令和4年消費者契約法改正の影響度と実務対応 不当勧誘の契約取消権、サルベージ条項の無効、解約料の説明等の努力義務
取引・契約・債権回収 公開 更新
目次
5つの改正事項
令和4年5月25日、消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律が成立し、同年6月1日に公布されました。
消費者契約法の改正部分については令和5年6月1日から施行され 1、消費者裁判手続特例法の改正部分については令和5年10月1日から施行されます。
本稿では、そのうち消費者契約法の改正部分について、改正内容と実務対応のポイントを紹介します。なお、以下では、消費者契約法の法令名を省略し、本改正を「令和4年改正」といいます。
- 消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正(概要)(消費者庁)
- 消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律(新旧対照条文)(消費者庁)
- 消費者契約に関する検討会報告書(令和3年9月、消費者庁)
- 消費者契約法専門調査会報告書(平成29年8月、消費者委員会 消費者契約法専門調査会)
- 逐条解説(令和5年2月、消費者庁)
消費者契約法は、消費者と事業者との間の消費者契約に適用される法律であって、消費者を相手にしてビジネスを行う事業者に幅広く適用されます。同法は、一定の場合に契約(正確には契約の意思表示)を取り消すことができる取消権を消費者に付与するとともに、特定の契約条項を無効とするものであり、消費者を不当な契約の拘束力から解放する点で消費者保護法の基本法と位置付けられる法律です。
消費者契約法は民事法の1つで、個々の消費者が裁判外または裁判上で請求することになります。さらに、消費者契約法に違反した事業者に対しては、消費者に代わって適格消費者団体が差止請求する権利が、また特定適格消費者団体が消費者裁判手続特例法に基づく訴訟を提起する権利(対象となる消費者は、同訴訟を通じて被害回復が受けられます)が付与されています。近年では特に差止請求が一定の成果を上げており、実務における重要性がいっそう高まっています。
消費者契約法の令和4年改正の主要なポイントは、下記一覧表のとおり、大きく5つです。本稿では、これらのうち、主要な4つの改正事項を解説したうえで、同時に改正され、消費者契約法の実効性の確保という点で関連する消費者裁判手続特例法の改正についても必要な限度で説明します。
改正項目一覧
改正項目 | ポイント | 条番号 | 重要度 |
---|---|---|---|
不当勧誘 契約の取消権を追加・拡充 |
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4条3項3号、4号、9号 | △ |
不当条項 免責の範囲が不明確な条項の無効 |
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8条3項 | ◎ |
中途解約時の解約料 事業者が説明する努力義務を新設 |
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9条2項 | ◯ |
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12条の4 | ||
情報提供・開示 事業者の努力義務の拡充 |
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3条1項2号 | ◯ |
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3条1項3号 | ||
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3条1項4号 | ||
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12条の3および5 | ||
適格消費者団体の事務 |
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14条2項 | × |
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31条 |
下記2以降では、まず、消費者契約法の全体像を解説したうえで、改正の骨子を確認しながら、今後実務で求められる可能性のある対応策を検討します。
「不当勧誘の取消し」「不当条項の無効」とは何か
民法の基本的原則として、契約が成立すればその内容は契約当事者を拘束します。しかし、消費者と事業者との間には構造的な格差があることから、かかる原則をそのまま適用すべきではなく、消費者契約法においては、同法所定の場合に消費者が契約に拘束されないようにすることで、消費者保護を図ることとされています。
具体的には、消費者契約法には以下のような規定があります。
