Legal Update

第47回 2025年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向

法務部

シリーズ一覧全47件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  45. 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  46. 第46回 2025年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  47. 第47回 2025年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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目次

  1. 経済産業省「Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会報告書(Ver.4)」の公表
  2. 国土交通省「貨物自動車運送事業法附則第1条の2に基づく荷主への是正指導指針」の公表
    1. 本指針の背景
    2. 荷主に対する是正指導
    3. 荷主パトロール等の実施
    4. 関係行政機関等との情報共有
  3. 内閣府男女共同参画局「女性の職業生活における活躍の推進に関する基本方針」の変更
    1. 事業主が実施すべき取組
    2. 政府による施策
  4. 総務省「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 中間取りまとめ」の公表
    1. なりすまし型「偽広告」等のデジタル広告の流通への対応
    2. 広告主が意図しない媒体へのデジタル広告の配信への対応
  5. 経済産業省「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」の公表
    1. スタートアップの成長に資するガバナンス体制の構築
    2. ガバナンス体制の成長に応じた投資契約のあり方
  6. パワハラを理由とする懲戒免職処分に関する最高裁判例(最高裁(三小)令和7年9月2日判決)
    1. 事実関係
    2. 地裁・高裁の判断
    3. 最高裁の判断

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2025年9月2日 パワハラを理由とする懲戒免職処分に関する最高裁判例(最高裁(三小)令和7年9月2日判決)
2025年9月17日 総務省「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 中間取りまとめ」の公表
2025年9月30日 経済産業省「Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会報告書(Ver.4)」の公表
2025年9月30日 経済産業省「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」の公表
2025年10月1日 国土交通省「貨物自動車運送事業法附則第1条の2に基づく荷主への是正指導指針」の公表
2025年11月25日 内閣府男女共同参画局「女性の職業生活における活躍の推進に関する基本方針」の変更

 編集代表:所 悠人弁護士(三浦法律事務所)

経済産業省「Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会報告書(Ver.4)」の公表

 執筆:坂尾 佑平弁護士

 2025年9月30日、経済産業省の「Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会」(以下「本検討会」といいます)が「Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会報告書(Ver.4)」として、「アジャイル・ガバナンスの社会実装に向けた『規制・制裁・責任の一体的改革』GOVERNANCE INNOVATION Ver.4」と題する報告書(以下「本報告書」といいます)を公表しました。

 本検討会は、これまで以下の3つの報告書を公表してきましたが、本報告書はこれらに続く4つ目の報告書です。

 本報告書では、「規制・制裁・責任の一体的改革」(主として行政規制・刑事制裁・民事責任のそれぞれの制度を、アジャイル・ガバナンスの実践に適合的なものへと改革すること)の必要性を説いたうえで、アジャイル・ガバナンス実践のインセンティブという観点から「既存の規制・制裁・責任制度を評価・見直す際の視点」として、「望ましい行為の促進」と「望ましくない行為の回避」(制度上・運用上の問題)を示しています。

 また、「規制・制裁・責任の一体的改革」の目指すべき方向性として、以下のような観点から提言を行っています。

  • 経済主体のインセンティブを考慮した「負担責任」の合理化と新たな民事責任の構想
  • 保険および集団的補償システム
  • 応答責任に基づく刑事責任制裁制度と訴追延期合意(DPA)
  • 自動化・動態化する規制と適正手続
  • 製品・システムの認証方式の見直しと応答責任を担う主体に対する組織認証等の安全規制のあり方の転換
  • データガバナンスシステム構築の必要性

 なお、ここでいう「訴追延期合意(Deferred Prosecution Agreement:DPA)」とは、企業が犯罪事実を認め、捜査に協力し、また再発防止策(企業統治構造・コンプライアンス・プログラムの改革)と被害回復措置等をとること、制裁金(民刑事および行政制裁ならびに不正により得た利益の剥奪などを含む)を支払うこと等を条件に、訴追機関が企業の訴追を延期することを企業と合意するという手続であり、アメリカ等で採用されています(本報告書55頁では「主としてグローバルな企業犯罪の文脈で定着しつつある」と記載されています)。

