企業法務の地平線

第22回 事業への情熱をもとに担当者をアサイン - DeNA 法務部門内の「透明性」を確保し、多様な人材が活躍する組織をつくる

法務部

シリーズ一覧全40件

  1. 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド 
  2. 第2回 「インハウス・ロイヤー」という選択肢 - 日本にとってCLOは必要なのか?
  3. 第3回 世界を股にかけた法務パーソン、国際ビジネスの現場で見えたもの
  4. 第4回 変わるワークスタイルと変わらぬ信念
  5. 第5回 会社の「誠実」を担う法務の姿 – 双日
  6. 第6回 300人体制を築くメガ法務の役目 - パナソニック
  7. 第7回 米国発のルールを日本に浸透させていく、アドビ法務・政府渉外本部の役割
  8. 第8回 マイクロソフトが実践するダイバーシティ戦略
  9. 第9回 法務畑を歩み続けたユニリーバ北島氏が考える、法務の役割と今後の課題
  10. 第10回 人と組織の成長を創造するプロアクティブな法務 - パーソルホールディングス
  11. 第11回 少数精鋭でチャレンジングな法務 - アサヒグループ
  12. 第12回 法律が追いつかないゲーム業界に求められるスピーディな体制構築術 - グリー
  13. 第13回 「1つの特許で生きるか死ぬか」、経営に直結する法務が見据えるグローバル化 - 田辺三菱製薬
  14. 第14回 たばこの概念を覆した「IQOS」で煙のない社会を目指す - フィリップ モリス
  15. 第15回 舞台はグローバル、事業に深くコミットする商社法務 - 三菱商事
  16. 第16回 懐深く、信頼して任せる風土 - 丸紅
  17. 第17回 経営の視点と専門性を持った法務人材を輩出する - キヤノン
  18. 第18回 「多様性」のある組織こそ、強みを生む - ソニー
  19. 第19回 一人ひとりが知財責任者としてのマインドを持つ - メルカリリーガルグループが実践する事業への関わり方
  20. 第20回 「使って初めて価値が出る」、ミッション・バリューを自らの言葉に「翻訳」して実践 - ユーザベース
  21. 第21回 「ポケモン」を支えるプロデューサーとしての法務 - 株式会社ポケモン
  22. 第22回 事業への情熱をもとに担当者をアサイン - DeNA
  23. 第23回 グローバルへと進化するために、働き方改革を推し進める法務組織 - 電通
  24. 第24回 プロジェクトチームの一員として、グローバルで多様なビジネスに並走する - アクセンチュア
  25. 第25回 事業部と一体となり、新規事業領域へチャレンジ – キリンホールディングス
  26. 第26回 合併を経て進化を続けるビジネスパートナーとしての法務 ―コカ・コーラ ボトラーズジャパン
  27. 第27回 活発なM&Aを支える法務組織とその柔軟な働き方 - 富士フイルム
  28. 第28回 契約書を作るだけではない、グローバルな成長に貢献するビジネスコンサルタントとしての法務 – 味の素
  29. 第29回 ウィズコロナ時代に問われる法務部門の組織運営 鍵はリーガルテックの積極活用 – 太陽誘電
  30. 第30回 テレワーク下の法務業務は「依頼者ファースト」のITツール活用で対応 - サイボウズ
  31. 第31回 アフターコロナになっても変わらない、法務のあるべき姿 - パーソルグループ
  32. 第32回 グローバル企業における法務業務とリーガルテック導入事例 勝機はスモールスタートにあり - 日揮グループ
  33. 第33回 急成長するベンチャーを支える「企業法務」の役割とは - GAテクノロジーズ
  34. 第34回 全ては事業の成長のために。ありのまま採用と価値観の共有化を通じて作り上げる熱い組織 - Visional
  35. 第35回 新規事業をサポートするインハウスロイヤーたち - あおぞら銀行のスタートアップサポートチームが生み出す価値とは
  36. 第36回 アクセンチュア法務が高い付加価値を生み出せる理由 オフショア化で契約業務を6割削減
  37. 第37回 大手法律事務所で専門性を極め「自分をアップデート」する環境を求めて – メドレー
  38. 第38回 「世界一幸せな法務」というビジョンを掲げ、事業を通じた社会課題の解決を目指す - LIFULL
  39. 第39回 強固な組織体制のもとで専門性の高いメンバーがイノベーションに貢献 - 日本アイ・ビー・エム
  40. 第40回 丸紅法務部の挑戦と変革 − 精鋭のメンバーがさらなる価値創出にコミットするために
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目次

