企業不祥事から学ぶ企業変革・組織開発への施策

第6回 従業員不正と経営管理(第4篇) - 問題のある企業風土と日本の雇用制度が生み出す共同体的一体感

危機管理・内部統制
渡辺 樹一 一般社団法人GBL研究所

目次

  1. 従業員による「不正会計」「その他コンプライアンス違反」と「問題のある企業風土」
    1. 「問題のある企業風土」が企業経営にもたらす影響
    2. 欧米型雇用と日本型雇用
    3. 日本型雇用がコンプライアンスに与える影響
  2. 変わりつつある日本型雇用と企業の姿勢
    1. 問われる日本型雇用の変革
    2. 「共同体的一体感に関する企業の姿勢」に左右される従業員の思いと志向

 第5回では、従業員による「不正会計」「その他コンプライアンス違反」につき、事例の概要と発覚の端緒、発見事項と教訓、不正行為に際しての従業員の思いや不正の背景的な原因について述べました。末尾では、背景的な原因は「数値目標達成への(強い)プレッシャー」と「問題のある企業風土」であると結論付けました。第6回では、そのうちの「問題のある企業風土」に焦点を当て、それがもたらす企業経営への影響や日本の雇用制度との関連性について考察しつつ、それらが生み出す「共同体的一体感」との関連性などを深堀りします。

 本稿に関連性のあるテーマとして、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の西谷敦弁護士との対談形式でまとめた「従業員不正と監督者・マネジメントの処分と役員に対する企業の対応」もご参照ください。

従業員による「不正会計」「その他コンプライアンス違反」と「問題のある企業風土」

「問題のある企業風土」が企業経営にもたらす影響

 ここでは「問題のある企業風土」とはどのようなものだったのか、そして問題のある企業風土が企業経営にどのような影響を与えたのか、考察します。

 この図は、事例で見られた「問題のある企業風土」の状況をまとめたものです。問題視された企業風土52事例の内訳を見ると「風通しの悪い企業風土」「コンプライアンスよりも売上や利益を優先する組織風土」「その他」と3つのタイプがあります。
 このうち、風通しの悪い企業風土の事例が過半を占めていますが、その中身は辛らつなものばかりであり、総じて「モノが言えない」「自由に議論ができない」「問題点が経営陣に迅速に伝わらない」といった状況が指摘されています。 このような企業風土は、不正の温床となると同時に「組織の生産性の棄損」「経営層がリスクを把握できない」という状況を生み出します。ここで強調したいのは、「問題点が経営層に迅速に伝わらない」組織風土は、経営者の知らないところで不正が長期間継続する組織環境であり、会社に大きな打撃を与えるということです。
 不正会計で平均5年、その他コンプライアンス違反で平均11年もの間、不正行為が会社で発見されなかった第5回の関連図表参照)根本的な原因は、このような風通しの悪い組織風土にあったわけです。
 以上、問題のある企業風土が企業経営にもたらす影響として「組織の生産性の毀損」と「経営陣がリスクを把握できない経営環境の誘発」があるという結論を述べました。
 さて「問題のある組織⾵⼟」の3分の1を占めている「コンプライアンスよりも売上や利益を優先する組織⾵⼟」は「数値⽬標達成への(強い)プレッシャー」を⽣み出す組織⾵⼟と⾔うことができます。それでは、そういった「数値⽬標達成への強いプレッシャー」や先ほど述べた「問題のある企業⾵⼟」は⼀体、どこから⽣まれてくるのでしょうか。その疑問への答えとして、『それは、企業が意識的に、あるいは無意識のうちに⾏っている⽇本型雇⽤⽅式により醸成され得るところの「企業側の「共同体的⼀体感」の過度な活⽤」から生まれる』ということについて説明します。

欧米型雇用と日本型雇用

 まず、日本型雇用制度について説明します。これが組織風土の話の中身に関係してきますのでしばしお付き合いください。いま、この日本型雇用制度の根幹をなす新卒一括採用が見直されつつあります。

 図の左半分ですが、欧米企業や外資系の企業では、職種採用方式に基づいた、適材適所の人員の雇用が行われています。少数のエリートが会社を引っ張り、その他の社員は自分の仕事に専門的に取り組みながら会社を支えるという組織運営です。これに対して、日本企業では、図の右半分となりますが、一括採用された従業員がいろいろな職種を経験しながら、競争に勝ち残った生え抜きのエリートが会社を引っ張ることとなります。
 社員の採用や転職の流れも図のように大きく異なります。職種採用では、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に基づき、会社に必要な人員を外部から探します。いわば「仕事に人を充てて組織を運営する」ことですので、キャリアアップしたいと考える社員は、自社で昇進が難しい場合は、ステップアップのために他社を狙って転職していくというスタンスとなります。
 これに対して、日系企業では、一括採用した新卒社員を教育し、適材適所を図りながら昇進させていく流れです。いわば「人に職種を割り当てる」組織運営となり、転職者は少数派となります。日本企業では長期雇用を前提として、欧米企業と比較して、社員の感情的な一体感をより求めていく組織運営となります。社員が自分に求めていく気持ちも、欧米型では、「自分のキャリアは自分で開こう」という気持ちになるのに対して、日本型では、自ずと「会社での出世・昇進を図りたい、自分の会社の中での立場を守りつつ上を目指したい」という志向になります。実は、こういった日本的な状況は、コンプライアンスに大きな影響を与えているのです。

