「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」の解説と企業実務への影響

国際取引・海外進出
石田 明子弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

目次

  1. ガイドラインの対象範囲
  2. ガイドラインにより企業に求められる取組
  3. ガイドラインの構成
  4. ガイドラインの読み解き方
  5. 実務対応のポイント
    1. 企業が尊重すべき「人権」とは何か −「人権」の範囲(ガイドライン2.1.2.1)
    2. 人権方針の策定(ガイドライン3.)
    3. 人権DDの実施(ガイドライン4.)
    4. 救済メカニズムの構築(ガイドライン5.)
  6. 今後のスケジュール、予想される動き等

2022年9月13日、日本政府は、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(以下「本ガイドライン」といいます)を策定・公表しました 1
本ガイドラインは、経済産業省が同年3月に立ち上げた「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」における議論を経て、同年8月にその案文が公表され、8月29日までパブリックコメントに付された後、策定・公表されたものです。
この記事では、本ガイドラインの内容を解説し、実務対応のポイントを紹介します。

ガイドラインの対象範囲

 本ガイドラインの対象は「全ての企業」とされており、文字通り、日本で事業活動を行う全ての企業であって、「企業の規模、業種、活動状況、所有者、組織構成に関係なく」、個人事業主をも含む非常に幅広い概念となっています(本ガイドライン4頁・6頁参照)。

ガイドラインにより企業に求められる取組

 本ガイドラインは、企業に対して以下の取組を求めています。

  • 人権方針の策定
  • 人権デューディリジェンス(人権DD)の実施
  • 救済の実施(救済メカニズムの構築)

 本ガイドラインは、ソフトローで法的拘束力がないとはいえ、その策定により、全ての企業に「ビジネスと人権」に関する取組を強く求めるものとして、実務に大きなインパクトを与えるものです。本稿では、本ガイドラインの要点およびこれを読み解く上での注意点をご紹介いたします。

ガイドラインの構成

 本ガイドラインは、本文31頁、Q&A集15問および付属資料の「海外法制の概要」から構成されています。企業に求められる取組を本ガイドラインの構成とともに示すと以下のとおりです。

(出典)本ガイドライン7頁の図を一部加工の上で抜粋。

ガイドラインの読み解き方

 本ガイドラインは、「ビジネスと人権」分野における最も基本的かつ最重要な国際基準として認識されている「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」といいます )2 に則った構成となっています。また、プロセスごとに具体的な取組事例が紹介されていたり、実務的な問題点への対応のヒントを記載したQ&A集や海外の「ビジネスと人権」関連の法制の概要が設けられていたりするなど、これから「ビジネスと人権」に関する取組を本格的に始める企業にとっては、参照しやすい構成になっています

 他方、本ガイドラインは、従来の議論を超えた新しい視点を提供するといったものではなく、指導原則の内容を踏襲しつつ、基本的には、人権デューディリジェンスの実施に関する国際標準として認知されている「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」(以下「OECDガイダンス」といいます)3 等、既に確立された考え方を所々で紹介しているに留まります

 そのため、既に指導原則やOECDガイダンス等に則り、ある程度「ビジネスと人権」に関する取組を進めている企業の方にとっては、前述のような実際の取組事例が紹介されていることを除き、特段目新しい内容とはなっていません。また、本ガイドラインは、参照元あるいは引用元となった国際文書の箇所が明示されていない部分があること、既存の国際基準から外れる箇所が散見されること等から、特に、これから取組を始めようとする企業の方がこれを基にスタートを切る場合には、この点を注意して読み進める必要があります。

 そこで、以下では、本ガイドラインの要点をご紹介しつつ、本ガイドラインを読み解く際の留意点を整理します。

実務対応のポイント

企業が尊重すべき「人権」とは何か −「人権」の範囲(ガイドライン2.1.2.1)

