企業不祥事から学ぶ企業変革・組織開発への施策

第1回 企業不祥事の分類と件数の推移

危機管理・内部統制 公開 更新
渡辺 樹一 一般社団法人GBL研究所

目次

  1. コンプライアンスとは何か
  2. コンプライアンスと企業不祥事との関係
  3. 企業不祥事の企業経営への影響度と対外的説明責任の発生
  4. 2014年1月~2020年12月に公開された上場企業の不祥事313事例の分析
    1. 企業不祥事の分類
    2. 企業不祥事事例313件の俯瞰的考察

 名だたる上場企業には、「企業組織のなかに常に危機意識が存在し、企業変革を継続的に行っている」という共通点があります。新型コロナウイルス感染症の猛威が世界を覆い、状況が長期戦になるにつれ、これまで経営の前提となっていた多くの物事が変化し、企業の内部構造について相応の変容を強いられていくこととなりそうです。

 現在の緊急対応から、収束フェーズを経て会社を再成長させるまでに至る取組みは、企業ごとに異なると思いますが、変化する外部環境を踏まえた既存のビジネスモデルの見直しや、それに合わせた経営資源の確保と再配分は各社に共通して必要となってくるでしょう。

 このような状況のなか、組織を再開発 1 して組織生産性を高め、持続的成長と企業価値の向上・毀損防止へ結び付けていく鍵を握るのは「コーポレートガバナンスの質の向上」とそれによって生み出される、「従業員に支えられた組織運営の質の向上」であると筆者は考えます。
 この2つの質の向上をはかるうえでとても参考となるのが企業不祥事の事例です。

 今回の連載 2 では、2014年1月~2020年12月の7年間に上場企業によって公開された企業不祥事に関する調査報告書313事例の分析から、社会の公器たる企業において、なぜ不祥事の発生に至ったのか、その根本的な原因や問題の本質を明らかにして、そこから得られる教訓を学び、取締役会や監査役、管理部門や内部監査部門等の各部署の役割などにも触れつつ、その解答を求めていきたいと思います。

 なお、本連載において、意見にわたる部分は筆者の私見であり、所属するまたは所属していた法人、組織の見解ではありません。

 本稿に関連性のあるテーマとして、「サイバーセキュリティを巡る諸問題」についてアンダーソン・毛利・友常法律事務所の西谷 敦弁護士との対談形式でまとめた「対話から読み解く企業法務のトレンド サイバーセキュリティを巡る諸問題」もご参照ください。

コンプライアンスとは何か

 まずは原点に立ち戻り、コンプライアンスとは何かを見ていきましょう。コンプライアンスは法令遵守である、とかつて認識されていましたが、今日では法規範、社内規範、倫理規範という3つの規範に、「市場・社会からの期待や社会的要請」を加えた、4つを満たすことであると考えられています。

 つまり、コンプライアンスとは、『会社等の組織が、①法規範(法令・定款)、②社内規範(社内規程等)、③倫理規範(企業倫理)、④市場・社会の期待や社会的要請と調和しながら、適正かつ健全な事業活動を行っていくための仕組みないし「しかけ」を総称するもの』である、といえます。

 そうしますと、コンプライアンスは、企業の自主的な取組みであるCSRやESG経営を推進するための前提条件であるとともに、コンプライアンス経営の舵取りを行うコーポレートガバナンスの基礎であるということがわかります。

 また、コンプライアンス体制を整えることは、信用失墜による株価の下落や売上の減少、課徴金や損害賠償の支払いに関するリスク低減など、企業価値の毀損を防止する効果に目が向きがちですが、以下のように、同時に、企業価値の向上をもたらすもの 3 でもあります。
 この点を従業員に深く理解してもらうことが企業経営にとって非常に重要です。

(1)コンプライアンス体制の公表により、ステークホルダーから、リスクの少ない企業として信用を得ることができる
(2)積極的な環境活動や災害支援などの社会貢献活動を行うことにより社会からの評価が高まる
(3)労働環境の整備等により、従業員の士気と生産性が向上する
(4)社内規範(社内規程等)の遵守により業務の効率化・有効化が促進される

コンプライアンスと企業不祥事との関係

 次にコンプライアンスと企業不祥事との関係について見ていきましょう。下図は、企業が対応しなければならない企業不祥事・不正の対象範囲を図で表したものです。

 企業不祥事は「企業に重大な不利益をもたらす可能性がある業務上の事件または事故であって、企業としての被害軽減対策や防止対策が存在し得るが、当該企業による注意義務の違反が重要な原因であるもの4 と定義することができます。

 そして、不正は「不当または違法な利益を得る等のために、他者を欺く行為を伴う、経営者、従業員によって意図的に行われた行為」と本稿では定義 5 します。

 この図では、大きな楕円形が企業不祥事、そしてその内数として不正を記載し、それらは外側の4つの箱に引っ張られる形で拡大していることを表しています。


企業が対応する「企業不祥事」の対象範囲の拡大

企業が対応する「企業不祥事」の対象範囲の拡大

 この図からお伝えしたいことは2つです。1つ目は世界環境や社会情勢の進化、変化に影響を受ける「市場や社会の期待・社会的要請」に反する行為(左上の箱)やそれに応じて整備される法令・規制(右上の箱)への違反は不祥事や不正行為となり得ることです。企業側ではコントロールできないこれら2つの要素により、企業が対応しなければならない不祥事の範囲が拡大します。

 2つ目は、リスクテイクによる持続的成長が企業に求められるなか、業容の拡大(左下の箱)や、海外進出(右下の箱)など、企業の事業活動範囲が拡大するほど、企業が対応しなければならない不祥事の範囲が拡大することです。

