令和3年特定商取引法改正の影響度と実務対応 通信販売における詐欺的商法への対策、事業者が交付すべき書面のデジタル化、クーリング・オフ通知のデジタル化
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目次
5つの改正項目のうち実務に影響の大きい3項目
令和3年6月9日、特定商取引に関する法律(以下「特商法」といいます)の一部を改正する法律案が成立し、同月16日に公布されました。
いわゆる送り付け商法への対策については令和3年7月6日に施行され、事業者が交付すべき書面のデジタル化に関する改正は今後の政令によって施行日が決まりますが、その他の改正項目は令和4年6月1日から施行されることとされました(後述の「改正項目一覧」参照)。
- 消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律の概要
- 新旧対照条文:消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律
衆議院の資料
特商法とは、消費者トラブルが起きやすい特定の商取引について、トラブル回避のための規制やクーリング・オフ制度を設けることで、取引の公正を保ち消費者被害防止を図る法律です。
「特定の商取引」といっても、その範囲は比較的広く、通信販売、訪問販売、電話勧誘販売に加えて、特定継続的役務提供(一部の語学教室や美容医療等)も範疇であり、令和3年改正も幅広い事業者の活動に影響を与え得るものとなっています。
同改正については下記一覧表のとおり、大きく5つに分類することができます。
本稿では、より実務への影響が大きいと予想される、通信販売における詐欺的商法への対策(下記2)、事業者が交付すべき書面のデジタル化(下記3)、クーリング・オフ通知のデジタル化(下記4)について詳述します。
なお、本稿では、改正後の特商法を「改正法」と記載し、改正後の条文を「改正◯条」と記載します。また、令和3年6月4日付けの消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議を「附帯決議」と記載します。
改正項目一覧
改正項目 | ポイント | 影響度 | 施行日 |
---|---|---|---|
通信販売における詐欺的商法への対策 |
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〇 | 令和4年6月1日 |
送り付け商法への対策 |
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× | 令和3年7月6日(施行済み) |
事業者が交付すべき書面のデジタル化 |
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◎ | 令和5年6月15日までの範囲で、政令で定める日 ※ |
クーリング・オフ通知のデジタル化 |
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◎ | 令和4年6月1日 |
外国執行当局の情報提供制度や行政処分の強化 |
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△ | 令和4年6月1日 |
※ 附則1条3号。内閣による法案作成時は、他の改正項目と同様、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行とされていました。
しかし、国会審議では、交付書面のデジタル化について、消費者の承諾の取得方法等に関する具体的な定めをどのようにするかを、消費者被害への影響を考慮したうえでさらに検討することが求められました。そのため、今後の検討に要する時間を考慮して衆議院で法案が修正され、施行までの期間が1年から2年に伸長されました。
詐欺的商法への対策は、定期購入でないと消費者に誤認させて不正な利益を得ようとする悪質な事業者の排除を目的としていますが、広告や申込画面に表示するべき内容に変更があるので、通信販売に携わる事業者、特に役務提供事業者は対策が必要です。
また、事業者が交付すべき書面のデジタル化は、事業者の今後のビジネススキームにかかわることが予想されるため、改正案が政令等でどのように具体化されていくかを注視する必要があります。
さらに、クーリング・オフ通知がデジタル化したことで、事業者は窓口や受付体制を整えるなどこれに対応する必要があります。
下記2以降では、こうした改正法の骨子をみながら、今後実務で求められる可能性のある対応策を予想していきます。
通信販売における詐欺的商法への対策
表示ルールの適用対象拡大・厳格化等
令和3年改正法は、定期購入契約であることを秘して消費者に契約を結ばせる詐欺的定期購入の被害相談が近年急増していることを背景に、事業者が表示しなければならない広告内容や消費者の申込時の表示内容を、法律で直接規定するものです。これに伴い、法定する申込時の表示内容を表示しない、または虚偽の表示を行う事業者への罰則規定も設けられました(改正14条、15条)。
