サステイナビリティ時代に求められる企業の経営戦略

第11回 人権デューデリジェンスの実践(その2) - データ収集時におさえておくべき6つの視点と具体的方法、KPI設定のポイント

国際取引・海外進出
渡邉 純子弁護士 西村あさひ法律事務所

目次

  1. データ収集時におさえておくべき視点
  2. データ収集の具体的方法
  3. インディケーター(KPI)の設定

 今回は、前回の「人権デューデリジェンスの実践(その2) - スコーピング(調査範囲確定)の必要性と留意点」で解説した、調査対象範囲の確定作業(ステップ1)を経て確定した人権課題について、実際の負の影響の分析(ステップ3)を行うにあたって必要なデータの収集方法(ステップ2)について解説します。

データ収集時におさえておくべき視点

 SDGsの達成状況測定のためのデータ収集に関する、いわゆる「人権アプローチ」に関する国連高等人権弁務官事務所の解説によれば、以下の6つの視点が重要とされています。これらは人権デューデリジェンスを行うにあたっても必要不可欠な留意点とされます。

 今後人権デューデリジェンスの取組みを開始する企業においては、以下2で解説する具体的なデータ収集方法の選択・実施の際に、これらの視点がどの程度意識されているかを検討し、また、すでに取組みを開始している企業においても、以下の点を常に意識しながら必要に応じて実施方法の見直しを行うことが必要です。

  • 関連当事者の参加:関連するステークホルダーおよびライツホルダーをデータ収集のプロセスに関与させる

    実務上は、実際に権利侵害の対象となる、特に脆弱な個人またはグループ(具体的には以下参照)に特別な焦点を当て、これらの者の実際の声が人権デューデリジェンスに反映されるよう注意する必要があります。企業活動により最も重大な影響を受けるのは、多くの場合、最も脆弱性の高いステークホルダーとされるためです。

    ・女性
    ・子供
    ・先住民族
    ・障害者
    ・性的マイノリティ
    ・移民
    ・難民 等

    関連するステークホルダーおよびライツホルダーとのエンゲージメントは人権デューデリジェンスの全行程を通じて重要ですが、特に、人権に対する実際の負の影響を査定するためのデータ収集の段階(本稿で解説するステップ2)で重要になります(これらの者からのヒアリング等による調査が最も行われるべき段階であるため)

  • データの細分類化:集団全体としてのデータのみでなく、これを構成する各グループ(国際人権法上差別が禁止されている区分で、具体的には上述のような分類があり得ます)ごとにもデータを細分化し、比較検討する

    たとえば、ある工場の労働者の賃金の全体平均が生活賃金 1 を満たしていても、女性労働者のみの賃金平均を取り出した際に男性労働者よりも著しく低く、食料・住居その他の最低限の生活水準を満たせない額しか支払われていない場合には、当該女性労働者という特定のグループに着目して救済方法を検討する必要があります。

  • 自己決定:「Do no harm(害悪を及ぼさない)」というビジネスと人権の大原則に従い、データの収集プロセス自体がライツホルダーに負の影響を及ぼさないようにする

    ライツホルダーに対する面談等を通じて情報を得る場合に、これに応じるか否か、応じるとして匿名とするか否か、個別の質問に対する回答を行うか否かは各人の意思に委ねられる必要があります。

  • 透明性の確保:人権デューデリジェンスの目的、監査プロセス、監査方法を明確にする

    特にライツホルダーからのデータ収集時には、これらの点を説明して理解を得る必要があり、また、収集したデータも適切な形でライツホルダーに対して共有される必要があります(表現の自由の中核的要素を構成する情報アクセス権を確保するうえでも重要です)。

  • プライバシーの保護:収集したデータに関する各人のプライバシーを保護する

    人権デューデリジェンスの結果として公表される人権報告書等の資料から、データ収集時の特定の個人に関する情報が判別できないようにする必要があります。当該個人が人権侵害に関する事実を告げたことを理由に所属先の使用者や管理者から復讐を受ける可能性があるようなセンシティブな事案では、特に注意を払うことが重要です。

