海外法Legal Update
第6回 2025年12月に押さえておくべき海外法の最新動向
国際取引・海外進出
シリーズ一覧全6件
目次
本稿では、2025年8⽉から2025年10⽉にかけて当事務所から紹介した、世界各国オフィスのクライアントアラートのうち、特に企業法務担当者のみなさまにおいて押さえておくべき重要なトピックについて、概要を取り上げます。
各トピックの詳細についてはリンクから当事務所のクライアントアラートをご参照ください。なお、情報がアップデートされている可能性もありますので、最新の情報について確認されたい場合や、記事のリンクからアクセスすることができない場合には、当事務所までお問い合わせください(問い合わせ窓口はこちら)。
吉田 武史弁護士、長谷川 匠弁護士、桒原 里枝弁護士、山内 理恵子弁護士、金子 周悟弁護士、佃 浩介弁護士、藤原 総一郎弁護士、河邉 美杉弁護士、村田 優果弁護士、山内 真実弁護士(以上、ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業))
米国
「大きく美しい1つの法案(One Big Beautiful Bill Act)」の成立
2025年7月4日、「大きく美しい1つの法案(One Big Beautiful Bill Act(OBBBA))」が成立しました。OBBBAは、大規模な減税と歳出削減、債務上限引き上げ、国境対策、エネルギー政策など、トランプ政権の主要公約を数多く盛り込んだ大型法案です。OBBBAには、様々な分野にわたる数百の規定が含まれますが、特に注目される主な柱は以下のとおりです。
- 減価償却、事業利息控除、税額控除、特定の所得に対する軽減税率など、米国税負担を軽減する新たな規定
- 税制改革法(Tax Cut and Jobs Act)の規定の延長を内容とする規定
- 国際課税に関する低税率国外無形資産所得(Global Intangible Law-Taxed Income)および国外無形資産所得(Foreign Derived Intangible Income)の各制度(現在はNet Controlled Foreign Corporation Tested Income および Foreign-Derived Deduction Eligible Income にそれぞれ改称)に対する大幅な改正
詳細は当事務所の2025年8⽉28⽇付けニューズレターをご参照ください。
多額の寄付により永住権取得が可能となる「ゴールドカード」プログラム創設
2025年9月19日、トランプ大統領は「ゴールドカード」プログラム創設を発表しました。このプログラムは、米国の利益促進に貢献する意思と能力を示し、多額の寄付を行う外国人に対して、入国と永住権取得を促進することを目的とした制度です。具体的には、個人の場合は100万米ドル、法人などが個人のために寄付を行う場合は200万米ドルの寄付により、EB-1A(高度専門職)、EB-2(国益免除)に基づく移民申請または査証取得の権利が得られる可能性があります。本制度は立法手続を経ずに創設されているため、法的な異議申立てが予想されます。
詳細は当事務所の2025年9⽉29⽇付けニューズレターをご参照ください。
米国連邦巡回区控訴裁判所がトランプ関税を無効と判断
2025年8月29日、米国連邦巡回区控訴裁判所は、VOS Selections, Inc.対Trump事件について、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act(IEEPA))は、大統領に広範かつ無期限の関税を課す権限を付与していないと判示しました。
この事件は、トランプ大統領が、薬物取締り、国境警備、貿易赤字への懸念など様々な根拠に基づき、IEEPAに基づく関税を発動したところ、原審の米国国際貿易裁判所が、IEEPAはトランプ大統領に対して、問題となっている関税を課す権限を付与していないと判断したものです。この判決に対して米国政府が控訴し、本判決はその控訴審です。
本判決は、相互関税とフェンタニル関税を無効としました。もっとも、実施済の関税については、2025年10月14日まで、または上訴があった場合には最高裁による判断が示されるまで、その効力が維持されることを認めました。その後、米国政府が上訴し、最高裁がこれを受理したため、本記事執筆時点(2025年11月26日)においてこれら関税の効力は維持されています。