また、表示違反が原因で誤認に陥ったことで行った申込みに対して取消しを認める、民事上の救済制度も設けられました(改正15条の4)。
さらに、法定返品制度に関連して申込みの撤回または解除を妨害する不実の告知行為は禁止され(改正13条の2)、違反する事業者は罰せられます(改正14条、15条)。
そして、こうした定期購入でないと誤認させる表示や法定返品権の解除妨害等は適格消費者団体による差止請求の対象となります(改正58条の19)。
広告に表示すべき内容の変化と実務で求められること
現行法11条は、広告をする場合に契約の主な事項を広告に表示する義務を規定し、表示すべき項目のうち重要なものについては同条で直接規定していますが、その他の項目については法律ではなく省令(特定商取引に関する法律施行規則)8条で規定しています。
今回の改正法では、法律で規定する表示項目について一部追加(改正11条4号)および対象を拡大(改正11条5号)する改正がされました。
また、令和4年1月4日公布の改正施行規則でも、対象の範囲が一部拡大しました(省令8条7号等)。
こうした変更は、以下のとおり、今後の実務へ影響を与えます。
(1)「定期役務提供契約」について定期契約である旨等の表示を義務化
現行法では、省令8条7号で、定期購入契約の場合には「その旨及び金額、契約期間その他の販売条件」を広告に表示することが求められていました。しかし、その文言上、適用対象は「商品の売買契約」のみであったことから、定期役務提供契約(たとえば、サブスクモデルのサービス提供)についてはこの広告表示規制からは除外されるものと解されていました。
今回の改正法では、このような限定がなくなり、定期役務提供契約についても上記事項を広告に表示することが義務化されました(改正11条6号、改正施行規則8条7号)。
(2)「役務提供契約」についても申込みの撤回または解除の定めの表示を義務化
クーリング・オフ類似の法定返品制度と連動する形で広告表示事項とされていた、申込みの撤回または解除に関する事項 1 について、その対象が売買契約だけでなく、役務提供契約にも広がります(改正11条5号)。これにより改正後は、役務提供契約についても、申込みの撤回または解除の定めを広告に明示しなければなりません。
なお、申込みの撤回は観念し得るとしても、役務提供契約の解除については、一度提供した役務を契約前の状態に戻すこと(いわゆる「巻き戻し」)はそもそも観念しがたいと思われます。そのため、法定返品制度の対象外とされていますが、この点については変更がなかったため、法定返品制度による裏付けがない中で表示義務だけが規定されることになるものと考えられます。
現在も、特商法上の表記として、「役務であるため、その性質上、返品や返金には応じられません」といった記載を任意で行っている事業者もありますが、今後はすべての役務提供事業者がこうした記載をしなければならないことになります。
どのような記載が必要となるかについては、今後の通達やガイドライン等で詳細を確認することになるでしょう。
広告に表示すべき事項(特商法11条)に関する改正
申込画面に表示すべき内容の変化と実務で求められること
現行法では、商品の売買契約および役務提供契約の申込み画面の具体的な表示内容を規定する法律の定めはなく、いずれも法14条1項2号・省令16条1項に基づく「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドライン」で規定されています。このガイドラインの中で、商品についての定期購入契約の場合、消費者による申込みの際に、契約期間(商品の引渡しの回数)、金額(各回ごとの代金、送料および支払総額)、その他特別の販売条件が定められるべき旨が規定されていました。
改正法では、法律レベルで、販売価格等、支払時期、権利移転時期、申込みの期間についての定め、売買契約および役務提供契約の申込みの撤回または解除、商品等の分量を表示すべき旨が定められました(改正12条の6)。
これによって、申込画面に表示する内容について、現行法のもとではガイドラインあるいは事業者の判断に委ねられていた部分が、改正法では明確に法定されました。さらに、定期購入契約の場合の表示義務が、商品だけでなく権利や役務も対象になることや、申込みの撤回または解除についての表示義務も、売買契約だけでなく役務提供契約も対象になることとなりました。
現状、こうした内容を申込画面に表示していない事業者は、改正法施行までの間に注意して対応する必要があります。
申込画面に表示すべき内容と違反への対応
現行(ガイドライン) | 改正法(改正12条の6にて法定) | |
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定期購入契約以外の契約 |
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定期購入契約 | (商品の定期購入のみが対象)
