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第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向

法務部

シリーズ一覧全45件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  45. 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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目次

  1. 「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」の施行
  2. 「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」の施行
    1. セキュリティ・クリアランス制度の概要
    2. 重要経済安保情報保護活用法の概要
    3. 運用基準の概要
  3. 「公益通報者保護法の一部を改正する法律案」の閣議決定
  4. 民事裁判データベース制度創設法案の国会提出
    1. 制度創設の背景
    2. 民事裁判データベースの仕組み
    3. 民事裁判データベース制度と企業への影響
  5. 資金決済法・保険業法改正案の公表
    1. 資金決済に関する法律の一部を改正する法律案
    2. 保険業法の一部を改正する法律案
  6. 公開買付制度の見直し(金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表①)
    1. 公開買付制度の対象となる取引範囲の見直し
    2. 形式的特別関係者の範囲の見直し
    3. 公開買付手続の柔軟化
    4. 公開買付届出書等の記載事項の明確化等
  7. 大量保有報告制度の見直し(金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表②)
    1. 企業と投資家の対話の促進に向けた規定の整備等
    2. 現金決済型エクイティ・デリバティブ取引に関する規定の整備
    3. みなし共同保有者の範囲の見直し
    4. 大量保有報告書の記載事項の明確化等
  8. 経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」の公表
  9. 国境を越えた特許権侵害の成否(最高裁(二小)令和7年3月3日判決)
    1. 事案の概要
    2. 裁判所の判断
  10. 美容医療技術に関する特許権侵害訴訟事件(知財高裁令和7年3月19日判決)
    1. 事案の概要
    2. 争点
    3. 裁判所の判断

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2025年2月18日 経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」の公表
2025年3月3日 国境を越えた特許権侵害の成否(最高裁(二小)令和7年3月3日判決)
2025年3月4日 「公益通報者保護法の一部を改正する法律案」の閣議決定
2025年3月7日 民事裁判データベース制度創設法案の国会提出
2025年3月7日 資金決済法・保険業法改正案の公表
2025年3月14日 公開買付制度の見直し(金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表①)
2025年3月14日 大量保有報告制度の見直し(金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表②)
2025年3月19日 美容医療技術に関する特許権侵害訴訟事件(知財高裁令和7年3月19日判決)
2025年4月1日 「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」の施行
2025年5月16日 「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」の施行

 編集代表:小倉 徹弁護士(三浦法律事務所)

「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」の施行

 執筆:小倉 徹弁護士

 2024年5月17日に公布された「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(以下「情報流通プラットフォーム対処法」といいます)が、2025年4月1日に施行されました。

 情報流通プラットフォーム対処法は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称「プロバイダ責任制限法」)を改正した法律であり、改正に伴い、法律の名称も改められています。

 情報流通プラットフォーム対処法においては、誹謗中傷等のインターネット上の違法・有害情報に対処するため、一定の要件を満たす大規模プラットフォーム事業者に対して、侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化および送信防止措置の実施状況の透明化を図るための義務を課す規律が追加されています。

 情報流通プラットフォーム対処法において追加された義務の対象となる大規模プラットフォーム事業者は、「大規模特定電気通信役務提供者」(情報流通プラットフォーム対処法2条14号)と定義されており、総務大臣が指定した事業者がこれに該当します。

 また、この「大規模特定電気通信役務提供者」は、以下の義務を負います。

  • 総務大臣への届出(法21条)
  • 被侵害者からの申出を受け付ける方法の公表(法22条)
  • 侵害情報に係る調査の実施(法23条)
  • 侵害情報調査専門員の選任(法24条)
  • 申出者に対する侵害情報送信防止措置に係る判断の通知(法25条)
  • 送信防止措置の実施に関する基準等の公表(法26条)
  • 発信者に対する侵害情報送信防止措置を講じたこと等の通知等(法27条)
  • 措置の実施状況等の公表(法28条)

 大規模特定電気通信役務提供者の義務については、「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律における大規模特定電気通信役務提供者の義務に関するガイドライン」が公表され、また、法26条1項2号が定める「他人の権利を不当に侵害する情報の送信を防止する義務がある場合その他送信防止措置を講ずる法令上の義務(努力義務を除く。)がある場合」について例示する「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律第26条に関するガイドライン」が公表されておりますので、こちらも参考になります。

「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」の施行

 執筆:中村 朋暉弁護士

 2025年5月16日、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」(以下「重要経済安保情報保護活用法」といいます)が施行されました。