 本ガイドラインは、企業が尊重すべき「人権」とは国際的に認められた人権をいい、これには、少なくとも国際人権章典で表明されたものならびに「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」に挙げられた基本的権利に関する原則が含まれるとしています(本ガイドライン7・8頁)。ただ、これはあくまでも主要な人権の一部に過ぎず、これらの条約が国際人権の全てを網羅しているわけではないため、必要に応じ、その他の国際基準を参照し理解することが求められている点には留意が必要です。

 たとえば、日本繊維産業連盟がILO駐日事務所の協力を経て策定・公開した「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」(2022年7月)は、その別紙1において、主要な国際人権条約・国際労働条約に含まれる国際人権の内容を列挙しており、企業が注意すべき人権の内容を把握する上で参考になります 4

 また、本ガイドラインは、人権尊重の取組の対象範囲について、「国内外における自社・グループ会社、サプライヤー等(サプライチェーン上の企業及びその他のビジネス上の関係先をいい、直接の取引先に限られない。…)」とし、「サプライチェーン」とは、「自社の製品・サービスの原材料や資源、設備やソフトウェアの調達・確保等に関係する『上流』と自社の製品・サービスの販売・消費・廃棄等に関係する『下流』を意味する」と幅広く定義しています(本ガイドライン6頁)。

 さらに、本ガイドラインは、企業による取組事例として、主に自社やサプライチェーン上の労働者の人権課題(たとえば、サプライチェーン上の外国人技能実習生の問題など)を多く挙げていますが、上記定義を踏まえると、企業が尊重すべき人権課題はこれに留まらず、およそ企業の事業活動に関連する全てのステークホルダーの人権課題(たとえば、工場稼働区域の地域住民や自社製品の消費者の人権も含みます)も対象となります 5

人権方針の策定(ガイドライン3.)

 人権方針とは、企業が、その人権尊重責任を果たすという企業によるコミットメント(約束)を企業の内外のステークホルダーに向けて明確に示すものであり(本ガイドライン7頁)、人権を尊重するための取組全体について企業としての基本的な考え方を示すものとして、企業の経営理念とも密接に関わるものです(本ガイドライン13頁)。そのため、同業他社の人権方針をそのまま採用することは適切ではなく、各企業において、自社の経営理念を踏まえた固有の人権方針を策定する必要があります(同頁脚注45)。

 そして、本ガイドラインは、指導原則16に基づき、企業に対し、以下の5つの要件を満たす人権方針の策定を求めています(同12・13頁)6

人権方針の策定における要件

  1. 企業のトップを含む経営陣で承認されていること
  2. 企業内外の専門的な情報・知見を参照した上で作成されていること
  3. 従業員、取引先、及び企業の事業、製品又はサービスに直接関わる他の関係者に対する人権尊重への企業の期待が明記されていること
  4. 一般に公開されており、全ての従業員、取引先及び他の関係者にむけて社内外にわたり周知されていること
  5. 企業全体に人権方針を定着させるために必要な事業方針及び手続に、人権方針が反映されていること

 本ガイドラインは、人権方針の策定にあたっては、まずは、当該企業が影響を与える可能性のある人権を把握する必要があるとしています(本ガイドライン13頁)。そして、このような人権課題を特定するに際しては、社内の各部門(例:営業、人事、法務・コンプライアンス、調達、製造、経営企画、研究開発)から知見を収集することに加えて、自社業界や調達する原料・諸外国の事情に精通したステークホルダー(例:労働組合・労働者代表、NGO、使用者団体、業界団体)との対話・協議を行うことにより、より実態に即した人権課題の特定が期待されるとしています(本ガイドライン13頁)。

 したがって、ただ広く一般に国際人権の尊重を謳うのではなく、具体的な人権課題を特定した人権方針の策定が望まれます。なお、この場合、人権課題は事業の継続・拡大等に応じて変わり得るため、定期的に人権方針を見直し、人権DDの結果等に応じて、適時に改定する必要があります。

