企業法務の地平線
第26回 合併を経て進化を続けるビジネスパートナーとしての法務 ―コカ・コーラ ボトラーズジャパン
法務部
シリーズ一覧全40件
- 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド
- 第2回 「インハウス・ロイヤー」という選択肢 - 日本にとってCLOは必要なのか?
- 第3回 世界を股にかけた法務パーソン、国際ビジネスの現場で見えたもの
- 第4回 変わるワークスタイルと変わらぬ信念
- 第5回 会社の「誠実」を担う法務の姿 – 双日
- 第6回 300人体制を築くメガ法務の役目 - パナソニック
- 第7回 米国発のルールを日本に浸透させていく、アドビ法務・政府渉外本部の役割
- 第8回 マイクロソフトが実践するダイバーシティ戦略
- 第9回 法務畑を歩み続けたユニリーバ北島氏が考える、法務の役割と今後の課題
- 第10回 人と組織の成長を創造するプロアクティブな法務 - パーソルホールディングス
- 第11回 少数精鋭でチャレンジングな法務 - アサヒグループ
- 第12回 法律が追いつかないゲーム業界に求められるスピーディな体制構築術 - グリー
- 第13回 「1つの特許で生きるか死ぬか」、経営に直結する法務が見据えるグローバル化 - 田辺三菱製薬
- 第14回 たばこの概念を覆した「IQOS」で煙のない社会を目指す - フィリップ モリス
- 第15回 舞台はグローバル、事業に深くコミットする商社法務 - 三菱商事
- 第16回 懐深く、信頼して任せる風土 - 丸紅
- 第17回 経営の視点と専門性を持った法務人材を輩出する - キヤノン
- 第18回 「多様性」のある組織こそ、強みを生む - ソニー
- 第19回 一人ひとりが知財責任者としてのマインドを持つ - メルカリリーガルグループが実践する事業への関わり方
- 第20回 「使って初めて価値が出る」、ミッション・バリューを自らの言葉に「翻訳」して実践 - ユーザベース
- 第21回 「ポケモン」を支えるプロデューサーとしての法務 - 株式会社ポケモン
- 第22回 事業への情熱をもとに担当者をアサイン - DeNA
- 第23回 グローバルへと進化するために、働き方改革を推し進める法務組織 - 電通
- 第24回 プロジェクトチームの一員として、グローバルで多様なビジネスに並走する - アクセンチュア
- 第25回 事業部と一体となり、新規事業領域へチャレンジ – キリンホールディングス
- 第26回 合併を経て進化を続けるビジネスパートナーとしての法務 ―コカ・コーラ ボトラーズジャパン
- 第27回 活発なM&Aを支える法務組織とその柔軟な働き方 - 富士フイルム
- 第28回 契約書を作るだけではない、グローバルな成長に貢献するビジネスコンサルタントとしての法務 – 味の素
- 第29回 ウィズコロナ時代に問われる法務部門の組織運営 鍵はリーガルテックの積極活用 – 太陽誘電
- 第30回 テレワーク下の法務業務は「依頼者ファースト」のITツール活用で対応 - サイボウズ
- 第31回 アフターコロナになっても変わらない、法務のあるべき姿 - パーソルグループ
- 第32回 グローバル企業における法務業務とリーガルテック導入事例 勝機はスモールスタートにあり - 日揮グループ
- 第33回 急成長するベンチャーを支える「企業法務」の役割とは - GAテクノロジーズ
- 第34回 全ては事業の成長のために。ありのまま採用と価値観の共有化を通じて作り上げる熱い組織 - Visional
- 第35回 新規事業をサポートするインハウスロイヤーたち - あおぞら銀行のスタートアップサポートチームが生み出す価値とは
- 第36回 アクセンチュア法務が高い付加価値を生み出せる理由 オフショア化で契約業務を6割削減
- 第37回 大手法律事務所で専門性を極め「自分をアップデート」する環境を求めて – メドレー
- 第38回 「世界一幸せな法務」というビジョンを掲げ、事業を通じた社会課題の解決を目指す - LIFULL
- 第39回 強固な組織体制のもとで専門性の高いメンバーがイノベーションに貢献 - 日本アイ・ビー・エム
