企業法務の地平線

第47回 事業に寄り添うキリンホールディングス法務部 – グループ約200社を支援

法務部

シリーズ一覧全46件

  1. 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド
  2. 第2回 「インハウス・ロイヤー」という選択肢 - 日本にとってCLOは必要なのか?
  3. 第3回 世界を股にかけた法務パーソン、国際ビジネスの現場で見えたもの
  4. 第4回 変わるワークスタイルと変わらぬ信念
  5. 第5回 会社の「誠実」を担う法務の姿 – 双日
  6. 第6回 300人体制を築くメガ法務の役目 - パナソニック
  7. 第7回 米国発のルールを日本に浸透させていく、アドビ法務・政府渉外本部の役割
  8. 第8回 マイクロソフトが実践するダイバーシティ戦略
  9. 第9回 法務畑を歩み続けたユニリーバ北島氏が考える、法務の役割と今後の課題
  10. 第10回 人と組織の成長を創造するプロアクティブな法務 - パーソルホールディングス
  11. 第11回 少数精鋭でチャレンジングな法務 - アサヒグループ
  12. 第12回 法律が追いつかないゲーム業界に求められるスピーディな体制構築術 - グリー
  13. 第13回 「1つの特許で生きるか死ぬか」、経営に直結する法務が見据えるグローバル化 - 田辺三菱製薬
  14. 第14回 たばこの概念を覆した「IQOS」で煙のない社会を目指す - フィリップ モリス
  15. 第15回 舞台はグローバル、事業に深くコミットする商社法務 - 三菱商事
  16. 第16回 懐深く、信頼して任せる風土 - 丸紅
  17. 第17回 経営の視点と専門性を持った法務人材を輩出する - キヤノン
  18. 第18回 「多様性」のある組織こそ、強みを生む - ソニー
  19. 第19回 一人ひとりが知財責任者としてのマインドを持つ - メルカリリーガルグループが実践する事業への関わり方
  20. 第20回 「使って初めて価値が出る」、ミッション・バリューを自らの言葉に「翻訳」して実践 - ユーザベース
  21. 第21回 「ポケモン」を支えるプロデューサーとしての法務 - 株式会社ポケモン
  22. 第22回 事業への情熱をもとに担当者をアサイン - DeNA
  23. 第23回 グローバルへと進化するために、働き方改革を推し進める法務組織 - 電通
  24. 第24回 プロジェクトチームの一員として、グローバルで多様なビジネスに並走する - アクセンチュア
  25. 第25回 事業部と一体となり、新規事業領域へチャレンジ – キリンホールディングス
  26. 第26回 合併を経て進化を続けるビジネスパートナーとしての法務 ―コカ・コーラ ボトラーズジャパン
  27. 第27回 活発なM&Aを支える法務組織とその柔軟な働き方 - 富士フイルム
  28. 第28回 契約書を作るだけではない、グローバルな成長に貢献するビジネスコンサルタントとしての法務 – 味の素
  29. 第29回 ウィズコロナ時代に問われる法務部門の組織運営 鍵はリーガルテックの積極活用 – 太陽誘電
  30. 第30回 テレワーク下の法務業務は「依頼者ファースト」のITツール活用で対応 - サイボウズ
  31. 第31回 アフターコロナになっても変わらない、法務のあるべき姿 - パーソルグループ
  32. 第32回 グローバル企業における法務業務とリーガルテック導入事例 勝機はスモールスタートにあり - 日揮グループ
  33. 第33回 急成長するベンチャーを支える「企業法務」の役割とは - GAテクノロジーズ
  34. 第34回 全ては事業の成長のために。ありのまま採用と価値観の共有化を通じて作り上げる熱い組織 - Visional
  35. 第35回 新規事業をサポートするインハウスロイヤーたち - あおぞら銀行のスタートアップサポートチームが生み出す価値とは
  36. 第36回 アクセンチュア法務が高い付加価値を生み出せる理由 オフショア化で契約業務を6割削減
  37. 第38回 「世界一幸せな法務」というビジョンを掲げ、事業を通じた社会課題の解決を目指す - LIFULL
  38. 第42回 伊藤忠商事の法務だからできること - 営業部門と共に闘い成長する法務部
  39. 第39回 強固な組織体制のもとで専門性の高いメンバーがイノベーションに貢献 - 日本アイ・ビー・エム
  40. 第40回 丸紅法務部の挑戦と変革 − 精鋭のメンバーがさらなる価値創出にコミットするために
  41. 第41回 経営とともに変革するパナソニックグループの法務 - 総勢600名の “One Legal Team”
  42. 第43回 頼れるビジネス・ソリューション・パートナーを目指して - コカ·コーラ ボトラーズジャパン
  43. 第44回 ビジネスに寄り添う住友商事法務部 - 社会とともに成長する
  44. 第45回 ワンチームで事業を支え経営課題に感度高く対応する三井物産法務部
  45. 第46回 オリンパス法務 グローバルかつサステナブルな組織運営のあり方
  46. 第47回 事業に寄り添うキリンホールディングス法務部 – グループ約200社を支援
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目次