  • 責任:データ収集を行う者は収集したデータに関する責任に留意し、また、収集されたデータは人権に対する負の影響に対する企業の責任を検討するうえで使用される

    データの収集自体に関する責任に関しては、上記のプライバシーの保護の観点から特にセンシティブな情報をライツホルダーに負の影響を及ぼす形で公表しないことに留意する必要があります。

データ収集の具体的方法

 上記1の視点を踏まえたうえで、具体的に人権への負の影響評価にあたって必要な情報を収集する手法を解説します。人権デューデリジェンスに関連するハードローの導入が先行する海外の実務も含め、現時点で実務上多く利用されている主な方法を筆者なりに分類した結果は以下のとおりです。

 もっとも、このうちどれか1つの手法のみによって十分な人権デューデリジェンスが実施できるものではありません。むしろ、各手法の性質(メリット・デメリット)を理解したうえで、前回の「人権デューデリジェンスの実践(その2) - スコーピング(調査範囲確定)の必要性と留意点」で解説した優先順位付けの結果や、自社の業態、自社の人権デューデリジェンスの進捗状況等も踏まえて、状況にあわせて複数の手段を適切に組み合わせて実施することが求められます。

分類 性質・活用方法
セルフチェックリスト(Self-Assessment Questionnaire(SAQ))による確認 現状の人権尊重の状況や企業活動から生じる人権への負の影響の有無を、チェックリストを使用して確認し、また、取引先等の第三者については当該第三者自身に確認させる手法です。

もっとも、人権侵害の状況やその可能性については、性質上、本来的には、表面的なチェックリストによるチェック方式では十分な情報は得られないため(かつ、取引先等の第三者による確認では客観性も担保されないため)、多くの場合は、全人権課題の概要の理解や各社の重点確認項目を認識するための初期的な確認作業という位置付けとなります。

他方で、ステップ1の優先順位付けの結果、比較的低リスクと判断された事業や地域等については、簡易な方法であるSAQを主として活用することも考えられます。
内部資料のレビュー(人権方針や契約書等の文書審査) 各社の人権方針や関連する内部規則の有無とその内容、また各種契約書 2 等に、各社固有の人権リスクに応じた人権尊重義務がどの程度反映されているのかなど、国際人権法および各国の関連国内法により求められる人権基準とのギャップは何かといった点を確認します。

また、各種社内資料上、自社や取引先等が関係する人権への負の影響に関連する記述があるかという点も確認の対象となります。
公表情報のレビュー 取引先等の第三者に関する、信頼できる評価を記載した外部資料(メディアソースや評価機関・NGOの発表資料等)が存在する場合には、それらも確認対象とします。

また、多くの途上国でもスマートフォンが普及している現代では、ライツホルダーがSNS等に直接自己や他者に対する人権侵害に関する情報を書き込むこともあり、これらも調査の端緒として確認する意義があります。
社会監査の実施(現場調査/工場管理者等との面談) 社内のチームまたは外部の調査機関による社会監査(social audit)を指し、特に調査機関による社会監査は、多くの場合、(対象とする工場等の規模に応じて)1日または数日単位で実施されます。SAQによる確認や書類のレビューでは得られない現場の情報収集について(たとえば労働安全衛生等、現地調査が必須である人権課題に関して)特に有効なツールとなります。

もっとも、後述するとおり、調査方法や監査の性質上の限界は、人権デューデリジェンスの実務が進む海外では多く指摘されているところであり、特にハイリスクとされる事業や地域においては、伝統的な方法の監査では確認しづらい点に留意することが必要です。
ライツホルダーからのヒアリング 人権侵害に関する生の情報は通常十分に文書化されていないこと、また特に人権課題に関しては既存文書と実態が異なることを前提にすべきこと、SAQに加えて監査等のチェックリスト方式による確認にも制約が存在し得ることから、上記1で述べた「関連当事者の参加」を確保するために、ライツホルダーから直接情報を得る機会を十分に設けることは、データ収集の最も重要な手法といえます