- 第40回 丸紅法務部の挑戦と変革 − 精鋭のメンバーがさらなる価値創出にコミットするために
目次
コカ・コーラ ボトラーズジャパンは飲料事業において世界に250以上あるコカ・コーラボトラーの中でもアジア最大、世界でも有数の売上高を誇ります。
同社は、2017年4月に発足した持株会社のもとで、事業会社である旧コカ・コーライーストジャパン株式会社(以下、旧イースト社)と、旧コカ・コーラウエスト株式会社(以下、旧ウエスト社)が、2018年1月1日に合併し誕生しました。同社では、変化する事業環境へスピード感をもって対応するための法務組織づくりに取り組んでいます。
統合を経て、ビジネス部門のビジネスパートナーとして法務の必要性を浸透させるためにどのような取り組みをしているのか、尾関 春子氏、横井 祐子氏、山根 睦弘氏にお話を伺いました。
法務の必要性をトップダウン、ボトムアップで広めていく
この度の統合により、コカ・コーラ ボトラーズジャパンが発足しました。法務の皆さんは統合にどのように関わったのでしょうか。
横井氏:
法務は案件の当初から関わりました。株式交換比率や条件の交渉については限られたメンバーのみ関与しましたが、両社の制度やオペレーションを統一していく過程では多くのメンバーが様々なサポートに関わりました。
たとえば、人事制度については制度設計が適法かどうかを確認するだけでなく、統制をきかせることができるか、不正が起こらない仕組みになっているか、という視点からも関与しています。
統合において、法務として特に心がけたこと、大変だったことについて教えてください。
横井氏:
統合の当初、私は旧イースト社に在籍していましたが、旧イースト社には比較的大きな法務組織があった一方で、旧ウエスト社には法務組織がありませんでした。
そのため、法務の役割についての認識が其々で異なっていたと思います。そこで旧ウエスト社の皆さんに双方の違いを理解してもらったうえで、私たちに相談事項が寄せられるようにしなければなりませんでした。
旧ウエスト社の方々とはどのようにコミュニケーションを取っていったのでしょう。
横井氏:
法務組織を持たずにビジネスを行ってきた旧ウエスト社の歴史を尊重したうえで、法務組織の必要性を理解してもらうことを心がけました。
理解してもらうためにどのようなプロセスを踏んだのでしょうか。
尾関氏:
法務メンバーの努力の積み重ねで、じわじわと認知度を広げていくボトムアップと、トップが集まる会議の場などでアピールするトップダウンの両方のプロセスがありました。
どのくらいの期間で、法務の必要性についての理解が進んできたと感じましたか。
横井氏:
部門によって差がありました。少人数の部門では浸透は早いのですが、たとえば営業部門は何千人、何万人の規模です。そのうえ、各地に支店があり、かなり時間がかかりました。
2017年4月に持株会社が発足し、統合を進め出してから2年余り経ちました(取材時点)。浸透は進んでいますか。
山根氏:
私はコカ・コーラ ボトラーズジャパンの発足後に入社し、法務として製造や物流領域を担当しており、全国に17箇所ある工場の皆さんとも仕事をしています。
製造・物流の会議に私たち法務部員もビジネスパートナーとして出席し、法務部の役割や契約の重要性などについてお伝えする機会も頂き、そのときには、必ず「こういった案件は相談してくださいね」と伝えています。そうしていくことで、法務に相談する事柄は何か?という認識が徐々に深まってきました。法務部のプレゼンスをきちんとビジネス部門に説明することは、すごく重要なんですよ。
法務部門はビジネスパートナー
法務部の体制や位置付けについて、教えてください。
横井氏:
人数は14名で男性9名、女性5名です。日本の法曹資格保有者は3名います。法務部は法務本部にある4つの部署のうちの1つで、ほかにはコーポレート・ガバナンス推進部、ERM推進部、倫理・コンプライアンス推進部があります。法務本部全体をリードしているのが尾関です。
大きな案件ではほかの部門と密に連携しながら動くことが多いですね。
4つの部署のメンバー間では、どのようにして情報共有やコミュニケーションを図っているのでしょうか。