 なお、図中に記載した1番から5番の分類、概要については後述します。

企業不祥事の企業経営への影響度と対外的説明責任の発生

 次に、企業不祥事が企業経営に与える影響について見てみましょう。
 対外的説明責任の重大性については、2つの観点から捉える必要があります。
 1つ目は、リスクマネジメントに関連し、不祥事が会社に与える影響度を以下4つの視点から評価することです(下図参照)。

  1. 風評
  2. 安全衛生
  3. 事業運営すなわち行政官庁等からの措置
  4. 被害金額

 それぞれの項目につき、小、中、大、甚大と影響度が増していきます。

企業不祥事と企業経営への影響度

企業不祥事と企業経営への影響度

 もう1つの観点が、次の図で示した不正行為者の企業内の地位です。不正行為者の企業内の地位が高ければ高いほど、企業に与える影響度も大きく、対外的な説明責任も重くなります。

企業経営への影響度

 図のなかの色付きの点線は、これら2つの観点から、影響度の重要性が一定のレベルを超えると、対外的な説明責任が発生することを示しています(なお、これら2つの図中の色付きの点線はイメージを示すもので、対外的説明責任が発生するか否かは個々の事案によります)。

 本連載では、この色付きの点線を超えた不祥事について、過去6年間に上場会社から開示された調査報告書による262事例をもとに、企業変革・組織開発への施策を求めていきます。

2014年1月~2020年12月に公開された上場企業の不祥事313事例の分析

企業不祥事の分類

 事例の分析にあたり、筆者は企業不祥事を以下の5つに分類しています。

分類
不正 不正会計
  • 財務諸表への意図的な虚偽表示
  • 必要とされる開示の不作為
会社資産の不正流用
  • 利益相反取引
  • 現預金・商品・仕入品の横領
  • 割高発注キック・バック
  • 経費精算不正など
情報の不正使用
  • インサイダー取引
  • 営業秘密侵害
  • 営業秘密の売却など
その他コンプライアンス違反
  • 製品偽装
  • 品質・性能・データ偽装
  • 検査不正
  • 談合
  • 労働基準法違反など
不祥事 その他不祥事(不正ではない、すなわち意図的に引き起こされたわけではない不祥事)
  • 財務報告や開示の誤謬
  • 多額の不良債権の発生
  • 取引先の不正行為による損失の発生
  • インサイダー情報の社外流出
  • 第三者の不正アクセスによる個人情報の流出など

 分類にあたっては下記の事項などをもとに、定義上のわかりやすさを加味しています。

  • 公認不正検査士協会の区分 6
  • 日本の法令や商習慣
  • 昨今のIT化
  • 意図的に行われたのか否か
  • 誰が誰に対して行ったのか(役職員が企業に対して行う行為なのか、役職員が企業の行為として企業の外に向けて行う行為なのか)
  • 何のために行われている不正なのか

企業不祥事事例313件の俯瞰的考察

(1)分類

 ここ7年間(2014年1月~2020年12月)に上場企業によって公開された調査報告書313事例の分類別の総計は下図の通りです(参考:第三者委員会ドットコム)。
 このうち72件は⑤の意図的に引き起こされたわけではない「その他不祥事(不正ではない不祥事)」でした。
 残る241件が意図的に引き起こされた不祥事(不正)で、内訳は下記のとおりです。

  1. 不正会計(94件)
  2. 会社資産の不正流用(73件)、
  3. 情報の不正流用(報告された事例はインサイダー取引のみ)(4件)
  4. その他意図的なコンプライアンス違反(70件)

2014年1月〜2020年12月 上場企業の不祥事事例313件の分析 ①分類

第三者委員会ドットコム掲載の調査報告書より筆者が集計

第三者委員会ドットコム掲載の調査報告書より筆者が集計

(2)年度別推移

 年度別の推移を見ると、下図の通り件数は概ね年々増えている状況にあり、ここ3年は、年間50件を超えています。「その他意図的なコンプライアンス違反」の増加が2017年から2018年にかけて目立ちますが、これは製造に関する不祥事の増加が原因です。

2014年1月〜2020年12月 上場企業の不祥事事例313件の分析 ②年度別推移

第三者委員会ドットコム掲載の調査報告書より筆者が集計

第三者委員会ドットコム掲載の調査報告書より筆者が集計

 次回は、4−2 企業不祥事事例262件の俯瞰的考察の続きとして、企業の属性(証券市場)、機関設計、発覚の端緒についての分析結果をお伝えするとともに、不祥事の5分類(①不正会計、②会社資産の不正流用、③情報の不正使用、④その他意図的なコンプライアンス違反、⑤その他不祥事(不正ではない不祥事))について不正行為者別の細分化とそれらの主要論点に関するお話をします。

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  1. 筆者は、「組織開発」を「組織の効果性と健全性を高めることを目指した変革の実践」と定義している。 ↩︎

  2. 今回の連載は、BUSINESS LAWYERS掲載の「【連載】企業価値向上と毀損防止に向けて企業は何をすべきか」を完結させ、アップデートし、内容の充実化を指向したものである。 ↩︎

  3. 従来のコンプライアンス研修においては、これらの企業価値向上をもたらすものであることについての視点が不足しているものと思料する。 ↩︎

  4. 樋口晴彦「組織不祥事研究 - 組織不祥事を引き起こす潜在的原因の解明 - 」(白桃書房、2012)記載の定義をもとに筆者が変更を加えたもの。 ↩︎

  5. 「監査における不正リスク対応基準」(企業会計審議会監査部会)での定義に筆者が変更を加えたもの。 ↩︎

  6. 参照:一般社団法人日本公認不正検査士協会「2018年度版 Global Study on Report to the Nations on Occupational Fraud and Abuse(職業上の不正と濫用に関する国民への報告書)」図4:職業上の不正と濫用の分類(不正の体系図) ↩︎

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