内部通報制度の「整備」・「運用」のポイント 改正公益通報者保護法対応

危機管理・内部統制
坂尾 佑平弁護士 三浦法律事務所

 改正公益通報者保護法への対応に取り組んでいますが、何をどのように進めればよいでしょうか。参照すべき資料や重要なポイントについて教えてください。

 改正公益通報者保護法に対応するためには、下記の改正公益通報者保護法、指針、及び指針の解説を理解した上で、これらを踏まえた内部通報制度を整備し、適切に運用するという進め方が基本となります。
 内部通報制度を整備するにあたっては、新体制の構想・設計、内部通報規程の策定・改訂というプロセスが想定されます。
 新体制の構想・設計をする際には、改正公益通報者保護法・指針の求める内容を抜け漏れなく組み込むことが最低限必要となります。また、グループ内部通報制度の設計や社内リニエンシー制度の導入なども検討する要素としてあげられます。さらに、それらの構想・設計をわかりやすい形で内部通報規程等の社内規程に落とし込むことが求められます。
 内部通報制度の運用にあたっては、内部通報規程の履践・遵守、通報者保護の徹底、役職員・従事者への教育・周知などが特に重要です。

解説

目次

  1. 改正公益通報者保護法は2022年6月1日より施行
  2. 改正公益通報者保護法・指針・指針の解説の概要
    1. 改正公益通報者保護法の概要
    2. 指針の概要
    3. 指針の解説の概要
  3. 内部通報制度の「整備」のポイント
    1. 公益通報者保護法改正を踏まえた内部通報制度の新体制を構想・設計する
    2. 公益通報者保護法改正を踏まえた内部通報規程を策定・改訂する
  4. 内部通報制度の「運用」のポイント
    1. 内部通報規程の履践・遵守
    2. 通報者保護の徹底
    3. 役職員への教育・周知
    4. 従事者への教育
  5. 終わりに

改正公益通報者保護法は2022年6月1日より施行

 2020年6月8日に成立し、同月12日に公布された「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(令和2年法律第51号)が、2022年6月1日より施行されています(本稿では、この改正後の公益通報者保護法を「改正公益通報者保護法」といいます)。

 参考となる情報
公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号、以下「指針」といいます)

 消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(以下「指針の解説」といいます)

 本稿では、改正公益通報者保護法・指針・指針の解説を踏まえ、内部通報制度を実際に「整備」・「運用」していくうえで押さえておくべきポイントを解説します。

改正公益通報者保護法・指針・指針の解説の概要

改正公益通報者保護法の概要

 改正公益通報者保護法の概要は、下記の消費者庁の図のとおり整理されています。具体的には、近年も社会問題化する事業者の不祥事が後を絶たず、不正の早期是正により、被害の防止を図る必要があるという問題意識をベースとして、①事業者自ら不正を是正しやすくするとともに、安心して通報を行いやすく、②行政機関等への通報を行いやすく、③通報者がより保護されやすくという3つのコンセプトを立てて改正点の整理がなされています。

公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)

(出典:消費者庁ウェブサイト

 改正点のうち企業が特に押さえておくべきポイントとしては下記があげられます。

改正公益通報者保護法で企業が特に押さえておくべきポイント

( ⅰ ) 事業者への内部公益通報対応体制の整備等(窓口設定、調査、是正措置等)の義務付け

( ⅱ ) 公益通報対応業務従事者に対する通報者を特定させる情報の守秘義務、および当該義務違反に対する刑事罰の導入

( ⅲ )保護される公益通報の拡充(保護される人、保護される通報、保護の内容の拡充)

指針の概要

 改正公益通報者保護法11条では、事業者のとるべき措置として、公益通報者対応業務従事者の指定と内部公益通報対応体制整備義務を列挙したうえで(常時使用する労働者の数が300名以下の事業者については努力義務)、同条4項において、内閣総理大臣がこれらの措置に関して、「適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」を定めるとされています。指針は、同条4項に基づくものとして策定されたものです。

 指針では、「部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備」、「通報者を保護する体制の整備」、「実効性に関する措置」の3つの柱を立てて、内部公益通報対応体制の大要を定めています。

  1. 部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備(指針第4.1)
    1. 内部公益通報受付窓口の設置
    2. 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
    3. 公益通報対応業務の実施に関する措置
    4. 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置