日本型雇用がコンプライアンスに与える影響

 図の左上の青色の積木の部分を見てください。日系企業では、入社してから徐々に昇進し、最後に役員となるのが出世の王道です。

 人生の多くの時間を過ごす会社の中で、より高い地位を目指している従業員が、上層部からの「数値目標達成への過度なプレッシャー」を感じたときにどのような心理になるのでしょうか。図のように、不正に至るパターンとしては、典型的なものとして5つあると思います。
 1は、断ればどうなるかわからないために経営陣の不正に服従するというパターン、2は売上や利益など経営陣の目標達成に向けて「経営陣や上司は自分にこうしてほしいと思っているに違いない」「会社のためだ」と思い込んでしまう忖度のパターンです。3と4、5は記載の通りで、出世競争の中での自己の業績アピールや保身などの気持ちで行うパータンです。1のような気持ちが経営者不正を具現化し、2~5のような気持ちが従業員不正を誘発させている、ということを理解しておく必要があります。
 日本型の雇用形態のもとでは、正社員の場合は、定期昇給で、原則、会社が傾かない限りは定年まで解雇されないという職場環境ですから、会社で上を目指していこうというのは、従業員の当然の思いです。また、会社を辞めようと思っても、社会的に威信がある著名な企業の場合は、通常、賃金などの雇用条件や環境を考えると、自社に留まる以外により良い選択肢がないという、従業員が「転職しても現職以上の好条件は得るのは難しい」という状況ですし、1つの会社で通用する能力をいくら身につけても、事業モデルそのものが変わればあるいはなくなれば、行き場がなくなってしまうこともあります。

 このような状況において従業員が不正に直面した場合、会社による従業員への「共同体的一体感」の求め方(会社の姿勢)の質が低いと、不正に繋がる従業員の動機が誘発されることを、調査報告書が物語っています。先述した従業員の5つの思いは、日本型雇用と大きな関係があるのです。
 私は事業会社に勤務していた時代、職種採用を実施している海外子会社の経営に長年携わり、また、コンサルタントになってからも日本国内にある外資系の子会社の監査などを担当しましたが、従業員不正は、個人的な金銭的利得目的で行われるもの以外は見たことがありません。
 海外子会社の場合、不正会計があっても、それは子会社のトップが保身のために主導して行ったものです。私の経験上、従業員が不正会計やその他コンプライアンス違反を自分の昇進や保身、会社のために行うのは、基本的に日系企業の大きな特徴であると言っても過言ではないでしょう。

 

変わりつつある日本型雇用と企業の姿勢

問われる日本型雇用の変革

 しかし、日本型雇用がいま、変わりつつあります。次の図をご覧ください。

問われる日本型雇用の変革

 図中の濃いブルーで示したように、日本型雇用をめぐって2つの変化が起きています。

  1. 「ウィズコロナ」時代に伴って社会や消費・市場が変化しているため、成長戦略を自ら考え、実行する能力を持った従業員への期待が高まっている
  2. 「在宅勤務」によって時間の使い方が自由になっている従業員が増えている中、時間に対して給与を支払うことよりも、成果型の報酬制度へ切り替えていったほうが良いのではないか、という考え方が高まっている

 この2つの変化は、欧米型雇用に親和性があるとして注目されており、労働組合との交渉が不要の管理職へのジョブ型人事制度の導入や非管理職についての職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)の作成を始めている企業が出てきています。また、ポストに空きができた場合に社内公募するという欧米型の制度を導入する企業も増えてきています。

「共同体的一体感に関する企業の姿勢」に左右される従業員の思いと志向

 それでは、現状の日本型雇用のもと、企業としてどのように取り組んでいけば良いのでしょうか。ここで理解しておいていただきたいいのは、従業員の思いと志向は、日本型雇用によって作り出される「共同体的一体感」への「企業の姿勢」に左右されること、そしてその企業の姿勢は取締役会の監督対象となっていることです。

 図にありますように、企業の姿勢は「執行トップの姿勢(Tone at the top)」と「会社の空気(企業文化・組織風土)」になって現れます。コーポレートガバナンスコード原則2−2は従業員の行動準則の策定とそれを遵守させることは取締役会の責務である旨を規定し、補充原則2−2①は「取締役会は行動準則の趣旨・精神を尊重する企業文化・風土が存在するか否か定期的にレビューを行う」旨が記載されています。
 コードの主語は「経営陣」ではなく「取締役会」となっており、「企業文化は取締役会が取扱う事項であり、取締役会は経営陣による『企業文化・風土への取組み(企業の姿勢)」を監督する』ということとなっているのです。調査報告書が問題視している企業風土とは、これまで見てきましたように、数値目標達成へのプレッシャーの度合いや風通しの良さ、不正に対する倫理観のことですから、これらに対する施策を講じることになります。 第7回以降では、これらの施策に加えて、コロナ禍の中で「不正が起きない組織であることにとどまらず、イノベーティブな組織でありたい」という意味を含めて、企業の施策についてご説明したいと思います。

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