  1. 事業や商品に愛着を持ちやすい組織体制
  2. 業務範囲が明解かつ柔軟なチーム制を採用
  3. 若手のうちから大小さまざまな経験を積むチャンスがある
  4. 専門知識よりも、まずは前向きなマインドが大切

酒類・飲料から医薬・ヘルスサイエンスまで、幅広い事業を展開するキリングループ。グループ約200社の法務支援を一手に担うのが、キリンホールディングス株式会社の法務部です。
同社法務部長の村上 玄純氏、および易 佳琦氏、内堀 花恵氏、西村 崇人氏、八嶋 章博氏、阿部 大樹氏の6名に、法務部の組織体制や業務内容、やりがいなどについて話を聞きました。

事業や商品に愛着を持ちやすい組織体制

キリングループにおけるホールディングス法務部の位置付けや組織体制に関して、前回の2019年の取材時と比べて大きく変わった点はありますか。

村上氏:
原則として、ホールディングスの法務部が国内グループ会社の法務機能を一括して担当する「集中型」の体制をとっている点は変わっていません。ただし、グループ会社数は2019年当時の約150社から大きく増え、2025年現在では200社を超えています。一方で、ホールディングス法務部の人数は増えていません。総勢32名の少数精鋭でがんばっており、今後、増強していきたいと思っているところです。
なお、協和キリン株式会社、株式会社ファンケル、オーストラリアのBlackmores GroupおよびLion Pty Ltdに関しては独立した法務部門を持っており、ホールディングス法務部と連携しながら業務にあたっています。

前回と比べて大きく変わった点としては、ホールディングス法務部のチーム編成が挙げられます。以前は国内法務・海外法務・株式・商標の4チームだったものが、現在は以下のとおり5チームになり、より事業に紐づいた体制となるように業務範囲が見直されました。端的に言うと、R&D・ヘルスサイエンス事業、ソフトドリンク・ワイン事業、ビール・スピリッツ事業の相談案件は、各事業に対応する法務チームが国内・海外問わずワンストップで対応できる体制になっています。

キリンホールディングス 法務部の組織体制

キリンホールディングス 法務部の組織体制

阿部氏:
国内法務と海外法務で区分していた頃に比べると、現在の事業部制のほうがビジネスを深堀りしやすく、おそらく事業部側から見ても法務窓口が明確になることで相談しやすくなったのではないでしょうか。プロジェクトの初期段階から法務として関与できるような会議体の仕組みもできており、本当に良い効果が得られていると感じます。

村上氏:
まさしく、自分の担当する事業や商品に愛着を持って対応してほしいという願いもあり、現在のチーム体制を敷いています。「事業に寄り添う法務」を掲げ、日々ビジネスに近いところで案件の対応をしているので、企業法務としての感覚だけではなく、ビジネス感覚も磨くことができます。

村上 玄純氏

村上 玄純氏

業務範囲が明解かつ柔軟なチーム制を採用

法務部のメンバー構成や、5つのチームそれぞれの人数・業務範囲を教えてください。

村上氏:
32名のメンバーのうち、半数以上が30代という年齢構成が1つの特徴です。また、プロパー・キャリア採用、他部署からの異動、外国籍、有資格者、留学帰り…といった多様性に富んだ布陣といえます。
各チームの人数・業務範囲については、各チームメンバーからそれぞれ紹介してもらいましょう。

易氏:
商標チームの専任メンバーは4名です。商標権の確保・維持、権利排除等を行い、キリンブランドを守るのが主な役割です。また、当チームでは商品パッケージやPOPの広告文言等の法的チェックも担当しています。グループにBtoCメーカーも多いことから、対応件数は年間で約8,000件とかなりのボリュームがありますが、景品表示法の優良誤認に当たる可能性はないかなど、1件1件細かなチェックが欠かせません。
ちなみに、私自身は上海出身で、大学進学を機に日本へ。その後、新卒採用で当社に入り、6年間の営業職を経て法務部に異動しました。

