チュチュアンナによるファッションデザインの模倣事案、読み解くポイントや担当者がとるべき対応方法を海老澤弁護士が解説
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2021年10月、女性用のアパレル商品等を製造・販売する株式会社チュチュアンナ(以下、チュチュアンナ)は、同年8月に発売した「ポメラニアン柄のルームウェア」について、同社と契約がない社外イラストレーターの作品と酷似したデザインであると指摘を受けたことを公表し謝罪、当該商品について販売停止しました。
本事案について、ファッションローを専門とし、ファッションエディターも務める海老澤美幸弁護士は「ファッションデザインの模倣をめぐる昨今のファッション業界の問題点が凝縮されている」と考察します。本稿では、「ファッションデザインの模倣」に関する近時の状況や、本事案がはらむ論点、参考とすべき過去の類似ケース、当事者となった場合の対応方法等について海老澤弁護士に伺いました。
「ファッションデザインの模倣」における3つのパターン
本事案を読み解く前提として、近年の「ファッションデザインの模倣」に関する状況について教えてください。
近年「ファッションデザインを模倣した」として炎上するケースが非常に増えています。
これまでの模倣事案というと、「他社に模倣されたがどうすればよいか」「当社が模倣したとして相手方から警告書が届いたが、どう対応すればよいか」といった相談が寄せられるケースが典型的でした。しかし、ここ数年は、「模倣による炎上リスクを回避するにはどうすればよいか」「他社の製品に似ているとして炎上してしまった。どう対応すればよいか」など、炎上をめぐるケースが顕著に増えた印象です。
「ファッションデザインの模倣」と一口にいっても実はいろいろなパターンがあり、それにより問題となる法律が異なります。
イメージがつかみやすいように大まかに説明すると、「何(どの部分)を模倣するか」により次の3パターンに分類できると考えられます。
- ブランド名やロゴ等を模倣するパターン
たとえばシャネルマークに似たマークがあしらわれた偽物のバッグのように、ブランド名やロゴ、マークなどを模倣した、いわゆる「海賊品」「バッタもの」などがこれにあたります。
ここでは主に商標法や不正競争防止法2条1項1号または2号が問題となります。 - イラストや写真などの創作物を模倣するパターン
他人のイラストや写真を無断で服のプリントや柄にしたり、逆に、服にプリントされているイラストなどを模倣する場合がこのパターンです。
イラストや写真などの創作的な表現が模倣された場合には、著作権侵害かどうかが争点となります。 - デザイン(形態)そのものを模倣するパターン
昨今のファッションデザインの模倣で一番多いのが、デザイン(形態)そのものを模倣するパターンです。そのデザインが意匠登録されていれば意匠権の問題となりますが、ライフスパンの短いアパレル業界では、スポーツブランドやラグジュアリーブランドなどの一部を除き、意匠登録はそこまで浸透していないのが実情です。
ではどの法律で保護するかというと、そのデザインが販売(公開)から3年以内であれば不正競争防止法2条1項3号が発動します。他方、そのデザインを見れば「あのブランドだ」とわかるほどに有名なものであれば、不正競争防止法2条1項1号または2号、また商標登録している場合には商標法も問題となり得ます。
なお余談ですが、とりわけファッションデザインの模倣事案では、「〇か所変えれば模倣にあたらない」といったことがまことしやかにささやかれているようですが、これは完全なる都市伝説でそんなことはまったくありませんので、ご注意いただきたいと思います。
論点は「著作権を侵害したといえるか」と「フリー素材をどこまで使用してよいか」
本事案はどういった論点をはらんでいるといえるでしょうか。
本事案は、アパレル企業「チュチュアンナ」が販売する商品にプリントされたポメラニアン柄が、漫画犬さん(Twitterアカウント @manga_dog)の制作・公開している漫画用トーンのポメラニアンイラストを模倣しているとして、Twitter上で炎上した事案です。
「チュチュアンナ」は女性用の下着やルームウエア、雑貨などを製造・販売している会社で、読者の方の中にも愛用されている方がいらっしゃるのではないでしょうか。
漫画犬さんから指摘を受けたチュチュアンナは、問題のポメラニアン柄をプリントした「もふもふポメラニアン総柄ロングTシャツ」などの販売を中止し謝罪。さらにその後の調査の結果、今回のポメラニアン柄商品以外にも第三者の作品との類似性が認められる商品があることが明らかとなったとして、改めて謝罪しました。また今後、再発防止に向けて「外部の知的財産の専門家の意見も交えながら早急に見直しを実行」するとしています 1。
今回の事案は、漫画犬さんが描いたポメラニアン柄(イラスト)を模倣したケースですので、先の模倣パターンでいうとパターン②にあたります。
