Legal Update

第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント

法務部

シリーズ一覧全45件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  45. 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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目次

  1. 「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律」の施行
    1. 新たな裁判手続の創設
    2. 発信者情報開示を行うことができる範囲の見直し
  2. 改正育児介護休業法の一部施行
    1. 出生時育児休業(産後パパ育休)
    2. 育児休業の分割取得制度
  3. 最低賃金の改定
  4. 環境省「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン2022年版」・「グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン2022年版」の公表
  5. 「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」の公表
  6. 日本繊維産業連盟「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」の公表
  7. 経済産業省「民間宇宙システムにおけるサイバーセキュリティ対策ガイドライン Ver 1.0」の策定
  8. 文化庁「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」の公表
  9. インドネシアP2Pレンディング事業に関する規則の改正
    1. スーパーレンダーの集中に関する規制
    2. 株主の変更に関する制限

2022年10月1日、企業法務に関わる2つの改正法が施行されました。1つは改正プロバイダ責任制限法で、新たな裁判手続の創設および発信者情報開示を行うことができる範囲の見直しが改正内容です。もう1つは、改正育児介護休業法の第2弾施行です。出生時育児休業(産後パパ育休)および育児休業の分割取得制度の実施が開始されています。
 同じく10月1日からは、同年8月に出そろった全国の最低賃金の改定額について、10月中旬までの間に順次発効される予定です。

 また、同年7月から9月にかけては、環境・人権に関するガイドライン等の改訂や策定が続きました。
 環境省は7月5日、「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン2022年版、グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン2022年版」を公表しました。
 9月13日には、「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」の策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が、日本政府のガイドラインとして公表されました。法的拘束力はありませんが、人権尊重の重要性が高まる企業法務の実務において、注目すべきガイドラインといえます。繊維産業に属する企業においては、日本繊維産業連盟が7月28日に公表した「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」もあわせて参照する必要があります。

 7月21日には、経済産業省製造産業局宇宙産業室が「民間宇宙システムにおけるサイバーセキュリティ対策ガイドライン Ver 1.0」を策定・公表しました。衛星所有者、衛星運用事業者、衛星データプラットフォーム事業者、衛星データ利用サービス事業者および衛星開発事業者等は、本ガイドラインを適切に活用することが望まれます。
 そして同月27日に、文化庁が「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」を公表しました。文化芸術分野における契約内容の明確化のための契約の書面化の推進や取引の適正化の促進が提言されています。

 海外に目を向けると、インドネシアにおいて、P2Pレンディング規則の改正が7月4日に制定・施行されました。スーパーレンダーの集中に関する規制および株主の変更に関する制限を定めるもので、インドネシアで金融業を行う日本企業にとって重要な改正といえます。

 編集代表:坂尾 佑平弁護士・渥美 雅之弁護士(三浦法律事務所)

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2022年7月4日 インドネシアP2Pレンディング事業に関する規則の改正
2022年7月5日 環境省「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン2022年版」・「グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン2022年版」公表
022年7月21日 経済産業省製造産業局宇宙産業室「民間宇宙システムにおけるサイバーセキュリティ対策ガイドライン Ver 1.0」公表
022年7月27日 文化庁「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」公表
2022年7月28日 日本繊維産業連盟「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」公表
2022年9月13日 「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表
2022年10月1日 改正プロバイダ責任制限法の施行
改正育児介護休業法の第2弾施行
2022年10月1日〜
10月中旬まで
最低賃金の改定額が順次発効

「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律」の施行

 執筆:小倉 徹弁護士

 2022年10月1日、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律」(以下「プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律」といいます)が施行されました。

 プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律は、以下のとおり、インターネット上の誹謗中傷などによる権利侵害について、より円滑に被害者救済を図るため、発信者情報開示について新たな裁判手続を創設すること、および発信者情報開示を行うことができる範囲の見直しを行うことを主な内容としています。