内堀氏:
コーポレート法務第1チームは、主幹を含めて4名のメンバーで、そのほか法律事務所からの出向弁護士が1名います。業務内容は、インサイダー管理や株主関連手続などのコーポレートガバナンス全般と、株主総会の事務局業務が主なところです。そのほか、キリングループとしてプロジェクトを展開する際に、ホールディングスが発起点になることが多いので、それに関連してグループ各社や事業部に法務的な側面で働きかけるなどの役割も担っています。

西村氏:
コーポレート法務第2チームは、6名のメンバーで、R&D・ヘルスサイエンス事業を担当しています。キリンホールディングスの5つの研究開発拠点と、ヘルスサイエンス領域の事業部門からの法務相談に対応するというのがメインの業務です。ヘルスサイエンス領域の商品としては、キリンの独自素材「プラズマ乳酸菌」シリーズなどがあります。
ヘルスサイエンス自体、グループの中では比較的新しい事業ですが、それ以外の新規事業を検討する場面も少なくありません。たとえば、社員からビジネスアイデアを募集し、新規事業化を支援する社内制度「キリンビジネスチャレンジ」では、その選考を勝ち残ったプロジェクトについて、当チームが法的な検討・支援をしています。

八嶋氏:
ビジネス法務第1チームは、7名のメンバーで、国内外のビール・スピリッツ事業に関する契約相談、紛争解決、リスクコントロール、コンプライアンスなどの業務を担当しています。特に酒類事業は、グループ収益の半分近くを占める大きな柱。長年にわたり培ってきたビジネスを、いかに維持・拡大していくかは、法務としても力の入る部分です。
私は去年までビジネス法務第2チームでソフトドリンク事業を担当していたのですが、そのときと比べるとDA(Distribution Agreement)など、海外企業との契約案件が多いと感じます。こうした海外案件の多さも、ビジネス法務第1チームの業務の特徴といえるかもしれません。

阿部氏:
ビジネス法務第2チームは、6名のメンバーで、ソフトドリンク・ワイン事業を担当しています。対象となる事業は異なれど、ビジネス現場を守り、収益の源泉を確保するためにあらゆる法的サポートをするという方向性や業務内容は、ビジネス第1チームと同様です。特に飲料事業に関しては、国内の飲料業界がシュリンク傾向にある中で、独禁法に抵触しない範囲で同業各社といかに協働していくかなど、慎重な検討が求められる部分もあります。
私自身は、2023年から社内制度を利用して1年間の米国留学へ行かせてもらい、さらにオーストラリアの法律事務所で6か月間研修し、その後オーストラリアの現地子会社に2か月出向した後、2025年5月に帰国したばかりという状況です。

業務範囲が明確に分かれているようですが、チーム間で連携することはありますか。

村上氏:
大型プロジェクトなど、チームの垣根を超えて対処すべき課題については、別途横断チームを組成して対応にあたっています。年間で3件くらいはあるでしょうか。

各チームのメンバーはどのように決めていますか。

村上氏:
個人的には、各人が多様な業務を担当できるように、また、法務部内での経験の平準化という意味でも、5年スパンくらいでチーム異動するのがいいのではないかと思っています。事業によって国内・海外案件の比率や、M&Aなどの大型案件の多寡にばらつきがありますからね。
また、当社は毎年4月と10月が定期異動の時期です。さらに、毎年1〜2名は海外留学制度を利用するので、そうしたタイミングで異動を検討せざるを得ないという面もあります。法務部員とは定期的に面談の機会を設け、将来どんなことがやりたいのかといった中長期的なキャリアパスをヒアリングしています。状況を見ながら、なるべく本人の意向を反映したチーム編成になるよう考えているところです。

若手のうちから大小さまざまな経験を積むチャンスがある

これまでに担当した案件の中で、印象に残っているものがあれば教えてください。

易氏:
現在進行形で海外における模倣品対策に力を入れています。通常であれば日本の代理人を通して申立手続等をするのですが、中国でキリンの代名詞ともいえる「一番搾り」の模倣品・粗悪品が出回っていることが発覚した事案では、私自身が北京と上海に赴き、現地の弁理士・弁護士などに対して、フェイス・トゥ・フェイスで当社の考え方などを伝えました。地道な活動ではありますが、これによってコミュニケーションがスムーズになったのは間違いありません。
一方で、模倣品対策は1社の力だけでは限界があるのも事実。必要に応じて、業界全体で連携しながら取り組んでいきたいと考えています。