 また、人権方針は、策定・公表することで終わりではなく、企業全体に人権方針を定着させ、その活動の中で人権方針を具体的に実践していくことが求められています(本ガイドライン14頁)。たとえば、人権方針の内容が就業規則や調達方針等既存の社内ルールと矛盾していないか確認し、矛盾がある場合には、下位の規範を修正する必要があります。また、規範の修正に留まらず、たとえば、新規案件の開始の可否を決する審査項目に人権視点に立脚した項目を盛り込んだり、サプライヤーとの契約に人権方針の尊重を求める旨の条項を盛り込んだりする等、実際の業務プロセスに人権方針を組み込んでいくことが重要です。

 なお、人権方針策定後の注意点に関し、本ガイドラインは、必ずしも全ての場合において、「公開」とは別に「周知」のための手続が必要となるわけではないとしていますが(本ガイドライン14頁・脚注46)、指導原則は、人権方針が一般に公開されており、全ての従業員、取引先および他の関係者に向けて社内外にわたり周知されていること(“is…communicated internally and externally to all personnel, business partners and other relevant parties”)を求めており(指導原則16)、「周知」が不要なケースを想定していません。したがって、人権方針の策定後は、上記要件④の文言通り、「公開」と「周知」(たとえば、自社従業員に研修を実施したり、取引先に人権方針をメール送付あるいは手交する等)が求められていると理解することが適切です。

人権DDの実施(ガイドライン4.)

 本ガイドラインは、企業に対し、人権DDの実施を求めています。人権DDとは、企業が、自社の企業活動に関連する人権への負の影響を特定し、予防・軽減に向けてどのように対処するかを検討するとともに、対応の追跡調査も含めた情報発信を実施するという一連の流れを指します。ここでは、前述のとおり、およそ企業の事業活動に関連する全てのステークホルダーの人権課題がその対象となります。

 人権DDの実施手順として、本ガイドラインは、指導原則に基づき、以下の4ステップを挙げています。これらの手順は、Step1から4までを1回実施すればそれで完結するという類のものではなく、「説明・情報開示」のあとは、再び「負の影響の特定・評価」に戻り、ステークホルダーとの対話を重ねながらサイクルを回し続けることが求められています

本ガイドラインに基づく人権DDプロセスの全体像 − PDCAサイクル

本ガイドラインに基づく人権DDプロセスの全体像 − PDCAサイクル

(1)負の影響の特定・評価

 「負の影響の特定・評価」とは、企業が関与している、または関与し得る人権への負の影響を評価することであり(本ガイドライン14頁)、換言すれば、自社の事業のどこにどのような人権侵害リスクがあるかを特定して、そのリスクの大きさを評価することを意味しています。本ガイドライン案は、ハイリスクの事業領域の特定にあたっては、OECDガイダンスQ20等に基づき、セクターのリスク、製品・サービスのリスク、地域リスク、企業固有のリスク、といった4つのリスク要素を考慮できるとしています(本ガイドライン14・15頁)。

 具体的には、自社の事業内容ごとに、人権侵害リスクの大小を縦軸、自社とのつながりを横軸にとった表を作るなどして、人権リスクをマッピングしていくことになります 7

(2)負の影響の防止・軽減

 負の影響の防止・軽減に関し、本ガイドラインは、企業がその活動を通じて負の影響を「引き起こし」ている場合、「助長」している場合、そして「直接関連」している場合に分けて、前二者の場合には適切な是正策を講じることを、「直接関連」の場合にはその努力をすることを求めています(本ガイドライン20頁)。

 手段としての取引停止に関しては、取引を停止することにより、負の影響への注視の目が行き届かなくなったり、取引停止に伴い相手企業の経営状況が悪化して従業員の雇用が失われる可能性があったりするなど、人権への負の影響がさらに深刻になる可能性もあるとして、「最後の手段」として検討されるべきとされています(本ガイドライン22頁)。

