Legal Update

第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向

法務部

シリーズ一覧全45件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  45. 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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目次

  1. 「下請代金支払遅延等防止法の一部を改正する法律案」の成立
    1. 従業員基準の追加
    2. 運送委託の対象取引への追加
    3. 協議を適切に行わない代金減額の決定の禁止
  2. 「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律案」の成立
    1. 複数順位の譲渡担保権の設定
    2. 動産譲渡担保権の対抗要件(占有改定劣後ルール)
    3. 集合動産譲渡担保権・集合債権譲渡担保権の実行に関する破産財団等への組入義務
  3. 「能動的サイバー防御法」および同整備法の成立
  4. 「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」の成立
  5. 「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」の成立
  6. 改正労働安全衛生規則の施行(熱中症対策義務)
  7. 営業秘密管理指針の改訂
    1. 営業秘密の3要件は民事と刑事で同じ解釈であること
    2. 営業秘密以外の情報の保護
    3. 「事業者」の範囲
    4. 営業秘密の3要件のさらなる明確化
  8. 東京証券取引所「MBOや支配株主による完全子会社化に関する上場制度の見直し等について」の公表
    1. 規範の対象行為の見直し
    2. 規範の内容の見直し
  9. 改正刑法の施行(拘禁刑の創設、執行猶予制度の改正)
  10. 金融庁「金融商品取引法第2条に規定する定義に関する内閣府令」等の改正案の公表
    1. 「金融商品取引法第2条に規定する定義に関する内閣府令」(定義府令)の改正案
    2. 「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」(取引規制府令)の改正案
    3. 「上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令」(代理行使府令)の改正案
  11. 金融庁「暗号資産に関連する制度のあり方等の検証」ディスカッション・ペーパーの公表
    1. 情報開示・提供規制のあり方
    2. 業規制のあり方
    3. 市場開設規制のあり方
    4. インサイダー取引への対応等

本稿で扱う内容一覧

日付 内容
2025年3月31日 営業秘密管理指針の改訂
2025年4月10日 金融庁「暗号資産に関連する制度のあり方等の検証」ディスカッション・ペーパーの公表
2025年4月11日 金融庁「金融商品取引法第2条に規定する定義に関する内閣府令」等の改正案の公表
2025年4月14日 東京証券取引所「MBOや支配株主による完全子会社化に関する上場制度の見直し等について」の公表
2025年5月8日 「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」の成立
2025年5月16日 「下請代金支払遅延等防止法の一部を改正する法律案」の成立
2025年5月16日 「能動的サイバー防御法案」および同整備法案の成立
2025年5月28日 「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」の成立
2025年5月30日 「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律案」の成立
2025年6月1日 労働安全衛生規則の改正(熱中症対策義務、2025年6月1日施行)
2025年6月1日 改正刑法の施行(拘禁刑の創設、執行猶予制度の改正)

 編集代表:菅原 裕人弁護士(三浦法律事務所)

「下請代金支払遅延等防止法の一部を改正する法律案」の成立

 執筆:渥美 雅之弁護士

 2025年3月11日、下請代金支払遅延等防止法(いわゆる下請法)を改正する法律案が閣議決定され、国会で審議されて同年5月16日に可決・成立しました。本改正では、下請法の適用対象を拡大するとともに、下請事業者の保護を強化する規定等が追加されます

 主な改正事項は以下のとおりです。

従業員基準の追加

 現行の下請法では、資本金の額により、親事業者および下請事業者に該当し、同法の適用を受けるか否かが決まります。しかしながら、資本金の額は必ずしも事業規模を示すものではなく、下請事業者側の増資や親事業者側の減資によって下請法の適用を回避することができてしまうという問題点がありました。
 そこで、改正法では、新たに従業員数に基づく基準を追加し、適用範囲を拡大しています。製造委託を例にとると、従業員数300人超の発注者が従業員数300人以下の受注者に対して委託を行う場合に、改正下請法の対象となります。

運送委託の対象取引への追加

 荷主が運送会社に対して運送を委託する取引は、現行の下請法の対象外となりますが、運送事業者の立場が弱いことに起因して、荷主・物流事業者間における不当な取引慣行が多く発生していました。
 そこで、改正法では、荷主・運送事業者間の運送委託取引を下請法対象契約に追加し、運送事業者の保護を図ることとしています。