易 佳琦(イ チャチ)氏

易 佳琦(イ チャチ)氏

内堀氏:
当社は、昨年の2024年に新ブランド「キリンビール 晴れ風」を発売し、それに合わせて、同商品の売上の一部を使って、日本の風物詩の保全・継承に関する取組みを継続的に支援するという「晴れ風ACTION」を展開中です。当該取組みの実施にあたって、検討の初期段階から法務部にご相談いただき、実現に向けてのサポートを行いました。過去の類似の寄付事案の調査、晴れ風ACTION独自のスキームを実現するための法的手当て、そこで得た寄付金を渡す自治体をどのような基準で選ぶのか、仮に花火大会の運営資金として寄付するとして「大会が中止になった場合はどうするのか」等のリスクの洗い出しと対策など、検討ポイントは多岐にわたりました。
これまで経験したことのない領域も含めた法的検討が求められる場面も多く、非常に勉強になりました。

内堀 花恵氏

内堀 花恵氏

八嶋氏:
いちばん印象に残っているのは、2024年の花王株式会社からキリンビバレッジ株式会社への茶カテキン飲料「ヘルシア」事業の譲渡において、PMO(Project Management Office)の一員として対応にあたったことです。そこでは契約書をチェックするだけが私の仕事ではなく、プロジェクト全体のマネジメントに関わるような部分も任せてもらえました。従来の法務の守備範囲の枠に囚われず、プロジェクトの成功、ひいてはグループの企業価値向上のために何ができるか――そうしたプロアクティブな姿勢の大切さを実感するという意味でも、とても学びの多い案件でした。
また、本件に限らず、日頃からカウンターパートとの交渉の場において、私がいちばんの若輩者というのはよくあることです。場数を踏むことで、そういったシーンでも物怖じせずに、会社の価値向上のためにキリン法務の一員としてしっかりと意見を伝えられるようになりました。

八嶋 章博氏

八嶋 章博氏

阿部氏:
何事も場数を踏むことは大事ですよね。私も八嶋さんと同様に、特にM&A案件においては、法務がプロジェクトに果たす役割は大きいと感じることが多々あります。たとえば、過去に担当したグループ会社の一部株式譲渡案件では、クロージングの前提条件(CP)となる契約等の書類を法務部で起草して、関係部署から期限内に回答をもらうところまでマネジメントしたり、社内のキーパーソンとの交渉や根回しが必要となる場面もありました。苦労があるぶん、無事に終わったときの達成感は大きいです。

阿部 大樹氏

阿部 大樹氏

西村氏:
ヘルスサイエンスの領域はM&Aが多く、コーポレート法務第2チームの対応案件もイン・アウトともに増加傾向にあります。最近の例でいうと、ファンケルへのTOBや、オーストラリアの健康食品メーカーのBlackmores Groupの買収などです。もちろん、外部のM&Aアドバイザーを起用するなどして体制は整えますが、法務面で主導するのはホールディングス法務部ですから、チャレンジングであり腕の見せ所ともいえるでしょう。
一方で、事案の規模が小さいものであっても気は抜けません。たとえば、現場から「こんな新規事業を考えているのだが、法的リスクはあるか?」などのざっくりとした法務相談を受けることが日常的にあるのですが、既存の知見やノウハウが通用するとは限らず、難易度が高いものも多くあります。新しい法令やガイドライン等への情報感度を高めたり、類似案件を調べたりしながら対応する日々です。

西村 崇人氏

西村 崇人氏

ホールディングス法務部の担当領域や役割が非常に幅広いことがうかがえるエピソードですね。

村上氏:
キリン独自の事業ポートフォリオのなかで、国内外のM&Aをはじめとした大規模案件の支援から新規事業の立上げ支援など、領域も規模もさまざま経験を積むチャンスがたくさんあります。しかも、先ほどお話ししたとおり30代中堅社員が多く、育成環境も整っているため、若手のうちからOJTで企業法務の専門性を磨くことができるような事案を担当できます。同時に、当部にはキャリア採用者や有資格者などさまざまなバックボーンを持つメンバーも多いことから、多角的な考えを習得しやすい環境にあるといえるでしょう。

