企業法務の地平線
第21回 「ポケモン」を支えるプロデューサーとしての法務 - 株式会社ポケモン
法務部
シリーズ一覧全40件
- 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド
- 第2回 「インハウス・ロイヤー」という選択肢 - 日本にとってCLOは必要なのか?
- 第3回 世界を股にかけた法務パーソン、国際ビジネスの現場で見えたもの
- 第4回 変わるワークスタイルと変わらぬ信念
- 第5回 会社の「誠実」を担う法務の姿 – 双日
- 第6回 300人体制を築くメガ法務の役目 - パナソニック
- 第7回 米国発のルールを日本に浸透させていく、アドビ法務・政府渉外本部の役割
- 第8回 マイクロソフトが実践するダイバーシティ戦略
- 第9回 法務畑を歩み続けたユニリーバ北島氏が考える、法務の役割と今後の課題
- 第10回 人と組織の成長を創造するプロアクティブな法務 - パーソルホールディングス
- 第11回 少数精鋭でチャレンジングな法務 - アサヒグループ
- 第12回 法律が追いつかないゲーム業界に求められるスピーディな体制構築術 - グリー
- 第13回 「1つの特許で生きるか死ぬか」、経営に直結する法務が見据えるグローバル化 - 田辺三菱製薬
- 第14回 たばこの概念を覆した「IQOS」で煙のない社会を目指す - フィリップ モリス
- 第15回 舞台はグローバル、事業に深くコミットする商社法務 - 三菱商事
- 第16回 懐深く、信頼して任せる風土 - 丸紅
- 第17回 経営の視点と専門性を持った法務人材を輩出する - キヤノン
- 第18回 「多様性」のある組織こそ、強みを生む - ソニー
- 第19回 一人ひとりが知財責任者としてのマインドを持つ - メルカリリーガルグループが実践する事業への関わり方
- 第20回 「使って初めて価値が出る」、ミッション・バリューを自らの言葉に「翻訳」して実践 - ユーザベース
- 第21回 「ポケモン」を支えるプロデューサーとしての法務 - 株式会社ポケモン
- 第22回 事業への情熱をもとに担当者をアサイン - DeNA
- 第23回 グローバルへと進化するために、働き方改革を推し進める法務組織 - 電通
- 第24回 プロジェクトチームの一員として、グローバルで多様なビジネスに並走する - アクセンチュア
- 第25回 事業部と一体となり、新規事業領域へチャレンジ – キリンホールディングス
- 第26回 合併を経て進化を続けるビジネスパートナーとしての法務 ―コカ・コーラ ボトラーズジャパン
- 第27回 活発なM&Aを支える法務組織とその柔軟な働き方 - 富士フイルム
- 第28回 契約書を作るだけではない、グローバルな成長に貢献するビジネスコンサルタントとしての法務 – 味の素
- 第29回 ウィズコロナ時代に問われる法務部門の組織運営 鍵はリーガルテックの積極活用 – 太陽誘電
- 第30回 テレワーク下の法務業務は「依頼者ファースト」のITツール活用で対応 - サイボウズ
- 第31回 アフターコロナになっても変わらない、法務のあるべき姿 - パーソルグループ
- 第32回 グローバル企業における法務業務とリーガルテック導入事例 勝機はスモールスタートにあり - 日揮グループ
- 第33回 急成長するベンチャーを支える「企業法務」の役割とは - GAテクノロジーズ
- 第34回 全ては事業の成長のために。ありのまま採用と価値観の共有化を通じて作り上げる熱い組織 - Visional
- 第35回 新規事業をサポートするインハウスロイヤーたち - あおぞら銀行のスタートアップサポートチームが生み出す価値とは
- 第36回 アクセンチュア法務が高い付加価値を生み出せる理由 オフショア化で契約業務を6割削減
- 第37回 大手法律事務所で専門性を極め「自分をアップデート」する環境を求めて – メドレー
- 第38回 「世界一幸せな法務」というビジョンを掲げ、事業を通じた社会課題の解決を目指す - LIFULL
- 第39回 強固な組織体制のもとで専門性の高いメンバーがイノベーションに貢献 - 日本アイ・ビー・エム
- 第40回 丸紅法務部の挑戦と変革 − 精鋭のメンバーがさらなる価値創出にコミットするために
目次
企業活動がグローバル化、複雑化する中で法務部門に求められる役割にも変化が見られます。これからの時代に求められる法務部門のあるべき姿とはどのようなものなのでしょうか。各社の法務部へお話を伺い、その姿を探ります。
今回は、株式会社ポケモンの管理本部管理部法務担当で、ディレクターを務める富田裕介氏に取材しました。「ポケモン」のプロデュースを手掛ける同社では、そのコンテンツの原点であるゲームソフトを始めとして、カードゲーム、アニメ・映画・バラエティ番組といった映像作品、ライセンス管理、店舗運営などの事業を展開しています。