協議を適切に行わない代金減額の決定の禁止

 下請事業者側で労務費等のコストが上昇しているにもかかわらず、親事業者側が協議することなく価格を据え置いたり、コスト上昇に見合わない価格を一方的に決めたりする行為は、現行の下請法上も買いたたきに該当する行為として規制の対象です。
 改正法では、下請事業者による価格転嫁をいっそう促進するため、買いたたきとは別に、価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、親事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して、下請事業者の利益を不当に害する行為を禁止する規定を追加しています。

 上記のような改正内容のほか、これまで下請法の執行権限を有していた公正取引委員会・中小企業庁に追加し、事業所管官庁に下請法上の指導・助言権限が付与されるなど、下請法執行強化につながる改正がなされており、今後下請法コンプライアンスがこれまで以上に重要となることが想定されます。改正法の内容を正しく理解し、必要に応じて下請法コンプライアンス体制を見直すことが求められます。

「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律案」の成立

 執筆:所 悠人弁護士

 2025年3月7日、「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律案」が国会に提出され、5月30日に可決・成立しました(同時に成立した「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」とあわせて、以下「本法案」といいます)。

 本法案は、民法などの法律に定められた担保提供方法ではないものの(いわゆる「非典型担保」)、従前広く活用されてきた「譲渡担保」および「所有権留保」という手段について、法律を制定してルールを明文化するものです。
 譲渡担保や所有権留保の法制化については、法務省の法制審議会担保法制部会において2021年以降議論が重ねられ、2025年1月28日に「担保法制の見直しに関する要綱案」が取りまとめられたうえで、今回法案の国会提出に至りました。

 本法案は、いくつかの新たに制定されるルールを除いて、基本的に譲渡担保と所有権留保に関する従前の判例法理や実務を踏襲する内容となります。本稿においては、紙面の関係上、新たに制定されるルールのうち実務上特に重要と思われる点について触れたいと思います。

複数順位の譲渡担保権の設定

 従前、複数順位の譲渡担保権を設定した場合、後順位譲渡担保権の設定を登記により公示することができず、また、後順位の譲渡担保権者の権利内容も定かではなかったことから、複数順位の譲渡担保権の設定は避けられる傾向にありました。
 本法案では、明確に複数順位の譲渡担保権の設定を認め、登記による公示も可能とし、また、後順位譲渡担保権者の権利内容も定められているため、譲渡担保権の活用の範囲が広がることが期待されます。

動産譲渡担保権の対抗要件(占有改定劣後ルール)

 動産譲渡担保権の対抗要件は現行法と同様に「引渡し」(民法178条)であり、これには「占有改定」(民法183条)も含まれますが、占有改定は公示されず、第三者から見て対抗要件が(いつ)具備されたのかが判然としないことから、古くから対抗要件具備の方法としての妥当性が指摘されていました。
 本法案では、この問題への一定の解決策として、「占有改定劣後ルール」を採用し、占有改定により対抗要件を具備した動産譲渡担保権については、通常の引渡しなどの占有改定以外の方法で対抗要件を具備した動産譲渡担保権、動産質権および企業価値担保権に劣後するものとされています。

集合動産譲渡担保権・集合債権譲渡担保権の実行に関する破産財団等への組入義務

 集合動産譲渡担保・集合債権譲渡担保の担保設定者について破産などの法的倒産手続が開始された場合、担保権者は、担保実行による被担保債権の回収額が一定額を超える場合には、その超過額を破産財団などに組み入れなければならないとされています。これは、集合動産・債権譲渡担保が担保設定者の事業用資産に広く設定される可能性があるため、担保権者以外の一般債権者に対する返済原資を確保するために、政策的に設けられたルールです。

 こうした譲渡担保と所有権留保の法制化により、取引の安定性が確保され、動産や債権を担保とする融資(Asset Based Lending/ABL)などの金融取引がより活性化することが期待されています。

 なお、本法案の施行日は、公布の日から起算して2年6か月以内と定められていますが、施行日前に締結された譲渡担保契約および所有権留保契約についても新法が適用されるため(本法案附則2条参照)、新法への対応は施行日を待たずに進めていく必要がある点にご注意ください。

「能動的サイバー防御法」および同整備法の成立

 執筆:小倉 徹弁護士

 2025年5月16日、「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律案」(以下「能動的サイバー防御法」といいます)および「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」(以下「整備法案」といいます)(以下「整備法」といいます)が成立し、同月23日に公布されました。

 両法律は、2022年12月16日に閣議決定された「国家安全保障戦略」および2024年11月29日に取りまとめられた「サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた提言」を踏まえて検討されたものであり、国民生活や経済活動の基盤および国家・国民の安全をサイバー攻撃から守るために、能動的なサイバー防御を可能とする体制の整備を目的としています。

