様々な法的構成やスキームが存在することから、貸付け該当性を一律の基準で判断することは困難であるとしながらも、適切な利用者保護を図りつつ、サービスを提供する事業者にとっての予測可能性を確保し、サービスの健全な発展を促す観点から、立替サービスの貸付け該当性について、以下の判断枠組みが示されており、参考になります。
なお、金融規制が適用される与信行為と、金融規制が適用されない与信行為との経済実態の差異が小さくなっており、事業者から見た予見可能性が低下している状況に鑑み、今後、与信に係る規制のあり方を検討する可能性についても述べられており、貸金業法に関する議論の進展が期待されます。
厚生労働省「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について(建議)」の公表
執筆:菅原 裕人弁護士
厚生労働省は、2024年12月26日に「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について(建議)」(以下「本建議」といいます)が公表されました。
本建議に先立って、同年8月8日に「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 報告書」(以下「本報告書」といいます)が公表されていますが、本建議は本報告書以後の検討を取りまとめて作成されたものです。
本建議では、以下の観点から、法的整備も含め、所要の措置を講ずることを建議する内容となります。
- 女性活躍推進法に基づく取組をはじめとして、各種の取組が進む中で、我が国における男女間賃金差異は長期的に縮小傾向にあるが、国際的に見れば依然として差異が大きい状況にあり、男女間賃金差異の大きな要因の1つとされる管理職に占める女性の割合についても、長期的には上昇傾向にあるが、こちらも国際的に見れば依然として低い水準に留まっている状況に鑑み、女性活躍の更なる推進が求められている
- 職場におけるハラスメントは順次対策の強化が図られ、国際的にも対策の進展が見られる一方で、都道府県労働局へのハラスメントに係る相談件数の状況を見ると、依然高止まりしている状況にあり、近年、顧客、取引先等からの著しい迷惑行為であるカスタマーハラスメントや、就職活動中の学生等に対するセクシュアルハラスメントが社会的に問題となっており、更なる対策の強化を図り、全ての労働者が活躍することのできる就業環境を実現していくことが求められている
本建議において取りまとめられた必要な対応の具体的な内容の項目は以下のとおりです。
① 女性の職業生活における活躍の更なる推進 |
(1)女性活躍推進法の延長 (2)中小企業における取組の推進 (3)女性の職業生活における活躍に関する情報公表の充実 (4)職場における女性の健康支援の推進 (5)えるぼし認定制度の見直し |
② 職場におけるハラスメント防止対策の強化 |
(1)職場におけるハラスメントを行ってはならないという規範意識の醸成 (2)カスタマーハラスメント対策の強化 (3)就活等セクシュアルハラスメント対策の強化 (4)パワーハラスメント防止指針へのいわゆる「自爆営業」の明記 |
上記の改正の中で、特に人事労務管理の実務上の影響が大きい項目の概要は以下のとおりです。
男女間賃金差異の情報公表の拡大 |
|
カスタマーハラスメント対策の強化 |
|
就活等セクシュアルハラスメント対策の強化 |
|
パワーハラスメント防止指針へのいわゆる「自爆営業」の明記 |
|
本建議を踏まえ、2025年1月27日に厚生労働省が「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案要綱」が公表され、これを基に今国会で改正法の審議がなされる見込みです。
厚生労働省「今後の労働安全衛生対策について(建議)」の公表
執筆:河尻 拓之弁護士、菅原 裕人弁護士
厚生労働省は、2025年1月17日に「今後の労働安全衛生対策について(建議)」(以下「本建議」といいます)を公表しました。本建議は、以下のとおりすでに公表されている専門家による検討会報告書および中間とりまとめの内容を踏まえたものです。
本建議では、以下のような近年の労働安全衛生をめぐる課題に対して、法的整備も含め、所要の措置を講ずることを建議する内容となっています。
- 建設アスベスト訴訟の最高裁判決(令和3年5月)により、労働安全衛生法(以下「安衛法」といいます)の一部の規定について、労働者だけでなく、同じ場所で働く労働者でない者も保護する趣旨である旨の判断がなされたことから、労働者と同じ場所で就業する個人事業者等の安全衛生対策について対応が必要となっていること
- 精神障害の労災支給決定件数が令和5年度に過去最多になるなど、働く人のメンタルヘルス対策への対応が必要となっていること
- 化学物質管理について、令和4年以降の政省令改正により、危険性・有害性が確認されたすべての物質を対象とした事業者による自律的管理制度に順次移行しており、今後円滑な施行に向けた対応が必要となっていること
- 高齢化の進展に伴い、高年齢労働者に対する労働災害防止対策について、対応が必要となっていること
本建議において取りまとめられた必要な対応の具体的な内容の項目は以下のとおりです。
① 個人事業者等に対する安全衛生対策の推進 |
(1)個人事業者等の定義 (2)個人事業者等自身による措置 (3)注文者等による措置 (4)個人事業者等による労働基準監督署等への申告 (5)個人事業者等の業務上災害の報告制度 |
② 職場のメンタルヘルス対策の推進 |
(1)ストレスチェックの実施および高ストレス者に対する面接指導の実施 (2)集団分析の実施および職場環境の改善 |
③ 化学物質による健康障害防止対策等の推進 |
(1)化学物質の譲渡・提供時における危険性・有害性情報の通知制度の改善等 (2)個人ばく露測定の精度の担保 |
④ 機械等による労働災害防止の促進等 |
(1)特定機械等の製造許可および製造時等検査に係る民間活力の活用の促進 (2)機械等に係る登録機関(検査業者、登録教習機関)の不正防止の強化 (3)技術の進歩等を踏まえた型式検定対象機械等および技能講習対象業務の追加等の迅速化 |
⑤ 高年齢労働者の労働災害防止の推進 |
(1)高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、適切な作業の管理その他の必要な措置の努力義務化 (2)国による指針の策定・公表 |
⑥ 一般健康診断の検査項目等の検討 |
(1)女性特有の健康課題への対応 (2)一般健診の法定健診項目について |
⑦ 治療と仕事の両立支援対策の推進 |