横井氏:
1、2か月に1回程度、4部署のメンバー全員が集まり勉強する時間を設けています。
また、社内に対して最近の不祥事を周知するなど、法務部外の皆さんへも頻繁にトレーニングの機会を設けています。法務部、コーポレート・ガバナンス推進部、ERM推進部、倫理・コンプライアンス推進部が一緒になり、それぞれの部署の中で、トレーニングの計画や各自が吸い上げたビジネス部門のニーズを共有して部署を越えた横断的な活動を一緒に進めています。
法務部の具体的な業務内容について教えてください。
横井氏:
法務部は法務本部のなかで最も人数が多く、ビジネス部門(営業・製造・物流・配送・システム・総務・調達・人事・広報・財務)のビジネスパートナーとして法務サポートを行います。契約書のドラフティング、契約審査、係争案件の相談、その他法律相談などが主な業務です。そのほかに、様々なプロジェクトの企画・検討段階から参画し法的リスクやビジネスリスクを精査することも重要な業務です。また、契約書のひな形作成や、契約管理システムの導入・周知なども行なっています。
尾関氏:
社員のケイパビリティを向上させていくための施策にも取り組んでいます。社内向けのトレーニングは法務部の活動の大事な柱の1つです。
働き方改革や民法改正がビジネスに及ぼす影響など、経営陣に最近のトピックスを伝えるニュースレターも発信しています。
ビジネスパートナーとして、各部門のメンバーとどのように関わっていますか。
横井氏:
ビジネスパートナーとしての活動は私たちの中核であり、そこで価値を出せるように努力しています。
たとえば法律相談の場合は、本質を見抜くことを大切にしています。部門の方から質問されたことが、必ずしも一番重要な点とは限りません。相談者自身が気づいていないことがあったり、断片的な情報を元に相談したりしていることもあります。
違和感を覚えたらこちらで追加の調査を行い、本質的な問題に対する答えになるように取り組みます。かつ、教科書通りではなく、ビジネス部門から見ても十分に納得がいくような、ビジネスの現状を踏まえたリスクの査定になっているかを判断します。
さらに、相談をした人が次に取るべきアクションがわかる回答を目指しています。もちろん、対応の早さも重要です。
短期間で回答を求められるなかで、リスクの本質をとらえるプロセスは難易度が高いですよね。それを実現するために必要なことは何でしょうか。
横井氏:
おっしゃるとおり、難易度は高いですね。法律の知識が定着し、必要な回答がすぐに引き出せることが前提で、ビジネスの状況、特に担当している部門の状況をよく理解していなければなりません。
ビジネスの状況を理解する工夫やコツはあるのでしょうか。
横井氏:
当社の法務は、ビジネスパートナーとして普段から担当している部門のリーダーたちと定期的に集まり、ビジネス部門にとって重要なビジネス課題を理解するようにしています。
ほかにも、ビジネス部門が新しく取り組もうとしていること、組織変更の方向性といった情報を広く入手するようにしています。
山根氏:
会社の外にも目を向けて情報収集をしています。当社の考え方に、他社と比べてズレはないか、解釈の仕方に問題はないかを常に確認しています。飲料業界だけではなく、幅広いネットワークを構築し、ビジネス部門に対して、「世間の相場」のようなものを答えられるようにしたいと考えています。
コカ・コーラシステム初となる酒類販売に法務はどのように関わったか
10月にはレモンサワー「檸檬堂」の全国発売開始※が話題となりました。法務としてはどのように関わりましたか。
横井氏:
檸檬堂は2018年5月、九州地区限定で販売を開始しました。コカ・コーラ システム初となる酒類販売だったのですが、酒類卸売免許にかかる各種の規制をクリアするための法務サポートを行いました。
世界でも初めての酒類販売という事で、苦労された点はありませんでしたか。
横井氏:
当社としてはまず、既存の商品カテゴリーにないものを新たにコカ・コーラブランドのもとで販売する場合は、フランチャイザーであるアメリカのThe Coca-Cola Company の承諾を得る必要があります。その承諾を盛り込んだボトラー契約(フランチャイズ契約)をまとめるのが、この案件における法務の大きな役割でした。また、酒類卸売免許にかかる各種の規制をクリアするための国税庁とのやり取りに関しても、法務は様々なサポートを行いました。
