企業法務の地平線

第16回 懐深く、信頼して任せる風土 - 丸紅 地球規模のフィールドで経験を積み、個々の能力を伸ばす

法務部

シリーズ一覧全40件

  1. 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド 
  2. 第2回 「インハウス・ロイヤー」という選択肢 - 日本にとってCLOは必要なのか?
  3. 第3回 世界を股にかけた法務パーソン、国際ビジネスの現場で見えたもの
  4. 第4回 変わるワークスタイルと変わらぬ信念
  5. 第5回 会社の「誠実」を担う法務の姿 – 双日
  6. 第6回 300人体制を築くメガ法務の役目 - パナソニック
  7. 第7回 米国発のルールを日本に浸透させていく、アドビ法務・政府渉外本部の役割
  8. 第8回 マイクロソフトが実践するダイバーシティ戦略
  9. 第9回 法務畑を歩み続けたユニリーバ北島氏が考える、法務の役割と今後の課題
  10. 第10回 人と組織の成長を創造するプロアクティブな法務 - パーソルホールディングス
  11. 第11回 少数精鋭でチャレンジングな法務 - アサヒグループ
  12. 第12回 法律が追いつかないゲーム業界に求められるスピーディな体制構築術 - グリー
  13. 第13回 「1つの特許で生きるか死ぬか」、経営に直結する法務が見据えるグローバル化 - 田辺三菱製薬
  14. 第14回 たばこの概念を覆した「IQOS」で煙のない社会を目指す - フィリップ モリス
  15. 第15回 舞台はグローバル、事業に深くコミットする商社法務 - 三菱商事
  16. 第16回 懐深く、信頼して任せる風土 - 丸紅
  17. 第17回 経営の視点と専門性を持った法務人材を輩出する - キヤノン
  18. 第18回 「多様性」のある組織こそ、強みを生む - ソニー
  19. 第19回 一人ひとりが知財責任者としてのマインドを持つ - メルカリリーガルグループが実践する事業への関わり方
  20. 第20回 「使って初めて価値が出る」、ミッション・バリューを自らの言葉に「翻訳」して実践 - ユーザベース
  21. 第21回 「ポケモン」を支えるプロデューサーとしての法務 - 株式会社ポケモン
  22. 第22回 事業への情熱をもとに担当者をアサイン - DeNA
  23. 第23回 グローバルへと進化するために、働き方改革を推し進める法務組織 - 電通
  24. 第24回 プロジェクトチームの一員として、グローバルで多様なビジネスに並走する - アクセンチュア
  25. 第25回 事業部と一体となり、新規事業領域へチャレンジ – キリンホールディングス
  26. 第26回 合併を経て進化を続けるビジネスパートナーとしての法務 ―コカ・コーラ ボトラーズジャパン
  27. 第27回 活発なM&Aを支える法務組織とその柔軟な働き方 - 富士フイルム
  28. 第28回 契約書を作るだけではない、グローバルな成長に貢献するビジネスコンサルタントとしての法務 – 味の素
  29. 第29回 ウィズコロナ時代に問われる法務部門の組織運営 鍵はリーガルテックの積極活用 – 太陽誘電
  30. 第30回 テレワーク下の法務業務は「依頼者ファースト」のITツール活用で対応 - サイボウズ
  31. 第31回 アフターコロナになっても変わらない、法務のあるべき姿 - パーソルグループ
  32. 第32回 グローバル企業における法務業務とリーガルテック導入事例 勝機はスモールスタートにあり - 日揮グループ
  33. 第33回 急成長するベンチャーを支える「企業法務」の役割とは - GAテクノロジーズ
  34. 第34回 全ては事業の成長のために。ありのまま採用と価値観の共有化を通じて作り上げる熱い組織 - Visional
  35. 第35回 新規事業をサポートするインハウスロイヤーたち - あおぞら銀行のスタートアップサポートチームが生み出す価値とは
  36. 第36回 アクセンチュア法務が高い付加価値を生み出せる理由 オフショア化で契約業務を6割削減
  37. 第37回 大手法律事務所で専門性を極め「自分をアップデート」する環境を求めて – メドレー
  38. 第38回 「世界一幸せな法務」というビジョンを掲げ、事業を通じた社会課題の解決を目指す - LIFULL
  39. 第39回 強固な組織体制のもとで専門性の高いメンバーがイノベーションに貢献 - 日本アイ・ビー・エム
  40. 第40回 丸紅法務部の挑戦と変革 − 精鋭のメンバーがさらなる価値創出にコミットするために
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目次