本判決は一方で、原審の米国国際貿易裁判所が発令した差止命令は取り消したうえで、Trump対CASA事件に関する最高裁判決を踏まえ、差止命令が訴訟の当事者以外にも効力を有するか否かについてさらに検討するよう求めて差し戻しました。
詳細は当事務所の2025年10⽉30⽇付けニューズレターをご参照ください。
FTC(連邦取引委員会)が従業員の競業避止義務に関する控訴を撤回、個別の執行措置へ移行
2025年9月5日、連邦取引委員会(FTC)は、従業員の競業避止義務契約(non-compete agreements)を原則禁止する規則案への異議申立てが争点となった連邦控訴裁判所の事件において、控訴を取り下げました。控訴の撤回により、テキサス州とフロリダ州の連邦地方裁判所による、当該規則を無効とする判決が確定しました。
注目すべき点は、控訴の取り下げを公表する前日、FTCが従業員の競業避止義務契約に関する広範な情報収集を発表したことです。また、控訴の取り下げと同日に、FTCは、特定の企業における、従業員の過度に広範な競業避止義務契約に対する異議申立てと、その是正案を公表しました。これは、従業員の競業避止義務契約に対する米国競争法上の監視が、従来どおり、個別事案ごとの判断に戻ることを意味しています。
詳細は当事務所の2025年10⽉30⽇付けニューズレターをご参照ください。
EU
欧州議会がEU加盟国全体での外国投資審査プロセスの調和と拡大に関する提案を採択
2025年5月8日、欧州議会は、EU加盟国全体での外国直接投資(FDI)審査プロセスの調和と拡大を目的とする改正提案を採択しました。
本提案には、すべての加盟国に対しFDI審査制度の導入を義務付け、対象を間接投資やグリーンフィールド投資を含む一定規模以上の投資にまで拡大することが盛り込まれています。また、半導体、AI、量子技術、生物工学、エネルギーなどの戦略的重要分野を最低限の共通の審査対象とし、加盟国間および欧州委員会との情報共有・協力体制の強化が図られています。
これにより、加盟国間の制度差の縮小や、域内の投資審査手続の一貫性と透明性の向上が期待されています。また、安全保障および公共秩序に関するリスクへの対応を、EU全体で強化する狙いもあります。現在、欧州理事会および欧州委員会との協議が進められており、今後の立法手続を経て最終的な改正が確定する見通しです。
詳細は当事務所の2025年7⽉30⽇付けニューズレターをご参照ください。
EWC指令の改正について合意
EUは欧州労使協議会指令(EWC指令)の改正に合意しました。改正は2025年秋に正式に採択され、2028年に施行予定です。
EWC指令は、複数の国に及ぶ買収などで労働者の雇用条件に影響を及ぼし得る、企業の重要な意思決定について、労働者の保護を図るものです。今回の改正では、労働者の情報取得と経営陣との協議の権利が強化されます。
具体的には、EWC指令に基づく欧州労使協議会協定(EWC agreements)の再交渉義務、「国境を越える事項」(transnational issues)の定義拡大、一定の意思決定前の労働者代表への十分な情報提供と意見聴取の義務、専門家の助言機会や経営陣による費用負担、年2回の対面協議の義務化が挙げられます。さらに、罰則の強化や適用除外の撤廃により、より多くの企業がEWC設置義務を負うことにもなります。
現在EWCを設置していないまたは情報提供手続および協議手続を導入していない企業では、企業は、EWCの設置や改正内容に基づく手続の導入、労働者との再交渉や費用管理が必要となるほか、改正施行前のプロジェクト実施など、計画の前倒しにより対応することも考えられます。
詳細は当事務所の2025年8⽉28⽇付けニューズレターをご参照ください。
欧州委員会がCLP、REACH、ECHAに関する重要な変更を含むEU化学産業行動計画を発表
2025年7月8日、欧州委員会は、EU化学産業行動計画(CIAP)を発表しました。これは、EUの化学産業の持続可能な国際競争力を確保し、生産基盤を維持・向上させるための具体的なロードマップを提示したものです。
CIAPとともに、CIAPで言及されている、ラベル表示などの形式的要件を簡素化することを目的とした「第6次オムニバス提案」(CLP規則の改正)もあわせて公表されており、続いて欧州化学機関(ECHA)に関する新基本規則案が発表される予定です。