 また、紛争等の影響を受ける地域からの「責任ある撤退」については、高いリスクに応じた人権DD(強化された人権DD)の必要性や事前の撤退計画の検討の重要性が強調されています(本ガイドライン18・19頁および24・25頁)。

 なお、本ガイドラインは、「構造的問題」について、「企業による制御可能な範囲を超える社会問題等により広範に見られる問題でありながら、企業の事業又はサプライチェーン内部における負の影響のリスクを増大させているもの」と定義しています。その上で、「企業は、社会レベルの構造的問題の解決に責任を負うわけではないが、企業による問題への取組が、人権への負の影響を防止・軽減する上で有効な場合もあり、可能な限り、企業においても取組を進めることが期待される」とし、その例として、児童労働のリスクを増大させる就学難および高い貧困率、外国人、女性、そしてマイノリティー集団に対する差別等を挙げています(本ガイドライン25頁)。

 しかし、この点に関し、OECDガイダンスは、むしろ「企業は政府の機能不全に対する責任を負わないが、構造的リスクが存在する状況の中で企業活動を行うという決定は、デュー・ディリジェンスの性質と範囲を拡大することになる」(OECDガイダンス日本語版76頁)と述べており、むしろ拡大した人権DDの取組を求めています。国際基準上は、あくまでも企業の人権尊重責任の有無は、当該企業の事業活動が問題を引き起こし、助長し、あるいは直接関連しているかどうかという基準をもとに判断されるため、「構造的問題」か否かを基準に人権DDの範囲を判断することは避けるべきと考えられます 8

(3)取組の実効性の評価

 取組の実効性の評価に関しては、本ガイドライン案は、企業が上記(1)(2)に効果的に対応してきたかどうかを評価し、当該結果に基づいて継続的な改善を進める必要があるとし、評価にあたっての情報収集の方法(自社従業員やサプライヤー等へのヒアリング、質問票、現地訪問、監査等)や評価手続を社内プロセスに組み込む方法についても説明しています(本ガイドライン26・27頁)。

(4)説明・情報開示

 説明・情報開示については、企業が講じた上記(1)(2)(3)の措置について、説明・開示する情報の内容や方法、頻度(1年に1回以上であることが望ましいこと)が説明されています(本ガイドライン27・28頁)。

救済メカニズムの構築(ガイドライン5.)

 最後に、本ガイドラインは、企業が、自社が人権への負の影響を引き起こし、または助長していることが明らかになった場合、救済を実施し、または救済の実施に協力すべきであるとしています(本ガイドライン29頁)。他方で、本ガイドラインは、自社の事業・製品・サービスが負の影響と「直接関連」しているのみの場合には、その企業には、救済の役割を担うことはあっても、救済を実施する責任はないとしつつ、負の影響と引き起こし、または助長した他企業に働きかけることにより、その負の影響を防止・軽減するよう努めるべきであることに留意が必要であるとしています(同29頁)。

 もっとも、実務上、ここでいう「助長」と「直接関連」の区別は容易ではありません。本ガイドラインのQ&A13では、その区別の方法について、各要素を総合的に考慮して判断するものとした上で、以下のように記載されていますので、「助長」の範囲は広く捉えるとともに、「助長」と「直接関連」へのカテゴライズは流動的なものと理解しておくべきでしょう。

 もっとも、実際には、「助長」又は「直接関連」のいずれのケースに該当するかの区別が困難な場合も多く、そのような場合には、「直接関連」が「助長」に発展することなどもあるため、人権尊重責任の趣旨が人権への負の影響の防止・軽減にあることを踏まえ、「助長」として捉え、負の影響を防止・軽減するとともに、救済を提供することが望ましい。
 なお、企業と人権への負の影響の関係性は、変わり得るものであり、「直接関連」が「助長」に発展する可能性があることにも留意が必要である。

 そして、本ガイドラインは、具体的な救済の方法として、企業に対し、企業とそのステークホルダーに関わる苦情や紛争に取り組む一連の仕組みである苦情処理メカニズムを確立するか、または、業界団体等が設置する苦情処理メカニズムに参加することを通じて、人権尊重責任の重要な要素である救済を可能にすることを求めています(本ガイドライン29頁)9

