企業法務の地平線

第48回 「信頼こそ、私たちのアセットです。」大和アセットマネジメント法務コンプライアンス部が挑む企業価値向上の新しいアプローチ

法務部

シリーズ一覧全47件

  1. 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド
  2. 第2回 「インハウス・ロイヤー」という選択肢 - 日本にとってCLOは必要なのか?
  3. 第3回 世界を股にかけた法務パーソン、国際ビジネスの現場で見えたもの
  4. 第4回 変わるワークスタイルと変わらぬ信念
  5. 第5回 会社の「誠実」を担う法務の姿 – 双日
  6. 第6回 300人体制を築くメガ法務の役目 - パナソニック
  7. 第7回 米国発のルールを日本に浸透させていく、アドビ法務・政府渉外本部の役割
  8. 第8回 マイクロソフトが実践するダイバーシティ戦略
  9. 第9回 法務畑を歩み続けたユニリーバ北島氏が考える、法務の役割と今後の課題
  10. 第10回 人と組織の成長を創造するプロアクティブな法務 - パーソルホールディングス
  11. 第11回 少数精鋭でチャレンジングな法務 - アサヒグループ
  12. 第12回 法律が追いつかないゲーム業界に求められるスピーディな体制構築術 - グリー
  13. 第13回 「1つの特許で生きるか死ぬか」、経営に直結する法務が見据えるグローバル化 - 田辺三菱製薬
  14. 第14回 たばこの概念を覆した「IQOS」で煙のない社会を目指す - フィリップ モリス
  15. 第15回 舞台はグローバル、事業に深くコミットする商社法務 - 三菱商事
  16. 第16回 懐深く、信頼して任せる風土 - 丸紅
  17. 第17回 経営の視点と専門性を持った法務人材を輩出する - キヤノン
  18. 第18回 「多様性」のある組織こそ、強みを生む - ソニー
  19. 第19回 一人ひとりが知財責任者としてのマインドを持つ - メルカリリーガルグループが実践する事業への関わり方
  20. 第20回 「使って初めて価値が出る」、ミッション・バリューを自らの言葉に「翻訳」して実践 - ユーザベース
  21. 第21回 「ポケモン」を支えるプロデューサーとしての法務 - 株式会社ポケモン
  22. 第22回 事業への情熱をもとに担当者をアサイン - DeNA
  23. 第23回 グローバルへと進化するために、働き方改革を推し進める法務組織 - 電通
  24. 第24回 プロジェクトチームの一員として、グローバルで多様なビジネスに並走する - アクセンチュア
  25. 第25回 事業部と一体となり、新規事業領域へチャレンジ – キリンホールディングス
  26. 第26回 合併を経て進化を続けるビジネスパートナーとしての法務 ―コカ・コーラ ボトラーズジャパン
  27. 第27回 活発なM&Aを支える法務組織とその柔軟な働き方 - 富士フイルム
  28. 第28回 契約書を作るだけではない、グローバルな成長に貢献するビジネスコンサルタントとしての法務 – 味の素
  29. 第29回 ウィズコロナ時代に問われる法務部門の組織運営 鍵はリーガルテックの積極活用 – 太陽誘電
  30. 第30回 テレワーク下の法務業務は「依頼者ファースト」のITツール活用で対応 - サイボウズ
  31. 第31回 アフターコロナになっても変わらない、法務のあるべき姿 - パーソルグループ
  32. 第32回 グローバル企業における法務業務とリーガルテック導入事例 勝機はスモールスタートにあり - 日揮グループ
  33. 第33回 急成長するベンチャーを支える「企業法務」の役割とは - GAテクノロジーズ
  34. 第34回 全ては事業の成長のために。ありのまま採用と価値観の共有化を通じて作り上げる熱い組織 - Visional
  35. 第35回 新規事業をサポートするインハウスロイヤーたち - あおぞら銀行のスタートアップサポートチームが生み出す価値とは
  36. 第36回 アクセンチュア法務が高い付加価値を生み出せる理由 オフショア化で契約業務を6割削減
  37. 第38回 「世界一幸せな法務」というビジョンを掲げ、事業を通じた社会課題の解決を目指す - LIFULL
  38. 第42回 伊藤忠商事の法務だからできること - 営業部門と共に闘い成長する法務部
  39. 第39回 強固な組織体制のもとで専門性の高いメンバーがイノベーションに貢献 - 日本アイ・ビー・エム
  40. 第40回 丸紅法務部の挑戦と変革 − 精鋭のメンバーがさらなる価値創出にコミットするために
  41. 第41回 経営とともに変革するパナソニックグループの法務 - 総勢600名の “One Legal Team”
  42. 第43回 頼れるビジネス・ソリューション・パートナーを目指して - コカ·コーラ ボトラーズジャパン
  43. 第44回 ビジネスに寄り添う住友商事法務部 - 社会とともに成長する
  44. 第45回 ワンチームで事業を支え経営課題に感度高く対応する三井物産法務部
  45. 第46回 オリンパス法務 グローバルかつサステナブルな組織運営のあり方
  46. 第47回 事業に寄り添うキリンホールディングス法務部 – グループ約200社を支援
  47. 第48回 「信頼こそ、私たちのアセットです。」大和アセットマネジメント法務コンプライアンス部が挑む企業価値向上の新しいアプローチ
もっと見る 閉じる