セキュリティ・クリアランス制度の概要

 重要経済安保情報保護活用法は、経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度を定めた法律です。
 「セキュリティ・クリアランス制度」とは、政府が保有する安全保障上重要な情報として指定された情報にアクセスする必要がある者に対して政府が調査を実施し、情報を漏らすおそれがないという信頼性を確認したうえでアクセスを認める制度をいい、(1)情報の指定に関するルール、(2)情報の管理・提供に関するルール、(3)罰則の大きく3つから構成されます。

重要経済安保情報保護活用法の概要

(1)情報の指定に関するルール

 ⾏政機関は、①重要経済基盤保護情報該当性、②非公知性、③特段の秘匿の必要性の3要件を満たすものを「重要経済安保情報」として指定します。

(2)情報の管理・提供に関するルール

 民間事業者が重要経済安保情報の提供を受けるためには、適合事業者(一定の基準に適合し、情報を適切に保護できると認められる民間事業者)として認定を受けたうえで、当該適合事業者に当該重要経済安保情報を利用させる必要があると認められ、かつ、当該行政機関と当該重要経済安保情報の提供を受けるための契約を締結する必要があります。
 また、当該適合事業者において当該重要経済安保情報の取扱いの業務を行う従業者については、適性評価を受ける必要があります。

(3)罰則

 重要経済安保情報の漏えいや不正取得について、罰則が設けられており、両罰規定も設けられています。

 その他、重要経済安保情報保護活用法の概要については、内閣府が公表している以下の資料をご参照ください。

運用基準の概要

 内閣府は、2025年1月31日、重要経済安保情報保護活用法の施行に関して、「重要経済安保情報の指定及びその解除、適性評価の実施並びに適合事業者の認定に関し、統一的な運用を図るための基準」(以下「運用基準」といいます)を公表しました。

 運用基準の概要については、内閣府が公表している以下の資料をご参照ください。

「公益通報者保護法の一部を改正する法律案」の閣議決定

 執筆:榮村 将太弁護士、坂尾 佑平弁護士

 2025年3月4日、第217回国会において「公益通報者保護法の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に提出されました。本法案において、企業にとって重要なポイントは以下のとおりです。

① 事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上

  • 常時使用する労働者301名以上の事業者に対し、従事者指定義務に違反し、現行法の指導等に従わない場合の命令権および命令違反時の刑事罰(30万円以下の罰金、両罰)を新設
  • 立入検査権限と報告懈怠・虚偽報告・検査拒否に対する刑事罰を新設
  • 体制整備義務の例示として、労働者等に対する事業者の公益通報対応体制の周知義務を明示
② 公益通報者の範囲拡大
  • 公益通報者の範囲にフリーランスや業務委託終了後1年以内の者を追加
  • 通報を理由とする契約解除その他の不利益な取扱いを禁止

③ 公益通報を阻害する要因への対処

  • 正当な理由がなく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること等によって公益通報を妨げる行為をすることを禁止し、これに違反してされた合意等の法律行為を無効とする
  • 事業者が、正当な理由なく通報者を特定することを目的とする行為をすることを禁止

④ 公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化

  • 通報後1年以内の解雇または懲戒は、公益通報を理由としてなされたものと推定(民事訴訟上の立証責任の転換)
  • 通報を理由とする解雇や懲戒に対し、直罰(6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、両罰)、法人に対する法定刑を3,000万円以下の罰金

 2024年12月27日に公表された「公益通報者保護制度検討会 報告書」において、公益通報者保護制度を巡る国内外の状況を踏まえると公益通報者の保護や事業者の体制整備とその実効性に関する課題が多いと指摘されたところ、企業としては、改正公益通報者保護法で求められる体制を整備するとともに、法令等の動向に留意する必要があります

民事裁判データベース制度創設法案の国会提出

 執筆:緑川 芳江弁護士

 2025年3月7日、民事裁判データベース制度を創設する「民事裁判情報の活用の促進に関する法律案」(「本法律案」といいます)が国会に提出され、今国会での成立が目指されています。

制度創設の背景

 現状、民事判決の公表は、わずか数パーセントに限られています。民事訴訟手続のIT化に関する改正民事訴訟法の全面施行に合わせ、電子的に作成される民事判決を全件データベースに登録し、判決情報の活用を促進するとの構想については、法務省に設置された「民事判決情報データベース化検討会」において検討が進められてきました。2024年の同検討会報告書を踏まえた法制化、2026年の運用開始が目指されていましたが、法案提出は2025年にずれ込み、運用開始は2027年となる見込みです。