OJTなど人材育成の仕組みについて教えてください。

西村氏:
新卒採用者に対しては、先輩社員がOJTメンターとなって、業務指導だけでなくメンタルケアなども含めてサポートしています。人財育成については、今年から会社全体で「法務」「営業」「財務」「デジタル」などの12の機能を軸とした専門性と多様性をより重視するタレントマネジメントに着手しているため、法務部内での育成プログラムについても適宜見直す可能性はありますが、各種契約類型や商標の基本などに関する勉強会を開いたり、外部セミナーを活用したりなどのメニューは今後も継続予定です。

阿部氏:
あとは、いろいろなチームのミーティングにも参加できるような形を作って、必ずしも特定の事業や業務に縛られずに知識を広げられるようにしています。

村上氏:
社員の自己研鑽をサポートする社内プログラムも充実しています。実際に、ここにいる阿部さんは米国留学しましたし、内堀さんは2年ほど前にニューヨークに、易さんは昨年北京・上海に、海外トレーニーとして海外法律事務所における2週間の業務研修をしました。西村さんは現在、日本で業務をしながら、米国のコーネル大学のロースクールにオンラインセミナーを受講しています。

易氏:
海外留学・トレーニーなどの社内制度はもちろんですが、産休・育休・有休などの休暇に関しても、周囲のメンバーのフォローもあって、会社全体として利用・取得しやすい雰囲気があると思います。

八嶋氏:
リモートワークも可能ですし、働きやすい環境が整っていると感じます。

専門知識よりも、まずは前向きなマインドが大切

法務部の人員増強についてはどのように取り組んでいく予定ですか。

村上氏:
まず、他部署からの異動は大歓迎ですので、法務部として常に門戸を開いています。そのほか、新卒採用はもちろんのこと、キャリア採用にも力を入れています。
余談ですが、社内異動に関しては、人事やマーケティング、調達など他部署から是非にと望まれて法務部を離れてしまうメンバーも少なくありません。中長期的に見ると全社的な法務・コンプライアンス意識の底上げにつながり、社内連携がしやすくなるのは間違いありませんが、目下の法務部のリソースを考えるとつらいところです。

キリンの法務パーソンとして、求める人物像があれば教えてください。

村上氏:
「特殊なスキルがある人でないと法務部に入れないのでは」などと誤解されがちですが(笑)、法的知識などの専門スキルや語学力は法務部に入ってからいくらでも身につけられます。前向きなマインドさえあれば、ぜひ手を挙げていただきたいですね。

阿部氏:
キリングループでは、経済的価値と社会的価値の両立を目指すCSV(Creating Shared Value)を追求しています。こうした考え方に共感し、日ごろの業務において、そういった意識をもって対応を進められる方は、当社にフィットしやすい気がします。
あと、個人的には、やはり事業や商品への愛着を持ってくれる方がいいなと思います。それが業務に向き合ううえでのモチベーションにもなると思いますので。

内堀氏:
事業部とコミュニケーションをとることが非常に多いので、それを苦にせず自然にできる方というか、人と話すことが好きな方は向いているのではないでしょうか。事業部からの契約審査や法部相談の受付フローは決まっていますが、気軽な雑談の中での「メールで聞くほどでもないんだけど、これってどう思う?」といった会話が、リスク発見やアイデアのきっかけになることもありますからね。

最後に、法務部として大切にしている価値観や、今後の目標についてお聞かせください。

村上氏:
私が当社に入ったのは2022年。当時はコロナ禍ということもあり、会社の一体感みたいなものがやや分散してしまっている印象を受けました。それを払拭するための第一歩として、まずは法務部が一体感のあるチームとして、内外に存在感をアピールしていこうと取り組んできたところです。今後もこの流れを継続しつつ、これに共感してくれるメンバーを増強しながら、キリンの経営や事業の将来を “想像” して、法的観点から進むべき道を“創造”する法務部として前進していきます。

ありがとうございました。

プロフィール

村上 玄純氏
執行役員・法務部長 弁護士・ニューヨーク州弁護士
1996年弁護士登録、同年より法律事務所勤務。2002年三菱商事株式会社入社。同社在籍中、米国およびタイ現地法人、日本KFCホールディングス株式会社、株式会社メタルワンへの出向を経験。2022年キリンホールディングス株式会社入社、2023年4月より現職。
オススメの商品は「一番搾りホワイト」。

易 佳琦氏
法務部 商標チーム
2010年入社。営業などを経て、2016年4月に法務部に異動、2022年4月より商標チーム。
オススメの商品は「世界のキッチンから ソルティライチ」。