目次

  1. 個の力を集結してチームで成果を出す
  2. 大和アセットマネジメントらしいコンプライアンスとは何か
  3. 「コモンセンスシート」と「コンプライアンス・スローガン」という独自の成果物
  4. 社外に向けても決意表明し、自らの襟を正す
  5. コンプライアンスが企業価値向上に貢献する未来へ

大和アセットマネジメント株式会社では、独自のアプローチで、企業価値向上のためのコンプライアンスを推進しています。その象徴ともいえるのが、社内外に発信している「信頼こそ、私たちのアセットです。」のスローガン。同社法務コンプライアンス部長の根布朋和氏、および家門紋氏、山中優誠氏、松浦将也氏の4名に、ここに至るまでの道のりと未来への展望などについてお話を聞きました。

個の力を集結してチームで成果を出す

まず、法務コンプライアンス部の組織体制の概要を教えてください。

根布氏:
法務コンプライアンス部は、下図のとおり審査課、企画課、インシデントデスクから成り、2025年11月時点で24名が所属しています。

大和アセットマネジメント株式会社 法務コンプライアンス部

根布氏:
まず、企画課は、新しいビジネス・商品の開発などをリーガル面から支援するほか、コンプライアンス・プログラムの企画・推進などを担っており、6名が所属しています。特に、ここ数年は「企業価値向上のためのコンプライアンス」に力を入れており、その具体的な取組みについては、ここにいる家門・山中・松浦から後ほど詳しく話してもらいましょう。
次に、16名と最も人数が多い審査課では、その名のとおり審査業務を一手に担っています。契約・広告・取引・海外現地法人対応の4チーム制を敷いており、たとえば広告審査チームでは年間1万件以上の審査をしています。
2025年4月に新設したインシデントデスクは、兼務を含め2名。社内で発生する事務ミスやヒヤリハットなどのインシデント相談の窓口担当として、その是正・再発防止を支援しています。もともと企画課で担っていた業務の一部を、インシデントデスクとして切り出したという経緯です。

企画課、審査課、インシデントデスクが連携することはありますか。

家門氏:
日常的に連携しています。たとえば、新規ビジネスや新商品の開発プロジェクトでは、まずは企画課が検討の初期段階から伴走し、いわば地ならしをしてから、契約や広告といった具体的な審査フェーズになった段階で、それまでの背景や論点を審査課に適宜引き継ぎます。審査課で扱っている案件の中で法解釈に新たな論点が出てくれば、企画課に相談が来ることもあります。
また、社内の事務ミス・ヒヤリハットの相談窓口はインシデントデスクで、事案の関係部署と連携して是正対応まで協働します。そのうち、当局への報告が必要な事案については企画課に連携します。連携された情報をもとに、当局への報告については企画課で対応します。

根布氏:
当社には、個の力を集結してチームで成果を出すことを重視する風土があると感じます。 私たち法務コンプライアンス部も同様で、相談案件には複数名で対応し、多角的な視点でより精度の高いアウトプットを実現できていると思いますし、企画課・審査課・インシデントデスクの間での連携も非常にスムーズです。