 能動的サイバー防御法において、企業にとって重要なポイントは以下のとおりです。

官民連携の強化 <基幹インフラ事業者によるインシデント報告等>
  • 基幹インフラ事業者は、特定重要電子計算機の導入時に、製品名等を事業所管大臣に届出
  • 基幹インフラ事業者は、特定重要電子計算機のインシデント情報やその原因となり得る事象を認知したときは、事業所管大臣および内閣総理大臣に報告
<情報共有・対策のための協議会の設置>
  • 内閣総理大臣は、関係行政機関の長により構成される協議会を設置
  • 協議会には、基幹インフラ事業者、電子計算機等のベンダー等をその同意を得て構成員として加える
  • 構成員に対しては、守秘義務のもと被害防止に関する情報を共有するとともに、必要な情報共有を求めることが可能
<脆弱性対応の強化>
  • 内閣総理大臣・事業所管大臣が重要電子計算機における脆弱性を認知したとき、電子計算機等のベンダー等に対して情報提供、対応方法の公表・周知
  • 脆弱性が基幹インフラ事業者が使用する特定重要電子計算機に関連するものである場合、事業所管大臣は、ベンダー等に対し、必要な措置を講ずるよう要請
通信情報の利用 <基幹インフラ事業者等との協定(同意)に基づく通信情報の取得>
  • 内閣総理大臣は、基幹インフラ事業者等との協定に基づき、通信情報を取得
<(同意によらない)通信情報の取得>
  • 内閣総理大臣は、国外の攻撃インフラ等の実態把握のため必要があると認める場合には、独立機関の承認を受け、通信情報を取得
  • 内閣総理大臣は、国内へのサイバー攻撃の実態把握のため、特定の外国設備との通信等を分析する必要があると認める場合には、独立機関の承認を受け、通信情報を取得
<自動的な方法による機械的情報の選別の実施>
  • 内閣総理大臣は、取得した通信情報について、人による知得を伴わない自動的な方法により、調査すべきサイバー攻撃に関係があると認めるに足りる機械的情報(IPアドレス、指令情報等の意思疎通の本質的な内容ではない情報)を選別
分析情報・脆弱性情報の提供等
  • 内閣総理大臣は、取得した情報を整理・分析し、アクセス・無害化を行う行政機関その他関係行政機関に提供
  • 内閣総理大臣は、必要がある場合には、外国の政府等に対し、分析情報を提供し、また、事業所管大臣も、必要がある場合にはその情報を基幹インフラの事業者に提供することが可能

 また、整備法においては、①サイバー攻撃による重大な危害を防止するための警察・自衛隊による措置等を可能とし、その際の適正性を確保するための手続が新設され、また、②能動的サイバー防御を含む各種取組みを実現・促進するため、司令塔たる内閣官房新組織の設置等、政府を挙げた取組みを推進するための体制の整備がなされています。

「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」の成立

 執筆:橋爪 航弁護士

 2025年2月28日、政府において、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」(以下「AI法案」といいます)が閣議決定され、国会に提出されました。なお、AI法案は、5月28日、参議院本会議で賛成多数で可決され、成立しました。AI法案から内容の変更はなく、名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」で、「案」が外れたものとなります。

 同年2月4日には内閣府の下に設置されたAI戦略会議・AI制度研究会での議論をまとめた「中間とりまとめ」が公表されましたが、AI法案はその結果も踏まえて策定されたものです。

 AI法案は、AIの法制度に焦点を当てた日本で初めての法律案で、全28条という条文数ながらも今後の日本のAIへの姿勢を示す非常に重要な法律となると考えられます。

 AI法案は、基本原則等を規定した基本法的な性格を有しており、罰則規定を置いていません。欧州で先立って2024年5月に成立し同年8月に発効したAI Act(Artificial Intelligence Act)では、事業者に対する規制や制裁を詳細に定めているアプローチ(いわゆるハードロー的アプローチ)がとられていますが、AI法案はAI Actとは異なり、これまでのガイドライン等によるソフトロー的なアプローチを引き続き採用しています。そのため、AI活用事業者の責務を具体的に規定する性質のものというよりは、多くの条項は国や政府を名宛人としたもので、法の目的を、「国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与すること」(1条)に置いています

 AI法案の概要は以下のとおりです(内閣府資料「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案(AI法案)概要」より一部抜粋)。