  1. 70名体制で事業に深くコミットする丸紅法務部
  2. 世界を舞台に経験できる多様な業務、チャンスは分け隔てなく与えられる
  3. 若手の時から積極的に任せる丸紅の伝統的文化
  4. 変化するビジネスに対して、知恵をしぼる

企業活動がグローバル化、複雑化する中で法務部門に求められる役割にも変化が見られます。これからの時代に求められる法務部門のあるべき姿とはどのようなものなのでしょうか。各社の法務部へお話を伺い、その姿を探ります。

今回は、丸紅株式会社の法務部に取材しました。同社は、国内外のネットワークを通じて、食料、生活産業、素材、エネルギー・金属、電力・プラント、輸送機その他の広範な分野で、外国間取引を含む輸出入および国内取引の他、各種サービス業務、内外事業投資や資源開発などの事業活動を多角的に展開しています。

法務部長の有泉 浩一氏、法務部副部長の上田 晴康氏、総務企画課の河野 祐一氏、法務第二課課長の乾山 啓明氏、同じく法務第二課の林 映理子氏、法務第一課兼第三課の東條 康一氏にご登場いただきます。「丸紅スピリット」の「大きな志で未来を築け」「挑戦者たれ」を現場で実践されているお話を伺いました。

70名体制で事業に深くコミットする丸紅法務部

法務部の体制と役割について、教えてください。

有泉氏:
当社法務部は1974年に創部、東京本社には現在約45名います。海外出向者、海外拠点の現地採用スタッフを合わせると、約70名になります。弁護士資格者は、受入出向者を含めて、10名前後いて、日本と海外の資格をダブルで取得した者、ニューヨーク州の資格や中国の資格を有する者もいます。

法務部は、総務企画課・法務第一課・第二課・第三課・第四課の5課の組織体制になっています。当社は6つのビジネスグループ(食料、生活産業、素材、エネルギー・金属、電力・プラント、輸送機)があって、たとえば法務第一課はエネルギー・金属グループと輸送機グループというように、各法務課が特定のビジネスグループ、事業本部を担当しています。

法務課の業務はいわゆる取引法務で、重要案件の審査、契約のチェック、訴訟の仲裁の管理、担保、債権回収など、幅広い取引法務を担当しています。総務企画課は、法務戦略・施策の企画、コーポレートガバナンス、株主総会・取締役会という機関に関する事務局業務、社内規程の管理、知財など、内部のアドミニストレーション全般を管理しています。

組織図イメージ

社内のコンプライアンス体制整備についても法務部で担当されているのでしょうか。

有泉氏:
もともと法務部の中にコンプライアンス全般を担当するセクションがあったのですが、2014年にコンプライアンス統括部として別の組織になりました。特に海外の贈収賄防止、あるいは最近よくニュースになるカルテル、競争法といった当社として重要なコンプライアンス事項に対応するため、別の組織で対応すべきだという経営判断がありました。
私が初代部長を務めましたが、コンプライアンス統括部は、社内のコンプライアンスマニュアルの維持管理、グループ会社を含めた社員向けの研修業務、あるいは重要な取引に関する一定のコンプライアンスチェックというスクリーニングを担当しています。

