企業法務の地平線
第18回 「多様性」のある組織こそ、強みを生む - ソニー 「前例なき領域」へ挑戦する意欲と創造性
法務部
シリーズ一覧全40件
- 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド
- 第2回 「インハウス・ロイヤー」という選択肢 - 日本にとってCLOは必要なのか?
- 第3回 世界を股にかけた法務パーソン、国際ビジネスの現場で見えたもの
- 第4回 変わるワークスタイルと変わらぬ信念
- 第5回 会社の「誠実」を担う法務の姿 – 双日
- 第6回 300人体制を築くメガ法務の役目 - パナソニック
- 第7回 米国発のルールを日本に浸透させていく、アドビ法務・政府渉外本部の役割
- 第8回 マイクロソフトが実践するダイバーシティ戦略
- 第9回 法務畑を歩み続けたユニリーバ北島氏が考える、法務の役割と今後の課題
- 第10回 人と組織の成長を創造するプロアクティブな法務 - パーソルホールディングス
- 第11回 少数精鋭でチャレンジングな法務 - アサヒグループ
- 第12回 法律が追いつかないゲーム業界に求められるスピーディな体制構築術 - グリー
- 第13回 「1つの特許で生きるか死ぬか」、経営に直結する法務が見据えるグローバル化 - 田辺三菱製薬
- 第14回 たばこの概念を覆した「IQOS」で煙のない社会を目指す - フィリップ モリス
- 第15回 舞台はグローバル、事業に深くコミットする商社法務 - 三菱商事
- 第16回 懐深く、信頼して任せる風土 - 丸紅
- 第17回 経営の視点と専門性を持った法務人材を輩出する - キヤノン
- 第18回 「多様性」のある組織こそ、強みを生む - ソニー
- 第19回 一人ひとりが知財責任者としてのマインドを持つ - メルカリリーガルグループが実践する事業への関わり方
- 第20回 「使って初めて価値が出る」、ミッション・バリューを自らの言葉に「翻訳」して実践 - ユーザベース
- 第21回 「ポケモン」を支えるプロデューサーとしての法務 - 株式会社ポケモン
- 第22回 事業への情熱をもとに担当者をアサイン - DeNA
- 第23回 グローバルへと進化するために、働き方改革を推し進める法務組織 - 電通
- 第24回 プロジェクトチームの一員として、グローバルで多様なビジネスに並走する - アクセンチュア
- 第25回 事業部と一体となり、新規事業領域へチャレンジ – キリンホールディングス
- 第26回 合併を経て進化を続けるビジネスパートナーとしての法務 ―コカ・コーラ ボトラーズジャパン
- 第27回 活発なM&Aを支える法務組織とその柔軟な働き方 - 富士フイルム
- 第28回 契約書を作るだけではない、グローバルな成長に貢献するビジネスコンサルタントとしての法務 – 味の素
- 第29回 ウィズコロナ時代に問われる法務部門の組織運営 鍵はリーガルテックの積極活用 – 太陽誘電
- 第30回 テレワーク下の法務業務は「依頼者ファースト」のITツール活用で対応 - サイボウズ
- 第31回 アフターコロナになっても変わらない、法務のあるべき姿 - パーソルグループ
- 第32回 グローバル企業における法務業務とリーガルテック導入事例 勝機はスモールスタートにあり - 日揮グループ
- 第33回 急成長するベンチャーを支える「企業法務」の役割とは - GAテクノロジーズ
- 第34回 全ては事業の成長のために。ありのまま採用と価値観の共有化を通じて作り上げる熱い組織 - Visional
- 第35回 新規事業をサポートするインハウスロイヤーたち - あおぞら銀行のスタートアップサポートチームが生み出す価値とは
- 第36回 アクセンチュア法務が高い付加価値を生み出せる理由 オフショア化で契約業務を6割削減
- 第37回 大手法律事務所で専門性を極め「自分をアップデート」する環境を求めて – メドレー
- 第38回 「世界一幸せな法務」というビジョンを掲げ、事業を通じた社会課題の解決を目指す - LIFULL