- 事業者が不当な勧誘をし、それによって消費者が誤認等した場合に、契約(意思表示)を取り消して当初からなかったことにするもの(いわゆる「不当勧誘の取消し」、類型は下記表に列挙)
- 契約の内容に着目し、不当な契約条項がある場合には、契約自体は有効としつつ、当該条項のみ無効とするもの(いわゆる「不当条項の無効」)
そして、消費者契約法の問題とは、事業者の視点からみると、「合意した契約の内容に従ってほしい」と消費者に主張できるのかという形で論じられる問題といえます。たとえば、不当条項の無効を例にとれば、契約条項に中途解約時の違約金の規定があったとしても、その内容が消費者契約法9条に違反するのであれば、違約金を支払わない消費者に対して、「違約金の規定がある契約に合意したので、規定どおりに違約金を支払う義務がある」と主張できないことになるという問題だと整理できます。
不当勧誘と不当条項に対する消費者契約法上の効果
契約の取消権の追加
契約取消権の意義と今回の追加条文
事業者による不当な勧誘に消費者が影響を受け、契約の内容や必要性を誤認したり、自らの欲求の実現に適合しない契約を締結することがあります。
消費者契約法は、消費者と事業者の間に構造的な格差が存在することを根拠に、こうした事業者の不当な勧誘によって消費者が誤認・困惑等して契約を締結した場合に、民法の詐欺や強迫(民法96条1項)が成立するか否かにかかわらず、消費者契約が定める所定の場合には消費者は契約の申込みまたは承諾の意思表示を取り消すことで契約の拘束力を否定できることを定めています(4条)。すなわち、契約に向けた消費者の意思表示が取り消された場合、契約は遡及的に無効となることから(民法121条)、消費者が支払った金銭は不当利得返還請求の対象となり、事業者に返還義務が生じます(6条の2)。
消費者契約法は、このように不当な勧誘について民法96条1項の要件を緩和するとともに、同項の抽象的な要件を具体化・明確化し、消費者の立証責任を軽くしている点に重要な意義を有します。令和4年改正は、不当勧誘のうち、困惑類型(本当は契約を締結したくないと考えている消費者に対して、契約を締結してしまう程度に心理的な負担をかける方法で勧誘を行うこと)に以下の3つの類型をそれぞれ追加しました。条文については以下のとおりです。
① 勧誘をすることを告げずに、退去困難な場所に同行し勧誘した場合
当該消費者に対し、当該消費者契約の締結について勧誘をすることを告げずに、当該消費者が任意に退去することが困難な場所であることを知りながら、当該消費者をその場所に同行し、その場所において当該消費者契約の締結について勧誘をすること。
② 威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害した場合
当該消費者が当該消費者契約の締結について勧誘を受けている場所において、当該消費者が当該消費者契約を締結するか否かについて相談を行うために電話その他の内閣府令で定める方法によって当該事業者以外の者と連絡する旨の意思を示したにもかかわらず、威迫する言動を交えて、当該消費者が当該方法によって連絡することを妨げること。
③ 契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にした場合
当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該消費者契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の全部若しくは一部を実施し、又は当該消費者契約の目的物の現状を変更し、その実施又は変更前の原状の回復を著しく困難にすること。
※下線部分が改正による追記箇所
各規定の解説と実務上の対応
(1)勧誘をすることを告げずに、退去困難な場所に同行し勧誘した場合(4条3項3号)
従来の消費者契約法においても、消費者に対して物理的・場所的な制約を課し困惑させる勧誘類型として、不退去(お願いしても帰ってくれない)や退去妨害(帰りたいのに帰してくれない)が規制されていました。
退去困難な場所への同行(4条3項3号)は、これら(特に「退去妨害」)の延長線上にある規定と位置付けることができます。すなわち、退去妨害が消費者を特定の場所からの移動を制限する行為であるのに対して、退去困難な場所への同行は、そもそもそのような場所へ消費者を同行させること自体を規制するものであり、従来の規制の前段階をもって事業者の不当な勧誘行為と定義し、消費者が困惑して契約締結することを防ぐことになります。また、消費者庁による「逐条解説(令和5年2月)」(以下単に「逐条解説」といいます)でも本規定の趣旨について次のように解説されています。
すなわち、「同行した」ことが要件検討の出発点となり、退去困難な場所での勧誘がすべて対象となるわけではありません。逐条解説では、たとえば、飛行機に自発的に搭乗した消費者に勧誘を行う場合、機内は「当該消費者が任意に退去することが困難な場所」に該当するものの、事業者が「その場所に同行し」たわけではないため、本規定により契約を取り消すことはできないものと考えられています。