全国販売※にあたってはどのような関与をされたのでしょうか。
山根氏:
こちらもコカ・コーラ システム初となるのですが、全国販売※を契機に自社で酒類の製造を開始しました。自社工場で製造するため、酒類製造免許取得の法務サポートに関与しています。また、全国展開のため、全酒卸売免許にかかる各種の規制をクリアするための法務サポートを行いました。
ビジネス的にも既存事業にはない、大きなチャレンジだと思います。ビジネスパートナーとして特に意識した点があれば教えてください。
山根氏:
アルコール製品の製造は初めてでしたので、製造分野の部門にとっても大きなチャレンジでしたが、法務部もビジネス部門と一緒に国税庁や税務署に赴いたり、ビジネス部門と同じ目線で常に寄り添いながら案件を進めて行くことを心がけました。
※沖縄県を除く
ビジネス部門と連携して迅速に動く
昨年7月、西日本を中心とした豪雨によって広島県三原市の本郷工場と、隣接する物流拠点において浸水被害が発生しました。そのような事態に法務としてどのように関わったのでしょうか。
山根氏:
氾濫した河川のすぐ横に当社の工場があり、甚大な被害を受け、稼働を停止しました。工場自体を建て替えるのか、それとも別の場所に工場を作るのかという問題に直面しました。
そんな状況の中、代替となる工場用地を探したところ、本郷工場の近くにあったシャープ株式会社の工場(閉鎖中)が売却されるという情報が入ってきたのです。
買い手として名乗りを上げ、売買の条件交渉は法務部がサポートし契約に至りました 。豪雨被害で喪失した中国エリアの製造能力の回復と、全国的に急成長するアセプティック(無菌充填)PET 製品の需要に対応した製造能力の強化は優先度の高い案件でしたので、時間との勝負でした。ビジネス部門の判断も早かったですし、法務の契約ドラフティングもかつてないほどのスピード感で行われましたね。
スピーディーに交渉を成功させた要因はどこにありましたか。
山根氏:
製造・物流領域のトップは外国籍の者なのですが、判断が早いと感じます。トップの判断が早いことで、ビジネス部門も法務部も、それに沿って動けたことが成功の要因だと思います。
また、ビジネス部門が機動力を持って相談のポイントをまとめてもらえると、法務としても早いレスポンスができます。
民法改正にはオペレーションも含めた対応を
民法改正の施行が来年に迫っています。契約書のひな形の見直しはどのように対応されていますか。
横井氏:
もちろん、契約書のひな形は見直さなければいけないのですが、それ以上に注意を払ったのはビジネス部門のオペレーションに関することでした。
法務部門の各ビジネスパートナーが自分の担当する部門に改正の影響をヒアリングし、範囲を限定したうえで、法改正への対応を超えて、うまくいっていないオペレーションを改善するという方法を考えました。
ひな形もカスタマーとの交渉をしやすくするための観点などを取り入れながら、より良いものに変えていきました。
施行に向けて準備はほぼ完了しているようですね。
横井氏:
オペレーションの見直しとひな形の改訂は完了しています。これからは取引先と新しいひな形で契約を締結し直すのですが、取引ごとの最適なタイミングについて各部門と相談しながら進めている状況です。
山根氏:
120年ぶりの大改正ですし、(当たり前のことですが)まだ改正民法での判例は出ていません。改正民法施行後、トラブルや紛争に発展するケースは世の中に出てくると思います。そのたびに、時流をきちんとウォッチしながら、我々のひな形もアップデートしていかなければならないと感じています。
求める人材はどの部門にも共通、課題を発見し解決できること
採用にあたってどういう人材を求めているのでしょうか。
横井氏:
求めている人材について他部門にヒアリングすると、どこもけっこう似ています。特に、社内のビジネスをサポートする間接部門では、問題・課題を発見し、適切な方法を使い、いろいろな人を巻き込みながら、解決に向けて進められる人材が求められています。