 なお、検討経緯については、本連載第33回「2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「5 民事判決情報データベース制度の創設」をご覧ください。

民事裁判データベースの仕組み

 本法律案は、民事裁判データベース制度の施行時期について、法律の公布から2年以内としていますので(附則1条)、2027年の運用開始が見込まれます

 裁判所が、仮名処理等の業務を行う非営利の法人(指定法人、5条)に、民事裁判データを提供したうえで、指定法人での処理が行われます。指定法人は、処理後の民事裁判データ(仮名加工民事裁判情報、2条3号)の利用を求める者に判決データを提供し、利用機関において、研究、事業など幅広い分野で判決データの活用が可能となります。利用機関は、本法律案において特段限定されていませんが、指定法人と情報提供契約を締結する必要があります。

民事裁判データベース制度と企業への影響

 現状、民事判決のうち公表されていたのは数パーセントにとどまり、民事判決の統計的な分析には困難が伴いました。新制度で利用可能となる判決の数は年間20万件程度と各段に増えるため、統計的な分析を用いた研究、事業などでの民事判決に関する情報の幅広い活用が期待されています。

 他方、本法律案上、仮名処理がなされるのは特定の個人に関する情報(2条3号)で、法人の名称等は仮名処理の対象とはなっていません
 今後、自社に関する判決のデータベース登録を望まない企業が訴訟で和解による解決を求める傾向が強まったり、あらかじめ紛争解決手続として仲裁や調停など非公開の紛争解決手続を選択するといった行動変容が生じることも想定されます。

資金決済法・保険業法改正案の公表

 執筆:藤﨑 大輔弁護士、所 悠人弁護士

 2025年3月7日、金融庁は、「第217回国会における金融庁関連法律案」を公表しました。
 本稿では、そのうち、「資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」および「保険業法の一部を改正する法律案」の概要についてご紹介します。

資金決済に関する法律の一部を改正する法律案

 本法律案は、本連載第38回「2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「3 金融審議会『資金決済制度等に関するワーキング・グループ』報告書の公表」でご紹介した報告書の内容を踏まえ、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます)の改正を行うものです。

 改正の概要は以下のとおりです。なお、施行期日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされています。

資金移動業関連 (1)国境を跨ぐ収納代行への規制の適用

→ なお、上記報告書にあったとおり、以下のいずれかに該当する場合は規制対象外とされる予定ですが、詳細は追って内閣府令において定められます。

  1. プラットフォーマー等が取引成立に関与する場合
  2. エスクローサービス
  3. 資本関係がある等、受取人との経済的一体性が認められる者が収納代行を行う場合
  4. 他法令で規律されている場合
改正資金決済法2条の2第2号
(2)破綻時等における利用者資金の返還方法の多様化
 例)保証機関の保証等による直接返還
改正資金決済法45条の3~45条の5等
暗号資産・電子決済手段関連

(3)暗号資産交換業者等に対する資産の国内保有命令の導入

→ 保有資産の国外流出を防止することを目的としています。金融商品取引業者に対しては、従前から類似の制度が導入されています。

改正資金決済法62条の21の2、63条の16の2

(4)信託型ステーブルコイン(特定信託受益権)の裏付け資産の管理・運用の柔軟化

→ 発行額の50%を上限として、国債や定期預金による運用が許容されます。

改正資金決済法2条9項
(5)暗号資産等取引に係る仲介業の創設

→ 負担の大きかった犯収法上のアンチ・マネー・ロンダリング規制については、暗号資産交換業者等に義務付けられていることから、上記仲介業者には課されない建付けになっています。

改正資金決済法2条18項~20項、63条の22の2~63条の22の25等

保険業法の一部を改正する法律案

 本法律案は、本連載第37回「2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「6 金融審議会『損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ』報告書の公表」でご紹介した報告書の内容を踏まえ、保険業法の改正を行うものです。

 改正の概要は以下のとおりです。なお、施行期日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされています。

顧客本位の業務運営の徹底

(1)損害保険代理店のうち、複数の保険会社の商品を扱う(乗合)形態であって規模が大きい代理店(特定大規模乗合損害保険代理店)に対して、体制整備を義務付け

例)自動車修理業等の兼業業務を適切に監視するための体制整備

改正保険業法294条の4

(2)保険会社等に対して、自動車修理業などを兼業している特定保険募集人に関連した体制整備を義務付け

改正保険業法100条の2の2、193条の2、271条の21の3
健全な競争環境の実現

(3)保険会社等から保険契約者等への過度な便宜供与の禁止

改正保険業法300条、301条、301条の2

公開買付制度の見直し(金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表①)