また、化学物質管理規制であるREACH規則の改正プロセスも進行中であり、2025年第4四半期に欧州委員会から改正案が提示される予定です。
詳細は当事務所の2025年8⽉28⽇付けニューズレターをご参照ください。
グリーン表示規制が2026年9月から適用
グリーン移行に向けた消費者の権利強化指令(Directive on Empowering Consumers for the Green Transition(ECGT指令))は、不公正商業慣行指令(Unfair Commercial Practices Directive(UCPD))を改正し、グリーンウォッシュ(環境配慮を装う行為)に関連する不公正商業慣行に対処する具体的な規定を追加し、EUにおけるグリーン表示の規制枠組みを統一するもので、2024年に承認されました。たとえば、ECGT指令では、“Climate friendly”(気候に優しい)や“Sustainable”(持続可能)などの一般的な環境表示は、優れた環境パフォーマンスによって裏付けられていない限り禁止されます。
ECGT指令は、2026年3月までにEU加盟国が国内法化し、2026年9月から各加盟国で適用される予定です。企業は、法的リスクとレピュテーションリスクを軽減するために、環境報告書や気候目標などの商業的コミュニケーションがこの新制度によってどのような影響を受けるかを、慎重に検討する必要があります。
詳細は当事務所の2025年10⽉15⽇付けニューズレターをご参照ください。
ベトナム
実質的支配者(BO)情報の開示義務に関する企業法改正
2025年7月1日、改正ベトナム企業法が施行されました。この改正により、「実質的支配者」の概念が新たに導入されました。個人は、会社の定款資本または議決権付株式の25%以上を、直接・間接を問わず所有すること(所有基準)、または会社の重要な意思決定に対する影響力を有すること(支配・影響力基準)のいずれかに該当する場合には、実質的支配者と判断されます。
実質的支配者について、企業は、氏名や所有・支配割合などの詳細を当局に報告する必要があります。この改正は、マネーロンダリング対策の一環として、企業に対し厳格なコンプライアンス対応を求めるものです。
詳細は当事務所の2025年7⽉30⽇付けニューズレター、2025年8月版ニューズレターおよび2025年8⽉28⽇付けニューズレターをご参照ください。
司法制度の大改革
2025年7月1日、ベトナムの司法制度改革が施行され、裁判所の構造と管轄が大きく見直されました。概要は以下のとおりです。
- 高級人民裁判所と県級人民裁判所を廃止し、代わって全国に355か所の地域人民裁判所を新設
- 省級人民裁判所を63から34に統合し、裁判所制度は最高人民裁判所、省級人民裁判所、地域人民裁判所の三層構造に
- 最高人民裁判所に新たに上訴裁判所を設置し、省級裁判所は重大事件の第一審や地域裁判所の判決に対する破棄・再審を担当
- 地域裁判所は第一審を担い、専門裁判所を併設
係争中の事件については、旧制度から新制度への円滑な移行を図るための経過措置が講じられています。この改革は、司法の独立性の強化、手続の迅速化と合理化を目的としており、ベトナムの法制度の近代化に向けた重要な一歩と位置付けられています。
詳細は当事務所の2025年7⽉30⽇付けニューズレターをご参照ください。
デジタル技術法を制定
2025年6月14日、ベトナムの国会はデジタル技術産業法(DTI法)を可決しました。DTI法はAI、半導体、デジタル資産などのデジタル技術に関する包括的な法的枠組みを定めており、ベトナムにおいてデジタル技術産業に携わる事業者であれば、その事業者がベトナム内外のいずれに所在するかにかかわらず適用されます。DTI法は、2026年1月1日に施行される予定です。
詳細は当事務所の2025年8月版ニューズレターをご参照ください。
外国人労働者の管理に関する新たな政令の施行
2025年8月7日、ベトナム政府は「政令219/2025/ND‑CP」を即時施行し、外国人労働者の管理に関する従来の政令(政令152/2020/ND‑CPおよび政令70/2023/ND‑CP)を改正しました。政令219/2025/ND‑CPは、外国人労働者の管理制度を全面的に見直すものであり、特に高度専門人材の誘致を目的として、手続の簡素化と運用の柔軟化が図られています。