目的 国民生活の向上、国民経済の発展
基本理念
  • 経済社会および安全保障上重要 ➡ 研究開発力の保持、国際競争力の向上
  • 基礎研究から活用まで総合的・計画的に推進
  • 適正な研究開発・活用のため透明性の確保等
  • 国際協力において主導的役割
AI戦略本部
  • 本部長:内閣総理大臣  構成員:全閣僚
  • 関係行政機関等に対して必要な協力を求める
AI基本計画 研究開発・活用の推進のために政府が実施すべき施策の基本的な方針等
基本的施策
  • 研究開発の推進、施設等の整備・共用の促進
  • 人材確保
  • 教育振興
  • 国際的な規範策定への参画
  • 適正性のための国際規範に即した指針の整備
  • 情報収集、権利利益を侵害する事案の分析・対策検討、調査
  • 事業者・国民への指導・助言・情報提供
責務
  • 国、地方公共団体、研究開発機関、事業者、国民の責務
  • 関係者間の連携強化
  • 事業者は国等の施策に協力しなければならない
附則 見直し規定(必要な場合は所要の措置)

「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」の成立

 執筆:河尻 拓之弁護士、菅原 裕人弁護士

 2025年5月8日、今国会において、「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」(以下「本改正」といいます)が成立し、同年5月14日に公布されました(令和7年法律第33号)。

 本改正の内容は、2024年4月から2025年1月にかけて労働政策審議会安全衛生分科会で議論された内容を取りまとめた2025年1月17日公表の「今後の労働安全衛生対策について(建議)」(以下「本建議」といいます)に基づいています(本建議の内容は、本連載第38回「2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向」の「5 厚生労働省『今後の労働安全衛生対策について(建議)』の公表」を参照ください)。

 本改正の趣旨について、厚生労働省は「多様な人材が安全に、かつ安心して働き続けられる職場環境の整備を推進するため、個人事業者等に対する安全衛生対策の推進、職場のメンタルヘルス対策の推進、化学物質による健康障害防止対策等の推進、機械等による労働災害の防止の促進等、高年齢労働者の労働災害防止の推進等の措置を講ずる」点にあるとしており、本改正では本建議に基づいた改正となりました。

 本改正の概要は本建議と同様ですが、あらためてまとめると以下のとおりです。

改正項目 施行日

(1)個人事業者等に対する安全衛生対策の推進

既存の労働災害防止対策に個人事業者等も取り込み、労働者のみならず個人事業者等による災害の防止を図るため、
  1. 注文者等が講ずべき措置(個人事業者等を含む作業従事者の混在作業による災害防止対策の強化など)を定め、併せてILO第155号条約(職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約)の履行に必要な整備を行う。
  2. 個人事業者等自身が講ずべき措置(安全衛生教育の受講等)や業務上災害の報告制度等を定める。


  1. 公布日(2025年5月14日)(一部)、2026年4月1日(一部)、2027年4月1日(一部)
  2. 2026年4月1日(一部)、2027年1月1日(一部)、2027年4月1日(一部)

(2)職場のメンタルヘルス対策の推進

ストレスチェックについて、現在当分の間努力義務となっている労働者数50人未満の事業場についても実施を義務とする。その際、50人未満の事業場の負担等に配慮し、施行までの十分な準備期間を確保する。 公布後3年以内の政令で定める日

(3)化学物質による健康障害防止対策等の推進

  1. 化学物質の譲渡等実施者による危険性・有害性情報の通知義務違反に罰則を設ける。
  2. 化学物質の成分名が営業秘密である場合に、一定の有害性の低い物質に限り、代替化学名等の通知を認める。なお、代替を認める対象は成分名に限ることとし、人体に及ぼす作用や応急の措置等は対象としない。
  3. 個人ばく露測定について、作業環境測定の1つとして位置付け、作業環境測定士等による適切な実施の担保を図る。
  1. 公布後5年以内の政令で定める日
  2. 2026年4月1日



  3. 2026年10月1日

(4)機械等による労働災害防止の促進等

  1. ボイラー、クレーン等に係る製造許可の一部(設計審査)や製造時等検査について、民間の登録機関が実施できる範囲を拡大する。
  2. 登録機関や検査業者の適正な業務実施のため、不正への対処や欠格要件を強化し、検査基準への遵守義務を課す。
  1. 2026年4月1日


  2. 2026年1月1日

(5)高年齢労働者の労働災害防止の推進

高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置の実施を事業者の努力義務とし、国が当該措置に関する指針を公表することとする。 2026年4月1日

 本改正の施行期日は上記のとおりです。(1)、(2)、(5)の改正は多くの事業者に影響のある内容となりますので、施行日までに対応を進めていく必要があります

 本改正の詳細については、弊所Note記事「労働法UPDATE Vol. 20:労働法改正 Catch UP & Remind③ ~【速報】労働安全衛生法の改正~」をご参照ください。