また、「当該消費者が任意に退去することが困難な場所であることを知りながら」という要件も追加されており、任意に退去することが困難であることを事業者が知らなかったときも、本規定により契約を取り消すことはできないものと考えられています。この点、逐条解説は、かかる場合には「勧誘行為には取消しに値する程の不当性はないものと考えられる」といった考え方が示されています。
条文の文言との関係では、(ⅰ)「当該消費者が任意に退去することが困難な場所」や(ⅱ)「勧誘をすることを告げずに」の解釈がポイントになると思われます。
(ⅰ)消費者の任意の退去が困難であるか否かは、当該消費者の事情を含む諸般の事情から客観的に判断されます。たとえば、逐条解説では、「当該消費者が任意に退去することが困難な場所」として以下の2つが例示として挙げられています。
- 消費者が車で人里離れた勧誘場所に連れて行かれた場合、帰宅する交通手段がないのであれば、消費者が任意に退去することは困難である
- 階段の上り下りが困難といった身体的な障害がある消費者が、階段しかない建物の2階に連れて行かれた場合も、任意に退去することは困難である
(ⅱ)については、どの程度の事項を告げたら勧誘することを告げたと扱われるのか等、具体的な解釈によって事業者の勧誘活動への影響度合いは異なることになりますが、逐条解説では明記されていません。
以上を踏まえつつ、事業者としては、同規定の趣旨や裁判所の判断などに注視し、必要に応じて勧誘に関するマニュアル等を整備・変更する必要があります。
(2)威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害した場合(4条3項4号)
相談の連絡妨害(4条3項4号)も、退去妨害の延長線上にある規定と位置付けることができます。すなわち、退去妨害は、消費者が退去の旨の意思を示したにもかかわらずその場所から消費者を退去させない類型であるのに対して、相談の連絡妨害は、「退去」より広く「連絡」の妨害行為があったことをもって不当な勧誘として規制する類型であり、消費者によっては退去すべき旨の意思の表明と比べて心理的プレッシャーが低い場合もある第三者との連絡の意思の表明への妨害を規制することで、消費者保護の実効性を高めます。
条文の文言との関係では、(ⅰ)「相談を行うために電話その他の内閣府令で定める方法によって」、(ⅱ)「当該事業者以外の者と連絡する旨の意思を示したにもかかわらず」や(ⅲ)「威迫する言動」の解釈がポイントになると思われます。
このうち、(ⅰ)の内閣府令については、消費者契約法施行規則1条の2において、次のように規定されています。
法第4条第3項第4号の内閣府令で定める方法は、次に掲げる方法その他の消費者が消費者契約を締結するか否かについて相談を行うために事業者以外の者と連絡する方法として通常想定されるものとする。
一 電話
二 電子メール(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成14年法律第26号)第2条第1号に規定する電子メールをいう。以下同じ。)その他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。)を送信する方法
逐条解説では、「その他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」について、いわゆるSNSのメッセージ機能が例示されていますが、これに限られるものではなく、「技術の進展に伴い新たな連絡の方法が消費者によって用いられる場合も、当該方法が受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信を 送信する方法に当たれば本項第4号の要件を満たす」と解説されています。
また、(ⅱ)については、逐条解説の不退去の項目において、「消費者が…退去すべき旨の意思」の解釈について、「社会通念上「退去すべき旨の意思を示した」とみなすことが可能」か否かで判断されているところ、これを変更する旨の考え方は示されておらず、同様に社会通念に照らして実質的に解釈されるものと考えられます。
次に、(ⅲ)について、「威迫」は退去妨害にはない要件であるところ、逐条解説では、「威迫する言動」とは、他人に対して言語挙動をもって気勢を示し、不安を生ぜしめることをいい、畏怖(恐怖心)を生じさせない程度の行為も含まれると解説されています。また、「強迫」は相手方の契約締結に係る意思表示に向けられているのに対して、「威迫する言動」は、消費者が連絡することを妨げることに向けられていることが必要と解説されています。