法務コンプライアンス部のメンバー構成や特徴を教えてください。

根布氏:
年齢層は20代から60代と幅広く、男女比は半々くらい。メンバーのバックグラウンドはさまざまですが、ざっくり分けると、新卒入社、大和証券からの転籍者、転職者が3分の1ずつくらいの割合だと思います。運用会社での実務経験が長いメンバーはもちろん、証券会社や信託銀行出身者、弁護士資格保有者や法律事務所からの出向者など、多岐にわたる経験を持つ多様な人材が集まっているのが特徴です。
今後もメンバーを増やしていきたいと考えており、経験者採用も強化していく予定です。

人員増強にあたって、求めるスキルセットや人物像があれば教えてください。

根布氏:
やはり金融業界での実務経験や知識があるに越したことはありませんが、それ以上に「先のことを想像できる力」を持つ人と一緒に働きたいですね。具体的には、未知の事態に直面したとき、1つの事象がどのように広がり、どんな影響を及ぼすのかを立体的に考えられる力。それが、これからの法務コンプライアンスには不可欠だと考えています。

根布 朋和 氏(法務コンプライアンス部長)

根布 朋和 氏(法務コンプライアンス部長)

大和アセットマネジメントらしいコンプライアンスとは何か

企画課を中心に「企業価値向上のためのコンプライアンス」に注力してきたそうですが、まずは、その背景やきっかけを教えてください。

家門氏:
一般的には、何か重大な問題が起きて、その再発防止策としてコンプライアンスを見直すというものがよくあるコンプライアンスのアプローチだと思います。しかし、私たちのスタートラインはそこではなく、もっと根底の部分からのアプローチ、すなわちコンプライアンスの面から当社らしい企業文化を醸成しようというものです。
その背景となったのは、いわゆる「オーバーコンプライアンス」がもたらす弊害への強い危機感です。ルールを守ることだけが目的化し、前例踏襲や減点主義が蔓延すると、社員のモチベーションは低下し、経営そのものが萎縮してしまいます。それでは、新しい価値を生み出すことなどできません。

山中氏:
「管理や監視」といったコンプライアンスのアプローチは、ネガティブなものになりがちです。その結果、現場ではコンプライアンスを意識するあまり、消極的になってしまうことがあります。私たちは、自信をもってチャレンジしていきたいと思っており、そのためには、コンプライアンスを正しく理解し、「できない理由」ではなく「できる方法」を模索するマインドセットへの転換が重要だと考えました。
また、私たち自身においても、現場との関わり方を見直す必要がありました。現場が困ったときに断片的な情報をもとに法務相談を受け、単に「お墨付き」を与えるだけでは不十分です。
より早い段階から案件に参画し、現場と共に「できる方法」を考え、一緒にビジネスを進めていきたいと思っていました。そのためには、私たち自身も事案への対応力を強化していかなければならないという課題意識もありました。

家門氏:
また、時を同じくして、これまで一般投資家のお客様が購入する投資信託をメインにビジネスを行ってきた当社が、資産運用立国プランの中で、プロ向けの投資信託のさらなる推進や投資顧問ビジネスの確立など、新規ビジネス・新商品へと業容を広げつつありました。それに伴い、リーガル面での支援がこれまで以上に強く要請されるようになったのです。
なお、当社では、コンプライアンスの実践を経営戦略と位置づけており、そのブランド戦略に関する企画・推進を、経営陣を巻き込んで行っています。経営層とは密にコミュニケーションをとっていますね。

家門 紋 氏(法務コンプライアンス部 企画課長)

家門 紋 氏(法務コンプライアンス部 企画課長)

そうした背景や課題意識を踏まえて、企画課として何から着手したのでしょうか。

山中氏:
より良いコンプライアンス体制を自ら構築していこうというポジティブな動機で、2022年度から本格的にコンプライアンス・プログラムを開始しました。まず目指したのは、第1線部署におけるリスクオーナーシップの確立です。「何かあったら法務に任せればいい」ではなく、社員1人ひとりが「自分たちの業務のリスクは自分たちで管理する」という当事者意識を持つ。そして私たちは、現場担当者が自律的に考え、行動するための伴走者になる。そのための信頼関係構築から始めました。
たとえば、各部の定例会議に陪席させてもらい普段どのような会話からビジネスが生まれているのかを肌で感じたり、現場部署とコミュニケーションの機会を増やして相互理解を深めたりと、地道なコミュニケーションを重ねました。当初は警戒されることもあったと思いますが、対話を続けるうちに信頼関係が生まれ、気軽に相談してもらえる環境が整っていったと感じています。
これに伴い、法務機能の拡充・強化も必要となるため、出向弁護士を受け入れるなどして対応していきました。

現場との対話を通じて、コンプライアンス・プログラムの次のステップは見えてきましたか?