つまり、「チュチュアンナが漫画犬さんの著作権を侵害したといえるか?」が最大の争点といえそうです。
実は今回の事案には、著作権侵害の論点のほかに、もう1つ比較的重要な論点が含まれています。それは、「インターネット上で公開されているいわゆる “フリー素材” をどこまで使用してよいか?」という問題です。この答えは、つまるところ、素材サイト上どこまでの利用が認められているのか、利用規約にどう定められているかという点に帰着します。もっとも、デザイナーなどの関係者が利用規約までつぶさに目を通すことは残念ながら少なく、「フリー」「無料」という言葉から無制限に使えると勘違いするケースもよく聞くところですので、注意が必要です。
1つ目の論点に関してはどのように考えられますか。
チュチュアンナのポメラニアン柄(「チュチュアンナ柄」といいます)は、漫画犬さんのポメラニアンイラスト(「本件イラスト」といいます)にかかる著作権を侵害しているといえるのでしょうか。
ご存じのとおり、「著作権」とは、自分が創作した著作物を自由に使用したり、誰かに使用することを許諾したり禁止することができる権利をいいます。そして「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法2条1項1号)。一般的に、ここでいう「思想又は感情」は個性といった程度で足り、また、「創作的」とは著作者の個性が何らかの形で現れていれば足りるといわれています(東京高裁昭和62年2月19日判決・無体例集19巻1号30頁)。これは裏を返せば、誰が創作しても同じになるようなありふれた表現や、アイデアの表現方法として一定の表現しかないといった場合には、著作権では保護されないことを意味します。
実は今回の事案がTwitter上で騒動になった際、「ポメラニアン柄は誰が描いても同じになるだろう」といった呟きがちらほら見られました。しかしながら、「ポメラニアン イラスト」でウェブ検索すればさまざまなイラストが出てくるとおり、「ポメラニアン」をテーマにした場合でも、シルエットや毛量、タッチ、目鼻の位置、表情、ポーズなどでさまざまな表現を選択することが可能です。「誰が描いても同じになる」とはいえないでしょう。
本件イラストには創作者である漫画犬さんの個性が現れているといえ、著作権が発生していると考えられます。
では、チュチュアンナは本件イラストにかかる著作権を侵害しているといえるでしょうか。
著作権侵害かどうかの要件を考える際に外せない超重要判例が「ワンレイニーナイト・イントーキョー事件」(最高裁昭和53年9月7日判決・判時906号38頁)と「江差追分事件」(最高裁平成13年6月28日判決・判時1754号144頁)でしょう。
「ワンレイニーナイト・イントーキョー事件」では、複製について「既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製すること」であると述べ、「依拠性」が著作権侵害の要件になることを明らかにしました。
また、「江差追分事件」は言語の著作物の事案ですが、翻案について「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう」と判示しています。
つまり、著作権侵害の要件は、以下の2点ということになります。
- 既存の著作物に依拠していること(依拠性)
- 既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できること(類似性)
さらに、今回の事案を検討するうえで参考となる類似ケースを見ておきましょう。
「眠り猫事件」(大阪地裁平成31年4月18日判決・裁判所ウェブサイト)は、眠っている猫を円の中に丸く収めた家紋風のイラスト「眠り猫」をプリントしたTシャツを販売する原告が、同イラストによく似たイラストをプリントしたTシャツ等を販売する被告に対し、複製権、翻案権、公衆送信権等の侵害を理由に差止や廃棄等を求めた事件です。
問題となったイラストはいくつかあるのですが、裁判所は、原告イラストと被告イラストの共通点を特定したうえ、共通している部分が表現上の特徴部分そのものであるとして、類似性を認めました。
また、原告イラストの作成・販売時期と被告イラストの作成時期から、被告デザイナーが原告イラストに接する機会があったこと、被告イラストは本質的な特徴部分が原告イラストに類似または酷似しており、特に一部のイラストについては、原告イラストを見ずにデザインしたことが実際上考え難いといえるほど似ていることから、被告デザイナーが原告イラストを参照し、これに依拠して被告イラストを作成した事実が推認されるとして、依拠性も認めています。裁判所のこうした判断過程や考え方は、今回の事案でも大いに参考になるものと思われます。
