企業不祥事から学ぶ企業変革・組織開発への施策

第7回 従業員不正と経営管理(第5篇)- 不正会計、その他コンプライアンス違反、企業価値向上に繋げる施策(その1)

危機管理・内部統制
渡辺 樹一 一般社団法人GBL研究所

目次

  1. 従業員による「不正会計」「その他コンプライアンス違反」に関する施策 - 不正が起きない組織であることにとどまらず、イノベーティブな組織を醸成するために
    1. コンプライアンス研修の在り方
  2. 組織の閉鎖性の弊害
    1. 組織の閉鎖性の弊害事例(1)
    2. 組織の閉鎖性の弊害事例(2)
  3. 組織の閉鎖性の弊害の克服

 第6回では「問題のある企業風土」に焦点を当て、それがもたらす企業経営への影響、また日本の雇用制度やそれが生み出す「共同体的一体感」との関連性などを深掘りしました。第7回以降では3回にわたって「不正が起きない組織であることにとどまらず、イノベーティブな組織を醸成するための企業の施策」についてお話しします。今回以降は、従業員による「不正会計」「その他コンプライアンス違反」への企業の施策の結論をお伝えする内容となります。

 本稿に関連性のあるテーマとして、田辺総合法律事務所の市川佐知子弁護士との対談形式でまとめた「セクハラ研修日米比較から考える研修の質 」もご参照ください。

従業員による「不正会計」「その他コンプライアンス違反」に関する施策 - 不正が起きない組織であることにとどまらず、イノベーティブな組織を醸成するために

 「不正が起きない会社であることはもとより、働き甲斐があり、すべての部署が連携し合い、組織の生産性が高く、社内は全体最適を求める志向に満ちあふれ、部署間およびグループ会社間でのシナジーが自律的に作り出される協働、共創のイノベーティブな会社でありたい」――これは誰しもが思っているものでしょう。しかし、誰しもがそう願っているのに、なぜそれが容易ではないのか。それは、大企業になればなるほど、企業内の組織の縦割りの考え方が無意識のうちに根を張り、強固になりがちとなることが1つの要因であると考えます。健全な企業風土の醸成を含む組織開発は、一部署で考え、対策を講じることが極めて難しく、執行トップのイニシアティブとスポンサーシップの下、全社的に行うのが正道であり、効果も高く早道であると考えます。本稿から3回にわたり、企業価値の向上と毀損防止に直結する、次の3つの企業の施策について論じたいと思います。

  • 組織の閉鎖性の弊害の克服
  • 数値目標達成へのプレッシャーのかけ方についての適切性の確保
  • 健全な企業風土の醸成

コンプライアンス研修の在り方

 本題に入る前に、その前提のテーマとして、コンプライアンス研修の在り方について考えてみたいと思います。本連載第4回で、個人的な金銭的利得目的で行われる「従業員による会社資産の不正流用」を防ぐためのコンプライアンス研修について、他社の事例や過去に自社で発生した事例などを交えながら、刑事罰やそれがもたらす自分や家族への多大な不利益を実感させるような研修、もしくは研修を提供する企業が教材として制作した動画による研修などが有効である旨をお話ししました。ここで「従業員による不正会計、その他コンプライアンス違反」を防止するためのコンプライアンス研修の在り方はどのようなものであるべきか、というテーマが浮かび上がってきますので、初めにそれについてお伝えしたいと思います。