人事であれば人事に関する知識や経験を、法務の場合は法的な知識や経験を活用して課題解決します。法務特有のスペックを求めるものではないと思っています。
本質的な課題を発見する力、巻き込む力、解決に向けた力を持つ人材を求めているということですか。
横井氏:
そうですね、そこにちょっと法務の色が加わる。そんな感じです。
新卒と中途の割合はいかがでしょうか。
横井氏:
法務での新卒採用は行っていませんが、新卒で当社に入って、法務に異動したメンバーもいます。
御社の法務部に配属されると、どんな経験が積めるのでしょうか。
横井氏:
お伝えしたように、課題を発見して解決することが、法務にとって最も必要な能力だと思います。当社には課題がいっぱいありますので、トレーニングの機会が山ほどあります(笑)。
具体的にはどのような課題がありますか。
横井氏:
まだ制度が完全に統合されていないことは課題の1つだと思います。すべてがきれいに整っていて、効率的に回していくことが主要課題になっているフェーズの会社では、なかなかこういった経験は積めないでしょう。
入社されてから、特に若い方に対する教育や研修の内容について教えてください。
横井氏:
日々の業務を通じて年次が上の人からフィードバックをもらって成長していくOJTが中心です。まだ試行錯誤している状態ではありますが、OJT以外にも、いろいろなスキルアップの道を用意したいと思っています。
また、メンバーが日々の業務のなかで調べたこと、外部からもらった見解を属人的な知識にせず、ほかのメンバーと知識・経験を共有し、蓄えていくような仕組みも模索しています。
そのように組織をさらに良くするための取り組みに関わる機会もあるのでしょうか。
横井氏:
より良い組織運営、メンバーのスキルアップに貢献する機会は多々あります。個々のメンバーのなかに溜まっていく知識や経験を、組織としての経験に変換することは、純粋な法律知識やスキルとは違います。メンバーには、クリエイティブなアイディアをどんどん出してもらいたいです。失敗することもあると思いますが、トライ・アンド・エラーを繰り返していくしかないでしょう。
チャレンジングな環境ですね。
横井氏:
組織として成長途中にある法務部を、どうすればさらにより良いものにしていけるかという点にも、関心を持って積極的に関与していただける方と一緒に働きたいです。
尾関氏:
組織を変化させるチャレンジに取り組み、経験を積みたい、そういった仕事を面白いと思っていただける方には、ぜひ来ていただきたいです。
働き方改革とテクノロジーの導入
働き方改革が求められています。御社が取り入れている制度や、働きやすい環境を作るために心がけていることがあれば教えてください。
横井氏:
会社の制度として在宅勤務制度を取り入れています。法務本部は他部署に比べて利用率が高いと思います。
山根氏:
当社は東京2020オリンピック・パラリンピックのスポンサーである米国のザ コカ・コーラ カンパニーの構築するコカ・コーラ システムの一員でもあるので、「テレワーク・デイズ」に参加し、実験的に在宅勤務を実施しました。来年の大会期間中は交通機関の混雑や渋滞も予想されるため、在宅勤務が推進されていくのではないかと思います。
働き方改革を進めていくにあたっては、ツールの導入による生産性の向上にも注目が集まっていますね。
横井氏:
当社でもAI翻訳サービスを活用しています。量が多い英文の契約書を短期間で見なければいけないときに、日本語で概要を理解できるとかなりの時間短縮になりますね。もちろん原文も確認しますが、非常に助かっています。
従来、翻訳業務はどのように対応されていましたか。
横井氏:
英文のまま読んでいました。「『グローバルボトラー』を標榜している当社のリーガルたるもの、英文のまま、きちんとレビューできなくてどうする」という考えもあるかもしれませんが、現実的には母国語のほうが楽です。
山根氏:
法務部員に求められるスキルとして、英文契約書のドラフティングやレビューは、できるべきだと思います。ただし、ビジネス部門から「契約書を翻訳してください」と法務部に求められる場合があるのですが、法務部は翻訳業ではありませんので、翻訳のみに時間をかけるのは、少し法務の在り方とは違うと思います。そういうときにAI翻訳を活用できれば、比較的コストも安価ですから、使い勝手がいいと思います。