 執筆:豊島 諒弁護士、大草 康平弁護士

 2025年3月14日、金融庁から「令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表について」(以下「本改正案」といいます)が公表され、同年4月13日までパブリックコメントに付されました。

 本改正案は、2024年5月15日に成立した「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第32号)について、関係政令・内閣府令等の規定の整備を行うものであり、同年12月25日付けの金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」報告の結果を踏まえたものです。

 本改正案は、公開買付制度に関する従前の規制内容を大きく変更するものであり、実務上重要な意義を有します。主な内容は、以下のとおりです。

※「法」:金融商品取引法
 「令」:金融商品取引法施行令
 「府令」:発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令

公開買付制度の対象となる取引範囲の見直し

  • 公開買付けの適用除外となる買付け等の範囲について見直しが行われました。
  • いわゆる30%ルールの対象から除外される、買付け等を行う株券等の数が著しく少ない場合(僅少買付け等)の基準が、1年間で1%未満とされました(法27条の2第1項4号、令7条3項、府令2条の9)。

形式的特別関係者の範囲の見直し

  • 市場内取引(立会内)を規制対象としたことに伴い、形式的特別関係者の範囲から、買付者の親族ならびに買付者が特別資本関係を有する法人等および買付者に対して特別資本関係を有する法人等の役員が除外されました(法27条の2第7項1号、令9条1項)。

公開買付手続の柔軟化

  • 公開買付期間中に対象者が配当を行う場合等に公開買付価格の引下げが可能となりました(法27条の6第1項1号、令13条1項各号、府令19条)。
  • 公開買付けの撤回事由が拡充されました(法27条の11第1項、令14条1項5号、府令26条4項)。
  • ①全部勧誘義務(法27条の2第5項、令8条5項3号、府令5条3項3号)、②撤回事由が生じた場合の公開買付期間の延長(法27条の6第1項4号、令13条2項2号ハ、府令19条2項)、③訂正届出書の提出に際して公開買付期間を延長しないこと(法27条の8第8項、府令22条1項3号)、④公開買付けの撤回(法27条の11第1項、令14条1項5号、府令26条4項)について、個別事案ごとに当局の承認を得た場合には規制を免除することとなりました。

公開買付届出書等の記載事項の明確化等

  • 公開買付届出書の「買付け等の目的」欄の記載事項の明確化等、公開買付届出書等の様式の見直しが行われました(府令第2号様式)。

大量保有報告制度の見直し(金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表②)

 執筆:新岡 美波弁護士、大草 康平弁護士

 2025年3月14日、金融庁から「令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表について」(以下「本改正案」といいます)が公表され、同年4月13日までパブリックコメントに付されました。

 本改正案は、2024年5月15日に成立した「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第32号)について、関係政令・内閣府令等の規定の整備を行うものであり、同年12月25日付けの金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」報告の結果を踏まえたものです。

 大量保有報告制度の見直しに関する本改正案の主な内容は、以下のとおりです。

※「法」:金融商品取引法
 「令」:金融商品取引法施行令
 「大量保有府令」:株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令
 「大量保有Q&A」:株券等の大量保有報告に関するQ&A

企業と投資家の対話の促進に向けた規定の整備等

  • 役員の選任の追加といった、「重要提案行為等」に該当することとなる提案内容を見直すなど、「重要提案行為等」の範囲を明確化しています(令4条の8の2第1項、大量保有Q&A36)。
  • 「共同保有者」に該当しないこととなるための要件である「個別の権利の行使ごとの合意」の具体的内容を定めています(法27条の23第5項3号、令14条の6の3、大量保有Q&A26)。

現金決済型エクイティ・デリバティブ取引に関する規定の整備

 現金決済型エクイティ・デリバティブ取引について、大量保有報告制度の適用対象となるための要件、および、当該デリバティブ取引に係る権利を株券等の数に換算する方法に関する規定を整備しています(法27条の23第3項3号、令14条の6第2項、大量保有府令3条の3、大量保有Q&A14)。