 本報告書は、不確実性の高い時代におけるガバナンスのあり方を提言するものとして示唆に富んでいます。企業としてもグローバルでの現在の時代感を捉え、中長期的な展望を予測するという意味で参考になるものと考えられます。

国土交通省「貨物自動車運送事業法附則第1条の2に基づく荷主への是正指導指針」の公表

 執筆:菅原 裕人弁護士

 2025年10月1日、国土交通省は「貨物自動車運送事業法附則第1条の2に基づく荷主への是正指導指針」(以下「本指針」といいます)を公表しました。
 本指針は2025年4月施行の物流改正法をはじめ、近年の荷主に対する規制における是正指導を強化していくことが示されているものとなり、荷主企業においてはこれらの法規制の執行方針が理解できる重要な指針です。

本指針の背景

 本指針の背景として、トラックドライバーの労働条件の改善のため、2023年7月に「トラックGメン」が創設(2024年11月には、物流全体の適正化を図る観点から「トラック・物流Gメン」に改組)され、貨物自動車運送事業法に基づく荷主・元請事業者等への「働きかけ」「要請」等の是正指導に活用されています。
 2030年度に向けた政府の中長期計画を踏まえた構造的な賃上げ環境を実現するため、「トラック・物流Gメン」によって強力に荷主・元請事業者等への是正指導を行うとともに、2025年4月に施行された物流改正法、同年5月に公布された下請法改正法を契機に、荷主・元請事業者等に対するいっそうの価格転嫁・取引適正化の推進が求められている事情があります。

 そこで、本指針は、トラック・物流Gメンが実施する是正指導の基準や考え方等を行政指導指針としてあらかじめ定めることにより、透明かつ公正な行政指導を確立することに資するとともに、貨物自動車運送事業者および倉庫業者等からの荷主・元請事業者等の違反原因行為に関する積極的な情報提供を促し、本指針に記載された内容等を踏まえた商慣行の適切な見直しを荷主・元請事業者等が自主的に取り組むことを期待するものとして公表されました。

荷主に対する是正指導

 本指針では荷主に対する是正指導として、違反行為の種別(①長時間の荷待ち、②契約にない附帯業務、③運賃・料金の不当な据置き、④過積載運送の指示・容認、⑤異常気象時の運送依頼、⑥その他無理な運送依頼)について例を挙げて解説しています。
 また、これらに対する是正指導の種別として、以下の①働きかけ、②要請、③勧告を明示し、荷主に対する是正指導を実施していく方針を示しています

① 働きかけ 荷主が違反原因行為をしている疑いがある場合において、貨物自動車運送事業者が貨物自動車運送事業法またはこの法に基づく命令を遵守して事業を遂行することができるよう荷主が配慮することの重要性について理解と協力を求め、違反原因行為の自主的な確認と改善を促すものをいう。 貨物自動車運送事業法附則1条の2第2項に定める措置
② 要請 荷主が違反原因行為をしていることを疑うに足りる相当な理由があると認める場合において、当該荷主に対し、違反原因行為をしないように要請するものをいう。 貨物自動車運送事業法附則1条の2第3項に定める措置
③ 勧告 ②の要請を受けた荷主がなお違反原因行為をしていることを疑うに足りる相当な理由があると認める場合において、当該荷主に対し、違反原因行為をしないように勧告するものをいう。 貨物自動車運送事業法附則1条の2第4項に定める措置

 なお、③勧告に至った場合、勧告文書は荷主の本社宛てに手交し、期限までに改善を行わせ、当該期限までに改善が認められない場合には、未改善の事項について改めて勧告および公表(荷主名および概要が公表される)することが予定されています。