改正労働安全衛生規則の施行(熱中症対策義務)

 執筆:河尻 拓之弁護士、菅原 裕人弁護士

 2025年4月15日に公布された「労働安全衛生規則の一部を改正する省令」(以下「本改正」といいます)が、同年6月1日に施行されました。本改正は、熱中症対策を罰則付きで事業者の義務とするものです。

 本改正は、職場における熱中症による死亡災害が多発していること、死亡者の約7割が屋外作業に従事する労働者であるため気候変動の影響によりさらなる増加の懸念があること、およびほとんどのケースで初期症状の放置・対応の遅れがあること等の現状を踏まえ、現場において死亡に至らせない(重篤化させない)ための適切な対策の実施が必要という観点から、すでに公表されている「職場における熱中症予防基本対策要綱」等を参考にして、専門家も交えた労働政策審議会安全衛生分科会での議論を経て定められたものです。

 本改正の趣旨について、厚生労働省は、「熱中症の重篤化による死亡災害を防止するため、熱中症のおそれがある作業者を早期に見つけ、その状況に応じ、迅速かつ適切に対処することが可能となるよう、事業者に対し、『早期発見のための体制整備』、『重篤化を防止するための措置の実施手順の作成』、『関係作業者への周知』を義務付ける」点にあるとしています。

 本改正により事業者に義務付けられる事項の概要は以下のとおりです。なお、事業者が当該義務を怠った場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。まずは今夏に向けて、早急な対応が必要です。

  1. 熱中症を生ずるおそれのある作業(※)を行う際に、
    1. 「熱中症の自覚症状がある作業者」
    2. 「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」
    がその旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること

  2. 熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、
    1. 作業からの離脱
    2. 身体の冷却
    3. 必要に応じて医師の診察または処置を受けさせること
    4. 事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先および所在地等
    など、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること

    ※ WBGT(湿球黒球温度)28度または気温31度以上の作業場において行われる作業で、継続して1時間以上または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるもの

営業秘密管理指針の改訂

 執筆:西川 喜裕弁護士

 2025年3月31日、不正競争防止法により営業秘密として法的保護を受けるために必要となる「最低限の水準の対策」を示したガイドラインである「営業秘密管理指針」が改訂されました。前回の改訂は2019年1月23日であり、約6年ぶりの改訂となります。
 近時の管理実態や2019年以降の裁判例の蓄積を踏まえ、さらなる明確化がなされています。

 改訂の概要は主に以下のとおりです。

営業秘密の3要件は民事と刑事で同じ解釈であること

 秘密管理性等の営業秘密の3要件の解釈は、民事上の要件と刑事上の要件とは同じであることが裁判例等を踏まえ指針に明記されました。

営業秘密以外の情報の保護

 営業秘密以外の情報の保護について、限定提供データを含めて整理されました。
 営業秘密に該当しない場合でもあっても、別途不正競争防止法によって保護されている限定提供データに該当するときは、限定提供データとして不正競争防止法により保護される可能性があります。
 なお、営業秘密や限定提供データに該当しない場合であっても、不法行為に該当し、損害賠償を請求することができる可能性があることも明記されました。

「事業者」の範囲

 「事業者」の範囲について、裁判例等を踏まえ明確化されています。
 具体的には、大学や研究機関も「事業者」に該当し、大学等が保有する情報も営業秘密として保護されます。

営業秘密の3要件のさらなる明確化

 営業秘密の3要件のさらなる明確化がなされています。
 具体的には、従業員の定義が明確化され、秘密管理性は、従業員全体の認識可能性も含めて客観的観点から定めるべきものであり、従業員個々が実際にどのような認識であったか否かに影響されるものではないことが明記されています。
 また、改訂前は「合理的区分」という説明がなされていましたが、「合理的区分」に関する記載は削除されています。企業における管理実態を踏まえ、「秘密管理措置の程度」の中に、営業秘密と他の情報との分別管理を含めた考え方が示されています。
 その他、典型的な管理方法として、外部のクラウドを利用した場合における秘密管理措置に関する具体例や生成AIの利活用に関する具体例が追記されています。

 以上のとおり、主に明確化の観点で指針が改訂されています。生成AIの利活用など従来明確でなかった点について指針に明記されていますので、今後の営業秘密管理の参考になるものと考えます。