新たな裁判手続の創設

 実務上、発信者情報がプロバイダから裁判外で任意に開示されることはそれほど多くなく、発信者の特定のため、一般的に、①コンテンツプロバイダへの仮処分の申立て、および②アクセスプロバイダへの訴訟提起という2回の裁判手続が必要になることから、これらの裁判手続に多くの時間・コストがかかり、救済を求める被害者にとって大きな負担となっていました(2020年12月に公表された「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」3頁等参照)。

 このような問題点を踏まえ、プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律により、発信者情報の開示を1つの手続で行うことを可能とする新たな裁判手続が創設され、権利侵害の被害者は、発信者情報開示命令を申し立てるとともに、必要とされる通信記録の保全に資するため、発信者情報開示命令の申立てを本案とする提供命令および消去禁止命令を申し立てることができるようになりました

発信者情報開示を行うことができる範囲の見直し

 SNS 等のいわゆる「ログイン型サービス」において、投稿時の通信記録が保存されない場合には、権利侵害が生じた際、発信者の特定のためにログイン時のIPアドレスおよびタイムスタンプの開示を求める例がありますが、これらの情報が改正前の法令における「発信者情報」に該当するか否かについて裁判例が分かれている状況にありました(前記「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」7頁等参照)。

 このような問題点を踏まえ、プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律により、発信者の特定に必要となる場合には、ログイン時の情報の開示が可能であることが明確化されました

改正育児介護休業法の一部施行

 執筆:岩崎 啓太弁護士、菅原 裕人弁護士

 2021年6月に改正された改正育児介護休業法が段階的に施行されており(概要については、本連載第1回「2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント」参照)、2022年10月1日からは、第2弾の施行として下記の制度が実施されます。

  1. 男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の制度
    (a) 原則子が1歳になるまでの期間に取得できる育児休暇  変更なし(ただし②参照)
    (b) 子の出生後8週間以内に取得するいわゆるパパ休暇 廃止
    (c) 出生時育児休業(いわゆる産後パパ育休)新設
  2. 育児休業の分割取得制度 新設

出生時育児休業(産後パパ育休)

 まず①については、改正前の育児介護休業法において、(a) 原則子が1歳になるまでの期間に取得できる育児休暇、(b) 子の出生後8週間以内に取得するいわゆるパパ休暇が定められていました。
 改正後では、上記 (b) のパパ休暇が廃止され、新たに (c) 出生時育児休業(いわゆる産後パパ育休)が新設されました。

 (c) 出生時育児休業の概要は下表のとおりであり、対象期間については上記 (b) パパ休暇と同様ですが、その他の点は (b) パパ休暇と異なります。とりわけ、(c) 出生時育児休業において、労使協定の締結を条件に休業中の就業が可能となっている点は、育児休業が本来労働者の就業義務を免除する制度であることに照らすと、(c) 出生時育児休業の特徴の1つといえます。

出生時育児休業(産後パパ育休)の概要

対象期間 子の出生後8週間以内
取得可能日数 4週間まで取得可能
申出期限 原則として休業開始予定日の2週間前まで
※ 出生時育児休業申出が円滑に行われるための雇用環境整備等を定めた労使協定を締結することにより、休業開始予定日の1か月前までとすることが可能
分割取得 分割して2回取得可能
※ 初回の申出の際に、2回目の出生時育児休業期間についても、開始予定日と終了予定日をまとめて申し出る必要あり
休業中の就業 労使協定を締結し、出生時育児休業期間中に就業させることができるものとして定められた労働者は、労働者からの申出によって、出生時育児休業期間中に就業することが可能

育児休業の分割取得制度

 次に②ですが、改正前の育児介護休業法においては、通常の育児休暇を労働者が取得する際は、必要と想定される期間を一度にまとめて取得する必要があり、その分職場から相応の期間離れざるを得ないような場合もありました。