みなし共同保有者の範囲の見直し

 役員兼任関係や資金提供関係など、一定の外形的事実がある場合をみなし共同保有者に追加しています(大量保有府令5条の3)。

大量保有報告書の記載事項の明確化等

 大量保有報告書の「保有目的」欄や「担保契約等重要な契約」欄等の記載事項の明確化(大量保有府令1号様式・記載上の注意(10)(14))、共同保有者間で引渡請求権等が存在する場合の株券等保有割合の計算方法の適正化等(令14条の6の2各号、大量保有府令5条の2第6号)とともに、大量保有報告書の様式の見直しを行っています。

 本改正案は、大量保有報告制度に関する従前の規制内容を明確化・一部変更するものであり、実務上重要な意義を有します。

経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」の公表

 執筆:小倉 徹弁護士

 2025年2月18日、経済産業省は、「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(以下「本チェックリスト」といいます)を公表しました。

 本チェックリストは、事業活動においてAI技術を用いたサービスの利活用を検討する事業者の増加が顕著である一方で、AIの技術や法務に必ずしも習熟していない事業者が導入を検討するケースも増えているという状況を踏まえ、AI利活用の実務になじみのない事業者を含め、事業者が実務上用いやすい形式のチェックリストを取りまとめたものです。

 本チェックリストは、AI関連サービスの利用に際して、ユーザがベンダに対しインプットを提供し、ベンダがサービス内容に応じたアウトプットを出力・提供する場面を想定し、以下の各契約条項についてチェックポイントを示しています。

インプットに関するチェックリスト

特定
  • インプットの定義を定める条項
ベンダへの提供
  • ユーザがベンダに対してインプットを提供する義務の有無およびその内容を定める条項
  • ベンダがユーザに対してインプットに対する一定の保証・情報提供を求める条項
使用・利用
  • ベンダによるインプットの利用目的を定める条項
  • ベンダによるインプットの利用条件を定める条項
  • ベンダによるインプットの管理・セキュリティ体制を定める条項
  • ベンダによるインプットの保持期間および消去義務の有無を定める条項
外部提供
  • ベンダがインプットをユーザに対して提供する義務を定める条項
  • ベンダがインプットを第三者に提供することができるか、できる場合にその条件を定める条項
権利帰属
  • インプットの権利がベンダに移転するか否かを定める条項
インプット処理成果
  • インプットの処理成果のうち、アウトプット以外のもので契約上規律の対象とするものの定義を定める条項
  • インプット処理成果のベンダによる使用・利用に関する条項
  • インプット処理成果のベンダによる外部提供に関する条項
  • インプット処理成果の権利帰属に関する条項


アウトプットに関するチェックリスト

特定
  • アウトプットの定義を定める条項
ユーザへの提供
  • ベンダがアウトプットを完成させる義務を定める条項
  • ベンダがユーザに対し、アウトプットを提供する義務の有無およびその内容を定める条項
  • ユーザがベンダに対し、アウトプットに関する一定の保証を求める条項
使用・利用
  • ユーザによるアウトプットの利用目的を定める条項
  • ユーザによるアウトプットの利用条件を定める条項
  • ユーザによるアウトプットの管理・消去体制を定める条項
外部提供
  • ユーザがアウトプットを第三者に提供することができるか、できる場合にその条件を定める条項
権利帰属
  • ベンダがユーザに対し、アウトプットを提供する場合、アウトプットの権利がユーザに移転するかどうかを定める条項
アウトプット処理成果
  • アウトプットの処理成果のうち、契約上規律の対象とするものの定義を定める条項
  • アウトプットの処理成果のユーザによる使用・利用に関する条項
  • アウトプットの処理成果のユーザによる外部提供に関する条項
  • アウトプットの処理成果の権利帰属に関する条項

 本チェックリストにより、契約当事者間の適切な利益およびリスクの分配が行われ、ひいてはAIの利活用が促進されることが期待されます。

国境を越えた特許権侵害の成否(最高裁(二小)令和7年3月3日判決)

 執筆:松田 誠司弁護士・弁理士

事案の概要

 本件は、動画とともにコメントを表示するコメント配信システム等に関する発明(「本件発明」といい、本件発明に係る特許権を「本件特許権」といいます)に係る特許権侵害訴訟です。

 被告は、米国内に設置されたウェブサーバからインターネットを通じて日本国内の端末に対し、プログラムを配信し、動画とコメントを表示させるシステムを提供していました。原告は、被告による、わが国の領域外から領域内にインターネットを通じてプログラムを配信し、わが国の領域外に所在するサーバと領域内に所在する端末とを含むシステムを構築する行為は、本件発明の実施行為であり、本件特許権を侵害する行為である旨主張しました。