東京証券取引所「MBOや支配株主による完全子会社化に関する上場制度の見直し等について」の公表

 執筆:豊島 諒弁護士、大草 康平弁護士

 2025年4月14日、東京証券取引所から、「MBOや支配株主による完全子会社化に関する上場制度の見直し等について」と題する資料(以下「本資料」といいます)が公表され、同年5月14日までパブリック・コメントに付されました。
 本資料では、MBO・支配株主による完全子会社化に係る規範の見直しが行われているところ、その概要は以下のとおりです。

規範の対象行為の見直し

 上場会社がMBOや支配株主・その他の関係会社 1 等による完全子会社化を決定する場合等 2 について、企業行動規範の遵守すべき事項に規定する「少数株主にとって不利益でないことに関する意見」の入手および「必要かつ十分な適時開示」の義務付けの対象となりました。

規範の内容の見直し

(1)「少数株主にとって不利益でないことに関する意見」のあり方(入手先・内容)の見直し

 上場会社に対して、利害関係を有しない社外取締役、社外監査役、社外有識者で構成される特別委員会から、取引が「⼀般株主にとって公正であることに関する意見」を入手し、当該意見を開示することが義務付けられました 3
 特別委員会は、対象会社・一般株主の利益を図る立場に立ち、M&Aの是非・取引条件の公正性・手続の公正性といった観点から、具体的な検討内容や最終的な判断の根拠について、意見の中で十分な説明・開示を行わなければならない旨が規定されました。

(2)必要かつ十分な情報開示の内容の見直し(算定の前提条件の開示拡充)

 一般株主が十分な情報を得たうえで、取引の公正性を判断できるよう、株式価値算定の重要な前提条件(財務予測や算定手法の前提となる考え方)の開示の拡充が求められることとなりました。
 上場会社は、株主・投資者との関係構築に向けて必要な情報提供を行うためのIR体制を整備しなければならないものとされました。

 本資料の内容は、2025年7月を目途に実施することが予定されています。MBOや支配株主による完全子会社化に係る取引にあたっては、2019年6月に経済産業省により公表された「公正なM&Aの在り方に関する指針 − 企業価値の向上と株主利益の確保に向けて − 」を前提とした実務が蓄積されてきましたが、今後は本資料に係る規範の見直しにも対応する必要があります。

改正刑法の施行(拘禁刑の創設、執行猶予制度の改正)

 執筆:坂尾 佑平弁護士

 2025年6月1日、2022年6月17日に公布された「刑法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第67号)のうち、拘禁刑の創設等に関する改正刑法が施行されました。

 この改正により、懲役刑(刑務作業が義務付けられている自由刑)と禁錮刑(刑務作業が義務付けられていない自由刑)が、新たに創設された「拘禁刑」に一本化されることになりました。改正理由は刑事施設における受刑者の処遇の拡充とされていますが、禁錮刑に処せられた者の多くが任意で刑務作業を行うことを申し出ていたという実情も背景事情として挙げられます。
 拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、または必要な指導を行うことができると定められており、受刑者は、特性に合わせた矯正プログラムを受けることになると想定されます。

 また、改正刑法の今回の施行において、以下の事項を含む執行猶予制度に関する改正もなされました。

  1. 再度の刑の全部の執行猶予の言渡しが可能な宣告刑の上限を1年から2年に引き上げる
  2. 初度の保護観察付き執行猶予中の再犯の場合に再度の執行猶予を可能とする
  3. 執行猶予期間内にさらに犯した罪について公訴の提起がなされている場合に、当該罪についての有罪判決の確定が猶予の期間の経過後となったときにおいても、猶予された当初の刑の執行を可能とする

 この改正はいわゆる企業刑事法務において重要であるのは当然として、コンプライアンス研修等の社内資料の見直しが必要になるという観点からも押さえておくべきものと考えられます。

金融庁「金融商品取引法第2条に規定する定義に関する内閣府令」等の改正案の公表

 執筆:藤﨑 大輔弁護士

 2025年4月11日、金融庁は、「金融商品取引法第2条に規定する定義に関する内閣府令」等の改正案を公表しました。
 改正の概要は主に以下のとおりです。

「金融商品取引法第2条に規定する定義に関する内閣府令」(定義府令)の改正案

(1)役員・従業員持株会に関する範囲拡大

 発行会社およびその子会社の役員または従業員が構成員となる持株会に基づく権利は集団投資スキーム持分の適用が除外されているところ(金融商品取引法(以下「金商法」といいます)2条2項5号ニ、金融商品取引法施行令(以下「施行令」といいます)1条の3の3第5号、定義府令6条1項、3項)、その構成員として発行会社の関連会社の役員または従業員が含まれるよう改正がなされています(改正定義府令6条3項)。