 なお、本ガイドラインは、苦情処理メカニズムの例として、自社や直接・間接のサプライヤーの従業員が利用できるシステムを挙げていますが、ここでいう苦情処理メカニズムの利用者は、労働者に限らず、およそ企業活動に関わる国内外の全てのステークホルダー(たとえば、顧客のほか、事業活動からの影響を被る地域住民等も含みます)である必要があります。

今後のスケジュール、予想される動き等

 今後、本ガイドラインの策定に併せて、「主に企業の実務担当者に対して、人権尊重の取組の内容をより具体的かつ実務的な形で示すための資料」が経産省より作成・公表される予定です(本ガイドライン4頁)。また、今回、日本政府は、ガイドラインという法的拘束力のないソフトローで企業に人権尊重責任があることを確認しましたが、欧州をはじめとした各国では、企業に義務的人権DDを課す法制化が進んでおり 10、日本国内でも、このような法制化に向けた動きがみられます 11

 人権尊重に向けた取組は、短期間で集中的に行われるM&Aにおけるデューディリジェンスとは異なり、じっくりと時間をかけてサイクルを回し続け、ブラッシュアップしていくことが求められているため、まだ何も着手していないという企業においては、まずは、早急に自社の事業活動に伴う人権課題の把握から取組を進めていく必要があるといえます。


  1. 経済産業省「日本政府は『責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン』を策定しました」(2022年9月13日)。(最終閲覧:2022年9月26日)。 ↩︎

  2. Guiding Principles on Business and Human Rights. 指導原則は原則部分とコメンタリー部分から構成されていますが、原則部分に関しては、外務省による仮訳版も公表されています。コメンタリー部分を含む全体に関しては、国連広報センターが日本語訳を公開しています。 ↩︎

  3. OECDガイダンスは、OECDのウェブサイトにて閲覧できます。英語版とフランス語版が公式版とされていますが、日本語版も提供されています(最終閲覧:2022年9月26日)。 ↩︎

  4. 同ガイドラインは、日本繊維産業連盟のウェブサイトよりダウンロードすることができます(最終閲覧:2022年9月26日)。また、本ガイドラインの付属資料「海外法制の概要」10・11頁にも記載のあるとおり、欧州委員会(EC)が、2022年2月に発表した「企業持続可能性デューディリジェンス指令案」(Proposal for a Directive on Corporate Sustainability Due Diligence)も、その別紙において、(1)国際人権協定上含まれる権利や禁止事項を例示列挙すると同時に、(2)それらの根拠となる国際人権条約等を列挙しており(同指令案Annex Part I)、「ビジネスと人権」において問題となりやすい国際人権を理解する上で参考になります。具体的には、(1)として、自由権規約の第1条に基づく土地の天然資源を処分し生活手段を奪われないという人々の権利侵害、世界人権宣言第3条に基づく生命と安全に関する権利侵害、世界人権宣言に基づく拷問、残虐、非人道的または品位を傷つける取扱いの禁止に対する違反等を挙げ、(2)として、世界人権宣言、自由権規約、社会権規約およびILO中核的労働基準のほか、拷問等禁止条約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、障がい者権利条約等を挙げています(最終閲覧:2022年9月26日)。なお、今回公表された日本政府の本ガイドラインの案文に対するパブリックコメントでは、本ガイドライン自体にもこのような国際人権条約および国際人権の一覧を盛り込むべきとの意見が複数見受けられます(一例として、日本サステナブル投資フォーラム「パブリック・コメント」(2022年8月)(最終閲覧:2022年9月26日)。 ↩︎