上田氏:
法務部とコンプライアンス統括部は業務内容の点でも人材交流の点でも関係が深いので、引き続き2つの部の間で連携していこうと考えています。1つのプロジェクトをやるにあたっても、コンプライアンスの問題は必ず出てきます。契約内容・条件も含めて、色々なリーガルイシューが出てきますので、そこは引き続き協力体制をとっていきます。

コンプライアンス統括部は法務部の別組織として独立した当初は、いわゆる贈収賄防止、競争法対応がメインだったのですが、トレードコンプライアンスもコンプライアンスの一環ということで、約2年前に貿易管理部を統合して、コンプライアンス全般をマネージすることになりました。

有泉氏:
イラン制裁や北朝鮮制裁という非常に重要な問題がありますから、そういった部分もコンプライアンス統括部で対応しています。

法務部と事業部はどのような関わりを持ってプロジェクトを進めるのでしょうか。

東條氏:
M&Aの案件などはかなり初期の段階からコミットします。
通常M&Aの場合、最初にNDA(秘密保持契約)を締結して、情報をもらって、ある程度条件が固まると、MOA(基本合意書)を締結して、デューデリジェンスに進み、最終契約を交渉して締結することになります。当社の場合、最初のNDAの締結のところから法務部のチェックが入って関与しています。

外部弁護士とはどのように役割分担されているのでしょうか。

東條氏:
どのタイミングから適切な弁護士を選定・起用するか、という点について最近非常に重視しています。デューデリジェンスは、もちろん外部の法律事務所に依頼して実施していきます。法務部の役割は、デューデリジェンスがきちんとできているかをチェックするところが大きいです。

最終の契約交渉のドラフティング自体は外部弁護士にお願いしますが、当社独自のリスク評価として受けられる条件・受けられない条件というものがあるため、その観点から契約書の内容を確認します。

外部弁護士を新しく開拓することはありますか。

有泉氏:
国内外含めて多種多様な事務所がありますし、弁護士の法律事務所間の異動もあるので、固定するのは不可能ですね。我々としては、営業から上がってくる案件ごとに、適材適所の弁護士を選定して、起用していかないといけません。そのためにも事務所や弁護士に対して積極的に注文や要望を伝えて、彼らの反応を見ています。

丸紅株式会社 法務第二課課長 乾山 啓明氏、法務部長 有泉 浩一氏

左から、丸紅株式会社 法務第二課課長 乾山 啓明氏、法務部長 有泉 浩一氏

世界を舞台に経験できる多様な業務、チャンスは分け隔てなく与えられる

今までのお仕事の中で印象深いエピソードを教えてください。

東條氏:
私は2006年に弁護士登録をして、日本の大手法律事務所で5年間働き、その後アメリカのロースクールに行って、インドの法律事務所に出向しました。もともと海外案件に興味があったのですが、インドでアジア関連法務の仕事をする中で、商社の法務の方がもっと面白い仕事ができそうだと思って、丸紅に転職しました。

法律事務所にいた頃は、コーポレートのチームに所属し、主にM&A案件を担当していましたが、実際会社に入ってみると、仕事のバリエーションがかなり豊富です。

事務所にいる時はデューデリジェンスをして、契約を締結したら、その後何が起きているかは知らないケースがほとんどでした。会社の場合は、買収した後が非常に重要で、ずっとお付き合いが続きます。そこのフェーズを見られるようになったことが、かなり新鮮でした。買収した後に自分が作った契約がどうやって機能して、どんな問題になっていくのかを目の当たりにできましたね。

具体的にはどんなケースがありましたか。

東條氏:
ちょうど転職した直後に担当したのですが、当社がアジアの会社を100%買収しました。買収した後に、税務関係の表明保証違反という、いわゆる契約違反が明らかになって、こじれて仲裁になった案件があります。

今までは、表明保証などの買収契約で作った条項が、契約締結後にどうやって機能するのかを見たことはありませんでした。実際に自分たちで表明保証違反を主張して、レターを出し合って、仲裁までやって、契約が機能する様子を見られたことが、非常に面白かったです。