荷主パトロール等の実施

 本指針では、地方運輸局および運輸支局のトラック・物流Gメンによる荷主パトロールの活動は、主に以下の場合に実施することとし、必要に応じて関係行政機関およびGメン調査員と連携して行うことが示されています。

  1. トラックドライバーに対する時間外労働時間の上限規制導入に伴う諸問題に対する荷主への啓発活動として、トラック・物流Gメン等が荷主の営業所等へ直接訪問し、貨物自動車運送事業者が貨物自動車運送事業法またはこの法に基づく命令を遵守して事業を遂行することができるよう荷主が配慮することの重要性等について理解と協力を求める場合

  2. トラック・物流Gメンの活動によって得られた違反原因行為の確認・証拠収集のため、荷主の物流拠点の敷地外から荷待ち状況等の調査を行う場合

  3. 是正指導を実施済みの荷主に対し、違反原因行為の改善状況等について、訪問または荷主の物流拠点の敷地外から確認を行う場合

 なお、荷主パトロールによる荷主への訪問および調査は、事前に荷主へ訪問することを約することなく実施することも可能とするが、荷主の任意協力によるものであることに十分に留意し、荷主の事業活動に支障が出ないように十分に配慮することとされています。

関係行政機関等との情報共有

 荷主に対する是正指導を行った場合、国土交通省の関係部局および関係行政機関に情報を共有し連携を行うこととされ、また、トラック・物流Gメンが把握した荷主に対する違反原因行為の情報について、必要に応じて関係部局または関係行政機関に共有するとともに、情報の内容についてトラック・物流Gメンが下請法(改正法施行後:取適法)に関する情報を含むものであると判断した場合は、情報提供者からあらかじめ申出がない限り、公正取引委員会および中小企業庁に対してその情報を共有することがあるとされているため、面的な執行となっていることに留意する必要があります。

内閣府男女共同参画局「女性の職業生活における活躍の推進に関する基本方針」の変更

 執筆:近藤 知央弁護士

 2025年11月25日、内閣府男女共同参画局は、同年10月に行われた意見募集の結果を踏まえて変更された「女性の職業生活における活躍の推進に関する基本方針」(以下「本基本方針」といいます)を公表しました。

 本基本方針は、同年6月に改正された女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号。以下「女性活躍推進法」といいます)5条に基づき、政府の施策の実施に関する基本的な考え方を示したものです。
 この法改正では、主に、常時雇用する労働者の数が101人以上の一般事業主および特定事業主に対し、男女間賃金差異および女性管理職比率の情報公表を義務付けるとともに(2026年4月1日施行)、女性活躍推進法の有効期限(2026年3月31日まで)が2036年3月31日まで10年間延長されています。

 本基本方針では、大きく、女性の職業生活における活躍の推進に関する基本的な方向を示すとともに、事業主が実施すべき取組に関する方針および政府による施策の方針等が示されています。

事業主が実施すべき取組

 事業主に対しては、事業主行動計画策定指針に基づく事業主行動計画を策定することが義務付けられているところ(女性活躍推進法8条・19条)、計画策定の方向性として、採用・配置・昇進・雇用形態の変更など各段階に応じた課題、長時間労働の是正等や職業生活と家庭生活の両立支援、ハラスメントへの対策、女性の健康上の特性に係る取組等の観点を踏まえて作成することが求められます。

 特に、女性の健康上の特性に係る取組という観点は、本基本方針において新たに追加されています。具体的には、女性の就労に影響を与える性差に起因する健康課題について職場での理解を深めることや、相談しやすい環境の整備が重要とされています。

 また、その他の事業主が実施すべき取組として、上記法改正により情報公表の義務化が追加された点も本基本方針に反映されています。

政府による施策

 政府による施策面では、女性活躍の推進に積極的に取り組む企業の認定制度や、公共調達・補助金における加点評価、企業情報の公表などによる「見える化」の促進、さらには中小企業支援、非正規雇用者の待遇改善、管理職登用支援、女性起業家や理工系分野への進出支援など、幅広い施策が掲げられています。