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(商品や権利の定期購入、役務提供の定期購入が対象)
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(違反への対応) |
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なお、改正12条の6の解釈および具体例が、「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」にて示されました。また、改正特商法の施行後は、省令16条1項1号から3号が削除されるとともに、「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドライン」は事実上廃止され、「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」に特商法1条1項2号および省令16条1項の考え方も記載されることとなりました。
詳しくは、「「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」を踏まえた実務対応のポイント」をご覧ください。
事業者が交付すべき書面のデジタル化
改正背景とデジタル化の対象
近年、あらゆる分野についてデジタル化が進められ、新型コロナウイルス感染症の影響で、この動きはますます激しくなっています。特商法の分野でも、昨今、消費者・事業者の外出が制限されていることもあり、対面での契約書等の交付が難しい場面が増えました。
こうした背景から、改正法では、現行法でもデジタル化への対応がされていた通信販売を除き、事業者が交付しなければならない契約書面等について、消費者の承諾を得て、電磁的方法(電子メール送信等)で行うことも可能になりました。
交付書面デジタル化の対象
業務形態 | 根拠条文 |
---|---|
訪問販売 | 改正4条2項・3項 |
通信販売 | 交付書面の規定自体なし (承諾メールについて、通知は現行法13条2項ですでにデジタル化対応済み) |
電話勧誘販売 | 改正18条2項・3項 |
連鎖販売契約 | 改正37条3項・4項 |
特定継続的役務提供 | 改正42条4項・5項 |
業務提供誘引販売取引 | 改正55条3項・4項 |
訪問購入 | 改正58条の7第2項・3項 |
消費者からの承諾を適法に得るための方法は未確定
書面の交付を電磁的方法に代替する場合、「政令で定めるところにより、当該申込みをした者の承諾を得」る必要があり、今後政省令でどのような定めがされるかが重要となります。
事業者が交付するべき書面のデジタル化については、悪徳事業者が法改正を悪用して、消費者が納得しないうちに契約締結に至らせるのではないかという心配の声があがっているほか、高齢者や若者が不利な契約をした場合に周囲が発見できないなどの懸念も指摘されています。こうした懸念点に対応すべく、承諾の取得方法について政省令で適切に規定するように附帯決議もなされています。
実際、消費者庁取引対策課の笹路健課長は、政府規制改革推進会議で、「本人が納得していないものは承諾とは言えず、電磁的な交付をしても書面交付義務を満たしたことにならない。(中略)形ばかりの承諾が悪質事業者に利用されることは絶対に阻止することは必須。」「高齢者に配慮する必要があり、原則書面は維持する。」と説明しています。また、消費者の「承諾」が、交付書面のデジタル化によって予想される弊害を回避するためのセーフティネットであることに配慮して、「消費者の承諾」要件を厳格に定めることで消費者トラブルを回避する意向を示しています 2。
さらに、参議院での審議における5月28日の高田潔消費者庁次長答弁の中には、オンラインで完結する取引については電子メールでの承諾を認め、それ以外については紙での承諾を必要とする提案もなされています 3。
そして、仮に適切に承諾をとっていないと判断された場合は、行う事業に応じて懲役または罰金が科せられます(法71条等)。
具体的な承諾取得方法については、今後の議論に委ねられることになっていますが、上記のような議論の状況を踏まえると、消費者の真意に基づく承諾といえるかという観点から、たとえば、デジタル機器に不慣れな高齢者や障がい者およびトラブルに巻き込まれやすい若者に配慮するなどした、厳格なルールが定められることが想定されます。
今後定められる政省令によって、書面での承諾を取得することが一律に求められるとしたら、事業者にとっての手続的負担が、書面交付の場合と実質的に変わらないことも考えられます。
交付書面のデジタル化によって、コストの削減やビジネスの可能性を広げることを検討する事業者においては、消費者からの承諾を適法に獲得するための方法がどう定められるかについて、今後の動向に注視すべきと思われます。
また、クーリング・オフ制度への波及効果も考えられます。具体的には、クーリング・オフ期間は「書面を受領してから8日」と定められているところ、ここでいう「書面」に電子メールも含まれることとなる結果、電子メールを受領しさえすればクーリング・オフ期間が進行してしまうのかという問題点があります。