特に面談を行う場合、センシティブな立場にあるライツホルダーに対する配慮が必要です。たとえば、以下などの様々な配慮・工夫が必要であり、第三者である外部専門家を交えて行うことも重要です。

  • 労働者の場合は管理者側を同席させずに面談を行う
  • 特に脆弱な立場にあるマイノリティに属する個人・グループに着目した人権課題の調査を行う場合には、マジョリティ側に属する者の同席を排除して行う
  • 心理的安全性を確保するために適切な人数を考慮して場の設定を行う
  • 面談場所はオンサイト(勤務場所)・オフサイトを使い分ける
  • 法律用語や「強制労働」等の言葉を使用せずに面談対象者の理解できる概念や方法を使用して対話を重ねる
関連するステークホルダーからのヒアリング 対象国・地域/業界ごとに具体的にどのような人権課題が存在し、どの程度のインパクトの問題が顕在化しやすいのかについて、現地の事情に最も精通している現地NGOや労働組合等からヒアリングを行うことも重要な手段の1つです。ライツホルダーから直接情報を収集することが難しい場合(特に後述するTier2サプライヤー等、自社と直接の情報チャネルが確立できていない場合)にも有効な手段となります。
グリーバンスメカニズム(苦情処理メカニズム)を通じた情報の受領 権利侵害の対象者から情報を吸い上げ、救済を実現するための苦情処理メカニズムを平時から策定しておくことは、人権デューデリジェンスの1つの要素として企業に求められる対応です(指導原則 3 29)。

日常的に、かつ、ライツホルダー側からの自発的意思により情報を吸い上げられるのが利点ですが、対話形式で情報を確認しなければ詳細な情報まで得られないことが多いため、事案によりその後の対話とセットで検討することが必要です。
その他、各地域等に応じてとり得る手法 ライツホルダーの生の声が最もよく集約されやすい媒体は、各国・地域ごとなどそれぞれの文化等に応じて異なります。現地の事情に精通しているNGOや労働組合その他の人権専門家とも協働して各場面に応じた手法を検討する必要があります。

 上記のうち、第三者による社会監査(social audit)については、ひと通りの人権課題を洗い出す端緒としては有効な手段となり得ます。もっとも、過去の実例を踏まえて海外で多く指摘がなされている一般的な監査の限界については、日本企業も認識しておく必要があり、特にリスクの高い事業や地域に関して十分な人権デューデリジェンスを実施するうえでは、監査はより詳細な調査を深掘りして行うための端緒として位置付け、上に列挙した他の手段と組み合わせた調査方法を検討することが推奨されます。

 過去の実例として、たとえば、米国税関・国境取締局(CBP)から強制労働の認定を受けて米国への製品輸入差止めを受けたマレーシアの大手ゴム手袋メーカー(上場企業)のTop Gloveは、以前、社会監査を28回受けていたにもかかわらず、当時強制労働を基礎付ける事実(パスポートの没収等)が発見されていなかったことが指摘されています 4。また、ビジネスと人権が大きく注目を集める契機ともなったバングラデシュのラナプラザ事件に関しても、工場が倒壊するわずか数か月前に、ドイツを本拠とする認証機関の社会監査の結果、工場の建築の質が良好と評価されていたことが報告されています 5

 遡れば、社会監査は、サプライチェーンがグローバル化した現代において、労働関連法令の執行に関する途上国政府のキャパシティが不足している状況を背景に、各企業が自社のレピュテーションリスクを回避するためのツールとして、自主的に民間の監査会社に対して海外のサプライヤーの工場の監視を委託するものであり、特に1990年代から多く利用されてきたという経緯があります。もっとも、政府による強制的な捜査と異なって調査の実施自体や改善に向けた強制力を欠くことに加え、過去の事例を踏まえると一般的には下記のような限界があることが欧米の多くの研究で指摘されています 6。上記のラナプラザ事件に関して、認証機関のTÜV Rheinlanが2016年にOECDのナショナル・コンタクト・ポイント(NCP)7 に訴えられた事案では、ドイツ政府も監査実務の改善の必要性を認めました 8