 この点、改正育児介護休業法では、通常の育児休暇を2回に分割して取得することが可能となりました。そして、上記のとおり、新設された (c) 出生時育児休業も2回に分割して取得可能ですので、改正育児介護休業法によって、子の出生後から原則1歳になるまでの間、最大で4回に分割して育児休暇を取得することができるようになり、仕事と育児のバランスを踏まえた柔軟な育児休暇制度となることが期待されています

 これらの改正に対応しなければならない企業としては、育児休暇に係る社内規程を改定するとともに、出生時育児休業期間中の就業を認める場合や申出期限を変更する場合等は、所定の労使協定を締結することが必要となります。とりわけ、出生時育児休業期間中の就業は必ずしも定める必要はなく、従業員のニーズや業務の内容、テレワークの普及度を含めた部署の業務状況等を踏まえて検討することが重要です。

最低賃金の改定

 執筆:菅原 裕人弁護士

 2022年8月2日に中央最低賃金審議会(厚生労働大臣の諮問機関)が示した「令和4年度地域別最低賃金額改定の目安について」を受けて、各地方都道府県労働局に設置されている地方最低賃金審議会において、令和4年度の地域別最低賃金について答申が相次いで出され、2022年8月23日には全国の最低賃金の改定額が出そろいました。
 全国の最低賃金の改定見込額は「令和4年度 地域別最低賃金 答申状況」にまとめられていますが、本年の最低賃金の改定の概要をまとめたものは以下のとおりです 1

  • 47都道府県で、30円~33円の引上げ(引上げ額が30円は11県、31円は20都道府県、32円は11県、33円は5県)
  • 改定額の全国加重平均額は961円(昨年度930円)
  • 全国加重平均額31円の引上げは、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額
  • 最高額(1,072円)に対する最低額(853円)の比率は、79.6%(昨年度は78.8%。なお、この比率は8年連続の改善)

 今後、答申された改定額は、都道府県労働局での関係労使からの異議申出に関する手続を経たうえで、都道府県労働局長の決定により、2022年10月1日から10月中旬までの間に順次発効される予定です。
 特に、東京都では、過去最高額の最低賃金(1,072円)になりますので、2022年10月以降、パート・アルバイトを募集する際には労働条件が最低賃金を下回らないよう留意する必要があり、現在、最低賃金を下回る労働条件でパート・アルバイトを募集している事業者は注意が必要です(最低賃金法4条1項の違反に該当し、同法40条により50万円以下の罰金の対象になります)。

環境省「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン2022年版」・「グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン2022年版」の公表

 執筆:所 悠人弁護士

 2022年7月5日、環境省から「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン2022年版、グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン2022年版」が公表されました 2
 既に公表されていた「グリーンボンドガイドライン」(2017年3月公表、2020年3月改訂)および「グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン」(2020年3月公表)を改訂したもので、主な改訂内容は以下のとおりです。

  1. 資金調達者の裾野拡大に向けたガイドラインの利便性の向上
    • グリーンプロジェクトにおける「グリーン性」の判断の観点の明確化
    • 資金使途、KPI、ネガティブな効果の例について一覧表として整理
  2. 資金調達者による市場説明の促進
    • グリーンボンドフレームワーク、外部レビューの実施を重要な推奨項目として位置付け
    • プロジェクトに付随するネガティブな効果の特定・緩和・管理に関する市場への説明を推奨
  3. サステナビリティ・リンク・ボンドの国内向けガイドラインを新規策定

 国際的な議論の動向や国内施策の進展等を踏まえ、利便性向上とグリーンウォッシュ防止の双方に対応することを目指したもので、大幅な追記がなされています。パリ協定が目指す2030年度のCO2 46%削減、2050年のカーボンニュートラルという目標達成に向けて、ガイドラインの活用によるサステナブルファイナンス市場の健全かつ適切な更なる拡大が期待されます。