それ以上に、具体例は示されていませんが、「威迫」は特商法にも同一の文言があり、「特定商取引法に関する法律等の施行について」(平成25年2月20日付通達)の12頁において示されている解釈がさしあたって参考になるものと思われます。すなわち、「威迫」とは「脅迫に至らない程度の人に不安を生ぜしめるような行為」と定義されたうえで、たとえば、①誰もいない場所で「買ってくれないと困る」と声を荒げる行為や、②勧誘の際に殊更に入れ墨を見せる行為などが例示されています。消費者契約法の「威迫」解釈においてもこれらは含まれることが予想できますので、このような勧誘は控えるべきといえます。
以上を踏まえつつ、事業者としては、同規定の趣旨や裁判所の判断などに注視し、必要に応じて勧誘に関するマニュアル等を整備・変更する必要があります。
(3)契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にした場合(4条3項9号)
改正前の4条2項9号は、平成30年消費者契約法改正のときに新設された条文です。具体的には、契約締結前に事業者が契約を締結したならば負う義務の内容の全部または一部を実施し、原状の回復を著しく困難にすることにより勧誘を行うことが不当勧誘として新たに規定されました。たとえば、「事業者が注文を受ける前に、自宅の物干し台の寸法に合わせてさお竹を切断し、代金を請求した」場合が具体例として挙げられていました(消費者庁「不当な契約は無効です!− 早分かり!消費者契約法 − 」)。
これに対して、令和4年改正では、原状の回復を著しく困難にする方法の範囲が広がり、事業者による義務の内容の実施ではないもの(本来、事業者は行う必要がなかったもの)が追加されました。たとえば、さお竹屋の例であれば、寸法に合わせてさお竹を切断すること自体が事業者の義務であり、この義務を事業者があらかじめ履行した場合という類型でしたが、令和4年改正では、事業者の義務ではない追加的サービスを契約前に行った場合(さお竹屋の例であれば消費者の好みの色に着色するなど)も同規制の対象となると考えられます。
条文の文言との関係では、「その実施又は変更前の原状の回復を著しく困難にすること」の解釈がポイントになると思われます。この点について、4条3項9号は消費者の心理的負担が重いものである類型として規制されています。そのため、同文言は当該規制の趣旨に照らして、「原状の回復を著しく困難にすること」には、原状回復を物理的に不可能とすることのほか、消費者にとって事実上不可能な状態にすることも含まれると解釈されます。具体的には、原状の回復が可能であったとしても、原状の回復について専門知識や経験、道具等が必要となるために、一般的・平均的な消費者をして原状の回復が事実上不可能であるといえる場合には、「原状の回復を著しく困難にする」ものと考えられる点に注意が必要です。
免責の範囲が不明確な条項(サルベージ条項)の無効
改正背景とサルベージ条項の内容
令和4年改正では、不当条項規制の一類型として、新たにいわゆる「サルベージ条項」を無効とする条項(8条3項)が追加されています。
サルベージ条項とは、たとえば下記例のとおり、一定の場合に事業者の負う責任を限定する規定のうち、責任を限定する範囲を契約条項上は明らかにせずに、「法律上許される限り」といった曖昧な文言で記載するものです。単に「事業者の損害賠償責任を免除する」と記載する規定であれば、消費者契約法8条1項に違反するものとして、当該条項自体が全部無効になると解されていましたが、「法律上許される限り」との留保文言を付することによって、同項には違反しないことになり、こうした条項を無効とする具体的な規定は従前はありませんでした。
「法律上許される限り事業者の損害賠償責任を免除する」
「法律上許容される場合において事業者の損害賠償額の限度額を〇万円とする」
そして、サルベージ条項の問題点として、消費者にとって契約条項のうち有効とされる範囲が不明確であり、結果として、消費者が法律上請求可能な権利行使が抑制される(事業者が当該条項を理由に免責を主張した場合に、裁判の費用や時間の負担を考えて争うことを控える)こと、および、仮に消費者が無効を主張するとしても、消費者は不安定な地位に立たされるといった点などが指摘されてきました。
こうした議論を踏まえて、消費者契約法専門調査会報告書(平成29年8月、消費者委員会 消費者契約法専門調査会)12頁では、「事業者は消費者にとって『明確かつ平易な』条項を作成するよう配慮する努力義務を負っていることから、サルベージ条項を使用せずに具体的な条項を作成するように努めるべき」との指摘がされていました。
以上のような経緯から、令和4年改正では、事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項のうち、損害賠償責任の免除が軽過失の場合のみを対象としていることを明らかにしていない条項は無効とすることが規定されました(8条3項)。
なお、事業者によっては、サルベージ条項を置きつつも、個々の消費者からの申出との関係では、8条1項各号に従い、損害賠償責任の免除を軽過失の場合のみに限って運用しているといった事情があるかもしれません。しかし、令和4年改正施行後は、このような運用レベルでの対応は認められず、損害賠償責任の一部免責を軽過失のみに限定するのであればその旨を契約条項において明らかにすることが必要となります。