 特に、本基本方針では、ハラスメント被害が女性の職業生活に重大な影響を及ぼすことから、国民および事業主への情報発信や助言・指導を通じて、ハラスメントのない職場づくりを推進することが新たに盛り込まれています。なお、上記の女性活躍推進法の改正と併せて、いわゆるカスタマーハラスメントや就活セクハラへの対策を義務付ける法改正もなされています。
 詳細については、弊所note記事「労働法UPDATE Vol. 21:労働法改正 Catch UP & Remind④~【速報】労働施策総合推進法の改正~カスハラ防止対策の義務化等」をご参照ください。

 女性活躍推進法の改正や本基本方針の策定には、情報公表の義務化や女性の健康上の特性への理解促進など、企業に直接的な影響を与える項目も含まれていますので、今後の動向や施策の実施状況を引き続き注視する必要があります。

総務省「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 中間取りまとめ」の公表

 執筆:南 みな子弁護士、小倉 徹弁護士

 2025年9月17日、総務省より、「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 中間取りまとめ」(以下「本資料」といいます)が公表されました。
 本資料は、「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」により取りまとめられたものであり、「デジタル広告ワーキンググループ 中間取りまとめ」および「デジタル空間における情報流通に係る制度ワーキンググループ 中間取りまとめ」から構成されます。以下では、デジタル広告の流通をめぐる諸課題への対処のあり方等に関する検討を専門的見地から行うために上記検討会の下に設置された、「デジタル広告ワーキンググループ」が取りまとめた、「デジタル広告ワーキンググループ 中間取りまとめ」について紹介します。

なりすまし型「偽広告」等のデジタル広告の流通への対応

 なりすまし型「偽広告」は、閲覧者に財産上の被害をもたらすおそれがあるだけでなく、なりすまされた事業者等の社会的評価を下げ、権利を侵害する側面もあります。
 総務省では、以上の状況を踏まえ、2024年6月21日に、SNS等を提供する大規模なプラットフォーム事業者(Meta、X、Google、LINEヤフー、TikTok)に対して、SNS等におけるなりすまし型「偽広告」に関する①デジタル広告出稿時の事前審査等、および、②事後的な削除等への対応について要請を実施しました。

 プラットフォーム事業者における2025年5月時点での対応状況は以下のとおりとなります。

① 広告出稿時の事前審査等に関する対応
デジタル広告の事前審査基準の策定・公表等に関する対応状況 各事業者において、広告の事前審査基準を策定・公表済
自社が提供するSNS等におけるなりすまし型「偽広告」を端緒とした詐欺の手口・実態を踏まえた事前審査の実施状況 各事業者において、事前審査を実施中
事前審査により掲載を認めなかった広告の件数の把握・公開状況 直近の件数を公表している事業者もある
デジタル広告の事前審査体制の整備状況 各事業者において、体制を整備
なりすまされた被害者から通報があった場合の事前審査の強化等の状況 被害を受けた方の肖像等を使用した広告を出稿した広告主について、審査を強化する予定の事業者もある
広告主の本人確認のプロセスや実効性の検証・強化等の状況 一部のリスクの高い個人の広告主には、写真付き身分証明書の他に、モバイル端末からライブでの自画撮りを送信することを求める事業者もある
② なりすまし型「偽広告」の事後的な削除等
利用規約等を踏まえた適正な削除対応の状況 各事業者において、事後的な削除等の実施に関する基準等を策定・公表済
削除対応の迅速化の状況 なりすまし投稿詐欺を理由とする広告停止申立てを行える窓口を新たに設置した事業者もある
運用状況の透明化の状況 「偽広告」に関する削除依頼件数等を公表している事業者もある

