近時の不祥事ケースと危機管理・リスク予防

第12回 海外子会社で発生した不祥事事案における不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント

危機管理・内部統制

シリーズ一覧全16件

  1. 第1回 産業廃棄物の不法投棄事案から考える、不正の早期発見と調査のポイント
  2. 第2回 産業廃棄物の不法投棄事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント
  3. 第3回 土壌汚染に関連する不祥事事案から考える、不正の早期発見と調査のポイント
  4. 第4回 土壌汚染に関連する不祥事事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント
  5. 第5回 免震・制震製品のデータ偽装事案から考える、不正の早期発見と調査等のポイント
  6. 第6回 免震・制震製品のデータ偽装事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント
  7. 第7回 SNSによる不祥事事案から考える、不正発覚後の対応(初動対応・広報対応)のポイント
  8. 第8回 事例から考える、SNSによる不祥事を起こした従業員・役員への対応と予防のポイント
  9. 第9回 スポーツ界の不祥事事案から考える、スポーツ団体ガバナンスコードへの実務対応
  10. 第10回 建築基準法違反の設計・施工事案から考える、不正の早期発見と調査等のポイント
  11. 第11回 建築基準法違反の設計・施工事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント
  12. 第12回 海外子会社で発生した不祥事事案における不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント
  13. 第13回 不祥事予防に向けた取組事例集及びグループ・ガバナンス・システムに関する実務指針を踏まえた子会社買収後に留意すべきポイント
  14. 第14回 偽装請負の不正類型パターンと関連規制・罰則等のポイント(建設業、システムエンジニアリング等)
  15. 第15回 偽装請負の不正事案(建設業、システムエンジニアリング等)から考える、問題点と不正防止のポイント
  16. 第16回 スポーツ団体の不祥事事案から考える、行き過ぎた指導とパワハラの実務対応のポイント
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目次

  1. はじめに
  2. 具体的な不正類型の検討(海外子会社の不祥事)
  3. 不正の早期発見のポイント(発覚の端緒)
  4. 不正発覚後の調査のポイント(海外子会社の不正調査)
  5. 不正行為者・責任者・責任役員に対する対応のポイント
  6. 不正の原因分析・再発防止策検討のポイント
    1. 海外子会社における不正・不祥事の発生原因の特徴
    2. 海外子会社の不祥事を予防するための具体的な方策
  7. おわりに

はじめに

 これまでの連載に引き続き、具体的な不正・不祥事の一類型について、生じうる問題、事後対応、再発防止のための方策等を解説していきます。本稿では、日本取引所自主規制法人の「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」、「不祥事予防に向けた取組事例集」、経済産業省の「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」も踏まえて、海外の子会社における不祥事事案に関する実務のポイントを解説します。
 また、これと併せて、子会社買収後の内部統制において留意すべきポイントについても解説します。
 なお、本稿は特定の具体的な事案を紹介するものではなく、近時見られる複数の事案をもとにその問題点などを紹介するものです。また、すべての問題を網羅的に取り上げるものではないことにご留意ください。

具体的な不正類型の検討(海外子会社の不祥事)

 ここでは、主に、海外の子会社が売り上げを過大に計上していたケース、海外子会社の幹部が私的に会社の費用を流用していたケースなどを想定しています。
 なお、本連載第5回・第6回で紹介した免震・制震製品のデータ偽装の事案(建築用の免震・制震製品の性能評価データを改ざんするなどして、不正な申請書を提出することにより性能評価・大臣認定を受けたケース、大臣認定の内容に適合しない製品を製造・出荷していたケース)も子会社における不祥事が含まれるため、そちらも参照してください。

不正の早期発見のポイント(発覚の端緒)

 不祥事が外部から発覚した場合、必要な調査、マスコミ対応、再発防止策の策定等すべてについて後手に回らざるを得ないこととなってしまいます。
 これらの点については、本連載の第1回『産業廃棄物の不法投棄事案から考える、不正の早期発見と調査のポイント』、第5回『免震・制震製品のデータ偽装事案から考える、不正の早期発見と調査等のポイント』も参照してください。

 海外の子会社が売り上げを過大に計上していたケースで、匿名の内部告発メールが届いたものの、これをグローバルの親会社に報告せず秘密裏に処理していたところ、監査法人による監査で不正が発覚したという例があります。
 内部通報制度をより実効的にするための方策については、以下も参照してください。

不正発覚後の調査のポイント(海外子会社の不正調査)

 不正発覚後の調査のポイント(不正調査の実施体制、不正調査の調査手法、調査内容のポイント等)については、本連載の第1回『産業廃棄物の不法投棄事案から考える、不正の早期発見と調査のポイント』、第5回『免震・制震製品のデータ偽装事案から考える、不正の早期発見と調査等のポイント』を参照してください。
 海外の子会社における不正調査については、以下のような留意点があげられます。