主な改正点としては、外国人雇用承認の手続が統合・簡略化されたほか、就労許可の免除対象者が拡大されました。具体的には、一定額以上の出資者、90日以内の短期就労者、金融・科学技術・DX改革などの優先分野に従事する専門人材が免除対象者として明記されています。
また、「役員」「専門家」「技術者」といった職種の定義が明確化され、経験年数の要件も緩和されました。さらに、オンライン申請の導入や行政手続のデジタル化が進められたことで、企業・労働者双方にとって、より柔軟で効率的な外国人雇用制度へと転換しています。
詳細は当事務所の2025年9⽉版ニューズレターをご参照ください。
2024年改正薬事法に関する政令および省令の施行
2025年7月1日、2024年改正薬事法に伴う医薬品事業の運営に関する新たな条件の詳細を定める政令および省令が施行されました。主なポイントは以下のとおりです。
- ECサイトを通じた販売時における一定の製品情報公表義務および一般消費者向けまたは卸売業務者向け製品の包装表示を義務付け
- 製造販売業者変更に伴う医薬品広告内容確認証明に関する手続の緩和
- 輸入医薬品・原料の通関時残存使用期間に係る規制
- 医薬品輸入時の予定卸売価格申告制度に関する細則
政令および省令の施行に伴い、ベトナムで事業を行う製薬会社などの企業は、一部の新たな規制に基づき運用を見直す必要があります。
詳細は当事務所の2025年9⽉版ニューズレターをご参照ください。
その他東南アジア
インドネシア:事業許認可制度などを法制化・一元化
2025年6月、2025年政令第28号が施行され、事業許認可などの手続が大幅に簡便化されました。同政令は、事業者に対する手続の透明性と予測可能性を高めることを目的としています。
主な変更点として、行政機関が定められた期間内に判断を下さない場合に申請が自動的に承認される「みなし承認制度(fiktif positif)」が導入されました。また、環境許可や建築許可などの申請手続が簡素化され、OSSシステムを通じた一括申請が可能となりました。さらに、外国投資に関する制限が一部緩和され、従来中小企業に限定されていた業種にも大規模事業者の参入が認められるようになりました。
これらの改革は、インドネシアにおける事業環境の改善と投資促進を図るものであり、特に外国企業に対して新たなビジネス機会を提供するものとなっています。
詳細は当事務所の2025年8月版ニューズレターをご参照ください。
インドネシア:輸入政策を抜本改定
2025年7月15日、インドネシア商業省は、2025年商務省規則第16号を発出し、輸入制度を抜本的に改正しました。主な内容は、商品分類の明確化、コンプライアンス報告書に係る報告期限の変更、行政手続の期限や行政制裁の枠組みの明確化などです。
インドネシアにおける輸入業者、製造業者、販売業者その他の関係者は、この新たな規則を確認することが推奨されます。
詳細は当事務所の2025年8月版ニューズレターをご参照ください。
フィリピン:労働雇用省等の1月から3月の動向
フィリピンでは、雇用関連法規について、2025年1月から3月に以下のような動きがありました。
- フィリピン労働雇用省(DOLE)
- 複数の労働勧告を発出(祝日における賃金支払いのガイドラインや、報告義務に関する民間事業所向けの指針)
- 新たな省令を発表(フィリピンにおける外国人労働者の雇用に関する規則の更新、労働紛争解決手続の改訂など)
- フィリピン社会保障委員会(SSC)
- 雇用主の損害賠償責任に関するガイドラインなどを発表
- 移民労働者省(DMW)
- 日本向け労働者派遣機関の認証に関する自動化システムを導入
- 国境管理、人材紹介・派遣機関に対するSNSの監視に関する勧告などを発出
- 地域三者賃金生産性委員会(RTWPB)
- 地域IV-A、V、IX、XIにおける最低賃金の引き上げを承認(家事労働者に対する賃金も含む)
- 立法面
- ユニバーサル・ヘルスケア、全国最低賃金、フィリピン国外で働くフィリピン人(OFW)向け保険の拡充に関する法案を提出
- 裁判
- 違法なリクルート、違法な契約の変更、雇用主の責任に関する事案において、労働者の保護を強化する最高裁判所判決
詳細は当事務所の2025年8月版ニューズレターをご参照ください。
シンガポール:会社法などの改正によるマネーロンダリング防止体制の強化