本件イラストは、ころんとした丸いフォルムに小さな耳と手足、近接して配置された小さな目と逆Yの字のような口元、口元からのぞく小さな舌、独特のポーズなどが愛くるしい印象を与え、これらが表現上の特徴と考えられます。
漫画犬さんが「トレスじゃないでしょって言ってる人これ見てください」という本文とともにツイートした比較画像を見ると、比較されている3点とも、本質的な特徴部分が共通しているといわざるを得ません。
— 漫画犬 (@manga_dog) 2021年10月9日
依拠性の点も、漫画犬さんが2019年5月頃に本件イラストをインターネット上・Twitter上に公開したのに対し、チュチュアンナが2021年8月にチュチュアンナ柄商品の販売を開始したことからすると、チュチュアンナのデザイナーが本件イラストに接する機会は十分あったと考えられます。さらに、独特のポーズまでしっかり似ていることからすると、「本件イラストを見ずにデザインすることは実際上困難なのでは……?」とも思われます。
このように考えると、チュチュアンナが本件イラストにかかる著作権を侵害していると判断される可能性は大いにありそうです。
過去の判例や類似ケースからも、本事案では著作権を侵害しているとされる可能性が高いと考えられるのですね。2つ目の論点に関してはいかがでしょうか。
2つ目の「インターネット上で公開されているいわゆる “フリー素材” をどこまで使用してよいか?」という問題について、ごく簡単に触れておきたいと思います。漫画犬さんが本件イラストを公開していたのは、「CLIP STUDIO ASSETS」というサイトです(「CLIP STUDIO」といいます)。このサイトは、イラストや漫画を描く際に使用するトーン素材などの素材を無料で配布したり有償で販売しているサイトのようです。本件イラストは、「ポメラニアンのトーンセット」というタイトルで無料でダウンロードできるようになっており、すでに47,000回以上もダウンロードされています(2021年11月末時点) 2。
同サイトでは、「ダウンロード」タブの下に、「素材の使い方/利用できる範囲」の表示があり、「利用できる範囲」をクリックすると、商用利用できることと商用利用の一例が記載されています 3。例示されているのは「コミケなどで販売する同人誌に使う」「商業誌に掲載される作品に使う」など、いずれもイラストや漫画の中で使用されることを想定したものとなっています。
さらに「CLIP STUDIO ASSETSサービス利用規約 4」を見ると、禁止事項として「ASSETS素材を、主たる構成要素として商品またはサービス自体のデザインとして利用および商標・ロゴマーク・シンボルマーク・イメージキャラクターとして使用・登録すること。」と記載されており、CLIP STUDIOで提供されている素材を商品自体のデザインとして使用することは禁止されています。典型例としてはキャラクターグッズなどがそれにあたるでしょうし、今回のチュチュアンナ柄もまさに商品のデザインとして使用されていますから、この禁止事項に該当するものと考えられます。
「ファッションデザインの模倣」について法務担当者がとるべき対応
メーカー企業、特にアパレル企業において、業界の特徴から本事案のような模倣が発生しやすい背景などもあるのでしょうか。
アパレル企業でこうした模倣のケースが相次ぐ背景には、2つの要因があると考えています。
1つは、法的意識の不足です。これはアパレル企業に限ったことではありませんが、インターネットやSNS、IT技術の発達により、イラストをはじめとする創作物が世の中にあふれ、それらをいとも簡単にコピーして利用できるようになりました。そうしたことが “当たり前” となり、著作権への意識が希薄になっているように感じます。
特にファッションは、「インスパイア」「オマージュ」「リスペクト」といった言葉が現存するように、敬意や憧れ、賞賛の意味を込めて模倣することが1つの手法とされてきました。また、風刺や皮肉を込めて模倣する「パロディ」もファッションでは重要な手法の1つです。さらに、そのシーズンに多く見られる傾向を表す「トレンド」も、ある種の模倣といえます。このように、ファッションは模倣により発展してきたといっても過言ではなく、模倣を許容する土壌があることは否めないように思います。
アパレル企業で商品を企画する場合、多くは、シーズン(商品の展開時期をいいます。大きくは、春夏(SS)と秋冬(AW)の2シーズンですが、その間に「クルーズ」「ホリデー」などが入ることもあります)ごとにトレンドを抽出・分析し、自社商品のテーマやコンセプトなどを設定します。その際、“ムードボード” “イメージボード” など名称はさまざまですが、アイデアやイメージのソースとなる資料を作成することがよく行われます。“ムードボード” “イメージボード” は少しわかりにくいかもしれませんが、要するに、導き出したいイメージやテーマ、コンセプトなどに関する写真や動画、イラスト、素材などをコラージュしたものを思い浮かべていただくのがよいかと思います。こうした写真や動画、イラスト、素材などが、場合によってはあまりアレンジされることなくそのまま実際のデザインとして使われてしまうといったケースも少なくありません。