「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」の公表

 執筆:岩崎 啓太弁護士、坂尾 佑平弁護士

 経済産業省の設置した「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」は、2022年8月8日、「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」を公表し、同月29日まで本ガイドライン案に対するパブリックコメントを実施しました。
 そして、同年9月13日には「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が公表されました(「ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議」に報告し、同会議において、本ガイドラインが日本政府のガイドラインとして決定されています)。
 上記のパブリックコメントにおいては、131の個人・団体から、706件に及ぶ膨大な意見が寄せられており、本ガイドラインへの関心の高さがうかがえます。

 本ガイドラインは、法的拘束力を有するものではありませんが、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則:国連「保護、尊重及び救済」枠組みの実施(仮訳)」をはじめとする国際スタンダードを踏まえ、企業による人権尊重の取組を解説・促進する目的で策定されたものであり、人権尊重の重要性が高まる企業法務の実務において、注目すべきガイドラインといえます

 本ガイドラインにおいては、まず、日本で事業活動を行うすべての企業(個人事業主を含みます。以下同様です)を対象として、国内外における自社やグループ会社、サプライヤー等(正確な定義については本ガイドライン1.3参照)における人権尊重の取組に最大限努めるべきであると指摘しています。

 そして、企業に求められる具体的な取組として、概ね以下の事項を挙げるとともに、各取組におけるポイントや留意点がまとめられています(詳細については「ESG・SDGs UPDATE Vol.7:「ビジネスと人権」の基礎③-「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」の公表-」をご参照ください)。

取組 概要 ポイント・留意点等
人権方針の策定 人権尊重責任に対する企業のコミットメントを企業内外のステークホルダーに示すもの 人権方針については、企業内外の専門的な情報・知見を参照しつつ作成され、企業トップを含む経営陣で承認されていること等が求められる。
人権DDの実施 自社やグループ会社、サプライヤー等における人権への負の影響を特定し、防止・軽減し、取組の実効性を評価し、どのように対処したかを説明・情報開示していくために実施する一連の行為
  • 「人権」とは国際的に認められた人権を指し、人権保護の弱い国・地域においては、当該国・地域の法令等を遵守するだけにとどまらず、国際的に認められた人権を最大限尊重することが求められる。
  • 「負の影響」は企業が自ら引き起こしたり (cause) または直接・間接に助長したり (contribute) した負の影響だけでなく、自社の事業・製品・サービスと直接関連する (directly linked) 人権へ負の影響も含まれる。
  • 他方で、人的・経済的リソースの制約があることに鑑み、優先順位を考慮し、まずはより深刻度の高い人権への負の影響から対応すべきである。
自社が人権への負の影響を引き起こしまたは助長している場合の救済 人権への負の影響から生じた被害を軽減・回復するためのプロセス
  • 人権に対する負の影響について、自社がどのような態様 (上記のcause, contribute, directly linked) で関与しているのかに応じて対応する。
  • 救済の仕組みには、企業を含む国家以外の主体によるものと国家によるものとがあり、事案に応じ、適切な仕組みを選択・利用する。

 なお、経済産業省は、今後、主に企業の実務担当者を対象として、人権尊重の取組に関する実務的な資料を作成・公表することを予定しているとのことであり、引き続き今後の動向が注目されます。

日本繊維産業連盟「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」の公表

 執筆:岩崎 啓太弁護士、坂尾 佑平弁護士

 日本繊維産業連盟は、2022年7月28日に「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」を公表しました 3(同年8月に確定版として公表されました)。

 本ガイドラインは、経済産業省が設置した繊維産業のサステナビリティに関する検討会が2021年7月に公表した報告書において、デュー・ディリジェンスに取り組むためのガイドライン策定が提言されたことを踏まえ、日本繊維産業連盟が国際労働機関(ILO)駐日事務所の協力の下で作成したものです。

 本ガイドラインは、日本の繊維産業に属するすべての企業(日本繊維産業連盟の会員団体加盟企業に限りません)を対象として、人権尊重に向けた実践として自社内で行うべき取組、取引先との関係において行うべき取組、およびそれらの取組を企業経営に組み込み人権デュー・ディリジェンスを実践するためのプロセスについて、参照資料やグッドプラクティス事例等を示しつつ、詳細に解説しています。