横井氏:
もちろん、英語は使いこなせるようにしなければいけません。ただ、かけられる時間と求められる翻訳の精度は状況によって様々です。状況に応じてツールを使いこなすことができれば、より効率的な働き方ができると思います。
尾関氏:
当社の取締役は国籍が多様なので、取締役会議事録は日本語と英語の両方を作成しています。「AI翻訳サービス」は議事録作成にも活用できると思っていて、ちょうどチームのメンバーにもリマインドしたところです。
変化をリードする法務部門へ
最後に、法務部門としての今後の展望について伺えますか。
横井氏:
当社は上場会社ですので、世の中の流れに合わせてガバナンスを強化し、尊敬される会社であり続けることに貢献したいですね。
また、ビジネスの環境はますますスピードが求められるようになっています。今までと同じやり方ではうまくいきません。不確実な環境の中で、新しいやり方を取り入れて、スピード感をもって実行するには、これまで以上にリスクを取らなければならないはずです。
リスクの中身を現実的に理解し、本当に避けなければならないリスクをきちんと避ける。そんな価値のあるアドバイスを提供できる法務になりたいと思います。
山根氏:
経済産業省が公表した「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」では、法務機能を「企業のガーディアンとしての機能」と「ビジネスのパートナーとしての機能」と位置付けていて、個人的に共感しました。
私たちはビジネスパートナーとしてビジネス部門に向き合っていますが、リーガルサービスの提供というのは、ビジネス部門の考え方に迎合するだけではなく、法的リスクがある場合は、そのリスクをきちんと指摘する必要があります。しかし、難しいのは、法務部門が正しく法的リスクを指摘しても、ビジネス部門に受け入れられなければ、意味がなくなってなってしまいますので、受け入れてもらえるように、我々も努力が必要だということです。
尾関氏:
当社は、今まさに統合の過程を乗り越えている最中であり、経営のトランスフォーメーションを加速させています。
社長も社内に対して、「これまでのやり方は選択肢にない」と発信していますが、それは法務部門にとって追い風だと受け止めています。社内のケイパビリティを強くし、底上げをしていくことは、現状維持にとどまることなく改革を推し進めることと表裏一体です。
法務本部はガバナンスとリスクマネジメントの両方をけん引していく立場にあります。コカ・コーラ ボトラーズジャパンをより強い会社に脱皮させていくために、私たちの役割はさらに重要になっていくはずです。
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社
本社所在地:東京都港区赤坂9丁目7番1号ミッドタウン・タワー
設立:2001年6月29日 ※2018年1月1日 コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社に商号変更
資本金:1億円
代表取締役社長:カリン・ドラガン
プロフィール
尾関 春子(おぜき・はるこ)
法務本部 本部長(執行役員)
精密機器メーカー、日本コカ・コーラ、eコマース、製薬、機器メーカーの法務を経て、2013年入社。
米国ニューヨーク州弁護士
横井 祐子(よこい・ゆうこ)
法務部 シニアマネージャー(部長)
法律事務所勤務、IT企業の法務を経て、2014年入社。日本法弁護士
山根 睦弘(やまね・あつひろ)
法務部 マネージャー(担当部長)
自動車メーカー、飲食業・リクルート・小売業の法務・コンプライアンスを経て、2018年入社
(取材・構成・写真撮影:BUSINESS LAWYERS編集部)
シリーズ一覧全40件
- 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド
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