山中氏:
はい。2023年度は、より大きなテーマとして「企業価値向上のためのコンプライアンスの推進」を掲げました。リスクオーナーシップを持って業務にあたるとは、突き詰めれば「企業理念を意識した行動をとること」と同義ではないか、と思い至ったのです。それがお客様からの信頼獲得につながり、ひいては企業価値が向上する。この考え方を全社員に浸透させるため、マインドセット研修に力を入れました。
具体的には、650名超(2023年12月現在)の全社員を対象に、「自社のビジョンやバリュー 1 を、自身の業務でどう実践しているか」をテーマに話し合う学習会を実施。さらに、ライン部長を対象としたワークショップ形式の研修も展開しました。普段はコンプライアンスについて真正面から話をすることはめったにないでしょうし、中には気恥ずかしく感じた人もいるかもしれません。そういう意味で、役職員にとっても良い機会になったと思います。
これらの取組みを通じて、「大和アセットマネジメントらしいコンプライアンスとは何か」を考えるための、貴重な「生の声」を集めることができました。

山中 優誠 氏(法務コンプライアンス部 企画課 次長)

山中 優誠 氏(法務コンプライアンス部 企画課 次長)

「コモンセンスシート」と「コンプライアンス・スローガン」という独自の成果物

2024年度以降のコンプライアンス・プログラムについて教えてください。

山中氏:
それまでに得られた意見をもとに、当社のコンプライアンスを形作るための実践的なステップに入ったのが2024年度です。①基本・原理原則に立ち返る、②大和アセットマネジメントらしいコンプライアンスの確立、という2つの柱を立てて、それぞれを成果物として結晶させました。
1つ目の柱「基本・原理原則に立ち返る」から生まれたのは、「コモンセンスシート」です。これは、当社の企業理念を起点に、投資運用業者として社会から求められる責任や遵守すべき法令諸規則の流れなどを可視化したものです。
新入社員や転職者等の人の出入りがあり、会社の構成員が変わっても、このコモンセンスシートを見れば、当社が必ず押さえておかなければならない基本や原理原則が一目でわかります。また、長く在籍している社員にとっては、振り返りに使えます。

コモンセンスシートのイメージ

コモンセンスシートのイメージ

※上図はコモンセンスシートを簡素化したイメージです。

コモンセンスシートは、どのようなフローや議論を経て完成したのでしょうか。

山中氏:
一筋縄ではいかず、まさしく練りに練って現在の形になりました。たとえば、金融庁の「顧客本位の業務運営に関する原則」や金融商品取引法の条文1つひとつの成り立ちや趣旨を文献で調べるところから始まり、条文の解釈や言葉の並べ方などについても、弁護士も交えつつ、企画課でさまざまな議論を重ねました。
その過程で、多くの文献を読んだり皆さんの意見を聞いたりしたことが、何より自分の学びになったと感じています。コモンセンスシートを社内に展開したところ、「図で体系立てて作成されていて言葉だけで書かれるより解りやすい」という声や、「書いてあることは当たり前だが、日々の業務で近視眼的になりがちなところ、俯瞰した目線の意識づけに良い」等、さまざまな嬉しい意見をいただくことができました。

松浦氏:
現在、このコモンセンスシートをさらに進化させる計画が進行中です。映画の公式サイトの登場人物相関図のように、各項目をクリックすると詳細な説明や関連規程へのリンクがポップアップで表示されるような、インタラクティブなツールへとアップデートする予定です。