  1. インタビュー・ヒアリングの困難さ
    • インタビュー対象者の使用言語が異なることにより、正確な事実関係を聴取し把握するために、表現の細かな違いまで理解できる通訳が必要となる。
    • インタビュー対象者が海外にいることにより、時差や費用等の理由により何度もインタビューできるとは限らない。
    • 一般的に、海外子会社の従業員は親会社に非協力的なことが多いと言われている。
  2. 海外の規制法への留意
    • 海外子会社の従業員が日本の窓口に通報する場合、通報者と被通報者(不正行為者)の個人情報(過去の懲戒履歴など)が海外の現地国から日本に移転することになるため、個人情報の第三者開示(国外移転・第三者提供)にあたる場合があるとされている。
    • その他、各国の内部通報規制、労働関連法等に違反しないように配慮が必要になる。

不正行為者・責任者・責任役員に対する対応のポイント

 不正を行った者等に対する刑事告訴・告発、責任役員に対する民事責任の追及(賠償請求)、懲戒処分等については、本連載の第2回『産業廃棄物の不法投棄事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント』も参照してください。
 海外の子会社が売り上げを過大に計上していたケースで、親会社の代表取締役らが退任、3か月分の報酬20%等の減俸がなされた例があります。
 また、免震製品のデータ偽装がなされたケースでは、当該製品の取引先関係者が、不正競争防止法違反の疑い(免震製品の性能が国の基準を満たしているとする虚偽の検査成績書を作成し、出荷先の建設会社に交付した疑い)で検察庁に対して告発をした例があります。
 不正が行われた会社(子会社)は不正競争防止法違反罪により罰金1,000万円が言い渡されています(枚方簡裁平成29年12月12日判決)。
 これに対し、不正が行われた会社(子会社)の役員、および親会社の役員については、不起訴となっています。

不正の原因分析・再発防止策検討のポイント

 再発防止策を策定するうえで重要なのは、不正に関する表面的・直接的な事実関係だけではなく、不正の行われた原因・背景の分析まで行うことです。特に、不正が大規模で組織的な場合や、経営陣や管理職の関与が大きい場合には、不正が行われるに至った背景として、当該企業のガバナンス、コンプライアンス、内部統制上の問題、企業風土等についても調査分析する必要があります。
 また、再発防止策の策定にあたっても、上記分析を踏まえて、実効的な対策を策定することが必要となります。
 再発防止策の検討に際しては、他社が公表している同種不祥事における調査報告書や再発防止策の内容も参考にすることが考えられます。

海外子会社における不正・不祥事の発生原因の特徴

 海外子会社における不正・不祥事の発生原因の特徴については、以下のようなポイントがあげられます。子会社という特殊性と海外という特殊性に分けて説明します。

(1)子会社という特殊性

① 子会社の内部統制に充てる人員・予算の不足

 子会社の内部統制のために必要な人員・予算を確保することは必ずしも容易ではありません。一般的に、コンプライアンス部門や法務部門については、予算や人員の配置が十分でないケースが見られ、子会社についてはなおさらこのことが当てはまります。また、子会社の役員は親会社のポストと兼任する場合が多く見られるため、子会社の業務・監査に時間が割けず、不十分なものになってしまうことがあります。

② 権限の集中(親会社が選任した代表者、出向者等)

 子会社では、親会社から選任された代表取締役、出向者などに権限が集中することが多い傾向があります。そのため、他の従業員や役員が不正に気付いた場合であっても、指摘・報告を行わないというケースも見受けられます。

③ 人事の硬直化(長期間にわたる滞留人事)

 子会社は人員を確保することが十分でないことも多いため人事ローテーションを行えない場合も見受けられます。特定のポストを特定の人物が占有し続ける結果として、当該ポストが聖域化され、当該人物以外に業務の適正さを判断できる人物がいなくなり、監視がはたらかなくなることがあります。

④ 親会社から出向した役員の暴走

 親会社から出向してきた者が、子会社に左遷されたことを根に持って不正を行うケースや、「業績を上げて親会社を見返したい」という動機の下で不正を行ってしまうケースもあります。

⑤ 親会社と子会社の意識のずれ

 親会社が利益至上主義に陥り、現場である子会社の意見に耳を傾けず、直面する問題を直視しないケースが見受けられます。特に、グループ内で業績が好調であり、グループ会社の売上げの中核を担っているような子会社では、その傾向が強く見られます。

⑥ 親会社からの物理的・心理的距離

 子会社と親会社に物理的距離があり、「子会社の問題は子会社で対応すること」とされるなど、広い裁量と権限が与えられている場合には、親会社との情報共有・コミュニケーションが不足し、不正を誘発する一因となることがあります。

(2)海外という特殊性

① 海外親会社によるモニタリングの困難さ

 海外子会社については特に、親会社と物理的距離があるため、親会社との人的交流は希薄になります。また、経営が海外子会社任せになる傾向も強まります。目が行き届きにくく、監視のためのリソースも足りないという傾向は、海外子会社においてさらに顕著となります。これに加えて言語の壁も存在します。

② 文化や法律・規制の違い

 海外子会社が所在する現地では許される行為であるが日本では許されない行為を行ってしまうというケースが見られます。また、適用される法令や規制が国ごとに異なり、その調査に費用と時間を要するため、海外グループ会社のコンプライアンス体制の整備が遅れる傾向にあります。