(1)治療と仕事の両立支援のために必要な措置の努力義務化 (2)国による指針の策定・公表 |
上記の改正の中で、特に人事労務管理の実務上の影響が大きい項目の概要は以下のとおりです。
個人事業者等の業務上災害の報告制度 |
|
ストレスチェックの実施および高ストレス者に対する面接指導の実施 |
|
高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、適切な作業の管理その他の必要な措置の努力義務化 |
|
治療と仕事の両立支援のために必要な措置の努力義務化 |
|
本建議を踏まえ、2025年1月27日に厚生労働省から「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案要綱」が公表され、これを基に今国会で改正法の審議がなされる見込みです。
「『ビジネスと人権』に関する行動計画」の改定骨子案の公表
執筆:坂尾 佑平弁護士
2024年12月16日に開催された「ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議」において、外務省から「『ビジネスと人権』に関する行動計画」の改定骨子案が説明され、同会議において承認されました。
「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020−2025)」は、2020年10月に策定・公表されたものであり、「ビジネスと人権」に関して、今後政府が取り組む各種施策が記載されているほか、企業に対し、人権デュー・ディリジェンスの導入促進への期待が表明されています。
骨子案では、「第2章 優先分野」においては、「誰一人取り残さない」ための施策推進として、①ジェンダー平等、②外国人労働者、③子どもと若者、④障害者および⑤高齢者を列記しています。
同章ではまた、「新しい人権課題」として、①AI・テクノロジーと人権、および②環境と人権を列記しています。
さらに、企業の情報開示に関しても優先分野として項目立てをしている点が注目に値します。
改定骨子案は、今後の議論の進展に応じて変更の可能性はありますが、「ビジネスと人権」という現在グローバルレベルで大きく注目されている領域に関し、政府が企業に対してどのような問題意識や期待を持つかを知るうえで参考になります。すでに多くの企業において、2022年9月に策定・公表された「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を踏まえて、人権方針の策定、人権デュー・ディリジェンスの実施、苦情処理メカニズムを含む救済プロセスの整備等を行っているところ、「『ビジネスと人権』に関する行動計画」に関しても改定の動向を引き続き注視していく必要があります。
公開買付けに係る株式買取価格決定申立事件(ファミマ事件・東京高裁令和6年10月31日決定)
執筆:大草 康平弁護士
2024年10月31日、東京高裁によりファミマ事件(東京地裁令和5年3月23日決定・資料版商事法務470号130頁。以下「原決定」といいます)の抗告審に係る決定がなされました(東京高裁令和6年10月31日決定・資料版商事法務490号95頁。以下「本決定」といいます)。
本事案は、伊藤忠商事株式会社およびその子会社であるリテールインベスメントカンパニー合同会社(以下併せて「伊藤忠ら」といいます)が株式会社ファミリーマート(以下「ファミリーマート」といいます)の非公開化を目的に実施した公開買付けおよび株式併合に関し、これに反対する株主が会社法182条の5第2項に基づき、株式の買取価格の決定の申立てをした事案です。
原決定は、公開買付けの手続の公正性を否定し、株式併合によるスクイーズアウト価格の「公正な価格」を公開買付価格である2,300円を上回る2,600円と決定しました。
その他の原決定の認定事実や判断については、本連載第20回「2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「8 株式公開買付けに係る株式買取価格決定申立事件(ファミマ事件・東京地裁令和5年3月23日決定)」もご覧ください。
この原決定に対し、ファミリーマートのほか、株主側も即時抗告をしたところ、本決定においては、株式の価格を1株につき2,600円と決定した原決定は相当であるとして、各抗告が棄却されました。
本決定においては、本件の公開買付けに係る手続の公正性について、ファミリーマートが設置した特別委員会が、公開買付価格について、①特別委員会独自の財務アドバイザー兼第三者算定機関のDCF法(将来期待されるフリー・キャッシュ・フローを一定の割引率で割り引くことにより株式の現在の価値を算定する方法)の算定結果のレンジの下限を下回る価格であること、②類似事例に比べて市場価格に対して十分なプレミアムが付されているとまでは認められないこと等からすれば、一般株主に対して公開買付けへの応募を積極的に推奨できる水準の価格に達しているとまでは認められないなどと判断していることから、特別委員会の意見が十分に尊重されて公開買付価格等の取引条件が定められたものと評価することはできず、「一般に公正と認められる手続」により行われたと認めることはできないと判断されています。
本決定は、公開買付けに賛同する旨の意見を表明するとともに、本件公開買付けに応募するか否かは株主の判断に委ねる旨の意見(賛同・応募非推奨意見)が公表された事案における公開買付価格・スクイーズアウト価格の公正性に関する高裁の判断を示したものとして重要な意義を有します。
本決定に対しては特別抗告および抗告許可の申立てがされており、最高裁の判断が待たれます。
シリーズ一覧全44件
- 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
- 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
- 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
- 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
- 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
- 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
- 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
- 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向