2025年6月16日に、会社および有限責任事業組合法が改正されました。この改正では、マネーロンダリング防止を目的として、企業の実質的支配者の情報開示義務とノミニー制度(会社に独自の判断をしない名目のみの取締役を置く制度)の濫用防止策が強化されました。
具体的には、支配者、名義取締役(ノミニー取締役)および株主に関する法定の登記における開示要件を、金融活動作業部会(FATF)の最新基準に整合させることとなりました。関連する個人が意図せず開示義務から除外されることを防止する効果や、ノミニー制度の透明性を高め、開示の適時性を確保するとともに、開示情報の正確性と最新性を維持する効果が期待されています。
詳細は当事務所の2025年8月版ニューズレターをご参照ください。
タイ:投資委員会が一定の投資促進対象事業を営む外国企業の土地所有特権の縮小を発表
タイ投資委員会(BOI)は、投資促進を目的として、投資促進対象事業を行う外国企業に対し、土地所有に関する特権を認めてきました。しかし、BOIは、この優遇措置を厳格化し、2025年9月1日以降、金属、化学、プラスチックなどの製造業には当該特権が認められないこととなりました。例外的に、過去15年間にBOIから3回以上の投資促進措置を受けた総投資額50億バーツ以上の企業には、引き続き土地所有特権が認められます。
また、2025年9月1日以降に革製品、家具、印刷物の製造業について投資促進措置の申請を行う場合には、株主構成においてタイ資本が過半数となることが要求されることとなりました。
詳細は当事務所の2025年9⽉版ニューズレターをご参照ください。
マレーシア:2025年クロスボーダー倒産法案を可決
2025年7月29日、マレーシア議会下院は、マレーシアの倒産制度を国際基準に適合させることを目的とした、2025年クロスボーダー倒産法案(Cross-Border Insolvency Bill 2025)を可決しました。本法案は、UNCITRAL(United Nations Commission on International Trade Law/国際連合国際商取引法委員会)の越境倒産に関するモデル法を基礎とし、外国倒産手続の承認や海外裁判所との協力を可能にする枠組みを整備するものです。
対象は法人に限られ、個人破産やLLPは含まれません。外国債権者は国内債権者と同等の地位で手続に参加でき、外国の代表者はマレーシアの裁判所に直接申立てを行うことができます。外国手続が承認されると、裁判所の判断により訴訟や執行の停止などの効果が生じ、国内の資産の保全や調整が進められます。また、マレーシアの裁判所は他国の裁判所と協調し、情報共有や命令のための調整を行うことが定められています。他方で、国内債権者の保護や公共政策への配慮も重視され、外国代表者による財産移転には十分な保護措置が求められます。
本法の施行により、マレーシアは国際的な企業再編・倒産の分野で、より透明性と予見可能性の高い法制度を整備し、国際的な信頼性の向上が期待されます。
詳細は当事務所の2025年10⽉のニューズレターをご参照ください。
東アジア
韓国:商標法・意匠法の最新改正動向
近年、韓国では商標法および意匠法の改正が行われており、韓国で事業を展開する企業には対応の見直しが求められます。これらの改正は、ブランドおよびデザイン保護の実効性を高めることを目的とした重要な制度変更を伴うものであり、主な改正点は以下のとおりです。
- 商標法の改正点
・越境ECによる模倣品対策として、海外で印字された商標を含む商品を個人が韓国に持ち込む行為が「商標の使用」に該当することが明文化され、水際取締りが強化された
・異議申立期間が短縮され、懲罰的損害賠償の上限が従来の3倍から5倍に引き上げられるなど、当局による迅速かつ厳格な対応が可能となった
- 意匠法の改正点
・部分意匠に関する審査基準が見直され、ライフサイクルが短い製品に対するPSES制度においても新規性審査が導入された
・ファストトラック登録意匠に対する異議申立期間の設定や、類否判断基準の明確化により、審査において意匠の実質的な類似性が重視されるようになった
詳細は当事務所の2025年8月15日付けニューズレターをご参照ください。
韓国:労働組合および労使関係調整法の改正案が国会を通過
韓国国会は、2025年8月24日、労働組合および労使関係調整法の改正案(いわゆる「黄色い封筒法」)を可決しました。内容としては、労働者の権利保護を大幅に強化する改正となっており、主な内容は以下のとおりです。