(2)拡大役員・従業員持株会に関する範囲の明確化

 発行会社の「関係会社」の役員または従業員が構成員となる拡大持株会に基づく権利は集団投資スキーム持分の適用が除外されているところ(金商法2条2項5号ニ、施行令1条の3の3第6号、定義府令7条1項1号、2項)、発行会社の子会社および「関係会社」の役員または従業員が構成員となる持株会(いわゆるグループ持株会)に基づく権利についても集団投資スキーム持分の適用が除外されることを明確化するため、「関係会社」に発行会社の子会社が含まれるよう改正がなされています(改正定義府令7条2項1号)。

「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」(取引規制府令)の改正案

(1)子会社株式の現物配当に関する空売り規制の適用除外

 会社分割等の組織再編と同様、子会社株式の現物配当で割り当てられた株式の数量の範囲内で行う空売りについて、空売り規制(金商法162条1項、施行令26条の2の2)の適用を除外する改正がなされています(改正取引規制府令9条の3第1項12号)。

(2)持株会に関する改正

 持株会に関する売買報告書(金商法163条1項、165条の2第1項)の適用除外について上記10-1と同様の改正を行うほか(改正取引規制府令30条、40条)、各組合員の持株会退会時の1単元未満の株式の売却処理に伴う持株会の売買報告書の適用を除外する改正がなされています(同条4項)。

「上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令」(代理行使府令)の改正案

(1)電子提供措置がとられている場合の委任状参考書類の記載の省略に関する明確化

 上場株式の議決権の代理行使の勧誘を行う者が、その勧誘に際し、勧誘の相手方に対し交付する委任状参考書類に関して、株主総会参考書類および議決権行使書面に記載している事項等は記載不要とされているところ(金商法194条、施行令36条の2第1項、代理行使府令1条)、これらの書面について電子提供措置がとられている場合も同様に記載不要であることを明確化する改正がなされています(改正代理行使府令1条3項、4項)。

(2)電子提供措置がとられている場合の委任状用紙・委任状参考書類の写しの提出の除外に関する明確化

 上場株式の議決権の代理行使の勧誘を行う者は、その勧誘に際し、原則として、委任状用紙および委任状参考書類の写しを財務局長に提出しなければならないものの、同一の株主総会に関して株式の発行会社の株主のすべてに対し株主総会参考書類および議決権行使書面が交付されている場合は提出不要とされているところ(金商法194条、施行令36条の3、代理行使府令44条)、これらの書面について電子提供措置がとられている場合も同様に提出不要であることを明確化する改正がなされています(改正代理行使府令44条)。

金融庁「暗号資産に関連する制度のあり方等の検証」ディスカッション・ペーパーの公表

 執筆:藤﨑 大輔弁護士

 2025年4月10日、金融庁は、「暗号資産に関連する制度のあり方等の検証」ディスカッション・ペーパー(以下「本文書」といいます)を公表しました。
 本文書は、金融庁において、昨今の暗号資産に係る取引の実態等を踏まえ、暗号資産に関連する制度のあり方等について検証を行ってきた結果を、ディスカッション・ペーパーとして整理したものです。

 本文書における規制見直しに向けた検討事項の概要は、下記11−111−4のとおりです。検討にあたっては、暗号資産ごとの性質に応じた規制とする観点から、以下(類型①・②)の区分を採用しています。

類型① 資金調達・事業活動型暗号資産:暗号資産が資金調達の手段として発行され、その調達資金がプロジェクト・イベント・コミュニティ活動等に利用される暗号資産(例:一部のユーティリティ・トークン)。


類型② 非資金調達・非事業活動型暗号資産:類型①に該当しない暗号資産(例:ビットコインやイーサ等)。

情報開示・提供規制のあり方

 類型①については、暗号資産への投資にあたり、暗号資産の信頼性と価値に影響を与える情報の開示・提供が重要であるため、暗号資産に関する情報(そのルールやアルゴリズムの概要等)や暗号資産の関係者の情報、プロジェクトに関する情報、リスクに関する情報等を最も正確に開示・提供できる者として、当該暗号資産の発行により資金調達する者に対し、投資者との情報の非対称性を解消するための規制を設けることが考えられると指摘しています。

 類型②については、特定の発行者を観念できないものが多く、その発行者に対して情報開示・提供義務を設けることは馴染みにくいと考えられるため、当該暗号資産を取り扱う交換業者に対し、暗号資産に関する情報の説明義務や、価格変動に重要な影響を与える可能性のある情報の提供を求めることが考えられると指摘しています。