  2. 通報者を保護する体制の整備(指針第4.2)
    1. 不利益な取扱いの防止に関する措置
    2. 範囲外共有等の防止に関する措置

  3. 実効性に関する措置(指針第4.3)
    1. 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
    2. 是正措置等の通知に関する措置
    3. 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
    4. 内部規程の策定及び運用に関する措置

指針の解説の概要

 指針の解説2頁では、「事業者がとるべき措置の具体的な内容は、事業者の規模、組織形態、業態、法令違反行為が発生する可能性の程度、ステークホルダーの多寡、労働者等及び役員や退職者の内部公益通報対応体制の活用状況、その時々における社会背景等によって異なり得る」と述べたうえで、指針を「事業者がとるべき措置の個別具体的な内容ではなく、事業者がとるべき措置の大要が示されている」ものと位置付け、「指針において定める事項は、法第11条第1項及び第2項に定める事業者の義務の内容を、その事業規模等にかかわらず具体化したもの」と整理しています(指針の解説2頁脚注1)。

 そして、指針の解説2頁では、指針の解説は「指針を遵守するために参考となる考え方や指針が求める措置に関する具体的な取組例」、および「指針を遵守するための取組を超えて、事業者が自主的に取り組むことが期待される推奨事項に関する考え方や具体例」を示すものであると説明しています。

内部通報制度の「整備」のポイント

 2022年6月1日以降、内部公益通報対応体制が未整備であったり、体制が改正公益通報者保護法・指針に照らし不十分であったりする場合には行政指導や勧告がなされたり、勧告に従わない場合には公表がなされたりする可能性があります。

 改正公益通報者保護法施行を見据えて内部公益通報対応体制を整備してきた企業も多いと思いますが、未整備の企業は可及的速やかに体制を整備する必要があります。

 また、これから従業員301名以上の企業を新設する場合や、成長中の企業において従業員数が301名以上に増加する場合には、法的義務としての体制整備義務が課される点に注意が必要です。

 体制を整備するにあたっては、一般に、①新体制の構想・設計、②内部通報規程の策定・改訂のプロセスを経ることが想定されます。

公益通報者保護法改正を踏まえた内部通報制度の新体制を構想・設計する

(1) 改正公益通報者保護法・指針の求める内容を抜け漏れなく組み込む

 新体制の構想・設計の場面では、改正公益通報者保護法・指針の求める内容を抜け漏れなく組み込むことが最低限必要となります。

 この点に関し、指針の解説3頁では、

 「指針を遵守するために事業者がとるべき措置の具体的な内容は、事業者の規模、組織形態、業態、法令違反行為が発生する可能性の程度、ステークホルダーの多寡、労働者等及び役員や退職者の内部公益通報対応体制の活用状況、その時々における社会背景等によって異なり得る。公益通報対応体制整備義務等が義務付けられている事業者は、従業員数300名程度の事業者から5万人を超えるグローバル企業まで多種多様であるところ、指針及び本解説において画一的に事業者がとるべき措置を定め、一律な対応を求めることは適切ではなく、また、現実的ではない。」

 と記載し、多種多様な会社の実質に理解を示したうえで、

 「指針に沿った対応をとるに当たり参考となる考え方や具体例を記載したものであり、本解説の具体例を採用しない場合であっても、事業者の状況等に即して本解説に示された具体例と類似又は同様の措置を講ずる等、適切な対応を行っていれば、公益通報対応体制整備義務等違反となるものではない。」

 という見解を示しています。

 この見解を分析するに、指針の解説に示された具体例を採用せず、かつその具体例と類似または同様の措置すら講じない場合には、内部公益通報対応体制整備義務等違反に当たり得ることになります。

(2)グループ内部通報制度の設計

 改正公益通報社保護法・指針の求める内容に加えて、自社として内部通報制度にどのような機能を入れ込むかを検討することになります。

 指針の解説では、
 「その他推奨される考え方や具体例」(指針を遵守するための取組を超えて、事業者が自主的に取り組むことが期待される推奨事項に関する考え方や具体例を記載した項目、指針の解説3頁)が示されており、