法律事務所にいた時は表明保証違反のケースはなかったんですね。

東條氏:
法律事務所の場合は業務内容が細分化されていて、訴訟は訴訟チームが担当していたので、訴訟や仲裁を経験したことは全くありませんでした。それが実際に仲裁を経験してみると、非常に面白くて、やりがいがありました。

法務部の場合、特に紛争案件は自分たちでコントロールできます。たとえば税務関係の案件の場合、会計士や弁護士を雇って、意見書をとったり、当局に照会したり、仲裁の戦略を練ったり、ディスカバリー対応もしました。そういう全般的なコーディネートができるのが面白かったです。

海外の事業会社に関連する話だったので何度も現地へ行ったのですが、当社の事業会社の様子を肌で感じられて、興味深かったです。色々なフェーズを経験できて、様々な国にも行ける、そういう面白味があって、思い出深いです。

法務部では女性の方も活躍されているのでしょうか。

林氏:
法務部は、他部署に比べて女性が多くて、ママ同士のつながりも結構あります。

女性比率はどのぐらいですか。

河野氏:
大まかに、男性2に対して女性1です。

林氏:
多様なバックグラウンドを持っている方がいて、働きやすい環境です。私は子どもがいるのですが、バックグラウンドに関わらず、仕事を任せてもらえるので、とてもありがたいなと思っています。

お子様がいる方も働きやすい仕組みがあるのですか。

林氏:
皆がプロとして仕事をこなしつつ、ちゃんとバランスがとれて、各個人の長所を伸ばしていける仕組みになっています。出張の機会も与えられて、直近ではエジプトとシンガポールに行きました。分け隔てなくチャンスが与えられるのは、とても良いところです。

乾山氏:
法務第二課は、女性では、林を含めて3名、お子さんがいる方がいます。フレックス制度、時短制度もありますし、あと課の中でうまく仕事量をコントロールして、皆の仕事量を見ながら、最適に配分するように、フレキシブルに対応しています。

リモートワークもできるのですか。

河野氏:
当社では、ドキュメントデータの管理にはクラウドを利用していて、どんなデータも社外から同じように使えるようにはしています。もっとテクノロジーを使っていきたいなと思っています。

丸紅株式会社 法務第二課 林 映理子氏、法務部副部長(2018年4月1日よりコンプライアンス統括部長) 上田 晴康氏

左から、丸紅株式会社 法務第二課 林 映理子氏、法務部副部長(2018年4月1日よりコンプライアンス統括部長) 上田 晴康氏

若手の時から積極的に任せる丸紅の伝統的文化

丸紅の法務部はどのような特色があると思いますか。

有泉氏:
丸紅の法務部の特色は、やはり任せる、現場経験を積極的に積ませる風土ですね。私は1986年に入社して、すぐに法務部に配属されました。5年目にニューヨークのコロンビア大学に留学して、7年目に帰ってきました。7年目にカタールガスの開発案件で、非常に重要な契約書類の検討・交渉業務を任されて、課長のスーパーバイザーを受けながら1人でやっていました。あるいはイランの外貨資金繰りがひっぱくした時に、延滞するイランの債権を回収するプロジェクトがありました。各商社から代表団も出たような案件です。

そうやって若手に任せて、海外にも現場にも積極的に出して経験を積ませるということを、ずっと以前から積極的にやっていく風土があります。河野も、若い時に非常に大きな事業会社に出ました。

河野氏:
当時、丸紅の1回の投資としては投資金額が最も大きい、2700億円ほどの買収案件がありました。M&Aの最初のフェーズから、プロジェクトチームのメンバーとして法務事項を担当し、2年近くかけて契約がクローズした後「これは会社の大事な買収だからM&A成立後の統合もやって来い」と任せてもらいました。米国ネブラスカ州にある事業会社の本社に行って、法務の担当領域である訴訟、契約の管理、弁護士の管理という部分以外にコンプライアンス、監査、人事という部分でも2つの会社のつなぎ役をさせてもらいました。3年ほどいたのですが、得難い経験だったなと思います。