  • 依頼を行う企業によりスコープが限定され、最もリスクがある箇所がスコープから外れてしまう場合がある。
  • 基本的にはチェックボックスにチェックを付けるような方式で確認されるため、各地域またはケースに応じた調査がされにくい。また、途上国のインフォーマル経済の中では有用ではない。
  • 数日間の短期間の監査が多く、違法な長時間労働等の問題も隠し通すことが可能である(多くの監査に直面したTier1サプライヤーが監査の目を逃れるために下請けに出すといったことも行われがちである。また、監査の多くが工場を対象とするものの、工場勤務の労働者が管理者側から事前に発言内容をインプットされることもある)。
  • 社会的監査は、伝統的に人権アプローチ(上記1参照)を組み込んで発展してきた実務ではないため、十分なステークホルダーエンゲージメントが行われにくい等の不足があり得る。たとえば、(特に事前告知ありの監査の場合)監査を受ける側が恣意的に選定した労働者からしかインタビューができない場合や、セクシャルハラスメント等の差別が発見しづらい場合がある。
  • 報告の内容に関して、依頼企業から監査結果に対する厳しい確認が行われにくいこと、また、外部に公表されず第三者による確認も行われない(ライツホルダーにも結果が共有されない)ことから、調査の質が問われにくい。
  • 会計監査と比較すると、発見されなかったリスクに関して後々監査側の責任が問題となりにくい。また、依頼企業との関係から指摘事項が少ない方が好まれる場合もあり(自社のビジネス上に重大な人権課題が存在しないことの正当化のツールとして使用される事例も多い)、監査側としても調査の質を担保するインセンティブが働かない場合がある。
  • 長期的改善に関する働きかけまでは行われないことが多い。

 よって、伝統的な社会監査は1つの有効な診断ツールにはなるものの、特にリスクの高い領域については人権デューデリジェンスを包括的には代替し得ないことに注意する必要があります。同様に、監査機関の発行する認証も、これを取得したことのみで人権デューデリジェンスを実施したものと多くの企業が捉えることの問題点が指摘されています。この点を踏まえ、現在EUで審議中の人権デューデリジェンスに関する新指令でも、従前利用されてきた監査や認証の取得が推奨される等する場合には、監査機関の調査不足については事後的に法的責任が認められるような規制も導入すべきという議論もあるところです 9

Tier2以上のサプライヤー(直接契約関係のないビジネス上の関係先)における人権リスクをどのように特定し、情報を得るか

自社以外の第三者において発生しているまたは発生し得る人権侵害の状況も監査の対象としなければいけないことは、人権デューデリジェンスの最大の特徴の1つでもあります。第三者のうち、直接の契約関係にある取引先(Tier1サプライヤー等)の状況(たとえば当該サプライヤーの工場で強制労働が発生しているか)については、そもそも自社との取引契約により当該取引先自身が特定されていること、また、自社が当該取引先にとっての顧客等であるという関係上、必要な情報収集自体について苦慮することはそれほど想定されません。
これに対して、自社と直接契約関係のないビジネス上の関係先(Tier2サプライヤー等)については、そもそも、当該関係先がどこか特定できていないという場合も往々にしてあり(既存の加工・流通過程の管理スキームから把握できている場合もありますが、すべての場合に当てはまるわけではありません)、情報チャネルが非常に限定されてしまっているという問題があります(さらにいえば、必要な情報を得て人権リスクを特定した場合でも、その後の改善段階(ステップ4)において、自社が行使できる影響力に制約があるという問題もあります)。

一方で、サプライチェーンの上流に遡り、かつ、インフォーマル経済に近づくほど、人権侵害の温床となりやすいというジレンマが存在する中で、ハードロー化が先行する欧州各国でも、Tier2以上のサプライヤーの人権リスクにどれほど遡って対処できるかという点は今後の課題として認識されています。