 「事業者がこれらの事項について取り組むことで、事業者のコンプライアンス経営の強化や社会経済全体の利益の確保がより一層促進することが期待される」

 とされています(指針の解説4頁)。

 たとえば、指針の解説8頁においては、

 「子会社や関連会社における法令違反行為の早期是正・未然防止を図るため、企業グループ本社等において子会社や関連会社の労働者等及び役員並びに退職者からの通報を受け付ける企業グループ共通の窓口を設置すること」

 が推奨される考え方・具体例として示されています。

 グループ内部通報制度の設計にあたっては、どこまでの範囲の子会社・関係会社が当該制度を利用できる立て付けにするか、海外子会社・関係会社を含める場合に言語面・調査対応面でどのような仕組みにするかといった諸論点を検討する必要があります。

(3)内部通報を促進するための仕組みを追加する

 別の視点として、内部通報を促進するための仕組みを追加することも考えられます。たとえば、組織ぐるみの不正が長期間にわたって横行しているケースでは、社会心理学でいうところの傍観者効果が発生し、当該組織の従業員が見て見ぬふりをし、誰も声を上げない事態に陥ってしまっていることがあります。

 そのようなケースに風穴を開けるべく、内部通報を動機付けるような仕組みを整備することは有効です。具体的には、自身の不正を自白する旨の通報をした者に対して懲戒処分等の減免を付与するという社内リニエンシー制度、内部通報を行った者に対して報奨金等を与える報奨制度、通報対象事実を知った者に通報を義務付ける制度などが考えられます。

 社内リニエンシー制度については、指針の解説11頁に、「推奨される考え方や具体例」として、「法令違反等に係る情報を可及的速やかに把握し、コンプライアンス経営の推進を図るため、法令違反等に関与した者が、自主的な通報や調査協力をする等、問題の早期発見・解決に協力した場合には、例えば、その状況に応じて、当該者に対する懲戒処分等を減免することができる仕組みを整備すること等も考えられる」との記載があります。

 また、指針の解説11頁には、「公益通報者等の協力が、コンプライアンス経営の推進に寄与した場合には、公益通報者等に対して、例えば、組織の長等からの感謝を伝えること等により、組織への貢献を正当に評価することが望ましい」との記載もあり、報奨制度そのものではないものの、公益通報者や調査協力者(公益通報を端緒とする調査に協力した者)への感謝を伝える制度が推奨されています。

 もっとも、このような制度には以下のようなリスクがあると考えられます。

  • 社内リニエンシー制度
    不正の首謀者が内部通報を行った場合に首謀者の責任が減免される反面、当該首謀者の指示に従っていただけの部下が重い懲戒処分等を受けることになった場合に不公平感が発生する

  • 報奨制度
    報奨金等を目当てとする内部通報が増加してリソース不足に陥る

  • 通報を義務付ける制度
    どの程度確度の高い情報を入手した場合に通報義務が生じるか不明確である中で、義務違反を回避すべく確度の低い情報を含む多数の内部通報がなされることにより、リソース不足に陥る

 それぞれの仕組みのメリットとデメリット、効用とリスクを適切に把握したうえで、自社の内部通報制度に組み込む必要性、および組み込む際の制度設計を吟味することが肝要です。

公益通報者保護法改正を踏まえた内部通報規程を策定・改訂する

 指針第4.3 (4) において、「この指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用する」と定められているため、内部通報制度の内部規程への落とし込みは必須となります。

 既存の内部通報規程が存在しない場合には新たに内部通報規程を策定し、既存の内部通報規程が存在する場合には当該規程の改訂を行うことになります。

 この点に関し、消費者庁のウェブサイト内では、「内部通報に関する内部規程例(遵守事項版)」と「内部通報に関する内部規程例(遵守事項+推奨事項版)」が公表されており、内部通報規程の条項のドラフトに際し、参考になります。

 もっとも、これらの内部規程例には、「本規程例は、内部通報制度を自社に導入するに当たりどのような規程を制定すれば良いのか分からないという事業者の声を踏まえ、著者が、消費者庁及び一般社団法人日本経済団体連合会共催のセミナーにおいて、著者による説明資料の補助資料として作成したものである。本規程は、消費者庁として公式に認定したものではなく、事業者による独自の定めを妨げるものではない。」という注釈が記載されており、消費者庁公認のものではない点に留意しておく必要があります。