  1. 組織を固定せず、事業部門のパッションに応えられる担当者をアサイン
  2. 「透明性」を重視し、全社の経営課題から各担当者の業務状況までを法務部門内でシェア
  3. ビジネス部門から課題を引き出すための、相談しやすい印象づくり
  4. 事業が変わっても対応できる、業務の本質をつかんだ人材を育成

AIやブロックチェーンといった技術の革新が進むなか、テクノロジーを活かした新規事業を展開する企業が増えてきている。新規事業を手がけるにあたっては、それまで関わったことがない法律や、社会通念への遵守が求められることもある。その際、法務部門は重要な役割を担うが、ビジネスの価値や展開スピードを損ねることなくリスクも回避するためには、ビジネス部門と適切な関係性を築くことが不可欠だろう。

本稿では、次世代タクシー配車アプリ「MOV」をスタートするなど、新たな事業を次々と生み出している株式会社ディー・エヌ・エーの経営企画本部 法務部長 三ヶ野 吾郎氏と小船戸 瑞枝氏に、新規事業をはじめとしたビジネス部門と関わるうえで意識している点や、法務部門の体制について話を伺った。

組織を固定せず、事業部門のパッションに応えられる担当者をアサイン

法務部門の人数構成と、各メンバーの役割について教えてください。

三ヶ野氏:
私の上長である法務専門役員をふくめ、約20名が所属しています。全社で2、30のサービスがあるので、当社の法務部門では1人が3つ以上の事業やサービスを担当しているケースが多いです。プロジェクトごとにリーダーやメンバーは決まっていますが、この人はゲームセグメントだけ、この人はヘルスケアセグメントだけ、といったジャンル分けはなく、各自が複数の分野を受けもっています。

またいわゆるコーポレート法務の分野である会社法周辺、M&Aや登記手続だけを行っている人もおらず、事業部門をあわせて見ながらそうしたコーポレート法務の仕事も行っています。一般的には、コーポレート法務グループやビジネス法務グループと分かれている会社が多いと思いますが、当社では垣根がないところをよしとして、対応できる人が強いイニシアチブと専門性を持って担当すればいいと考えています。

業務の内容としては、予防法務(契約、個別の適法性の確認等)、臨床法務(訴訟、訴訟に至らない係争、トラブル対応)、コーポレートガバナンス・コンプライアンス対応(制度設計、ルール整備)などです。最近はコーポレートガバナンス・コードへの対応や、IR関連業務、株主総会対応などの仕事が特に増えています。しかし、それらのうちどれかだけを行っている人はいません。

状況に応じ、柔軟に組織をつくっているのですね。

三ヶ野氏:
はい。半年たつと当社の扱うサービスがどんどん変わることもあり、固定していません。個々人の役割はその都度、事業の変化に応じて見直して決めています。

プロジェクトが走り出す際は、どのように担当を振り分けているのでしょうか。

三ヶ野氏:
指名するケースも立候補があるケースも両方あります。たとえば2018年はGDPR対応のプロジェクトがありましたが、海外事業の担当メンバーが個人情報に詳しいかというと、そうとも限りません。両方持ち合わせている人は誰か、と考えながら話していくなかで指名することも、あるいはメンバーが自分から手を挙げることもあります。

希望すれば手を挙げて事業に関わることもできるのですね。

三ヶ野氏:
当社は新規分野の事業が多く、答えがない法的な難題に対して線引きをするには、パッション(情熱)が必要となります。やらされ仕事では成功できません。たとえば、自動運転を活用した取り組みを何としてでもこの世の中に広げていきたい、ヘルスケアで困っている人がいる中で社会的な付加価値を与えていきたい、と真剣に考える必要があります。本人のやりたいという気持ちを重視し、これまで積んできた実績を掛け合わせてアサインしています。