この点について、電子メールを開封しなければ、クーリング・オフの起算点が進行しないとする議論もあります。デジタル化された場合の書面の「受領」とは何を意味するかも含め、具体的な要件設定についても、今後、政省令等で定まっていくことになります 4。
クーリング・オフ通知のデジタル化
改正背景とデジタル化の対象
事業者の契約書等交付のデジタル化が進められることで、消費者の保護をより徹底させるべきとの意見が強くなりました。そこで、クーリング・オフを電磁的方法でも行えるようにすることが求められ、改正法に盛り込まれました。 具体的には、条文が次のように修正されましたが、その影響は小さくありません。
「書面により…申込みの撤回又は…契約の解除…を行うことができる。」
改正法:
「書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)により…申込みの撤回又は…契約の解除…を行うことができる。」(改正9条1項等)
従来、クーリング・オフについては、契約内容等を記載した法定書面を受領してから起算して8日以内に書面を発送しなければならないとされていました。改正後は、書面に代わり電子メールの送付やUSBメモリの送付といった電磁的記録による方法でも行うことができるようになり、8日以内に電磁的記録を送付することで代替できます(改正9条2項等)。
また、電磁的記録によるクーリング・オフとしては、電子メールやUSBメモリの送付以外に、事業者が自社のウェブサイトに設けるクーリング・オフ専用フォーム等やFAXを用いたクーリング・オフも想定されています。
なお、内閣が作成した法案では対応されていませんでしたが、衆議院で修正されたことにより、電磁的記録によるクーリング・オフも書面と同じく発信主義となりました(改正9条2項等)。
クーリング・オフ通知デジタル化の対象と発信期限
業務形態 | 根拠条文 | 発信期限 |
---|---|---|
訪問販売 | 改正9条 | 8日以内 |
通信販売 | 規定なし (類似の法定返品制度あり。法15条の3) |
規定なし (類似の法定返品制度は8日以内に到達する必要) |
電話勧誘販売 | 改正24条 | 8日以内 |
連鎖販売契約 | 改正40条 | 20日以内 |
特定継続的役務提供 | 改正48条 | 8日以内 |
業務提供誘引販売取引 | 改正58条 | 20日以内 |
訪問購入 | 改正58条の14 | 8日以内 |
実務上必要となる体制整備の内容
事業者側の対応としては、契約書面等に電磁的記録でのクーリング・オフが可能であることを記載しなければなりません。そのため、契約書面等の改訂が必要となります。
その際、電子メールなどを用いた消費者からのクーリング・オフに対して適切に対応できるように、窓口や受付体制を整備する必要があります。たとえば、「電子メールでクーリング・オフを行う場合には、以下のアドレスにお送りください」など合理的な受付方法を契約書面等に記載するとともに、記載に応じた受付体制を整備しておくことが考えられます。
「特定商取引法における電磁的記録によるクーリング・オフに関するQ&A」においても、「合理的な範囲内でクーリング・オフに係る電磁的記録による通知の方法を特定し、それを契約書面等に記載することにより、事業者が確認しやすいクーリング・オフに係る電磁的記録による通知の方法を示すことは妨げられるものではありません」と明記されており、合理的な範囲であれば、事業者が確認しやすい電磁的記録による通知方法を示すことが許容されています。
他方で、同じQ&Aにおいて、「事業者において一方的に通知の方法を不合理なものに限定すること(例えば、電子メールでアポイントを取るような訪問販売においてクーリング・オフを書面のみに限定し、電子メールによる通知を受け付けない場合(中略)等)はクーリング・オフの方法を制限する消費者に不利な特約に該当し、無効となるもの(特定商取引法第9条第8項等)と考えられます」とも明記されていますので、クーリング・オフを受け付ける方法の合理性については確認が必要となります。
さらに、電子メールでのクーリング・オフについては、クーリング・オフ専用のメールアドレスを用意し、クーリング・オフのメールを受信した際の自動返信機能を導入することも一案として考えられます。このようにすることで、クーリング・オフ通知メールの送受信について消費者と認識に食い違いがあった場合に、メールの発信時にエラーがあったことの証明手段の1つとするといった自己防衛策とすることも考え得るためです。
消費者保護法制をめぐる今後の議論の方向性と留意点
今回の改正では、改正についての検討会であがっていた論点はすべて盛り込まれています 5。ここでは、同検討会の議題や改正法には盛り込まれなかったものの、消費者トラブルに関する問題として今後の議論が予想される論点をご紹介します。