一度作れば完成ではなく、さらに進化していくのですね。2024年度のもう1つの柱についても教えてください。

山中氏:
2つ目の柱「大和アセットマネジメントらしいコンプライアンスの確立」から生まれたのは、「信頼こそ、私たちのアセットです。」というコンプライアンス・スローガンです。
「当社らしさ」を言語化するにあたっては、社員が共感を持てる言葉でないといけないため、社員の「生の声」が必要不可欠でした。29名の部長・室長を対象としたグループワークや、当時の取締役・監査役全員へのヒアリングなどを通して、企画課で徐々に方向性を固めていったところ、「当社らしさ」として、大きく2つのカテゴリーが浮かび上がりました。1つは当社が持つ老舗企業としての堅実さや実直さ、もう1つは当社のビジョン・バリューにも掲げているチャレンジ・革新性という、一見すると相反するような2点であり、「当社らしいコンプライアンス」にはその二面性の両立・調和が求められていると考えました。この考えを踏まえ、外部のアドバイザーを起用して具体的なスローガンの候補を複数作成のうえ、役職員へのアンケートを経て決まったのが本スローガンです。
実は、外部アドバイザーと企画課としてもこのスローガンが一押しだったので、アンケートで社員から最も「共感できる」「自分事として捉えられる」との回答が得られたのは嬉しかったですね。皆が納得するスローガンといえるでしょう。

スローガンにはどのような思いが込められているのでしょうか。

松浦氏:
当社の社名にもある「アセット(資産)」という言葉が用いられており、ステークホルダーからの信頼の積み重ねこそが企業価値の源泉であるという強いメッセージが込められています。正解のない問題に直面して判断に迷ったときに、このスローガンを拠り所としてもらいたいですね。
また、スローガンに続くボディコピー 2 には、アンケートの自由記述コメントの要素がふんだんに盛り込まれています。アンケートでは、大勢の役職員から回答があり、しかも自由記述は読むのも苦労するほどのボリュームでした。そういう意味では、これまでのプロセスで得られたあり余る「生の声」からエッセンスを凝縮し、抽象化・体現した集大成ともいえるかもしれません。だからこそ、「私が言ったことが採用されている」「このフレーズはあの商品の開発プロジェクトのことでは?」などと、誰もが自分事として捉えやすい内容になっているはずです。

松浦 将也 氏(法務コンプライアンス部 企画課 課長代理)

松浦 将也 氏(法務コンプライアンス部 企画課 課長代理)

社外に向けても決意表明し、自らの襟を正す

2024年度の成果物であるコモンセンスシートとスローガンを、どのように展開していますか。

松浦氏:
2025年度は、コモンセンスシートとスローガンを社員にしっかり浸透させ、行動変容を促すフェーズと考えています。
スローガンの作成に尽力いただいた外部のアドバイザーと共に、スローガンを視覚的にデザインしたポスターを制作したのもその一環です。当社のコーポレートカラーを基調とした握手のイラストのビジュアルは、「信頼」という概念を直感的に伝えるデザインとなっています。
完成に合わせて開催した2025年8月の社内お披露目会には、リアルタイムで約280名もの社員が参加してくれました。また、各部にポスターを配布するとともに、会議室・役員室・共有スペースに掲示するなどして浸透を図っています。
社員からは「ポスター見たよ」と声をかけられることも増え、現場に浸透している手応えを感じています。地道な対話から始まった取組みが、少しずつですが、たしかな共感の輪として広がっています。

松浦氏:
また、10月にはプレスリリース 3 を通じて、コンプライアンス・スローガンをはじめとする私たちの決意を社外に発信したところです。

コンプライアンスの成果物を社外に向けて発信するというのは、強い意志を感じます。

根布氏:
コンプライアンスは社内の問題と捉えられがちですが、私たちはあえて社外に発信することにこだわりました。「社会に宣言してしまった手前、本気で取り組まざるを得ない」という、自らの襟を正す意味合いがあります。加えて、社会からの信頼を得るためには、私たちの姿勢を社会に表明しなければ信頼関係は築けない、という考えが根底にあります。

山中氏:
今回のコンプライアンス・プログラムの企画・推進にあたっては、2023年度から、渥美坂井法律事務所・外国法共同事業の三浦悠佑弁護士にもサポーター・ファシリテーターとして加わっていただいています。その三浦弁護士から、「プロのクオリティで作り、本気で社内外に発信すべき」との提案があったこと、そして当社の考えに共感していただけるアドバイザーを紹介いただけたことも、大きな後押しになったのは間違いありません。