 また、なりすまし型「偽広告」以外にも、正規品のロゴ等を使用し、あたかも正規品を販売しているかのように告知して模倣品を販売するサイトに誘導する広告など、商標権や著作権を侵害する広告による被害も指摘されています。
 これらの広告により、被害を受けた事業者はプラットフォーム事業者に対して削除要請をする等の対応を行うことが考えられますが、SNS等で流通する広告は膨大であるため権利者による発見が困難であることや、プラットフォーム事業者からの返答に時間がかかる等、未だ権利救済が十分ではなく、引き続きプラットフォーム事業者による対応が求められる状況です。

広告主が意図しない媒体へのデジタル広告の配信への対応

 デジタル媒体の広告は、多様かつ多数の媒体の広告枠が大量に供給され、広告の配信先となり得ることから、悪意のある主体が紛れ込んでも気づきにくいといったリスクや、どこに広告が表示されているのかを把握しにくいといったリスク・課題が存在しています。
 広告主が、デジタル広告のこのような性質を理解しないまま広告を配信した場合、以下のリスクが発生することが指摘されています。

  • ブランドセーフティに関するリスク
    意図しない媒体への広告配信による広告主のイメージ悪化

  • アドフラウド(広告費の不正な詐取)のリスク
    本来カウントするべきではないインプレッションやクリックの回数等の無効なトラフィック(広告配信)による広告費の不正な詐取等

  • デジタル社会の不健全なエコシステムに加担するリスク
    偽・誤情報や違法アップロードコンテンツの拡散に金銭的動機付けを与え、さらなる拡散を助長するおそれ

 広告主がこれらのリスクを認識し、必要な取組を主体的に進める一助となることを目的として、「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」が公開されています。
 同ガイダンスについては、本連載第43回「2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「4 総務省『デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス』の公表」にて紹介していますので、そちらをご確認ください。

経済産業省「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」の公表

 執筆:所 悠人弁護士

 2025年9月30日、経済産業省は、スタートアップ企業への投資契約実務に関し、「『我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項』増補版」(以下単に「増補版」といいます)を公表しました。

 スタートアップの投資契約実務に関しては、すでに2022年3月に、経済産業省から「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」が公表されていました。増補版は、ユニコーン企業等の大きく成長するスタートアップを創出するとともに、スタートアップの数・認知度の向上を継続させることを目的として、スタートアップの成長に資するガバナンス設計とそれを踏まえた投資契約実務のアップデートを図るものとして作成されました。
 投資契約実務における具体的な契約条項の考え方や条項案も示されており、投資家にとってもスタートアップ企業にとっても重要な資料となります。詳細については、以下の弊所note記事をご参照ください。

 増補版は、主に以下の2つの内容から構成されています。

  1. スタートアップの成長に資するガバナンス体制の構築
  2. ガバナンス体制の成長に応じた投資契約のあり方

スタートアップの成長に資するガバナンス体制の構築

 ①についてはまず、ガバナンスとは、単に上場要件の充足や不祥事防止だけを目的とした形式的なものではなく、「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を究極的な目的とした、会社が、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」であることが指摘されています。特に、海外投資家からも投資を受けるような大きく成長するスタートアップを目指す場合には、グローバルスタンダードに引けを取らないガバナンス体制を構築することが重要となる点も指摘したうえで、取締役会や創業者、VC、独立社外取締役に期待される役割等についても述べられています。
 実務上定着している投資家による取締役会へのオブザーバーの派遣について、「取締役としての責任のないオブザーバーが多数出席することも本来望ましいものではない」と明記されている点などは、今後の投資契約実務にも影響を与えるものです。

ガバナンス体制の成長に応じた投資契約のあり方

 ②については、海外投資家も含む多様な投資家から投資を受けることを見据え、投資契約実務のアップデートが図られてきていることなどを踏まえ、スタートアップの成長に応じた投資契約の内容の例や考え方を提示することにより、既存の投資契約実務のアップデートを図るとされています。
 いずれも今後の契約実務への影響が大きいと思われるため、それぞれ簡単に、増補版において提示された内容について紹介します。