サプライチェーン上の間接取引先を特定するテクノロジーやブロックチェーンの活用も注目を集め始めているところではありますが、現在のところ、既存の取引先も含めてこの問題に対処できる万能薬はなく、以下のような手法を組み合わせて対処することが必要です。
  • 直接契約関係のある各取引先と長期的な信頼関係を築いたうえで、間接取引先の情報(生産者単位の名称、所在地、現場管理者の連絡先、生産される物の分類、量、頻度、労働者数、直接取引先による人権リスク評価をしている場合にはその結果等)の開示を要請する。これには、直接の取引先との契約に、連鎖的な情報開示を要求するフローダウン条項(当該取引先の取引先との契約にも同様の条項を入れることを要請し、サプライチェーン上の連鎖的な情報開示を可能にするもの)等を規定することも含まれます。
  • この際、直接取引先の過度の負担を減らすために業界内で共通のテンプレートを作成することも検討する。
  • そのうえで、直接の取引先を介して、またはこれと協働してもしくは他企業等との共同の取組みを通じて、間接取引先に対する人権デューデリジェンスを実施する。また、グリーバンスメカニズムの利用者を間接取引先の労働者に拡大する。
  • このようにサプライチェーンの上流を辿るプロセスには時間を要することから、前回の「人権デューデリジェンスの実践(その2) - スコーピング(調査範囲確定)の必要性と留意点」で解説した優先順位付けのプロセスを通じ、より焦点を絞った調査を実施する。
  • サプライチェーンのコントロール・ポイントに位置する企業 10を特定し、当該企業による人権デューデリジェンスのプロセスを評価する。
  • 人権侵害がサプライチェーンの上流の特定の地域で蔓延していることが外部資料等から明らかであり、自社の使用する原材料が当該地域から調達されていることが判明していれば、サプライチェーン上の個々のサプライヤーの調査を経ずに、当該地域全体での人権への負の影響の軽減・防止策を実施する(ステップ4に移行)11

インディケーター(KPI)の設定

 本連載では、人権デューデリジェンスは、企業活動に関連する人権への負の影響を調査・特定、対処し、その後の改善状況をモニタリングして報告するプロセスそのものであることを説明してきましたが、その一連のプロセスを効果的に実行するためにインディケーター(指標)を設定することが必要とされます(指導原則20(a)・21コメント部分)。刻一刻と変化する人権侵害への対応状況を効果的に把握するため、遅くともデータ収集(本稿で解説するステップ2)の段階で、測定に使用するインディケーターを用いるかを決定しておくことが求められます。具体的なインディケーターの設定方法は、問題になる人権課題と具体的な状況ごとに異なり、また、以下の点に留意しつつ行います。

  • 関連する国際人権の内容を踏まえた内容にすることが必要です(その際、第9回「国際人権法の成り立ちと実務への適用 - 水に対する権利を題材に」で紹介した各条約機関の一般的意見や特別手続による報告、各国内・地域裁判所の判例が参考になります)。
  • 「人権アプローチ」、すなわち本稿1で解説したとおり、ライツホルダーの属性ごと(女性等)に「再分類化」したデータの収集に適合できるものとすることが必要です。
  • 定量的なインディケーターは人権デューデリジェンス実施の際の1つの有効なツールとなるものの、レッドフラグ(人権リスクが高い項目)を判定するための端緒やモニタリングの際の大まかな目安を提供するという意味合いも強く、人権リスクに関しては定性的な分析が常に必要となることに留意が必要です。
  • 1つの手法として、①方針(人権方針等関連する規定の策定状況)、②プロセス(企業により実際に投下された努力量)、③結果(人権への負の影響に対して及ぼしたインパクトの程度、②のプロセスの効果の程度)の3段階に着目したインディケーターを策定する方法があります。
  • たとえば、差別を受けない権利(世界人権宣言1条、2条、7条ほか)に関して、サプライチェーン上の労働者が有する差別を受けない権利を対象とする場合、以下などをインディケーターとして定めることが考えられます。

    ①当該サプライヤーにおいて国際人権の内容を反映した適切な内容の人権方針が策定されているか

    ②差別禁止に関する研修を受けた管理者および労働者の人数、構築したグリーバンスメカニズムを認識していると回答した労働者の人数、職場におけるマイノリティが実質的不利益を受けないような支援体制の構築に費やした費用(たとえば女性を対象とした各種研修の実施費用等)

