クッキー規制の新設?利用者に関する情報の外部送信規律、およびその他の改正事項 改正電気通信事業法の概要と実務への影響 規制対象や必要な対応を弁護士が解説 - 後編

IT・情報セキュリティ 公開 更新
山郷 琢也弁護士 TMI総合法律事務所 溝端 俊介弁護士 TMI総合法律事務所 石田 晃大弁護士 TMI総合法律事務所

目次

  1. 利用者に関する情報の外部送信規律
    1. 規制対象となる事業者
    2. 規制対象となる事業者において必要な実務対応
  2. その他改正事項
    1. 情報通信インフラの提供確保
    2. 電気通信市場を巡る動向に応じた公正な競争環境の整備
  3. おわりに

 令和4年6月13日、電気通信事業法の一部を改正する法律が可決・成立し、同月17日に法律第70号として公布されました(同法による改正を「本改正」といいます)。令和5年1月16日には、電気通信事業法施行規則等の一部を改正する省令(令和5年総務省令第2号)が公布されています。


 また、プラットフォームサービスに係る利用者情報の取扱いに関するワーキンググループ(第20回、第21回、第22回)において、「外部送信規律に係る電気通信事業における個人情報保護に関するガイドラインの解説案について」と題する文書が公表されました(令和4年11月〜12月)。さらに、特定利用者情報の適正な取扱いに関するワーキンググループ(第6回、第7回)においては、「特定利用者情報に係る電気通信事業における個人情報保護に関するガイドラインの解説案について」と題する文書が公表されました(令和5年1月〜2月)。これらの検討を踏まえて、総務省は、令和5年3月23日に、「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」及び「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドラインの解説」の改正案(以下「改正ガイドライン案」といいます。)の意見募集手続を開始しています。

 本記事では、本改正の施行(令和5年6月16日)を前に、改正のポイントや実務への影響・対応について3回にわたり解説します。後編にあたる本稿では、利用者に関する情報の外部送信規律の概要や、その他の改正事項について説明します。

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電気通信事業法の基礎と最新動向 - 令和4年改正電気通信事業法の実務対応の勘所」(68分)
講師:山郷 琢也 弁護士(TMI総合法律事務所)

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利用者に関する情報の外部送信規律

 一部報道等ではクッキー規制とも評されていますが、本改正により、新たに利用者に関する情報の外部送信に対する一定の規制が導入されました(改正法27条の12)。中編で解説した特定利用者情報の適正な取扱いに関する規律(改正法27条の5から27条の11)と、利用者に関する情報の外部送信規律(改正法27条の12)は、一連の条文として規定されているものの、前者と後者では、規制事業者や保護される情報の範囲に違いがあるため、注意が必要です。両者の違いについては、下図をご参照ください。

規制対象となる事業者

 改正法27条の12条が適用されるのは、電気通信事業者および第三号事業を営む者のうち一定の者とされています。具体的には、改正規則22条の2の27に列挙されている電気通信役務を提供する者とされています。
 改正規則22条の2の27の内容および想定されるサービスは以下の表のとおりです。

類型 条文の規定 想定されるサービス
通信媒介型 1号 他人の通信を媒介する電気通信役務 メールサービス、ダイレクトメッセージサービス、クローズドチャットアプリ、ウェブ会議システム(参加者を限定した会議が可能なもの)、クローズドチャット機能を含んだアプリやウェブサービス等
プラットフォーム型 2号 記録媒体に情報を記録し、又はその送信装置に情報を入力する電気通信を利用者から受信し、これにより当該記録媒体に記録され、又は当該送信装置に入力された情報を不特定の利用者の求めに応じて送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務 SNS、電子掲示板、動画共有サービス、オンラインショッピングモール、シェアリングサービス、マッチングサービス、ライブストリーミングサービス、オンラインゲーム等
情報検索型 3号 入力された検索情報(検索により求める情報をいう。以下この号において同じ。)に対応して、当該検索情報が記録された全てのウェブページ(通常の方法により閲覧ができるものに限る。次条第3項第1号において同じ。)のドメイン名その他の所在に関する情報を出力する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務 オンライン検索サービス
情報発信型 4号 前号に掲げるもののほか、不特定の利用者の求めに応じて情報を送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務であって、不特定の利用者による情報の閲覧に供することを目的とするもの ニュースや気象情報等の配信を行うウェブサイトやアプリケーション、動画配信サービス、オンライン地図サービス、オウンドメディア等