世界で愛される「ポケモン」のあらゆる事業に関わり、世の中に与えるインパクトが大きい環境で働く魅力や課題について伺いました。
「ポケモン」のことであれば何でもする会社、求められることは幅広い
法務部門の業務において、貴社ならではの特徴は何ですか。
株式会社ポケモンは「ポケモン」のビジネスにしか取り組まない会社ですが、裏を返せば「ポケモン」のビジネスであれば何であっても取り組みますし、その可能性がある会社です。ビデオゲーム、カードゲーム、映像のプロデュースや店舗運営などの事業に加え、近年はスマートフォン向けのアプリケーションなどもリリースしています。このような会社はなかなかないと、私自身は思っています。
法務部門は、すべてのビジネスの法的リスクを管理しますので、多くの知識、経験が求められる環境です。
民法、会社法、知的財産に関する法律等のみならず、景品表示法、資金決済法、特定商取引法といった業務に関する法律の知識も当然必要になりますし、売買契約、賃貸借契約、ライセンス契約、業務委託契約等の幅広い類型の契約をレビューしていかなければいけません。
もちろん知的財産の管理をしていくことも非常に重要なミッションです。
法務部門内の役割分担としては、基本的に、2名で契約・一般法務、4名で知的財産関連の業務を行っています。法務部門は私を含めて7名ですが、海外の子会社にも法務部門があり、日々連携をとっています。
ビジネスの構想段階から、事業部の担当者と関わることもありますか。
そういった機会は大変多いですね。
事業を担当する部署と一緒にビジネスを作り上げていくという姿勢で、時には部署の担当者と膝をつき合わせながら状況や問題点を整理するような動き方もします。
相談や依頼を受けるにあたって、受付フォーマットのようなものは設けていません。とにかく時間を取って話を聞いてあげる、ということを行ってきました。その結果、法務は比較的相談しやすいと社内から感じてもらえているようで、ポジティブに受け止めています。
当社では複数の部署が連携する案件が多いですが、異なる専門領域を持つ担当者間で使われている専門用語などが違うときは、その部署や担当者に伝わりやすい言葉に置き換えてから伝えてあげるなど、通訳や橋渡しの役割をすることもあります。
事業部門からの相談に回答する際に、気をつけていることを教えてください。
法務的な管理の仕方は、大きく分けて2つあると考えています。ある程度の枠をあらかじめ作ったうえで、基本的にその枠の中で組み立ててもらうパターンと、はじめはそういった制約を設けず、上がってくるものに関して都度オーダーメイドに近い対応をするパターンです。
当社のビジネスは基本的にエンターテイメント領域であり、お客さまにより楽しんでいただくためには、部署のクリエイティブな発想を活かすことが重要ですから、なるべく後者のアプローチを重視しています。クリエイティビティを大切にし、それをどう生かすかを、法務部門もプロデューサーの一員という意識をもって考えています。そうすることで、お客さまに楽しんでもらえる商品を世の中に送り出すことができると思っています。
また、法務は、バックオフィスの中でも個々の担当者が特に価値を発揮しやすい部署です。個々の案件について最も状況をよく理解しているのは、上司でなく担当者自身であることが大半だからです。
各担当者がどう感じ、どんな解決策を考えられるかが非常に重要になりますが、一方で法務である以上は、回答の内容やクオリティをある程度標準化していくということも必要です。この点のバランスは、常に気にかけています。
世の中に与えるインパクトから得られる達成感
今まで経験された中で、達成感のあった出来事について教えてください。
ビジネスの性質上、お客様の姿が見えやすいため、そういった点で達成感を覚える機会は多いです。
たとえば店舗関係の案件などでは、実際にオープンした店舗にいらしたお客様に楽しんでいただいているところを見ることができ、大きなやりがいになります。横浜市と協定を結んで行っている「ピカチュウ大量発生チュウ!」というイベントは、法務的な仕事に加え、私も運営のお手伝いに行き、イベントの熱量を直接体感できました。
「ポケモン GO」のように、世界的にインパクトを与えられるような案件に携われることも、やりがいや達成感を味わえる点です。
貴社の社是でも「ポケモンという存在を通して、現実世界と仮想世界の両方を豊かにすること。」と掲げられていますが、まさにそのような光景ですね。
企業によってはそのような共有価値の浸透が難しい場合があるかと思いますが、当社では全社的に社是が浸透しており、社員に共通の価値観が根付いていますので、さまざまな調整ごとが進めやすいと感じます。法務という仕事を行う際にも、とても助かっています。
グローバルに展開するからこそ直面する課題
貴社では、世界中に展開しているサービスも多いですよね。