③ 海外拠点の一体感

 独立した海外拠点で培われた一体感により、不正が発覚しても、それが隠ぺいされてしまうことがあります。

④ 情報共有の困難さ

 海外子会社から情報伝達が円滑に行われないことがあり、情報共有が遅れることがあります。また、海外子会社との情報共有体制が不十分で、子会社で発生した問題が子会社で内々に処理され国内本社に報告されず、その結果問題の把握・対処が遅れてしまうケースもあります。

海外子会社の不祥事を予防するための具体的な方策

 海外子会社の不祥事を予防するための具体的な方策については、以下のようなポイントがあげられます。

① コンプライアンス教育・研修の充実

 特に、法規制や文化の異なる海外子会社の従業員・役員に対しては、何が不正にあたるのかを含めた十分な教育や研修が必要となります。子会社の内部統制のために必要な人員・予算を確保することは必ずしも容易ではありませんが、オンライン研修を行うなどの工夫が求められます。

② 子会社による内部統制の自己評価

 海外子会社は親会社との物理的距離があるため、子会社自身のコンプライアンス強化が最も有効であるとされています。子会社の内部統制を自己評価させ、コンプライアンスの浸透度を図ることが求められます。

③ 親会社による内部監査

 子会社の不正防止には親会社による内部監査が不可欠です(弁護士等の専門家と事前に十分な準備をしたうえで内部監査に臨むことも検討)。抜き打ちによる内部監査の実施や、内部監査の結果を研修にフィードバックすることなども重要となります。
 特にリスクが顕著な地域や業務領域に優先順位をつけて、重点的に監査すべき部門、子会社を選定することが重要です。人事が硬直化している子会社や部署、親会社事業との関連性が乏しい子会社、業績が好調な子会社などは、聖域化してしまう傾向にあるため、重点的な監査が必要となります。

④ 子会社の意思決定への関与

 親会社の役職員を子会社の兼務社外役員とすることにより、直接監督させるケースも多く見られます。また、子会社における重要な意思決定には本社の了解を求めることも行われています。

⑤ 情報共有体制・レポーティングラインの見直し

 子会社で不正の端緒が発見された場合、子会社内で完結させるのではなく親会社に情報共有する体制づくりが必要となります。
 すべての子会社をカバーする情報共有体制が確実に機能し、監査機能・監督機能が発揮される体制を適切に構築することが重要です(『上場会社における不祥事予防のプリンシプル』原則 5・解説 5−1参照)。

⑥ 内部通報制度の実効性確保

 内部通報制度の利用を促すために、特に海外においては、多数言語による通報システムの整備、時差に影響されないようメールによる通報システムの完備が重要となります。また、通報資格者についても、子会社の役員・従業員のみならず、グループ企業の社員、取引先の社員も含めることが考えられます。

 内部通報制度をより実効的にするための方策については、以下も参照してください。

おわりに

 以上、本稿においては、海外子会社での不祥事について、どのような問題が生じうるのか、不正発覚後どのような対応をする必要があるのか、不正の予防としてどのような方策があり得るのかなどを解説しました。
 この点に関し、2019年11月に「不祥事予防に向けた取組事例集」が公表されたほか、2019年6月に経済産業省から「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」が公表されています。

 次回は、海外子会社の不祥事対応に関して、上記事例集や実務指針の内容および子会社買収後の内部統制について留意すべきポイントについて解説します。

シリーズ一覧全16件

  1. 第1回 産業廃棄物の不法投棄事案から考える、不正の早期発見と調査のポイント
  2. 第2回 産業廃棄物の不法投棄事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント
  3. 第3回 土壌汚染に関連する不祥事事案から考える、不正の早期発見と調査のポイント
  4. 第4回 土壌汚染に関連する不祥事事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント
  5. 第5回 免震・制震製品のデータ偽装事案から考える、不正の早期発見と調査等のポイント
  6. 第6回 免震・制震製品のデータ偽装事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント
  7. 第7回 SNSによる不祥事事案から考える、不正発覚後の対応(初動対応・広報対応)のポイント
  8. 第8回 事例から考える、SNSによる不祥事を起こした従業員・役員への対応と予防のポイント
  9. 第9回 スポーツ界の不祥事事案から考える、スポーツ団体ガバナンスコードへの実務対応
  10. 第10回 建築基準法違反の設計・施工事案から考える、不正の早期発見と調査等のポイント
  11. 第11回 建築基準法違反の設計・施工事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント
  12. 第12回 海外子会社で発生した不祥事事案における不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント
  13. 第13回 不祥事予防に向けた取組事例集及びグループ・ガバナンス・システムに関する実務指針を踏まえた子会社買収後に留意すべきポイント
  14. 第14回 偽装請負の不正類型パターンと関連規制・罰則等のポイント(建設業、システムエンジニアリング等)
  15. 第15回 偽装請負の不正事案(建設業、システムエンジニアリング等)から考える、問題点と不正防止のポイント
  16. 第16回 スポーツ団体の不祥事事案から考える、行き過ぎた指導とパワハラの実務対応のポイント
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