 本ガイドラインのうち、人権デュー・ディリジェンスに関する部分(本ガイドライン第四部)については、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則:国連「保護、尊重及び救済」枠組みの実施(仮訳)」(以下「指導原則」といいます)等を踏まえた内容となっています(なお、人権デュー・ディリジェンスのポイントについては、坂尾佑平=岩崎啓太「ESG・SDGs UPDATE Vol.6:「ビジネスと人権」の基礎② − 人権デュー・ディリジェンスとは?− 」参照)。

 同じく人権尊重に向けたガイドラインとして、2022年9月13日付けで公表された「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(上記5参照)と比較すると、本ガイドラインには以下の特徴があります。

  • 繊維産業という特定の産業に焦点を当てたガイドラインであること
  • 繊維産業に関係する人権問題のうち、特に労働問題に焦点を当てていること
  • 日本の繊維産業の特徴を踏まえ、サプライチェーンを管理する発注者ではなく、受注者である中小・小規模企業の経営者に軸足を置いた内容となっていること
  • ガイドラインの作成に際し、ILO駐日事務所をはじめとする専門機関のほか、産業別労働組合であるUAゼンセンとも労使対話の機会を設けて議論を行っていること

 本ガイドラインにおいて、本ガイドラインは指導原則に基づく指針であると位置付けられ、また指導原則に関連する国際文書やガイダンス等の内容についても十分に参照・理解することが期待される旨言及されていることから、本ガイドラインの対象となる繊維企業は、本ガイドラインのほか、上記の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」等を踏まえた事業運営を行うことが望まれます

経済産業省「民間宇宙システムにおけるサイバーセキュリティ対策ガイドライン Ver 1.0」の策定

 執筆:坂尾 佑平弁護士

 2022年7月21日に、経済産業省製造産業局宇宙産業室は、「民間宇宙システムにおけるサイバーセキュリティ対策ガイドライン Ver 1.0」を策定・公表しました。同日、「民間宇宙システムにおけるサイバーセキュリティ対策ガイドライン Ver1.0 概要資料」およびその英語版(Guidelines on Cybersecurity Measures for Commercial Space Systems Ver 1.0 Summary)も併せて公表されています。

 本ガイドラインは、企業および宇宙システムにおけるサイバーセキュリティリスクの拡大等を背景として策定されたものであり、民間宇宙事業者のビジネスを振興する観点から、以下の点についてわかりやすく整理して示し、民間事業者における自主的な対策を促すことを目的としています。

  • 宇宙システムに係るセキュリティ上のリスク
  • 宇宙システムに関わる各ステークホルダーが検討すべき基本的セキュリティ対策
  • 対策の検討に当たり参考になる参考文献、活用可能な既存施策等

 また、本ガイドラインの利用方法としては、以下のものが想定されています。

  • 宇宙産業に関わる事業者において、自社のサイバーセキュリティ対策の参考として利用する。
  • 政府・自治体・企業等が宇宙システムを調達する際に、基本的なサイバーセキュリティ対策を満たす事業者であるかどうかの確認等に利用する。

 本ガイドラインの対象は、民間企業が主体となる衛星システムおよび地上システム(衛星運用設備、衛星データ利用設備、開発・製造設備)であり、打上設備は対象外とされています。

 本ガイドラインでは、インシデント事例の紹介を交えて宇宙システムを取り巻くセキュリティに係る状況を説明したうえで、民間宇宙システムにおけるセキュリティリスクの考え方を示しています。具体的には、共通的対策に加えて、「宇宙システム特有の対策」として、①法令上求められる対策(人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律、衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律、外国為替及び外国貿易法)、②衛星本体、③衛星運用設備、④衛星データ利用設備および⑤開発・製造設備に関する対策について詳述しています。

 本ガイドラインの想定読者は、衛星所有者、衛星運用事業者、衛星データプラットフォーム事業者、衛星データ利用サービス事業者および衛星開発事業者とされているところ、これらに当てはまる事業者等は本ガイドラインを適切に活用することが望まれます。