当社はグローバルでビジネスを展開しているので、商品を世界同時にリリースすることもあります。
ウェブやアプリケーションでは、各国の法令を調べ、調整を取らなければなりません。たとえば個人情報規制等がこれに当たりますが、それらを調査し、整理し、1つの仕様として組み立てていく案件に初めて取り組んだ際には、本当に苦労しました。
国によっては、想像もできないような法律があり面食らうこともあります。たとえばインドネシアには、契約書の正文をインドネシア語で作らなければいけないという法律があり、継続的な対応を考えていくにあたっては苦慮しました。
特に、海外企業の方と交渉をする局面ではそうなのですが、前提として「当然あるだろう」と考えていた実務に関する共通理解が実際には無く、それが原因で議論が紛糾してしまうこともありました。頭ではわかっていたつもりですが、思い込みの危険さについて再認識しました。
外部の弁護士と協力し合う案件もありますか。
複数の顧問弁護士事務所があり、案件により使い分けています。
新しい分野に踏み込んでいくときには起用する弁護士と一緒に答えを探っていく形にならざるを得ないので、事前にこちらが求めるゴールイメージを共有しておくと、スムーズな関係性で進みます。
また、顧問事務所の先生がポケモン好きであることもあります。そういったケースでは、案件を説明する前から当社やポケモンに対する理解があり、とても仕事が進めやすいです。このあたりは当社ならではのメリットですね。
「ポケモン」の歴史を知るところから始まる、プロデューサーとしてのキャリアパス
法務部のメンバーへの教育は、どのような方針で行っているのですか。
外部の研修も活用していますが、基本的には前職で法務の経験を積んでから当社で活躍してくれている方が大半なので、現在はOJTの割合が大きいです。
OJTの内容は個々の習熟度合いによりますが、まずは20年以上続く「ポケモン」の歴史や経緯、関係者等を知り、コンテンツはどう出来上がってくるのかという背景を理解してもらうところから始めるようにしています。
基本的に少数精鋭なので、早い段階で実務に入ってもらうことが大半です。
入社した後に、描いてもらいたいキャリアパスはありますか。
個人的な思いですが、さまざまな事業分野が経験できる環境なので、早いうちに専門や注力分野を決めきらず、幅広い知識を得ながら、どんな立場であれ事業を推進できるようになると良いと思います。
私自身も、法務的な視座と、経営戦略的な視座の両方を持って仕事をするよう心がけています。
法務は個々の担当者が価値を発揮しやすい領域
これから、どんな方と一緒に働きたいですか。
ありふれた言い方になってしまいますが、いろいろなことに興味を持ち、向上心を持って仕事をしていただける方です。エンターテイメント業界の経験がなければ不可ということはありません。
当社のような「ポケモン」のビジネスなら何でも取り組むという会社ですと、特に異業種からの転職が価値となる場合があるので、多様なバックボーンや経験は、むしろ歓迎したいと思っています。あとはグローバルビジネスへの興味も大事ですね。
まだ経験の浅い若手の法務担当者へ向けて、何かメッセージはありますか。
繰り返しになりますが、法務は個々の担当者が価値を出しやすい領域です。自分の意見を実務に反映させやすい職種でもあり、挑戦しがいのある環境だと思います。
また、年齢やキャリアを重ねるにつれて、目の前の仕事だけに一心不乱に向き合う機会は減ってきてしまうものなので、それが許される時間や環境を楽しめると良いのではないでしょうか。
最後に、貴社の法務部門では、今後どんな姿を目指していますか。
ビジネスの規模や案件の難易度が急速に拡大していますので、我々自身研鑽を積んで、成長していかなければいけないと思っています。
それを踏まえて、法律が1番分かる「ポケモン」のプロデューサーの一員としての姿を描いています。法律の知識を持つ人はたくさんいると思いますが、法律をポケモンというコンテンツのために最も活かすことができるのは我々だという思いで、取り組んでいきたいです。
(取材・文・構成・編集:村上 未萌、写真撮影:BUSINESS LAWYERS編集部)
株式会社ポケモン
所在地:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー8F
設立: 1998年4月23日
資本金:3億6540万円
代表者:代表取締役社長 石原 恒和
従業員数:約240名
※2019年1月末現在
プロフィール
富田 裕介(とみた・ゆうすけ)
管理本部管理部法務担当 ディレクター
不動産・金融系企業を経て、2010年に株式会社ポケモン入社。2016年より現職。
シリーズ一覧全40件
- 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド
- 第2回 「インハウス・ロイヤー」という選択肢 - 日本にとってCLOは必要なのか?