2つ目は、商品点数の多さとライフサイクルの短さです。国内の1年間のアパレル商品供給量は、2019年時点でなんと35億点といわれています(環境省「SUSTAINABLE FASHION これからのファッションを持続可能に」)。そして、シーズンごとに展開される商品は変わり、同じシーズンでも複数回にわたって新たな商品が投入されることも珍しくありません。アパレル商品のライフサイクルは、わずか数か月~半年程度と非常に短いのが特徴です。
これは、裏を返せば、それだけ大量の企画やデザインを短いサイクルの中で生み出さなくてはならないということでもあります。模倣が生み出されやすいのはそうした環境も大きく影響しているのではないかと考えています。
法務担当者が自社の製品において模倣が発生してしまわないようとるべき対応があれば教えてください。
こうした問題に熱心に取り組まれている企業もいらっしゃいます。そうした企業の対応を拝見すると、次の2つのステップが重要なのではないかと考えています。
1つ目のステップは、問題が発生する前に、現場の担当者から法務担当者に相談できる環境や仕組みづくりの段階です。このステップでは、法務担当者が現場と丁寧にコミュニケーションをとり、現場が相談しやすい社内環境を整備することと、著作権をはじめ法的な知識を理解してもらうための研修や啓もう活動を積極的に行うことの2点が非常に重要です。
多くの企業では、法務担当者は契約書をレビューするなど外部との取引の場面や法的な問題が実際に発生したときに登場するイメージで、現場からすると、日々作成されるデザインについて相談するという発想自体があまりないというのが実情かと思います。また、現場レベルで、法的に何が問題なのか、どんなことがダメなのかがある程度具体的にイメージできないと、そもそも問題点に気づけなかったり、法務担当者に相談したほうがよい/相談すべき場面なのかの判断ができません。そのため、まずは現場から法務担当者にアクセスするハードルを下げることが重要だと思います。
デザイン関連の相談が法務担当者に届くようになったら、次のステップは、実際に問題を解決する体制を構築する段階です。言い換えると「そのデザインが模倣にあたるのかを会社のリスクを踏まえたうえで判断し、その判断をもとに現場に適切な指示を出せる体制の整備」ということになります。これはなかなか難しいところですが、必要に応じて外部の専門家と連携しながら、法務担当者自身の経験値を上げ、判断の精度を上げていくというのがもっとも現実的な方法かと思います。
もしも本事案のようなケースが自社で発生してしまった場合には、企業や法務担当者はどのような対応をとるべきでしょうか。
本事案のように、自社が他社のデザインを模倣した疑いがあることが判明した場合、何よりも先に、何かアクションをとる前に、専門家にご相談いただきたいと思います。
上記1でも少し触れましたが、「ファッションデザインの模倣」と一口にいってもいろいろなパターンがあり、どのパターンに当てはまるかにより適用される法律や判断基準も変わります。
本事案のような著作権侵害の場合には、著作権侵害かどうかは、①既存の著作物に依拠していること(依拠性)、②既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できること(類似性)の2つで判断されることになりますが、この要件そのもののわかりにくさからもお気づきのとおり、その判断は非常に難しく、専門家でも意見がわかれることがしばしばあります。
また、炎上した場合に慌てて謝罪される方がいらっしゃいますが、必ずしも謝罪が最善ではないケースや、場合によっては謝罪したことにより自社が不利になるケースもありますので注意が必要です。
上述のとおり、模倣かどうかの判断は非常に難しく、昨今は、法律上の模倣にあたるかどうかにかかわらず炎上します。そのため、炎上したものの、専門家から見ると「模倣にはあたらないのでは?」というケースも存在します。それにもかかわらず慌てて謝罪したことにより、場合によっては謝罪したことや謝罪の内容が後の交渉や裁判で不利な証拠として利用される可能性があります。
また、謝罪は、その方法や内容によっては、さらなる炎上を招くおそれもあります。迅速な謝罪は、もちろん望ましいことが多いですし、誠実な対応のようにも見えるものですが、場合によっては大きなリスクがあることを意識していただくことが重要だと思います。
そのうえで、法務担当者と専門家が連携し、謝罪を含めた対応方針を慎重に決定することになります。個別具体的なケースにより事情が異なるため一概には申し上げられませんが、社内におけるすみやかな経緯の調査と事実確認を行い、それと並行して、またはその結果をもとに、お客様への謝罪、商品回収や返金対応、権利者への謝罪や協議、事実の公表等を進めることになります。