文化庁「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」の公表

 執筆:坂尾 佑平弁護士

 2022年7月27日、文化庁の「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」での検討結果が「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」という形で公表されました 4。同日、概要版も併せて公表されています。

 本ガイドラインの目的は、「文化芸術の担い手である芸術家等が契約内容を十分に理解したうえで業務に従事できるよう、契約内容の明確化のための契約の書面化の推進等の改善の方向性、契約書のひな型及び解説、実効性確保のための方策等を示すことにより、文化芸術分野における適正な契約関係の構築、ひいてはプロフェッショナルの確立を目指し、安心・安全な環境での持続可能な文化芸術活動の実現を図ること」と明記されています。

本ガイドラインは、以下に列挙する文化芸術基本法16条の「芸術家等」のうち、個人で活動する芸術家等が一方当事者となって、事業者や文化芸術団体等から依頼を受けて行う文化芸術に関する業務の契約関係を対象としています。

  • 文化芸術に関する創造的活動を行う者
  • 伝統芸能の伝承者
  • 文化財等の保存および活用に関する専門的知識及び技能を有する者
  • 文化芸術活動に関する企画または制作を行う者
  • 文化芸術活動に関する技術者
  • 文化施設の管理および運営を行う者その他の文化芸術を担う者

 本ガイドラインは、文化芸術分野において契約書の書面化が進まない、曖昧な契約が締結される、不適正な契約書が作成されるといった課題を踏まえ、契約内容の明確化のための契約の書面化の推進や取引の適正化の促進を提言しています。
 また、取引の適正化の促進の観点から契約において明確化すべき項目(業務内容、報酬等不可抗力による公演等の中止・延期による報酬の取扱い、安全・衛生、権利、契約内容の変更等)に関する考え方や留意事項を示し、スタッフの制作や技術等に関する契約書、および実演家の出演に関する契約書のひな型についても解説付きで公表しています。

 本ガイドラインは、文化芸術分野に携わる芸術家等のみならず、事業者や文化芸術団体等にとっても重要なものと考えられます。

インドネシアP2Pレンディング事業に関する規則の改正

 執筆:井上 諒一弁護士、樽田 貫人(M&Pアジア)

 インドネシアで金融業を行う日本企業の多くが注目していたP2Pレンディング規則の改正が、2022年7月4日、ついに制定・施行されました。

 P2Pレンディング規則については、以前に意見募集稿が出ており、インドネシアP2P事業に興味を持つ日本企業では既にこの意見募集稿が分析されていました。今回実際に制定されたバージョンと、意見募集稿の比較については、井上諒一=樽田貫人「インドネシア最新法令UPDATE Vol.19:P2Pレンディング新規則」をご覧いただければと思いますが、本稿では、新規則において、旧規則から改正された点のうち、特に重要な2点を紹介します。

スーパーレンダーの集中に関する規制

 P2Pプラットフォームにおいて、大口のレンダー(いわゆる「スーパーレンダー」)が存在することが多く見られました(実質的な資金の出し手はプラットフォーム側が用意したスーパーレンダーに貸し付けを行い、プラットフォーム上のレンダーはスーパーレンダー1社のみというケースも見られました)。

 しかし、新規則では、1つのレンダー( またはその関連会社)は、ローン全体の25%までについてしかレンダーになれないことが定められました(新規則26条4項)。このため、スーパーレンダーが存在するP2P事業者においては、スキームの修正が必要となります(新規則上、スーパーレンダーの集中比率を、80%、50%、25%と段階的に減らしていく経過措置が定められています。同規則26条5項)。

株主の変更に関する制限

 新規則では、P2P事業者の株主の変更は、ライセンス発行から3年間認められなくなりました(新規則68条3項)。P2P事業者の買収を検討している日本企業においては、P2P事業者のライセンス発行時点を確認のうえ、3年間が未経過の場合は、ストラクチャーを工夫する必要があります。

シリーズ一覧全45件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  45. 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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