そうした環境のなかで、お二人はどのような役割を担当していらっしゃいますか。ご経歴も交えて教えてください。

小船戸氏:
私は新卒で広告代理店に入社し、法務部門に配属され4年弱働いたのちに、当社に入社しました。現在は、ゲーム事業、ソーシャルLive事業、エンターテインメント事業を中心にゲーム、マンガ、小説やSHOWROOMなどを担当し、契約の交渉・作成と、サービスの仕様設計・相談等を行っています。

貴社へはどういった点に期待して入社されましたか。

小船戸氏:
広告代理店はBtoBサービスがメインなので、お客さまの声などが少し遠く感じていて、直接お客さまの声を聞けるようなサービスに関わりたいと思い、当社に入りました。

入社されてみて、その思いは実現できましたか。

小船戸氏:
当社のサービスは新規分野の事業が多いなか、事業部門の企画に対するパッションを受け止めて世に届けるために、法務部門も事業のことをよく理解する必要があります。直接お客さまの声を聞く機会もありますし、自分たちが企画したサービスや仕様がそのまま世に出ることもあります。最終的にお客さまに提供するところまで見届けることができるのが、当社の法務部門の面白いところです。

事業の設計や、コンテンツへのアドバイスを行うこともあるのですね。

小船戸氏:
はい、たとえば好きなコンテンツがある場合には、単純に消費者として意見を言うこともあります。法務としての立場からはもちろん、お客さまからどう見えるかという視点を大切にしています。事業を進めるうえでは、事業部門のパッションと、客観的な視点が必要ですよね。

三ヶ野様はこれまでどういったキャリアを歩んでこられましたか。

三ヶ野氏:
日本の技術力を武器に戦っていくことや、日本人のよさを生かした価値を世界へ提供する事業に法務の立場から関わりたいと思い、国内大手メーカーの法務部門に入りました。ひととおりの業務を担当した後、大手では構造的に難しかった、より総合的な法務観点からの業務に取り組みたいと思い、当社に転職しました。

当時、当社では、新規事業扱いだった海外事業をまず担当し、海外のゲーム事業やEC事業、オートモーティブ事業、人事・労務など担当領域を広げ、2017年から部長としてマネジメントを行なっています。

株式会社ディー・エヌ・エー 経営企画本部 
法務部長 三ヶ野 吾郎氏

株式会社ディー・エヌ・エー 経営企画本部 法務部長 三ヶ野 吾郎氏

「透明性」を重視し、全社の経営課題から各担当者の業務状況までを法務部門内でシェア

法務部門のミッションなどは定めているのでしょうか。

三ヶ野氏:
法務独自の方針を定めるというよりは、全社のミッションやビジョンにある言葉が何を指すかについて、しっかりかみ砕いて共有しています。

株式会社ディー・エヌ・エーのミッション
「Delight and Impact the World」

株式会社ディー・エヌ・エーのビジョン
「インターネットやAIを活用し、永久ベンチャーとして世の中にデライトを届ける」

たとえば「Delight」は、私たちが行う仕事がお客さまやステークホルダー、社会のためになっているかを振り返るための言葉です。法務の議論の中でも「それは本当にお客さまや株主、ビジネスパートナーや社会などのステークホルダーにとってのDelightになるか」を常に問うています。

また全社で定めている「DeNA Quality」にある言葉は日々の会話でよく使われます。役割に関わらず自分の考えを示す「発言責任」を果たしているかなどは、日常的に問われます。社員がよく使う言葉を「DeNA Quality」としてまとめているとも言えますね。

DeNA Quality
 − 「こと」に向かう
 − 全力コミット
 − 2ランクアップ
 − 透明性
 − 発言責任

小船戸氏:
日々の業務において「誰に話を通す」という決まりがなく、決裁も必ず直属のマネージャーが行うというわけではありません。内容や分野ごとに、専門性が高いメンバーと業務を進めています。メンバーとマネージャーの意見が分かれる場合は、腑に落ちるまでディスカッションして結論を決めます。