事業会社と本社の統合による事業のフィールドも地球規模で大きいですし、個人に与えられる仕事も大きかったです。自分から前向きにどんどんやっていくことによって、流れをつくることもできました。そこで得た経験は、東京に戻ってきてからも役立っています。現場と本社、法務とそれ以外の分野のバランス感覚を持って、仕事ができる感じがしますね。

若手にも挑戦させる社風は、伝統的なものですか。

上田氏:
伝統的だと思いますね。私は1991年に中途入社したのですが、本当に分け隔てなく処遇してもらいました。信頼してもらえれば、任せてもらえる文化があると思っています。個人的には、2000年代半ばのダイエーの再建に関与しました。ダイエー再建は当時の日本の産業再生政策の目玉であり、連日新聞報道もされましたから、背負っている感が非常にある(笑)。利害関係者もたくさんいましたし、乗り越えなければならないことも多かったのですが、法務面に関しては前面に出てやらせてもらいました。

法的問題は多岐にわたり、たとえば、丸紅が産業再生機構からダイエー株式を取得するにあたって、TOB(株式公開買い付け)が必要かどうかという論点がありました。当時はまだその論点について判例も確立していなかったのですが、当局に照会したり、学者の意見をとったりしながら進め、最終的に問題なく実行することができました。

上司に信頼してもらえれば任せてもらえ、担当として駆けずり回って、色々なことができる、丸紅法務部にはそういうカルチャーがあると思っています。おそらくそれは、部員の多くが共有していることではないでしょうか。

若手に任せることは、上司にとっては勇気がいると思います。

有泉氏:
我々が考える法務部の役割は、ビジネスの推進と、リスクの適正な管理です。担当者にはこの両面を理解してもらい任せますが、やや前のめりでビジネス推進へ向かおうとする時は、課長や部長がきちんと両方のバランスをとるという観点から、スーパーバイズしています。

上田氏:
担当者は、いくら任せてもらっていても、適切なタイミングできちんと上司に報告することが大事です。お互い信頼関係の上に成り立っているので、報告をすること、コミュニケーションをとることは、すごく大事ですよね。

有泉氏:
上に物が言いにくい風土があってはいけないので。当社にはないと、僕は信じているのだけど(笑)

法務のキャリアパスはどのようなものでしょうか。

乾山氏:
キャリアプランが描きやすいことと、ロールモデルがいることは丸紅法務部の良さだと考えています。私は1997年に新卒で入社して、法務部に約20年いますが、最初の10年間はローテーションで3つの課を経験しました。会社の留学制度を使って、ペンシルバニア大学ロースクールに留学もしました。留学後は、海外駐在を経験し、現在は課長としてマネージメントの経験を積んでいます。

基本的に、全員が海外の大学に留学するのですか。

有泉氏:
事情があってできない場合もありますが、ほぼ全員行かせるように考えています。ロースクールに限らず、ビジネストレーニーという形で海外に出て、2年間ほどのタームで実務研修をすることもあります。何らかの形で、海外の現場経験をしてもらうようにしています。

グローバルな志向を持っている方にとっては、チャレンジできる環境ですね。

河野氏:
過去10年を見ると、米国のロースクールに行く者が半数以上ですが、それ以外に、中国の大学や、オーストラリアのローファームに行くケースもありますし、当社の現地法人にビジネストレーニーとして行くこともあります。本人の希望に合わせて、我々も柔軟な選択肢を用意しています。

法務部に入るケースは、新卒採用、中途採用、他部署からの異動のいずれもありますか。

有泉氏:
基本的に、他部署から来ることはほぼありません。新卒は毎年1~2名採用しています。即戦力の観点から、ここ数年はキャリア採用で毎年少なくとも1名採用しようと努力していますが、簡単にはいきませんね。