本規定の解説と実務上の対応
消費者契約において、利用規約等で、「法律上許される限り」または「法律上許容される場合において」損害賠償責任を限定する規定を定めていた場合の効果は以下のとおりです。消費者向けビジネスを展開している事業者において、このような条項を使用している場合は、引き続き軽過失における一部免責効果を得るためには、利用規約等を修正することが必要となります。
改正前 | 改正後 |
---|---|
軽過失の一部免責の場合には、事業者の責任は限定される | 当該契約条項が無効となる したがって、本来なら消費者契約法上も認められている「軽過失の場合の事業者の一部免責」の効果も得られない →該当する契約条項等を修正することが必要 |
逐条解説によると、たとえば下記のような記載は、消費者契約法8条3項によっては無効にならないとして例示されています。そのため、事業者は、以下の条項例を参考に、一般的・平均的な消費者にとって、当該契約条項が当該事業者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることが明らかになるように、契約書等の記載を修正する必要があります。
- 「弊社に軽過失がある場合に限り、弊社がユーザーに負う責任は、ユーザーから実際に支払いがあった検定受験料の額を超えるものではないとします。」
- 「弊社に故意又は重大な過失がある場合を除き、弊社がユーザーに負う責任は、ユーザーから実際に支払いがあった検定受験料の額を超えるものではないとします。」
解約料の説明の努力義務
改正背景と解約料の説明の努力義務の内容
(1)改正背景
契約の解除に伴う損害賠償または違約金(以下、併せて「解約違約金等」といいます)を定める条項(以下「違約金条項」といいます)に関して、9条1項1号は解約料(解約違約金等)の上限額についてのルールを定めており、具体的には、解除に伴う「平均的な損害」の額を超える部分についての解約違約金等は無効とされています。
他方で、この「平均的な損害」の額は事業者に固有の事情であり、その主張立証に必要な情報は事業者に偏在している事例が多いため、消費者等がこの額を主張立証することは困難な状況であることが問題視されていました。この点について、検討会報告書では、立証責任を事業者に転換する特則の導入も検討されていましたが、令和4年改正においては、事業者に、違約金の算定根拠を示すことで違約金条項が不当でないことを消費者に対して説明する努力義務が課せられる形で(9条2項)、上記の検討事項に対応することとされました。
また、本規定の趣旨を貫徹するべく、適格消費者団体に対しても算定根拠を説明する努力義務が課せられます(12条の4)。
(2)解約料の説明の努力義務の内容
消費者契約法9条2項は消費者への説明を、12条4項は適格消費者団体への説明を、それぞれ努力義務として規定しているところ、その内容は下表のとおり異なります。
すなわち、両者は、消費者または適格消費者団体からの求めがあって初めて事業者に努力義務が生じる点では共通していますが、適格消費者団体に対する説明義務は、損害賠償額と違約金の合計金額が「平均的な損害」を超えると疑うに足りる相当な理由がある場合に限定される一方、説明すべき内容としては、算定根拠の概要ではなく、算定根拠自体を説明することが努力義務の内容とされている点で異なります。
解約料の説明の努力義務の内容
規定の内容 | 消費者への説明義務(9条2項) | 適格消費者団体への説明義務(12条の4) |
---|---|---|
義務の種類 | 努力義務 | 努力義務 |
要件 | ① 消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、または違約金を定める条項に基づき損害賠償又は違約金の支払いを請求する場合 | ① 予定された損害賠償の額と違約金を定める条項におけるこれらを合算した額が「平均的な損害」の額を超えると疑うに足りる相当な理由があるとき |
② 消費者から説明を求められたとき | ② 適格消費者団体から要請があったとき | |
③ × | ③ 「内閣府令で定めるところにより」 | |
説明すべき事項 | 算定根拠の概要 違約金等を事業者が設定するに当たって考慮した事項、当該事項を考慮した理由、使用した算定式、金額が適正と考えた根拠など違約金等を設定した合理的な理由(逐条解説166頁) |
算定根拠(概要ではない) 算定根拠に営業利益が含まれる場合など、正当な理由がある場合は除かれる |
本規定の解説と実務上の対応
事業者が行うべき対応について、①どのような場合に(適格消費者団体から要請があったときのみの要件)、②どのような内容の説明を、および③どのような方法で行うべきかについて、今後逐条解説などを通して詳細が明らかになっていくと思われるため、注視が必要です。