- 第39回 強固な組織体制のもとで専門性の高いメンバーがイノベーションに貢献 - 日本アイ・ビー・エム
- 第40回 丸紅法務部の挑戦と変革 − 精鋭のメンバーがさらなる価値創出にコミットするために
目次
企業活動がグローバル化、複雑化する中で法務部門に求められる役割にも変化が見られます。これからの時代に求められる法務部門のあるべき姿とはどのようなものなのでしょうか。各社の法務部へお話を伺い、その姿を探ります。
今回は、ソニー株式会社の法務・コンプライアンス部に取材しました。ソニーは、「ユーザーの皆様に感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する会社であり続ける」というミッションのもと、ユーザーの心を動かすために、テクノロジー、コンテンツ、サービスへの飽くなき情熱で、世界に先駆けた商品、体験、新しい感動の開拓者になることを目指しています。
コーポレート法務グループゼネラルマネジャーの奥須賀 勇二郎氏、法務グループゼネラルマネジャーの持田 義徳氏、シニアマネジャーの服部 陽子氏と有坂 陽子氏、アシスタント・リーガル・マネジャーの佐藤 大文氏の5名に、ソニーで働く魅力について伺いました。
世界に広がるソニーグループの中核として
法務・コンプライアンス部の体制を教えてください。
奥須賀氏:
ソニー株式会社の法務・コンプライアンス部は、エレクトロニクス、エンタテインメント、金融事業を営むグループ全体の本社であるソニー株式会社に属する組織であり、メンバーは50名強になります。この法務・コンプライアンス部は、主に本社系、エレクトロニクス事業系の契約、訴訟や政府調査、事業に係る法的検討などを担当する「法務グループ」、グループ全体の企業統治体制や情報開示体制の維持管理や資本市場に関連する案件などを担当する「コーポレート法務グループ」、グループ全体のコンプライアンス体制の維持管理などを行う「コンプライアンスグループ」、グループ各社のコンプライアンス活動のモニタリングなどを担当する「コンプライアンスモニタリンググループ」の4つのグループで構成されており、人数は法務グループが約30名、その他の3つのグループがそれぞれ5~10名程度の規模で運営しています。
男女比率は女性が4割強を占め、社内の他の部署に比べても多い方ではないかと思います。弁護士資格については、日本の資格保有者が5名、法律事務所での勤務経験者がここにいる佐藤を含めて2名、米国の資格保有者が7名です。意図したわけではないのですが、日本の資格保有者は増えてきています。
海外のグループ会社の法務機能はいかがでしょうか。
奥須賀氏:
ソニーグループは、事業領域も地域も多岐にわたっています。エンタテインメント事業およびゲーム事業の本社機能があり、エレクトロニクス事業の製造・販売拠点でもある米国に比較的多くの人員を配置しているほか、欧州、中国、ドバイ、シンガポールなどにも法務機能があり、それらが本社を中心にネットワークを構築し、相互に連携しています。グループ全体で法務に携わっている者は数百名というところでしょうか。
法律というものの性質上、以前は地域ごとで業務が完結している感覚もあったのですが、今は競争法や、個人情報の取り扱いなど、グループ全体で連携し、情報交換を頻繁にしないと対応できない案件も多くなってきています。
海外のグループ会社とはどのように関わっていますか。
持田氏:
私の場合、月に1度は各エリアのメンバーと顔を合わせてミーティングをしたり、電話で報告を受けるようにしております。案件の状況によっては、毎日のように話す時期もありますね。
服部氏:
グローバルに展開する案件の場合、各国での調整や連携が必要になったタイミングで、関連地域の法務とよく話すようにしています。
奥須賀氏:
グループ全体で連携して対応していかないと案件も多くなってきていますし、事業に内在する法務リスクも日々変化していますので、全世界から各国・各領域の責任者20~30名が集まるミーティングを年に一度は行っています。集まる場所は日本のケースも海外のケースもあります。