コンプライアンス研修の質を高める

 この図は、本連載第1回の「1. コンプライアンスとは何か」で述べたことを図解し、いくつかのメッセージを書き加えたものです。企業価値を増大させながらビジネス(=利益)もコンプライアンス(=倫理)も同時に追求する経営をコンプライアンス経営といい、コンプライアンスが満たすべきものには「法規範」「社内規範」「企業の倫理規範」「社会的要請」の4つがあることをお伝えしました。これらを満たすうえで、大切なリスク要因が4つあります。図中に黄色で示しました。
 1つ目は「役職員は、職務に関する法規範を知っているか?」というリスク要因①です。事業運営に関連するすべての法規範をわかりやすく役職員に伝えることをコンプライアンス研修に織り込むことが大切です。
 2つ目は「社内規程は適切にアップデートされているか?」というリスク要因②です。企業経営の1つの盲点というべきものが社内規程であり、その不備が指摘された不正事例は極めて多くあります。「社内規程が従業員の行動の拠り所として、常にアップデートされた適切なものかどうか」を、各規程の主管部署が責任をもって管轄していくこともまた、コンプライアンス経営の要諦となります。
 3つ目は「役職員は、会社の倫理規範を十分に理解しているか?」というリスク要因③です。これについては、会社が定めた倫理規範を表層的に提唱し、啓蒙するにとどまらず、会社の倫理規範を具体的な行動規範として役職員に示していくことが必要です。また、後ほど詳しくお話ししますが、会社が自社の組織に求めている職場風土とはどのようなものかを役職員に明確に伝えることも必要だと思います。
 4つ目は「役職員は、社会の期待・要請とは何かを知っているか?」というリスク要因④です。これは、先述の倫理規範の具体化をさらに一歩進め、顧客を中心とした外部のステークホルダーに対する行動指針を役職員に示すものです。顧客の取扱いなどについてマニュアル化している企業や、取引に関する基本方針などで対外的に公表している企業もあります。
 いま、まさに求められていることは、図中右枠に記載した「いかにして生産性が高く、イノベーティブな組織作りを行い、企業価値の向上と毀損防止へ結び付けていくか」ではないかと思います。
 コンプライアンス研修は、その目的を企業価値の毀損防止のみに設定し、リスク要因の①や②に重点を置いた従来のものから、リスク要因の③や④も加味した企業価値向上型の研修へと脱皮する時期を迎えているのではないでしょうか。

組織の閉鎖性の弊害

 以上申し上げたことを踏まえて、従業員による「不正会計」「その他コンプライアンス違反」を防ぐための企業の施策に入りたいと思います。次の図は、第5回に掲載した従業員による不正会計、その他コンプライアンス違反83事例の背景的な原因の円グラフです。

組織の閉鎖性の弊害

 2つの背景的な原因を取り除くことができれば解決するわけですので、次の2つが企業としての施策となります。

  1. 数値目標達成へのプレッシャーのかけ方の適正化を図ること
  2. 健全な企業風土を醸成すること

 ただし、これらの施策を取り扱う前に、これら2つの背景的な原因を誘発する可能性がある組織の閉鎖性の弊害とその対処策について述べたいと思います。組織の閉鎖性の弊害とその克服は、経営管理上、非常に大切な事項となります。
 「組織の閉鎖性の弊害」という言葉をご存じでしょうか。「蛸壺現象」「サイロ現象」などと呼ばれたりもします。組織の閉鎖性の弊害とは「経営効率の観点から、組織の細分化、専門化は不可欠であるが、細分化・専門化された組織への権限移譲の仕方によっては大きな問題を発生させることがある」ということです。

「組織の閉鎖性」の弊害

 図をご覧ください。組織の閉鎖性の弊害を4つ記載しました。

  1. 各組織内の従業員が、それぞれ自分の組織以外で 何が起きているのか知らず、また、知ろうともしなくなる
  2. 自分たちの文化やルールが当然なものに思えてしまうため、それらについての適切性や見直しの必要性などについてあらためて考える努力をしなくなる
  3. 細分化された組織が、組織としての部分最適を求める傾向となりがちとなり、企業としての全体最適を追い求める視野を失う
  4. 細分化された組織が根を張ると、リスクが見逃され、魅力的なビジネスチャンスも見えなくなってしまう