- 「使用者」の定義拡大(直接雇用関係がなくても労働条件を実質的に支配する主体を使用者に含むこととする)
- 非従業員の労働組合への加入容認
- 合法的な争議行為の範囲拡大
特に複雑な雇用形態を採用している企業の労使関係に及ぼす影響は大きく、韓国に子会社などを有する日系企業は施行が予定される2026年3月までに新法へ対応することが求められます。
詳細は当事務所の2025年9⽉版ニューズレターをご参照ください。
香港:高等法院が新たな中国本土判決執行制度における「除外判決」の範囲を明確化
2025年9月1日、香港高等法院は、金融紛争に関する中国本土の判決の登録申請を却下しました。これは、2023年1月29日に発効した中国本土民商事判決の相互執行条例(Cap. 645)に基づき、上海での判決について、香港での執行が認められない除外判決(excluded judgement)に該当すると判断したものです。
判断の主な理由として、問題となった契約は2017年に締結されており、契約内の裁判管轄条項が2023年の本条例施行前に設けられていたことが挙げられます。また、裁判所は、契約自体が無効とされても、管轄条項は有効であることを確認した点も重要といえます。
クロスボーダー取引や紛争に関わる当事者においては、2023年1月以前に締結された裁判管轄条項を含む中国本土の企業との契約を見直して香港での執行可能性を確認したり、今後締結する契約については執行の必要性のある場所を加味して裁判管轄条項を検討したりするなどの対応が考えられ、今回の裁判所の判断には重大な影響力があるといえます。
詳細は当事務所の2025年10⽉版ニューズレターをご参照ください。
オーストラリア:人員削減の合理性について、契約社員の業務への配置可能性も考慮される旨を高等裁判所が判断
オーストラリア高等裁判所は、業績悪化を理由に鉱山労働者らが解雇され、同様の業務が契約社員によって継続されていた事案で、フェアワーク法389条2項に基づき再配置の合理性を評価するにあたっては、契約社員の業務を正社員に割り当てるなど、広く組織再編の可能性があったかどうかが考慮される旨判断しました。
この決定に基づくと、雇用主は、空席のポジションを探すだけではなく、新たにポジションを創出することも含め、再雇用の機会を徹底的に検討することを求められることになります。
詳細は当事務所の2025年9⽉版ニューズレターをご参照ください。
アラブ首長国連邦:連邦レベルの地理的表示(GI)登録制度を開始
アラブ首長国連邦(UAE)経済省は、2025年5月8日、同国初の連邦レベルの地理的表示(GI)登録制度を開始しました。地理的表示(GI)登録制度とは、特定地域に結びつく特有の品質や評判、特徴を登録・保護し、その文化的価値を守りつつ、商業的価値や輸出競争力を高めるための制度です。
GI登録は経済省の管轄であり、商標局を通じて行われ、申請には製品の地域との関連性や伝統的製法などの証明が必要とされます。GI登録制度は、生産者にとっては消費者の信頼を高め輸出市場への展開につながります。商標権者は、新たにGIとして登録された地名が自社ブランドに含まれていないかなど、制度との抵触を確認する必要が生じます。
初の登録製品にはハッタ産ハチミツ、ダッバス種デーツなどがあり、2025年末までに、30製品以上の登録が目指されています。UAEはこの制度を通じて自国の地域産品の国際的地位向上を図っています。
詳細は当事務所の2025年9月16日付けニューズレターをご参照ください。
南アフリカ:競争委員会がグループ内再編ガイドラインを公表
2025年8月、南アフリカ競争委員会のグループ内再編ガイドラインが公表されました。本ガイドラインでは、企業結合審査において、形式面ではなく実質面を重視することとしており、自己株式取得や資産移転などの日常的な取引行為も企業結合規制の適用対象となる可能性があります。また、本ガイドラインによると、再編によって外部の少数株主の支配に変更をもたらす場合、届出が必要となる企業結合とみなされる可能性があります。
企業は、罰則を回避し戦略的柔軟性を維持するため、グループ内再編について慎重に評価を行うことが求められます。
詳細は当事務所の2025年9月29日付けニューズレターをご参照ください。

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