  5. 本ガイドラインも示すように、国際的に認められた人権は、国際的な議論の発展などによって拡大し得る点には注意が必要です(本ガイドライン7頁・脚注24)。たとえば、2022年7月、国連総会において、「クリーンで健康的な持続可能な環境にアクセスする権利」を人権として宣言する旨の決議が、日本を含む賛成161票、反対0票、棄権8票という大差で採択されており、新たな国際人権として認知されるに至っています。詳しくは、国連 “UN General Assembly declares access to clean and healthy environment a universal human right”(2022年7月28日)(最終閲覧:2022年9月26日)をご覧ください。 ↩︎

  6. 名称に関し、本ガイドラインは、「人権方針という名称の単独の文書である必要は必ずしもなく、実質的に人権方針の要件を満たす文書でもよいが、人権方針に相当するものであることが対外的に明確な文書であることが望ましい」としています(本ガイドライン13頁・脚注42)。 ↩︎

  7. 実際の人権リスクマッピングの開示例としては、大成建設株式会社「人権リスクのマッピング結果」(最終閲覧:2022年9月26日)、ソフトバンク株式会社「人権リスクのマッピング」(最終閲覧:2022年9月26日)等があります。 ↩︎

  8. 認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ「『責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)』についてのパブリックコメント」(2022年8月29日)6頁(最終閲覧:2022年9月26日)では、構造的問題は、企業活動によって再生産されてきた経緯があるため、企業の人権尊重責任は、対象となる人権課題が「構造的問題」であることのみをもって直ちに免除ないし制限されるものではないとの指摘がなされています。そして、その例として、日本社会における構造的問題といいうるジェンダーギャップは、個々の企業による採用や昇進時の取扱いが助長してきたものであり、企業の事業活動に伴い生じる人権リスクとして、まさに企業が取り組むべき人権課題である旨が指摘されています。 ↩︎

  9. 本ガイドラインは、苦情処理メカニズムは、指導原則31に基づき、以下の8要件を備えるものである必要があるとしています(本ガイドライン30頁)。
    ① 正当性:苦情処理メカニズムが公正に運営され、そのメカニズムを利用することが見込まれるステークホルダーから信頼を得ていること
    ② 利用可能性:苦情処理メカニズムの利用が見込まれる全てのステークホルダーに周知され、例えば使用言語や識字能力、報復への恐れ等の視点からその利用に支障がある者には適切な支援が提供されていること、
    ③ 予測可能性:苦情処理の段階に応じて目安となる所要時間が明示された、明確で周知された手続が提供され、手続の種類や結果、履行の監視方法が明確であること
    ④ 公平性:苦情申立人が、公正に、十分な情報を提供された状態で、敬意を払われながら苦情処理メカニズムに参加するために必要な情報源、助言や専門知識に、合理的なアクセスが確保されるよう努めていること
    ⑤ 透明性:苦情申立人に手続の経過について十分な説明をし、かつ、手続の実効性について信頼を得て、問題となっている公共の関心に応えるために十分な情報を提供すること
    ⑥ 権利適合性:苦情処理メカニズムの結果と救済の双方が、国際的に認められた人権の考え方と適合していることを確保すること
    ⑦ 持続的な学習源:苦情処理メカニズムを改善し、将来の苦情や人権侵害を予防するための教訓を得るために関連措置を活用すること
    ⑧ 対話に基づくこと:苦情処理メカニズムの制度設計や成果について、そのメカニズムを利用することが見込まれるステークホルダーと協議し、苦情に対処して解決するための手段としての対話に焦点を当てること ↩︎

  10. たとえば、ドイツでは、対象となる企業に対し、サプライチェーンに関する人権DD等の実施を義務付けるサプライチェーン法が2023年1月に施行される予定です。その他、詳しくは本ガイドライン付属資料「海外法制の概要」をご覧ください。 ↩︎

  11. たとえば、自民党の「外交部会 わが国の人権外交のあり方検討プロジェクトチーム」は、2021年5月、政府に対し、人権デューディリジェンスの将来の法制化を促す「第一次提言」をとりまとめています(最終閲覧:2022年9月26日)。 ↩︎

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