事業の構想段階から関わる「信頼される法務」
事業部とどのように関わって、仕事を進めていますか。
服部氏:
メディカル事業における、JV(ジョイントベンチャー)を含めたサポートが特徴的なので、例にあげてお話しします。
もともと当社にはメディカル事業に関する知見がなかったため、色々な会社と協業したり、JVをつくったりしながら育ててきました。新しいビジネスなので、事業の特性、リスクや、各国の医療関連の規制を法務と事業部が一緒に学んでいます。
ソニーは歴史的に見ても、法務を大事にする会社だと思います。「他社と協力して実現したい事業がある」という話になると、法務が構想の段階から入るケースが多いです。 初期段階から法的なアドバイスができますし、ブレーンの方々と密に議論することで、見えるリスクがあります。契約を作るうえでも単に文章に落とすだけでなく、一緒に考えて、長いスパンで関われるところがとても面白いですね。
法務が事業の構想段階から入るカルチャーがあるのですね。
持田氏:
諸先輩方が信頼される法務を築いてきたからこそだと思いますし、経営や事業にとって頼れる部署であるよう、日々努力を続けていく姿勢を大事にしています。
服部氏:
法務のメンバーはリーガルスキルだけでなく、経営視点で合理的か、戦略的に意味のある提案か、という戦略的思考を忘れないことが大事です。これは若い頃から叩きこまれ、必要な場面にさらされる機会もとても多いです。
奥須賀氏:
契約締結、取引実施という意思決定の時、法務が必ず事前にレビューしないと意思決定できないような仕組みを設けています。文化や考え方だけでなく、仕組みがつながっていることもきちんと法務機能を果たすために必要な1つの要素だと思います。
服部氏:
構想段階からリスクを指摘しつつ、実現する方法もアドバイスできるのは楽しいです。事業部のアクションを待つだけでなく、アンテナを立ててこちらからも声をかけていくように心がけています。
「SAP(Seed Acceleration Program)」という新規事業創出の取り組みをされていますが、法務はどのように関わるのでしょうか。
有坂氏:
「SAP」1は2014年にスタートした新規事業創出プログラムです。新しい事業をやりたい人が手をあげて、社内の審査と最終オーディションを経て、新規事業を立ち上げるものです。
複数のアイデアが最終オーディションにかけられるのですが、法務もオーディションに参加します。その時点で、希望したアイデアに手をあげた法務のメンバーがアイデアをビジネス化することを法務の観点でサポートする担当としてアサインされ、商品が生まれるところからアイデアを創出したメンバーと一緒にサポートします。約4年で12のプロジェクトが事業化されました。
プロジェクトごとに法務の担当者が付くのですか。
有坂氏:
複数のプロジェクトをかけもつ人もいますが、各プロジェクトに法務の担当は1人付きます。専任の顧問弁護士のようなイメージですね。
法務担当は「規制があるからできない」とは言わず、新しい道を一緒に探っていこうとするので、「自分が生み出したプロジェクト」と思えるし、プロジェクトを育てていく気持ちが満々になる。製品が生まれるときはプロジェクトメンバーと一緒に喜びを分かち合います。
一方で、法務は事業を実現させるためにアクセルを踏みつつ、リスクを説明するなどブレーキを踏むことも当然あります。プロジェクトによっては、業務経験がそこまで豊富ではない若手社員が統括を任されるケースもあるので、我々が全体を見て、万全のサポートをしています。
服部氏:
エレクトロニクスビジネスの場合、販売機能は販売会社にあるので、私たちが消費者に物を直接販売することはないのですが、「SAP」のプロジェクトだと販売するところも体験できるので、すごく面白いですよね。
みんな自分の生み出した製品やプロダクトに、深い愛情と大きな熱量を持っています。
同グループ シニアマネジャー 服部 陽子氏、同グループ シニアマネジャー 有坂 陽子氏
AIビジネスにおいて重要となる倫理の問題
今年の1月にaiboが発売され話題となっていますが、どのように生まれたのでしょうか。