内堀 花恵氏
法務部 コーポレート法務第1チーム
2017年入社。総務・人事、営業などを経て、2021年に法務部に異動、2024年10月よりコーポレート法務第1チーム。
オススメの商品は「シャトー・メルシャンのワイン」。

西村 崇人氏
法務部 コーポレート法務第2チーム
インフラ企業の法務部での勤務を経て、2018年入社。法務一筋で、2023年4月よりコーポレート法務第2チーム。
オススメの商品は「キリン おいしい免疫ケア」。

八嶋 章博氏
法務部 ビジネス法務第1チーム 弁護士
ヘルステックのスタートアップ企業の法務部での勤務を経て、2022年入社。法務一筋で、2025年4月よりビジネス法務第1チーム。
オススメの商品は「ヘルシア」。

阿部 大樹氏
法務部 ビジネス法務第2チーム ニューヨーク州弁護士
2012年入社。営業を経て、2019年に法務部に異動。2025年5月よりビジネス法務第2チーム。
オススメの商品は「ハートランドビール」。

(写真:岩田 伸久、取材・編集:BUSINESS LAWYERS編集部)

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  5. 第5回 会社の「誠実」を担う法務の姿 – 双日
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  10. 第10回 人と組織の成長を創造するプロアクティブな法務 - パーソルホールディングス
  11. 第11回 少数精鋭でチャレンジングな法務 - アサヒグループ
  12. 第12回 法律が追いつかないゲーム業界に求められるスピーディな体制構築術 - グリー
  13. 第13回 「1つの特許で生きるか死ぬか」、経営に直結する法務が見据えるグローバル化 - 田辺三菱製薬
  14. 第14回 たばこの概念を覆した「IQOS」で煙のない社会を目指す - フィリップ モリス
  15. 第15回 舞台はグローバル、事業に深くコミットする商社法務 - 三菱商事
  16. 第16回 懐深く、信頼して任せる風土 - 丸紅
  17. 第17回 経営の視点と専門性を持った法務人材を輩出する - キヤノン
  18. 第18回 「多様性」のある組織こそ、強みを生む - ソニー
  19. 第19回 一人ひとりが知財責任者としてのマインドを持つ - メルカリリーガルグループが実践する事業への関わり方
  20. 第20回 「使って初めて価値が出る」、ミッション・バリューを自らの言葉に「翻訳」して実践 - ユーザベース
  21. 第21回 「ポケモン」を支えるプロデューサーとしての法務 - 株式会社ポケモン
  22. 第22回 事業への情熱をもとに担当者をアサイン - DeNA
  23. 第23回 グローバルへと進化するために、働き方改革を推し進める法務組織 - 電通
  24. 第24回 プロジェクトチームの一員として、グローバルで多様なビジネスに並走する - アクセンチュア
  25. 第25回 事業部と一体となり、新規事業領域へチャレンジ – キリンホールディングス
  26. 第26回 合併を経て進化を続けるビジネスパートナーとしての法務 ―コカ・コーラ ボトラーズジャパン
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  29. 第29回 ウィズコロナ時代に問われる法務部門の組織運営 鍵はリーガルテックの積極活用 – 太陽誘電
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  31. 第31回 アフターコロナになっても変わらない、法務のあるべき姿 - パーソルグループ
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  36. 第36回 アクセンチュア法務が高い付加価値を生み出せる理由 オフショア化で契約業務を6割削減
  37. 第38回 「世界一幸せな法務」というビジョンを掲げ、事業を通じた社会課題の解決を目指す - LIFULL
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  39. 第39回 強固な組織体制のもとで専門性の高いメンバーがイノベーションに貢献 - 日本アイ・ビー・エム
  40. 第40回 丸紅法務部の挑戦と変革 − 精鋭のメンバーがさらなる価値創出にコミットするために
  41. 第41回 経営とともに変革するパナソニックグループの法務 - 総勢600名の “One Legal Team”
  42. 第43回 頼れるビジネス・ソリューション・パートナーを目指して - コカ·コーラ ボトラーズジャパン
  43. 第44回 ビジネスに寄り添う住友商事法務部 - 社会とともに成長する
  44. 第45回 ワンチームで事業を支え経営課題に感度高く対応する三井物産法務部
  45. 第46回 オリンパス法務 グローバルかつサステナブルな組織運営のあり方
  46. 第47回 事業に寄り添うキリンホールディングス法務部 – グループ約200社を支援
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