東條氏:
僕は5年前に転職してきましたが、当社は非常に転職者が多いと感じました。中途採用者が多いので、馴染みやすい文化があります。プロパーの人が固まっている雰囲気はなくて、中途採用者もプロパーも混じっているので、非常に居心地が良い。転職する前は心配していたのですが、受け入れるためのしっかりとした土壌がある会社だと思います。

丸紅株式会社 総務企画課課長補佐 未来像タスクフォース 河野 祐一氏(写真左)

丸紅株式会社 総務企画課課長補佐 未来像タスクフォース 河野 祐一氏(写真左)

変化するビジネスに対して、知恵をしぼる

丸紅の法務部を志望している方へのメッセージをお願いします。

林氏:
私は弁護士資格を取った後、法律事務所に就職せずにそのまま入社したので、法律事務所との比較はできないのですが、自分のペースで能力を伸ばしていける面では、インハウスはすごく良いです。また、家庭とのバランスもとりやすい点で、特に女性にとっては、魅力的な環境なのではないでしょうか。

東條氏:
商社というのは、かなり投資案件も扱っていて、弁護士とも日常的に会っています。案件の性質も、弁護士業務とかなり親和性があります。あと当社のカルチャーとして、中途入社の方に対する抵抗が少なく分け隔てがありません。日本の弁護士として仕事をするより、世界中の案件ができます。

海外案件に興味があって、アクティブにやっていきたい方であれば、おそらくどなたでも楽しい仕事ができると思います。世界中の案件のプロジェクト、もしくは紛争系の仕事に興味がある方にとって、良い環境なのではないでしょうか。

乾山氏:
フィールドが世界中にあり、プラクティスエリアも非常に広いです。買収案件で支援するタイプもあれば、会社としてのリーガルリスクを管理する部分もあります。M&A案件、あるいは国際仲裁・訴訟と様々な案件に関われるので、弁護士事務所出身の方でも、他社の法務部出身の方でも、幅広く仕事ができるという意味で、非常に魅力があると思います。

河野氏:
本当に懐が深いですよね。フィールドもプラクティスエリアもそうですし。私は新卒で、ビジネス志向で入社しました。法務部ではありますが、ビジネスの中で仕事をさせてもらっていて、力を発揮していると考えています。今私が担当している業務では、グループ全体のガバナンスの仕組みを充実させたり、法務の分野で、グループ会社全体に通じる枠組み、コミュニティをつくったりといったシステムをデザインし、構築する作業もあって、とても面白いです。

会社も今ものすごい勢いで変わろうとしています。オールドエコノミーの典型例のように商社は言われますが、目指しているビジョンをつくる過程の中で、1人1人がそのプレイヤーとして今まで以上に重要になっていくと感じています。今後10年すごく面白い世界が待っているでしょう。そういうところに共感してもらえる方であれば、誰でも受け入れる懐の深さはあると思います。

有泉氏:
ビジネスモデルというか、会社の形がもう変わっていかざるを得ないですよね。法務のサポートやリスク管理の仕方も、それに応じてかなり変化していくでしょう。ビジネスの変化に対応するためにいかに知恵をしぼっていくかというところが、法務部員としての仕事の醍醐味の1つになってくるのではないかと思っています。

具体的にどう変わっていくと思いますか。

河野氏:
法務部でも発達していく技術をうまく使いこなして、業務プロセスの中で、判断の精度をもっと上げていくとか、時代の流れをうまく取り入れたいという気持ちはありますね。

また、当社のトレード分野においても、単純に需要と供給を結び付けて右から左に物を流すだけでなく、そこに技術の付加価値をつけたり、新たなもの・サービス・ノウハウを組み合わせることで、複雑化する市場の課題を解決するといったことが、起きています。法務部としてもビジネスの目指す先を見て、変化に即座に対応できる能力が求められている、というのはありますね。

東條氏:
商社のビジネス自体が変わらないといけないので、営業の方で、今まで全くやっていなかった新規ビジネスを考えています。色々試行錯誤しているので、法務部としてリーガルの観点からキャッチアップしていきたいですね。