  1. 事前承認事項
    スタートアップ企業がその運営に関して一定の事項を行う場合に、投資家の事前の同意を必要とする旨の定め(拒否権条項とも呼ばれる)が設定されることが一般的ですが、スタートアップ企業にとっては迅速な意思決定による運営の妨げとなるおそれがあるため、その対象事項や必要な同意の範囲については、典型的な交渉事項となっていました。
    増補版においても、各項目の必要性について経営者・投資家間で十分に吟味したうえで事前承認事項を設定すべきと指摘され、また、ガバナンスが一定向上したフェーズでは、持株比率維持や取締役の選解任に直接影響しないコーポレートアクションを外すことも検討すべきなど、スタートアップのフェーズに応じて見直しを図ることが適切とも指摘されています。

  2. 株式買取請求権
    株式買取請求権は、スタートアップや経営株主に表明保証違反や契約上の義務違反が生じた場合に、投資家がスタートアップや経営株主に対し、当該投資家の株式の買取りを請求できる条項です。株式買取請求権は、特に経営株主個人に多額の負担を強い、創業へのインセンティブを阻害しかねない点が従来より指摘されていました。
    増補版においても、株式買取請求権に関し基本的にその設定・内容について抑制的に考えるべきであり、そもそも設定をしないこと、設定をする場合でもトリガーとなる事由は限定的かつ明確にし、会社の経営上の責任について経営株主個人に買取義務を負わせないことを提示しています。

  3. 表明保証の主体
    投資契約におけるスタートアップ企業に関する表明保証事項に関し、経営株主は会社と連帯して表明保証責任を負うことが一般的です。
    増補版では、表明保証の目的は投資判断のために行うデューデリジェンスを補完する点にあることから、基本的にはスタートアップ企業が自社に関する事項を表明保証すれば足りることを指摘しています。

  4. 補償責任の主体
    スタートアップ企業に契約違反が生じた場合の補償責任について、経営株主個人に連帯責任を課すケースが実務上散見されます。
    増補版では、そのような例は基本原則である株主有限責任の原則に反し許容すべきではないと明記しています。

  5. 優先残余財産分配(みなし清算含む)
    スタートアップ投資においては、スタートアップが清算される際(またはM&Aにより買収される際)、優先株式を有する投資家が他の株主(特に普通株主)に先立って残余財産の分配を受けることができることが一般的です。その際、日本においては、上記の優先的な分配後に未分配の財産が残っていれば、再度当該株主が他の株主(特に普通株主)と一緒に分配を受けられる参加型という設計がなされることが一般的です。
    増補版では、参加型はExitの方法の意思決定にバイアスを生じさせる可能性もあることなど(例えば、通常は普通株主である経営株主にとっては、みなし清算が適用されるM&AよりもIPOの方がリターンが増加し得る)を指摘し、参加型を当然の前提とすべきではなく、交渉により決定されるべきと提示しています。

  6. 上場に伴う優先株式の転換(取得条項)
    日本においては、上場申請前後に優先株式を普通株式に転換し上場することが実務として定着しているため、(i) 米国において活用されているいわゆる適格IPOによる強制転換条項(IPO時の公開価格等が一定の金額以上であることをトリガーとした取得条項)やIPOラチェット条項(IPO時の公開価格等が投資時の設定した目標した金額よりも低い場合、普通株式に転換する転換価額を調整する旨の定め)の活用ができない状況となっており、また、(ii) 上場が中止された場合に普通株式を転換前の優先株式に戻すための処理にタイムラグや不確実性が生じてしまっています。
    そこで増補版では、優先株式の転換時期を上場日とすることが提示されています。この点について、上場審査、開示、振替といった観点から、東京証券取引所、金融庁、証券保管振替機構および証券会社といった関係者から概ね対応可能である旨の意見が述べられていますが、実際の手続実務については今後の動向を注視する必要があります。