内部通報制度の「運用」のポイント

 内部通報制度を整備した後、策定・改訂した内部通報規程に基づいて制度を運用することが求められます。きちんとした制度を整備しても、当該制度が形骸化し、適切に運用されなかった場合には、内部公益通報対応体制整備義務等違反に当たり得ることになります。

内部通報規程の履践・遵守

 内部通報制度の骨格は、内部通報を受け付け、通報内容を調査し、調査により法令違反等が判明した場合には是正措置等を講じるというプロセスであり、各過程において、内部通報規程の定めに従った手続を履践することは最低限必要となります。

 また、指針に基づいて新たに定められた記録の保管、運用実績の開示、内部通報制度の評価・点検・改善などについても、内部通報規程の定めを遵守する必要があります。

 内部通報制度の責任者や担当部署は、内部通報規程に基づくTo Doリストやチェックリストを作るなどして、抜け漏れなく対応することが肝要です。

通報者保護の徹底

 通報者を保護することは公益通報者保護法の主眼であり、指針でも「公益通報者を保護する体制の整備」は3つの柱の1つとなっています。

 公益通報をしたことを理由とした解雇や労働者派遣契約の解除は無効と定められており(改正公益通報者保護法3条、4条)、公益通報をしたことを理由とした不利益な取扱いも禁止されています(改正公益通報者保護法5条)。

 「不利益な取扱い」については、指針の解説13頁において、改正公益通報者保護法3条から7条までに定めるものを含め、以下のものが例示列挙されています。

改正公益通報者保護法で定める「不利益な取扱い」
  • 労働者等たる地位の得喪に関すること(解雇、退職願の提出の強要、労働契約の終了・更新拒否、本採用・再採用の拒否、休職等)
  • 人事上の取扱いに関すること(降格、不利益な配転・出向・転籍・長期出張等の命令、昇進・昇格における不利益な取扱い、懲戒処分等)
  • 経済待遇上の取扱いに関すること(減給その他給与・一時金・退職金等における不利益な取扱い、損害賠償請求等)
  • 精神上・生活上の取扱いに関すること(事実上の嫌がらせ等)

 また、指針第4.2 (1) では不利益な取扱いの防止に関する措置、指針第4.2 (2) では、「範囲外共有」(公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為)、および「通報者の探索」(公益通報者を特定しようとする行為)の防止に関する措置について定められています。

不利益な取扱いの防止に関する措置
  • 事業者の労働者及び役員等が不利益な取扱いを行うことを防ぐための措置をとるとともに、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる。
  • 不利益な取扱いが行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。
範囲外共有等の防止に関する措置
  • 事業者の労働者及び役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。
  • 事業者の労働者及び役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる。
  • 範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。

上記のとおり、不利益な取扱いの防止に関する措置としては、
① 予防措置
② 把握措置
③ 救済・回復措置
④ 懲戒処分等の措置
という4種類の措置が定められています。

範囲外共有等の防止に関する措置としては、
① 予防措置
② 救済・回復措置
③ 懲戒処分等の措置
の3種類の措置が定められています。


 一般に、不祥事予防・対応の文脈では、予防措置を講じて問題が起こる可能性を低減しつつ、問題の温床や芽が発生していないかの把握に努め、万一問題を発見した場合には被害の救済・回復措置を講じるとともに、問題を是正するプロセスが有効と考えられています。

 通報者保護の文脈で予防措置、把握措置、救済・回復措置、懲戒処分等の措置を列挙している点は、上記の不祥事予防・対応のプロセスに通底していると見ることができ、更にとるべき措置が明確化されており、事業者としてわかりやすい立て付けになっているといえます。