たとえば、商社は伝統的にどちらかというとハードアセットへの投資が多かったですが、現状はソフトウェアや技術への投資といったソフト面への投資に関する検討が進んでいます。新規ビジネスは社内的にどう進めていけばいいのか、どう判断していけばいいのかノウハウがないので、そこをリーガルの観点からサポートしています。

有泉氏:
法務部の仕事に限ると、新しい技術の導入によって、AIなどに任せるポジションがあらわれると言われています。そうすると、省力化できた分を、高度な判断に充てるなどの余力が出てくるわけです。

弁護士事務所の仕事のやり方も変わっていくと思いますね。より高度な部分だけで弁護士を起用して、残りの部分はAIに任せるということもあるかもしれません。社内だけでなく、外部弁護士との仕事のやり方も、かなり工夫しながら変えていく必要性が出じてくると感じています。

当社では、事業環境の変化に対応し、自らを変革させていくための施策の一つとして、勤務時間の15%を、新規ビジネスの創造や業務改善等の活動に充てることができる「15%ルール」を導入しています。法務部でも、この「15%ルール」を積極的に活用して、業務の効率化・デジタル化に取り組んでいます。また、新規ビジネスの創造や、まだ法律が定まっていない分野における契約のスタンダードを作るといった、既存の枠組みを超える変革を実現していきたいと思います。

丸紅株式会社 法務第一課兼第三課 東條 康一氏(写真左)

丸紅株式会社 法務第一課兼第三課 東條 康一氏(写真左)

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)

会社概要
丸紅株式会社
所在地:東京都中央区日本橋二丁目7番1号
設立:1949年12月1日(創業1858年5月)
資本金:262,685,964,870円
代表者:代表取締役社長 國分 文也
従業員数:4,458名(単体)
※2018年3月現在(従業員数は2017年3月31日現在)


プロフィール
有泉 浩一(ありいずみ・こういち)
法務部長。1986年入社。法務部に配属され、各種取引、事業投資・M&A、債権回収、訴訟等さまざまな案件を経験。米国駐在、経営企画部、アブダビ商社推進室、コンプライアンス統括部などを経て、2015年4月より現職。1991年米国コロンビア大学ロースクールLL.M.取得。1998年から2002年まで、米国現地法人(在ニューヨーク)に出向。ニューヨーク州弁護士。

上田 晴康(うえだ・はるやす)
法務部副部長(2018年4月1日よりコンプライアンス統括部長)。1991年入社。

河野 祐一(こうの・ゆういち)
法務部総務企画課 課長補佐。未来像タスクフォース。
2000年入社。2009年米国南カリフォルニア大学ロースクールLL.M取得。2013年から2016年まで、米国出資先(在オマハ市)に出向。ニューヨーク州弁護士。

乾山 啓明(いぬやま・ひろあき)
法務部法務第二課課長。1997年入社。2003年米国ペンシルバニア大学ロースクールLL.M.取得。2010年から2015年まで米国現地法人(在ニューヨーク市)に駐在。ニューヨーク州弁護士。

林 映理子(はやし・えりこ)
法務部法務第二課。2009年入社。弁護士。

東條 康一(とうじょう・こういち)
法務部法務第一課兼第三課。2013年入社。2012年シカゴ大学ロースクールLL.M取得。2018年4月より米国現地法人(在ニューヨーク市)に駐在。弁護士・ニューヨーク州弁護士。

シリーズ一覧全40件

  1. 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド 
  2. 第2回 「インハウス・ロイヤー」という選択肢 - 日本にとってCLOは必要なのか?
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  24. 第24回 プロジェクトチームの一員として、グローバルで多様なビジネスに並走する - アクセンチュア
  25. 第25回 事業部と一体となり、新規事業領域へチャレンジ – キリンホールディングス
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  27. 第27回 活発なM&Aを支える法務組織とその柔軟な働き方 - 富士フイルム
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