 また、当初は規制対象の絞り込みにあたって、ウェブサイトの閲覧(PV)数やアプリのダウンロード数を勘案することも提案されていましたが、議論の結果、そのような限定は付されないこととされています。したがって、ウェブサービスを提供する事業者は、自身のサービス内容が改正規則22条の2の27各号に該当するか否かを精査した上で、改正法27条の12を踏まえた慎重な対応が求められます。

規制対象となる事業者において必要な実務対応

 改正法27条の12の適用場面は、上記1−1で述べた事業者が、電気通信役務の提供に際し、利用者の電気通信設備を送信先とする情報送信指令通信 1 を行おうとするときです。条文上はややわかりにくいですが、本条が適用される場面の典型例としては、ウェブサイトやアプリの提供者等が、クッキーやタグ、情報収集モジュール等を介して、閲覧履歴等、利用者の端末に保存されている情報をサーバーに外部送信する場面になります。今後、ケースバイケースの検討が必要になりますが、たとえば、クッキーや情報収集モジュール等を使ったターゲティング広告やコンバージョン測定、アクセス解析、プロファイリング等が規制される可能性があるため、改正法の施行後は、デジタルマーケティングの在り方を見直す必要があると思われます。

 他方で、文字や画像を適正に表示するためのOS情報、画面設定情報、言語設定情報、入力した情報の保持等に必要な情報、認証に必要な情報、サービス提供者のセキュリティに関するセキュリティ対策に必要な情報、ネットワーク管理に必要な情報、ファーストパーティクッキーに保存されたID等については、適用除外とされています(改正法27条の12第1号および2号、改正規則22条の2の30)2。また、利用者が同意した情報やオプトアウト措置を求めていない情報についても適用除外とされています(改正法27条の12第3号および4号)。
 上記の規制が適用される場合、規制対象となる事業者は、あらかじめ、以下の事項を当該利用者に通知し、または当該利用者が容易に知り得る状態に置く必要があります。

 上記の記載事項のうち、「③その他総務省令で定める事項」は、送信されることとなる利用者に関する情報の内容、送信先の氏名又は名称、送信先における利用目的(改正規則22条の2の29)、オプトアウト措置その他利用者の関与の方法等が規定されています(改正規則22条の2の31)3

 利用者に対する通知等を実装する際には、利用者に対するわかりやすさを意識することが重要であり、たとえば、ポップアップ等による能動的な通知や、表形式での一覧性のある表示、アコーディオン方式での表示(上位階層にて概要を説明し、詳細は下位階層にて表示する手法)などの工夫が考えられます。改正規則では、ウェブページの場合には、外部送信を行うウェブページ又は当該ウェブページから容易に到達できるウェブページにおいて表示すること、ソフトウェアの場合には最初に表示される画面又は当該画面から容易に到達できる画面において表示すること、あるいはそれらと同等以上に容易に到達できる画面で表示することが求められています(改正規則22条の2の28第3項)。また、日本語を用いて、専門用語を避け、平易な表現を用いること、操作を行うことなく文字が適切な大きさで表示されるようにすること等も求められます(改正規則22条の2の28第1項)。

 事業者の中には、すでにe-プライバシー指令を踏まえたEU各国法やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)対応の一環として、クッキーポリシーを定め、クッキーの種類や利用目的等を規定している場合もあると思われますが、改正法施行後は、改正法27条の12の要求事項を満たしているかを再度確認する必要があります。また、前編・中編でも見てきたとおり、本改正は、潜在的には、ECモール、ネットオークション、フリマアプリ、動画共有プラットフォーム、各種コンテンツ配信等を提供する第三号事業において広く問題になり得るところ、このような事業者においても、改正法27条の12に適合しているか否かの再点検が必要になります。

 現在、筆者らの下には多様な事業者から外部送信規律関連の法務相談が集まってきており、改正法の施行に向けた準備を進める企業が急増しているとの印象を受けます。必要な対応は事業者ごとに異なりますが、一般的には、以下の手順に沿って検討する必要があるでしょう。