- 第3回 世界を股にかけた法務パーソン、国際ビジネスの現場で見えたもの
- 第4回 変わるワークスタイルと変わらぬ信念
- 第5回 会社の「誠実」を担う法務の姿 – 双日
- 第6回 300人体制を築くメガ法務の役目 - パナソニック
- 第7回 米国発のルールを日本に浸透させていく、アドビ法務・政府渉外本部の役割
- 第8回 マイクロソフトが実践するダイバーシティ戦略
- 第9回 法務畑を歩み続けたユニリーバ北島氏が考える、法務の役割と今後の課題
- 第10回 人と組織の成長を創造するプロアクティブな法務 - パーソルホールディングス
- 第11回 少数精鋭でチャレンジングな法務 - アサヒグループ
- 第12回 法律が追いつかないゲーム業界に求められるスピーディな体制構築術 - グリー
- 第13回 「1つの特許で生きるか死ぬか」、経営に直結する法務が見据えるグローバル化 - 田辺三菱製薬
- 第14回 たばこの概念を覆した「IQOS」で煙のない社会を目指す - フィリップ モリス
- 第15回 舞台はグローバル、事業に深くコミットする商社法務 - 三菱商事
- 第16回 懐深く、信頼して任せる風土 - 丸紅
- 第17回 経営の視点と専門性を持った法務人材を輩出する - キヤノン
- 第18回 「多様性」のある組織こそ、強みを生む - ソニー
- 第19回 一人ひとりが知財責任者としてのマインドを持つ - メルカリリーガルグループが実践する事業への関わり方
- 第20回 「使って初めて価値が出る」、ミッション・バリューを自らの言葉に「翻訳」して実践 - ユーザベース
- 第21回 「ポケモン」を支えるプロデューサーとしての法務 - 株式会社ポケモン
- 第22回 事業への情熱をもとに担当者をアサイン - DeNA
- 第23回 グローバルへと進化するために、働き方改革を推し進める法務組織 - 電通
- 第24回 プロジェクトチームの一員として、グローバルで多様なビジネスに並走する - アクセンチュア
- 第25回 事業部と一体となり、新規事業領域へチャレンジ – キリンホールディングス
- 第26回 合併を経て進化を続けるビジネスパートナーとしての法務 ―コカ・コーラ ボトラーズジャパン
- 第27回 活発なM&Aを支える法務組織とその柔軟な働き方 - 富士フイルム
- 第28回 契約書を作るだけではない、グローバルな成長に貢献するビジネスコンサルタントとしての法務 – 味の素
- 第29回 ウィズコロナ時代に問われる法務部門の組織運営 鍵はリーガルテックの積極活用 – 太陽誘電
- 第30回 テレワーク下の法務業務は「依頼者ファースト」のITツール活用で対応 - サイボウズ
- 第31回 アフターコロナになっても変わらない、法務のあるべき姿 - パーソルグループ
- 第32回 グローバル企業における法務業務とリーガルテック導入事例 勝機はスモールスタートにあり - 日揮グループ
- 第33回 急成長するベンチャーを支える「企業法務」の役割とは - GAテクノロジーズ
- 第34回 全ては事業の成長のために。ありのまま採用と価値観の共有化を通じて作り上げる熱い組織 - Visional
- 第35回 新規事業をサポートするインハウスロイヤーたち - あおぞら銀行のスタートアップサポートチームが生み出す価値とは
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- 第38回 「世界一幸せな法務」というビジョンを掲げ、事業を通じた社会課題の解決を目指す - LIFULL
- 第39回 強固な組織体制のもとで専門性の高いメンバーがイノベーションに貢献 - 日本アイ・ビー・エム
- 第40回 丸紅法務部の挑戦と変革 − 精鋭のメンバーがさらなる価値創出にコミットするために