 具体的な措置の内容については、指針の解説13-15頁において、以上のものが例示列挙されています。

不利益な取扱いを防ぐための措置
  • 労働者等及び役員に対する教育・周知
  • 内部公益通報受付窓口において不利益な取扱いに関する相談を受け付ける
  • 被通報者が、公益通報者の存在を知り得る場合には、被通報者が公益通報者に対して解雇その他不利益な取扱いを行うことがないよう、被通報者に対して、その旨の注意喚起をする等の措置を講じ、公益通報者の保護の徹底を図る
不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置
  • 公益通報者に対して能動的に確認する
  • 不利益な取扱いを受けた際には内部公益通報受付窓口等の担当部署に連絡するようその旨と当該部署名を公益通報者にあらかじめ伝えておく
範囲外共有を防ぐための措置
  • 通報事案に係る記録・資料を閲覧・共有することが可能な者を必要最小限に限定し、その範囲を明確に確認する
  • 通報事案に係る記録・資料は施錠管理する
  • 内部公益通報受付窓口を経由した内部公益通報の受付方法としては、電話、FAX、電子メール、ウェブサイト等、様々な手段が考えられるが、内部公益通報を受け付ける際には、専用の電話番号や専用メールアドレスを設ける、勤務時間外に個室や事業所外で面談する
  • 公益通報に関する記録の保管方法やアクセス権限等を規程において明確にする
  • 公益通報者を特定させる事項の秘匿性に関する社内教育を実施する
公益通報に係る情報を電磁的に管理している場合のセキュリティ上の対策
  • 当該情報を閲覧することが可能な者を必要最小限に限定する
  • 操作・閲覧履歴を記録する
通報者の探索を行うことを防ぐための措置
  • 通報者の探索は行ってはならない行為であって懲戒処分その他の措置の対象となることを定め、その旨を教育・周知する

 なお、指針の解説14頁では、行政機関や報道機関等に対して公益通報をする者についても、不利益な取扱いが防止される必要があり、かつ範囲外共有や通報者の探索も防止される必要があると明記されています。この点も社内規程で定めたり、社内教育で周知したりするなどの対策を講じる必要があります。

 1件でも通報者が通報を行ったことを理由として不利益を被ってしまったケースが発生してしまうと、内部通報制度への信頼が失墜し、通報によって不利益を受けることを懸念して誰も通報しなくなってしまい、内部通報制度が機能不全に陥るおそれがあります。

 他方、通報者が不利益な取扱いを受けないように幾重にも予防策・発見策等が張り巡らされており、かつ通報者に不利益な取扱いをした者は懲戒処分等を受けることが全役職員に認識されれば、役職員は、通報者への不利益な取扱いのもたらす代償を理解し、通報者への不利益な取扱いを回避することが想定されます。

 実務的には、不利益取扱いの禁止に関する規定を厳格に運用するとともに、通報者に通報を理由として不利益を受けたと感じさせないようにすべく、事後対応にも細心の注意を払うことが肝要です。

役職員への教育・周知

 指針第4.3では、「内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置」の1番目に「労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置」が定められており、指針第4.3 (1) イ第1文では、労働者等及び役員並びに退職者に対しては「法及び内部公益通報対応体制」について教育・周知を行うとされています。

 指針の解説18-19頁では、「公益通報受付窓口及び受付の方法を明確に定め、それらを労働者等及び役員に対し、十分かつ継続的に教育・周知することが必要である」、「教育・周知に当たっては、単に規程の内容を労働者等及び役員に形式的に知らせるだけではなく、組織の長が主体的かつ継続的に制度の利用を呼び掛ける等の手段を通じて、公益通報の意義や組織にとっての内部公益通報の重要性等を労働者等及び役員に十分に認識させることが求められる」と記載したうえで、以下の事項を呼び掛けることが示されています。

公益通報の意義や組織にとっての内部公益通報の重要性等に関する教育・周知
  • コンプライアンス経営の推進における内部公益通報制度の意義・重要性
  • 内部公益通報制度を活用した適切な通報は、リスクの早期発見や企業価値の向上に資する正当な職務行為であること
  • 内部規程や法の要件を満たす適切な通報を行った者に対する不利益な取扱いは決して許されないこと
  • 通報に関する秘密保持を徹底するべきこと
  • 利益追求と企業倫理が衝突した場合には企業倫理を優先するべきこと
  • 上記の事項は企業の発展・存亡をも左右し得ること
内部公益通報対応体制の仕組みに関する教育・周知
  • 内部公益通報受付窓口の担当者は従事者であること
  • 職制上のレポーティングライン(いわゆる上司等)においても部下等から内部公益通報を受ける可能性があること
  • 内部公益通報受付窓口に内部公益通報した場合と従事者ではない職制上のレポーティングライン(いわゆる上司等)において内部公益通報をした場合とでは公益通報者を特定させる事項の秘匿についてのルールに差異があること(具体的には、内部公益通報受付窓口に内部公益通報した場合においては、刑事罰付の守秘義務を負う従事者が対応することとなること、職制上のレポーティングライン(いわゆる上司等)への報告や従事者以外の労働者等及び役員に対する報告も内部公益通報となり得るが従事者以外は必ずしも刑事罰で担保された守秘義務を負うものでないこと、従事者以外の者については社内規程において範囲外共有の禁止を徹底させていること等)
公益通報者保護法に関する教育・周知
  • 法について教育・周知を行う際には、権限を有する行政機関等への公益通報も法において保護されているという点も含めて、法全体の内容を伝える
組織の長その他幹部に対する教育・周知
  • 内部公益通報対応体制の内部統制システムにおける位置付け、リスク情報の早期把握がリスク管理に資する点等について教育・周知する