有坂氏:
aiboは「SAP」のプロジェクトではなく、社長直轄の全社的なプロジェクトでした。初期段階で声がかかって、大変ワクワクしましたが、秘密のプロジェクトだったので周りに言えず。
また、開発中は世の中のプライバシーへの関心も高まっているところでした。お客様の喜びや心配について想像力を働かせて、シミュレーションしながら読みやすい利用規約を作ったり、説明書の表現を考えていました。
aiboにもAI技術が活用されているかと思います。AIやビッグデータがビジネスに不可欠になる中、法務はどのような点を意識して、ビジネスを推進しようと考えていますか。
有坂氏:
これからますます重要になってくるのは倫理の問題と捉えています。ソニーは2017年5月に「パートナーシップ・オン・AI」2という倫理団体に参加しました。業界におけるAIに関する議論に法務が同行することもあります。お客様やステークホルダーの方々に満足いただくために、倫理についてもしっかり考えていきたい。そして、このスタンスを社内でどのように浸透させるのか、その方法に関する検討ついて法務も大きく関わっています。まずは、AIに関する技術に造詣が深い方に聞いたり、品質保証の体制のあり方を考えたり。第三者である研究者や学者の方とも議論して、倫理について考えています。
持田氏:
AIについては適法性だけでなく、適正か、適切かというところまで含め、法務部でも考えています。事業側の方々との議論でこの考えを伝えていくことを、部署全体として意識しています。
技術革新によって新しい社会、未来がつくり出される一方で、法制度や世間の感覚とのバランスをどのようにとっていくか。ソニーは、前例のないところに飛び込んでいくカルチャーがあるので、非常にエキサイティングですね。難しい課題に直面しながら、事業側の方々と一緒になって解決していくことが、事業を支援する中で欠かせません。
トップの問題意識から始めるガバナンスの構築
コーポレートガバナンスについて、貴社ではどのように取り組まれていますか。
奥須賀氏:
コーポレートガバナンスやディスクロージャーはコーポレート法務グループが担当しています。当グループは、一般的な会社法対応、法律上の機関設計の枠を越えて、社内の意思決定体系をどういうふうに組み上げ、その上でその意思決定の妥当性をどのように確保するかという仕組み自体を関連部署と連携して設計する立場にあります。
コーポレートガバナンス・コードなどによって、世間では議論も活発化していますが、当社の場合は、形式論から入ることはあまりありません。エレクトロニクス、エンタテインメントと金融という3つの異なる事業とその製品やサービスを使ってくださるお客様、8兆円の売上を創出する全世界の13万人の従業員やビジネスパートナー、それらを経営者はどうマネージメントしていくのか。投資家や株主、ステークホルダーに対して説明責任をどう果たすかという点から、ガバナンスのあり方を考えます。そもそも経営者は法律上どのような立場にあり、どのような責任を果たさなければならないのかというある意味法務としての基本を踏まえた上で、グループ全体をどのように経営するのかということを設計することになりますので、非常にやりがいのある仕事ですね。
外形的に整えるのではなく、会社がより成長するためにどうすべきか、という考え方が根底にありますね。
奥須賀氏:
事業を営む以上、競争に勝つために経営のスピード感を維持しつつ、ステークホルダーへの説明責任を果たせるよう透明性を確保する。これが根幹にある考え方です。
前者は権限移譲で、後者はいわゆる監督、モニタリングですが、どのようにバランスを取るかについては常に試行錯誤です。マクロな経済環境や各事業の特性そのものによってもそのバランスは異なるでしょうし、絶対的な解はないのですが、どうすれば中長期的に企業価値を上げていけるかという基本は外さないようにしています。
業務時間の8割を、ビジネス創出の時間にするために
働き方改革、生産性向上のために取り組まれていることがあれば教えてください。
持田氏:
業務時間の8割はビジネスを一緒に創るところに割く。これを理想に掲げています。去年から時間短縮チームを立ち上げて、どうしたら業務効率化できるかを検討して、AIやRPA3など、ツールを使った業務効率向上についても検討を進めています。
奥須賀氏:
AIを業務に取り入れるのは、まだ難しいところがありますがRPAは部分的に進めています。たとえば、インサイダー取引防止のプロセスを自動化しました。
従業員や役員が株を売買する時は基本的に法務が事前確認をすることになっており、今までは売買申請の受付、返事、基本情報の収集を手作業でやっていたのです。これがRPAによる自動化によって返事漏れがなくなったり、他の業務の最中に中断されなくなったりして、すごく「効率が上がった」と担当者は言っています。工数が大幅に減ったわけではなくても、精神的に楽になったみたいです(笑)。
他に自動化、削減したい業務はありますか。
服部氏:
時間の制約を強く意識するようになって、ずいぶん変わってきました。会議は自主的に削減し、事前準備によって時間を短縮するよう心がけています。
奥須賀氏:
私たちのアウトプットは、ああでもない、こうでもないという議論や検討の結果生まれるものなので、小間切れにミーティングが入ってしまい、自分が落ち着いて考えられる時間が1日に30分×5スロットとなってしまっては良いパフォーマンスも出ないのではと思っています。まとまった時間を何とか捻出するための施策としてAIやRPAに期待している部分もあります。
働き方という面ではいかがでしょうか。
持田氏:
全社的なテレワークの制度があります。
服部氏:
テレワークによって作業に集中できるので、すごく良い制度だと思います。あらかじめテレワークの予定を決めれば、作業の予定を調整できますし、時間の使い方も工夫しますよね。
持田氏:
集中しやすいのは間違いないです。本当に必要な時はもちろん電話がかかってきて、業務の中断という点では職場とあまり変わらないですけど(笑)。法務全体としてのアウトプットの観点で、導入当初はどうなるかと思いましたが、メンバーの皆さんはうまく活用していると思います。
服部氏:
2年前に導入され、もともとは週1回のテレワークだったのが、今年からフレキシブルワーク制度となって連続取得が可能になり、柔軟性が出てきました。子育てや介護など、どうしても連続して家にいないといけない場合も、テレワークで補えます。
社内弁護士として、知識とクリエイティビティを活かす
佐藤さんは、法律事務所を3年半経験した後に入社されたそうですが、法律事務所時代との違いはいかがですか。
佐藤氏:
ビジネスをゼロから創り出す過程に参加できるところが面白いと感じます。
法律事務所では裁判における紛争解決も担当していましたが、できることが限定されるケースもあります。契約を締結する段階に自分が入っていれば、そもそもトラブルは発生しなかったという場面も結構ありました。
紛争が起きないようにしつつ、ビジネスがやろうとしていることを実現するためにはクリエイティビティが必要になってくる。これはソニーで働く中で感じたことで、非常に難しいのですが、面白味を感じています。
法律や訴訟の手続を知っているのは当然のこととして、どうやってビジネスをサポートしていくか。そこに重きを置けるのが、楽しいところかなと思います。
ビジネスを理解する難しさがありそうですね。
佐藤氏:
私は現在、主に半導体を担当していますが、文系出身なので技術的な話はわかりにくいことも多いです。幸いなことに、事業部の方々がそこをよく理解してくれて、文系の人間でもわかるようにビジネスの概要を丁寧に説明してくれるので、非常に仕事がしやすいです。
持田氏:
佐藤は弁護士としての経験やバックグラウンドも活かしながらも、他の法務スタッフと同様に法律を使ってビジネスを支援する姿勢で取り組んでいます。
トラブルが生じた時には単に対応をするだけでなく、その後の再発防止計画を提案し、実施するところまで、牽引しています。