チェック 要検討事項
規制対象となるサービスの洗い出し
  • 「電気通信事業」の該当性検討
  • 改正規則22条の2の27の該当性検討
クッキーや情報収集モジュール等についての情報収集、社内ヒアリング
適用除外規定の検討
(必要に応じて)個人情報保護法や海外法令との差分検討
クッキーポリシー等の文案検討
クッキーポリシー等の実装(CMP(Consent Management Platform)等の活用)
定期的なアップデート

その他改正事項

情報通信インフラの提供確保

 電気通信事業法には、国民生活に不可欠であるためあまねく日本全国における提供が確保されるべきサービス(以下「ユニバーサルサービス」といいます)の提供を維持するために、不採算地域において、利用者の利便性を確保するため、適格電気通信事業者(NTT東西)に交付金を交付する制度があります。

 本改正では、テレワーク、遠隔教育、遠隔医療等を原則として日本全国において利用可能にすることを目指し、ブロードバンドサービスがユニバーサルサービスの新たな類型として位置付けられました(改正法7条1項2号)。本改正によって、ブロードバンドサービスを提供する電気通信事業者であって一定の規模を超える事業者は、支援機関が適格電気通信事業者に対して交付する交付金に充てるため、一定の負担金を負担する必要があります(改正法110条の5)。仮に事業者が当該負担金を利用者に転嫁するのであれば、契約約款の変更が必要になると考えられ、民法548条の4や法26条および法26条の2といった手続を踏む必要があるものと考えられます。また、FTTH、CATVインターネット(HFC方式)およびワイヤレス固定ブロードバンド(専用型)を提供する事業者のうち契約数が30万を超える者は、契約約款を策定の上、総務大臣に届け出る必要がある点にも注意が必要です(改正法19条)。

電気通信市場を巡る動向に応じた公正な競争環境の整備

 電気通信事業者が他の電気通信事業者が設置する電気通信設備を利用しようとするときには、「接続」と「卸役務」の利用のいずれかを選択することが可能です。この点、卸役務が他事業者に広く提供される一方、卸料金が高止まりしているとの指摘がありました。

 そこで、交渉上の優位性や両者の間の情報の非対称性を是正し、より協議が実質的・活発に行われるための環境整備を図ることが必要であるとされたことを踏まえ 4、一定の法改正がされました。

 具体的には、特定卸電気通信役務(指定電気通信設備 5 を用いる卸電気通信役務のうち、電気通信事業者間の適正な競争関係に及ぼす影響が少ないものとして総務省令で定めるもの以外のもの)については、正当な理由がなければ、その業務区域内における提供を拒んではならないとされました(改正法38条の2第2項)。また、他の電気通信事業者から、特定卸電気通信役務の提供に関する契約の締結の申入れを受けた場合において、価格の算定方法等を提示するよう求められたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならないとされました(改正法38条の2第3項)。

 本改正によって、FNO・FVNO間、MNO・MNVO間の特定卸電気通信役務の提供を巡る交渉がより活性化することが期待されます。

おわりに

 筆者らは、電気通信事業法を含む通信関連法令を1つの専門分野としていますが、近時、当該分野の相談が急増しているように感じます。デジタル化の進展に伴い、多様な産業において様々な形態でのオンラインサービスが生まれているところ、電気通信事業法をはじめとする通信関連規制にどこまで対応すればよいかがわからないという切実な悩みを持つ事業者が増えています。この分野は、文献も乏しく、またほぼ毎年に近い高い頻度で改正が行われるため、専門家の適切なアドバイスを得ながら事業を進めることが重要です。


  1. 利用者の電気通信設備が有する情報送信機能(利用者の電気通信設備に記録された当該利用者に関する情報を当該利用者以外の者の電気通信設備に送信する機能をいいます)を起動する指令を与える電気通信の送信をいいます。 ↩︎

  2. 前掲注1 ↩︎

  3. プラットフォームサービスに係る利用者情報の取扱いに関するワーキンググループ事務局「プラットフォームサービスに係る利用者情報の取扱いに関するWGとりまとめ(案)」(2022年6月) ↩︎

  4. 総務省「接続料の算定等に関する研究会 第五次報告書」(2021年9月) ↩︎

  5. NTT東西が提供する固定系の設備および主要MNO 3社および全国BWA事業者が提供する移動系の設備が該当します。 ↩︎

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