 指針の解説18頁脚注34では、「法に定める退職後1年以内の退職者についても教育・周知が必要である」と記載されており、指針の解説19頁では、「在職中に、退職後も公益通報ができることを教育・周知する」という方法が例示されています。

 さらに、指針の解説20頁では、企業グループ共通のホットラインを設けるなど、労働者等および役員以外も利用できるグループ内部通報制度を構築している場合には、その制度の利用者すべて(たとえば、子会社の労働者等および役員)に対して教育・周知することが望ましいと記載されています。

 事業者においては、これらを踏まえて具体的な教育・周知方法を練り上げることになります。指針の解説19頁には、以下の方法が例示列挙されていますが、どの方法が自社にとって最適であるかは各社で吟味する必要があります。

  • その内容を労働者等及び役員の立場・経験年数等に応じて用意する(階層別研修等)
  • 周知のツールに多様な媒体を用いる(イントラネット、社内研修、携行カード・広報物の配布、ポスターの掲示等)
  • 内部公益通報対応体制の内容、具体例を用いた通報対象の説明、公益通報者保護の仕組み、その他内部公益通報受付窓口への相談が想定される質問事項等をFAQにまとめ、イントラネットへの掲載やガイドブックの作成を行う

 内部通報制度を利用するすべての者に対して、制度の概要や重要性を理解してもらうことは容易ではありません。急がば回れの精神で、地道で粘り強い教育・周知活動を継続することが肝要です。

従事者への教育

 指針第4.3 (1) イ第2文では、「従事者に対しては、公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分に教育を行う」と定められています。

 これに関し、指針の解説19-20頁では、「定期的な実施や実施状況の管理を行う等して、通常の労働者等及び役員と比較して、特に実効的に行うことが求められる。法第12条の守秘義務の内容のほか、例えば、通報の受付、調査、是正に必要な措置等の各局面における実践的なスキルについても教育すること等が考えられる」との説明がなされています。

 「通報の受付、調査、是正に必要な措置等の各局面における実践的なスキル」に関する教育をどのように行うかは悩ましい問題かと思います。通報の受付の場面においては通報内容の見極めや通報者とのコミュニケーション、調査の場面においては関係者へのヒアリングや客観証拠の収集・分析、是正に必要な措置等の場面においては原因分析や再発防止策の策定など、各場面において従事者は様々なタスクを担うことになります。

 そして、各場面において、従事者は個別具体的な事案に応じて特に難しい判断を求められることもあります。

 仮想事例を用いて各場面の論点やノウハウを紹介する研修、従事者を集めて討議を行うワークショップなど、教育方法は様々なものが考えられますが、自社の実態を踏まえて、従事者が理解しやすい形でスキルやノウハウを伝授し、従事者が直面する問題に適切に対処できるようトレーニングしていくことが肝要です。

終わりに

 日本を代表するような企業における深刻な不祥事が後を絶たない昨今の状況に鑑み、不祥事の予防は現代の企業における最重要課題の1つになっているのではないでしょうか。企業不祥事に関する調査報告書内に記載された原因分析において、内部通報制度の機能不全や形骸化が指摘されることも多く、内部通報制度の問題と不祥事の発生との間には密接な関連性があることがうかがえます。
 内部通報制度は企業不祥事の早期発見に役立つ仕組みであると同時に、適切に整備・運用されることにより、不祥事の予防にも資する仕組みであると考えられます。

 改正公益通報者保護法の施行を契機として内部通報制度の見直しや内部通報規程の改訂を行うことは非常に重要ですが、内部通報制度が真価を発揮するためには当該制度の適切な運用が不可欠となります。本稿がその一助となりましたら幸いです。

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