業規制のあり方

 現行法上、暗号資産の売買・交換等を業として行う行為には、法令に基づく交換業規制および日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)の自主規制が課されており、規制を全体として見ると、金商法令に基づく規制と概ね同様の規制体系が整理されている一方、当該自主規制の中には金商法では法令レベルのものもあり、利用者保護を図る観点からは、この点の検討が必要ではないかと指摘されています。

 また、暗号資産取引についての投資セミナーやオンラインサロン等が出現している現状に鑑みれば、暗号資産交換業に該当しない現物の暗号資産を投資対象とする投資運用行為や投資助言行為について規制対象とすることが適当ではないかとも指摘されています。

市場開設規制のあり方

 多くの暗号資産について、同一の銘柄が海外の取引所も含めた多数の取引所(暗号資産交換業者)で取引されている現状に鑑みれば、個々の取引所の価格形成機能は限定的とも考えられ、また、仮に交換業者が倒産した場合でも、顧客は他の交換業者を通して、または交換業者を通さず暗号資産を取引し得ることから、現時点では、こうした暗号資産の取引所に対して、金融商品取引所に係る免許制に基づく規制や金商業者に係るPTSの規制のような厳格な市場開設規制を課す必要性は低いと考えられるとしています。

インサイダー取引への対応等

 暗号資産に係る不公正取引については、上場有価証券等に係る規制と同様に、不正行為の禁止に関する一般規制等が設けられているものの(金商法185条の22~185条の24)、インサイダー取引を直接の規制対象とする規定はないため、暗号資産に係るインサイダー取引について抑止力を高める観点から何らかの対応強化を検討することが必要ではないかと指摘しています。

 本文書について寄せられた意見も参考に、上記の論点等についてさらなる検討が行われていくものと予想され、暗号資産規制の動向に今後も注意する必要があります。


  1. 財務諸表等規則8条17項4号に規定する「その他の関係会社」をいいます。 ↩︎

  2. 具体的には、MBOや支配株主・その他の関係会社等による公開買付けに対して意見表明を行うこと、および支配株主・その他の関係会社等が関連する株式交換等を行うことを決定する場合(上場廃止となることが見込まれる場合に限る)等が想定されています。 ↩︎

  3. 意見書そのものを適時開示資料の添付資料として開示することが求められます。 ↩︎

シリーズ一覧全45件

  1. 第1回 2022年4月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  2. 第2回 2022年4月・5月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  3. 第3回 2022年6月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  4. 第4回 2022年7月以降も注目 企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  5. 第5回 2022年6月公表の「骨太方針」、開示に関する金融庁報告書、および7月のCGSガイドライン再改訂に関する対応のポイント
  6. 第6回 2022年3月〜6月の医薬品・医療に関する法律・指針等に関する日本・中国の最新動向と対応のポイント
  7. 第7回 2022年5月〜6月の人事労務・データ・セキュリティ・危機管理に関する企業法務の最新動向・対応のポイント
  8. 第8回 2022年9月に押さえておくべき企業法務に関する法改正と最新動向・対応のポイント
  9. 第9回 2022年10月施行の改正法を中心とした最新動向と対応のポイント
  10. 第10回 2022年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  11. 第11回 2022年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  12. 第12回 2023年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  13. 第13回 2023年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  14. 第14回 4月施行の改正法ほか2023年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  15. 第15回 2023年4月施行の改正法を中心とした企業法務の最新動向
  16. 第16回 6月施行の改正法ほか2023年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  17. 第17回 2023年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  18. 第18回 2023年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  19. 第19回 2023年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  20. 第20回 2023年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  21. 第21回 2023年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  22. 第22回 2023年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  23. 第23回 2023年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  24. 第24回 2024年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  25. 第25回 2024年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  26. 第26回 2024年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  27. 第27回 4月施行の改正法ほか2024年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  28. 第28回 2024年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  29. 第29回 2024年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  30. 第30回 2024年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  31. 第31回 2024年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  32. 第32回 2024年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  33. 第33回 2024年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  34. 第34回 2024年11月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  35. 第35回 2024年12月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  36. 第36回 2025年1月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  37. 第37回 2025年2月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  38. 第38回 2025年3月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  39. 第39回 4月施行の改正法ほか2025年4月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  40. 第40回 2025年5月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  41. 第41回 2025年6月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  42. 第42回 2025年7月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  43. 第43回 2025年8月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  44. 第44回 2025年9月に押さえておくべき企業法務の最新動向
  45. 第45回 2025年10月に押さえておくべき企業法務の最新動向
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