企業法務の地平線
第11回 少数精鋭でチャレンジングな法務 - アサヒグループ 個々が力を発揮し、団結して世界No.1ブランドを目指す
法務部
シリーズ一覧全40件
- 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド
- 第2回 「インハウス・ロイヤー」という選択肢 - 日本にとってCLOは必要なのか?
- 第3回 世界を股にかけた法務パーソン、国際ビジネスの現場で見えたもの
- 第4回 変わるワークスタイルと変わらぬ信念
- 第5回 会社の「誠実」を担う法務の姿 – 双日
- 第6回 300人体制を築くメガ法務の役目 - パナソニック
- 第7回 米国発のルールを日本に浸透させていく、アドビ法務・政府渉外本部の役割
- 第8回 マイクロソフトが実践するダイバーシティ戦略
- 第9回 法務畑を歩み続けたユニリーバ北島氏が考える、法務の役割と今後の課題
- 第10回 人と組織の成長を創造するプロアクティブな法務 - パーソルホールディングス
- 第11回 少数精鋭でチャレンジングな法務 - アサヒグループ
- 第12回 法律が追いつかないゲーム業界に求められるスピーディな体制構築術 - グリー
- 第13回 「1つの特許で生きるか死ぬか」、経営に直結する法務が見据えるグローバル化 - 田辺三菱製薬
- 第14回 たばこの概念を覆した「IQOS」で煙のない社会を目指す - フィリップ モリス
- 第15回 舞台はグローバル、事業に深くコミットする商社法務 - 三菱商事
- 第16回 懐深く、信頼して任せる風土 - 丸紅
- 第17回 経営の視点と専門性を持った法務人材を輩出する - キヤノン
- 第18回 「多様性」のある組織こそ、強みを生む - ソニー
- 第19回 一人ひとりが知財責任者としてのマインドを持つ - メルカリリーガルグループが実践する事業への関わり方
- 第20回 「使って初めて価値が出る」、ミッション・バリューを自らの言葉に「翻訳」して実践 - ユーザベース
- 第21回 「ポケモン」を支えるプロデューサーとしての法務 - 株式会社ポケモン
- 第22回 事業への情熱をもとに担当者をアサイン - DeNA
- 第23回 グローバルへと進化するために、働き方改革を推し進める法務組織 - 電通
- 第24回 プロジェクトチームの一員として、グローバルで多様なビジネスに並走する - アクセンチュア
- 第25回 事業部と一体となり、新規事業領域へチャレンジ – キリンホールディングス
- 第26回 合併を経て進化を続けるビジネスパートナーとしての法務 ―コカ・コーラ ボトラーズジャパン
- 第27回 活発なM&Aを支える法務組織とその柔軟な働き方 - 富士フイルム
- 第28回 契約書を作るだけではない、グローバルな成長に貢献するビジネスコンサルタントとしての法務 – 味の素
- 第29回 ウィズコロナ時代に問われる法務部門の組織運営 鍵はリーガルテックの積極活用 – 太陽誘電
- 第30回 テレワーク下の法務業務は「依頼者ファースト」のITツール活用で対応 - サイボウズ
- 第31回 アフターコロナになっても変わらない、法務のあるべき姿 - パーソルグループ
- 第32回 グローバル企業における法務業務とリーガルテック導入事例 勝機はスモールスタートにあり - 日揮グループ
- 第33回 急成長するベンチャーを支える「企業法務」の役割とは - GAテクノロジーズ
- 第34回 全ては事業の成長のために。ありのまま採用と価値観の共有化を通じて作り上げる熱い組織 - Visional
- 第35回 新規事業をサポートするインハウスロイヤーたち - あおぞら銀行のスタートアップサポートチームが生み出す価値とは
- 第36回 アクセンチュア法務が高い付加価値を生み出せる理由 オフショア化で契約業務を6割削減
- 第37回 大手法律事務所で専門性を極め「自分をアップデート」する環境を求めて – メドレー
- 第38回 「世界一幸せな法務」というビジョンを掲げ、事業を通じた社会課題の解決を目指す - LIFULL
- 第39回 強固な組織体制のもとで専門性の高いメンバーがイノベーションに貢献 - 日本アイ・ビー・エム
- 第40回 丸紅法務部の挑戦と変革 − 精鋭のメンバーがさらなる価値創出にコミットするために
目次
企業活動がグローバル化、複雑化する中で法務部門に求められる役割にも変化が見られます。これからの時代に求められる法務部門のあるべき姿とはどのようなものなのでしょうか。各社の法務部へお話を伺い、その姿を探ります。