    ③差別事案に関してグリーバンスメカニズムに実際に通報された件数およびそれに対して実施した対応内容

 以上、人権デューデリジェンスを行う際に必要となるデータ収集の方法の概要と留意点について説明しました。次回は、収集したデータに基づく人権への負の影響評価の方法(ステップ3)について解説します。

ステップ2のポイント
  • ライツホルダーを含む、関連するステークホルダーとのエンゲージメントを行う(ライツホルダーの関与はデータ収集の段階で最も重要。いわゆる「人権アプローチ」を意識する)。
  • 本稿2で紹介したデータ収集の各手法を、ステップ1の優先順位付けの結果や自社の業態、人権デューデリジェンスの進捗状況に合わせて、適切に組み合わせて選択・実施する。
  • 監査を行う場合には、特にリスクが高い領域については他の手段も組み合わせる。また、ライツホルダーとのエンゲージメントも十分に行うことを意識する。
  • 直接契約関係のある第三者に留まらず、間接的なビジネス上の関係先(Tier2サプライヤー等)からも情報収集を行うことの重要性も意識して着実に対応を進める。
  • 人権デューデリジェンスに関するインディケーター(指標)を調査対象とする人権課題ごとに策定し、データ収集時および以降のプロセスにおいて活用する。

  1. 各国国内法に基づく最低賃金ではなく、労働者の(またはその家族の)基本的ニーズを満たすために必要な最低賃金を指します。 ↩︎

  2. 具体的に確認すべき内容は、ステップ1で調査対象として確定した個別の人権課題の内容によりますが、たとえばサプライチェーン上の労務関係であれば、自社と取引先等の間の既存の契約内容、取引先とその労働者間の雇用契約等が考えられます。 ↩︎

  3. ビジネスと人権に関する指導原則」を指します。 ↩︎

  4. Peter Bengtsen「Clean Gloves, Dirty Practices: Debt Bondage in Malaysia’s Rubber Glove Industry」(THE DIPLOMAT、2019年11月22日) ↩︎

  5. ECCHR website「More for show than safety: Certificates in the textile industry」 ↩︎

  6. Genevieve LeBaron、Jane Lister、Peter Dauvergne「Governing Global Supply Chain Sustainability through the Ethical Audit Regime」(Globalizations、2017年4月7日)
    Jason Judd、Sarosh Kuruvilla「Why apparel brands’ efforts to police their supply chains aren’t working」(THE CONVERSATION、2020年4月30日)他多数 ↩︎

  7. OECD多国籍企業行動指針に基づき、当該指針に関する問題解決支援等の目的で、各国に設置される連絡窓口を指します。 ↩︎

  8. National Contact Point Germany「Final Statement of the German National Contact Point for the OECD Guidelines for Multinational Enterprises at the Federal Ministry for Economic Affairs and Energy」(2018年6月26日) ↩︎

  9. Business & Human Rights Resource Centre「Towards EU Mandatory Due Diligence Legislation: Perspectives from Business, Public Sector, Academia and Civil Society」(2020年11月)
    ・European Coalition for Corporate Justice(ECCJ)、European Center for Constitutional and Human Rights (ECCHR)、Initiative Lieferkettengesetz「Evidence-Based Law-Making: What Lessons Have We Learnt for an Effective Due Diligence Law?」
    ・Joseph Kibugu「The European Union’s Move Towards Mandatory Due Diligence: A Voice from East Africa」 ↩︎

  10. 自社より上流に位置するビジネス上の関係先に対して、より大きな可視性または影響力を有する可能性の高い企業を指します。当該企業が、当該企業より上流のサプライチェーンについて人権デューデリジェンスを実施していることが適切に確認できれば一定の安心感が得られるという発想に基づいており、コントロール・ポイントの具体的な特定は、サプライチェーンの末端に向けて作用する企業の影響力の大きさ等を考慮して行います。詳細は、OECD「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」69頁参照。 ↩︎

  11. OECD「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」68頁参照。 ↩︎

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