この点に関して、逐条解説では、②について、違約金の額は「平均的な損害」を下回ることが必要であること(9条1項1号)を前提に、どのような考慮要素および算定基準に従って「平均的な損害」を算定し、違約金が当該「平均的な損害」の額を下回っていると考えたのかについての概要を説明することになるとの記載がなされています。もっとも、算定の際の具体的な金額については、営業秘密に該当する可能性があるうえ、消費者も具体的な金額についてまで説明を求めていないと思われるので、明らかにする必要はないと考えるべきことが検討会報告書でも指摘されています。なお、検討会報告書の考え方は下記のとおりであり、解約料の説明の内容を検討するうえで参考となります。
- 算定基準として逸失利益が平均的損害に含まれると考えたかどうかを説明することが想定される
- 逸失利益が具体的に何円であると算出したのかまで説明する必要はない
- 商品等の原価として材料費や人件費を積み上げて解約金を定めたのであって(原価以外に再販売できないことによる損失も生じていることから)「平均的な損害」を下回ることは明らかである等との説明も考えられる
また、③について、検討会報告書14頁では、「個々の消費者に説明する方法のほか、ホームページ等で説明する等様々な方法があり得る」との記載がなされており、事業者は、事業の特性に合わせた合理的な説明方法を選択できます。
9条2項や12条の4は努力義務ではあるものの、事業者のレピュテーションリスクを避けるためにも、また、事業者と消費者の間の紛争を回避するためにも、努力義務の内容に沿う形で解約料の説明資料を作成し、消費者に説明する手段を講じることが期待されます。こうした努力義務に違反した場合の運用については、法律上は明らかになっていませんが、消費者裁判が提起された場合に、裁判官の事実認定や心証形成にどのように影響するかなど今後の実務の動向を注視することが必要です。
事業者の努力義務の拡充
消費者契約の内容に係る情報提供の努力義務について
(1)消費者契約の内容に係る情報提供の努力義務における考慮要素
令和4年改正では、契約締結時における事業者の努力義務に関して、消費者契約の内容に係る情報提供における考慮要素が追加され(3条1項2号)、また、定型約款の表示請求権に係る情報提供の努力義務が新たに規定(3条1項3号)されました。
さらに、こうした事業者の努力義務を契約締結時だけでなく、解除の際にまで拡充し、契約の解除に必要な情報を消費者に提供することが事業者の新たな努力義務とされました(3条1項4号)。
3条1項の改正内容
条番号 | 条文 |
---|---|
2号 変更 |
消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの性質に応じ、事業者が知ることができた個々の消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験を総合的に考慮した上で、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供すること。 ※下線部分が改正による追記箇所 |
3号 新設 |
民法(明治29年法律第89号)第548条の2第1項に規定する定型取引合意に該当する消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者が同項に規定する定型約款の内容を容易に知り得る状態に置く措置を講じているときを除き、消費者が同法第548条の3第1項に規定する請求を行うために必要な情報を提供すること。 |
4号 新設 |
消費者の求めに応じて、消費者契約により定められた当該消費者が有する解除権の行使に関して必要な情報を提供すること。 |
(2)本規定の解説と実務上の対応
検討会報告書等によると、努力義務の内容としては、下表のような対応が期待されます。
情報提供の努力義務の内容
条番号 | 努力義務の内容 |
---|---|
2号 | 消費者の年齢や心身の状態を事業者が知ることができた場合に、個々の理解に応じた丁寧な情報提供を行うこと (△)消費者の年齢や心身の状態に関する資料の提出を消費者に求めること |
3号 | 消費者が定型約款の内容を容易に知ることができるようにするための措置を講じていない場合、定型約款の内容の開示を求める消費者の請求(民法548条の3第1項)を行うために必要な情報(たとえば、このような請求権があること自体)を消費者に提供すること |
4号 | 消費者の求めに応じて、消費者が解除権を行使するための必要な情報を提供すること |
補足しますと、2号に関して、逐条解説では、「事業者に期待されるのは、事業者がこれらの消費者の事情(執筆者注記:「年齢」「心身の状態」「知識及び経験」)を知ることができた場合には、その事情を考慮した上で情報提供を行うことであり、事業者に対し、これらの事情を積極的に調査することまで求めるものではない」と述べられています。
また、逐条解説では、2号に関する具体的な対応方針について、以下のような指針を示しています。