今回は、アサヒグループの法務担当計5名に取材しました。アサヒプロマネジメント株式会社から法務部 法務グループ グループリーダーの末永 秀隆氏、課長補佐の郭 松秀氏、副課長・弁護士の岩下 誠氏。アサヒビール株式会社から経営企画部 担当副部長の永島 康正氏、担当課長・弁護士の中谷 裕子氏にご登場いただきます。
国内外で事業買収を次々と実施し、大規模かつグローバルに展開しているアサヒグループ。グループ全体の法務体制はどうなっているのか。女性・外国人・弁護士の割合はどうか。法務に求められる能力とは――。一体感のある和気あいあいとした雰囲気の中、5名それぞれが仕事にやりがい・面白さを感じていることが伝わってきました。
組織横断的な法務の協力体制
グループ全体で法務は何名ですか。
末永氏:
国内は、グループ会社も含めて約20名です。海外を含めてグループ全体で約24,000名の社員がいる中、少数精鋭で行っています。海外拠点は、欧州・豪州・中国・東南アジアなどを含めて、総勢約40名。拠点ごとに、現地スタッフまたはインハウス・ロイヤーが数名ずついます。
組織体制はどうなっていますか。
末永氏:
アサヒグループホールディングスは、かつてのアサヒビールが商号変更・吸収分割をして設立したため、法務部門もアサヒビールの法務部が中心となり、両社の法務はほぼ一体の組織でした。その後、シェアードサービス会社であるアサヒプロマネジメントが設立されて、グループ各社から委託を受け、経理・財務、ITなどのコーポレート機能が移管されました。2017年4月にアサヒプロマネジメントがシェアードサービス機能だけでなく、グループ経営管理機能も担うことになり、アサヒグループホールディングスとアサヒビールの法務業務を受託しています。一方で、アサヒ飲料やアサヒグループ食品の法務業務は受託しておらず、結果として、少し変わった組織体制になっています。
組織改編によって、複雑な経緯を辿っているのですね。アサヒプロマネジメントの法務グループの役割分担を教えてください。
末永氏:
法務グループは、コンプライアンス推進チームと、会社法担当、国際法務担当、その他国内法務担当に大きく分かれています。コンプライアンス推進は、私を含む2名が担当していて、それ以外は、法務グループの他のメンバー10名が担当しています。コンプライアンス推進チーム以外は明確な線引きは難しいです。
アサヒビールの経営企画部は、どのような役割を担っていますか。
中谷氏:
事業会社のアサヒビールには、経営企画部に法務機能があり、法務担当である私と永島の2名がアサヒビールとその子会社をサポートしています。経営企画部は計18名で、財務・事業戦略・プロジェクトを進める3つのチームに分かれていて、プロジェクト単位でチーム編成を組んでいます。
アサヒプロマネジメントが、アサヒビールの通常業務から生じる契約審査等の法務業務を行っているので、アサヒビールの経営企画部では、同部が推進する事業戦略を法務面からサポートする役割とアサヒビールの国際法務を担当しています。
アサヒプロマネジメントとアサヒビールは、横断的に業務分担されているのですね。
永島氏:
事業会社のアサヒビールには「法務」の名を冠する独立の部署はなく、法務の機能は経営企画部に置かれています。アサヒビールを含む事業会社の国内法務はアサヒプロマネジメントがサポートしているので、私たちが携わっているのは主にアサヒビールの国際法務です。ビジネスの観点からは、ビールや洋酒、ワインなどの輸出入や、スーパードライの製造委託、ライセンス販売などを法的にサポートしています。
また、経営企画部という部署の性質上、酒類事業に関するM&Aや会社設立・清算に関する法的サポートが求められます。
それらとは別に、アサヒビールは酒類事業子会社の親会社として、酒類事業子会社のガバナンスやコンプライアンスに関連する業務も行っています。
中谷氏:
たとえば、なだ万やエノテカなどのM&A案件であればキックオフの時点から、ニッカウヰスキーなどのグループ内再編では、グループ会社と一緒にスキームとスケジュールを構築する段階から、事務局メンバー・チームメンバーとして加わっています。案件の初期段階から、今後生じるおそれのあるリスクや留意点をアドバイスすることが期待されています。
株主総会の運営はどうしているのでしょうか。
郭氏:
株主総会のシーズンになると、仕事の業務の区別なく皆でやる感じがあります(笑)。
かなりの人数の株主が来るのでは。
末永氏:
3,500名弱ぐらいですね。
岩下氏:
アサヒグループホールディングスは株主総会を3月に開催するのですが、招集通知を作るにあたっては、前年12月くらいから着手して、完成するのは2月の半ばくらいです。主に株式業務を担当しているのは私を含めて3人なのですが、ミスがあってはいけない仕事なので、読み合わせなど他のメンバーにも見てもらいつつ進めています。他には想定問答や当日の運営など、法務で一体となって臨んでいます。
ちなみに、ビール業界ならではの特殊な法律はあるのでしょうか。
中谷氏:
最近ですと、酒税法の改正や欧州との経済連携協定なども関心があります。
女性・外国人・弁護士、それぞれが活きる職場
女性も大変活躍している印象がありますが、女性の比率はどれくらいですか。
郭氏:
アサヒプロマネジメントの法務メンバー12名中、女性は4名で、全員子育て中です。3割以上という、他部署より高い比率です。法務の仕事は、能力と知識があれば、男女の区別なくとても働きやすい職種です。
アサヒグループは、ワークライフバランスをかなり重視しています。女性が働きやすいよう多種多様な制度が整備されていて、本人の希望次第で、柔軟な働き方ができます。私は、出産育児休暇・時短勤務・在宅勤務・フレックス勤務の全てを活用して、育児と仕事を両立させてもらっています。育児休暇を経て、皆が復帰してくる職場ですね。
郭さん以外にも外国籍の方はいますか。また、中国以外の業務も担当しているのでしょうか。
郭氏:
海外拠点ごとに現地スタッフが数名いますが、日本の本社ビルの法務では現状1人です。私は基本的に、海外の法務相談・契約書作成・コンプライアンス推進を担当していて、中国だけでなく、東南アジア・欧米関連の業務を担当する機会もあります。また、中国の弁護士資格を活かして、中国におけるグループ会社の法務担当者と密に連携を取って、定期的にコンプライアンス研修を共同で開催しています。
やりがいを感じるのはどのような場面ですか。
郭氏:
基本的に、地域を限定した仕事の配分ではないので、多様な側面で仕事ができます。細かいところであれば、個々の取引の契約書を作成したり、レビューしたりもしていますし、コンプライアンス面では、法規制対応のための全社横断的なプロジェクトに参加しています。色々な側面で仕事をすることができるので、それだけ勉強することもたくさん出てきますが(笑)、日々面白い仕事をさせてもらっています。
弁護士資格を持っている方は何名いるのでしょうか。
岩下氏:
アサヒプロマネジメントに郭さん(中国弁護士資格)と私ともう1名、アサヒビールに中谷さん、アサヒグループホールディングスに1名(現在アサヒヨーロッパに出向中)で、計5名在籍しています。現地にはインハウス・ロイヤーがいますが、本社関係は以上です。
実際に、資格が活かされる場面はありますか。
岩下氏:
JILA(日本組織内弁護士協会)の会合に積極的に参加していて、他社・他業種のインハウスの方と情報交換をする機会があります。弁護士であることで、他社の方とも話がしやすく、情報が集まりやすいと感じています。
社内では、自分が弁護士だとアピールすることはないですが、弁護士と言うと説得力が増すような気はします(笑)。
会社が社内弁護士に期待していることは何だと思いますか。
岩下氏:
期待されていることとしては、セミナー・研修への参加を通じた情報収集のほか、弁護士事務所と共同して案件に対応する場合には、「弁護士資格」という共通言語を活かした事務所と会社との橋渡し役があります。また、社内のクライアントに対しては、情報が集まりやすい・納得してもらいやすいという副次的な効果もあります。
多様な人材が集結し、1つの推進力になる
皆さんの経歴を聞かせてください。
末永氏:
1991年に当時のアサヒビールに入社して、財務部に配属されました。もともと数字に苦手意識があってメーカーに入ったのですが、配属されたのが財務部で(笑)、その後、工場の経理担当を経て営業所の経理部へ異動になりましたが、数字合わせに格闘する日々に、このままずっと経理担当なのかな、と違和感を感じていました。ところが、営業所の経理部で債権管理業務をしていると「法律は面白いな」と。法学部出身なので、担保設定や保証の取付けなど数字よりもやはり法律が面白く感じました。そこからビジネス実務法務検定1級を取得して、念願叶い、法務部に異動になりました。当時の法務部長にアピールしたことが良かったのかもしれません(笑)。
法務の方とお話をすると、昔と比べて「法務の立ち位置が変わりつつある」と言われることが多いですが、末永さんはどのように感じていますか。
末永氏:
当時、会社がようやく中国進出した頃でしたが、法務部は9名程度、まだ女性・外国人・弁護士がいる環境ではなかったですし、私が勤務してきた工場、営業所との業務上のつながりはほとんどなく、「難しいことをやっている地味な部」程度の認識しかされていませんでしたね。私が「法務へ行きたい」と言った時、周囲に「あんなところへ行きたいのか」と言われました(笑)。それが外部の人材が入って、法務やコンプライアンスの重要性が高まってきて、積極的に現場とかかわっていくようになり、本当にだいぶ変わりましたね。
永島さんと中谷さんの経歴も教えてください。
永島氏:
私はアサヒビールが4社目で、転職歴の多い人間です。2008年1月、アサヒビール(現アサヒグループホールディングス)に入社して、法務部に配属されました。約4年間、コンプライアンスを中心に株主総会や取締役会など、色々経験させてもらいました。前職が非上場会社だったので、上場会社の法務はこういうものかと、勉強になりました(笑)。それまで経験してきた会社では意思決定が閉鎖された空間で決まっていくのを目の当たりにしてきただけに、アサヒビールという大きな会社に来て、適正手続の重要性や関係部署への調整など、学ぶことが多かったです。
2011年に首都圏統括本部という営業本部に異動し、そこで営業社員との仕事を通じて、真のアサヒビールらしさに触れた気がします。飲みが好き、笑顔で元気、猪突猛進などのイメージですが(笑)、転職したような気持ちになりましたね。
本社の法務は敷居が高く、営業社員には相談しづらい部署のような気がします。それが営業社員と同じ環境で仕事をすると一転、色々な人が声をかけてくれるようになりました。「今度飲みに行こうか」って話にもなりますし(笑)。あと、現場だからこそできた体験としては、営業社員と一緒に取引先へ謝罪したことですね。1時間以上正座させられたこともあったり(笑)。そういう日々、営業社員が接しているリアルな状況を見聞きするだけではなく体験できたことは、面白くとても貴重だったと思います。
中谷氏:
前職は法律事務所で勤務していました。2011年9月にアサヒビールに入社してから現在に至るまで、経営企画部に籍を置いています。
入社直前にアサヒグループホールディングスとアサヒビールに持株化して分かれました。現在のアサヒビールは会社分割によりアサヒグループホールディングスから事業承継して設立されました。会社としては新しい会社ですので、取締役会や株主総会を運営するところから始まりました。会社分割後は、持株会社化後の調整事案がありましたので、そのような仕事をしていました。また、アサヒビールは総合酒類No.1を目指して事業拡大していますので、その事業戦略に向かって法務面からサポートしています。
法律事務所でもM&A等の仕事を経験しましたが、基本的に案件の開始・スキームが決まってから依頼が来て、案件が完了すると業務も終了することが多かったです。今は、案件立ち上げの背景もわかりながら、案件の初期の段階から参加でき、案件完了後もグループ会社の1つとして付き合いが続きます。事業のダイナミズムの中で案件を法務面からサポートできることがやりがいにつながっています。
岩下さんの経歴について教えてください。
岩下氏:
2010年の司法試験合格後、1年間の修習を経て、2012年1月にアサヒビールに入社しました。当時すでに持株会社化していたので、アサヒグループホールディングスの総務法務部門に出向する形になりました。その後、会社の組織の変更で、現在はアサヒプロマネジメントの法務部に在籍しています。
入社後約1年半は取締役会などコーポレート機能をメインに、通常の契約審査・コンプライアンスを担当しました。その後は株主総会関係をメインに担当しています。ビール会社は12月決算なので、3月の株主総会を目標に、その3か月~半年前から準備をして臨みます。
法律事務所ではなく、インハウスを選んだきっかけは何ですか。
岩下氏:
初めからインハウス志望ということではありませんでしたが、もともと会社周りのことがしたいという気持ちはありました。アサヒビールに入社したのは、父親がスーパードライを愛飲していたので、良い会社だと思っていたことが大きいです(笑)。会社が好きでないと、なかなか続かないですから。
郭さんはいかがでしょうか。
郭氏:
中国では、公務員をしていました。2001年に来日して、まず日本語を勉強し、大学院で法律を専攻、法律事務所と電機メーカーに勤務しました。2004年に中国の弁護士資格を取得し、2009年アサヒビールに入社して今に至ります。育児休暇を1年半以上取得しましたが、入社以来、海外法務の仕事に専念していて、海外のコンプライアンスの推進・国際法務・契約相談などを担当しています。