また、どの会社の法務も取り組んでいると思いますが、民法改正について、具体的に何をすべきか、国内の多数の関係会社の法務メンバーも含めての勉強会を開催して情報発信をするなど、主体的に取り組んでくれています。特に指示などなくても、自らパッと手をあげて主導してくれて(笑)。
留学・研修で得た多様な学びを、組織へ還元する
貴社が求める人材について、教えてください。
持田氏:
技術や法制度、世界情勢も大きく変動し、ビジネスを巡る環境は不確実な中でダイナミックに変わっています。
当社は、年齢、性別に関係なく、グローバルに活躍できる職場なので、環境の大きな変化や、一緒に働く人の多様性を楽しみながら、法的課題に取り組んで解決していこうという方、新卒であれ中途であれ、そういう方を採用したいと考えています。求める能力を端的に言うと、知力、体力、気力、情報の発信・受信の両方ができるコミュニケーション能力を持ち、好奇心を持って取り組んでくれる方を求めています。
ロースクール出身者を積極的に採用していますか。
持田氏:
特別な基準は設けていません。たとえば応募者が弁護士資格保有者ですと一定の法的知識や法的思考力を期待することもあるものの、資格の有無やロースクール卒、法学部卒などの学歴それだけでは、それまでの勉強の具合や入社後の伸びは分からないかなと思うので(笑)。面接時の質疑応答のなかで話をよく聞き、また応答を通じて、成長しながら活躍していけそうな方かを見ていくようにしています。
どのような研修制度がありますか。
服部氏:
ニューヨークにある、SCA(Sony Corporation of America)の法務チームに6か月間入って、一緒に仕事をするという研修プログラムを設けており、年に2人ほど行きます。
一緒に向こうの案件に携わりながら、アメリカのインハウスロイヤー、あるいはインハウスロイヤーが使う社外弁護士と関わったり、SCAの内外で人脈を広げたり。日本でエレクトロニクス事業の法務として活躍したメンバーが行って、エンタテインメント事業やアメリカ主導の色々なビジネスを体験します。ディールのタイプや契約の中身も違うので、契約の取り回しや案件の内容について、バリエーションを増やせます。
私も過去に研修を受けたのですが、アメリカにおけるソニーのビジネス全般の理解が深められる、すごく良いプログラムでした。エンタテインメントとしてのソニーの存在感を含め、日本とアメリカにおける「SONY」のロゴが示す意味の違いを感じることができました。
日本とアメリカでは仕事の内容や、やり方にも違いはありますか。
服部氏:
日本とアメリカの法務の違いの一例として、外部弁護士の起用の仕方があげられます。アメリカは、多様な経験を持つ人が弁護士をしているので、専門領域が細分化され、得られる知見もさまざまです。契約の形やストラクチャーの組み方など、日本で経験したのとは違うディールも勉強できました。
弁護士に対して、踏み込んだ戦略的な提言を求める点は日本と異なり、勉強になりましたね。
留学についてはいかがでしょう。
有坂氏:
アメリカのロースクールに1年間弱留学して米国弁護士の試験を受ける研修プログラムがあります。私はSCAに行った後、少し間を置いてから行きました。日本の大学で法学部の授業を受けた時に、日本語でもわからないことがあったのに、英語だともっとわからないのではないかと個人的には不安でした(笑)。
私が留学したのは、西海岸のロースクールで、エンタテインメントに強い地域にありました。人脈が増えたり、寮生活で非常に濃密な関係を築けたり、先生との距離もすごく近くて、土日も授業を継続してもらったり。あとボランティア活動も積極的にやって、たとえば冤罪の人の支援もしていました。初めての体験をして視野が広がったことは非常に良く、結果的にはとても楽しかったです。
今は新規事業を担当していますが、アメリカ留学中に得た、広告規制やプライバシーの規制に関する知識を活かしているところです。
スキルアップ、キャリアアップを支援する制度が充実していますね。
服部氏:
ロースクールへ行くと結構大変なので、意欲がないと難しいと思います。逆に、意欲がある人は法律の授業以外に色々な学びの場を積極的に求めて活動できます。