- 対面取引等において、若年者である又は高齢者であるという意味で、消費者の「年齢」を知ることができたのであれば、必要に応じ、消費者の「年齢」を考慮して説明することが求められる。
- 消費者が若年者や高齢者ではなかったとしても、消費者の判断力が低下していることを知ることができたのであれば、必要に応じ、「心身の状態」を考慮して説明することが求められる。
- 消費者が若年者や高齢者であって、知識や経験が十分でないようなときには、この点を考慮して、一般的・平均的な消費者のときよりも、より基礎的な内容から説明を始めること等が事業者に求められる。
- 特定の考慮事情のみで(例えば、消費者の「年齢」だけを基準として)画一的な対応をするようなことは避けるべきである。
また、4号に関して、検討会の議論および報告書を踏まえると、「解除権の行使に関して必要な情報を提供すること」とは、たとえばサポート体制の構築など、消費者が解除権を円滑に行使できるようにするための配慮を検討することを意味していると考えられます。逐条解説においても、「必要な情報」について「消費者契約の締結後に事業者のウェブサイト上で解除の手続をしようとしてもどの画面にアクセスすれば良いのか分かりにくい、手続が複雑・煩雑である等の事例では、任意解除権を行使するために具体的にどのような手順を踏めば解除できるのか等の情報が該当する」とされています。
さらに逐条解説においては、「仮にウェブサイト上に解除の手続の方法が表示されているが、その具体的な手順が消費者にとって分かりにくい場合には、事業者は、単に当該ウェブサイトの存在を消費者に伝えたのみでは消費者に必要な情報を提供したこととならない場合もあると考えられる」と説明されています。事業者においては、消費者が解除権を円滑に行使できるようにするための配慮を十分行うように注意する必要があります。
適格消費者団体に対する契約条項の開示の努力義務
令和4年改正では、事業者が適格消費者団体の要請を受けた場合、契約条項を開示する努力義務が定められました。
適格消費者団体は、事業者が不特定かつ多数の消費者との間で不当条項を使用しているとき、当該事業者に対して差止請求権を行使することができます(12条3項、4項)。ただし、消費者から提供される契約条項が最新のものではないこともあり、その場合、適格消費者団体は、事業者に対し、最新の契約条項の開示を求めることになります。
ところが、このような場合に、契約条項の開示に応じない事業者が一部に存在し、差止請求の障害になることが問題となっていました。そこで、令和4年改正において、適格消費者団体は、以下の要件を満たす場合に、事業者またはその代理人に対して、契約条項の開示を要請することができることが定められました(12条の3第1項)。そして、適格消費者団体の要請に対して、事業者は応じることが努力義務とされています(12条の3第2項)。
- 事業者またはその代理人が、不特定かつ多数の消費者との間で消費者契約法上無効となるべき条項を含む消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示を現に行いまたは行うおそれがあると疑うに足りる相当の理由があるとき
- 内閣府令で定めるところによる
- その事業者またはその代理人に理由を示すこと
- 当該事業者またはその代理人が、当該条項をインターネットの利用その他の適切な方法により公表していないこと
適格消費者団体からの差止請求を受けて講じた措置の開示の努力義務
令和4年改正では、差止請求を受けた事業者が、適格消費者団体の要請を受けた場合に、どのような措置を講じたかを開示する努力義務が定められました。
差止請求制度とは、適格消費者団体が、「不当な勧誘」、「不当な契約条項」、「不当な表示」などの、事業者の不当な行為をやめるように請求することができる制度です。
そして、令和4年改正では、当該差止請求制度をより実効的なものにするために、適格消費者団体は、以下の要件を満たす場合に、事業者またはその代理人に対して、差止請求に関する義務を履行するために講じた措置の内容の開示を要請することができることになりました(12条の5第1項)。そして、適格消費者団体の要請に対して、事業者は応じることが努力義務の内容とされています(12条の5第2項)。
- 12条3項または4項の規定による差止請求により、事業者またがその代理人がこれらの規定に規定する行為の停止もしくは予防または当該行為の停止もしくは予防に必要な措置をとる義務を負うとき
- 当該請求をした適格消費者団体からの要請
- 内閣府令で定めるところによる
消費者裁判手続特例法の改正
消費者契約法の改正と同時に、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(以下「消費者裁判手続特例法」といいます)も改正されました。