アサヒビールに入ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
郭氏:
アサヒビールがグローバルに展開していくと知り、国際法務で力を発揮できると思って応募したのがきっかけです。
自ら育つ意識を持ち、チャンスを掴んでほしい
現在の採用方針と今後の見通しについて教えてください。
末永氏:
現状、当社は新入社員を法務に配属していません。新入社員も含めて多様な人材を迎え入れたいところですが、少数精鋭で業務を行わざるを得ない状況の中、事業拡大は進んでいるので中途採用に頼らざるを得ない状況です。
中途採用ということであれば、当然一定の法務の素養がある方、できれば事業会社における経験がある方が望ましいです。弁護士資格がなくても構いません。また、グローバル企業として発展していこうとしているので、英語力は必須です。
将来的には、海外グループ会社の駐在や、経営企画などのグループ全体を見られる部署を経験してほしいです。そのうえで法務に戻ってきて、より広い視野、高い視点から法務事案に対処してほしいと思っています。
英語力は人それぞれだと思いますが、業務で使用する場面は多いですか。
末永氏:
国際法務担当は当然英語を使用する場面がほとんどです。国内法務担当であっても、この1年の急速な海外展開に伴い英文の契約審査を担当する機会が増えてきているのではないでしょうか。今後は海外の法務担当者とのパイプを作っていきたいという思いがあります。私の構想では、交換留学制度ではないですが、日本の法務担当者と各国にいる現地法務スタッフと1年間くらい交換して、日本の法務担当者には現地で仕事をして、現地法務スタッフには日本で仕事をして、お互いの国の仕事の仕方等に触れたりして、それぞれ視野を広げて欲しいです。1年間という期間が無理なら短期間でも派遣したいですね。当部で英語が本当に堪能なのは数名という状況です。本当は部員全員が国際法務を担当できるようにしていきたいのですが、やむを得ず現状は担当する人間が固定されており、交換や派遣どころの話ではありません(笑)。
ロースクール卒業生を今後採用していきたいという会社もありますがどのようにお考えですか。
末永氏:
今後当社が新卒採用することがあれば、そういう方にも来てほしいです。ロースクール卒業生であれば、一定の素養はお持ちでしょうから、資格の有無はあまり気にしません。
お話を聞いていると、法務部の中では、ジョインする時にかっちり何か「あなたの役割はこれね」みたいな感じではなく。割と自分の意思で、仕事をやっていけそうな環境ですね。
末永氏:
本当に大きな括りだけを設けているので、たとえば「何かをやりたい」と言ったら、手を挙げた人がそれをやれる環境です。株式まわりの業務などはすぐに抜けられないですが、並行して別のプロジェクトに出たければ「ぜひ頼む」という感じです。少数精鋭なので、チャンスは多いですね。
会社・ビジネス・人を深く理解し、目標・想いを共有する
若手の法務部員や法務を志す方へ向けて、メッセージをお願いします。
末永氏:
法務は、法律の条文への事実の当てはめをして結論を導けること、そして、その結論についてきちんと説明できることが大前提です。法務に来るなら、そこはまず押さえて能力を身につけてもらいたいです。
一方で、その結論・説明を聞いただけで周囲が納得して動くとは限りません。事業への理解と相手の求めるところへの理解があって初めて、相手と話し合うことができます。法務は当てはめ屋ではないので、コミュニケーションをしっかりとれる能力も持っておいてほしいです。
アサヒグループは、コンプライアンスを単に法令遵守ではなく、ステークホルダー(社会、投資家など)の期待を決して裏切らないことと定義しています。ステークホルダーの期待について理解したうえで初めて、会社として妥当と思われる結論を導き出せるのです。
プロフェッショナルであるために技術的な面を磨くことも大事ですが、それだけでは職人的、独善的に陥ってしまいます。ステークホルダーの期待感を感じ取れるよう社会情勢の変化・グローバルな動きを知ることや、幅広い目線を持って、新聞などをしっかり読む、そういうことも必要です。そして最後に、人間への深い理解も必要だと思いますね。
人間への深い理解、良いですね。法律の条文の文言だけではなく、人の気持ちにどう寄り添えるかですね。
末永氏:
相談してきた人に対して、突き返すだけではダメなので。一緒に解を探していく人であってほしいと思います。