 このうち、深刻度が増した③と④は、経営者にとって非常に重要です。
 それぞれの項目について、どのような弊害があるのかを図中右側に例示しました。赤字の「業務の効率性を失う」「業務がブラックボックス化する」「独自の組織文化を作ってしまう」「リスクが放置される」といった企業価値の毀損に繋がる弊害だけでなく、青字の「イノベーティブな共創力を失う」「全体最適を失って、部門間シナジーを作り出すことができない」など企業価値の向上にネガティブに影響する弊害もあります。企業はこれらの弊害を、組織間の連携と、組織間・組織内の良好なコミュニケーションによって克服していかなければなりません。

組織の閉鎖性の弊害事例(1)

組織の閉鎖性の弊害事例

 組織の閉鎖性の弊害例として4つの事例をピックアップしました。事例1は、2018~19年に多発した工業製品に関する品質偽装や検査不正のきっかけとなった、関西の鉄鋼大手の事例です。親会社と、子会社の工場に勤務している従業員が、生産量の割当や納期を遵守するため、長年にわたって品質データの改竄などを行った事例です。
 調査報告書では「各事業部門は生産至上主義が根付き、事業部制に見られる各事業 ユニットへの大幅な権限委譲は、本社による統制力の低下という弊害を引き起こした。本社管理部門は、収益が上がっている限りは口出しができず、現場の『生の声』を十分に吸い上げることができなかった」として、事業部制における組織の閉鎖性の弊害について言及しています。
 事例2も、事業部制における組織の閉鎖性の弊害が顕在化したものです。「事業部長が、売上目標達成のため、会社に無断で返品条件付きの販売を行い、不正会計を発生させた」という事例で「事業部制という縦割りの組織体制により、閉鎖的な環境による閉塞感と他の社員への無関心を産み出しているように思われる。事業部制のリスクについても慎重かつ具体的に検討する必要があり、」と指摘し、管理部門による牽制の欠如を問題視しています。
 これら2つの事例は、いずれも事業部門、あるいは事業部における組織の閉鎖性が背景的な原因であり、さらに事例の概要欄に茶色字で記載したような組織風土の問題を誘発しています。

組織の閉鎖性の弊害事例(2)

組織の閉鎖性の弊害事例

 組織の閉鎖性の弊害は事業部制以外でも起こり得ます。事例の3は検査不正で事例の4は不正会計ですが、背景的な原因は、青い字の数値目標達成のプレッシャーと茶色字の問題のある組織風土、そして紫色の組織の閉鎖性の弊害の3つとなっています。

 調査報告書の記述の線を引いたところですが、事例3では「組織が縦割り組織で個々の組織が孤立化し、営業・技術・製造・品質保証等の関係部門の連携した対応や関係部門間のコミュニケーションは不足し、他部門や当社グループの他社に関心を払ったり、世の中の他社の事象に関心が向かうことも少なかった」、事例4では「セクショナリズムが強く、従業員が部署間でのデマケーション(縄張り)にこだわり自らの業務に関連するものであっても他部署業務であれば関心を払わない、意見しないという風潮がある」とあります。
 このように、組織の閉鎖性の弊害は、会社全体の生産性を減じ、また、不正の発生を誘発し、さらには不正の発見さえ遅らせる、ということをご理解いただけたのではないでしょうか。 

組織の閉鎖性の弊害の克服

 それでは、いかにして組織の閉鎖性の弊害を克服すれば良いのでしょうか。企業としての施策を5つ挙げましたので、参考としてください。

組織の閉鎖性の弊害の克服事例

 これらのうち、具体例の太字の施策は、最近見られる新しい施策例であり、次回以降で述べる「健全な企業風土の醸成」にも大いに役立つ施策となるでしょう。
 なお、上図の最下段に挙げましたが、人事考課制度は、執行トップが組織に求める価値観を役職員に示す手段ともいえます。組織の閉鎖性の弊害を意識した人事考課制度の見直しは1つの盲点ともいうべき施策であり、役職員の共創マインドや、役職員によって創り出される共創プロセスを高く評価するような人事考課制度を再考する必要があるのではないでしょうか。

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