消費者裁判手続特例法は、情報の質・量や交渉力の不足を理由に消費者が裁判手続をとることを断念して泣き寝入りすることを防止すること等を目的とし、消費者が被害回復のために裁判手続を行うハードルを下げることで、消費者契約法をはじめとする消費者保護の法律の実効性を担保しています。平成19年6月から導入・施行されていた適格消費者団体による差止請求制度では、「差止め」すなわち将来の被害防止しか実現できなかったところ、消費者裁判手続特例法に基づく集合訴訟制度によれば個々の消費者の被害回復までが実現できることは、消費者にとっても、相手方となる事業者にとっても大きな意味があります。
上記にて紹介したとおり、消費者契約法自体に加え、消費者裁判手続特例法も同時に改正されるため、令和4年改正部分についてはもちろんのこと、同改正とは関係がない消費者契約法の各規定も改めて活用されるなど、その影響が加速度的に増大する可能性もあります。
具体的には、消費者裁判手続特例法の令和4年改正として、改正前は同法の対象とはならないとされていた「慰謝料」が同法の対象にされること(対象範囲の拡大)(同法3条)や、個々の消費者を集めるための情報提供の拡充(同法9条、27条2項、28条)といった改正がされることになり、これに伴って一定の影響があるといえます。また、これらの改正によって特定適格消費者団体が対象となる消費者から受け取ることになる手数料等の関係でも、消費者裁判手続特例法に基づく集合訴訟を提訴しやすくなるといえます。さらに、和解の早期柔軟化(同法11条)も図られており、今後、消費者裁判手続特例法に基づく集合訴訟がより一般的なものとなっていくことが予想されます。
いずれにせよ、事業者としては、実体法である消費者契約法等に違反しないようにすることが重要であり、実体法の改正に注意を払いながら、適切に対応していくことが求められます。こうした対応にあたっては、消費者裁判手続特例法の改正による実効性の拡充といった点にも目を向け、その後に裁判対応となる可能性も見据えた対策が今後求められることになるといえます。
霊感商法に関する消費者保護の拡充
令和4年改正における契約の取消権の追加(本稿3)のほかに、消費者庁は、さらなる対策として、消費者契約法と被害者救済新法 2 の法案をそれぞれ国会に提出しました。同法案は、令和4年12月6日に衆議院で審議入りになり、それからわずか5日という異例のスピードで成立しました。これは、安倍元首相銃撃事件を契機に霊感商法対策の必要性が再認識されたことが1つの要因となっていると思われます。また、同法案は、被害者救済法の一部の規定 3 を除き、令和5年1月5日から施行されました。
同法案のうち特に重要な改正として、消費者契約法部分について従来から規定されていた、霊感等による告知を用いた勧誘に対する取消権について、要件の具体化および適用範囲の拡張が行われたことが挙げられます。
条番号 | 条文 |
---|---|
4条3項 6号 変更 |
当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、当該消費者又はその親族の生命、身体、財産その他の重要な事項について、そのままでは現在生じ、若しくは将来生じ得る重大な不利益を回避することができないとの不安をあおり、又はそのような不安を抱いていることに乗じて、その重大な不利益を回避するためには、当該消費者契約を締結することが必要不可欠である旨を告げること |
改正のポイントは以下の3つです。
- 消費者被害の実態を踏まえて、本人だけでなく、親族の生命身体、財産等についての告知がされた場合も取消しの対象になった
- すでに生じている不利益を回避するために、不安をあおった場合も取消しの対象とするために、「現在生じ」との文言が追加された
- 自らが不安を抱かせた場合のみでなく、すでに不安を抱いている状態を利用した場合も取消しの対象とするために、「又はそのような不安を抱いていることに乗じて」との文言が追加された
また、当該規定に基づく取消権について、行使期間が次のとおり伸長されました(改正消費者契約法7条1項)。
- 追認することができる時から3年(現行1年)
- 契約締結時から10年(現行5年)
- 時効が完成していないものには遡及適用(改正消費者契約法附則2条2項)
実務対応のスケジュール
以上のとおり、令和4年改正は事業者のビジネスに大きな影響があるといえるので、同改正に応じた契約書、規約またはマニュアルなどの整備・修正を行う必要があります。
たとえばサルベージ条項(8条3項)に関しては、契約書のうちの修正対象が明確であり、どのような修正を行うべきかについてもある程度予想できるので、対応自体には時間がかからないと思われます(ただし、修正するべき契約書等が多岐にわたる場合は早めの対応が必要になります)。
他方で、4条3項3号、4号および9号への対応については、適宜、マニュアル等を改正の内容に沿って修正することが要求される可能性もあります。また、解約料の説明の努力義務等(9条2項、12条の4)についても、努力義務とはいえ事業者側が説明資料を準備する(場合によっては解約料を変更する)ことが必要です。これらは場合によっては時間がかかるので、早めの対応が望ましいと思われます。

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