中谷氏:
事業をよく知って、会社の状況をよく理解して、会社にとって何がベストかを真摯に考えることが大切だと思っています。
正解は1つではないので、その時点での会社の立場をよく理解し、自分の知識を総動員して、リスクを管理し、最適な方法を考えながら提案していくことが大事です。交渉は、相手の立場・利害関係を理解して、自分の会社の状況と照らし合わせて、事業側の人たちに、リスクを説明した上で、よく話をすることが大事だと思います。どこを譲って、どこを譲れないのかを見極めて、事業側の人たちと一緒になって会社にとって最適な道を見つけていくことが、法務の仕事だと思っています。
私は法律事務所から転職してきましたが、法律事務所と違って、1つの案件が生まれ、育っていくところに携われるのが、企業法務の醍醐味だと思います。会社の戦略や事業ビジョンに基づき、案件が立案され、実行され、そして運営されていく。こうした一連の流れを同じ想いを有するメンバーと実行できるので、非常にやりがいを感じます。現在法律事務所で勤務されている方々にも、インハウス・ロイヤーという道も選択肢に入れてほしいですね。
岩下氏:
アサヒグループは、欧州事業の買収などによって、海外売上比率も以前と比べてかなり大きくなってきています。今後はグローバル企業として発展していきたいと考えていますが、一方で、事業拡大に伴って国内外のコンプライアンスリスクも高まってきています。
それに対応するためには、法務力・語学力を有した法務人材が必要ですが、新入社員からこうした人材を育成していくのもなかなか難しい。そこで、今後は司法試験合格者やロースクール卒業生などの一定の法的素養を持った方々を企業が必要としてくるようになります。
私自身こういったルートで入社しているので、法曹の道を志す人たちにももっとビジネスの世界に入ってきてほしいと思っています。法律事務所に行くことが唯一の正解ではなく、会社に行くことも1つの選択肢としてあるはずです。
企業内法務は、ビジネスに直結し、関係者の数・金額など案件の規模も大きく非常にチャレンジングで面白い環境です。司法修習生・ロースクール生の皆さんも、ぜひ企業法務を志してほしいですね。
ビジネスに対する理解と人に対する理解については、会社をいかに良くしていきたいかという点で、皆考えていることは同じはずです。そこで自分の価値観を押し付けてしまうと、結局法務が疎ましがられる形になります。そこのバランス感覚というか、どうすれば会社の価値を高めていけるかを皆で考える。そういった方に来てほしいと思いますし、我々もそうならないといけないと思います。
(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)
アサヒプロマネジメント株式会社
本社所在地:東京都墨田区吾妻橋1-23-1
設立:2000年10月
資本金:5000万円
代表者:代表取締役社長 福田行孝
従業員数:305名
※2016年12月現在
アサヒビール株式会社
本社所在地:東京都墨田区吾妻橋1-23-1
設立:2010年8月
資本金:200億円
代表者:代表取締役社長 平野伸一
従業員数:3,184名
※2016年12月現在
プロフィール
末永 秀隆(すえなが・ひでたか)
アサヒプロマネジメント株式会社
法務部 法務グループ グループリーダー・弁理士
1991年、当時のアサヒビール(株)入社。財務部、資金部、福島工場、九州地区本部を経て、2005年より現職。
永島 康正(ながしま・やすまさ)
アサヒビール株式会社
経営企画本部 経営企画部 担当副部長
2008年入社。法務担当。総務法務部、首都圏統括本部総務部を経て、2016年9月より現職。
中谷 裕子(なかたに・ゆうこ)
アサヒビール株式会社
経営企画本部 経営企画部 担当課長・弁護士
2011年入社。法務担当。大手法律事務所を経て、2011年9月より現職。
郭 松秀(こう・そんしゅう)
アサヒプロマネジメント株式会社
法務部 法務グループ課長補佐・弁護士(中国資格)
2009年入社。国際法務担当。2009年より現職。
岩下 誠(いわした・まこと)
アサヒプロマネジメント株式会社
法務部 法務グループ 副課長・弁護士
2012年入社。会社法担当。2013年9月より現職。
シリーズ一覧全40件
- 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド
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