三ヶ野氏:
「透明性」を例にとると、当社では、法務部門は専門性により経営課題を解決すべきだと考え、本当に秘匿性の高いものを除き、取締役会や経営会議の内容も部門の定例会議や日々のやりとりでシェアしています。

また各メンバーの業務をブラックボックス化させないという意味でも「透明性」を担保しています。私や各事業領域のマネージャが業務の状況を把握したうえで、各事業領域に常に複数の担当者をつけています。たとえばいま小船戸は時短勤務で働いていますが、帰宅した後でも業務が進むように、複数の担当者でフォローしあえる体制にしています。

その際は、担当者一人ひとりが同様に対応できるようにし、彼女がいないと対応できないといった「ワンオペ」状態にはならないようにアサインしています。

各メンバーが複数のプロジェクトを受け持つ体制が成り立っているのも、「透明性」の確保によるものなのですね。

小船戸氏:
負荷の大きい複数のプロジェクトを同時に担当することはあります。そのときは組織としてスピード感を落とさずに進行するためにも、上司に優先順位を相談したうえで、サポートが可能なメンバーに作業を依頼します。こうしたやりとりができるのは「透明性」のおかげですね。ノウハウが属人化してしまうと業務が引き渡せなくなりますし、仮に退職してしまうと組織のレベルが落ちてしまいます。そのため三ヶ野をはじめ、法務部門全体で組織構成の最適化を心掛けています。

自分が担当していないプロジェクトの状況も、普段から把握しているのでしょうか。

三ヶ野氏:
毎週の法務定例会議で、各プロジェクトの状況を部門内に共有しています。異なるプロジェクトで出てくる課題などの論点をシェアして、各メンバーの論点を発見・解決するスキルを高めるという意味合いもありますし、他のプロジェクトで何が起きているかがわかっていると、担当者がいなくても、事業部からの相談への対応方法がある程度判断できます。

またITツールも活用し透明化・効率化を図っています。案件依頼をウェブ上の依頼フォームに入力してもらい案件管理を行うということは10年ほど前からやっていたのですが、最近ですとメールを送ると勝手にデータベースと連動して、案件ごとにやりとりのデータがデータベース上へ自動保存されたり、自動でステータス管理や案件の統計情報の作成ができる案件管理ツールを用いて、法務部門への依頼案件の一元管理や効率化をしています。それを見れば過去の対応方法やノウハウがわかります。医師のカルテのようなイメージですね。ゆくゆくはそのデータを人工知能(AI)で解析して、単純作業を自動化することも構想しています。また、会社として昨年導入された「Slack」を活用し、メールでは実現できなかったレベルでの意識決定の迅速化を実現しています。Slack以外にもノウハウ共有ツールなども研究し、どのように活用すれば、さらなる業務効率化を図れるかなども日々考えています。

こうした情報共有は、どれだけ優秀な人材でも、ライフステージによって残業やフルパワーでの勤務ができない時期が出てくることを前提に行っています。労働力が減少するなか、育児や介護といった事情をもつ人を排除してしまっては、優秀かつ一緒に働きたいなと思えるような人格的にも優れたメンバーを集められません。

小船戸様も産休を取得されたことがあると伺いましたが、引き継ぎや復帰はスムーズでしたか。

小船戸氏:
はい。私は産休から復帰した際、もともと担当していた事業がなくなり、それまで全く担当してこなかったゲームやエンターテインメントのプロジェクトに配属されました。それでも事前に部内の定例会議で、そのプロジェクトの課題や業界動向を聞いていたので、細かい部分のノウハウや過去の経緯は確認しつつも、スムーズにプロジェクトに加われました 1

株式会社ディー・エヌ・エー 経営企画本部 法務部 第一グループ 小船戸 瑞枝氏

株式会社ディー・エヌ・エー 経営企画本部 法務部 第一グループ 小船戸 瑞枝氏

ビジネス部門から課題を引き出すための、相談しやすい印象づくり

ビジネス部門をはじめ、他部門とのやりとりを円滑に進めるために工夫されている点はありますか。

三ヶ野氏:
全社レベルで、チャットツールを導入したり、法務も含めたマニュアルの提供や問い合わせ対応をチャットボットで行ったりしています。

特にチャットで送られてきた簡単な質問については、その場で答えて解決することが多いですね。契約書を書いているときでも、すぐに返せる内容であれば、優先して回答しています。一方で、検討に時間がかかる内容のときは正式依頼をお願いしたり、チャットでのやりとりでは誤解を生みかねない案件で、ドキュメンテーションをしたり議事録を作ったりする場合はメールを利用しますね。