これまで、消費者契約法をはじめとする消費者保護法制においては、民法上の詐欺・脅迫には至らないものの一定の悪質性のある行為類型として、「誤認型」の不当勧誘(不実告知、不利益事実の不告知、断定的判断の提供)や、「困惑型」の不当勧誘(不退去・退去妨害)を念頭に置いて、その対応策の強化等が講じられてきました。
これに対し近年、消費者保護の視点から、消費者が適切に判断できない場合をさらに広く捉えるべきとの視点が指摘されています。
具体的には、令和4(2022)年4月から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられることとの関係から、「若年者つけ込み型契約取消権」の検討がなされています。若年者つけ込み型契約取消権とは、若年者が社会生活上の経験に乏しいことにつけ込んで契約が締結された場合に、若年者に取消権を認める救済規定です。平成30(2018)年の消費者契約法改正の際に、同法4条3項3号にて先駆け的に導入されました。
もっとも、同改正で消費者トラブルの大半を解決できたわけではありません。改正された規定の実効性について疑問視する意見もあるため、若年者つけ込み型契約取消権の議論は現在も引き続き行われています。
その中では、「若年者」であることや「社会生活上の経験が乏しい」ことを要件とするのではなく、広く消費者の心理等に働きかけるような事業者の行動(このような事業者の行動は「ダークパターン」と呼ばれるようになっています)に対して取消権を認めるべきではないかという議論が盛んになってきています。
消費者の心理等に働きかけるような事業者の行動(ダークパターン)
① 判断力低下つけ込み型 | 消費者が加齢または心身の故障により判断力が著しく低下している場合に事業者がこれを知りながら契約の締結を迫る場合(消費者契約法4条3項5号等) |
② 困惑型 | 強迫類似の方法や霊感商法など、消費者が合理的な判断をすることができない事情を知りながらこれに乗じて契約の締結を迫る場合(消費者契約法4条3項6号等) |
③ 浅慮型 | 交友関係に乗じるなどして、その場での契約締結の締結を迫る場合 |
④ 幻惑型 | 消費者が過大な期待を抱いていることを知りながらその期待を煽って契約の締結を迫る場合 |
しかし、同取消権の要件をどのように規定するかをめぐって検討は難航しており、いまだ着地点は見いだされずにいます。たとえば、令和3年2月12日に開かれた消費者庁の「消費者契約に関する検討会」では、その場での契約締結を迫る「浅慮型」の規定について、以下のいずれかの場合に該当する場合に契約が取り消せる旨の案が議論の俎上に載りました 。
- 広告と勧誘内容が不一致の場合
- 勧誘者と交友関係がある場合
- 勧誘者が専門家である場合
- 長時間にわたる勧誘の場合
これに対して、「専門家」とは何を意味するか(有資格者に限るのか)、「長時間」とはどの程度のものを指すのか、「浅慮」に陥ったことを要件に加えるべきかなどの意見が出ており、しばらくは議論が続くことが見込まれます。
また、消費者が過大な期待をしていることを知りながらその期待を煽る「幻惑型」に着目した取消権についても、議論がまとまらず、今回の検討会では法改正が見送られました。「幻惑型」については、しばらくは消費者契約法4条3項3号の規定の解釈で対応するものとされ、将来の課題として保留されています。
今後の立法の課題として、こうしたダークパターンへの対応として、特商法と消費者契約法の両面から法改正が必要ではないかとの指摘がされており、引き続き議論が行われることが予想されますので、いっそうの注視が求められます。
2022年4月27日:「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」(令和4年2月9日付通達別添7)の公表を受け、2−3について追記いたしました。
-
通信販売の際、消費者が契約を申し込んだり、契約をしたりした場合でも、その契約に係る商品の引渡し(特定権利の移転)を受けた日から数えて8日間以内であれば、消費者は事業者に対して、契約申込みの撤回または解除ができ、消費者の送料負担で返品ができます。もっとも、事業者が広告であらかじめ、この契約申込みの撤回または解除につき、特約を表示していた場合は、特約によります。 ↩︎
-
日本消費経済新聞2319号3頁(令和3年1月15日) ↩︎
-
令和3年7月30日に「第1回特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会」が開かれました。 ↩︎
-
なお、デジタル・プラットフォームに関する論点については、「取引デジタル・プラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」(施行日:令和4年5月1日)に、既に一部盛り込まれています(消費者庁「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(条文)」)。 ↩︎

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