  7. Exit協力義務(上場努力義務等)
    日本においては、上場時期を設定し、スタートアップ企業と経営株主に対し当該時期までの上場について努力義務を課したり(上場努力義務)、ファンドの期限を明記し、スタートアップ企業と経営株主に対し当該期限を理由とした株式の売却について協力義務を課したりする例が多く見受けられます。
    増補版では、上場努力義務のように上場のみに言及したExit協力義務を規定する例も散見されるが、M&AやセカンダリーというExitの方法が合理的・望ましい場合も十分に想定されるため、そもそもExit協力義務を定めないことや、定める場合もM&A等の上場以外の選択肢も含めることが求められています。

パワハラを理由とする懲戒免職処分に関する最高裁判例(最高裁(三小)令和7年9月2日判決)

 執筆:清水 咲弁護士

 本判決は、消防本部における長年にわたる集団でのパワハラの中心メンバーであるとして懲戒免職処分となった消防職員のXが、処分の取消し等を求めた事件です(最高裁(三小)令和7年9月2日判決)。

 地裁・高裁は、ほぼ同様の判断により、懲戒免職処分は違法であると判断しました(福岡地裁令和4年7月29日判決・労経速2497号3頁、福岡高裁令和6年1月24日判決・判例秘書〔判例番号L07920014〕)。
 しかし、本判決は、懲戒免職処分は相当であると判断し、地裁・高裁の判決を破棄しました。

 以下では、本判決の概要をご紹介します。詳細については、弊所note記事「労働法UPDATE Vol. 22:パワハラを理由とした懲戒処分における行為の評価~糸島市事件・最判三小令和7年9月2日を題材に~」をご参照ください。

事実関係

 Xは、2003年頃から2016年11月までの間、少なくとも10人の部下等に対し、以下のような指導や発言を繰り返し行っていました。

指導
  • 鉄棒にかけたロープで身体を縛って懸垂をさせたうえ、力尽きた後もそのロープを保持して数分間宙づりにしてさらに懸垂をさせる。
  • 熱中症の症状を呈し、失禁するまで訓練を繰り返させる。
発言
  • 「気持ち悪い」、「ぶっ殺すぞ、お前」、「近くにおるな、死ね」
  • (新入職員に対し)「お前を恐怖で支配する」、「お前を理不尽で支配する」

 上告人(Y市)は、Xの言動が上告人のハラスメント防止規程に反するとして、Xを懲戒免職処分にしました。なお、Xは、本件懲戒免職以前に、懲戒処分や注意指導等を受けたことはありませんでした。

地裁・高裁の判断

 地裁・高裁判決は、6-1の事実について、Xの指導は訓練やトレーニングの範囲を逸脱しているが、逸脱の程度が特段大きいとまでは言い難い、Xの発言は口の悪さが現れたにすぎない面もある等と評価しました。また、Xが懲戒処分や注意指導等を受けていないことを考慮し、懲戒免職処分は違法であると判断しました。

最高裁の判断

 これに対し、本判決は、Xの各指導および各発言は極めて不適切なものであり、長期間、多数回にわたり繰り返されたものであることにも照らせば、その非違の程度は極めて重いと評価しました。
 また、小隊長等として消防職員を指導すべき立場にあったXが、長年・多数回にわたり不適切な指導や発言を執拗に繰り返したことは、はなはだしく職場環境を害し、消防組織の秩序や規律を著しく乱す行為であると判断しました。
 そのうえで、Xに懲戒処分や注意指導歴がないという事実を考慮しても、懲戒免職処分は違法でないと結論付けました。

 なお、林道晴裁判官は、本判決の補足意見として、原審について「本件各行為が全体としてどのような悪影響をもたらすものであるかをも十分に評価すべきであったにもかかわらず、これを怠ったものといわざるを得ない」と評しています。

シリーズ一覧全47件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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