ロースクールごとに強み・弱みがありますが、自分のやりたいことに合わせて、皆色々なロースクールに行きます。私の行ったロースクールは東海岸にあったので、テクノロジーよりもアートや金融に強く、ディール系のプログラムや証券系の授業が充実していました。留学先での多様な学びを、組織に持って帰って還元する形は、うまくいっていますね。
持田氏:
国内外問わず赴任・出向というキャリアパスがあって、各地の法務・コンプライアンス部門への異動があります。私は3年前に英国から帰ってきました。自分も成長をしながら、成果を出すための経験を積ませてもらえたと思っています。
法務スタッフのキャリアは環境や時代に応じて変わっていくと思います。メンバー皆が視野を広げつつ、色々な現場経験を積む。多様なバックグラウンドをもつメンバーがいる組織で、全体として最大限力を発揮できる。そういう集団を目指しています。
最後に、法務の仕事をしている方、法務の仕事を志望している読者へのメッセージをお願いします。
奥須賀氏:
ソニー自体が働く人の多様性が競争力の源泉の一つであると言っているように、この組織も多様性を非常に重視しています。リスクを評価し、それを踏まえて判断するという法務の仕事において、皆が同じ考え方をして同じアウトプットをしていては大きな価値を生み出すことは難しいかなと思っているところです。私たちが扱うテーマは、最終的には裁判規範によるものが多いため、あまり独りよがりになっても困りますが、いろいろなことに興味を持って、さまざまな観点から議論することをこれからも大事にしたいと思っています。
持田氏:
法務の仕事は、時代の動きを感じながら色々な挑戦ができると思っています。企業法務のプロとして、経営やビジネスと一体になって、目的の達成に向けていけたらよいのではないかと思っています。
ソニー株式会社
所在地:東京都港区港南1-7-1
設立:1946年5月7日
資本金:8,657億円
代表者:社長兼CEO 吉田 憲一郎
専務CFO 十時 裕樹
従業員数:117,300名
※2018年3月31日現在
プロフィール
奥須賀 勇二郎(おくすか・ゆうじろう)
法務・コンプライアンス部 コーポレート法務グループ ゼネラルマネジャー。
持田 義徳(もちだ・よしのり)
法務・コンプライアンス部 法務グループ ゼネラルマネジャー。ニューヨーク州弁護士。
服部 陽子(はっとり・ようこ)
法務・コンプライアンス部 法務グループ シニアマネジャー。ニューヨーク州弁護士。
有坂 陽子(ありさか・ようこ)
法務・コンプライアンス部 法務グループ シニアマネジャー。ニューヨーク州弁護士。
佐藤 大文(さとう・ひろふみ)
法務・コンプライアンス部 法務グループ アシスタント・リーガル・マネジャー。弁護士。
-
「SAP」…Seed Acceleration Program。2014年4月にソニー株式会社でスタートした、新規事業創出プログラム。既存の事業領域外の新しい事業アイデアを集め、育成することを目的とする。ソニーグループの事業領域の垣根を越えた技術・才能のコラボレーションやベンチャー企業との連携を加速させることにより、ソニーならではの手法で新たな事業を立ち上げ続け、イノベーションを創り出していくことを目指す。 ↩︎
-
「パートナーシップ・オン・AI」…2016年9月にAmazon、Facebook、Google、IBM、Microsoftの5社で発足した非営利団体。AI技術の啓発と倫理面を含む人間社会の課題解決に共同で取り組み、人間社会に貢献することを目的とする。ソニーは2017年5月、日本企業として初めて、参画を表明した。 ↩︎
-
RPA…Robotic Process Automation。人工知能を備えたソフトウェアのロボット技術により、定型的な事務作業を自動化・効率化すること。 ↩︎
シリーズ一覧全40件
- 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド
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