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 三浦 悠佑弁護士より
今回の取組みを通して鮮烈に感じたのは、大和アセットマネジメントには、歴史ある運用会社として原理原則を大事にしながらも新しいことに果敢に挑戦するという、良い意味での二面性があるということです。そして、この2つを高いレベルで統合している点が同社のブランドの最大の強みだと思います。
本プロジェクトでも、コンプライアンスをする側(法務コンプライアンス部)/させられる側(現場部門)という対立関係が、「みんなでつくる」という形で統合され一体感が増していく様子を目の当たりにしました。誰かから与えられたセオリーに従うのではなく、自分たちの手であるべき姿を定義していく――いわば「コンプライアンスの民主化」ですね。その象徴が、今回のコンプライアンス・スローガンの策定・公表といえるのではないでしょうか。今後の取組みも楽しみです。

コンプライアンスが企業価値向上に貢献する未来へ

今後の展望についてお聞かせください。

家門氏:
当社は、投資家のお客様からの信頼の下、大事な資産をお預かりして運用しています。運用のプロとして広範な裁量が認められている一方で、責任は重大です。法務コンプライアンス部は、その責任を果たすうえで最後の砦ともいうべき役割を担っています。加えて、資産運用立国プラン実現の中で、私たち運用会社への社会的な注目は非常に高まっています。この追い風の中で、コンプライアンスに関する当社の一連の取組みが、業界全体の信頼性向上にもつながれば、これほど嬉しいことはありません。

根布氏:
私たちの取組みが社内に浸透し、その結果として、お客様や社会から「大和アセットマネジメントは信頼できる会社だから」と選んでいただけるようになること。コンプライアンスが、当社の企業価値向上に直接貢献できる存在になることが、私たちの大きな目標です。
将来的には、このスローガンに込められた精神が全役職員の無意識の行動にまで浸透していく。そんな未来を目指したいですね。

ありがとうございました。

プロフィール

根布 朋和 氏
法務コンプライアンス部長
1994年に大和証券株式会社に入社し、営業や引受業務を経験した後、経済産業省へ2年間出向。2017年に大和アセットマネジメント株式会社に転籍し、2017年財務部長、2023年リスクマネジメント部長を経て、2025年4月より現職。

家門 紋 氏
法務コンプライアンス部 企画課長
新卒で証券会社に入社し、法務・コンプライアンス、人事などを担当。2022年に大和アセットマネジメント株式会社に入社。「企業価値向上のためのコンプライアンス」の取組みを初期から推進する。

山中 優誠 氏
法務コンプライアンス部 企画課 次長
新卒で証券会社に入社し、約10年間にわたり営業支店の管理部門にてコンプライアンス業務に従事。2023年に大和アセットマネジメント株式会社に入社。

松浦 将也 氏
法務コンプライアンス部 企画課 課長代理
新卒で信託銀行に入社し、資産管理のバックオフィス業務や、事業統括の企画などを担当。2024年に大和アセットマネジメント株式会社に入社。

(文:周藤 瞳美、写真:岩田 伸久、取材・編集:BUSINESS LAWYERS編集部)


  1. ビジョンは、「All Challenges for All Investors」。バリューは、①革新を起こす、②論理的に考え行動する、③持続可能な社会に貢献する、④誠実であり続ける、⑤相手の立場に立って考える、⑥一致団結する。ビジョン・バリューの詳細は、大和アセットマネジメントのサイト「企業理念」をご参照ください(最終閲覧2025年12月8日)。 ↩︎