小船戸氏:
私は、担当する各事業部門の広告担当者とチャットのグループを用意しています。たとえば消費者庁から出されたガイドラインについて、そのグループにリンクを張るなどして共有しています。カスタマーサービスや広告を審査する部門間で情報を共有でき、ノウハウが法務だけにたまることがなくなります。

チャットツールを駆使されているのですね。他部門の方と対面でコミュニケーションする際に意識されていることはありますか。

小船戸氏:
法務に相談しづらい空気をつくらないために、フットワークは軽くするように心掛けています。また何度か同じ質問が来ても丁寧に返すことを意識しています。他部門の方に相談がしづらいと感じられ、重要な問題が持ち寄られなくなってしまうことは避けたいと思っています。

三ヶ野氏:
依頼者が知らない人の場合には、1回目は必ず対面でのミーティングを持って信頼関係を築くなど、顔がわからないまま仕事をすることはないように徹底しています。特に法務部門は専門性が高く話しかけにくいと思われがちなので、広報や人事がつくっているインタビュー記事に出るなどして人となりを知ってもらうことで、法務部門がビジネス部門の敵ではないことを伝えています。法務部門はストップをかける部門だと思う方もいますが、実際は事業を一緒につくり上げていく仲間ですので、できるだけフランクに接してもらえるよう働きかけています。

また相談対応の面では、回答の理由を相談者が腑に落ちるまで説明しています。「なるほど、相談してよかったな」と思ってもらえないと次に相談が来なくなってしまいます。相談がないまま事業がよくない方向に進んでしまうリスクをなくすためにも、日々の案件に誠実に向き合うことを心掛けています。

法務部門の方が事業のベースにあるパッションを理解し、事業を一緒に進めてくれる存在として認識されているからこそ、相談が集まるのですね。

小船戸氏:
たとえば私はゲームが好きなので、実際にプレイしてみて面白かった点や改善してほしい点を、案件のついでに余談として話したりします。そうしたことからも、事業部門の方に「この人はサービスに対してパッションを持っている」と伝わっているのかもしれません。

株式会社ディー・エヌ・エー 経営企画本部 
法務部 部長 三ヶ野 吾郎氏
、株式会社ディー・エヌ・エー 経営企画本部 法務部 第一グループ 小船戸 瑞枝氏

事業が変わっても対応できる、業務の本質をつかんだ人材を育成

貴社法務部門の特長を伺ってきましたが、そのなかで働く一番の魅力はどういった点でしょうか。

小船戸氏:
法務部門は全部門と関わり、細かい動向もふくめ会社のあらゆる情報が集まる部署だと思います。そうした情報を「透明性」をもって共有し合い、最新のサービスの提供に携われる点は当社の法務部門ならではの特長ですね。

三ヶ野氏:
法的な内容でなくても、ビジネス部門から相談を受けて一緒に考えることもあります。事業のかなり初期の段階で相談があり「こんなふわふわした段階で相談しにこられても……」と思うことも正直ありますが、頼っていただけたこと自体嬉しいですし、サービスが立ち上がったときもやはり嬉しいですね。そうしたダイナミズムを味わうことができるのも魅力だと思います。ある事業が社内表彰された際に法務担当者も事業部門のメンバーと一緒に表彰されたり、サービスがローンチした際には事業部門の打ち上げに呼ばれることもあります(笑)。

一方、本当にやってはいけないことは、やってはいけないと言うガーディアン的な役割も求められます。両方の立場を使い分けることは難しいですが、それもふくめて社会に何を提供していくかを事業の一員として考える場面が多々あることが、当社の法務部門のいいところだと思います。

自動運転など、法の規制が明確ではないグレーゾーンで事業を行う際、ガーディアンとパートナーの役割のバランスをとるのは難しいと思いますが、線引きはどのように行なっていますか。