 これまで、各国の特許権はその成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められると解されていたところ(「属地主義」の原則。カードリーダー事件(最高裁(一小)平成14年9月26日判決・民集56巻7号1551頁)、インターネットを通じた国境を超える情報の流通等という事象について、特許法が予定する実施行為の範囲をどのように解釈するかが問われることとなりました。

裁判所の判断

 本判決は、まず従来からの属地主義の原則を前提としつつも、現代では電気通信回線を介した国境を越えた情報提供が極めて容易であることに言及しました。そのうえで、国外からの送信であることのみを理由に日本の特許権の効力が及ばず実施行為に当たらないとするのは、「発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に沿わない」として、問題となる行為全体を実質的に見て日本国内における実施行為と評価できる場合には特許権の効力が及ぶべきであると判示しました。

 このような判断枠組みを前提として、プログラムを送信するサーバがわが国の領域外に所在するという点で、外形的には行為の一部がわが国の領域外にあるものの、システムの処理を考察すると、「我が国で本件各サービスを提供する際の情報処理の過程としてされ、我が国所在の端末を含む本件システムを構成した上で、我が国所在の端末で本件各発明の効果を当然に奏させるようにするものであり、当該効果が奏されることとの関係において、前記サーバの所在地が我が国の領域外にあることに特段の意味はない」と認定し、実質的にわが国の領域内において、実施行為がなされていると判断しました。

 本判決は、システムに関する発明に係る特許権侵害が問題となる事案において、サーバ等の構成要素の一部がわが国の領域外に存在する場合の処理について実務上参考になるものと思われます。

判決文
原審
対象特許

美容医療技術に関する特許権侵害訴訟事件(知財高裁令和7年3月19日判決)

 執筆:松田 誠司弁護士・弁理士

事案の概要

 本件は、美容医療分野における特許権の侵害を巡る紛争です。

 原告(特許権者)は、発明の名称を「皮下組織および皮下脂肪組織増加促進用組成物」とする、豊胸を目的とする組成物に関する発明に係る特許権を保有しているところ、被告が行う施術が同特許権を侵害する旨主張して損害賠償を請求しました。
 具体的には、被告の美容クリニックで実施される豊胸施術において、患者から採血した血漿やb-FGF製剤、脂肪乳剤などを調合して薬剤を製造する行為が、特許発明の技術的範囲に属する組成物の「生産」に該当するかが争われました。

 東京地方裁判所における判決は、薬剤を調合して被施術者に投与したとは認められず、請求は棄却されましたが、原告はこれを不服として控訴したところ、知的財産高等裁判所においては大合議による審理が行わることとなりました。なお、本件の審理において、いわゆる第三者意見募集が実施されました(特許法105条の2の11)。

 

争点

 本件の主な争点は以下の2点です。

(1)特許発明の実施該当性
 成分を別々に被施術者に投与して体内で混合された場合でも特許法上の「物の生産」(実施行為)に当たるか。
(2)医師による調剤行為の免責
 特許法69条3項が定める「医師…の処方せんにより調剤」に該当し、特許権の効力が制限されるか。

裁判所の判断

 知財高裁はまず、被告の施術内容を示す手術記録や広告宣伝資料などを詳細に検討し、血漿・b-FGF製剤・脂肪乳剤を混合して注入する手順が実際に行われていたと認定しました。そのうえで、被告の行為は特許発明の構成要件をすべて備える組成物を製造するものであり、特許法上の実施行為に該当すると判断しています。

 また、医師による調剤行為の免責については、「主として審美を目的とする豊胸手術を要する状態を、そのような一般的な意味における『病気』ということは困難であるし、豊胸用組成物を『人の病気の…治療、処置又は予防のため使用する物』ということも困難である」こと等を指摘し、本件発明が「二以上の医薬を混合することにより製造されるべき医薬の発明」に当たらないことを理由として、被告の行為が「処方せんにより調剤する行為」に当たるかについて検討するまでもなく、本件では特許法69条3項は適用されない旨判断しました。

 本判決は、美容医療領域における特許権の保護範囲と医師の行為との関係を整理した事例であり、今後の類似施術や関連ビジネスの展開に影響を与える可能性があります。

判決文 知財高裁令和7年3月19日判決(令和5年(ネ)第10040号 損害賠償請求控訴事件)
原審 東京地裁令和5年3月24日判決(令和4年(ワ)第5905号 損害賠償請求事件)
対象特許 特許第5186050号(発明の名称:皮下組織および皮下脂肪組織増加促進用組成物)

シリーズ一覧全45件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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