  2. ボディコピーの本文は、「コンプライアンス・スローガン」をご参照ください(最終閲覧2025年12月8日)。 ↩︎

  3. 2025年10月15日のプレスリリース「「コンプライアンス・スローガン」について」(最終閲覧2025年12月8日) ↩︎

シリーズ一覧全47件

  1. 第1回 花王株式会社 グローバル法務の根幹にある個人商店マインド
  2. 第2回 「インハウス・ロイヤー」という選択肢 - 日本にとってCLOは必要なのか?
  3. 第3回 世界を股にかけた法務パーソン、国際ビジネスの現場で見えたもの
  4. 第4回 変わるワークスタイルと変わらぬ信念
  5. 第5回 会社の「誠実」を担う法務の姿 – 双日
  6. 第6回 300人体制を築くメガ法務の役目 - パナソニック
  7. 第7回 米国発のルールを日本に浸透させていく、アドビ法務・政府渉外本部の役割
  8. 第8回 マイクロソフトが実践するダイバーシティ戦略
  9. 第9回 法務畑を歩み続けたユニリーバ北島氏が考える、法務の役割と今後の課題
  10. 第10回 人と組織の成長を創造するプロアクティブな法務 - パーソルホールディングス
  11. 第11回 少数精鋭でチャレンジングな法務 - アサヒグループ
  12. 第12回 法律が追いつかないゲーム業界に求められるスピーディな体制構築術 - グリー
  13. 第13回 「1つの特許で生きるか死ぬか」、経営に直結する法務が見据えるグローバル化 - 田辺三菱製薬
  14. 第14回 たばこの概念を覆した「IQOS」で煙のない社会を目指す - フィリップ モリス
  15. 第15回 舞台はグローバル、事業に深くコミットする商社法務 - 三菱商事
  16. 第16回 懐深く、信頼して任せる風土 - 丸紅
  17. 第17回 経営の視点と専門性を持った法務人材を輩出する - キヤノン
  18. 第18回 「多様性」のある組織こそ、強みを生む - ソニー
  19. 第19回 一人ひとりが知財責任者としてのマインドを持つ - メルカリリーガルグループが実践する事業への関わり方
  20. 第20回 「使って初めて価値が出る」、ミッション・バリューを自らの言葉に「翻訳」して実践 - ユーザベース
  21. 第21回 「ポケモン」を支えるプロデューサーとしての法務 - 株式会社ポケモン
  22. 第22回 事業への情熱をもとに担当者をアサイン - DeNA
  23. 第23回 グローバルへと進化するために、働き方改革を推し進める法務組織 - 電通
  24. 第24回 プロジェクトチームの一員として、グローバルで多様なビジネスに並走する - アクセンチュア
  25. 第25回 事業部と一体となり、新規事業領域へチャレンジ – キリンホールディングス
  26. 第26回 合併を経て進化を続けるビジネスパートナーとしての法務 ―コカ・コーラ ボトラーズジャパン
  27. 第27回 活発なM&Aを支える法務組織とその柔軟な働き方 - 富士フイルム
  28. 第28回 契約書を作るだけではない、グローバルな成長に貢献するビジネスコンサルタントとしての法務 – 味の素
  29. 第29回 ウィズコロナ時代に問われる法務部門の組織運営 鍵はリーガルテックの積極活用 – 太陽誘電
  30. 第30回 テレワーク下の法務業務は「依頼者ファースト」のITツール活用で対応 - サイボウズ
  31. 第31回 アフターコロナになっても変わらない、法務のあるべき姿 - パーソルグループ
  32. 第32回 グローバル企業における法務業務とリーガルテック導入事例 勝機はスモールスタートにあり - 日揮グループ
  33. 第33回 急成長するベンチャーを支える「企業法務」の役割とは - GAテクノロジーズ
  34. 第34回 全ては事業の成長のために。ありのまま採用と価値観の共有化を通じて作り上げる熱い組織 - Visional
  35. 第35回 新規事業をサポートするインハウスロイヤーたち - あおぞら銀行のスタートアップサポートチームが生み出す価値とは
  36. 第36回 アクセンチュア法務が高い付加価値を生み出せる理由 オフショア化で契約業務を6割削減
  37. 第38回 「世界一幸せな法務」というビジョンを掲げ、事業を通じた社会課題の解決を目指す - LIFULL
  38. 第42回 伊藤忠商事の法務だからできること - 営業部門と共に闘い成長する法務部
  39. 第39回 強固な組織体制のもとで専門性の高いメンバーがイノベーションに貢献 - 日本アイ・ビー・エム
  40. 第40回 丸紅法務部の挑戦と変革 − 精鋭のメンバーがさらなる価値創出にコミットするために
  41. 第41回 経営とともに変革するパナソニックグループの法務 - 総勢600名の “One Legal Team”
  42. 第43回 頼れるビジネス・ソリューション・パートナーを目指して - コカ·コーラ ボトラーズジャパン
  43. 第44回 ビジネスに寄り添う住友商事法務部 - 社会とともに成長する
  44. 第45回 ワンチームで事業を支え経営課題に感度高く対応する三井物産法務部
  45. 第46回 オリンパス法務 グローバルかつサステナブルな組織運営のあり方
  46. 第47回 事業に寄り添うキリンホールディングス法務部 – グループ約200社を支援
  47. 第48回 「信頼こそ、私たちのアセットです。」大和アセットマネジメント法務コンプライアンス部が挑む企業価値向上の新しいアプローチ
もっと見る 閉じる

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する