模倣被害にあった場合もすみやかに専門家へ相談を
一方で、自社の商品・サービスが模倣の被害にあった場合にはどのような対応をとるべきでしょうか。
本事案とは逆に、自社の商品がデザインの模倣被害にあった場合はどうすべきか。この場合もすみやかに専門家にご相談いただくのがよいかと思いますが、一般的に、模倣被害にあった場合の対応としては以下のような方法をとることが多い印象です。
まず、具体的に模倣といえるかを検討したうえで、根拠があるといえる場合には、相手方に対して警告書を送付します。警告書に記載する請求内容はさまざまですが、商品の販売中止、ウェブサイトやSNS等からの商品画像の削除、それに加えて損害賠償請求、その前提として売上金額等の情報開示を求めることが多いかと思います。協議や話し合いで終わるケースが多い印象ではありますが、場合によってはさらに訴訟などの法的手続に進むこともあります。
模倣被害にあった場合には、こうした対応を粛々と進めることになります。
他方で、模倣被害にあった場合にぜひ気を付けていただきたい点があります。デザインは労力とお金をかけて生み出したもので、それを勝手に模倣されたときの悔しさや悲しみは想像に難くありません。相手方に連絡しても「真似していない」と言い逃れされることも少なくありません。デザイナーとしては、「このことを世に問いたい」と思う気持ちも痛いほど理解できます。
ただ、上記でも触れましたが、模倣かどうかは、専門家でも意見がわかれる難しい判断です。模倣だと思ってSNSで「X社は当社の商品をコピーしています」と発信したところ、実際にはX社の商品は法的には模倣にあたらなかったということも十分あり得ます。もしX社の商品が法的に模倣にあたらなかった場合、「X社は当社の商品をコピーしています」と発信した行為は、不正競争防止法上「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」として損害賠償請求の対象となる可能性があります(不正競争防止法2条1項21号)。
昨今の炎上ケースは、法的な判断とはかかわりなく炎上しますので、「炎上したから絶対模倣だ」といった過信も禁物です。現場の思いや心情に寄り添いつつ、こうした行為は控えていただくよう注意を促すのがよいのではないかと思います。
改めて、アパレル企業の担当者が本事案から学ぶべき教訓について伺えますか。
インターネットやSNSの発達で、本事案のようなデザインの模倣に限らず、ジェンダーや差別といったさまざまな問題で炎上するケースが急増しています。これは裏を返せば、企業にとっては、あらゆる場面で炎上する火種を抱えているということ。この火種をいかに未然におさえられるか、つまり “危機管理の視点” が企業にとって重要になってきているのではないかと感じています。
炎上すると、一方的に「デザインをパクる会社」「差別意識のある会社」といった悪いイメージがつき、ブランド価値が大きく毀損されます。ファッションはイメージやブランドのストーリーが非常に重要ですので、炎上による価値の毀損は企業にとって大きなダメージとなります。
こうした事態を回避するためには、繰り返しとなりますが、社内での日頃からの積極的なコミュニケーションや、研修・啓もう活動が大切だと思います。また、炎上した場合の社内フローを確認しておくことも有効でしょう。
本事案は、ファッションデザインの模倣をめぐる昨今のファッション業界の問題点が凝縮された(語弊をおそれずいえば)“好例” といえる事案です。今回のケースをきっかけに、自社の意識や体制について改めて見直していただき、危機管理の視点を新たにしていただけたらと思います。
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株式会社チュチュアンナ「商品デザインに関するお詫び、および返金のお知らせ」(2021年10月12日、2021年12月2日最終確認) ↩︎
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CLIP STUDIO ASSETS「ポメラニアンのトーンセット」(2021年12月2日最終確認) ↩︎
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CLIP STUDIO ASSETS「ASSETSからダウンロードした素材を使う時のルールは?」(2021年12月2日最終確認) ↩︎
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CLIP STUDIO ASSETS「CLIP STUDIO ASSETSサービス利用規約」(2021年12月2日最終確認) ↩︎

三村小松山縣 法律事務所