三ヶ野氏:
法律や行政規制に杓子定規に当てはめるのではなく、過去の行政の指針を確認し、場合によっては当局に話に行くなど、想像力を働かせて取れるオプションを提示し、どう乗り越えていくかを考えます。グレーな部分を法的な話だけで乗り越えることは少ないです。一社会人として考えつく代替案を用いて、ビジネス部門と一緒になって頭をひねらないと、いい筋道は見えてきません。純粋な法務の仕事ではありませんが、何を決めるのか検討する時点から入ることも多いです。

自動運転の例でいえば、メーカー、当局といった関係者の考えをきちんと理解しておき、お互いの立場を尊重しつつ進めなければうまくいきませんので、そこは特に気を使っています。

貴社の法務部門で働くなかで、メンバーの方にはどのように成長していってほしいと伝えていますか。

三ヶ野氏:
最初の半年程度は、NDAや業務委託契約などの典型契約から担当してもらうのですが、ただ表面的な契約書の作文だけをなんとなく学ぶというのではなく、契約書文言の深いところでの法的な意味や、万一の裁判時における文言の位置づけなどを日々議論することで、定型的な業務であっても短期間で法的な考え方のフレームワークや真髄をつかめるような工夫をしています。また新卒か中途かに関わらず、どんどん事業に入ってもらっています。理論だけでは仕事になりませんし、基本的にはやってみないとわからない部分もあると思うので、机上で学んだものが実務でどう使われているかを知り、経験を積んでもらいます。

当社の事業はどんどん変わっていくので、自分なりの筋道や考え方のフレームワークを持たないと、事業が変わった瞬間に対応できなくなってしまいます。契約書のレビューをする際、文言のいいまわしさえ知っていればこなせるものもありますが、各文言が全体の構造の中で法的に何を意味しているのかなどをきちんと考えながら取り組んでもらっています。業務の本質や法的な考え方の底に流れている共通した本質部分をつかんだうえで仕事をしていけば、業態が変わっても一定程度は、対応できるはずです。

法務部門として採用時にはどんな点を重視していますか。

三ヶ野氏:
まずパッションですね。社会課題、法的な課題に正面から立ち向かう意思があるかを見ています。加えて、法のフレームワークなど基本的な考え方のOS(Operating System)を備えているかも重要です。命題に対する取り組み方や、法というものの仕組みがきちんとわかっていることが前提になります。

あとは人柄です。案件に対し、法的判断をして終わりとなるよりは、話していると楽しくなって、情熱を持ってやっている間に自然にことが進むような人がいいですね。

小船戸氏:
やはり『DeNA Quality』が実践できることは大切です。特に新入社員であっても、新入社員ならではの感覚や意見が非常に大切だと思っているので、臆せずにきちんと発言してもらいたいですね。それができる方、変化を楽しめる方は、一緒に楽しく働けると思います。

会社概要
株式会社ディー・エヌ・エー
所在地:東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ


プロフィール
三ヶ野 吾郎(みかの・ごろう)
株式会社ディー・エヌ・エー 経営企画本部 法務部長
ソニー株式会社法務・コンプライアンス部門を経て2009年に株式会社ディー・エヌ・エー入社。同社法務部にて、海外事業、自動運転領域を含むオートモーティブ事業、EC事業等の法務グループのマネージャを経て、2017年7月より現職。会社公認部活/育児部の部長を兼務。二児の父。

小船戸 瑞枝(こふなと・みずえ)
株式会社ディー・エヌ・エー 経営企画本部 法務部 第一グループ
広告代理店法務部門を経て2008年に株式会社ディー・エヌ・エー入社。同社法務部にて、EC事業の法務を担当。3度の産休・育休を経て、現在はゲーム事業、ソーシャルLive事業、エンターテインメント事業部門の法務を担当。三児の母。

(構成:BUSINESS LAWYERS編集部)


  1. 株式会社ディー・エヌ・エー 法務部のワークライフバランスについては、同社サイト内の本記事もご参照ください。 ↩︎

シリーズ一覧全40件

  1. 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド 
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